【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。感謝です。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
空を覆い尽くすような満月の下、大きな湖の周辺で激し過ぎる戦闘が繰り広げられていた。
月光に輝く湖面は絶えず浪打ち、時折盛大な水柱が上がってあちらこちらに雨を降らす。主級の魔物がザコ魔物の群れに押しつぶされたかと思えば、巨大進化に成功した魔物が小さな魔物を木っ端の如く薙ぎ払う。隠密魔物が巨大魔物に会心入れて一撃死させ、大金星の数秒後には大怪獣バトルの流れ弾で消滅していた。
ヒトも魔物も関係ない。見渡す限り敵ばかり。運が無ければ生き残れない。紛れもなく、此処はそういう戦場だった。
「合わせるぞ! ヘイパス!」
「そぉおおおおい! 敵将、珍しくアタシが討ち取ったりッスッ!」
「勝鬨はもう少し後ですよ。ひと当て行きます……!」
死のリスクが踊り狂う戦場にあって、我ら草薙の力は圧倒的だった。
俺達六人一党の連携はさながら一体の生き物のようであり、歴戦の突撃騎馬隊のようでもあった。捉えられぬよう動き回り、常に攻勢を維持し、阿吽の呼吸でサポートし合う。俺達の戦場生存術は先の尖兵戦で完成をみたのだ。
「今だエリーゼ!」
「
好機、真新しい杖を構えたエリーゼが【魔導極砲】を解き放つ。結果、近くで喧嘩していた主級魔物二体が同時に消滅した。
何をしたのか? 漁夫ったのだ。HPが見える俺がタイミングよく指示を出し、互いに死にかけだった喧嘩中の主級魔物を葬ったのである。
この迷宮の仕様について、ある程度戦ってみて分かった事がある。
敵を倒す度に加算される“蒼月の加護”なるバフは、これは耐久・生存に偏重したバフのようだった。主な効果は防御系支援魔法と殆ど同じだが、特筆すべきはその回復効果である。なんと、敵を倒したら倒した敵に与えたダメージ分回復するというのだ。
先述のバフ効果は魔物にも発動するようで、要するに縄張り争いに勝った魔物は元気になって即暴れるのである。だから、死にかけを漁夫る必要があったんですね。
「エリーゼもう一回もう一回!」
「ええ。この杖、【魔導極砲】を連射できて最高ね……!」
加護について、もう一つ分かった事がある。
人類も魔物も例外なく、強い加護を受けた者は全身に月の燐光のようなオーラを纏うのだ。このオーラを見れば誰がどれだけ加護を受けてるか何となく分かる。
また、どうやら俺達は六人で一括りにされているようで、一党の誰が倒しても均等にバフが加算されていた。攪乱役のルクスリリアもエリーゼと同等のオーラを纏っているのだ。
「次は何処ッスか!?」
「進路そのまま! あそこの魚コンビそろそろ死ぬぞ! アタックアタックアタック!」
「ルクスリリアちょっと乗っけてくれんかのぅ!」
死にかけの魔物を選んで漁夫っていると、次第にザコが居なくなって大怪獣バトルがメインになっていた。
興味深い事に、進化した魔物の多くは怪獣めいて巨大化する傾向があった。それも防御重視というより大艦巨砲主義的な。お陰でいつもいつでもドッカンバッコン爆発音が響いている。
そう、あくまで強いのは火力だけだ。防御力は加護による再生任せで、ここの怪獣はゴツい割にHPは非常に少ない。適者生存とは聞こえはいいが、強者でなければ全て餌。俺達頂点捕食者にとっての、である。
「あそこ暗闇使ってやがるな。レノ、あれを使え!」
「ん、了解」
なので、レノには殲滅形態になってもらう。
天高く飛んだレノは念力で銀河水晶を取り出し、花火のように打ち上げた。すると月夜がピカッと光り、天使を祝福する疑似太陽が生成された。
