【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。皆様の反応あっての本作でございます。
 誤字報告もいつもありがとうございます。マジ感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 毎度しれっと四部構成にしてしまう悪癖。書きたい内容の半分しか書けなかったのだ。だが私は謝らない。
 次で貴方の物語は完結します。これだけははっきりと真実を伝えたかった。

 もし運営様からお叱りがきたら該当箇所だけ避難所に行きます。何度も言っているように、運営様に迷惑をかけたい訳ではないので。



伝説への序曲(転)

 ある日の鍛錬場。貴方は跳躍からの蹴り技を反復練習していた。

 例によってこれも能動技能の一種であり、上手く決まれば空中の落下速度を早めて立ち回りを強化できる……らしい。イシグロが言うところによれば、「鉄の馬に跨る英雄が得意とした蹴り技」だそうだ。

 ジャンプしてキック。ジャンプしてキック。ひたすら同じ動作を繰り返す貴方の近くでは、イシグロの所有奴隷である獣系魔族と仙狐も同じ動きをしていた。しかし、一刻以上動き続けても表情を変えないままの貴方と異なり。彼女達の顔には濃い疲労の色があった。

 

「よしイリハは休憩しよう。グーラはあとどれくらいいけそう?」

「はぁっ、はぁ! もう少し、いけます!」

「わしぁもう限界じゃ~……」

 

 その様子を、主人たるイシグロは羊皮紙片手に商品を値踏みする交易商のような目で見ていた。

 多量の汗をかいた仙狐は近くにあった椅子に座し、渡された水を飲みつつ天使奴隷の羽で扇いでもらっていた。一方、獣系魔族の少女は気合だけでジャンプキックしている状態だ。ちなみに、彼女達は既に何度か休憩を挟んでいる。

 

「やっぱスタミナ消費系スキルは割合消費なぶん高レベル帯になるにつれ費用対効果が悪くなってくな。その点、スタミナ無限の異能って想像以上にヤバいじゃんね。戦闘だけじゃなく鍛錬でも無限に動けちまえるんだから、習熟度の上がり幅も尋常じゃない。俺がコピー能力者だったら確実にコピーしてるわ」

「だからって並みの人間ができる修行じゃあないッスよ。普通に飽きるッス」

 

 現在、貴方はイシグロの指導を受けると同時に、彼の実験に協力していた。

 事の発端はイシグロとの世間話だった。「どうかな? 最近」と訊いてきたイシグロに対し、無難に迷宮稼業の進捗を答えた貴方は、続けてイシグロに伝授された技能とその有用性について話したのだ。すると、何に興味を引かれたのか知らないが、イシグロは貴方に新しい技能を教えると申し出てきたのである。

 願っても無い話だったが、貴方視点だとイシグロ側にメリットがないように思われた。その旨を問うてみると、曰く今の貴方の強さでは【跳躍槍撃】を習得できないはずであるらしく、その謎を探るべく実験に協力してほしいという話だった。

 よく分からない男だった。まぁ銀細工なんて変人ばかりだし、こういう奴もいるだろう。で、現在に至るという訳だ。

 

「おっ、実ったか」

「ま、負けましたぁ~」

「競っても仕方ないでしょう?」

「ん、これも実験のうち」

 

 そんなこんなぶっ通しで練習しまくっていると、貴方は獣系魔族より先に【隼狩脚】を習得した。

 

「じゃあ、次は槍を持った状態でやってみてください。技能回しの順番は覚えてますか?」

 

 言われた通り、槍を持って【跳躍槍撃】を発動。上昇したところで技能を中断し、【隼狩脚】を使って即座に落下。着地の衝撃は【猫跳び】で相殺し、【猟犬跳歩】からの【飛び込み突き】で〆る。

 見事に決まった技能連携に、貴方は胸中で会心の笑みを浮かべた。また一段と速くなってしまった。

 

「実験は成功だぁ」

 

 自由自在に【隼狩脚】を使いこなす貴方を見て、イシグロは心底嬉しそうな顔をしていた。

 金貨の価値は人それぞれ。イシグロが満足しているなら、持ちつ持たれつって事でいいだろう。

 

 その後も、貴方はいくつかの能動技能を教わる事ができた。

 中でも有用だと思えたのが【薪の呼吸】で、これは体力を消費して生命力と魔力を回復できる治癒技だ。

 残念ながら戦闘中に使える程の効果はないが、迷宮外での回復と考えれば治療費が浮く分かなり優秀である。使うと腹が減るのが欠点だが、治癒薬よりずっと安上がりである。

 

「仲間、見つかるといいですね。それでは」

 

 ややあって、指導兼実験は終了し、貴方はイシグロ一行と別れた。

 彼等は鍛錬の続きをするらしい。並みの銀細工を超える強さを持っているというのに、まだ上を目指すつもりなのだ。相変わらずよく分からない男だが、彼の強さへの貪欲さは素直に見習うべきだと思った。

 

 技能習得と迷宮踏破。一人の戦士として、貴方は順調に強くなっていた。

 しかし、 貴方の迷宮稼業は低調だった。

 何故か? 仲間がいないからである。

 

 受付机で手続き中、ふと見目麗しい六人一党が楽しそうにお喋りしている光景を見かけた。彼等は美男三人美女三人のキラキラ系冒険者で、いつも明るい人気一党である。

 稼ぎも中々なようで、彼等は全員見栄えのする武装を身に着けていた。全身革装備で地味な貴方とは大違いである。

 

 近くにいると溶けそうだ。貴方は逃げるように受付机を離れ、今朝も眺めた掲示板の一党員募集を見上げた。が、ダメ。そこには以前貴方を拒否った一党しか載っていなかった。

 迷宮稼業で成功するには、中位以上の迷宮を踏破する必要がある。このまま下位迷宮に籠ったままでは、貴方の冒険者生活に未来はない。しかし、単独で中位迷宮を潜るには昇格が必須であり、そうでなくとも仲間の存在が不可欠だった。

 だというのに、貴方は未だに単独だ。いや、単独というより孤独だった。孤独な単独で下位迷宮を踏破せしめたのに、である。

 

 何となく、転移神殿にいる女性冒険者を眺め見た。

 迷宮界隈は存外に女性の数が多い。それも貴方より年上で、尻も身長も貴方より大きい人だ。そんな彼女達を見ていると、貴方の頭はポーッと茹ってしまう。あまつさえ、面と向かって話そうとしたらすぐに顔がポッとなり、露出している胸や太ももなど目にしたら股間の痛みに顔を強張らせてしまうのだ。

