【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。助かってます。
アンケートのご協力、ありがとうございました。
結果、エリーゼの主要武器は王笏になりました。ジョブはロード系です。
ロード系って作品によりけりですよね。本作ではバフ職というところでよろしくお願いします。
今回は三人称。
文中、頂いた支援絵を掲載しています。
少し時間が進んでいます。既に新しい剣を持ってる状態ですね。
読了後、活動報告をご覧になって頂けると幸いです。
――銀細工。
銀細工とは、ラリス王国及びその周辺諸国において特別な代物である。
迷宮探索を生業とする者たちと、その周囲の人々にとっては、尚の事。
銀細工持ち冒険者。
冒険者の中では、実質的な最上位である。
位階こそ金細工の一個下だが、実力は大差ないとされる。銀細工持ちの中で比較的まともな奴がスカウトされ、それが承諾される事で銀から金にランクアップするのだ。
金も銀も、その力は文字通り個人で一騎当千。迷宮に挑み、生還する傑物であり、有事の際には国防の要となる。
しかし、強さと引き換えなのだろうか、銀の彼ら彼女らは大概頭がおかしい。喧嘩もめ事は日常茶飯事で、一般人視点訳も分からない理由で暴虐の限りを尽くしたかと思えば、驚く程しょうもない理由で自己犠牲的な救済をしたりする。
銀細工持ち冒険者とは、総じて理解不能制御不能の怪物なのである。同じ怪物でも、国の言う事はちゃんと聞く金細工持ちとは大違いである。
まさに、生ける災害。歩く伝説。
もしくは、会いに行ける英雄だ。
実際、何故だか市民からは金細工より銀細工のが人気である。訳の分からない怪物でも、基本的に任務で忙しくしてるか王城に籠ってる金細工持ちより、会って話せる銀の英雄のがアイドル性があるのかもしれない。
さて、王都には幾人か名物冒険者というものがいる。
有名どころで言えば、東区の名物冒険者。熊人のグレイソン。
二つ名を、“猛る要塞”。
獣人族で固めた一党の頭目。これまで一度も仲間を死なせた事のない、仁義厚き漢。
その拳は山を穿ち、筋骨は過剰なほど隆々。常に前線に立ち仲間を守る様は、まさに英雄。頼れるリーダー。理想の上司。気は優しくて力持ちなのだ。
冒険者にしては珍しく妻子持ちなあたり何かほっこりする。しかもドが付くほどの愛妻家で、酔うと妻の自慢話をするのだから堪らない。そんなところもご愛敬であり、東区で彼を悪く思う住民は居ない。おまけに異常な程の大食漢なので、東区の料理屋は彼の来客を待ち望んでいる。
そんな人望厚いグレイソンだが、彼もまた銀細工持ち冒険者の例にもれず、頭がおかしい。
以前、グレイソンがとある飲み屋でご飯を食べていた時、どういう経緯かエルフの一党と口論になった。普通の冒険者なら喧嘩=殴り合いになるところ、流石のグレイソンは口だけであった。
しかし、ヒートアップした口論相手がグレイソンのテーブルの料理を落としてしまった。次の瞬間、彼はブチキレた。
そのキレっぷりは尋常ではなく、普段冒険者にしては温厚な性格のグレイソンでは考えられないくらい荒れた。
荒れに荒れ、終いにゃそのエルフとエルフの所属していた一党を皆殺しにした。怒りのまま、一人で全員撲殺したのである。
いくら異世界、いくら冒険者界隈といえど、殺人は罪である。当然、グレイソンはギルドからペナルティを食らった。
ギルド職員に「何故殺した?」と訊かれたグレイソンは、こう答えた。
「飯をこぼされたからだ」
つまりグレイソンは、食べかけのご飯をダメにされたのにキレて、喧嘩相手の一党を殴殺したのである。これにはギルド職員も唖然となった。が、まぁ分かりやすいので他より実際マシである。
ちなみに、グレイソンはその後、迷惑をかけた飲み屋に過剰な程の慰謝料を払い、店主に対しDOGEZAを敢行した事でも知られる。店主は慰謝料を拒否っていたが、半ば無理やり押し付けていた。
似たような、あるいはもっとヤバいのは南区にも北区にもいるし、同じ東区にもあと数人こういうのが居る。
少し前まで、西区にも似たような冒険者がいたが、今はいない。死んだからだ。西区を拠点とする銀細工持ち冒険者はそこそこいるが、彼ら彼女らは皆、今は違う国に行ったり遊んでたりで西区を離れている。ある意味、現在西区だけ看板不在なのである。
そんな中、王都西区の転移神殿に、新たな英雄候補が台頭してきた。
黒剣のイシグロである。
最近、“迷宮狂い”が大人しい。
同業者にも職員にも注目されているイシグロである。言葉にせずとも、そのように感じる関係者は少なくなかった。
