【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。感謝です。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
一人称です。コンゴトモヨロシク。
冒険者の朝は早い。
「おはようッスご主人♡ お先いただいてまぁ~ッス♡」
太陽が表に出た頃に、俺の朝とルクスリリアの朝食が始まる。
都合八人が同時に寝られるベッドである。寝室にはもう一個大きいベッドを置いているのだが、そっちは誰も使っていなかった。
「ん、どうぞ。天使風に言うなら洗礼」
起き抜け一発をルクスリリアに絞られた後、起き抜け一杯をレノから頂く。いやらしい意味ではない天使の聖水だ。
朝に常温の水を飲むと健康に良いって筋肉の中山さんが言ってた気がする。銀細工ナイズドされた俺の身体に恩恵があるかは知らないが、ともかく清々しい朝にレノの聖水は最高にキマるのだ。実際、聖水には心身を癒やす効果が確認されてる訳で、とにかく毎朝の聖水は大事なルーティンなのである。
「いいですよ、その調子です。今日もリキタカさんの内勁はお元気ですね。あっちのほうも銀々か? ふへへ」
本格的に動き出す前に、武術ガチ勢は中庭で朝練。気分的には夏休みのラジオ体操だ。
で、その後はサウナに入って汗を流し、サッと水を浴びて身を引き締める。
上も下もスッキリだ。今日も一日がんばるぞい。
「野菜切り終わったのじゃ。主様、朝食出してほしいのじゃ」
「ッケイ! アイテムボックス! オープン!」
「おぉ、春野菜がこんなに。野菜を生で食べられるなんて二重の意味で新鮮ですよねぇ」
朝練後、ダイニングに集まって朝食。俺は収納魔法から昨夜作った料理を出し、皿に盛って配膳する。
夜作って朝食べる、アイテムボックス持ちにのみ許された異世界ライフハックだ。出来立てを保存できるあたりマジでファンタジー舐めんな地球である。
「ん~! ホントに驚きですね! 火を通してない野菜がこうも美味しいなんて!」
「なんもかけてねぇのすげぇッスね。あー、チーズのソースはどこッスか?」
「ここじゃ。にしても、今後の事を考えたらもう一人くらい料理役が増えて欲しいのぅ」
「ん、ワタシが作ると何故か不味くなる不思議」
「煮る! 焼く! くらいならできるぜ! 味は素材のままだけどな!」
「怒らないでくださいね? それを料理と言うなんてバカみたいじゃないですか」
「安心なさいイリハ。どうせすぐに新しい娘が増えるわ」
朝だというのに、机の上には宴会もかくやという程のご馳走が並んでいる。全体的に塩油控えめの健康志向飯ではあるが、量は完全にフードファイターだった。
房中術の効果に加え、銀細工ナイズドされた身体は闘争と食事を求めるのだ。俺の場合は純淫魔契約の影響で食えば食うだけ魔力に変わるしな。あと日本にいた頃と違って朝怠くないってのが地味にデカい。
「すまんな、お先失礼するぜ。もうちょい屈んで……ちゅっ♡」
「シャロさんの護衛はおまかせください。ん……ちゅ♡」
行ってきますのキスをして、シャロとユゥリンは一足先に家を出た。
本日、シャロにはルーン関連のお仕事があるのだ。ユゥリンはその護衛である。
「いてきまー」
軽く家を掃除などして、いつものように武装する。俺も皆も首に冒険者証を下げ、転移神殿に向かうべく家を出た。
皆の装備はいつも通りだが、俺の装備はおニューである。前より派手でまだ慣れないが、そのうち馴染んでくれるはず。
「あ、どうも。お腹治ったんですね」
「おう、医者が言うにゃ腹ん中に穴が空いてたらしい。治癒も魔法薬も高ぇんで、大人しく薬飲んで寝てたよ」
転移神殿に到着し、受付おじさんに鍛錬場使用の手続きをしてもらう。
現在の第一目標は皆の冒険者位階を上げる事だが、その為にも戦いの勘を取り戻さないとな。で、その前段階として鍛錬をしなければ。