 で、そんな劣情を覆い隠すべく商人流の表情制御などしていると、夢も信念もない死んだ魚のような目も相まってこの世全ての絶望を詰め込んだような顔になり、例によって例の如く面接落ちしてしまうというのが貴方の現状だった。

 以前ならともかく、今の貴方は死にたがりではないはずだが。

 

「怖っ、あの子こっち見てる……」

「なんでいつも一人なのかしら? 誰か誘ってあげなさいよ」

「目ぇ合わすな。迷宮狂いにも目ぇ付けられるぞ」

「アレは男がバカやったからでしょ? イシグロさんだから半殺しで済んだんじゃん」

「死ぬほど痛かったんだよマジで!」

 

 どうやら、今の貴方はイシグロの弟子と見られているらしく、そのせいで敬遠されているようであった。

 彼の一党や同盟にこそ参加していないが、調べた感じ端から見た貴方はイシグロに目をかけられている新人冒険者らしいのである。例えるなら、貴方は彼の所有奴隷に近い目で見られているのだ。こいつに変な事したら木刀で殴られるんじゃないか、と。

 これに関しては、まぁ甘んじて受け入れるしかないと思える。どだい貴方にとって技能の習得は強くなるのに最適で最速の道であるし、そうでなくば生き残れなかっただろうから。イシグロにビビッて貴方を敬遠する冒険者より、強者との友好関係を優先するのは自明である。

 とはいえ、貴方だけが強くなっても仕方がないのだが。

 

 ともかく、だ。

 今の貴方には早急に解決すべき課題があった。即ち、暴走する股間の問題である。ざっくり言えば思春期の性の悩みだった。

 悲しい哉、貴方は股間の荒魂を鎮める方法を知らなかったし、地鎮祭の作法を教えてくれる人もいなかった。畢竟、貴方は性教育を受けた事がなく、それとなく情報共有できるコミュニティにも参加していなかった。

 イシグロに相談しようかとも思ったが、それはできなかった。ただでさえ頭の上がらない相手に、迷宮稼業以外の相談をする勇気は貴方には存在しなかったのだ。

 

 しかし、手掛かりはある。奴隷だ。

 うっすら覚えている記憶によれば、たびたび貴方の父は実家の所有奴隷に“夜伽”なる行いを命じていた。何なら母も参加していた。そういう奴隷を性奴隷と言い、奴隷市場において性奴隷は需要が絶えない商品らしい。

 性奴隷を使えば解決するのだ。ならば貴方も奴隷を購入し、夜伽を命じれば……とはならない。何故なら、今の貴方に異性の奴隷を買える余裕など無いからだ。加えて、奴隷の維持には多くの資金が必要なのである。

 このままでは、貴方は女性冒険者と迷宮に潜る事ができない。迷宮稼業において、それは純粋に損である。一体全体、他の男は股間の悶々をどうやって処理しているのだろうか。

 思春期特有の懊悩に嵌った貴方は、誰に相談すればいいか分からないまま、毎朝のランダムイベントに怯えていた。

 

「これは鰻の蒲焼でござる! 精が付くでござるよ! はい一本お買い上げ!」

 

 いつものように馴染みの金細工森人の屋台で買い食いする。釣銭のやりとりの際に手と手が触れ合った瞬間、貴方の全身に電流が走った。手、やわらかい。かわいい。死にそう。

 不思議そうに首をかしげる森人から逃げるように、貴方は蒲焼串を持ったまま噴水広場を歩き去った。

 マジでこのままではいけない。一刻も早く荒ぶる股間を制御し、一党を組んで迷宮を踏破せねば。そう思いながら、貴方は夜の王都へと足を進めた。

 

 そんな風に歩いていたせいか、気付けば貴方は来た事のない通りに来ていた。

 煌びやかな繁華街だ。眩い程の魔導照明が輝き、怪しい看板が乱立している。道のあちこちで露出度の高い女性が店の前で客を呼び、鼻の下を伸ばしたおじさんが誘われるまま入店していた。ふと目が合ったお姉さんが貴方に向かってウィンクしてきて、これまたポッと顔が熱くなった。あのお姉さんは貴方の事が好きなのかもしれない。

 いやいや、そんな訳あるか。とにかく此処に居ては拙い気がする。通りを抜けるべく、貴方は速足で歩き去ろうとした。

 

「おや? 貴方は確か、イシグロさんの……」

 

 突然、声をかけられた。

 声の主は仙狐族の男性だった。リンジュの衣装にリンジュの刀。同性ながら美しいと思える面貌の下、細い首にはラリス様式の鋼鉄札が掛かっている。

 知らない顔だった。しかし、向こうは貴方の事を知っているらしい。

 

「いや不躾に申し訳ない。私の名はシラノイ。イシグロさんとは旧知の仲でして、以前から貴方の事は存じているのです。優秀な新入と伺っておりますよ」

 

 温和そうな声音の裏に、打算や策謀の匂いがする。久々に言葉の裏に何かを隠している男を見た。

 父譲りの猜疑心が過った事で、羞恥やら何やらで混乱していた貴方は一転して冷静な思考を取り戻した。商家としての教育は骨の髄まで沁み込んでいるのだ。なお、性教育は未履修だった模様。

 

「なに、先達として教えを授けようかと思いましてね」

 

 気付いた頃には懐に入られていた。慣れ慣れしく肩に手を置かれる。この男、槍の間合いを知っていた。

 貴方は息を飲んだ。こいつもリカルトと同類か? 静かな緊張、シラノイと名乗った男は、ゆらりと貴方から見て前方やや右側に指を指した。

 

「悪い事は言いません。あそこの店は止めておきなさい。サービスの割に値段が高過ぎます。その隣もお勧めできかねますね。人妻店と言いながら、実際に出て来るのは人間族の老婆です。私は余裕ですが、貴方にはまだ早いでしょう。慣れないうちは正統派の店で遊びなさい。あそこの五階にある店は……」

 

 などと、よく分からないが繁華街にある店舗情報を教授してきた。頼んでもないのに、一方的に。楽しそうに続ける仙狐の目には、熟練者特有の凄みがあった。

 

「むっ、もしや貴方……こういうのは初めてですか?」

 

 ビクッと過剰に反応してしまう。シラノイはにちゃ~っと悪い笑みを浮かべた。

 弱みを握られた。いや、これは弱みなのだろうか。そもそも貴方には情報が足りなかった。この通りにある店が具体的にどんな店なのかも知らないのだ。

 

