【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。感謝の極みです。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
にらみ合いは数秒続き、何の合図もなく終了した。
木の葉が風に舞うように、ゆらりと黒曜人が動き出す。注目して尚、いや注目しているからこそ生まれる意識の隙間に、ソレは得物を構えて切迫した。
まず狙われたのは、最寄りの魔物――全身ダイヤの結晶カマキリ――だった。杖の先端に魔力の刃を生成した黒妖ポルカトゥルカに、正面から不意を突かれたダイヤカマキリはほんの僅かに遅れた反射で金剛石の鎌を振るった。
一閃二閃、左右の鎌撃をぬるりと捌き、泳ぐようにして懐に入る。次いで杖の先端をハンマーに変えたポルカトゥルカは、ダイヤカマキリの鋭い顎を力任せにかち上げた。鎌をいなす剣捌き、攻勢に転じる体捌き。返しの鎌を悠々躱し、物理的頭でっかちが優雅に月夜に舞い上がる。
たった一度の交錯で分かる。ポルカトゥルカは卓越した戦士であった。
一拍遅れ、月下の群れが一気に動く。
空中のポルカを撃墜せんと跳躍するダイヤカマキリ。各属性魔法を多重詠唱する六本腕のアルラウネ。魔法障壁を生成し突撃する水銀スライム。
俺等を除く都合八体、その全てが殺到する。黒曜石の怪人は、迫る攻撃の全てを純粋PSで捌いていた。
「魔物同士が共闘してるッスよ!」
「いえ、共闘というよりアレは獲物の取り合いだと思います」
「大きくなってもやる事は変わらないようね」
そんな乱戦の様相を、俺達は俯瞰して眺めていた。
魔物らしからぬ事に、ポルカトゥルカの立ち回りは異様な程に洗練されていた。攻撃技一つ取っても、そいつにはボス特有の理不尽ムーブを見て取れなかったのだ。実際はどうか知らないが、スポーツマンシップのような謎のフェアさを感じる。
今にして分かったがポルカのタッパはせいぜい三メートルくらいで、他の魔物と比べれば然程大きくない。大きな爪やら牙やらをいなす黒妖の動きは、迷宮の主と対峙する冒険者そのものだった。
「ん? もしかして、フレンドリーファイアがないのか?」
暫く観察し、気付いた事がある。ポルカを狙う後衛魔物の攻撃は、前衛魔物にヒットしても一切ダメージが通っていなかった。
攻撃が通り抜けている訳ではない。ノックバックは最低限で、ヒットストップは入っている。味方に当たった攻撃は、物理も魔法もダメージがゼロ化されているようだった。
付帯効果は? 状態異常は? 俺達への影響は? その詳細を確認すべく、俺はコンソールを開いてみた。
「ぬぉ!?」
すると、どうだ。仲間の欄に見覚えのない名前が並んでいるではないか。状況的に魔物の名前だ。
しかも、やろうと思えば一党に入れる事もできるっぽい。魔物を、である。
興味本位で確認してみたら、魔物のステータス表記は人類のソレとは大分異なっていた。“保有EXP”は何となく分かるけど、“WI指数”とか“EX値”とかはどういう意味なのだよ? 他にも色々書いてあるし……。
「多勢が押されておる。さっきから戦い方が上手いのじゃ」
「ん、なんだかマスターみたい」
いつの間にか、正面切って戦ってるダイヤカマキリのHPが残り少なくなっていた。それもこれも黒曜石宇宙人の周りをデカブツ特異個体が陣取っているせいで味方の援護が届いていないせいだ。
恵まれた能力からクソみたいな戦闘力。戦いは数だというのに、その数が邪魔でせっかくのパワーが無用の長物と化している。
「結晶カマキリくん、お前消えるのか?」
黒妖ポルカトゥルカは終始ダイヤカマキリを盾にして立ち回っていた。このままいけば、奴さんは第一犠牲者として墜とされるだろう。
普段なら気にしないが、今ばっかりはちょっと困る。もしここで奴が倒されたら、前回前々回と同じく加護が向こうに行くのではなかろうか。ただでさえ高PSのポルカにバフが盛られるのは面倒極まる。
ふと、ちょっと良い事思いついた。
「エリーゼ、回復使って」
「まだ誰も傷ついてないけれど?」
「こっちじゃない、あっち。あそこで死にかけてる魔物」
「は、はあ? 何を言っているの、アナタ……!?」
