【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
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せっかく最上位職になれるんだから、最上位職になろうぜ。
ってな訳で、AAAオープンワールドゲームのサブクエめいて寄り道しまくってた俺の最上級職へと至る旅ですが、この度めでたくメインクエストを達成し件のジョブの習得資格を得る事と相成った。
だが、俺の最強ロリコン坂はここがゴールではない。むしろ第二のスタートラインで、本格的に強くなるのは現状以降なのである。
いい機会なので、最上位職の仕様について纏めようと思う。
まず、最上位職はただでさえレベルアップし難い上位職と比べてなおレベリングに時間がかかる。その分レベルアップ時のステータス上昇率は圧倒的だ。逆に言うと、これまでのようなつまみ食い育成とは食い合わせが悪い。
二つ目、最上級職はカンストした上位職の上位互換以外にも、新規に当事者がこれまで経由してきたジョブを総合したものが生えてくる。前者は“ソードエスカトス”と“アルティメットセイバー”で、後者はグーラの“特大剣士”と“魔獣勇士”だな。往々にして後者の方が優秀な印象だ。
第三に、一部の最上位職には固有スキルなるものが存在する。例えばエリーゼのジョブである“ドラゴンルーラー”は【竜の裁定】というチート技を使えるのだ。その他、イリハの“天地仙刀士”は常時陰陽術の二重詠唱が可能である。これは既存の補助・能動とは別枠なようで、両方共に他ジョブに変更したら使用できない仕様なのでどうしようもない。
以上の点を踏まえて、俺は新たに生えてきた膨大な量の最上位職を一つ一つ検証していった。
その中で気づいた事なのだが、どうやら最上位職にも“格”が存在するらしい。
「はい、構いませんよ♡ 私の中の奥の方まで、じっくり見てください♡」
「貴様、ほんのちょっとでもニーナさんをいやらしい目で見たら許さんからな……!」
「誓って色目は向けてません」
それは、日課と化しつつあるニーナさんとの模擬戦での出来事だった。
色々あって他者のジョブやステータスに興味が湧いてた俺は、つい気になって彼女のジョブを見せてもらったのだ。で、その時のニーナさんのジョブが“風舞”なる如何にもユニークなジョブだったのである。
風舞とは、ギルドによって付けられたニーナさんの二つ名である。その他、彼女は淫魔族の固有最上位職や彼女の母の二つ名である“淫魔剣聖”などの資格も有していた。
同じく最上位職に到達していた百合吸血鬼・クリシャナさんのジョブは、彼女の二つ名である“七つの闇”ではなく、何だったかの吸血鬼固有斥候系最上位職だった。
そして、それら二つ名最上位職と汎用最上位職を比べてみると、前者の二つ名もしくは特殊最上位職の方がステータス上昇率や武器適性値が高く、有体に言って強かったのである。
その点、俺が使用可能な最上位職の中では、“勇者”と“超越者”と“武装優位者”、それから“迷宮狂い”の性能は剣士系最上位職である“アルティメットセイバー”よりも頭一つ抜けていたのだ。
現時点のレベルにおいては、アルティメットセイバーに出来て武装優位者に出来ない事は殆ど無かった。ゲームなんかでよくある「それやるなら〇〇で良くね?」って状態だったのである。悔しいだろうが仕方ないんだ。
で、そうなるとちょっと話が変わってくる。
ほんなら今からでも何とかしてルクスリリア達を二つ名系最上位職にジョブチェンジできないものだろうか? なんて考えちゃうが、その何とかをどうするのって話でもある。
どだい俺の二つ名は“黒剣”な訳で、ジョブとして生えてきたのは非公式らしい“迷宮狂い”である。もっと言うと同じ銀細工であるクリシャナさんも二つ名ジョブではなかった訳で、単に彼女等を銀細工に押し上げて二つ名ゲット即ジョブチェンジとはいきそうにない。それ以前に、そんなのは聊か以上に情緒に欠ける。世の中、タイミングってのがあるだろう。