「初めてなら、やはり高級娼館をお勧めしますよ。筆下ろしは最高の思い出にしたいですからね。私のお勧めはこの通りの突き当たりから右に……はい? どうなさいました?」

 

 待ってほしいと言うと、彼は連射クロスボウめいたトークをストップさせた。

 そもそも娼館とは何か。根本的な問いを投げると、彼は目を丸くした。

 それから、先よりずっと深い笑みを浮かべてみせた。

 

「そうでしたか、えぇそうでしたか。ならば尚のこと、論より先に体験するのがいいでしょう。どうか私めに奢らせて下さい。こう見えて、私稼いでおりますので」

 

 そうして連れてこられたのは、繁華街の奥に聳える城のような建物だった。入り口の前には厳めしい顔の門番が腕組み仁王立ちしている。

 ふと、高級という文言が気になったので、娼館とやらの利用金額を訊いてみた。

 

「価格ですか? まぁざっとこれくらいですかね」

 

 奥ゆかしく提示された金額を聞くと、貴方はあまりの衝撃に悲鳴を上げそうになった。次いで娼館の奢りも拒否した。無料より怖いモノは存在しないのだ。

 この昂りを治すのに、それほどの費用がかかるのか。なんてコストパフォーマンスの悪い方法なのだろう。そんな金があれば、一個でも多くの魔法薬を買いたいところだった。

 そして、一つ納得した。だから世の冒険者の多くは金欠なのだ。迷宮稼業の経費は武器や魔法薬代だけではなかったのだ。

 

「ふむ、なるほど。それはお辛いでしょう……」

 

 気づけば、貴方はイシグロにも言えなかった性の悩みを、会ったばかりの仙狐に相談していた。

 思いの外、彼は親身になって聞いてくれた。

 

「……鞘を造るのは鞘職人です。明日、転移神殿で待っていてください。その手の専門家に話を通しておきますので。彼女に任せれば、必ずや解決するでしょう」

 

 そう言って、シラノイはクールに去った。

 何の利益もないだろうに、シラノイは助け船を出してくれるらしい。

 感謝の念を胸に抱き、貴方は宿に帰った。

 

「これは面白い事になりましたねぇ……」

 

 にっちゃぁぁぁ……っと。

 貴方には見えない角度で、シラノイは最高にゲスい笑みを浮かべていた。

 この男、王都に来てから賭博にドハマリしているのである。丁か半か、どっちが出ても楽しめる。

 紛れもなく、悪い大人だった。

 

 

 

 

 

 

 専門家とは何者だろうか。

 

 貴方はシラノイに言われた通り、朝から転移神殿に居座ってじっと件の鞘職人を待っていた。

 お喋りする相手もいないので、道具の整理くらいしかやる事がない。貴方は机に並べた冒険道具を点検し、一つ一つ状態を確かめた。切り札である発火油をうっとり眺める貴方は、何処の誰から見ても迷宮潜りのソレだった。

 

「おい、またアレやるってよ。お前行くか?」

「情報おせぇよ。結構前から誘われてるけど、悪ぃが二度と御免だ」

「だよな。殺されるかと思ったもん」

 

 冒険者達の声。彼等の視線の先、依頼掲示板に真新しい依頼書が張り出されているのが見えた。それを見た同業者はすぐに興味を失っているようだった。

 近づいて見てみると、そこには「第六回異種族交流会」と書いてあった。

 

 交流会の依頼とは何だろうか? 貴方は詳細な依頼内容を読んでみた。

 曰く、希望者が淫魔王国に行って指定の小淫魔と交流するらしい。要するに、淫魔と冒険者間による見合いのようなものか。

 依頼主が淫魔王国なあたり、安全ではあるのだろうが、たかだか集団見合いに国が投資する価値があるものだろうか。しかも、木札冒険者に限って道中を含めた諸々の費用はゼロだという。

 素直に捉えるなら、無料の観光旅行である。馬鹿な冒険者ならこぞって参加しそうなものだが、どうにもウケは良くないらしい。

 

「おーっほっほっほっ! 貴方が噂の有望チェリーボーイですわね? わたくしがッ、来ましたわぁ!」

 

 突然の大声。ビクッ! と。美しい声に振り向いた貴方は、次いであんぐり呆けてしまった。

 奇妙な髪型の淫魔だった。魔族だけあり鎧の露出度が異様に高く、腰に下げられた細剣は絢爛豪華。そして、巨大な胸に乗っかっているのはラリス様式の銀細工だ。

 全体的に派手な淫魔だった。しかしてその淫魔の身体で何よりも目立っているのは、迫りくるような巨大な胸だった。擬音で例えるなら、「ボボン!」といったところ。そのくせ腰はえげつないほど引き締まっており、前から見て分かるほど尻がデカい。いやドデカい。

 淫靡さのあまり賢者にジョブチェンジした貴方は、淫魔王国名果のデカメロンを思い浮かべた。あれは美味しかった。自分の分を少し奴隷に分けてあげたっけ。

 

「わたくしの名はグレモリア、“夢胡蝶”のグレモリアですわ! 親しみを込めてグッちゃんと呼んでも構いませんことよ? おっほっほっほっほゲボェ! ごほっごほっ……」

 

 おほほ笑いでむせていた。イシグロが見たら古き良きテンプレお嬢様仕草とでも表現しただろう。気付けば、貴方は彼女のテンションに圧倒されていた。あとおほほ笑いの際に揺れる胸がヤバかった。

 赤くなりそうな顔を隠すべく、貴方は精一杯表情を取り繕い、商人流の挨拶を返した。

 

「えへん! 娼館狂いのピンク狐に言われて来てみれば……ふぅん? 確かに、将来は良い雄になりそうなタマぁしてますわね? 今はまだまだ青い果実ですけれど、もう少しすれば食べごろに……」

 

 内心キョドっていたところ、突然顎をクイッとされてその綺麗過ぎる顔を近づけてきた。

 目が近い。鼻が近い。唇が近い。全身を硬直させた貴方は、必死に顔を逸らした。

 屈むようにして貴方の首の匂いを嗅いだグレモリアは、そのまま右耳に唇を近づけて……。

 

「もう男じゃありませんの♡ 何なら、わたくしが直接教えてあげてもよくってよ♡」

 

 ゾクッとした。貴方の脳裏に三頭猛犬に食われる光景が過った。

 急速にエネルギーチャージが始まる。貴方の脳裏に貯水池を割って巨大なゴーレムがリフトアップしてくる光景が過った。

 

「な~んて、冗談ですわ! これ以上は不同意吸精と見做されてしまうかもしれませんし! ごめぇあそぁせ!」

 

