【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
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キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
最後三人称です。よろしくお願いします。
淫魔女王が調停すると、会議は踊って進みに進む。
急遽淫魔王国で催される事となった結婚式に関する会議は、トントン拍子で進捗していった。
検討の結果、式場はラース公爵屋敷に決定した。
ラース屋敷は第一回異種族交流会の会場にも使われた場所で、屋敷の主たるグラマ・ラース公爵は純淫魔契約術式を開発した淫魔の娘である。何気にルクスリリア的にも縁起の良い場所だったり。
俺視点、当初はケフィアム城でいいんじゃないかと思っていたが、あえて王城以外でやる事で俺の政治的立ち位置を示せるからこっちのがお得……らしい。知らんけど。
服装については、全面的に俺の意見を採用してもらった。
そう、花嫁衣裳だ。これは譲れなかった。ウェディングドレスの話をしたら、エリーゼを筆頭に皆して乗ってくれたのだ。ざっくりデザインを見せた感じ、淫魔女王等にも好評だった。
異世界にも花嫁衣裳自体はあるのだが、これと決まった形はなくて、各々身分に合った衣服を着るのが主流らしい。
冒険者身分の場合、戦士なら鎧を魔術師ならローブをといった風に。それも異世界情緒で悪くないが、やっぱり俺は純白衣装の皆が見たかったので迸るパトスで以て熱弁を振るわせてもらった。
一方、俺の衣装も皆と合わせる運びとなった。
この世界にはジャケット&パンツの現代風スーツスタイルは未だ存在せず、自然モーニングやタキシードといった花婿衣装の概念もない。そんな訳で、現代日本でお馴染みの花婿衣装についてお話しすると、淫国お抱えの裁縫師は大興奮。曰くスーツには男性的魅力が詰まってるとの事で、これまたエリーゼを筆頭に好評だった。
興味深かったのが、俺が花婿と聞いてイメージするモーニングやタキシードといった衣服より、如何にも英国紳士然としたフロックコートの方が異世界女子のウケが良かったところだ。モーニングとフロックコートどっちがいい? って訊いたら満場一致で後者だった。威厳があってカッコいいから、らしい。
閑話休題。
その他、淫魔王国初となる結婚式では、俺発案の異世界ナイズド現代日本風結婚式の要素が取り入れられる予定である。
ウェディングケーキの概念とか、ケーキ入刀の概念とか色々ぶち込む所存。まぁ似たような風習自体はあったのだが、それはそれ。
当初の身内用結婚式でこれらをやる予定はなかったので、今は淫魔女王の誘いを受けて良かったと思っている。
「よし、あとは皆を集めるだけね! 私からはもうお手紙出しておいたけど、詳細な日程はイシグロくん経由で伝えた方が早いわね!」
そんなこんなで段取りをつけ、とうとう結婚式の日程が決定した。
今年の春、俺達は式を挙げる。その為にも招待状を送らねば。配達人だと遅いので、ホスト自ら出向く次第。ハーレム仕様の空戦車に乗り込み、いざいざ出発である。
「うむ、よかろう」
最初にお誘いしたのは、兼ねてより予約していたヴィーカさんと師匠とレギーナである。
現在、お三方はマキア城の決闘スペースで少年漫画のように修行しており、それはもう少しで終了するそうだ。
「よく分からないけれど、その集まりに私が行ってもいいの? 私、大戦犯の娘よ。相応の被害も出しているわ」
「構わないでしょう。そんなこと気にする者を呼ぶ気はないもの」
色んな人が来るという式に、レギーナは腰が引けているようだった。此方としては当のエリーゼが許してるのでオッケーである。
フライシュ侯爵にも諸々説明してあるしな。師匠も後方師匠面で頷いていた。
