【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もいつもありがとうございます。お世話になっております。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
イシグロ無双回です。よろしくお願いします。
最後ちょっと追加シーンあります。
速度は落とさない。眼下、砦の上を通過する勢いでカッサ砦包囲網に殴り込む。
木っ端魔物はラザニアの角で突き飛ばし、邪魔してくるのはレノの狙撃が撃ち落とす。
一転攻勢の時間だ。
「アーイ……!」
「キャーン……!」
カッサ中央砦西側、ちょうど門前上空に辿り着いたところでルクスリリアが手綱を引いた。
命令に従ったラザニアが急旋回し、牽引されている空戦車は空中ドリフト。そして、俺とグーラが飛び下りた。
「「フラァアアアアイ!」」
鳥になってくる。
大の字になり全身で風を浴びる。同時に跳んだ俺とグーラの間には、彼女の深域武装である鎖が繋がれていた。
次いで魔力障壁で空中ドルフィンキック、下方に向かって加速する。俺が前に出て、グーラが後ろのマヴ戦術だ。
落下しながらチートを使い、ロボットゲームのマルチロックのように地上の魔物を捕捉する。弱点属性、脆弱部位、全部まるっとスケスケだぜ。
「目印付けるから一発かましてやれ!」
「勢い余って倒さないでくださいね!」
作戦通り、最初に殺すのは地上に蔓延る巨像共である。
正式名称を巌堅巨像。巨像迷宮に出現するゴーレム系の魔物で、ハイスピードバトルが基本のこの世界の魔物にしては珍しく鈍重だ。しかしこいつの攻撃力は銀細工をワンパンする程度には強く、岩のような装甲は武器破壊特性を持っており、そのくせ特段これといった弱点属性のないクソをクソクソのクソエネミーである。
加えて言うと件のファッキン装甲は砦特効まで持ってるそうで、迷宮内はともかく迷宮外だと害悪が過ぎる。故に、ザコを含めて巨像は全滅させねばならぬのだ。
まさに、軍隊を殺す魔物である。
「一番デカいの、行くぞ!」
だが、そんなの素手なら問題ない。
落下の最中、俺はコンソールを起動し、武闘家系特殊最上位職である“
すぐさま超越者固有スキル【天人合一】を発動。瞬間、俺は変身バンクを逆再生したように武装解除され、謎の光が消えると同時にパンイチになった。こんな事もあろうかと海パンっぽい見せパンを履いてきたので、パンツじゃないから恥ずかしくないもん。
見てくれはともかく、このスキルは装備を外す代わりに全ステータスアップ+αの恩恵をもたらしてくれる。結論、今の俺はグーラ並みのパワーを持っているのだ。
なので、こうする。
「イィヤァアアアーッ!」
ゆっくり上を向こうとした二〇メートル級巨像の脳天に、俺は全身全霊の高速回転カカトオトシをぶちかました。爆発、爆音、大爆砕!
不意打ち判定、
「やぁあああっ!」
半ば抉れた巨像の頭部に、グーラのイナズマキックが突き刺さる。巌堅巨像には個体ごとの脆弱部位が存在する。これまた
脳天から顎先へ。弱点部位に二度も会心食らった巨像は、あまりにも切なく呆気なく青の粒子に還り、しめやかに爆発四散した。
これまで、僅か五秒の出来事である。
スタッと、二人同時に着地する。
背中合わせに構える俺達を、周囲の巨像が眺めていた。巨像はまだまだ数があり、その他雑多な魔物もいっぱいだ。
こいつはいいぞ、どっちを向いても敵ばかりだ。
「デカいの任せた」
「小さいのお願いします」
畢竟、カモである。
次の瞬間、全方位から種々様々な魔物が殺到してきた。四メートル超えのザコ巨像をメインに、ヘビやらカニやらライオンサイズのウサギなんかも襲ってきて実に賑やかだ。
一点突破し包囲を抜けたグーラに対し、俺はその場に止まり【陽動】を使って魔物のヘイトを買った。爪、爪、牙、尾、華麗に舞って全てを避ける。【天人合一】の使用中は、肌を通して周囲の状況が手に取るように分かるのだ。斥候の足捌きを併用すれば毎ターン回避だって出来ちゃうぜ。
「こっちを見ろォオオオッ!」
併せて手のひらから【魔力の礫】を乱射し、グーラに向かおうとするザコ魔物を誘引する。
この世界において、タンクは絶滅危惧種である。理由は色々あるが、ざっくり言うと最も危険で最も死にやすいからだ。でも俺はやる。何故なら、チームメイトを信じているからだ。俺のマヴは最強なんだ。
「ふん! やぁ! はぁあああああ!」
轟! 轟! 轟! 嵐と嵐が正面衝突したような爆音が断続的に響いている。これはグーラが嵐極拳パンチで大の魔物を葬っている証だった。
轟音と共に、敵味方反応レーダーから赤いマークが消えていく。俺がタンクでグーラがアタッカー。互いに最適な役割をこなせばこうもなろう。
「ご主人様! キラーパスです!」
肩越しに振り返る。グーラがラスイチ・ゴーレムを投擲してきた。ナイスパスだ。俺はその場で跳び上がり、下方向に向けオーバーヘッドシュートを決めた
ドッゴォオオオオオ! 結果、俺に群がっていた雑魚魔物群は潰れて弾けて砕けて死んだ。投擲物判定されたゴーレムは俺の武器になった訳である。ボールは友達、怖くない。
「三つ目の猿がお越しですよ。どうなさいますか?」
「りょ。グーラはバックアタックな」