 言って、グレモリアはパッと身を離した。甘い香りが貴方の鼻孔を擽る。助かったような、悲しいような気持ちだった。

 

「それで? 相談事があると聞きましたけれど」

 

 ややあって、貴方は転移神殿にある個室を借りる事となった。

 シラノイに言われて来てくれた人だ。取って食われる事はないだろう。尋常じゃないくらい恥ずかしかったが、貴方はシラノイに話した悩みをそのままグレモリアにも相談した。

 すると、グレモリアは長いまつ毛をパチパチさせて驚いていた。

 

「えぇ~それマジで言ってますの? 今時こんなピュアッピュアな男の子が実在したなんて……」

 

 ぶつぶつ呟き、すぐに彼女は顔を上げた。

 

「決まりですわ! 貴方、異種族交流会に参加なさい! きっとあのピンク狐もこうなる事を見越してたに違いありませんわ!」

 

 予め考えてあったのか、貴方は例の異種族交流会とやらへの参加を勧められた

 同時に、淫魔族の生態について書かれた本を渡された。これを読んで勉強し、大丈夫と思ったら参加してほしいと言う。

 それで悩みは解決するのか訊いてみたら。

 

「勿論ですわ! まぁ無理だった時はわたくしが何とかして差し上げますわよ! 爆乳に挟まれたつもりでいてくださいまし!」

 

 と、言っていた。

 

 銀細工の美女と別れた後、貴方は心ここにあらずといった様相で件の淫魔族取扱説明書を読んでみた。

 淫魔族、すごい種族だと思った。

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ皆様ご覧あそばせ! ここが常夢のケフィアムですわ!」

 

 時は過ぎ、貴方は淫魔王国唯一の都市である“常夢のケフィアム”に来ていた。

 都の門前には大量の淫魔が整列し、横断幕を掲げて交流会の参加者を歓迎していた。まるで貴方が御大尽にでもなったかのようだった。

 能天気そうにしている参加者の中で、貴方は緊張しきりだった。

 

 グレモリアに渡された淫魔本に曰く、淫魔は異種族の男の精とやらを吸って生きるらしく、かの有名な吸血鬼族に近い生態をしているそうだ。

 淫魔が精を得る行為を“吸精”と言い、これまた吸血と同様の意味を持つ。残念ながら、肝心の淫魔本には吸精とは具体的に何をどうするのか載っておらず、褥を共にする程度しか書いていなかった。一緒に寝るだけで何を吸うというのだろう。

 ともかく、このままでは迷宮稼業などやっていられない。貴方は一縷の望みを賭け、藁にも縋る思いで異種族交流会への参加を決心したのである。

 

「んん~っ♡ あの子の股間から素晴らしい童貞オーラを感じますぞ♡ しかして未だ幼体のご様子、毛が生えてからじゃないとサキュバス的にアンチマナーファックコースですな♡ みまもり以外あり得ない♡」

「それより隣の子でござろう♡ 差し詰め色を知ったばかりと見える♡ 拙者ヒトオス大好き侍♡ 此方も抜かねば無作法というもの♡」

「抜くのは刀じゃねぇけどな!」

「「「ぎゃははははは!」」」

 

 その結果がこの歓迎? である。浮かれている冒険者達の中、貴方は周囲への警戒度を引き上げた。

 

「こちらが皆様にご宿泊いただくホテル乳鮑でございます。どうぞお入りください」

 

 異種族交流会には、銀細工持ち冒険者のグレモリア以外にも王城勤めであるはずの淫魔騎士も同行していた。

 が、どういう訳か彼女達は目出し覆面を被っており、それに加えて角から尻尾までを覆うローブを身に纏っていた。いくら美女でもこれじゃあ色気ゼロである。

 

「今日はゆっくりと身を休めてくださいね。くれぐれも、く~れ~ぐ~れ~も! 外には出ないように! あぁ今のは外に出すなという淫魔仕草に掛けたジョークではありませんことよ!」

「グレモリアの奴、再会する度に品位が落ちていってないか……?」

「昔はああではなかったぞ。アナルが弱いこと以外弱点のない女だった」

 

 交流会の日程は厳密に管理されているようで、参加者は明日の早朝には会場へ向かうらしい。

 他の冒険者に続いてホテルを散策しようとした貴方だったが、淫魔騎士にやんわり止められてしまった。

 仕方ないので、宛がわれた部屋で淫魔本を読み直してから眠った。

 

 夜中に嫌な予感がして目を覚ましたが、特に何も無かったので眠り直した。

 

 

 

 目覚めと同時、貴方は溜息を吐いた。

 今朝も下着をダメにしてしまったのだ。替えの下着は用意してあるが、こうも続けば気が滅入る。

 

「ぶほほ♡ な、何ならあっしがやっておきますがね♡ じゅるり♡」

 

 ホテルの従業員に洗濯場を貸してほしいと言ったら、何故かこんな事を言われた。無論、断りを入れて貴方自身で洗った。

 貸してもらった洗い場では、複数の淫魔から注目を受ける羽目になった。この生暖かい視線が嫌なのだ。

 

 豪華な朝食の後、貴方は馬車に乗せられて交流会会場の屋敷に向かった。

 貴方達参加者はそこでも歓迎された。何故か仮面を被ってるメイドたちに。

 

 交流会の前に、身だしなみを整える。

 朝から風呂に入り、髪を整え、部屋いっぱいに用意された服の中から好きなのを選んでよいと言われた。

 テンションを上げて分不相応な衣服を選んでいる参加者に対して、貴方は最も無難な服を選んだ。仮に汚してしまっても弁償できるように。

 

 交流会は数日間行われる予定である。

 一日目は中庭での立食パーティ式で、自主性に任せて自由に交流するというものだった。

 いざ会場に入ってみると、男の数より淫魔の方が多い事に驚いた。

 

 彼女達は全員小淫魔だった。淫魔族の中で多数を占める位階である。自前の翼で空を飛ぶ事ができず、その多くは淫魔王国内で一生を終えるらしい。

 とにかく、例の悩みを解決すべく貴方は商人流の話術で交流を試みた。

 のだが……。

 

「「「あらあら、うふふ♡」」」

 

 残念ながら、手応えがなかった。

 悪意はない。除け者にされている訳でもない。さながら小動物でも見るような目。さりとて馬鹿にされている感じもなく、完全に子供扱いされている印象だ。

 何をするにも交渉のテーブルについてもらわねばどうしようもない。これでは課題をクリアできないではないか。

 そのうち、貴方は自分から話しかける事ができなくなってしまった。

 