「カムイバラに戻ったら、レギーナには色んな所へ行かせるつもりだ。同じ考えの者とだけ付き合い、異なる考えの者と向き合わなくては将来ロクな大人にならんからな」
「あー、それはそう」
「テレーゼ様のようになってはならぬ……」
「残当」
修行やら式やら諸々全て完了したら、師匠はレギーナの情操教育を行うようだ。
そこまでの覚悟を持っているゲルトラウデ師匠は、やっぱり尊敬すべきお人であった。
「いやはや悲しいですねぇ。王子様はともかく、私は招待してくださらないので? こう見えて私、ひと通りの礼儀作法は修めているのですよ? そこらの冒険者と同じと思ってもらっては困りますなぁ」
「はあ、まぁいいですけど」
王都に戻った後は同じ派閥のシラノイさん経由で第三王子に招待状を送った。前会った時は来るって言ってたから行けたら行くのだろう。
尖兵戦でお世話になったデアンヌさんにも送ろうと思い、彼女は何処と聞けば王城にいるらしいのでこれも御頼みした。あとシラノイさんもノリで呼ぶ事に。
「やや! イシグロ殿が結婚とな!? むぅ、やはり私の勘違いであったか」
「何がです?」
「いやなに、てっきりミアカが堕とすものと思っていてな。まさか彼奴が敗北するとは」
続いて止まり木協会西区支部に向かい、対応してくれたイスラさんに盟主への招待状をお渡しした。
現在、アリエルさんはアルヴの森に帰っているそうで、すれ違いにならないよう戻ったら連絡してくれる運びだ。アリエルさんも忙しいだろうし、来るかどうかは五分五分かな。
「圏外では世話になったな。イシグロの結婚式なら喜んで行かせてもらうぜ。ミラの奴も喜ぶだろ」
以前と同じ高級宿では、“荒野の牙”のナターリアさんと再会した。招待状を送ると、リュドミーラも呼んで参列して下さるとのお返事を頂いた。
現在のミラはラリス大学の受験勉強をしているそうで、毎日家庭教師にシゴかれているらしい。夢の第一歩までもうすぐである。お兄ちゃんは応援しているぞ。
「聞いたぜぇ? イシグロお前、結婚式やるんだってなぁ?」
「まさか迷宮仲間であるおじさん達を誘わねぇ訳ないよねぇ?」
「酒! 女! タバコ!」
「はあ。会場には淫魔女王だけじゃなくヴィーカさんもいらっしゃいますが、礼儀作法とか大丈夫ですか?」
「「「チェンジで!」」」
で、誘ってなかった冒険者達にも声をかけた訳だが、式には偉いさんが沢山来るよとお伝えしたら皆さん手のひらドリルでキャンセルした。
少なくとも、逆の立場なら俺もそうしただろう。政治は悪魔の管轄だからね、しょうがないね。
「で、あるか。ならば会場の料理は余に任せてもらおう」
「え? 侯爵自らが?」
「いかにも」
行脚は続き、そして終わらぬものだろう。王都を出てリント市に到着し、約束通り侯爵のフルコースを振る舞って頂いた席で、例によってご招待したフライシュ侯爵が式での料理係を申し出てきた。
俺としては否はないのだが、お貴族様的にそれはアリなのだろうか。その旨をリント市にいたエージェントに伝えると、何かこう上手いこと調整してくれるらしい。侯爵の料理は服が弾け飛ぶほど美味かったので、俺の結婚式は会場だけでなく料理までグレードアップした訳だ。
その後、例によってリント市には何日か滞在し、その間にたこ焼きなど様々なレシピを売却した。フライシュ家との親密度がマックスになってる気がしてならない。
「なんか久しぶりな気がするのぅ。見ろ、あそこで変な大道芸やっとるのじゃ」
「頭の上に甘夏を? あっ……」
「ミスりましたね。生きてるようですが」
「縛られてるのは罪人のようだけれど……罪状は……単なる窃盗のようね」
「異世界って基本厳罰だよね」
リントの次は東方へ。シャロとユゥリンが初めて来るカムイバラでは、例年通り温泉旅館を満喫した。
一年中咲いてる桜に、ラリスとは別種の賑やかさ。やっぱりカムイバラは肌に合うな。