眩い空から荒れ果てた地上へ、翼を広げたレノが二挺の銃を構えてみせる。彼女の周囲には、バインダーから解放された光力弾倉が衛星のように浮遊していた。
「乱れ撃つ……」
圧縮光弾、過剰連射。光力消費を度外視して放たれた光弾が巨大怪獣の弱点を次々撃ち抜きまくる。一発撃つごとに弾倉をリロードし、冷却機能付きのバインダーに格納される。その姿、さながらナイフジャグリングをする軽業師の様。
地上の魔物が破壊天使を放っておく訳はない。喧嘩を中断した怪獣が空に向かって魔法を使おうとするが、それを俺達が掣肘。ブレスを撃とうとした巨大イモガイの口に二連【魔導極砲】が突き刺さり、空を飛ぼうとした巨大モモンガの被膜を鉄塊の如き大剣が叩き斬る。空飛ぶ巨大エイは淫魔に嫌がらせをされ、ステルスしていた高機動カブトムシは俺が見つけて潰していった。
見敵必殺百発百中。やがて全弾倉がオーバーヒートしたガンスリンガー・エンジェルのトリガーハッピー行為は、誰にも邪魔されず完遂された。次いで上空の疑似太陽が消え、クレバーなレノは何も言わずに転移で逃げた。暴れるだけ暴れて即退散とは、とんだ害悪天使である。
「イリハ、そこから見て右!」
「了解なのじゃ!」
だが、獲物はまだまだ残っている。故に後詰の仙狐が何とかする。
レノが生み出した太陽の真下で陽の氣を浴び続けていたイリハは、これまでじっと陰陽術式を編んでいたのだ。
「ぐぬぬぬぬ……! ほい、【火行・烈火光龍】!」
真っ赤に燃える綾景之太刀をひと薙ぎすると、刀身から業火で出来た東洋ドラゴンが飛び出してエンジェルタイムを生き残った巨大魔物に襲い掛かった。敵に食らいついた火龍が魔物の全身を締め上げて、一瞬の静寂の後に大爆発。回避も防御もできぬまま、件の魔物は即死した。
けれどもだ。他にも残っている。まだまだ戦っている。漁夫ってたのは俺達だけではなく、界隈では超主級とでもいうべき進化を果たした怪獣が夜の森で猛威を振るっていた。
「ご主人~、まだ終わらないんスか~?」
「多分そろそろ終わりだ。見ろ、月が小さくなってる。あれがタイムリミットだ。さっきデカいの倒した時にガクッと小さくなってた。つまりそういう事だよ」
「流石ご主人様、頭いいですね!」
「ん、マスターは賢い。流石」
「流石じゃのぅ、主様」
「さすが私が見初めた男ね」
「え、この程度でこんな褒められんの?」
「素直に受け取っとくッスよ」
ともかく、夜明けは近いと考える次第。マジで終わるのか、あるいは続くのかは分からんが、終わりのないバトロワに光明が差した心地だ。
「ちっ、一歩遅かったか……!」
そうこうしていると、残り一体となった超主級魔物が進化の光を放った。十把一絡げの主級から超主級へ、凄い主から更なる高みへ。やがて究極の進化を果たし、特異個体が出現する。
だが、やる事は変わらない。弱点を暴き、畳みかけ、殺すのだ。
「見た目通り氷弱点だ! イリハ準備! エリーゼ杖交換! レノとリリィは水魔法! グーラは足!」
「あいッス! まぁ適当に濡らしとくッス!」
「ん、聖水が万能な事は歴史が証明してる」
「くれぐれもボクを濡らさないでくださいね!」
で、だ。その後は特筆すべき出来事は何も起こらなかった。実質ボスだった特異個体は水濡れからの凍結コンボで普通に粒子へと還した。
最早、俺達はこの程度の敵に苦戦するような一党ではないのだ。
「これで全員かな?」
「ん、多分そう。部分的にそう」
遠くにいたなら分からないが、敵味方レーダーに反応はない。とうとう枯れた湖のほとりに集合し、武器を構えて警戒する。
