【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。感謝です。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。レギュレーションは順守で頼むぜ。
今回も一人称です。よろしくお願いします。
皆を銀細工に昇格させる為、最上位迷宮を踏破する。
多分これが一番早いと思います。
冒険者位階の昇格にあたっては一応人品も審査されるらしいが、基本的には強さが第一優先事項であるらしい。
そして、その強さは迷宮踏破数や踏破した迷宮の難易度によって証明される。要するに、下位迷宮を連チャンするより上位迷宮を一回踏破する方が評価されるのだ。
異世界転移一年目、俺は冒険者登録をしてすぐに銀細工になった。何故ならば、単独で中位迷宮に潜りまくっていたからだ。しかも武装はノービスレベル。今にして思うと凄まじく危ない事やってるな。誰か止めてやれよ。お陰で銀細工授与の最速記録を叩き出す事ができた訳だが。
単独だった俺のケースは置いといて、実際にユゥリンは三人一党で上位迷宮を潜りまくってスピード出世できたのだ。位階昇格RTAのチャートとして、このルートには実績がある。
まぁ彼女の場合は嵐極拳の後継者ってのもあったし、鋼鉄札昇格の際は昇格試験的なのを受けたんだけども。その点で言うなら、ルクスリリア達は奴隷時代からこっち俺と一緒に潜り続けてたのでその実力が疑われる事はあるまい。
色々言ったが、結果で黙らせればいいだけである。この世界は力こそパワーなのだから。
最速昇格の為の最上位迷宮踏破。
勿論、最上位迷宮を潜る理由はそれだけではない。兼ねてから意識していた実戦経験を得るという目的もあるし、何より純粋に気になるのだ。
冒険の楽しさとはつまり、危険を冒す楽しさである。石橋を叩いて渡る俺らしくはないが、メリットがあるなら挑む次第。
ハクスラは止められねぇんだ。
「あぁ香しき本の匂い……やっぱり、ここに来ると高揚してしまいますね」
そんな訳で、俺達は王都西区にあるゼノン王立図書館にやってきた。
言わずもがな、最上位迷宮について調べる為である。神殿に保管してある記録は調査済みなので、もっと古い資料を閲覧しに参った次第。件の迷宮に挑む前に、出来得る事はやっておかねば。
「本持ってきたらここに集合な。迷ったらイリハの方に歩けばいいから。各員、散開」
「行ってらなのじゃ~」
大図書館のド真ん中、だだっ広い読書エリアから行動開始。イリハは集合場所で待機である。チートのお陰で仲間が何処にいるか分かるから、こういう時は待ち合わせ場所に使えるのだ。
何で別行動をしたかというと、この図書館は蔵書量が膨大で本の検索に時間がかかるからである。迷宮について調べるだけでも、ジャンルごとに細かく分かれているのだ。
俺も俺で珍しく単独行動である。一応皆よりデカい俺に本持ち役は要らないし、ちょっと遠いトコにあるマイナージャンルを捜しに行くので。
即ち、迷宮を中心とした歴史――迷宮史である。探索に役立つかどうかは読んでみなきゃ分からんが、そこにしか書かれてない記述があるかもしれないし、無いかもしれない。
階段上ってあっちこっち。件の棚は奥まった場所にあり、同じ歴史カテゴリーでも人気ジャンルの英雄史や建国記などの影に隠れているようだった。
先述の通り、ゼノン王立図書館はとっても広い。不人気コーナーにもなると棚の間隔も狭くなっててギュウギュウ詰めにされちゃってるし、魔導照明が届いてなくて結構暗い。というか本棚も異世界人のタッパに最適化されてるので、人によっては迷路のように感じるのではなかろうか。
だから、目印代わりにイリハを待機させる必要があったんですね。
「ん?」
なんて考えながら本棚の森を歩いていると、俺の鼻孔にロリの匂いが運ばれてきた。
ルクスリリア達ではない。耳を澄ませば悩ましげな息遣いが聞こえてきて、衣擦れの音も混じっていた。何となくだが、困っているような感じがする。
気配がした方に歩いていくと、そこには茶髪ミディアムボブでベレー帽を被った人間族の十代美少女の姿があった。
彼女は学生だった。女学生である。見た目的には女子中学生であった。何故分かるかというと、彼女は中央区にあるラリス大学の制服を着ていたからだ。俺は詳しいんだ。当然、皆の分も持っている。
「んっ、ん~……! とどかなっ、あとちょっと……!」
件のJC風JDは図書館はしごを使って本棚の上の方にある書籍を取ろうとしていたが、身長が低くて手が届かないようだった。
その時、俺に電流走る。古い図書館、欲しい本に手の届かない文学少女、それを取ってあげるという王道展開。今がその時なのではないか?