仮説だが、恐らく二つ名系最上位職は不特定多数に知られている二つ名――いわゆる通り名が使われる仕様なのではなかろうか。一応、それなら辻褄が合う。
閑話休題。
勇者らへんが既存の最上位職より強いとくれば、俺のジョブは先述の特殊最上位職の四つから選ぶのがベストだろう。
件の四強ジョブについて、鍛錬場で検証し実戦で使ってみたので、それぞれの所感を纏めておく。
一個目、一番目立ってた“勇者”。
これは剣と魔法と指揮ができるジョブで、ステータス上昇傾向はまん丸なガチバランス型。性能的には魔法剣士系最上位職の上位互換といったところ。ちなみに、雷魔法は得意でも不得意でもなく、服は緑色にならないし、聖剣抜ける的なスキルも存在しなかった。
固有スキルは【勇者の意志】なるもので、自分のHPがピンチになると発動する自バフ技らしい。少年漫画的にはアツいスキルだが、ピンチになる事自体が負け戦だと考える俺からしたらあんまり好みではないかなと。
二個目、肉体派勇者である“
これは魔法触媒を含めた全ての武器種に装備制限のかかったジョブで、ステータス上昇傾向は勇者と全く同じだった。一応、武闘家系に分類されるのだろうが、治癒を含めた各種魔法や一部斥候系技能に高い補正をかけてくれる。要するに武闘家をメインとした魔術師+回復+斥候ジョブなのだ。
固有スキルは【天人合一】で、使用したら問答無用で身に纏っている防具を解除されてパンイチスタイルになり、全能力値を引き上げつつ攻撃力を上げてくれる自バフ技だ。検証の結果、補助効果を含めた防具の防御性能は無効化されるらしい。なお、脱がされた防具は【天人合一】の解除と共に自動で装着される仕様だ。う~ん、この逆変身ヒーロー。
三個目、超越者と対になってる“
こっちは魔法触媒を除く全ての武器に適性と補正があるジョブで、ステータス上昇傾向は魔力・知力・魔攻の三つ以外がガンガン上がる。魔防が伸びるのはひと安心だが、触媒禁止な上に魔法使用不可ってのが地味に辛い。地上戦オンリーになっちゃう訳だ。
固有スキルは【異権掌握】で、効果はリソース消費もリスクも無しに常時深域武装を二つ持ちできるというものだった。これまた地味に凄い効果で、本来二つ同時に使用できない深域武装を同時使用できるのだ。空飛ぶ突撃槍乗りながらノコギリソードを振り回せるという事。いやでもこれ使い道あるかって気持ちが無くもないが。
最後、なんで黒剣じゃないんだ“迷宮狂い”。
これは勇者と武装優位者の合いの子といった感じで、魔法触媒を含めた全ての武器に適性がある。ステータス上昇傾向は若干前衛ステに偏ったバランス型で、まんま今の俺である。武器適性も技能補正もそれぞれ上位の専門職と同じくらいなので、いちいちジョブチェンジせずに専門職ばりの働きができるって感じかな。言ってしまえば全部盛りフォームだ。コンプリートとかフルーツバスケットとか。
固有スキルは【煉獄送り】なんていう物騒な名前の武器エンチャ技だった。武器、あるいは肉体等に赤黒い炎を纏わせ、攻撃なり防御なりができる。ただ、そのリソースはHPでもMPでもなく、ルクスリリアの鎌と同じ魔物の命であるらしい。
検証の結果、【煉獄送り】のリソース……煉獄ゲージは、倒した魔物を殺す事で蓄積する事ができ、使用すると無くなる。ゼロ状態だと発動はするけどマッチ棒レベルであり、魔物一匹分で弱火。ボス一体でまぁまぁ強い一撃が撃てる程度。実戦使用するなら魔物をガンガン倒さないといけないようだ。
また、煉獄ゲージは他ジョブに切り替えても蓄積されるようで、勇者で溜めて迷宮狂いで撃つって使い方もできる。ハクスラがそのまま煉獄銀行になる訳だ。
で、だ。
以上の結果をもって、現状における俺のバトルスタイルは決定された。