時間経過を確認すべく月を見上げる。すると点のようだった月が強く輝き、やがて森全体を光で満たした。
次の瞬間。晴天になった。太陽は真上にあり、森の緑が目に優しい。木々だけではない、枯れた湖が再生しているではないか。
「警戒を緩めるなよ……」
自然が戻り、昼になった。神殿に戻ってないあたり、まだ続いているのだろう。第二ラウンドかもしれないので、とにかく周囲を警戒する。
次いで現状俺達が持ち得る全ての索敵手段で索敵し、そして。
「警戒解除」
各々、大きく息を吐いた。
完全に気を緩める事はしないが、一ターン休みでいいだろう。
皆の様子を確認する。先の夜では体感一時間以上戦い続けていた訳だが、魔力消費こそあれ肉体的疲労はないように思われた。
「うぐぁっ……!」
と思った、その時だ。
突如、ぶちぬき丸を取り落としたグーラが腹を押さえて膝をついた。
「グーラ!?」
慌てて身体を支えてやり、今一度彼女の様子を見る。顔色が悪い、尋常な状態ではなかった。次いで状態異常の類いを確認しようとコンソールを開いた時……。
ぐぅ~、と。グーラの華奢なお腹から、それこそ怪獣の鳴き声のような音が聞こえてきた。
「す、すみません。お腹が空きました。何でもいいので食べ物をください……」
「あ、ああ。とりあえず、はい」
「ありがとうございます!」
空腹だったらしい。
飢餓状態のグーラにラリス伝統の携帯食料を手渡すと、彼女はぱくっと一口で平らげた。足りなそうだったので手持ちのエネルギーバーを全部渡した。
ハラペコ系のグーラだが、彼女は自身の食欲を制御できる娘である。今朝も沢山食べてたし、消費した魔力も自然回復でまかなえる程度である。一体何が……?
「ほれ、おかずもまだまだあるでのぅ。硬いのばっかじゃなくて汁物も飲むのじゃ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ふと気がつくと、イリハがグーラにあ~んをしていた。水筒の味噌汁なんかも飲ませてやり、過ぎるくらい甲斐甲斐しく世話を焼いている。
二人とも、上機嫌そうに尻尾を振っていた。実に眼福、なのだが……。
「マスター、ちょっと背中借りるね」
「ん? どうした?」
一方、レノは俺の背中に抱き着いてきた。唐突なおんぶ展開である。
甘やかしモードのイリハに対し、レノは甘えん坊モードになったのか。
しかしねぇ、今いる場所は迷宮なのだから……。
「ご主人♡」
「おっと? な、何だルクスリリア」
鳩尾に軽い衝撃。今度はルクスリリアが正面から抱き着いてきた。
ギュウ~っと腰にしがみつき、あまつさえ尻を揉んでいる。こうもすっぽり収まられると、どうしようもなくロリコンの血が騒ぐ。
「ねぇ、ご主人……♡」
「な、何……?」
「その、先っちょだけでいいんで……駄目ッスか?」
ギラリと、此方を見上げる赤い瞳と目が合った。
淫魔の眼光がいつも以上に性欲に満ちている。パブロフのバター犬、ロリコン的条件反射だ。メスガキ微笑と見つめ合うと、素直におしゃぶりさせたくなる。分からせたいし、分からせられたい。下心が二つある。
「ん、手伝う」
「ひゃっはー我慢できねぇッス!」
逡巡していると、二人がかりで鎧を脱がせようとしてきた。
が、この革鎧の着脱には然るべき順序ってのがあるので、装備チートを持たぬお二人は苦戦していた。
「まさか……」
明らかにおかしくなっておる。その原因に思い当たる節があったので、俺は発情ロリコンビを押さえつつコンソールを確認した。
案の定、“蒼月の加護”が待機状態になっていた。相変わらず調べても何も書かれていないが、この加護と現状に関係がないとは思えない。副作用的な何かではないだろうか。