「ただいま~っと、あれ? シャロは?」
「シャロなら風呂ッスよ。さっきから行ったり来たりしてるッス」
「ふぃ~、温まってきたぜぇ~。おっ亭主殿! ちょっくらイチゴ牛乳出してくれや! キンキンに冷えてるの頼むぜ!」
そんな中、シャロは上玉館の露天風呂をたいそう気に入ったようで、隙あらば湯に漬かっていた。ロリババア故、致し方なし。
多分過去一ダラけてたと思う。最近はルーン関係の折衝や研究で忙しかったらしいから。
「寿司! なんでこんなにも美味しいんですか! ふざけんな、いい加減にしろ!」
他方、ユゥリンはリンジュ料理に感銘を受けたようだった。中でも気に入ったのが本場カムイバラの寿司であり、旅館で出された寿司は殆ど彼女が食べていた。
そんな彼女は寿司を自作し始め、あっと言う間に巻き寿司の極意を掴み、巧みな具材設計でデフォルメ・エリーゼ寿司など作ってみせた。妙に器用でIQが高いのがユゥリンである。
「ヴィーカ様!? テレーゼ様!? でもっておまけにエリーゼちゃんの妹まで!? えぇ~、お母さんそんな事になってたの!?」
観光もそこそこに無月流の道場を見に行くと、師範代のアンゼルマさんに迎えられた。
ゲルトラウデ師匠は娘と報連相をしてなかったようで、彼女は目をぱちくりしていた。電話もメールもないから仕方ないのかな。
で、流石にアンゼルマさんまで道場を空ける訳にはいかないので、彼女は欠席である。
道場の経営はボチボチ順調らしく、子供向けコースとガチ勢向けコースの二本柱で上手くやってるとの事。以前まで通っていたシズクちゃんは武行法院に勤めるべくガチ勢向けの鍛錬をしているそうだ。
そうこうしていると門下生が集まってきたので、皆にお菓子を分け与えた。なお、俺が本物のイシグロとは信じてもらえなかった。
「ご活躍はかねがね伺っております。その上、尖兵戦では兵站輸送の要だったとか。いやはや私としても鼻が高い」
リンジュ入りして暫く、俺は然るべき手続きを踏んでからライドウさんと対面した。
ライドウさんも尖兵戦には参加していたようで、いざという時の為に特撮巨人めいた四号ちゃん氏――新しい名はヨツバちゃん――をカッサ砦に寄越してくれたのは彼である。
「ふぅむ、私だけでは判断ができませんな。何人までなら呼んでよろしいので?」
招待状を渡すと、追加のメンバーを打診された。結果、リンジュ上層部からはライドウさんと区長のバンキコウさん。それから醤油森人シュロメさんが来る事が決まった。
そういえば、最近シュロメさんとはご無沙汰だな。聖輪郷ではお世話になったし、最大限おもてなしせねば。
「やぁイシグロさん! 戦場ではあまり話せなかったね! この通り、僕も我が子も元気いっぱいさ!」
「もう、初舞台が決まったからって浮かれ過ぎですよ」
澄刃流のエルフ・ドワーフ夫妻もお誘いしたが、赤ちゃんを放っておけないというのでお二方とも辞退なされた。
その後はフィーランさんを中心にルクスリリア達は子供の話で大盛り上がりだった。お母さんに抱っこされた赤ちゃんは可愛らしいドワーフ女子だ。大柄な父に似て大きめ重めらしい。
一方、肩身の狭い男子勢はお仕事の話である。現在、デイビット氏は澄刃流のやらかしの尻ぬぐい活動をしながら舞台役者の稽古をしているそうだ。評価としては「顔とアクションはいいけど演技がゴミ」ってトコらしい。厳しい評価をされていても、彼は活き活きしていた。
「式ぃ? あー、俺はパス。流石に遠いし堅苦しいの嫌だし。でもあの門使えるなら行きてぇな!」
「ベイゴマ大会なら喜んで行くのだ!」
「そんな事したらリンジュの恥でござる」
「ラリスもんにコマの魅力は分からんじゃん」
一応こっちの冒険者もお誘いしてみたが、皆さん揃って辞退していた。