スーパーヒーロー着地で合流。綺麗になった視界の先から四つ脚で突貫してくる影が見えた。正式名称を三眼火猿。色んな能力持ってるが、一言で言うとゴリラ系のクソザルだ。
俺に向かって走ってきた奴は、右腕を振り上げテレフォンパンチを放ってきた。焦る要素などあろうか。俺は両腕にユゥリン直伝の発勁エフェクトを纏い、小学一年生から習っていたフルコン空手を構えた。
踏み込む、相対速度、拳が迫る。左手を前に……上段受け! 対手の攻撃を発勁で防ぎ、此方の攻撃だけ通す攻勢防御術である。ゴリラパンチを凌いだ俺は、隙だらけの腹に発勁正拳突きをねじ込んだ。
「これで……終わり!」
大きくノックバックしつつもすぐに復帰した火猿だが、もう終わりだ。猿の背後、踏み込みを完了したグーラが俺より強い発勁パンチを構えている。振り返る暇など与えない。
ジャンプ! 轟音! 炎雷の発勁が三眼火猿の後頭部に直撃した。猿は頭の中でダイナマイトを起爆されたように爆発四散。ノー・カラテ・ノー・イセカイだ。
「地上の奴が集まってきたな。炎と雷は大丈夫か?」
「問題ありません。コーンスープ大さじ一杯で補填できます」
おかわりだ。俺とグーラはマヴ戦術を継続し、地上の魔物を掃討していった。
頭上では空飛ぶ戦車が空の魔物を排除している。エリーゼの魔法が巨大鳥を撃ち落とし、レノの圧縮光弾がフライング・スライムの核を穿った。イリハの範囲デバフが地上の魔物に降りかかる。
「ご主人様、見て下さい! ボクの天敵が来ました!」
警鐘が鳴る。飛来する闇魔法を発勁を纏った脚で蹴り返し、俺は下手人のいる方を見た。
視線の先には、見覚えのある巨影があった。
見上げる程に大きな骨である。全長何メートルになるだろうか。四つん這いの骸骨モンス。正式名称・餓死髑髏だ。
こいつは目からビームで“飢餓”を誘発する上、黒い霧で視界を潰してきたりするクソボス界のアイドルだ。不死系のくせに生命力が高く、けっこう殴らないと死なない高耐久害悪野郎でもある。
あまつさえ件のアイドルは大量のファンのスケさんを引き連れていて、さながら不死サーの姫である。
「さっきと同じだ! 行くぞ!」
だが、例によって俺にとってはカモである。
ジョブチェンジ、“勇者”。【天人合一】が解け、変身バンクの後に元の装備を身に纏う。
即座に盾を取り出し突貫しつつ、並走するグーラにぶちぬき丸をパスした。
「もっと来いオラァ!」
盾を構え、餓死髑髏の真正面に立つ。旋回するグーラに向きかけたヘイトを【陽動】し、飛んできた飢餓の視線を聖騎士スキル【不屈の盾】で耐える。
元より勇者は各種状態異常への耐性が高いので、こういう時はタンクとしての運用も可能なのだ。本来ならイリハの憑依バフが欲しいところ、勇者だったら問題ない。
「技名は確か……あっ、秘剣・カザグルマ!」
一方、愛剣を受け取ったグーラはぶちぬき丸の柄頭に鎖を連結させ、ブンブンブンと振り回しながら駆けていた。
彼女の通った後には魔物一匹残らない。さながら列車でボーリングピンを跳ね飛ばすが如く、餓死髑髏の取り巻き骸骨兵を勢いそのまま粉砕していた。
「鎖付き……ブーメラン!」
ひと通り雑魚を散らしたグーラは、スケート選手のようにジャンプして餓死髑髏に鎖付き大剣を投擲した。
ガゴォ! 後頭部に投擲大剣がヒットした餓死髑髏は、飢餓の目のままグーラの方を視ようとした。
「こっち見てー! フンッ!」
そこに透かさずジャンピングシールドバッシュ。顎をかち上げられた餓死髑髏が無防備状態を晒す。
「とぉどぉめぇえええっ!」
空を駆けるグーラが鎖を引いて剣を握る。水平一回転、炎を纏ったぶちぬき丸が、アンデッドの側頭部に叩きつけられる。
グッシャアアアアア! どれだけ生命力が高かろうが、これで終いである。迷宮外のアンデッドは頭部を潰せば倒せるのだ。頭を失った餓死髑髏は爆発四散し、青白い粒子に還っていった。
「またお客さんですよ、ご主人様。大人気ですね」
「そっとしておいてくれと言いたいが」
害悪ボスを倒すや否や、次なる魔物がエントリー。
ドドドドドドドドッ……! 腹に響く重低音。遠くから怒りに満ちた咆哮が聞こえてくる。群れだ、魔物の群れの足音だ。
俺達目掛け、恐竜の群れが襲ってきた。ヴェロキラ、トリケラ、プテラにスピノ。時代も種類もバラけた恐竜。仮称・イセカイザウルスだ。
一応、あれも魔龍の一種である。恐竜系魔物は個体ごとに弱点属性がランダムなので、チートの弱点看破が機能しない。明確な攻略法のない、一党の地力が問われる相手である。
「ブラキオ? いやマメンチか! グーラ、首の長さで!」
「了解しました! ずんぐりしたの殺ります!」
だが、まともに戦ってやる気はない。
ジョブチェンジ、“
武装優位者は深域武装二刀流が可能であるという固有スキルが特徴的だが、こいつには他にも深域武装関連のボーナスがあるのだ。
「お覚悟をぉおおおおっ!」
駆ける、駆ける。全力回転させた鎖鋸剣で、イセカイマメンチの首を一刀両断した。
武装優位者の特性。それ即ち、異層権能の強化である。二つ持ちは据え置き性能、一つ持ちは純粋なパワーアップだ。
鎖鋸剣の場合、鋸回転の魔力消費が半減するのである。つまりは回し放題斬り放題。遠慮なんか要らないのである。
「一匹ずつでござるか! ヒィヤッホォオオウ! お前等~、最高だぜぇ~っ!」
ズバン! ズバン! ズバババギュイイイイイイッ!