即ち、平成バイク乗りめいたフォームチェンジ戦法による状況適応。ぶっちゃけ今までと変わらんまま、その変更対象を四強に絞ろうって話だ。
基本フォームは“迷宮狂い”。
格闘フォームは“超越者”。
近接あるいは深域武装フォームが“武装優位者”。
で、魔法剣士フォームが“勇者”だ。
必然的に、俺は“迷宮狂い”をレベリングする事となった。
成長傾向は前衛ステに偏っているが、一応魔力関連も鍛える事ができる訳で、その辺もオッケーでいいだろう。
「勇者を鍛えた場合、後からラリス王家しか知らない技を使えるようになる可能性があります。そうなるとご主人様がアレクシオス様の再来と思われるかもしれません。迷宮探索はともかく、王国側の方と共闘する時は勇者にならない方がよろしいかと」
いつもの報連相の際には、グーラからはこのような意見が飛び出てきた。
確かに、仮に【勇者の意志】がラリス王家もといアレクシオス専用技だったとすれば、それを使える俺は何者って話である。
まぁジョブシステムが周知されてない異世界でそこまで心配しなくてもいいと思うが、だからといって無視していいリスクではないだろう。俺は目立ちたくないし、王家に取り込まれて貴族ルートとかも勘弁である。
その点、“迷宮狂い”はちょうどいい。必殺技で裸族にもならんし、深域武装同時持ちなんてチートじみた事もできんし。まぁ【煉獄送り】は使用した際の絵面がヴィラン過ぎて他人様にお見せすべきもんでもないだろうが。
「よし、とりあえずレベル上げするか!」
そんな訳で、そうなった。
最低でも一回くらいレベルを上げようと、俺は迷宮狂いのレベリングを開始した。
経験値の分散を避ける為に三人一党で行ったり、換金の待ち時間に巨像迷宮をソロ攻略したり、休日に巨像迷宮を六回攻略したり、久しぶりに水晶迷宮を単独踏破したり。
「ん、やっとレベル上がった」
その過程で、レノも最上位職になる事ができた。
レノが成ったのは天使族固有最上位職“煌燐者”だ。
これは光力の扱いに特化したジョブで、光力銃や各種天使権能を使うレノにぴったりである。
固有スキルは天使権能の発動に補正をかけてくれるもので、今のレノなら魔導人機時代の連続テレポートや超破壊的サイコキネシスなんかが出来るだろう。スマートなままフルアーマー・レノに近づいてるというか。
「ふぅ~、暑い~ッス!」
「プール! プール!」
「冷えてるかのぅ?」
「大丈夫ですよ、ばっちり冷えてますよ」
なんてやってたら季節はガッツリ夏になり、ハクスラの合間にプールで遊んだりもした。
ニカノル大浴場にあるプールは大盛況で、水着姿の皆は最高に美しかった。これ見て思うに、なんで皆ロリコンじゃないんだろう? マトモなのは僕だけか!
「ふへへ、見てください。リキタカさんが泳いでますよ。まるで滝鮪ですね。捌いてあるやつしか見た事ないですけど」
「滝鮪というより砂鯱じゃな」
「それこそ滝登りとかできちまえそうだが」
「もうかれこれ一〇分も泳ぎっぱなしですね」
「ご主人は純淫魔契約者ッスから、その気になれば呼吸しなくていいんスよ。まぁ無呼吸で潜れる事と泳げる事は別なんスけどね~?」
「ごぼごぼごぼ……! かとうしゅぞく……ごぼぼ……」
「ん、下等種族禁止。あと無駄に力むのも良くない」
ユゥリンにそそのかされて例の異世界ナイズド殺人級流れるプールに挑戦してみたところ、俺は最も消耗の激しいバタフライでイーグルのように泳ぐ事ができた。
俺そこまで泳ぎ上手い訳でもなかったのに、泳ぎが得意な種族より泳げちゃったのだ。流石は“超越者”ボディといったところか。
「テレテレッテッテッテー! よっしゃレベルアップぅ!」
そんなこんなソロで潜ったり他冒険者と潜ったりしていると、俺の迷宮狂いはようやくレベル二になった。
で、流石は最上位職だけあってステータスがピピンのピンで伸びまくり。レベルアップ前の俺とは別人級の強化っぷりだ。