俺は首に下げていた銀細工をポッケにしまい、極力冒険者的オーラを消して近づいていった。
「失礼。代わりにお取りしましょうか?」
「えぁっ? あっ、きゃあ……!」
優しい声音を意識して声をかけると、ビックリしてしまったらしい少女がバランスを崩し、はしごから足を踏み外して落下してしまった。
ラッキースケベのチャンス……な訳があろうか。俺は収納魔法から冬用リンジュ布団を取り出し、落ちてきたロリをキャッチしつつ、片手で倒れかかってたはしごを支えた。手に伝わるのは彼女の体重のみ、肌の接触一切なし。実に紳士的な対応と言えよう。
「んぅ……はっ!? えっ? あぁすみません! すぐ退きます!」
「いえ、こちらこそ突然お声かけしてしまい、すみませんでした」
おろおろする彼女を立たせ、はしごを戻して布団を収納する。
近くで見て分かったが、この娘は見た目から何から気の弱そうな女の子だった。また、それほど裕福ではないらしく、制服のあちこちに縫い直した跡があった。あと微妙にサイズが合っていない。苦学生なのだろうか。
「どれが欲しいんですか? 代わりに取りますよ」
「え? あの何で……」
提案してから即行動、有無を言わせずはしごを登る。お節介をする際は多少強引に行った方がいいのだ。
「じゃ、じゃあ、その棚にある“クヴァーレの迷宮探索録”をお願いします……」
「わかりました。くー、くー、これか。はい、どうぞ」
「あ、はい……! それじゃ……!」
言われた通りに本を取り、ササッとスマートにはしごを降りる。件の古書を手渡すと、彼女はタタッと逃げ去った。怖がらせちゃったのかもしれない。
かと思ったら、さっきの足音が近づいてきて本棚の隙間からひょこっと頭を出してきた。
「あ、ありがとうございました……! あの、失礼します……!」
お礼言えて偉い。今度こそ、ロリ学生が去っていった。
彼女は本をゲットした。俺は胸がポカポカした。お互い嬉しいてハッピーハッピーやんケ。
「イシグロのやる気が上がった」
やらない善よりやる偽善……でいいのだろうか、今のは。ともかくとして自己満足した俺は、迷宮史の本を探すのであった。
良さげな本を選別しながら、さっきの子の事を思い返す。あの子が持っていったのは既に枯れた迷宮について書かれた本だった。ラリス大の学生だったし、何か課題に使うとかそういうのだろうか。
高卒の身からすると、頑張ってる学生は素直に応援したくなる。俺の分まで勉強してくれ。
「あら、何かいい事でもあったのかしら?」
「夢が一つ叶ったんだ」
本を手にして暫く後、待ち合わせ場所の読書スペースに到着。皆は既に集合しており、本の山の中腹では集中するグーラの姿があった。
幸い、我が一党は全員活字を苦としない。ルクスリリアもエロ文学を読みまくった影響で読書の習慣があるのだ。雨の日とかずっと本読んでるの普通にあるしな。我が家は。
「メモは遠慮せず使っていいよ。紙が足りなくなったら言ってくれ」
全員揃ったところで、それぞれ分担して気になった情報を纏めていく。まとめのまとめは最後だな。
俺は歴史書を開き、その隣にメモ紙とペンを置いた。ロリ学生を見てバフが入っていたのか、いつもより集中できる感じがした。
最初に手に取ったのは、“ラリス迷宮全史”というクッソ分厚い本だった。
迷宮史とはつまり、殆どラリス王国史と同義である。
太古の昔、現在のような迷宮は存在しなかった。当時の迷宮はウェルン島にあったような異境の事であり、勇者一党はそういう迷宮を探索し踏破していたのだ。歴史上、初めて転移石碑の記述が確認されたのは勇者アレクシオスの死後である。
曰く、当時の転移石碑は勇者一党の魔道賢者ゼノン女史が作ったものであり、世界初の迷宮踏破者もまた彼女であるらしい。
ゼノンはこの転移石碑を複製し、ラリス以外の国に配ったそうだ。けれども石碑の作成は彼女個人の才能に依存していたようで、早晩研究は頭打ちになったとか。ゼノン氏はそれくらいの天才であり、転移石碑はそれくらい高度な魔道具だったのだ。