エンジン音を轟かせ、赤熱刃を振り回し、恐竜の首を刈り取り殺す。圏外の魔物は首を落とせば死ぬのである。こんなに楽な相手いないぜ。迷宮のお前はもっと輝いていたぞ。
「楽しそうですねご主人様っとぉ!」
阿吽の呼吸でスイッチし、グーラにステゴ型やモサ型などの魔物を相手してもらう。まぁどのみち彼女のぶちぬき丸は一撃で恐竜の頭蓋を砕く訳だが。
いつも思うけど、エリーゼとグーラは我が一党のバグ枠だと思う。彼女がその気なら、冒険者として栄達し貴族にさえ成り上がれるだろう。だが、彼女は俺と添い遂げる事を選んでくれた。それを思えば俺の心は燃え上がり、ノコギリの回転数も倍増するというものだ。
「脆い! 脆過ぎる! 乳酸菌取ってんのかァ!」
どれだけ防御力が高かろうが、どれだけ部位破壊耐性が高かろうが、鎖鋸剣を前にしては全てバターかケーキである。
気付いた頃には、隕石もなしに恐竜達は絶滅していた。同時、鎖鋸剣が蒸気を吹いて停止した。これ以上は使えそうにない。
「俺は小っこいのを弓で射るから、グーラは獣系を掃討してくれ。その後に戦車にもどろオォ!?」
殺気を感じた直後、飛来する物体を鎖鋸剣で【受け流】す。
遠くから迫り来る影あり。ザコを跳ね飛ばし、俺だけを殺すべく四つの脚で走っている。また面倒なのが来たか。
いや待て……あの孤独なsilhouetteは……!?
「ナックルベア君じゃねーか! わざわざカッサ荒野まで会いに来てくれたのか! 素敵だぁ……!」
鉄拳大熊である。
いや、思い出の彼とは様子が違う。通常個体より大きいし、何より自慢の拳に黒い茨が絡みついているではないか。
通常個体以上特異個体未満、察するに“茨の根”エディションか。因縁の相手とは楽しいねぇ!
「会いたかったぜ死ねよやぁあああああ!」
ジョブチェンジ、“迷宮狂い”。鎖鋸剣を収納し、自慢の愛剣たる無銘のロングソードを構えてみせる。
俺達の間に会話など要らない。仮称イバラグマは熊らしからぬピーカブースタイルで接近してくると、やおら大振りのパンチを放ってきた。
チートが言う、凄まじい威力。食らったら一撃で瀕死になり、二発で確定ノックアウト。いい拳だ、素晴らしい攻撃だ。俺は、その拳を【受け流し】た。
体勢を崩すイバラグマ。実家のような安心感。親の顔より見た光景。俺は無銘の柄を握り込み……。
「煉獄……!」
鍔から切先へ発勁エフェクトを纏わせ、次いで剣身を燃やすような赤黒い炎をエンチャント。
この炎は、“迷宮狂い”固有スキル【煉獄送り】である。効果は純粋な攻撃力バフに加え、そこに魔物特効と再生阻害が付いてくる。リソースは屠った魔物の生命力で、今使ったのは先の巨像や恐竜の分だ。
受け流しからの確定会心発勁煉獄震脚軽功切り抜けコンボ――即ち、俺の新必殺技である。
「しゃあっ、【煉獄斬り】!」
名付けて、【煉獄斬り】。そのままやんけ!