俺の提案に、皆さんビックリしていらっしゃった。それはそうだが、やってみる価値あると思う。
「頼むよ、祝福付きでやってくれない?」
「ん、そもそも通るの? 相手は魔物だよ?」
「わ、分からないッス……」
「とにかくやってみてくれ。ハリーハリーハリー!」
「もう、どうなっても知らないわよ……!」
そんな訳でエリーゼを守る陣形で突貫する。お邪魔な味方のガタイを潜り抜け、すんでのところでダイヤカマキリに銀竜の祝福が届いた。
瞬間、ダイヤカマキリのHPが全快し、トドメを刺そうとしていたエイリアン戦士は脊髄反射的な挙動で逃走した。追撃の魔法を回避しつつ、じっくりと此方を観察している。
「と、届いたのじゃ……! めっちゃ元気になっておる!」
「前代未聞ッスよ!」
「いえ、おかしな事ではないはずです。犬や猫にも治癒魔法は通るのですから、魔物に通ってもおかしくはないでしょう。実際、【清潔】は汚濁系の魔物に特効ですしね」
「なんだか変な気持ちね……」
「ん、こっち見てる」
九死に一生を得たダイヤカマキリはエリーゼを一瞥し、再度ポルカへと接近していった。
激しさを増す魔物の攻勢に、ポルカトゥルカのHPは徐々に減っていった。少なくとも、火力と耐久は此方が圧倒している。このまま魔物をサポートしていれば勝てるはず。俺達はエリーゼを中心に前へ出て、攻撃を受けた特異個体を治癒していった。
これは良い感じの攻略法じゃなかろうか。このまま押していけば倒せるぞ。
「――■■■■!」
なんて思った次の瞬間、髪の毛のようだったポルカトゥルカの数珠鏡が孔雀の羽根のように展開し、ピカッと光った鏡面からドス黒い煙が散布された。
俺達は危険を察知して避けられたが、奴の正面にいた足の遅い岩塊魔物は如何にもなガスをモロに浴びていた。やがて敵味方反応レーダーに変化があり、煙を浴びた岩塊は敵味方判定をコロコロ切り替えて周囲の魔物に攻撃を始めた。あまつさえさっきまで無かったフレンドリーファイアが解禁されているではないか。
催眠洗脳技かと思ったらそうでもないらしく、ひとしきり暴れた件の魔物は煙の怪人へと突撃していった。敵味方関係なしのバーサク状態だ。
「■■■――■■」
しかし、それこそ奴の思うつぼだった。
不用意に突撃する鈍足魔物。デカブツの体当たりを、ポルカトゥルカは杖から生成した盾で【
岩塊が粒子に還り、黒曜宇宙人に吸収されていく。するとポルカトゥルカは如何にもな黄金のオーラを纏い始めた。青赤とは別種のバフが入ったのだ。
「ワッザッファッ!? なんてこったクソゲー過ぎる!」
それだけでも厄介なのに、粒子を吸収したポルカトゥルカのHPは全回復していた。“蒼月の加護”の効果である。
理不尽ムーブのないフェアなボスってのは結構だが、敵にやられると物凄い徒労感だぞコレ。
「くっ……エリーゼ回復!」
「間に合わないわ……!」
「生命力が高すぎてわたしの治癒じゃ追いつかない」
黄金ポルカトゥルカの動きは、さっきまでとは別物だった。
例えるなら鋼鉄札と銀細工の差。バフにより身体能力が上がった事で、以前より俊敏に動けるようになったのだ。俺やレノも魔物の回復役に加勢するが、前衛の治癒が追い付かない。
「させるか!」
水銀スライムにトドメを刺そうとしたポルカの攻撃を【魔力の盾】で【弾き返し】する。追撃の魔法はイナバウアー急降下で避けられ、奴は舞い踊るように別の魔物を急襲した。完全に波に乗ってやがる。
やはり、魔物同士で連携が取れてないから互いの存在が邪魔にしかなっていないのだ。せめて、こいつらを直接指揮できたらいいのだが……。
「実際にやってみるか……」
「何ですって?」
モノは試しだ。俺は“勇者”にジョブチェンジし、指揮スキルを使って味方判定の魔物に指示を出した。
指揮スキル単品では簡単な指示しか出せないが、何となくの意図を伝えつつ行動にバフをかけられる。無理だと思うが、言うこと聞いてくれると嬉しいなって。
「動いたッス!」
すると、ダイヤカマキリは俺の指示に従い、付かず離れずの距離でポルカの周囲を跳び回りはじめた。闇討ちの構えである。
次にさっき助けたスライムが防御魔法を発動しながら前進し、タンク役を買って出てくれた。