その代わりとばかりに、ヨタロウ&忍者ズ&俺の五人一党で迷宮に挑み、サクッと攻略して宴会した。油断は禁物なのは分かっているが、事実として今の俺なら下位迷宮なんて朝飯前である。
「あぁ温泉が遠ざかってく。もっと浸かりたかったぜ」
「まだまだ寿司の修行がしてぇです。そろそろ寿司を食べないと死にます」
「ユゥリンって影響受けやすいッスよね~」
早々にリンジュを発ち、グウィネス領を通ってお次はクーシェンだ。
以前までのクーシェンは見渡す限りの荒野が広がっていたものだが、今現在は一面青々とした草原だった。驚くべき事に既に畜産が始まっていて、クーシェン民っぽい熊猫人が放牧された羊の世話をしていた。相変わらず異世界人はフットワークが軽い。
「むっ、ヴィーカ様もおいでに……ですと!?」
様変わりした下町を潜り、ずんずん進んでクーシェン城へ。迷路のような通路を案内され、俺達は武帝代行ドウジュンさんと再会した。
今は亡き武帝の代行として働く彼は不健康の権化のような顔をしており、まともに鍛錬をする時間も取れてないらしい。今になって最後の武帝に尊敬の念を抱いているとの事。
結婚式の話をすると、彼は難しそうな表情を浮かべて唸っていた。行くべきだし行きたいのも山々だが、行ける時間があるだろうか、と。
「此方も行かねば……無作法というもの。よし、例の秘薬を用意してください」
「かしこまりました♡ ドウジュン様ぁ♡」
検討の末、クーシェンからは武帝代行ドウジュン氏と筆頭武王である翼人武王が来る運びとなった。
それまでに机仕事を片付けるのだと、彼は俺達の目の前でクーシェン発祥の超絶激ヤバ秘薬を服用し、穏やかな心を持ち過酷な労働によって目覚めるスーパークーシェン人に変身した。ご自愛なさいませ。
ちな、件の秘薬はごく普通の栄養ドリンクであった事が後になって判明した。ヤンデレの匂いがプンプンする獅子系美人秘書がすり替えておいたそうである。プラシーボ効果は異世界にも存在した。
「こう見ると結構来るな……」
皆揃って空の旅。淫魔王国への帰路、俺は参列予定の名簿を見ながら呟いた。
会場は広いとはいえ、努めて少人数で催すつもりだった。お世話になった人だけに絞っても、最終的にはまぁまぁの人数になってしまった訳だが。
「そりゃご主人の式ッスもん。行けばお偉方と繋がれるんスから野心が勃起してる人は行かなきゃ損って話ッス」
「面子の問題もありますからねぇ。武侠の政治感覚は他の界隈にも当てはまるんですね」
「強い人が偉いのは当然として、どれだけ強くても舐められたら終わりですから」
「ん、それも何かの本から?」
「はい。リンジュ建国当時のゴタゴタを描いたもので、当時の侍は全体的に野蛮極まりなく、その精神性は……」
「また始まったのじゃ」
「いいねぇ、続けてくれ。こいつがあると空でも寝れるんでぇ」
圏内のラザニア移動はファストトラベルと同義である。淫魔王国に戻り、会場予定地であるラース屋敷に帰還した。
そこでは臨時に雇った淫魔があくせく働いていた。次いでラース公爵ともお話しし、屋敷を貸してくれる事について頭を下げた。大らかな彼女は「よいよい」と言ってくれた。
「遅かったではないか。イシグロ殿」
「アイエ!? フライシュ侯爵ナンデ?」
そのまま料理長とお話ししようとしたら、そこには既にフライシュ侯爵の姿があった。しかも何故だかコック帽を被った炎属性料理人スタイルである。
見れば、かつてフライシュ祭でシュロメさんと戦っていた自称美食四天王もキッチンの掃除などやっていた。どういう経緯があったのか、彼等は侯爵様の家来になったっぽい。そんな彼等を筋肉老執事さんが後ろ手を組んで見張っていた。
「家督は譲った。後のことは息子に任せ、余は悠々自適な料理道を邁進中である。淫魔王国は良いところだな。肉も野菜も大きく、何より美味である。先日は淫魔牛の乳を生で頂いてな。それはもう素晴らしい味であった」