一直線。赤黒い炎の尾を引いて、俺はイバラグマの背後に【切り抜け】た。
次の瞬間、背後でイバラグマがしめやかに爆発四散。首切り戦術もいいが、今のはバフ盛り盛りの通常攻撃だ。やっぱゲーマーが好むのはダメージトライアルだよな。
「ご主人! こっちも粗方終わったッスよ!」
砦の西方、門の周辺は掃討した。空戦車が下りてきたので、グーラ共々速度そのまま拾ってもらう。
再度舞い上がった空戦車から身を乗り出して、俺は眼下を見下ろした。
「兵隊さん、すごい混乱しとるのじゃ」
「まぁ予定してなかったしね。ごめんって気持ちは魔物共にぶつけよう。とりま次は南側だ」
「ん、リロードタイム」
イリハの言う通り、砦の方は俺が見て分かるくらい混乱しているようだった。そら兵站輸送しに来た奴が突然Uターンして魔物を殲滅したらそうなる。
混乱してるのは魔物も同様で、南と北の魔物は砦の攻撃を止めて右往左往していらっしゃる。なんか可愛いな、でも死ね。
「何だか知らんが今が好機ぞ! 続けぇーっ!」
「「「うぉおおおおおおっ!」」」
かと思えば、砦の門が開かれて中からフライシュ家のマントを身に着けた騎馬隊がエントリーしてきた。
その中にはミラクムさんや軍人淫魔さんの姿もある。俺達とは逆の北側に移動しつつ、精鋭騎馬隊は対処しやすいザコ魔物を討伐していた。
「アレなんて言ってるんスか?」
「や、さすがに聞こえない」
「でも何となく伝わるな」
見張り台を見れば、旗振り兵が旗上げ芸をしながら何か叫んでいた。残念ながら猛り狂うラリス貴族がうるさすぎて聞こえない
が、大体わかる。状況を鑑みるに、俺に合わせてくれるっぽい。向こうの前線指揮官は相当ロックなようである。なら、俺達もノリノリで行くべきだろう。
「フォームチェンジだ! 俺が戦車をバックアップする!」
南側は西側の門前よりも空中戦仕様の主級が多かったので、予定通りに戦術変更。俺はヴァルゼアの突撃槍に跨って、後部にグーラを乗せた。
上から戦艦と護衛艦の謎陣形。クッソ長いムラサメソードを構え、俺は地上すれすれを飛んだ。
「やっちゃえグーラ!」
「拾って下さいねー!」
行きがけに空飛ぶワームを真っ二つにし、グーラを地上に投下する。次いでぶちぬき丸を射出すると、鎖で以てキャッチした彼女は周囲に味方が居ないのを良い事にブォンブォンと振り回していた。
そして、空戦車の三人も派手に暴れていた。
「前にいる奴、全員にいくのじゃ!」
イリハがデバフを撒いて、
「右から順に堕とすわよ」
エリーゼが魔法攻撃。
「動揺してると当てやすい」
落ちてきた魔物をレノが撃ち落とした。
そんで生き残った魔物は俺かグーラがトドメを刺す。ルクスリリアのドラテクも相まって、我が一党の制圧力は圧倒的だった。
「ご主人! 敵さん動き変わったッスよ~!」
南側の主級を掃討したところで、戦況を俯瞰していたルクスリリアが言う。
言われてみて気づいたが、確かに残ったザコ魔物からはさっきまでとは異なる動きが見て取れた。
一旦バラバラになって、また集まっているというか……
「あいつら、コミケするつもりか! 戻ってこいグーラ!」
誰の命令によるものか、集い集って一匹の蛇のように成った魔物の群れは、レミングの大移動めいて空戦車に襲ってきた。
どうやら、戦いは数だよ理論を悟ったらしい。魔物のくせに合理的である。
まあ、彼女には無意味なんだが。
「今だ! エリーゼ!」
「了解。
ドラゴン令嬢が微笑んだ。待ってましたと多重魔法陣が展開し、収束する。須臾、【魔導極砲】が解き放たれた。銀竜総辞職ビームである。
大群ヘビは頭から尻尾にかけて魔力の奔流に呑まれていき、消しゴムで擦られたかのように消し飛ばされた。今のショート動画にしたらバズりそうだな。スッキリするって。
「ほえ~」
「ロクな溜めもなくアレ撃つの普通にアカンじゃろ」
「もう少し杖の性能が良かったら今のが連射できるのだけれど」
「それはまた今度ッス。ご主人、このまま東側行くッスけど?」
「よろしく頼む。いや待て、東側も何か変だぞ」
ザコこそ未だに残っているが、主は大方殲滅した。
そんで東側に行こうとしたら、これまた魔物の動きが変である。ザコどころか、主級の魔物さえ退いていくではないか。
その時だ。一瞬、静寂が生まれた。
音だけじゃない。風が、光が、静けさに満ちている。
空間自体に、ぽっかりと空白ができているような。
「うっ!? な、なにこの音……!」
「頭がキンキンします!」
「新手の攻撃かの! ラザニアの結界貫通しとるんじゃけど!」
次の瞬間、耳の良いレノが呻き、ケモロリ二人も耳を伏せた。
残る面々はハテナ顔である。やがて俺の耳にも激しいノイズ音のようなものが聞こえ、それはどんどん大きくなっていった。
「来たぞ……」
瞬間である。突如として、俺の敵味方反応レーダーに感があった。
けれども、何も見えない、聞こえない。近いはずだ。いるはずだが、レーダーもバグってるのか巨大光点が点滅している。
目に見えない巨大な生物が、何の脈略もなく出現したらしい。
「おわ! っぶねぇ!?」
危機察知発動。咄嗟に回避する。突風が頬を撫でる。急な方向転換に、突撃槍の後部座席に座っているグーラは俺のお腹にしがみついていた。
また攻撃。勘任せに避ける。その時、見えた。半透明のシルエット。大きくて、太い触手。あれは……クラゲか!