古今東西、迷宮は莫大な利益を生み出す。聖遺物だけではなく、踏破時に得られる経験値もまた人類に多大な恩恵を齎した。
各国の勇士が迷宮に潜り、強くなって帰還したり帰還しなかったり。これにより異世界人全体の戦闘力が高くなり、血の継承によって少しずつ一般人も強靭になっていったのだ。
弱かった人類が、ただ逃げるしかできなかった一般人が、迷宮で強くなって魔物を倒せるようになったのである。こんなに素晴らしい事があろうか。
ゼノンがいなくなった後も、人類の快進撃は続いた。
拡大していく人類生存圏。開拓されていく領地。討伐されていく魔物。
まさに、人類の黄金期だった。
しかし、黄金期が長く続く訳もなし。順調だった人類は、突如として衰退を始めた。
そうだね、戦争だね。迷宮で強化された戦士を使い、世界中の国が転移石碑を奪い合うようになったのである。
なんたって、ゼノン死後は石碑を作れる人がいなくなっちゃった上、設計図があっても誰も複製できなかったというのだ。いつの時代も、どんな世界でも、人はリソースを奪い合う。
後に、“惨禍大戦”と呼ばれる戦争であった。
折しも当時は技術全盛期。あちらこちらで超兵器超技術が投入され、その被害は特異個体の魔物もかくやという程だった。
惨禍大戦では多くの国が消え、英雄が散り、人類生存圏の半分が焦土と化した。ちなみに、魔導人機はこの時代の兵器である。
最終的にはラリス王国が勝者となり、何とか人類絶滅を食い止める事ができた。
戦争は終結し、あとは立て直すのみ……とは、ならなかった。
ズタボロになった人類に、第二大災厄と称される“破滅の流星”が襲来したのである。
泣きっ面にハチどころではない。この一大事には世界中が大パニックに陥った。しかも、ラリス王家を除き既に災厄は伝説上のイベントになってたようで、ロクな対策をしてなかったというのだ。
で、だ。多大な犠牲を払って何とか突破。この時に古魔族の殆どが絶滅し、そんでまた人類生存圏が半分近く焼けちゃったのである。
惨禍大戦に続き、第二大災厄への対処。
その頃になると、ラリス王国を含め人類全体はズタボロを超えたズタボロだった。でもって魔導人機をはじめとした超技術の数々が闇に呑まれちゃったりして、人類全体の技術水準がガッツリ後退したのである。
以後の人類はラリス主導で結託し、焼け焦げた大地や枯れ果てた森の再生に励んだ。ラリスが実質的な世界警察となったのはこの時期からである。
今のままでは、次の災厄を越えられない。そう考えたラリス王家は、全身全霊で転移石碑の複製に挑んだ。英雄を量産し、人類ではなく人類の脅威と戦わせる為に。
やがて転移石碑の完全複製に成功したラリス王国は、生存圏再生の一環として王家の名の下“迷宮ギルド”を立ち上げた。その最初の拠点こそ、王都各区の転移神殿である。
現在、全ての転移石碑はラリス王国が管理している。
中にはゼノン手ずから作った石碑も残っていたりして、そのうちの一つが西区にある最上位迷宮行きの石碑である。
「……っと、危ない危ない。そうじゃないでしょって」
一から歴史を追っていたら、ついつい読みふけってしまった。掃除の時に古い漫画読んじゃうみたいな現象、あると思います。
歴史の振り返りはいいとして、最上位迷宮について書かれてるところをピックアップして書き留めねば。
「ご主人様、ちょっとよろしいですか?」
「ん? おぉ……!」
そう思った時、声をかけられる。見ればグーラが紙束を手渡してきた。
本の山が移動している。どうやら全て読んだらしい。俺は歴史書を閉じ、グーラズレポートを読ませてもらった。
グーラのメモ書きは簡潔だった。ぶっちゃけこれ一つでいいんじゃないかなというくらいに。このメモガキがよぉ(褒め言葉)
以前から知ってた通り、最上位迷宮は潜る度にその仕様を変える。具体的にどれくらい変わるのか、グーラのメモにはその例が載っていたのだ。