 ワインでも呑もうと思ったら、給仕のメイドに甘いジュースを渡された。貴方は得体の知れない悔しさを覚えた。

 王都での貴方は一人の冒険者であり、良くも悪くも子供扱いされる事は無かったのだ。だが、ここに来て貴方は周囲との間に透明な壁の存在を感じてしまった。

 

「ど、どうしたの? 顔色悪いけど、大丈夫?」

 

 そんな中、貴方に声をかけてくる淫魔がいた。

 声の方を見て、貴方は目を丸くした。二人の淫魔が貴方のすぐ近くにいたのである。

 

 声をかけてきたのは、黒髪の淫魔だった。背丈は貴方より凡そ頭一つ分大きく、長く癖のない髪が陽の光で煌めいている。

 もう一人は白髪の淫魔だった。血のように赤い瞳は何かを憂いているようで、真っすぐに貴方の目を見ていた。

 驚くべきは、二人の背格好と顔立ちが全く同じだった点である。世にも珍しい淫魔族の双子である。白黒の双子姉妹は、色と表情以外の全てが同じ人物のように見えた。

 

「お話しさせて貰ってもいいかな? 貴方ずっと周りに話しかけてたから、タイミング計ってたり」

 

 双子淫魔の美しさに目を奪われていた貴方は、慌てて表情を作り直して首肯した。

 軽食の載せられたテーブルの傍らで、貴方と双子姉妹が相対する。二人の目に、貴方を子供扱いする雰囲気はなかった。

 

「私はアビー。こっちは妹のラバー。見た通り双子の姉妹よ、珍しいでしょ? 普段は競馬場で馬のお世話をしているわ」

 

 どうやら二人もこの交流会で馴染めなかった組らしく、その事も相まって貴方達はお互い積極的に交流した。

 会話を始めてからこっち貴方と話しているのは黒淫魔のアビーの方で、白淫魔のラバーは聞きに徹して静かに微笑んでいるばかりだった。

 

「えっとね、ラバーは喋れないのよ」

 

 貴方との距離を測るように、且つあっけらかんといった風に言うアビー。

 配慮すべきだったかと表情に迷う貴方に、純白のラバーは「気を遣わなくていい」と言うように静かに首を振った。

 

「生まれてすぐお医者さんに診てもらったんだけど、声が出ないんじゃなくて口から言葉が出せないんだって。頭では分かってるし、文字も書けるのよ。たぶん人間族に多いっていう異能の一種なんじゃないかって。どんな異能なのかは分からなかったんだけどね」

「い、おう。ん……」

 

 声が出せない訳ではないらしく、姉妹間のコミュニケートに難はないようだった。

 異能とは、魔眼や収納魔法と同様にごく稀に発現する先天性の能力である。その中には当人にとって大きなデメリットとなる場合もあるらしい。

 異能と言えばと、貴方にも無限に等しい体力がある事を話した。

 

「た、体力……♡」

「いぇ……♡」

 

 アビーはごくりと喉を鳴らした。妹のラバーも興味津々といった顔をしている。鼻息が荒い。

 これは興味を引く話題だったか。少しずつ情報を得ていった貴方は、姉妹との交流に集中した。

 

 気づけば、中庭の中心で周りの参加者は大盛り上がりしていた。三人は蚊帳の外だが、それでよかった。

 聞き上手で話し上手なアビーに、無言のまま貴方との会話を楽しんでくれるラバー。貴方は交流会に来た目的を忘れ、隅っこのテーブルで話し続けた。

 

「ところで、貴方はどうして交流会に? 訊いていいか分かんないけど、まだ若いよね?」

 

 その問いに、貴方は交流会に来た目的を思い出した。

 商家教育によって育まれた観察眼では、アビーとラバーは誠実そうな女性に見えた。

 彼女達なら、悪い事にはならないだろう。なった時は、貴方が恥をかくだけだ。

 

 ドリンクで舌を湿らせた貴方は、双子淫魔に自身が交流会に参加した理由を話した。

 即ち、赤裸々な性の悩みについて……である。

 

「うぇ……!?」

「ちょ、待って! スタァーップ! 本来ならキスで塞ぐのがマナーなんだけど、えい!」

 

 覚悟を決めた貴方の告白は、アビーの掌によって塞がれた。

 何か拙い事を言ってしまったようで、おっとりしていたラバーも厳しい目で周囲を警戒している。

 

「い、今の他の淫魔に言っちゃあダメよ? いくら何でも青バナナ剥きされちゃうわ! そのうえ体力あるなんて言っちゃったら……」

「うぃ、うぃ」

 

 こくこくと、ラバーも「そうだそうだ」と頷いている。

 タイミングがいいのか悪いのか、ちょうどその時に交流会終了の宣言がなされ、三人の騒ぎは誰にも聞かれる事はなかった。

 

「つ、続きは明日ね? またお話ししよ」

「ん、あぅおぅ……」

 

 そんなこんな、貴方と双子淫魔は別れた。

 以前グレモリアに言った時は何もなかったのだが。貴方は改めて淫魔本を読み返したが、何がどうして二人があんな反応をしたのか理解できなかった。

 あと、青バナナ剥きとは何だろうか。淫魔文化は未知に溢れていた。

 

 

 

 二日目。今度は一日目とは別の催しが執り行われた。

 参加者側と淫魔側でお互いを指名して、組み合わさったら庭園でデートをするというものだ。不一致の場合は一日目と同じになる。

 貴方は昨日言われた通りアビーとラバーの二人を指名して、三人は見事に組み合わさった。

 

「やっほ、昨日ぶり。一致したの、私達だけっぽいね」

「んぁ~」

 

 庭園に着き、笑顔で迎えてくれた二人を見た貴方は、何故か涙が出そうになるくらい嬉しい気持ちになった。

 そのまま三人で庭園を独占し、他愛のない話を交わしていく。よく喋るアビーと、ふんわりと微笑むラバー。上手く話を運ぶ貴方の間には、王都にはない緩んだ空気が流れていた。

 

「えっとね、少し話は変わるんだけど……」

 

 ややもあり、アビーが切り出した。

 その声音は、貴方が性の悩みを打ち明けた時と同じだった。

 

「実は……私達も、まだなんだよね」

 

 相槌を打つ。それから、まだとは何か訊くと、アビーは赤面して顔をしかめた。

 

「吸精……」

 

 拗ねたような声色だった。見れば、ラバーも赤面している。

 吸精とはつまり、鬼人にとっての飲酒であり吸血鬼にとっての吸血である。それをした事がないというのは、淫魔的に恥ずかしい事だったのだろうか。

 