「ん? なんか生えてきたぞ」
そうやってステータス画面をご満悦に確認していたら、なんと一回のレベルアップで新たな補助スキルがポップしちゃっていた。
最上位職の補助スキルはどれも優秀である。ワクワクしながら早速見てみて、俺はあんぐり開口してしまった。
「パーティメンバーを増やせる、だと……」
新しく生えてきた補助スキル。それは、「一党員の増員」が可能であると書かれていた。
要するに、これまで六人制限のあったパーティメンバーを制限無視して増やせるのだ。
これ、地味に凄いぞ。
なにせ既存のメンバー以外と六人一党を組む場合、誰か一人を一党から追放する必要があったので、追放メンバーを各種チートや位置共有ができない無防備状態にしてしまっていたのである。今のシャロとユゥリンがそれだ。
「これがあれば、安心して暮らす事ができるな」
そう、俺はずっと不安に思っていた。
ユゥリンは強いから良いとして、チート無しのシャロは弱いのだ。いざという時の事を考えるなら、チィレンさんやファリナさんともチートの共有をしたいところ。
流石は“迷宮狂い”、恐らく俺の固有ジョブ。俺が欲しいスキルが生えてきた。
「でも、六人が七人になっただけか。習熟度……いや、レベルアップで人数増って書いてあるな。おいおい、マジか」
俺が戦っているのは、皆と安泰な暮らしをする為だ。皆の事を思えば、俺は無限に努力ができる。
こんなの剣の血が渇く時がねぇよ。
ハクスラの夢は終わらねぇ。
まだまだ強くなるぞ、と。
〇
ハック&スラッシュもそこそこに、レベリングの後は日常パートである。
言うまでもなく、人生のメインクエストはハクスラではなく皆との時間なのだ。何はなくともこっちを優先するのは自明だろう。俺は修羅ではないのだから。
「ご主人様、パスです」
「はいキャッチ」
「主様がおると掃除が楽でええのぅ」
その日、俺達は朝から大掃除に励んでいた。
家具を退かし、天井から壁から埃を落とし、あらゆる面を綺麗に拭きまくる。
ぶっちゃけ普段から我が家は【清潔】連打で綺麗なんだけども、それでも俺が認識してない汚れは残るもんで。たまには人の手による掃除も必要なのだ。
「はぁ~、ドキドキしてきたッス!」
「別に何度も会っているのだから、そう緊張する事もないでしょう?」
「ん、とても参考になるから」
「それより、ワタシ達まで来て良かったんでしょうか。控えめに言ってお邪魔虫では?」
「いや誘ってもらっといて断るってのもダメだろ。せっかく時間に合わせてくれたんだから」
大掃除中の我が家にはシャロとユゥリンの姿もあり、自称怠惰の罪を背負いし麒麟ロリはイリハの次に疾風迅雷の働きをしていた。
年末でもないのに大掃除してるのは、とあるVIPをお招きする為だった。故にリリィは緊張してるのだ。
「やぁやぁ皆、ラリスの中央美術大学を受験するだけ受験して結局入学しなかった超天才のぼくが来たよ。拍手の代わりに激しい抽挿で出迎えてくれ。それとも搾りたてのウェルカムドリンクでも出してくれるのかな?」
「お下劣ポーションでもキメておられる?」
掃除が終わってしばらく後、魔導チャイムが鳴って出迎えると、そこにはチャリで荷車を牽引しているパイモさんの姿があった。
その荷台には、これでもかと大量の木箱が積まれている。
「よろしくお願いするッス! チンイラ・ゴンザレス先生!」
「おいおい、チンイラは春画専門で、今のぼくはただのパイモさ。さて、荷下ろしを手伝ってくれるかい?」
「あざーッス!」
家具を退かしたリビングに荷物を運び、指示された通り置いていく。
すると、パイモさんは木箱の中から画材を取り出していった。大きなイーゼルに、四角いタンスみたいな箱。使いこまれた椅子のサイドテーブルには、種々様々な筆とインクがセットされた。
「じゃあ……まずは何を描こうか??」
クルッと
そう、今日はパイモさんに俺達の絵を描いてもらいに来たのである。