例えば、ひたすら迷路を歩き続け、ボスらしいボスと戦わずにクリアしたパターンとか。
例えば、迷宮内にある全ての祭壇に火を点けて回るパターンとか。
例えば、一人一人が舞台に上がってボスとタイマン勝負をするパターンとか。
で、これらは全体的に長期戦になる事が多く、中には食糧不足で仲間が死んだ一党もあったそうである。
中には、飢えに耐えかねて迷宮に自生してた果物を食った冒険者が魔物に変身したという記録なんかもあった。通常、迷宮内のものを食うと発狂死するらしいので、これまた仕様が異なっている。
最上位の迷宮と言いつつ、ハック&スラッシュが主な通常の迷宮とは根本からしてシステムが異なっているようだった。
「いいねぇ……!」
そんな感じで纏められた情報を確認していくと、我知らず俺の口角は上がっていた。
素直にいいねぇ、である。命懸けなのはその通りだが、それはそれとして大型アプデで新しいゲームコンテンツが実装されたようなワクワクが湧いてきたのである。
「じゃあ、これらを踏まえて対策を立ててこうか」
「あいッス! 考えるのはよろしくッス!」
「や、ルクスリリアも考える」
気づけば夕方になっていたので、本を返して帰宅。遅れて帰ってきたシャロに対策用アイテムの作成を依頼した。
そんで翌日、俺達は朝から市場に行って最上位迷宮に必要なアイテムを買い込んでいった。
調べてみて分かったのは、事前の準備が大切って事だ。人事は尽くして然るべき、そうすべき。
「美味しい保存食は必須ですよね。飢餓を誘発してくる魔物がいたら大惨事ですし」
「でも主様の収納魔法なら出来立てを食べられるのじゃ」
「だとしても一人に荷物を任せるのは良くないわ」
「ん、最悪イリハ以外どうにでもなる。天使は日光があれば無事だし、魔族は魔力があれば大丈夫」
「ボクは魔族ですが、一食でも抜くと餓死する自信がありますよ」
「冗談とは思えねぇッス!」
お馴染み王都の商店街、お喋りしながら買い込む買い込む。
アイテム持ち込み問題に関しては、俺の収納魔法が全てを解決する。やろうと思えば事前に作っておいた飯を持ち込む事だってできるのだ。
が、それに頼り切るのはよろしくない。離れ離れになった時の対策もしておかないと。まぁ仮にバラけてもチートで何処に誰がいるか分かるんですけどね。
勿論、チートが使えない事態も想定しておく。その為に、現在進行形でシャロに異能封じを封じるルーンアイテムを作ってもらっているのだ。
「こ、これは……?」
「おう兄ちゃん良い目してんじゃねぇか! こいつぁ最新式の焜炉さ! こんなに小さくなってんのに火の強さは全く同じなんだぜ!」
サバイバルに便利かなと、野外で使える魔道具も見ていった。
魔道具屋の店主によると最近は魔道具の発展著しく、性能据え置きで小型化に成功しているそうだ。
いいね、こういうの好き。俺は買ってそんなに使ってない野外魔道具を下取りに出し、最新式のを買っちった。男ってのはね、最新家電を渡しとけば喜ぶんだよ。
「テントは……前のでいいか。元々六人用だしな」
「あの時に入れてもらった天幕ですよね。懐かしいです。今でも覚えていますよ」
「ん、あと最低限の予備武器が必要。武器破壊特化の魔物が出たらどうしようもない」
「偽物が出た時の為に合言葉も決めておきましょう」
食糧を買い、サバイバル用品を買い、最新魔道具を買い。
家に帰ったら迷宮のしおりを書き、皆で迷宮で食べる用の飯を作り、皆用の荷物入れに入れるアイテムを選別したり。
まるで遠足のようであった。
準備は念入りに、シャロがチート封じ封じのアイテムを作り終えるまで、以降はひたすらに鍛錬を続ける。
鍛錬場で新スキルを習得し、前哨戦として水晶迷宮を潜り、勝負をしかけてきた新人冒険者をわからせたりもした。
「ようイシグロ、今年の春はずいぶんと大人しいじゃねぇか。結婚して日和っちまったか? がははっ」