「おはようございます。リカルトさん」
「おぅイシグロか! 久しぶりだな、おい! お前等も奴隷証なくなっちまってまぁ! 新婚なのにすぐ迷宮潜んのかい?」
「今日は鍛錬場ッスよ。尖兵戦で鈍った腕を直さねぇと」
「ほぉん? あーそうだ。ニーナさん戻ってねぇんだけど。どこ行ったか知らない?」
「旅行の続きするって聞いてますよ。グレモリアさんもここ三年くらい働きっぱなしだったらしくて」
顔見知りの冒険者に挨拶した後、鍛錬場の転移石板を操作する。
ATMみたいな石板に手を置いて、格ゲーのステージ選択のように転移先を選ぶ。気分を変える為に、今回は草原マップにしようかな。
そんで俺達は青白い粒子に包まれた。
「さて、どこまで進んでたっけな」
草原エリアに転移して、俺は収納魔法から手作りのトレーニングメニューを取り出した。
普段、俺達は基礎トレの他にスキルの習熟や模擬戦などをやっている。ここ最近は俺経由で能動スキルの習得をする為に反復練習などを主にやっていた。
「まだまだ覚えてない事があるわね……」
「な~んかわしだけ必須スキル多くないかのぅ?」
「俺が剣系スキル沢山覚えてるからね」
役割に関わらず、立ち回り系のスキルは使い勝手がいいのだ。なので皆にも覚えてもらう。
やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、そんで最後に褒めまくる。集団で練習する光景はさながら運動部のようであった。
「俺も頑張らないとなっと」
皆がスキル習得の反復練習をしている傍ら、俺は俺で鍛錬である。
左の腰から真新しい直剣を引き抜き、何となく剣身を眺めてみた。
質実剛健の体現といった無銘と異なり、俺の新たなる剣は刃物らしい輝きを放っていた。
無銘の跡継ぎは、何というか“聖剣”って感じのデザインである。
厳密に言うと形だけの聖剣というか、聖剣レプリカというか。かといってパチモン感はなく、素人目にも大業物って雰囲気が伝わってくる。
刃渡りに関しては、無銘よりも明らかに長かった。前世地球で言うと片手半剣とか短めの両手剣にあたるだろうか。また、その剣身には無銘ほどの厚みや幅はなく、重さだけが無銘の倍に迫っていた。無論のこと、俺はソレを片手で振り回せる。
けれども、その中身は無銘以上にマジのガチである。
◆黎明のルーンソード◆
物理攻撃力:1000
補助効果1:弱点特効(大)
補助効果2:会心特効(大)
補助効果3:会心補正(大)
補助効果4:無防備特効(大)
補助効果5:魔法装填(武器の呼び出し)
補助効果6:自動修復
補助効果7:大ルーン【不壊】
補助効果8:小ルーン【堅牢】
補助効果9:小ルーン【調和】
見た目は様変わりしているが、性能に関しては無銘ロンソの純粋強化版だ。
この剣の製作には、ドワルフが選抜した職人集団に加えてシャロ率いるルーンチームと第三王子専属の魔工師達が関わっているらしい。
ゾッとするほど美しい刃は、リンジュ刀工による伝統的鍛冶技術とぶちぬき丸にも使われた鉱深鍛冶のハイブリッドによるものだ。これにより、重くて堅くて鋭くなった訳である。
補助効果カウンター威力の強みは健在で、カタログスペックには載っていない基礎性能も最上級。金剛鉄メインだった無銘と異なり、この剣に使われた合金は煉獄や発勁とも相性が良いのでカウンターに頼らず火力を出す事も可能になった。
仕上げにシャロ手ずからルーンを刻んでもらって完成である。なお、ここで失敗したら最初からやり直しだったそうだ。
総じて、無銘の後継に相応しい総合力の高い剣と言えるだろう。
ネーミングについては結構悩んだ。“無銘・改”とか“無銘弐式”とかにしようと思ったが、俺にとって無銘は特別な意味を持っているので、思い切って別のにした。
考えても思いつかなかったので、早朝に完成したというエピソードから“黎明のルーンソード”に決定した。実際、どことなくルーンソードって見てくれしてるしな。