つい一か月前までは毎日毎日迷宮に潜っていたというのに、最近は一日迷宮に潜ったら一日二日休むのである。いやそれでもマジでおかしいのだが、全盛期のイシグロを知っている人からすると、今のイシグロは大人しく見えるのだ。
イシグロが大人しくなったのは、奴隷を買った後からだ。
あの、主人よりも上等な装備を纏い、主人の武器よりも強力そうな深域武装を持つ淫魔奴隷。謎のちんちくりん。淫魔なのに全然エロくないメスガキ。彼女が来てから、イシグロはかつてのハングリー精神(?)を失っているように思われていた。
界隈では、欲望を満たした冒険者はすぐ死ぬと言われている。
明確なデータはないが、なんとなくの経験則で伝えられるジンクスの様なものだ。
しかし、これは意外と当たっているものだと、冒険者だけでなくギルド職員たちも思っている。
以前、深域武装が欲しい欲しいと言って憚らない冒険者がいた。
彼は深域武装への情熱に押されるように迷宮を潜りまくり、ついには銀細工まで上り詰め、ついに念願の深域武装を手に入れる事に成功した。
すると彼は、これまで潜っていた高難度迷宮に潜るのを止め、適当な低難度迷宮に入り浸るようになり……深域武装と共に帰ってこなかった。
例え銀細工持ち冒険者でも、欲望が満たされると弱くなる。そして、そのうち気が抜けてあっさり死ぬ。
イシグロもそうなるんじゃないかと、一部の杞憂民は杞憂しているのだ。
何でかは知らないが……奴隷が欲しくて頑張ってきて、それが叶った今イシグロはかつての強さを失っているのではないか。
そういう風に考えるのは、おかしな事ではないだろう。
「バカ言え、そんな訳あるか」
受付おじさんを除き。
そんな中、王都西区の転移神殿に新たなビッグニュースが流れてきた。
あの迷宮狂いが、新しい奴隷を連れて鍛錬場に入っていったというのだ。
しかもそれは竜族の奴隷で、銀髪の女だった。もっと言うと、件の淫魔同様ちんちくりんで全然エロくなかったという。
竜族男性といえば、皆美形で有名である。同じく、竜族女性も皆美女でお馴染みだ。
種族別の「一晩お願いしたいランキング」で必ず上位に食い込むのが竜族女子なのである。ちなみに一位は牛人女子なあたり、異世界における巨乳信仰がわかるだろう。
エロくない淫魔に続き、ちんちくりんの竜族。
いくらちんちくりんだろうが腐っても竜族。淫魔とは比較にならないくらい高額だっただろうに。
一体全体、イシグロはどういうつもりでそんな高い買い物をしたというのか。残念ながら、いや幸いなのか、ともかく異世界人にはまるで見当もつかないのであった。
さて、そんなニュースが流れた数日後、イシグロの一党は再び転移神殿にやってきた。
そして、淫魔の時と同様に三人で鍛錬場に転移した。
あー、今度はあの竜族の娘を鍛えるのねと、皆が思った。
しかし、違った。
転移して数分後、イシグロは一人で神殿に戻ってきて、何食わぬ顔で迷宮に潜っていったのである。鍛錬場に奴隷を残して。
しかも、迷宮の中でも極めて高難度で知られる“水晶迷宮”へと。
一同、思う。え? なんで?
せっかく奴隷を買ったのに、何故奴隷を連れて潜らない? すぐ潜りたいにしても、育ちきるのを待てよと。
水晶迷宮といえば、巨像迷宮とは別の理由で嫌われてる事で有名だ。
実入りはいいのだ。主が吐き出す
けれど、水晶迷宮の魔物はめちゃくちゃ強いのだ。それだけで、高難度迷宮とされているくらいである。
まず堅い。弱点らしい弱点もないし、何の特効もないクソ耐性。おまけに俊敏で、攻撃も極めて苛烈。純粋な地力だけがモノを言う、小細工無しの真っ向勝負を強制されるクッソ危ない迷宮なのだ。
「オイオイオイ……」
「死ぬわ、アイツ」
と、イシグロ牙抜け説を唱えていた同業者二人がほくそ笑んで言った。
それから数時間後、イシグロは五体満足で帰ってきた。
そして何食わぬ顔でいつもの受付に行き……。
「すみません、換金お願いします」
全ての
「おう、緑の1番な」
「はい」
しばらく待って、換金を終えて、袋に詰まった大金を収納魔法に入れて……。
いつの間にか鍛錬場から戻っていた奴隷二人を連れ、何事もなく帰って行った。
「オイオイオイ……」
「死ななかったわ、アイツ……」
ここに、イシグロ牙抜け説は崩壊した。
まあ、彼の迷宮狂い氏の強さが健在なのは誰にとっても嬉しい事である。
これまでがおかしかっただけで、今の頻度が彼にとってちょうどいいんでしょ。そういう風に解釈し始めた……。
翌日である。
イシグロ御一行。奴隷と共に鍛錬場に入り、主人一人で戻ってきて、迷宮に潜る。
昨日と同じ事をしていた。
「オイオイオイ……」