腹を壊したと聞いていたが、何かいい事でもあったのか受付おじさんは元気そうだ。
未だに王都には尖兵戦突破の浮かれ気分が漂っており、いつも通りに見える迷宮ギルドも心なしか雰囲気が明るかった。あるいは受付おじさんも浮かれてるのかもしれないな。
「ふぃ~、やっと出来たぞ。言っとくが、防げるのは一回だけで、発動したら壊れちまうからな。要するに、異能を封じる感じの攻撃を一回だけ肩代わりしてくれるって話だ」
シャロ謹製ルーンアイテムの完成をもって、全ての準備が整った。
人事は尽くした。あとは勇気で何とかするだけだ。
「皆、油断せずに行こう」
「あいッス!」
早朝、俺達は転移神殿にやってきた。
大英博物館とノートルダム大聖堂を合体させたような転移神殿の中は、さながらドーム球場のようになっている。神殿の中心には転移石碑が並んでいるエリアがあり、その上には採光クリスタルがぶら下がっていた。
等間隔に石碑が並ぶ円。各々荷物を持って完全武装した俺達は、その真ん中に向かっていった。
「ん、これが最上位迷宮……」
「ゼノン様がお作りになったんですよね。まだ残っているなんて、凄いです……」
そこに、最上位迷宮へ繋がる転移石碑があった。
それは他の石碑よりちょっと豪華で、縁が僅かに欠けている。西区に一つしかない転移神殿は、偉人が手ずから作りたもうた聖なる遺物であった。
今から、何が起こるか分からない転移神殿に挑むのだ。緊張半分、ワクワク半分といったところ。
「ん?」
ふと周りを見てみれば、なんか神殿が静かになっていた。
するとどうだ、さっきまで騒がしかった冒険者達が一斉に俺達を見ているじゃないの。受付おじさんなんかポカンと口を開けている。
最上位迷宮に潜るのに事前の申請は要らないはずである。でも、なんか言っといた方がいいのかな。
「あー、行ってきます」
視線から逃れるように、俺達は未知なる最上位迷宮に転移した。
あぁ~、締まらねぇぜ。
〇
転移の感覚はエレベーターが停止した時に似ている。
慣れた感覚だった。サッと粒子になった直後にいつもの浮遊感があり、瞼を開けると世界が切り替わるのだ。
そして、全身に風を感じ……って!
「落ちてるゥウウウッ!」
まさかの落下スタートである。
風を切り裂く轟音が耳朶に響く。視界全体はオレンジ色で、夕方、黄昏、逢魔が時である。眼下の雲を通り過ぎ、見渡す限り一面に森が広がっていた。
飛行能力のない一党ならこの時点で詰む気がするんですが、それは大丈夫なんですかね。俺はロリコンだが問題児の自覚はない。早く何とかせねば。
「ご主人様! 鎖を伸ばします!」
「分かった! レノもよろしく!」
「んっ、了解!」
幸い、皆も近くで揃って落ちていた。落ち切る前に合流すべく、離れないようグーラの鎖で繋いでもらう。手を繋いで輪になると科学の忍法とか使えそうな構図になった。
「これは壮観ですね! 風が気持ちいです!」
「言っとる場合かぁ!」
「そう焦る事もないでしょう? その気になれば飛べるのだし」
「ん、ちょうどいいところに湖がある! あそこに!」
「だな。ルクスリリア、ラザニア出してくれ」
「了解ッス! 出ろぉ、ラザニアァーッ!」
ルクスリリアが大鎌を掲げ、翼あるヘラジカを召喚した。次いで惑わず跨ったルクスリリアに、グーラの鎖を繋いで集団ウェイクボードを敢行する。
着陸予定地は湖の周辺だ。垂直落下から斜め方向へ、ゆっくり弧を描いて高度を下げていく。やがてウォータースプレーを発生させつつ湖面に並行飛行して、湖のほとりにフワッと着地。バシャーッと、背後の湖に雨が降った。
なかなかのレジャー体験である。これをアトラクションにしたら金取れるんじゃないだろうか。少なくとも俺はもう一回やりたいゾ。
「ふぅ~、何とかなりましたね。ラザニアがいてよかったです」
「グーラ、あいことばあいことば」
「あ、はい。さぁ始まるザマスよ」