ドワルフにお勧めされた通り、防具も新調した。
これに関しては特筆すべき点はない。見た目は以前よりちょっぴりヒロイックになった革の鎧で、性能は多少魔力適性を上げただけでそんなに変わらない。
相変わらず動きやすいし、オールシーズン着れる素晴らしい防具だ。あと地味に補助効果で魔力の回復を促進してくれるので、純淫魔契約者の俺に最適化されてもいるか。
「ぅぅ~……はっ!」
そんな剣と鎧を装備し、ヴィーカさんに倣った型稽古を行う。
これは一撃威力を重視したもので、俺に足りない通常攻撃の貧弱さをカバーしてくれる型だ。
黎明は発勁の通りが良いので、溜め攻撃を通常攻撃のノリで使えるのも凄くいいね。ていうか、教わったこの型は発勁とのシナジーを勘案した結果のように思える。
「ふんっ、はぁ! いやぁッ!」
そして、心で感じ取る。黎明のルーンソードは振ってて楽しい剣だった。
最近の無銘はオモチャのアルミ剣のようだったが、黎明はちゃんと剣を振っているという感覚があるのだ。それだけ俺の膂力が上昇したのである。
「おっ、やっと出来たっぽいのじゃ! 主様見てくれんかの~!」
そうこうしていると、イリハが新しいスキルを習得したようだ。
彼女が新規に覚えたのは【凩】という攻撃系能動スキルで、“侍”ジョブで習得できる刀専用の吹き飛ばし技だ。
既に【受け流し】を覚えたイリハである。普通ならカウンター戦法に合ったクリ特化技でいいだろうに、何故わざわざ吹き飛ばし技を? 普通に高威力技のが良くね? 理由は簡単、イリハの刀でソレをするのは聊か以上に非効率だからである。
というのも、彼女の愛刀である“綾景之太刀”は会心依存の刀カテゴリーにも拘わらず物理会心が乗らないクソ仕様なのである。カウンター陰陽術はカス威力しか出んし、ならもう有利状況を作る為の吹き飛ばし技でええやろと。発勁プラスしたら吹き飛ばしに補正入るしな。
俺視点でクソ技判定してたスキルも、使い手次第で化けるし使える。俺のやってきた寄り道レベリングも無駄じゃなかったと思えるね。
「スキル覚えて強くなるのは実感できるんじゃが、圏外であれだけ戦った割には強くなった気がせんのぅ」
「レベルは上がってないからなぁ」
イリハの言う通り、残念ながらここ数ヵ月彼女のレベルは全く上がっていない。いくらレベルが上がりにくい最上位職とはいえ、尖兵相手にああも戦ったのに一度もレベルアップしなかったのである。
それはイリハだけではなく、ルクスリリア達も同様だった。そこで唯一レベルアップしたのが俺の“迷宮狂い”であり、お陰で一党員枠を一個増やす事はできた。
まぁ、その理由は何となく察しがつく。
仮説一。圏外で得た経験値が砦にいた人に分配された。
仮説二。そもそも圏外の魔物は獲得経験値が低いから。
こんなところではないだろうか。少なくとも仮説二はほぼ確定みたいなとこあるし、そこに最上位職のレベリング難易度も相まってといったところだろう。
「やっぱレベリングは迷宮でって事かね」
「それっぽいのぅ。生き急ぐ事も死に急ぐ事もないが、苦労の割にはって思っちゃうのは仕方ないのじゃ」
スキルを覚えたら、とりまノルマ達成である。
レベル上げもスキル習得も、一歩ずつ着実にだ。
「ところで、銀細工になって二つ名がつけば、ボク達にも新しいジョブが生えてくるのでしょうか?」
「その可能性はあるわね。まぁギルドが付けた二つ名がそのまま使われるという訳ではないのでしょうけれど」
腹時計で午前の鍛錬は終了し、そのまま鍛錬場に残ってお弁当を食べていると、ミートパイを食べていたグーラがそう切り出した。
彼女が言っているのは二つ名由来の特殊最上位職の事だろう。これまで考えなくは無かったが、獲得条件が不明だったので俺からは何ともって感じだが。
「二つ名かぁ。アタシ等はどんなのになんスかね?」