パイモさんは世界を股に掛ける芸術家である。かつては数多くの貴族がパトロンになろうと申し出たらしいが、その全てを断った孤高の絵師である。
曰く、彼女に肖像画を描いてもらうのは極めて困難なんだとか。昔は拒む事を知らなかったようだが、休む事を覚えた現在は何かしら依頼が来ても気分次第で断っているそうな。
そんな彼女に、皆を描いてもらおうというのだ。
「とりま集合絵をお願いします」
「あい分かった。枚数制限はないが、ぼくの心のペニス・ペンシルが中折れしちゃったら即終了だからね?」
「なぁ、心のチンコって何だ?」
「気にしなくていいのじゃ」
パイモさんの前、予め用意していた椅子に座る。その周りに、皆が集まるという構図だ。
ルクスリリア。エリーゼ。グーラ。イリハ。レノ。シャーロット。ユゥリン。そして、俺。衣装は武器無し迷宮用装備だ。
「はいはい、こっち見てね。なに、ぼくの筆は童貞坊やの絶頂よりも迅速だから、そうそう時間は取らせないよ。今日はラフだしね」
言いながら、パイモさんはペンを持った手を前に向けて目を細めた。
前から思ってたんだけど、絵描きが絵を描く前にやるあのポーズは一体何の為にやってるんだろう?
「うん、覚えた。もう楽にしていいよ」
「今のでいいんですか?」
「もちろん。ぼく、天才だから」
きっかり三秒ポージング。俺達が姿勢を戻すと、パイモさんは既に絵に集中していた。
「どんな絵になるのか、楽しみね……」
「そういやぁラリスの資産家は家にスケベな絵を飾るんじゃったか」
「や、そういうのは淫魔王国じゃないの?」
「綺麗過ぎる絵は抜けないんで、実はあんま無いッスね。それはもうそういうゲージツ扱いッス」
「多分ですけど、これ後世に残ると思うんですよボク。ご主人様は紛れもなく英雄なので」
「ああ。アタイん時の戦いは表にゃ出せねぇだろうが、クーシェンのやつはもう描かれてんじゃねぇか?」
「描かれてましたねぇ。アリエル様をお守りする端役として。中でも一番人気だった絵は当の止まり木協会が購入したとか」
「へ~、アリエルさんには芸術鑑賞の趣味があったんだな。俺もそーゆーの集めようかなぁ。誰かのパトロンになって描いてもらうか」
「獣拳記の絵を描いてもらいましょう! 再序盤から最終版までストーリー仕立てに!」
「いいね。パイモさん、いい絵師知りませんか?」
「ぼくに絵描きの友達はいないよ、陰茎強度が下がるから。まぁ気になるなら何処かの画廊にでも
絵に関心のなかった俺がこうして肖像画を描いてもらっているのは、後々の彼女達を思っての行為だった。
純淫魔契約で長生きできるようになった俺だが、それでもエリーゼよりは早く身罷ってしまう。最終的に独りになってしまう彼女の慰めになるよう、後の残るモノを残そうとなったのだ。
それは今回は初の試みではない。度々レノにも絵を描いてもらっているし、普段から各々日記をつけている。それは日々の記録であると同時に、現在から未来への手紙だった。
読み返す度、思い出の中へ帰れるように。寂しくなった時の癒やしになれるように。
「っと出来たよ。で、次はどうするね?」
「なら、アタイ等抜きで六人で描いてもらいな」
「そうですよ、それこそ黒剣一党でいい感じですよ」
「じゃあ次はご主人が立つッス! 武器とか持っちゃうのどうスか?」
「構わないよ。情報量が増えても記憶する時間に差はないから」
「俺はどうしようかな。ドヤ顔ダブルソードでもしようか?」
「無銘でいいでしょう。貴方の剣よ」
転移一年目、俺はこの世界で皆と生きていく事を誓った。
何だかんだヴィランと戦う羽目になったり、どこかに旅行すれば何かしらトラブルに巻き込まれるが、それでも俺は幸せだ。
それは、皆と一緒だったからそう思えるのだ。一人で異世界を旅行しても、今ほど充実していなかっただろう、確実に。それどころか、迷宮毒に侵されて早晩おかしな事になっていたかも。