「何やってるの。ほら、落ち着きなさい」
「「「「ふわ!?」」」」」
その時だ。エリーゼの治癒魔法が飛んで、全員正気を取り戻した。
今のは全状態異常を治癒する魔法で、抗うつ剤にもなるすげーやつだ。しかも“祝福”付きなので効果倍増である。
「エリーゼ、多分これは……」
「ええ、分かっているわ。恐らく治癒魔法も場当たり的な治療にしかならないでしょうね」
ふんと鼻息。エリーゼは仕方ないとばかりに皆を見ていた。
皆は冷静さを取り戻していた。グーラだけは食事を続けていたが。
「ん、迷宮毒? そんな感じはしないけど」
「うぅ~む、理性が飛んだ感じじゃな。どうにも我慢弱くなっておる」
「もぐもぐ……確かに食欲は抑えられてる気はしますが、ごくん……根本的な解決にはなってないような。やはり食べねば」
「エリーゼは大丈夫なんスか? アタシはもう今すぐご主人をぶち犯してぇんスけど」
「そうね。叶うなら私も今すぐキスをしたいし、また戦いたいと思っているわ。けれどいつもそうだから、心を見下ろせば問題ないわ」
「エリーゼ……!」
嬉しいこと言ってくれるじゃないの。俺も同じ気持ちである。何ならリリィとレノとも同じ気持ちだ。
で、何で俺だけ無効なのかって疑問は残ってるんだが、まぁ今はいい。個人差か何かだろう、多分。
「私はここで回復をかけ続けるから、アナタは状況を確認してきなさいな」
「ありがとう。とりあえず周り見てくるわ」
治癒魔法の効果が切れて再度理性が蒸発しかけてきた皆を任せ、俺は周囲の状況を確認するべく飛び上がった。
頭上には雲一つない青空が広がっていた。見渡す限り青と緑。落ちてる時は気付かなかったが。この森は意外と起伏がある事が分かった。太陽は真上にあり、高く昇っても全くの無風である。虫や鳥といった生き物の気配もない。生命の息吹が皆無なのだ。
「ん?」
ふと見やった仮定北方。雲など無いと思っていたが、視界の奥に変なものを発見した。
射手系スキル【遠視】を併用し、じっくり観察する。とても遠くに雲が見えた。しかも黒々とした暗雲だ。よくよく見てみると、それは風もないのに接近してきているような気がした。
不可思議な光景だが、この状況にピンとくるものがあった。
「エリア縮小か!」
界隈には詳しくないが、バトロワではありがちな仕様と聞いている。
俺は慌てて地面に戻り、さっそく移動の準備を始めた。
「如何にも危険そうな雲が近づいてきてる。あっちの方角に移動しよう」
「それはいいんスけどムラムラが止まんねぇッス♡ 先っちょだけ♡ 先っちょだけでいいッスから♡ なぁに枝の葉っぱを数えてたらすぐ終わるっすよ♡」
「スケベは後!」
ルクスリリアの尻を叩き、ラザニアを召喚してもらって暗雲の反対方向へ移動する。
やがて山の頂上に着陸し、そこでレジャーシートを敷いて休憩する事にした。雲の速さからして余裕はある。ここまで来れば大休止もできるだろう。
「ふぅ♡ ふぅ~♡ じゃ、じゃあ、ここらで淫魔の食事って事でいいッスよね♡ 待たせやがってよぉこのエロ男が♡」
「ん、次わたし。早く終わらせるべく支援する」
「先の戦いでは疲れたでしょう? お茶を飲ませてあげるわ♡ んつ、ちゅぅ~♡」
「ちゃんとご飯も食べなきゃじゃぞ~」
「あとでボクもお願いします!」
豊かな自然、透き通るような青空。草の地面にシートを広げ、家族と一緒に食事を摂る。なんて長閑な光景でしょう。
その真ん中で、俺は仰向けになってされるがままになっていた。勿論、事前に【清潔】をかけるのを忘れない。俺も俺で、昼になってからムラついてたからな。控えめに言って最高だった。