「ご主人様の“黒剣”みたいなカッコいい二つ名がいいです」
「それ世間じゃ否寄りの賛否両論なんじゃよなぁ。悪くないけど、色と愛用武器の組み合わせは昔からよくおったというか。実際何人かおったらしいぞ、黒剣って二つ名の冒険者」
「ん、マスターの伴侶に相応しい二つ名で然るべき」
「そう思うと、あまり変なものは付けられたくないわね……」
俺の“迷宮狂い”はともかくとして、皆に二つ名的なものが付けば固有ジョブが生えて来る可能性は充分にある。
実際、ニーナさんのジョブは“風舞”で、二つ名そのままだった。一方、前見せてもらったゲルトラウデ師匠のジョブは“無月竜”で、これは現役時代の二つ名ではないらしい。ユゥリンなんかは上位職の時点で嵐極拳系の特殊ジョブだった訳で。
こういう固有ジョブは、通常のジョブより全体的に高性能な傾向にある。強さを求めるなら、彼女達もそっちに乗り換えるべきだろう。効率厨的には可能な限り迅速に。
「それはそれとして、俺はまだ育ててないジョブ埋めときたいんだよなぁ」
「アナタが新しいスキルを覚えたら、私達に還元できるものね」
「エリーゼまでご主人思考に毒されてるッス」
「失礼ね。戦闘者として当然の考え方よ」
紆余曲折あって最上位職に至った俺だが、まだまだ埋めていない上中下職は存在する。
魔法使い系を筆頭に、武器ごと役割ごと特化ジョブは放置しているのだ。俺は若干魔力関連がヘタッてるので、いつかそのへんもカバーしたいところ。
人間だった頃と違い、今の俺は純淫魔契約者。半分魔族なのである。そんなら魔力なんてナンボあってもええのでね。この世界、特化型より万能型のが強いのだ、多分。
「まぁそのへんは後回しでええじゃろ」
「確かに優先順位を変える程ではないな。最上位職の方は今考えても仕方ないし、出来る事と言えばお祈りくらい……いや希望は出せるんだっけ?」
「ニーナさんからは、特別な理由がない限りそのまま通る確率が高いと聞いています。もし銀細工昇格のお話しが来たら、ぜひお願いしたいですね」
「グーラはどんなんにしたいんスか? やっぱ勇者系の?」
色々考えたりしたけど、やっぱり最初は皆の身分を上げるのが最優先だな。
戦う為に生きてるのではなく、生きる為に戦ってんだからな。
うん、やっぱこういう会話楽しいわ。
〇
地球で言うおやつタイムくらいの時間帯。鍛錬もそこそこに転移神殿を出た俺達は、王都西区の商店街で今日明日の分のお買い物。
俺を含め、我が家には八人の成人が住んでいる。八人の、成人が住んでいるのだ。で、皆さん漏れなく銀細工級のフィジカルをお持ちなので、異世界法則的にまぁまぁ健啖家でいらっしゃる。
武士は食わねど高楊枝とは言いますが、腹が減ってはハクスラできぬ。俺達の腹を満たすには相応の食材を買う必要ってのがあるのだ。
「ん? シャロとユゥリンは家にいるみたいだな」
買い物後、ふと仲間の居場所を見てみれば、既にシャロとユゥリンは帰宅しているようだった。
こういう時、変に警戒してしまうのは気にしいなのかどうなのか。
「ただいま。早いな、何かあったのか?」
「おかえりです、皆さん。それがですね聞いてくださいよ、いざ指定場所に行ったら……」
なんて考えつつ家に帰ると、二人ともご無事でご安心。シャロはダイニングで本を広げてお勉強。ユゥリンは夕食の用意をしていた。
曰く、会議の場所に行ったら重要メンバーの一人が来てなくて大して会議は進まず踊り、ぐだぐだになって解散したらしい。せっかく良い服着てったのに後日もう一回となって無駄足だったとムカついてるそうだ。
「ふむ、もう殆ど終わっておるな。さっさと仕上げておくかの」
「いえいえ、ここはワタシにお任せください。イリハさんは休んでて、どうぞ」
「そうかのぅ? ん~、じゃあその間何しようかの~。特に思いつかんの~」
「なら、お茶を淹れてちょうだいな」
「ん、水なら天使に任せるべき。ポットはどこ?」