少なくとも、俺は皆と離れるだけでクッソ寂しい。単独で迷宮潜った時など、魔物の攻撃より孤独感でダメージを受けていたくらいだ。
それを永遠に感じ続けるのだとしたら、考えるだけで身も心も凍えてしまいそうだ。
なら、せめて、例えロウソク一本分でも多くの温もりを残すべきだ。それが、無責任に彼女達を愛してしまった俺が負うべき責務である。
「ねぇご主人? アタシご主人の奴隷になれて良かったッス。まぁ完全に偶然なんスけど、今ならラッキー以上の運命だと思えるッス」
集合絵の後、パイモさんにはツーショットを描いてもらう事に。
対面座位の姿勢で膝に乗ってきたルクスリリアは、そう耳元で囁いてきた。
彼女と俺は運命共同体だ。彼女が死ぬ時、俺も死ぬ。お陰で人間族より長生きできるようになった。
彼女と出会わなければ皆とも出会えなかったように思う。
「そういえば、あの日もこうして抱きしめてもらったわね……」
次、膝の上のエリーゼを後ろから抱きしめる。
あの時というのは、彼女をお迎えした日の事だろう。当時の彼女は身も心も冷え切っていて、愛に飢えていた。
今では身も心も俺に委ねてくれている。リラックスした彼女には、当時のような不安定さが消えていた。
「ルクスリリアと同じで恐縮なのですが、ボクもご主人様に拾ってもらえなければ今のような幸福な生活は送れていなかったと思います。ボクみたいなのを愛して下さり、本当にありがとうございます。ご主人様」
俺の膝に横座りするグーラにも感謝を伝えられる。
ストレートな言葉は、お迎えしたばかりの彼女からは出なかったと思う。
俺を信頼し、皆を家族と見てくれている。あの日のように死を望んでいる影もない。屈託のない笑顔だ。
「わしもなぁ、あの時助けてもらえんかったら死んどったんじゃよなぁ。ありがとうのぅ、ほんに。今なら母上の言うとった事の意味が分かるのじゃ。主様のおかげで、わしは幸せじゃよ」
永きに渡る奴隷生活の後、彼女は猫又に襲われた。もしあの日、イリハが上玉館で働いていなかったら、それこそあまりに救いがない。
こっちこそ、間に合ってよかった。もし、あの時イリハを助けられなかったら、俺は今の人格を保てていただろうか。
感謝すべきなのは俺の方だ。本当に、生きててくれてよかった。
「マスター、あの時わたし達の【念話】を受け取ってくれてありがとう。わたしもそうだけど、あのままだったらナッテ姉達は生贄になってた。そうしたらジュスティーヌ様が復活して、あの天使と結婚させられてたと思う。マスターはマスターが思ってるより良い人なんだよ」
レノを助けられたのは、彼女自身に他人に救いを求める強さがあったからだ。
思えば、レノも以前よりよく笑うようになった。趣味も見つけたし、前より感情を表に出せるようになった。
現在、彼女は同じく聖輪郷から救われた家族と文通している。当初は強くなったら家族と暮らす予定だったが、今の彼女は俺と結婚する選択を選んでくれた。他ならぬ自分の意思で。
「なんかアタイだけ打算ありきで申し訳ねぇな……しかも今でもおんぶに抱っこでよ。あっと、まぁ……あんがとな。亭主殿にもらった恩と、あと愛はさ。アタイの一生をかけて返していくつもりだ。だから、できたら今後も仲良くしてくれると嬉しい」
当初、シャーロットは自身の復讐の為に俺を利用しようとしていた。
彼女の決断だ。意思を貫き、戦い抜いた。剣を置いた彼女は、心を健全に保ったまま社会に復帰している。彼女には、俺にはない強さがあった。
そんなシャロも、自分の道を往きつつ俺を愛してくれていた。応えようと思う、真摯に。
「なんか、リキタカさんって自分のこと嫌いっぽいですけど、そのへんもワタシと同じだなって思ってました。だから弱点も分かってるっていうか……好きですよ、リキタカさん。離れて、考えて、思い至りました。ワタシは貴方を愛しています。幾久しく、宜しくお願いしますね」