「ふぃ~、チャージ完了ッス! 性欲も収まったし、一家に一人ご主人ッスね!」
「三回は必要なようだけれど」
「グーラを鎮めるには一升分のご飯が要るようじゃな」
「うぅ、すみません。実はまだ……」
「ん、まだ?」
「デザートが食べたいです」
結局、俺は全員の相手をした。今回ばかりはさせられたって方がしっくりくるが。
まぁでも気分爽快である。迷宮内で致すなんて何年ぶりだよ。
ともかく、昼の攻略法も程々に、夜の攻略法を考えないとな。
普段と逆だね。
〇
その後も何やかんや楽しんでいたら、いつの間やら空が夕陽に染まっていた。
エリア縮小に余裕はあるが、時間はギリギリである。俺達は急いで武装を整え、戦いやすいところに移動。それから打ち合わせ通り全員に隠形系魔法をかけて潜伏した。
「来たか」
ややもあり、先と同じく太陽が消えて即座に夜へと切り替わった。
紅い月だった。さっきまで長閑だった自然が赤黒い闇に覆われている。
同時、敵味方反応レーダーに感あり。
次々に魔物が出現し、それぞれ逡巡もなく近くの敵と戦い始める。
隠れて冷静に観察していると、初期出現魔物の中に未進化のザコ魔物がいない事に気がついた。ここにいる奴、俺等を除いて全員主級で、且つ“蒼月の加護”を強く受けているっぽい。当然として各々の戦力は拮抗し、主がザコを蹴散らす無双プレイが発生していない。
「どういう順番でやるのかしら?」
「あそこから順にいこう。初手エリーゼの連携でいくぞ」
こそこそ移動し、乱戦している魔物の平均HPが減るのを待つ。
周囲の魔物の生命力が残り三分の一になったところで、俺達は勢いよく飛び出した。
「くたばれ……」
二挺杖スタイルのエリーゼが【魔導極砲】を同時撃ちし、一等強かった巨大ライオンを消し飛ばす。君ホントその魔法好きね。
今現在エリーゼが振り回しているのは、【魔導極砲】の使用に特化した新型杖である。普段ならフレンドリーファイアが怖くて使えない魔法も、こういう戦場では非常に役立つ。
エリーゼに続き、俺達も流れで漁夫っていく。あー、何だろう凄い気持ちいい。仮にこれが対人戦だったら通報されそうな害悪プレイングである。けどレギュレーション違反はしてないので無問題。
「やっぱりなっと」
で、予想通り魔物を倒したら、“紅月の加護”なる新しいバフが入っていた。
例によって効果の詳細は載ってないが、恐らくメイビー攻撃力の上昇である。何でって、分かりやすく武器に赤いエフェクト纏われてるし。
青が耐久バフ、赤が攻撃バフといったところか。青と赤が備わり最強となった俺達は、前回と同様に倒しまくり漁夫りまくりじゃんじゃんリソースを奪っていた。
しかし、いくら強くても俺達は六人しかいない。銀竜の破壊が届かないところで、他の魔物は着々と進化を続けていた。
主級個体が進化して、早々一回目ラストらへん級の魔物がうじゃうじゃ湧いてきた。主以上特異個体以下が量産されたのである。
「あいつは風弱点だ。デバフ撒いてからやるぞ」
「あいッス! 風ならラザニアの十八番ッス!」
ここから先は地力がモノを言う。どいつもこいつも未知の魔物しかいないので、検証して弱点を暴き都度特効を突いて一体一体を皆で連携して倒す。
エリーゼは杖を変えれば属性を変更できるし、イリハは素で全属性をカバーできるのだ。グーラは物理無効以外には滅法強く、ルクスリリアとレノは腐る場面が存在しない。転移一年目からこっち器用万能を目指し続けてる俺は何をかいわんや。
自画自賛になるが、やはり当初立てた俺の強化計画に間違いはなかった。例えば剣士特化ルートだったら呪術師猫又に勝てても裸足猫又には負けてただろうし、ミヅチ戦など何も出来ずに死んでいただろう。取捨選別も結構だが、大目標を達成するなら物事は多角的に長い目で見るべきなのだ。