「いくでガンス!」
「ふんがぁ~」
「マトモに始めなさいよ。本当にやるのね……」
「わし、余っとるじゃろ」
偽物じゃないよと合言葉を言い合いつつ、状況と仕様の確認を行う。
コンソールは起動できる。収納魔法も大丈夫だ。失くした物もないし、魔力や氣の流れにも変化はない。
今回皆には荷物を持たせているので、その中身も軽く確認してもらう。グーラは迷宮で出会いを求めそうなサポーターリュックだ。
「どんな感じに見える?」
「迷宮全体に魔力がフワフワと浮いているわ。不自然なくらい」
「同じじゃ。氣もおかしなくらい風に吹かれておる。生命力に満ちておるんじゃな」
「ん、光力の回復はない。あの太陽は偽物」
観測班の意見を聞いて、今一度周囲を見渡してみる。
湖の周囲には背の高い木や草が生い茂っていた。上から見た時は普通の日本の森っぽかったが、実際降りてみると木といい草といい通常よりも遥かに大きい。湖に関しても琵琶湖くらいありそうだ。頭上には夕焼け空。平均身長の高い森のせいで既に辺りは赤黒い闇に包まれている。
うん、いつものダークファンタジーで安心した。
「ご主人! 上! 空! 暗くなってるッス!」
ルクスリリアが空を指差す。上を見ると、件の夕焼け空が徐々に徐々に暗くなっていた。
珍しい、空のエフェクトが変化するタイプの迷宮だ。緋が紫になって群青に、やがて夜に切り替わる。
次の瞬間、突如として遥か上空から光が差した。夜空の真ん中に、巨大な月が浮かびあがったのである。今にも落ちてきそうな巨大な満月が、太陽光のようにして青白い月光を降り注がせている。
昇らず浮かんだスーパームーン。どう考えても怪し過ぎる。時間経過で絶対なんかあるやつじゃん。
「ご主人様! お客さんが来たみたいです! 背嚢しまってもらってもいいですか?」
「だな。皆も荷物を俺に」
と思ったら案の定、敵味方反応レーダーに感あり。
いや感ありどころではない。突然、そう本当に突然に、レーダー上に大量の赤い光点が出現したのである。
遠くから足音が聞こえてくる。木々が揺れ、葉が落ち、森が騒ぐ。大量の敵が迫っていた。
「いち、にっ、さん……エンゲージ!」
バッガァアアアン! 俺達の最寄りの大樹が折られ、異世界版ヴェロキラトプスの群れがエントリーしてきた。否、ヴェロキラだけではない。種々様々なイセカイザウルスがいっぱい出たのである。
「さっそく戦いね。はい、私の荷物」
「ん、先制で一発入れる」
「わしは後ろで氣を練っとこうかの」
状況確認の途中だが恐竜だ。皆一斉に武器を構え、俺も腰の“黎明のルーンソード”を引き抜いた。静謐な剣身が月光を反射する。
バトル開始だ。いつものようにレノが魔物の弱点を撃ち抜き、エリーゼが殲滅し、ルクスリリアがかく乱する隙間からグーラが突っ込み暴れる暴れる。一ターン遅れてイリハの陰陽術が轟き、クソデカトリケラの突進を【受け流し】た俺が発勁カウンターを食らわせ殺す。
次々、着実に、何の問題もなく、イセカイザウルスが殲滅されていく。HPを失った恐竜は粒子に変換されていき、俺達の身体に吸収された。経験値ゲットだ。
「ん?」
が、違和感があった。いつもの経験値吸収と少し違うような。
状態異常? いやむしろ、これは……。
「なんか知らんバフ入ってるぞ!」
戦いの合間にコンソールを開いて確認すると、“蒼月の加護”なる謎のバフが一党全員に入っていた。その効果は……何も書いてないが、何となく能力全体が底上げされてるような。
「なんかアタシ等強くなってないッスか? 具体的に言うと支援魔法一回分くらい」
「よく分からんが倒せば倒すだけ強くなるらしい! どんどん倒そう!」
「了解したのじゃ! 殲滅陰陽術、いくのじゃーっ!」
「イリハストップ! 攻撃くるぞ!」
イリハが大規模陰陽術を使おうとした瞬間、狙っていたスピノサウルスの群れに別方向からビームが飛んできて、それらを一気に薙ぎ払っていった。一体なにごと?