出逢った当初はオドオド系ロリだったユゥリンだが、今はルクスリリアに似て図太い性格になっている。
自己肯定感が低い自覚こそあれ、俺は俺の性癖を肯定する事はできない。けれど、行動の結果は肯定しようと思える。それは皆のお陰で、だからこそ自尊心と自己愛を持っていられる。
一度決意した事でも、時が経てば忘れそうになる。皆の愛があるから、今の俺があるのだ。
「おいおい、何だいその顔は。せっかくこの天才画家たるパイモが描いてやってるんだから、もっと幸せそうに笑っているべきだろう」
そんな皆に対し、俺は都度感謝の言葉を返しながら泣きそうになっていた。
努めて笑顔を維持するのがやっとである。二十歳超えてからというもの、涙脆くなっていけない。
異世界に来てよかった。皆と出会えてよかった。本当に、本当にそう思う。
「まぁこんな感じかな。じゃあ描き終え次第届けるから、その時はよろしくね。期待しているといい」
「はい、ありがとうございます」
「いいんだよ。ところで、君と皆が大乱交している様子はいつスケッチさせてくれるんだっけ?」
「する訳ないですね、そんな約束」
ややあって、絵のモデルは終了。
後はアトリエで仕上げるらしいので、お片付けに入った。パイモさんも満足そうで何より。
「ん、パイモは本当に絵が上手。ただ目で見たモノを真似してるんじゃなくて、それプラスで何かを感じる。それが何かは、分からないけど」
「完成が楽しみじゃのう。見てみぃ、線だけで凄さが分かるのじゃ」
「ええ、楽しみだわ……」
感嘆するように呟いてラフ画を眺めるエリーゼは、とても優しい笑みを浮かべていた。
そこには、先の俺達の姿が描かれている。現実そのまま、幸福を切り取ってあるかのよう。インクで描かれた紙の中に、今日という日の思い出があった。
「次は……」
「なにかしら?」
気付けば口を開いていた。
息を飲む。何故か、緊張している。
ふぅとひと息。俺は心を籠めて云った。
「
「……ええ。そうね、アナタ」
安心したような、泣きそうな、幸せを溶かしこんだかのような微笑み。
絵にも写真にも残せない最高の笑顔。その時の彼女の瞳の煌めきを、俺は一生忘れないだろう。
「え? 今なんか言ったッスか? パイモ先生の新発明に夢中で聞いてなかったッス」
「見たまえイシグロ君、これが新発明の“全自動卵割り機”さ。いい感じなんだけど、何か改良点はないかい? 君の意見を聞きたいな」
「怒らないで聞いてくださいね? 卵を割るだけのカラクリなんてバカみたいじゃないですか」
「味は変わらんだろうしな。それに卵は王都じゃクソ高ぇし、最近は全然食ってねぇや」
「食べましょう、卵! この前、ご主人様に作って頂いたオムライスがとっても美味しかったんです! オムレツは食べた事ありますか? それのご飯版というか……!」
「お、おう……」
わちゃわちゃする皆。
またも、胸が締め付けられる心地になった。
ロクでなしの俺が、どうしようもないロリコンのクズが、こんなにも幸せでいいんだろうか。
「ああ。卵割り機なら、故郷に似たのがあって……」
強いて気を取り直す。
未来も大事だが、現在を大切にしないと勿体ない。
俺は、同じく幸せそうな皆の下に向かって行った。
〇
翌朝は雨だった。
魔導チャイムが鳴って玄関の扉を開けると、そこには配達員に扮した第三王子派閥のメイドさんが立っていた。
そして、彼女に手紙を渡された。案の定、それは王子からの手紙だった。
手紙の内容は、このようなものだった。
災厄の尖兵が来た。
契約に基づき、これを履行してもらう。
情報共有の為、淫魔王国に来られたし。
……仕事の時間だ、六二一。
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作者のやる気に繋がります。
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