「そ、そうでしたか。ところで、前侯爵の事は何とお呼びすれば?」
「ふぅむ。では、余の事はさすらいの料理人……ミスター・フライシュとでも呼んでもらおうか。全ての引継ぎが終わり次第、余は今一度修行の旅に出るのでな」
「流浪人が出身地と御身分を明け透けにしてるパターン初めて見ました」
そんなこんな、ミスター・フライシュ氏は俺が持ってきた名簿の写しを手に淫国側の料理長と議論を交わし始めた。
貴族の務めから解放され、一人の料理人としてセカンドライフを楽しんでいらっしゃる。それでいいのかラリス貴族。いいんだろうな、多分。
「お似合いですよ。イシグロ様」
「む、ですがもう少し調整が必要ですな。腰回りをもっとキュッとした方が……」
「しかし洗練されたデザインだ。これを考えたのは一種の天才でしょうな。流行りますよ、きっと」
その後、俺達は結婚式用の衣装を試着したりして過ごした。
ルクスリリア達の衣装のお披露目は当日までお預けされてしまったのでまだ見れていない。俺も俺で慣れないフロックコートの着心地に戸惑っていた。
他にも出される料理の試食をしたり、入刀予定のケーキについてアレコレ議論したり、式の段取りについて詰めていったり。ちょっとしたトラブルで大慌てしたり。
戦ってもないのに、とても忙しかった。けれども人命が関わってる訳でもないので、終始穏やかな心を保てていた。
今はもう、楽しみで仕方なかった。
楽しみ過ぎて、その日も皆とハッスルした。
最高でした、まる。
〇
一方、ラリス王国は王都アレクシスト。中央区にある止まり木協会本部では……。
「結婚したのか? 私以外の奴と……」
帰還して一日、大好きだった人の結婚を知ってしまったアリエル。
「イシグロと結婚するのは、私だと思ってた……」
「んな訳ないでしょう」
尖兵戦を生き延び、アルヴの森で戦勝パーティを終えて帰還したアリエルは、推しの結婚に脳をクラッシュされていた。
そんな盟主に対し、側近のネフリティスが冷淡に返す。ついこの前まで盟主は完璧で究極の上森王族だったのに、今となっては自室にイシグロの絵画――穢龍ミヅチ戦が描かれたものだ――を飾るくらいの推し活ガチ勢ポンコツエルフになってしまった。いや奴が絡まなければ今でも超有能盟主なのだが。
「それは、そうだが……」
実際、アリエル自身もイシグロと結ばれるとまでは考えていなかった。いずれこうなる事もまた覚悟はしていたのだ。
それはそれとして、未だ失恋を引きずっている彼女からすると、初恋相手の結婚報告は心と脳に深刻なダメージを受けるものだった。寝てもないのに寝取られやんけ、である。
「分かっていたでしょうに。そもそも、アリエル様が本当にその気だったならもっと積極的になるべきでした。判断が遅すぎます」
「むぅ~、だってぇ……」
クール・クーラー・クーレストな側近の忠言に、翡翠の目の美女はそっぽを向いてモニョモニョと返した。
「だって、何です?」
「……いつか迎えに来てくれるのではないか、と」
「……はぁ~」
ダメだこりゃ、と。大袈裟に肩をすくめた側近森人のクソデカ溜息が止まり木協会本部の執務室に響き渡った。
ややもあり、小声で【静寂】を唱えたネフリティスが口を開く。
「いいですか、アリエル様。何も行動せず好きな人に好きになってもらおうなんて、そんな傲慢で高慢な考えの人がイシグロさんに好かれる訳ないでしょう?」
「うわぁああああ……!」
初恋を自覚してすぐ諦めがついたのは確かだが、アリエルは内心ワンチャンあると思っていたのだ。そこにきて推しの結婚とくればワンチャンの「ワ」の字すら消えてしまった状況である。
そう、この異世界は格闘も恋愛もガン攻め環境だというのに、アリエルはどこまでも受け身だったのである。そんな姿勢だったからこそ、先の時代の敗北者になったのだ。実に空虚じゃありゃせんか? 森人生空虚じゃありゃせんか?