「今のなんスかアレ! 特異個体?」
「残る特異個体にあんなのは居なかったはずですが」
「ん、八体目の特異個体? あるいは別地方の奴が来たとか」
「また何処行ったか分からんなったのじゃ!」
「魔力残滓だけ残して消えたわね。感知できないわ」
「いや居場所は大体分かる。戦い方はオイオイネだ。散開!」
グーラを乗せた俺と空戦車で透明クラゲを挟み撃ち。
急いでるってのに、ここにきて未発見のボス戦である。こういう時、焦ると乙ってジ・エンドだ。慌てず騒がず落ち着いて。
「一発!」
とりまムラサメソードで攻撃したが、ゼリーでも切ったような感触が返ってきた。
ダメージはない。透過したのか。経験則だが、物理無効とは違う感じがした。
「当たっているように見えるけれど、効いている感じはないわね。通り抜ける時も変な揺らぎがあるわ」
「ん、光力も同じく」
視るに、遠隔魔法も効かないっぽい。
再度、触手で攻撃してくる。しっかり見てから回避して、その時触手に一発入れる。
そんで気付いた。
「だいたい分かった。イリハ! 実体化した時にアナライズ・ハッピーセットだ!」
「了解なのじゃ!」
要するに、攻撃する時だけ実体化する系ボスなのだ。
タネは割れた。あとは何が特効か調べるだけ。俺はあえて再接近し、クラゲからの攻撃を誘発して実体化させ続けた。こいつ知能が間抜けか?
「氣が薄くてちぃと鈍いが……ほい! アナライズ・ハッピーセット!」
後部座席のイリハが二つの陰陽陣を展開し、そこから連続花火めいた陰陽術を投射した。
説明しよう。アナライズ・ハッピーセットとは、種々様々な弱陰陽術を連発し、対象の魔物に何属性が効くかを調べる為の技である。
木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じる。半透明クラゲはその全てを食らい、俺はその全ての結果を観察した。
「把握した! 皆、凍結コンボだ!」
観察し、仮説を立てたら、実践あるのみ。【呪い時雨】は時間がないのでまた今度。エリーゼは空戦車の収納スペースから光の杖を取り出し、クラゲの上から範囲回復技である癒やしの雨を降らせた。次いでレノが水を操作し、実体化したクラゲをびしょ濡れにする。
「続いてわしが冷やすんじゃな! こんなもんかの!」
木火土金……水! 陰陽コンボの最後に最大溜めした氷技がびしょ濡れクラゲに直撃する。間髪入れず杖を持ち換えたエリーゼが氷魔法をぶち当てた
水に濡れたクラゲはみるみるうちに凍っていき、やがてパキッとアイス・クラゲに変化した。凍結デバフが入ったのだ。
大きな氷像と化した巨大クラゲが大地に落ちる。轟音、土煙が立ち上る。攻撃チャンスだ。
「じゃ、あと頼むぞ!」
「お任せください!」
鉄塊剣を持ったグーラが勢いよく飛び下りる。
大上段。鉄の剣に発勁纏わせ、蒼炎を燃やし、黄金の雷を迸らせる。彩度の低い世界の空に、あまりに眩い柱が昇る。
「やぁああああああっ!」
ドッゴォオオオ!