「いやいやっ、いい歳して処女とか普通にヤバいでしょ。処女が許されるのは一歳までなんだからね」

「おぅ、あぁい……」

 

 淫魔本曰く、淫魔族は生まれて一年で成長が完了するらしい。

 凄い種族だ。同じ魔力生物である魔族にしても早熟な気がする。どんな生態をしているのだろう。そも、一年で詰め込める知識など限界があるのでは。

 

「ああ、それには淫魔族の母乳に秘密があってね……」

 

 興味深い淫魔文化の話に、貴方が淫魔本で得た知識。話は進み、言葉が途切れる事がない。ここにきて、アビーとラバーの雰囲気はよりいっそう柔らかくなった。

 ややあって、二人は顔を見合わせて頷き合った。

 

「理解し辛いかもしれないけどさ。私達って、二人で一人なんだよね。だから同じ人を好きになるの。それで、偏食ぶりも同じでさ」

「ん、おぅえー」

「その……私達、童貞じゃなきゃ嫌なんだ。如何にもって人は生理的に、ちょっと……。あぁ、えっと、本当にごめんね? 淫魔として情けないし、貴方に失礼なのも分かってるんだけど……」

 

 話を聞くに、アビーとラバーは童貞の男しか吸精の対象にならないらしい。童貞じゃなきゃダメというより、他の淫魔が先に絞った男は生理的に無理だというのだ。また、二人が搾った後に独占欲が湧くかどうかは分からないと。

 要するに、好みの問題だろう。ふと、先日リカルトに言われた事を思い出した。考えてみれば、貴方は未だにどんな女性が好みなのか分からないままだった。

 

「その、気持ち悪くない? 童貞好きな淫魔は多いけど、童貞じゃなきゃってのはさ。実際、あんま淑女的じゃないし……」

 

 やがて二日目の交流会が終わる頃になって、二人は覚悟を決めたような目になって言った。

 

「今日の夜、私達二人を選んでほしいの。うん、二人。昨日の今日だし、性欲濡れでホントごめん。けど、早くしないと貴方が取られちゃうって考えると……」

「ん……」

 

 言われ、即答しそうになる口を制御し、落ち着いてから考える。

 初対面の時から、アビーとラバーは貴方を子供扱いしなかった。正面から話を聞いてくれて、その上で自分達の恥を晒してくれた。淫魔の価値観では、それでは交渉にマイナスだろうに。

 二人は貴方が童貞だから近づいてきたらしい。貴方も悩みを解決する為に此処にきた。お互い様で、不器用だと思う。

 なら、こっちの方が分かり易い。この時、貴方は父の教えを破った。貴方の心根は商人向きではなかった。

 

「やった……! やったよラバー!」

「いぇー」

 

 貴方の返答を聞くと、アビーとラバーは手を取り合って喜んでいた。

 吸精とは、淫魔にとってそれほど嬉しい事なのだろうか。

 あるいは、ただの捕食行為ではないのかもしれない。

 

 最終日を迎える前に、貴方達三人はカップル成立と相成った。

 

 

 

 その夜、諸々の用意を終えた後、貴方達は屋敷にある一室で過ごす事となった。

 部屋の内装は先日泊った高級宿に似て、絨毯ひとつ取ってもひと目で一級品である事が分かる。

 

 そんな中、ローテーブルを挟んだソファーに座った貴方は、淫魔の双子姉妹と向かい合っていた。

 正面から見ると、その大きな胸と太ももは最高に眩しかった。活発になりそうな火山を気合で抑える。コレをどうにかせねばならんのだ。

 

「グレモリア様に聞いたんだけど、貴方ってまだそっち系の知識がないんだよね。あぁ馬鹿にしてるんじゃなくてさ」

 

 その通り、貴方は荒ぶる股間を鎮める方法を知らない。また、夜伽という言葉は知っているが具体的な内容も知らなかった。

 

「それをね、今から教えてあげるね。この新生淫魔学校の教科書で、こう見えて私達、優等生だったんだから」

「うぃ」

 

 アビーの手には、可愛らしいイラストが描かれたぶ厚い本があった。

 そこに貴方の悩みを解決する方法が書いてあるのか。本で知れる内容なのだとすれば、王都の図書館に行けば解決したのかもしれなかった。いいや、だとしたら貴方はアビーとラバーに出会えなかっただろう。これでいいのだ。

 そうして、淫魔による性教育が始まった。

 

 で。一刻ほど経って。

 

 みっちりねっとりした性教育学習に、貴方の表情は宇宙の広さを知った猫みたいになってしまった。

 そうか、そうだったのか。褥を共にするとは、寝るとか食うとか吸精とはそういう意味だったのか。夜伽とは、性奴隷とは……いや待て、なんで母まで父と奴隷との夜伽に参加していたのだ? まぁいいか。貴方の脳はオーバーヒートしていた。

 そして、何より驚いたのが、淫魔はそういう行為を経て得たモノを糧に生きているという事だった。

 

「うん、そうだよ。私達にとっては普通だけど、他の種族からすると意味わかんないよね。幻滅、しちゃった……?」

 

 恐る恐る問うてくるアビーに、貴方は「幻滅していない」と即答した。

 初めて会った時から今に至るまで、二人は貴方に対して誠実だった。誠実さとは、商人にとって最も大切な要素である。界隈では騙される方が悪いとされているが、騙す方が悪いに決まっているのだ。

 家族の事を思い出しながら言葉を継いだ貴方に、二人は大きな胸を撫でおろした。なるほど、アレで挟んだり搾ったりもするのか。

 

「そ、それでなんだけど、本当に初めてが私達でいい? できるだけ優しくするつもりだけど、怖かったら私は抜けるから……」

「んぇ、ぁぁい」

 

 真剣な面差しに、貴方はアビーの胸から視線を離してから思考した。

 淫魔本によると、吸精を受けた側の男は死を想起させる程の根源的な恐怖を感じるらしい。事実、使い方によって吸精は竜族殺しさえ可能な技なのである。文化的・心情的にはともかく、事実として処刑に使われた歴史があるのだ。

 けれど、例え苦しくとも、貴方は彼女達の役に立ちたいと思った。ただ施すだけではない、持ちつ持たれつの関係。貴方は性の悩みが解決して得。アビーとラバーは処女を卒業できて得。損をする者がいない最高の取引だろう。

 

「うぅ♡ ありがとう♡ 私、今ヴィーネさんが言ってた事の意味分かった気がする♡」

「ん♡ おぁ、いぅ♡」

 