夕食はユゥリンが作ってくれるとの事で、それまでは自由時間である。
エリーゼとグーラは紅茶を飲みつつ本を読み始め、イリハは安楽椅子で編み物をしていた。レノはアトリエに絵を描きに向かい、シャロは未だ勉強に集中している。うん、大家族って感じ。
「オラ♡ とっとと出せッス♡ 全部出せ♡ トレーニング中にチラチラ見てたの気づいてたんッスからね♡」
ルクスリリアはおやつタイムだ。俺は俺で剣以外の型稽古でもやろうと思ってたが、お腹を空かせた淫魔に捕まったのである。
そういえば、淫魔って任意のタイミングで懐妊できるんだよな。なんか体内にプールしている精を消費して子供を作るらしい。ルクスリリア曰く、妊娠に必要な精は俺と出会って数日で達成したという。
要するに、ルクスリリアは産もうと思えば産めるのだ。よく分からんがソレには溜め込んだ精の上澄みだけを使うそうで、そうして生まれて来る子は確定で強い子になるらしい。
まぁ無事に生まれて元気に育ってくれるのが一番だ。俺みたいな奴に子育てが出来るだろうかと思わんではないが、どれだけ頑張ってもなるようにしかならない気がする。自信ないなりに、精一杯頑張ろう。
「ヘイラッシャイ! ネタはいっぱい用意してますよ! 中トロ大トロ背トロ腹トロ、たたきも勿論ありますよ! 淫魔ウナギにアナゴにタマゴ! カニエビ焙り貝とかそのへんも! こっちはツナマヨでこっちは牛肉! さぁさぁ好きなもん巻いちゃってください! あ、もちろんワタシが巻いたりするのもバッチコイですよ!」
「わぁ……! これは凄いですね……!」
「テンション高ぇなオイ」
「寿司が絡むとおかしくなんだよなぁユゥの字は」
そんなこんな、抜かずに抜いて夜ご飯。
ダイニングテーブルには、リンジュヒノキ製の飯台――底の浅い木製タライみたいなもの――が二つも置かれ、中にはキラキラ輝く酢飯が敷き詰められている。飯台の周囲には紙のりを筆頭に刺身やタマゴや淫魔牛のそぼろ煮など、種々様々な寿司ネタが置かれていた。
そう、本日の夕飯は手巻き寿司なのである。ユゥリンさんは気合の入った純白の寿司職人スタイルだ。麒麟の……寿司屋!
「こういうの懐かしいなぁ。弟に巻いてやってたっけ」
「見てみてご主人! スーパー淫魔巻きッス! こんなん突っ込まれたら太すぎて顎外れるッスよ!」
「そうね……これと、これで巻いてちょうだい」
「かしこまり! リンジュの人が言ってたんですけど、寿司職人の腕前はキュウリ巻食べたら分かるらしいですねぇ」
「ん、自分で巻けばいいのに。そっちのが効率的」
「やってもらいたい人がいて、やってあげたい人がいるんじゃし別にええじゃろ」
「なんか工作みたいで面白ぇな。おっと、醤油取ってくれ」
「もごもご……ごくん。はい、どうぞ」
巻きますか巻きませんかってな塩梅で、特に何の記念日という訳でもないが賑やかで楽しい夕食だ。
ルクスリリアは何とは言わんが凄い形の作ってるし、エリーゼとユゥリンはベストマッチ。イリハとレノは一つ一つ丁寧に巻いていて、グーラはグーラで黙々と巻いては食べてを繰り返している。こういう事も、いつか子供達と一緒にやりたいな。きっと楽しいだろうな。
「でよぉ、何かアタイが木札だからって絡んできたらしくてよぉ。なんでこう冒険者ってなぁ喧嘩が好きなのかねって思ったワケ」
「どこの国でも弱い奴ほどイキり散らかすんですよ。もちろんワタシが制裁しましたよ、拳で」
「それはいいが、まぁ無事で何よりだな」
食事中、本日の帰路にシャロ達が絡まれたという話を聞かされた。
そういうの聞くと、やっぱ早急に冒険者位階を上げるべきだと思える。とにもかくにも木札は卒業しないと。
「位階を上げるのは、これまで通り潜る感じでしょうか?」
「それが安パイだと思うが……」
「面倒ならもうギルド長に直談判するとかどうッスか? ご主人相手ならヘコヘコすると思うッスよ。あ、腰じゃなくて頭ッスよ?」