発勁炎雷斬りである。氷が砕け、中身も砕け、実は脆かったクラゲは粒子になって消えていった。凍結デバフ中は物理耐性が低くなるのだ。それに特殊耐性持ちは豆腐と相場が決まっている。さもありなん。
「ただいま戻りました」
「おかえり~ッス」
槍にグーラを回収し、戦車と並んで空を飛ぶ。
初手門のある西から南を通り、東に回って三方の主級エネミーを討伐した。北側にはフライシュ一家の騎馬部隊がいて、軍隊というか猟犬の群れのように動いている。
騎馬魔導士が足場を作り、一党単位で三次元的に移動している。空中にいる魔物を流鏑馬騎士が射貫き、ランス三姉妹がジェットストリームアタックを仕掛けていた。
あれがフライシュ侯爵家の戦い方か。俺には真似できそうにない動きである。ミラクムさん、あんなに強かったっけ。
「地上は任せよう。俺達がやるべきは空中……」
「や、見てマスター!」
レノが指差した方を目を向けると、砦を囲っていた茨の根が蠢いているのが見えた。
いや、違う。近づいている。砦を包囲していた茨が狭まっているのだ。バトロワゲーのエリア収縮みたいに。
このまま圧殺するつもりか。なら、その前に本体を潰して優勝するしかない。
「レノ、見えるか?」
「ちょっと眩しいけど、何とか……!」
茨本体を探す為、レノの透視で索敵してもらう。そもそも本体がここに来てる保証はないが。
ややもあり、魔眼を光らせていたレノが西方を指差した。
「見つけた! あそこに本体! 門の前に移動してる!」
「じゃあ伐採するだけだな! 環境破壊は気持ちいゾイ!」
本体目掛けてラザニアに突っ込ませる。すると、レノの指差した方の根っこが目に見えて反応した。
掃除機のコードを巻き取るように、凄い勢いでギザギザ根っこが集合していく。絡まり、丸まり、やがて根っこの塊になった。
その大きさ、凡そ三〇メートル弱。例えるなら、西部劇で転がっている丸い草。
あれこそが“茨の根”。あの中心に本体がいるのだ。
「あの根っこ、動いて……いえ、転がってませんか?」
「何でって……門を壊す気か!」
「ん、魔物らしくない。イレギュラー行動」
西部劇を連想したのがフラグだったのか、茨の根はゆっくりと動き出し、ゴロゴロと回転して門の方向に転がって行った。
「とにかく止めるぞ。エリーゼとイリハで壁だ」
「分かったわ。私のを軸にしなさい」
「タイミングは任せるのじゃ」
「アゲてくッスよ! 掴まってろッス!」
奴の動きは遅く見えるが、実際のところ凄く速い。超淫魔ブーストで何とか追い抜き、ドリフトしながら門と茨の間に滑り込む。
エリーゼが氷の杖を掲げ、イリハが綾景之太刀を輝かせた。
「間隔を開けるわよ!」
「外柔らかく内硬くじゃな!」
氷の杖が輝くと、地面から巨大氷壁が生えてきた。次いでイリハの凍結陰陽術が発動し、銀竜による氷の壁を補強する。
巻き込まれないよう即座に退避。するとコロコロ茨は氷壁に激突し、少しめり込んで停止した。
「突撃ぃー!」
今だ、止まったから仕留める。俺とグーラとレノは空戦車を飛び下りて、歪にひしゃげたタンブルウィードに突貫した。
しかして向こうも伊達に特異個体ではなかった。今度は逆方向に転がりつつ、毛糸玉を解くようにして茨の鞭を伸ばしてくる。
先頭の俺が迫りくる茨鞭を無銘で以て【受け流】す。太い根っこは何とか避けて、最短距離で急接近。
「穴開けますよ! そりゃーッ!」
背後、ぶちぬき丸が投擲され、ギザギザの根を貫き砕く。汚い毛糸玉に穴が開いた。
穴の奥に、見えた。侯爵に見せてもらった枯れ木。あれが“茨の根”の本体だ。ジェネレーターかパイロットか、そいつは周囲の茨に魔力を供給し操作しているように見えた。
「レノ、中に人はいるか!?」
「いない。だから撃つ……!」
レノの圧縮光弾が枯れ木に直撃する。
すると、どうだ。まるで痛みに怯んだように、本体枯れ木は茨コードを自切して奥の方へ引っ込んでいった。意外と速い!
「逃がすかぁああああ!」
突貫、加速し、追跡する。根っこに潜って茨を斬って、逃げる枯れ木を追いかける。
四方八方、崩れ暴れる茨が見える。少しでも動きをミスったら切り刻まれる事だろう。けれどもピンチはチャンスなので、勇気をもって突き進む。
捕捉した。奴は毛糸玉の外に出ようとしていた。今更だが木が地面と離れてるのはアイデンティティ・クライシスじゃないのか。
「判断が遅ぇんだよ腐れ脳みそがぁ!」
地上を走る木とかコンプラ違反である。俺は陸上選手のように右手の無銘を【投剣】した。
直撃した! けど弾かれた! しかし本体の動きは止まった!
「煉獄……!」
今しかない! 思うより早く、俺は足裏に発勁を纏って【煉獄送り】を発動。得意の空中ドルフィンキックと同時、赤黒い炎を爆ぜさせブースト跳躍を敢行した。
「パイィイイル! バンッカァアアアッ!」
急加速。武器を取り出す暇もない。俺は咄嗟に振りかぶった拳に【煉獄送り】を発動し、逃げようとする枯れ木に体当たりじみた全力ストレートをぶちかました。
当たったが、手応えが軽い! どういう挙動か、枯れ木は天高く吹っ飛んだ。殺せてない、妖怪ミリ足りない? 違う、あいつ薄皮一枚剥がして炎の引火を防ぎやがった! ついでにインパクト時の反動を制御して斜め上方向に移動したのだ! 武闘家トレントとかお呼びじゃねぇよ!
「あぁクソ! 邪魔だ!」
とにかく追撃せんと弓を構えたが、そこにザコが群がってきて矢を番えられなかった。見れば、皆も小さなザコ魔物に絡まれている。
頭上、甲高い鳴き声。空中に跳んだ枯れ木は、猛禽の魔物の爪に掴んでもらっていた。逃げる気だ。空に逃げられたら追いつけない。マジでここで殺さないと……!
「ここでアタシが活躍!」
青白い光条が猛禽を貫き、掴んでいた枯れ木を手放した。ナイスルクスリリア!