倒された恐竜魔物が粒子に還る。その光は上へ昇り、風にさらわれるようにビームが撃たれた方向へ。そこにいた、最近図鑑に載ったばかりの魔物――ロボットモンスこと機球兵に吸い込まれて云ったではないか。
「なんで機球兵君がここに!?」
「魔物が仲間割れしてるッスよ!」
「乱戦ですね。湖で魚介系の魔物が暴れています」
気付いた頃には静かだった湖に色んな魔物が集まってきていて、それぞれで壮絶な殺し合いをしていた。
湖の向こうではイセカイザウルス軍と機球兵団が殴り合いしてて、アンデッド軍とスライム軍がノロノロネトネトやりあっている。湖の中では頭が二つある鮫と巨大な蛸が高圧水流を撃ち合い、空中ではワルキューレみたいな英霊鎧と空飛ぶスパゲティ魔物が激しい空中戦を繰り広げていた。
おいおいおい、これじゃあまるで……。
「バトロワじゃねーか!」
叫び、襲い掛かってきた魔物を一刀両断。そんで俺にバフが入る。倍率は不明だが、倒す度に効果が増しているような感じがあった。
「見て下さい!」
グーラが指し示した方、イセカイザウルス相手に無双していた機球兵が光に包まれていた。光が収まると、そのサイズがデカくなり、腕の数も増えていた。
中機球モンが進化して、大機球モンになったのだ。挿入歌流れてきそうな進化やめろ。
「レベルアップして進化した……ってコト!?」
進化した大型機球兵はイセカイザウルスに対して更なる攻撃を加えていった。ロボ優勢、ロボ優勢!
と思ったら、二足歩行の熊が機球兵のモノアイにダッシュパンチをして息の根を止め、その熊はピカッと進化して
「敵多すぎなのじゃ! これ事故る可能性あるじゃろ! 逃げた方がいいんじゃないかのぅ?」
どういう理由か、湖の戦場は激しさを増していた。流石に危ないから逃げるべきと進言するイリハ。
しかし、ここ逃げたら魔物が強化されていくだけでは? そのうちバフてんこ盛りになって手が付けられない怪物が生まれちゃう? これ、生き残り重視のバトロワというより、競争型ゼロサムゲームなのでは?
「いや、ここで叩こう! 放っておくと強化される! 殲滅するぞ! 気にせず戦え! 六人連携、行くぞ!」
「いいわね、燃えてきたじゃない……!」
落下スタートからのバトルロワイヤル。開始早々リソースの奪い合い。
あまり馴染みのないジャンルだが、やってやれない事はない。
何故なら、最終的に全員殺せばいいだけなのだ。こんなに楽なダンジョン無いぜ。
今宵の黎明は血に飢えておる。
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作者のやる気に繋がります。
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↓
・黄金期。人類生存圏が広がる
↓
・惨禍大戦。魔導人機他超兵器が人類生存圏の半分を焦土に変える
↓
・戦争終結後、すぐ第二大災厄“破滅の流星”襲来。何とか突破するもまた生存圏が焼かれ、全盛期の四分の一しか残ってない状況に
↓
・ラリスが転移石碑の複製に成功。強権を発動しまくり、生存圏再生プロジェクトを立ち上げる。迷宮ギルドを作り、冒険者から聖遺物を買い取る
↓
・第一次魔王戦争。第二次魔王戦争後、人類平和条約を結ぶ。以後はラリス一強時代に。
↓
・めっちゃ頑張って再生完了。人類生存圏を広げた。今ここ
※惨禍大戦と魔王戦争以外にも戦争は起こってます。基本的にラリスが勝利してましたが、魔王戦争の時はめっちゃ苦戦しました。