「なんかヤバそうなの出てきたのじゃ!」
「人工物? 生物とは思えない」
「はい。生き物っぽくなくて、何だか怖いです」
「動く鎧とか、そのへんでしょう。怖がる事はないわ」
そして、紅い月下のラストバトルである。
敵は空中要塞めいた空飛ぶ傘で、毒雨やら何やらを好き放題にバラまいてくる害悪特異個体だった。進化前の時点で初見である。
「いつも通りやれば問題ない! いくぞぉおおお!」
俺は空飛ぶ槍に騎乗し、空中戦仕様になって突貫した。移動しながら銃杖を掲げて指揮バフを入れ、タイミング併せて魔法を放つ。
各種物理、各属性魔法、異能権能深域武装、全て揃ってるから出来るのだ。何であれ、トレーニングの成果を実感すると嬉しいものである。
〇
二回目の夜が明け、晴天の昼が訪れた。そうしてすぐにエリア縮小から逃れるべく、迫る雲の反対方向へ移動する。
いい感じのトコで休憩し、前回と同じく大自然の中で一体化した。
ルクスリリアを筆頭に、一回目の昼より皆さん強く欲望が出ていた気がする。何ならイリハとグーラは軽く発情期入ってた。帰ったら丸一日使って盛大なパーティを開催しよう。
「ん、マスター、ちょっと右見て」
「おぉ何だありゃあ?」
房中術やら純淫魔特性やらをフルに使い、全員を満足させてから移動再開。すると眼下の森がジャングルめいてきて、地平線に謎の建造物を発見した。
それは石造の円柱に見え、どことなくドイツらへんの見張り塔のようだった。上部には屋根はなく、屋上部分が剥き出しになっている。自然の中に表れた人工物、絶対何かあるじゃんよ。
で、何より驚いたのが……。
「塔の上、帰還水晶があるぞ!」
「けれど結界に覆われているわ。入れないでしょうね」
件の塔の最上階に、迷宮でよく見る帰還水晶が見えたのである。
しかし、その塔全体は謎の結界で覆われていて、帰還しようとする冒険者をあからさまに拒絶していた。
「ほえ~、高いッスね。流石のラリスもこのサイズの塔は無理だと思うッス」
地上に下りて観察する。地平線に見えた時はイマイチよく分からなかったが、近くで見ると高層ビル並みにデカい気がした。
グルッと一周してみても件の結界に穴はなく、また結界越しに見える塔に入り口らしき箇所は見当たらなかった。仮に結界突破しても飛べない人詰むんじゃなかろうか。
「ん、これ三層構造になってる。青、赤、黄色……そこの魔力が混じって変な色に見えてる」
この段になって、ピンときた。
恐らく、青赤を含めた三種の月加護を持つ者が通れるとかそういう仕様だろう。バトロワ方式で戦ってるのに、ここにきて王道RPG味を感じるゲームデザインである。
試しにゴミアイテムを結界に放ってみれば、見事にバチッと弾かれた。ゴミにダメージは入ってないようだが、やはり強固な護りをしている。
「私かグーラの攻撃で破れないものかしら?」
「そうですね。もしやるとしたら、思い切りダッシュして突き込む感じでしょうか」
「やめとこう。ペナルティがあるかもしれない」
まぁ裏技で突破したくなる気持ちは分かる。
それは置いておいて、塔の近くで一休み。さっきはラブなホテルの休憩だったので、今回はマジの休憩である。
「来たか」
お昼寝などして待っていると、迷宮の空は夕暮れに染まっていた。
一つ一つ武装を確かめ、先と同じく戦いやすそうな位置に移動。例によって皆に隠形魔法をかけ、バンダナ工作員のように潜伏する。
やがて、夜が来た。
闇夜の空に、黄金のスーパームーンが浮かんでいる。レノが言ってた通り、三回目の月は黄色だった。