だが、まただ! 落ちる枯れ木を今度はミニプテラノドンが捕まえた!
大きく、羽ばたく。このままだとマジで逃げられる!
空戦車は大量のカラスに囲まれている。レノとグーラも暴れる根っこに絡まれていた。
クソが! 俺はウンコの付いたパフェの次に危険な敵役が逃げる展開が嫌いなのだ! 無駄に引き延ばすな! さっさとくたばれ! 敵役の回想で尺を稼ぐんじゃあねぇ! 俺の邪魔する奴等全員、潔く死んで崖から落ちろ!
そう、思った時だった。
「フライシュ家をぉ! 舐めるなぁああああ!」
バッリィイイイン!
背後で破砕音がしたかと思えば、枯れ木本体を持ったミニプテラノドンの胴体にやたらとゴツい槍が突き刺さっていた。
「今だ、やれ! イシグロ殿ぉおおお!」
フライシュ侯爵の声だ。氷壁越しに、槍を投げて当てたのだ。どんなパワーというか、どんなスナイプ能力してんだよ。角度的に見えてなかっただろ、今の。
それはそうと、あまりにもナイス過ぎる。ナイス過ぎて全裸の監督になりそうだ。
落ちる茨の根。また別の鳥が掴もうとしてる。弱い魔法じゃ防がれる。盾になられると拙い。貫通させないといけないが、完全に遠隔攻撃の間合いである。
俺の腕じゃあ弓で速射は難しい。武器を投げても防がれるだろう。魔法を詠唱する暇も余裕もない。
何がいる。何を使えばいい。アレを殺すには、どうすればいい?
瞬間、俺の脳裏にこれまで戦ってきた強者達の記憶が過った。
ゲルトラウデ師匠との模擬戦。剣鬼流の技、銀竜剣豪ヴィーカの剣。
考える前に動いていた。俺は弓を投げ捨て、周囲の魔物を神樹刀で吹き飛ばし、収納魔法から打刀を取り出した。
刀を構える。いつものような正眼ではなく、この世界には存在しない奇妙な構え。
杖をつくように魔力の足場に刃を突き立て、上体を捻り全身のバネを使って力をためる。発勁充填、煉獄全開。悲鳴を上げる打刀に、赤黒い炎を纏わせる。
殺れるという確信。魔物が襲ってくる。殺られる前に、殺らねばならぬ!
できる、できるのだ!
「……捉えた」
刹那、振り抜く。
斬撃を飛ばすイメージ。しかし、それは失敗した。過剰に籠めた炎の刃は予想以上に伸びに伸び、故にそれは飛ぶ斬撃にあらず、あまりに長い刃の一閃。
斬撃軌道上、気付けば雲を斬っていた。
茨の根もまた、同様に。
瞬間、迷宮化が解ける。
カッサ荒野に彩度が戻り、真っ二つにした雲の隙間から眩い陽光が差し込んだ。
巨大タンブルウィードも、茨の根の本体も、粒子になって消失した。
全消費した煉獄ゲージが、ほんの僅かに回復する。
静寂が過る。
やがて、砦の方から割れんばかりの歓声が響いた。
「いよっしゃああああああ!」
「やったぞ! 俺達、生存圏を守った! 大手を振って帰れるぞ!」
「見てるか! 父ちゃん、今度こそ守りきったぞぉおおお!」
勝鬨を上げる騎士。歓声を上げる兵士。見ると、さっきまで兵隊のようだった魔物が蜘蛛の子を散らすように逃げていた。
「逃がすな! 追え! 一匹残らず討滅せよ!」
フライシュ侯爵の一喝が響く。門から銀細工傭兵が飛び出てきて、主級のいなくなった魔物を追い回し始めた。
ミラクムさんを含めた騎馬部隊も、逃げる魔物を追撃し始める。
良かった、マジで勝ったらしい。
「やりましたね! ご主人様!」
「流石、私達の王ね」
「ご主人! 何スか今の技!」
「元ネタはあるけど、思ってたんと違う……」
魔物がいなくなった大地で、愛しい皆と合流する。
流石に疲れた。さっきの一撃で煉獄ゲージを全消費してしまった。このスキル、強いけど加減が難しいんだよな。出そうと思ったら全部出しちゃう。
それはそうと、フライシュ侯爵にご挨拶しなくちゃ。流石にこのまま帰るのはスゴイ・シツレイである。
「フライシュ侯爵、ご無事ですか?」
「うむ。貴殿のお陰でな」
慌てて門前にいる侯爵に駆け寄ると、彼は兵士に肩を貸してもらいながら兵士達に指示を出していた。
五体満足だが、顔色は悪い。戦いで負った傷がまだ治りきっていないのだろう。
「あの……」
「ラリス貴族に貸し借りはない」
えも言われぬ感情で何か言おうと口を開いた瞬間、ピシャリとそんな返しをされた。
やがて彼は兵士の肩から手を離し、自身の二本足だけで直立した。今にも倒れそうな佇まいだが、その姿にはラリス貴族としての威厳が充実していた。
そして、にやりと男臭い笑みを浮かべてみせた。
「また城に来るといい。本物のフルコースを食わせてやろう。この意味は分かるな?」
「え? あ、はい」
「なに、貴族には人を見る目も必須でな。貴殿の瞳、以前とは別人のようだ。決めたのだろう、一国一城の主となる覚悟を」