 しっかりと考え、努めて理路整然に是と応えた貴方に対し、アビーは太陽に煌めく花のような、ラバーは月下に咲く花のような笑みを浮かべた。

 

「じゃ、じゃあ、早速だけど……失礼するね? 実は部屋入った時からムラっちゃってて♡ ホント余裕なくてごめんね♡」

 

 促され、貴方は双子淫魔と隣り合ってベッドへと腰を下ろした。

 左を見ればアビーの胸。右を見ればラバーの胸。少し見上げれば二人の美しい顔がすぐ近くにある状況だ

 先の性教育の内容を思い出して、自分にできるだろうかと考えた。実現可能性はともかく、めちゃくちゃに興味はあった。貴方のご立派様は既に突っ張っていた。

 見れば、アビーもラバーも強張っていた。三人とも、緊張していた。何ともなしに笑って、場の雰囲気が弛緩する。

 

「まだ若いのに、もう結構筋張ってるんだね♡ 冒険者だからかな? いいね、カッコいいよ♡」

 

 少しずつ、貴方は衣類を脱がされていった。

 ひょろひょろの身体が露わになる。まだ頭部以外の毛は一本も生えていない。成熟した身体の二人に挟まれると、確かに貴方は子供だった。自信を失くす貴方だったが、だからこそとばかりに強いて奮い立った。

 なに、魔物との戦いに比べれば何てことないはずだ。

 

「うん、そう♡ 上手上手♡ あぁ夢叶えちゃってる♡ お母さん、私達やったよぉ♡」

「んぇ、え、え♡」

 

 続いて、貴方は二人の服を脱がしていった。

 幸い、淫魔族の伝統衣装は造りがシンプルだったので、ここで手間取る事はなかった。

 

「ど、どうかな? 大丈夫そう……?」

「んぃ~……」

 

 素肌同士が触れている。風呂から出て一刻以上経っているのに、二人からは花を混ぜた石鹸の匂いがした。

 

「うぃ……♡」

 

 貴方の頬が、温かな手に包まれる。

 優しく促され、右の方を向かされる、ラバーの赤い瞳と目が合った。その双眸は熱病にかかったかのように潤んでいた。ゆっくりと、少しずつ、美しい顔が近づいてくる。

 そっと、貴方の唇に淫魔の唇が押し当てられた。

 

 その瞬間だった。ただ唇同士がくっついただけだというのに、貴方の全身に甘い電流のような痺れが過った。

 気持ち良すぎる。ここからどうすればいい? 鼻で息を吸えばいいのか。いい匂いがする。ラバーの喉奥から「ん♡」という心地よさそうな声が漏れた。

 

「ん、うぁ……♡」

 

 唇が離れる。ラバーは何事か言おうとして、しかし言葉にならなかった。

 異能の影響で言葉を紡げない彼女だが、貴方はラバーの気持ちを受け取る事ができた。

 

「次、次は私♡ はむっ、ちゅぅ♡」

 

 続いて、左を向いてアビーともキスをした。

 彼女とのキスは先のものより力強く、まるで貴方の口が食べられているかのようであった。

 事実、アビーの双眸は性教育を受けたばかりの貴方から見ても発情しているのが丸わかりだった。

 

「ぷはぁ♡ 初めてのキス♡ これが生の唇♡ さいっこぉ♡」

「ん、おぁい♡」

 

 ボーッとする。状態異常でもなかろうに、身体が動かない。

 再度右を向かされると、貴方はもう一度ラバーとキスをした。次いで、にゅるりとした何かが貴方の唇を突いてくる。応えるように口を開けると、それは貴方の口内をねっとりと這い回り、奥にあった舌にチロチロと触れた。舌だ、舌同士でキスをしているのだ。

 唇を離す。透明な橋が架かった。反対を向かされ、アビーとも舌を絡める。これを何度か繰り返すと、やがてもどかしくなった三人は同時に舌を絡めた。

 

「任せて♡ 私達、知識だけは豊富なんだから♡ ちゅ、ちゅっ♡ ちゅぅ……ぷぁ♡」

「ん♡ んぅ……ちゅぅ♡ れろれろ……♡ ぶちゅ、はぁむ♡」

 

 そうして、仰向けになった貴方は双子の淫魔に身をゆだねた。

 肌と肌の接触がこれほど心地よいとは予想外だった。手や口を通し、身体が溶け合っているようだ。互いの恥を晒し、受け入れ合っている感覚。そう、一体感があった。

 

「じゃあ、貴方の可愛いコレ……お口で剥いちゃうね♡ はぁ~……んむ♡」

 

 瞬間、貴方は少女のような声をあげた。大きく開いた貴方の口に、ラバーの舌が入ってくる。もうどうにかなりそうだった。

 

「はぁ~♡ はぁ~♡ 落ち着け落ち着け、ここで失敗したら流石に拙い……♡」

「あぃぉ♡」

「うん、大丈夫だから♡ よし……♡」

 

 貴方はラバーに膝枕され、四つのメロンを見上げていた。殆ど天井が見えない。

 やがて、貴方は生命力と魔力を吸い取られた。

 確かに、これは本能的な恐怖を感じる。魂に牙が食い込んだかのような、そういう無痛の痛みがあるのだ。

 しかし、魔物の牙ほど怖くはなかった。

 

 脱力感の中、貴方はイシグロに伝授された【薪の呼吸】を使用した。

 これは体力を消費し、生命力と魔力を少しずつ回復するという技である。発動に際しては腹が減ってしまう訳だが、この部屋には淫魔王国産の果物が完備されているので問題ない。

 

「す、すごい! 元気なままだよ、ラバー!」

「うぃ♡ うぃ~♡」

 

 山で隠れた真紅の双眸が三日月に歪んで貴方を見下ろしている。

 そして、貴方は搾り取られた。あっと言う間だった。

 呼吸を整える。まだまだ余裕だった。

 

 暫し休んで飯を食い、ここからが本番とばかりに再開した。

 貴方はされるがままだったが、存外性に合っているようで心地よかった。

 

 幾度目かの吸精。ふと、貴方は“鳥葬”という埋葬法を思い出した。

 端から見れば、今の貴方はそんな感じなんだろうなと思った。

 全然平気だし、むしろ好きだが。

 

 

 

 数刻後、貴方は双子の間に挟まっていた。

 食後の淫魔は息も絶え絶えの様相で、貴方はそんな二人の胸に包まれていた

 

「はぁはぁ♡ ぁう♡ うぇ……♡」

「ごめんね♡ 途中から、私達止まらなくなっちゃって……大丈夫? トラウマになってない? 怖く、なかった?」

 