次いで敵味方反応レーダーに感あり。が、その数は前回前々回より遥かに少なかった。俺達を除き、両手の指で数えられるくらいしか出現しなかったのである。
そして、それら全て例外なく、最初から全員特異個体だった。はは~ん、要するにここまで勝ち上がってきた強者が集まったって訳ね。おファックですわ。
「威嚇し合ってますね……」
「思い出すのぅ。夜寝る時に猫同士が唸ってるの」
「そんな可愛げのある光景じゃないッスよ」
さてどいつから潰そうかと観察していたら、驚くべき事にそいつらは一向にバトルを開始しなかった。
まるで獣同士の喧嘩のように、互いを警戒して威嚇している。明らかに知能のある行為であり、ここまで勝ち残って来た理由が察せられた。
「ん、塔の方見て」
またレーダーに感。
レノが指差す方、件の塔のテッペンから、真っ黒な煙が噴出していた。
魔物達もまた、そちらを見ていた。
空に昇った黒い煙が、月をバックに凝集する。
やがて球体のようになった煙の奥、真っ白な光が二つ鬼火のように浮かび上がった。
それは、異形のヒトガタだった。
まず異様な程に頭部がデカく、目測で三頭身くらいに見える。数珠繋ぎになった鏡の束が人間でいう頭髪のように垂れていた。
大きな頭の下には枯れ木のような身体がぶら下がっていた。その手は足の爪先に届くほど長く、右手には身の丈以上の杖を持っている。また、股間には簡素な布が巻かれていた。
鱗だろうか、鎧だろうか。鏡の部分を除き、その身体は黒曜石のような光沢を放っていた。メカメカしくはない、生物的な輝きを放っている。黒曜石の中心、ヒトでいう心臓の位置に青赤黄色の三つの宝石が埋め込まれている。
支配と侵略を目的とした地球外生命体。俺は、そいつに、そういう印象を受けた。
「え……?」
その時だった。奴を見ていた俺の視界に、不可思議な情報が表示された。
いや、別に珍しくはないのだ。屋内迷宮のボス部屋に入った時とか、屋外でもボスと対峙した時はいつもそうなってる訳で。
けれど、その表記に強い違和感があったのだ。この世界っぽくないというか。
――“黒妖”ポルカトゥルカ。
二つ名付きの、固有名詞持ち。
これこそが、推定この迷宮のボス名だった。
「ご主人様、魔物の気配が変になってます」
見ると、魔物達は一斉に謎存在を威嚇していた。注目の中、ポルカトゥルカが槍を掲げる。
次の瞬間、新たに二つの月が出現した。蒼い月と、紅い月。最初に出た黄金の月を併せ、都合三つの月が真昼のように夜を照らす。
「なん!?」
これまた、何度目かの驚愕が俺を襲う。
敵味方反応レーダーがバグッた。赤青黄色と表示があやふやになり、やがて敵一体を除いて全員味方に切り替わる。
青が赤を取り囲んでいる。これまで戦ってきた敵性魔物が、急に味方になったのだ。
「な、何ッスか今の? あいつらも喧嘩止めてるし……」
「分からん。とりま魔物への攻撃は止めてくれ」
「分かったわ。よく分からないけれど」
ここにきてレイドバトルですか? しかも魔物と共闘? 奴さんからすりゃ不利になるだけだろうに、なんでわざわざそんな事を?
そのように訝しむ俺に対し、当の黒妖ポルカトゥルカは……。
「■■■――■■――■■■■■■■■――■■■!」
黒板をひっ掻いたような鳴き声を発した。
そして、ぼうと輝く純白の双眸を歪ませ、にちゃりと蛇のように牙を見せ。
悪魔のように、笑っていた。
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◆破壊の魔杖◆
・補助効果1=魔法装填(魔導極砲)
・補助効果2=魔法装填(聖光の極大治癒)
・補助効果3=自動修復