「ん、ヘコヘコ?」
「そういうのはちょっと……。うぅ~ん、手っ取り早く上がる方法ないかなぁ」
「なら、最上位迷宮を潜るというのはどうかしら?」
と、ここでエリーゼから一言。
その発言に、皆の注目が彼女に集まった。
「最上位迷宮。そういえばそんなんあったな……」
この世界の迷宮には、四つのランクが存在する。
最も簡単な下位迷宮、玉石混交な中位迷宮、例外なく高難易度な上位迷宮。
そして、ピラミッドの外側に位置する最上位迷宮。
最上位迷宮と言えば、数年に誰か一度潜るかどうかという位置づけの迷宮である。
その仕様は解明されておらず、色々と謎の多い迷宮だ。二回以上潜った生還者の証言によると、潜る度にあらゆる仕様が変化し、そして踏破するまで帰還できないらしい。
「ボクは悪くないと思いますね。以前、機球迷宮に潜った際は終始順調でしたので、まぁ特に問題はないかと」
「自信満々ッスね」
「最上位迷宮って、お前さんマジのガチでやる気か? 確かめちゃんこヤベーんだろ、そこぁ」
「安パイ志向のリキタカさんらしくはないような、いや別にそうでもないような……?」
「ふぅむ……」
前に結論付けた通り、この世界で生きるのに最も重要な強さとはつまり、あらゆる状況に適応できる能力であると思う次第。
ステータスアップは既存迷宮で何とでもなるが、適応力を磨くには未知の敵との実戦経験が必須である。それを考えれば、新しい迷宮が生えてくるのを待つより最上位迷宮に潜るのが手っ取り早い気がする。
とはいえ。最上位迷宮の難易度は相当なものである。ブイブイ言わせてた銀細工オンリー一党が潜って帰ってこないなんてザラらしいし、突破したのもごく少数。記録によれば去年も一昨年も踏破者は出ておらず、未帰還者が一組か二組か……。
確か、歴代の踏破者の中にはアリエルさんとかナターリアさんがいたはずだ。いや、逆に言うとナターリアさんが突破できるなら問題ないのか。
それはそれとして、そこまで急ぐ必要もないって感じもなくはないんだよな。普通に上位迷宮周回するだけですぐ銀細工もらえると思うし……。
「皆はどう思う?」
ともかく、報告・連絡・相談だ。
結婚前も結婚後も、これを怠るべきではないだろう。
そんで、各々の答えはこのようなものであった。
「私は賛成。というか、是非行きたいわ。新しい杖の試射もしたいところね」
エリーゼとグーラとユゥリンの三名は賛成だった。
その理由は三人それぞれで異なっていた。エリーゼは好戦的な興味、グーラは効率、ユゥリンは俺達一党が未帰還のビジョンが見えないから。
「どっちでもいいッス。そう急ぐ理由はないッスし、かといって拒否る理由もないというか~ッスね」
ルクスリリアとレノはどっちでもいい派だ。
潜る事自体は嫌ではないが、それはそれとして早急な身分の上昇にはそんな興味ないって感じ。
「アタイはパスだな。連れてってくれる時は中位とかにしてくれ」
他方、シャーロットは拒否派だ。だが、俺達が潜る事に反対する気はないという。彼女は自分の戦闘力をしっかりと認識しているのだ。
で、引き続き食後のリラックスタイムでも検討した結果……。
「同意とみてよろしいですね? じゃ、行くか! 最上位迷宮!」
「楽しみですね……! 実はボク、早く二つ名が欲しくてですね。えへへ……」
「まぁそんなんだろうな~って思ってたッスよ」
「もし変なのを付けられたら草薙名義で正式に抗議しましょう」
「ん、その前に情報収集。古い記録も調べるべき」
「じゃな。何じゃったか、勇気で何とかなるまで準備を頑張るのじゃ」
そういう事になった。
勿論、油断せずに行こう精神は忘れずに。
当然、人事も尽くすがね。
最上位迷宮。
戦闘狂のつもりはないが、何だかんだ楽しみである。
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