 確かに恐れはあったが、慣れてしまえば問題ない。

 なに、死ななきゃ安いのだ。

 

「素敵♡ かっこいい♡ 大好き♡ ちゅ~♡」

「んうぃ♡ ちゅ♡ ちゅ♡ ちゅぅ♡」

 

 貴方の顔中にキスの雨が降る。さながら世界の全てを手に入れたかのような全能感。二人の双眸には、吸精前にはない光が見受けられた。

 異性として、獲物として、一人の男として貴方に夢中である証。恐らく、貴方も似たような目をしているだろう。

 

「一党組もうとしてるんだよね。私達をさ、入れてよ。貴方の一党に」

 

 枕に頭を乗せ、暫しの会話。

 ややあって、アビーは冒険者になって貴方の一党に加わると言い出した。ラバーも同意見なようだ。

 対し、貴方は「それはダメだ」と返した。迷宮稼業は極めて危険であり、いつ死ぬか分からないのだ。そんな阿漕な商売に、二人を巻き込ませたくなかった。

 そう言ってはみたものの、二人の瞳には不退転の覚悟が垣間見えた。

 

「本に書いてあったでしょ? 魔族はね、心が死ぬと身体も滅びるの。今ここで貴方を一人にしちゃったら、私達一生後悔する。だからお願い、私達を貴方の仲間に入れて?」

 

 そんな風に返されて、貴方は不覚にも身から溢れそうなほどの歓喜を感じてしまった。

 胸の奥に、得体の知れない熱が灯る感覚があった。

 教わっていないが、分かる。これは愛の萌芽だ。

 

「うん、すぐ行くから。ちゅ♡」

「うぃ。あむ……ちゅう♡」

 

 了承すると、貴方は愛しい双子と誓いの口づけを交わした。すごい盛り上がった。

 続く最後の一回は、三回戦まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 結局、今回の異種族交流会では、貴方とアビー・ラバー姉妹以外の組は破綻してしまったらしい。

 どうやら、吸精の際に根源的恐怖を感じてしまったらしく、二回目は無理となってしまったようだ。

 中には一度に四人の淫魔と繋がった冒険者もいたようだが、現在彼は墓から這い出た不死者みたいになっている。

 

「まっ! 芳しい童貞スメルの匂いが香らなくなってますわ! きぇええええ! とっっっても悔しいから捗っちゃいます事よ!」

「グレモリア、少し静かに……」

「疲れてるんですよ。休みましょう?」

 

 一方、貴方はこの上なくスッキリしていた。

 これまで溜まりに溜まっていた淀みが解放された事で、とにかく身体が軽くなったのだ。

 それもこれも、アビーとラバーのお陰である。

 

「迎えに来てね♡ 必ず、また会おうね♡」

「ん♡ うぃ♡」

 

 別れ際、貴方は再会を誓って二人と口づけを交わした。

 馬車がケフィアムを離れていく。二人はハンカチを振って見送ってくれた。

 

「お、お前、二人同時ってマジだったのかよ」

「同じ男として尊敬に値する」

「兄貴って呼んでいい? 呼ぶわ」

 

 吸精でギブアップした冒険者達は、貴方を銀細工を見るような目で見ていた。

 何故か、距離が近くなった気がした。

 

 

 

 王都に戻った貴方は、よりいっそう鍛錬に励んだ。

 新たな技能を習得し、既存の技能を練り上げ、イシグロに「変態機動で草」とか「ボスだけ楽しそう」とか「模擬戦の相手になりそうだから生き残ってくださいね」とか言われるくらい機動力を高めた。

 貴方はスピード狂になりかけていた。

 

 迷宮にも果敢に挑み、魔物の毛皮を集めていった。いずれ来る仲間の防具の素材に使う為だ。

 淫魔の伝統衣装はレザーだし、革装備でお揃いができるだろう。

 

 その過程で、貴方は槍を新調した。今度のは貴方の戦闘スタイルに合った穂先の大きな槍である。

 ブーツもダメにしてしまったので、同じ素材のモノを作ってもらった。いつか“自動修復”付きの防具が欲しいものである。

 

 そして、貴方はようやっと鉄札冒険者に昇格した。

 これで単独で中位迷宮に潜れるようになった訳だが、貴方に当面そのつもりはなかった。

 

 

 

 時が過ぎ、暖かさより暑さを感じるようになった頃。

 

 貴方はラリス王国と淫魔王国を繋ぐ町に来ていた。

 貴方の傍らには自転車なる二輪の乗り物があり、これに跨って此処までやって来たのである。自分の足で鐙を漕ぐ感覚は唯一無二の楽しさがあった。新しい趣味になりそうだ。

 

 門の前、貴方は淫魔王国の関所を見ていた。

 やがて乗合馬車が見えてきた。窓から黒髪と白髪の姉妹が手を振っている。

 二人は待ちきれぬとばかりに馬車を飛び降りて、貴方目掛けて走ってきた。

 

「お待たせ、待った? ハッキリ言うね? 寂しかったよぉ~!」

「いぁ、あいぁ!」

 

 ガバッと、貴方は自分より背の高い双子姉妹に抱きしめられた。いや、抱き上げられた。

 二人の胸に挟まれた貴方は、ラリスサンドの具材みたいになっていた。

 

 淫魔が国外に出るには、法に定められた許可証が必須である。

 旅券を得るには試験があって、それはもう狭き門なのだとか。

 その試験を、二人は突破したという。だからこうして国の外で会えたのだ。

 

「えへへ♡ これからよろしくね♡」

「うぃ♡」

 

 抱き上げられたまま、左右の頬に唇が押し当てられる。

 こうして、小淫魔アビーと小淫魔ラバーが貴方の仲間になったのだ。




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 途中あっさりしてたのは仕様です。削りました。
 まぁこれくらいなら大丈夫でしょう。
 


・貴方
 身長155㎝のショタ。12歳。死んだ魚のような目をしている。
 身体はまだまだ出来上がっておらず、ご立派様も可愛らしい。ただし絶倫である。

・アビー
 淫魔族。小淫魔。黒髪ロング。緑目。
 身長175㎝で、淫魔族らしく豊満。活発そうな表情。淫魔の中では思慮深い方。

・ラバー
 淫魔族。小淫魔。白髪ロング。赤目。言葉を喋る事ができない(異能)。
 カラーリングと表情以外アビーと同じ容姿。おっとりお姉さんな表情。中身は普通の淫魔なので、大人しそうに見えてドスケベである。
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