侯爵は俺の目を見てから、背後の皆を見やった。
二本足で立ち、胸を張り、頭一つ分小さな俺を見下ろしている。
か弱き人民を守護する、誇り高き貴族として。
「自由に生きるがいい。誇り高きフライシュ侯爵である余が許そう。貴殿は英雄にあらず、ただ強く在るだけの民である」
その時、俺は全身にビリビリとした震えを感じ取っていた。
フライシュ侯爵の全身から、ヤバいくらいの威光が放散されている。多分、この人のスキル欄に【カリスマ:A】とか入ってると思う。それくらいのオーラである。
変な話、次代当主は辛そうだなとか思っちゃった。真っ先にそんな事を考えるあたり、やっぱり俺の心根は小市民なのだろう。
「故にこそ、民の務めは分かっておろうな」
「はい。では、自分はこれで」
「うむ。あぁ、本部へはこいつを持っていくといい。口頭になるだろうが、起こった事だけ話せばいい。案ずるな、何とかする」
「あ、ありがたく」
フライシュ侯爵に領紋が描かれたブローチを手渡され、空戦車に乗り込んで、そのままブワッと舞い上がる。
眼下ではカッサ中央砦の人達がザコ魔物の追撃戦をしている。騎乗したミラクムさんと目が合うと、彼は槍を掲げてみせた。続いて、フライシュ一家の方々も武器を掲げていた。
砦の方では壁の上にいた兵士が手を振っていた。旗振り兵士など、滂沱の涙を流している。こんな時、どんな顔をすればいいか分からない。
「あぁ……」
砦が見えなくなった頃、俺は慙愧に堪えぬとばかりに顔を覆った。恐ろしい程のやっちゃった感である。
兵站輸送を優先するという王子との約束を破ってしまった。ナターリアさん、怒るかな……いやまぁ義務感とかで戦った訳ではないけど。淫魔女王、助けてくれるかなぁ。フライシュ侯爵も何だかんだラリスサイドの人だしなぁ。
「やっちまったモンはしょうがないッスよ、ご主人。切り替えてくッス」
「そうよ。くよくよしないの」
「後悔している訳ではないのでしょう? 例え誇れずとも、胸を張るべきです」
「気持ちは分かるがのぅ」
「ん、みんな無事だからそれで良し」
そんな風に杞憂する俺を、ロリが励ましてくれる。情けないロリコンですまない。
まぁ、でも……。
「スッキリしたッスよね?」
「それはそう」
気分は晴れた。
やっぱり鬱の予防には適度な運動が一番だな。
ゴルフやった後のサウナとカレー。これに勝る遊びはねぇってどっかの誰かも言ってたし。今度、皆で健全な遊びをしよう。
ややあって、カッサ西砦を通り過ぎた。
兵士を守りきった砦は、眩い太陽に照らされていた。
フライシュ軍が戻ってきて、また使えるように補修するのだろう。
まさしく、このファンタジー世界の縮図だった。
意外と血生臭くて、変にゲームチックで、それでも浪漫に溢れている。
そんな世界が、俺は大好きなのである。
そう、気付かされた戦いだった。
〇
迷宮化が解け、元の景色を取り戻したカッサ荒野に太陽の光が降り注ぐ。
魔物を産む水が枯れ、枯れかけていた木々に生命力が戻っていく。
遠い空に、青が戻った。
そんな荒野の片隅に、一枚の枯れ葉が舞い落ちた。
やがて、その枯れ葉から白い煙が拭き上がった。
煙が解ける。するとそこには、猫又の女が倒れ伏していた。
鴉の羽根のような黒い髪。尾骨から生える三本の尻尾。猫又らしからぬ猫又は、古代ディングにおける呪術師の恰好をしていた。
「クズめ、ゲスめ、よくもやってくれたニャ……! 品性下劣なラリス人共……!」
よろよろと、立ち上がる。そして、猫又は太陽に背を向けて跛行した。
女は満身創痍だった。腕といい脚といい傷だらけで、顔の半分が焼け爛れている。
しかし、その双眸だけは夥しい程の生命力に満ちていた。
「くけけけ、くけけけけっ……」
顔の片側で、笑う。
裂けるほど大きく、白い牙を剥きだしに。
その胸中には、ドス黒い喜びが渦巻いていた。
「なんたる奇縁か。なんたる僥倖か。見つけたぞ、イシグロ・リキタカ……!」
やがて、荒野に点在する岩に手をついた女は、這うようにして太陽の影に回った。
そうして影に倒れ込んだ猫又は、赤子のように身体を丸くした。
「殺してやるよ。英雄」
女の身体が影に沈んでいく。
見開かれた瞳は、ここには居ない英雄モドキを睨んでいた。
眩い光が在るところには、より暗い影が差すものだ。
影に消える際の際まで、漆黒の猫又は呪詛をまき散らしていた。
大義も何も存在しない。
偏に、私怨によって。
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最後ちょっと加筆しました。