「なんで死なねぇんだよ、アイツ……」
そんでもって普通に戻ってきた。
で、奴隷と合流しておうちに帰った。
「ほう、二日連続ですか。大したものですね……」
「なんでもいいけどよぉ、相手はあの“雲羊”だぜ?」
まぁ、二日連続なんてイシグロの探索記録じゃよくある話である。
最近ではあまりしてなかったけど、前はよくあったのだ。
迷宮連続踏破。
周囲の予想を超えて、それはしばらく続く事となる。
後に伝説となる、イシグロ・リキタカ狂気の迷宮探索記録だ。
一日目、超高難度で知られる“水晶迷宮”、踏破。
二日目、儲からないし魔物クソだしでお馴染みの“雲羊迷宮”、踏破。
三日目、道中のギミックがウザ過ぎる事で有名な“暴草迷宮”、踏破。
四日目、とにもかくにも主が強すぎる“巌牛迷宮”、踏破。
五日目、毒・麻痺・睡眠オンパレードの“怪花迷宮”、踏破。
六日目、沼・泥・根っこが邪魔過ぎる“燃樹迷宮”、踏破。
七日目、とにかく魔物の数が多い“鱗群迷宮”、踏破。
八日目、暗いよ狭いよ怖いよの“闇牙迷宮”、踏破。
九日目、何でおかわりしてんだよ“水晶迷宮”、再踏破。
結局、イシグロの迷宮探索は9日の間続いた。
これまでさんざん迷宮狂い迷宮狂い言われていたイシグロでも、最大で六連続だったのが、一気に記録を伸ばして9連続。
しかも全部踏破成功。
「やっぱりアイツは天才だよ」
「いや天才っていうか……変態?」
銀細工持ち冒険者は頭がおかしい。
その中でも、イシグロ・リキタカは一等頭がおかしい。
王都西区の人たちは、改めてそう思った。
「もうあいつの二つ名、正式に“迷宮狂い”でいいんじゃね?」
「だよな、実際“黒剣”って呼んでる奴いねーし」
と話しているギルド職員の後ろで、おじさんはイシグロの活動記録を眺めていた。
おじさんは奴が冒険者登録してからずっと受付をしていた受付おじさんなのだ。伊達にイシグロと最も多く話した事のある職員ではない。
だからこそ、イシグロが無作為に迷宮を選んでいない事を直感していたのだ。
「……なるほどな」
そして、何気に頭が切れるおじさんは感得した。
いや、前提となる情報がなければ、おじさんでも気づかなかっただろう。
奴は、明確に目標を立てて迷宮に挑んでいたのだ。
迷宮が吐き出す聖遺物を知っていれば、分かる。
奴の目的は……。
「
イシグロは、英雄の装備を再現するつもりなのだ。
恐らく、新しく買った竜族奴隷の為に。
ちぐはぐな気もしないでもないが、それは淫魔の時点でそうだ。そも、種族には頓着してないのかもしれない。大事なのは、危険を冒す
「おもしれー男……」
おじさんは、イシグロに関する真に驚くべき証明を見つけたが、それを書くには記録帳の余白が足りなかった。
なので、誰にも言わなかったし、何もしなかった。そっちのがクールだからだ。
それにと、おじさんは思う。
もし奴の伝説を記録するなら、それはこんなショボい紙束じゃいけねぇ。
もっと情緒と情感をたっぷり詰めて、かつ淡々とクールに書いた分厚~い本じゃねぇと。
そして、聞き込みしてくるだろうその本の執筆者に、言ってやるのだ。
「俺か? 俺は、あいつの担当職員だよ。ただの、な……。へっ、決まった……」
鏡の前、おじさんが時折このような妄想にふけるのを見て見ぬふりをする情が、他職員たちにも存在した。
おじさんはパワハラもアルハラもモラハラもしない良いベテランさんなのだ。奇行の一つくらい、ご愛敬である。
一方その頃、件の迷宮狂いの一党は……。
「ちょっと、もう少し優しくしなさいよ……」
「練習中なんスから、そうそう上手くはいかないッスよー」
「そう……。くれぐれも角に当てないよう気を付けるのよ?」
「わぁ~、竜族の髪ってホントに魔力たっぷりッスね~。食べたら魔力回復しないッスかね?」
「なんて事言うの、貴女……」
いつもの宿屋にて。
イシグロは、ロリ奴隷がイチャついているところを静かに眺めていた。
その表情はパーフェクトアルカイックスマイル。背景には控えめな百合の花が咲いていた。
石黒力隆、ロリコンであると同時に軽度の百合豚であった。
この男、転天もリコリコも水星の魔女も大好きなのである。
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はい、キャラ募集します。
ヒロイン募集ではありません。
ヒロイン募集ではありません。
詳しくは活動報告をご確認ください。
ご興味のある方は是非、軽い気持ちでご応募いただければと思います。
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