「これを機にすっぱり諦めて、次の恋を見つけるべきですよ。アリエル様がその気なら、相手なんて星の数ほどいるでしょう」
「ダメだ、まだ傷が深い。しばしの休養が必要だ」
「具体的にどれくらいです?」
「……百年ほど」
「コケ生えますよ」
「ひどい」
側近から
もっと積極的になっていれば未来は変わっていたのかもしれない。これが恋愛ゲームだったらバッドエンドで即終了なのだが、ところがどっこいこれは現実である。
ネフリティスの言う通り、切り替えるべきであった。けれども、ヒトが合理性にのみ生きるなど不可能である。こと色恋が関わると特に。今のアリエルに男女関係で盛大にやらかした偉人を笑う事はできなかった。
「すぅ、ふぅ……。ごほん、相手は誰だ」
森人流の精神統一術で元の美貌を取り戻したアリエルは、今度こそ結婚式の招待状を手に取った。
ペーパーナイフで封を切……ろうとしたが、アリエルの手はアル中患者のように震えていた。何とか頑張って中の手紙を出したが、アル中ナイフで切られた封筒はボロボロになっていた。
「草薙の剣の盟友達のようですね」
「盟友?」
側近森人の言う通り、招待状にはイシグロは同盟の盟友と結婚する旨が書かれてあった。はて、盟友とな?
アリエルは記憶を探った。小さい淫魔に、ヴィーカの孫娘。先祖返りした古魔族に、桜色の天狐。それから聖輪郷の天使とルーニアの森人と、クーシェンの麒麟もいたか。貴族か王族のような重婚ぶりである。やはり英雄は色を好む……ん?
「おかしい。本当にリキタカ君が色を好んでいるなら、浮いた話の一つや二つあったはず。その上で盟友と結婚を? 銀竜一族に取り入るつもりか? いや、それなら早々にエリーゼ一人と結婚すべき……あっ」
その時、アリエルに電流走る。
気づいてしまえば簡単だ。そうだ、あのイシグロが性欲に溺れて重婚する訳ないのだから。
「なるほど。尖兵戦で活躍した褒美として、結婚してやったのだな」
間違いない、イシグロはそういう男だ。アリエルは迷宮狂いの事に詳しく、知能指数が高いから分かる。
有能だが訳ありで、子供のような娘達。嫁の貰い手がないであろう彼女等を、イシグロは人生をかけて守護しようというのである。
ああ、なんと高潔な男なのだろう。責任感が強く、この上なく誠実である。尖兵戦で活躍した褒美に奴隷身分から解放し、あまつさえ結婚してやるなんて。
「そこに痺れる憧れるぅ……!」
ロリとの結婚ならオッケーです。勝手なこじつけと妄想と勘違いで感極まったアリエルは、限界エルフ化して招待状を抱きしめた。
畢竟、アリエルは厄介ファン目線で推しの結婚相手を「この子達ならヨシ!」としたのである。彼女等なら許すと、そんな風に。なんと傲慢な思考だろう。彼女はイシグロの母にでもなったつもりなのだろうか。
「どうします? お忙しいですし、イスラを名代にやっておけば最低限の礼は示せるかと……」
「行く!」
最近緩んでいるアリエル・ブレイン――ついでに正気も――を心配するネフリティスに、アリエルは決然と答えた。
招待状が来たという事は、見届けてほしいに違いない。式に意気込むアリエルの鼻息は荒く。側近森人の目は冷たかった。
「さて、式に着ていく衣装はどうすべきかな。確か五百年前の絹のドレスがあったはずだが……」
「はぁ~。あまり派手なのはダメですよ」
ガタッと立ち上がり、ルンルンで結婚式で着る衣装を選ぼうとするアリエル。
執務を放り出した盟主の奇行に、側近は大きな大きな溜め息を吐いてから後に続いた。
まぁ幸せならいいだろう。ネフリティスは強いて意識を切り替え、浮かれている盟主のコーデを手伝うのであった。
推し活とは、かくも楽しく苦しい活動なのである。
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作者のやる気に繋がります。
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本作世界の価値観では、燕尾服の類いはダサい判定です。
また、フライシュ侯爵家の筆頭執事は現代的な執事服ではなくサーコートを着ています。強烈な美味を感知すると筋肉の膨張でビリビリに破けます。
なおメイドさんとメイド服は既に存在しています。だって、エッチだし。