後方、元より固定砲台化していたスナイパーイモガイが狙撃態勢に入り、六本腕アルラウネが精度重視の魔法を詠唱する。その他の魔物も順次俺の指揮下に入ってくれた。
「ウ、ウソだろ。こ、こんなことが、こ……こんなことが許されていいのか……!」
「自分でやった事じゃろ!」
「もしかして噂の新魔王ってご主人の事だったりするッスか?」
「とにかく好機です! どのように立ち回りますか? ボク等にも指示を!」
魔物を指揮しつつ、一党単位でも連携を新たにする。
指揮官である俺を中心に、エリーゼとレノで前衛の魔物を回復させる。イリハとルクスリリアを護衛役とし、迎撃役にグーラをラザニアの背に配置した。
「よし! すぐ逃げて次突貫! そっちはまだ待機して……今!」
戦術はシンプルに、大切なのは後衛の攻撃タイミング。するとこれが上手にハマり、バフ入りポルカを封殺する事に成功した。指揮下に入った特異個体がこうも頼もしいとは。
如何に立ち回りが上手くとも、包囲されてはどうしようもない。俺はこれまでに得たポルカトゥルカの行動パターンから最適解の攻撃を逆算し、都度指示を出して追い詰めていった。鏡が光ったら後退指示を出すのも忘れない。
何とか粘ってこそいるが、防戦一方のポルカはジリ貧に見えた。ぼうと光る双眸が俺の方を見ている。明らかに俺達を最大のお邪魔要員と見做していた。
「私が降らして」
「わたしが広げる」
「最後にわしが水氣を使うっとな!」
皆への指示も忘れない。聖属性にフォームチェンジしたエリーゼが光の雨を降らし、イリハとレノが水バフ領域を広げていく。祝福の雨を受けた前衛魔物にバフが入り、水属性魔法の威力が上昇する。
次いで放たれた戦艦主砲めいた水鉄砲から逃れるポルカにダイヤカマキリが闇討ちを決め、腕一本を斬り飛ばす。切断された断面から間欠泉のように青い血が噴出した。
「今だ、撃て」
で、ここでとっておきだ。
後方で待機していた六本腕アルラウネに人類規格では不可能な超特大魔法を撃たせる。
そのターゲットは、エリーゼだ。
「これは大したものね……!」
尋常ではない魔法攻撃を魔力の翼で受けるエリーゼ。みるみるうちに臨界に達し、止むと同時に光を放つ。
「限界よ、もう撃つわ!」
「退避ぃ!」
瞬間、前の魔物が退避する。間髪入れず、ポルカに呪詛の風が直撃した。
指向性を持った呪いの嵐。直撃したポルカは物理的魔法的破壊効果をモロに浴び、黒曜石のようだった鱗が剥がれていった。いくら強いバフがあろうと、エリーゼのデバフは防げない。
当て身技にはこういう使い方もあるのだ。
「よっしゃ入った!」
エリーゼパパはあらゆる攻撃に好きなデバフを乗せてたらしいが、娘はまだその領域にはいない。そうしてランダムに入ったデバフは、何と魔力阻害だった。ポルカトゥルカの黒曜石の杖先から出す刃が霧散している。
俺にとってのご都合主義は大歓迎だ。なので攻めを継続させる。
「逃がすな!」
逃げ回る宇宙人モドキ。ポルカが杖を掲げると、空に浮かぶ月がスポットライトのようにポルカを照ら……そうとするが、そこに魔物の邪魔が入る。
あの宇宙人、第二形態へ移行するつもりよ。そんなの許さないわ。とにかく動きを止めるべく、手数重視で邪魔をする。
「――■■」
ついに痺れを切らしたか。頭部から伸びる数珠繋ぎの鏡が再展開された。
しかし、奴は黒い煙を散布しなかった。いつか何処かで見た光景。ポンッと、空気の弾丸のようにガスを飛ばしてきたのである。
危機察知はあったのに、指揮に専念してたせいか俺とグーラは煙弾の余波を浴びてしまった。言い訳じゃないが、大した危機じゃないと思ってしまったのだ。
「グーラ!」
「あぁだめですねこれは! かなりつらいです!」
ダメージこそなかったが、俺と同じくがっつり食らったグーラの満腹ゲージが赤点滅していた。
先の鈍足個体程ではないが、煙弾の余波を食らった魔物は軽度の錯乱状態に陥っているようで、一部の脳筋が俺の指示を受け付けなくなった。
他方、当の俺には何の影響もない。ヒトオスには効かないとか? いや今はどうでもいい。
「やるしかない! 攻めろ!」
リカバリーか、攻撃か。当然攻めである。俺は勇者のように黎明を掲げ、全軍突撃の指示を出した。
もう少しで倒せるのだ。俺はグーラにミートパイを手渡し、突撃した。
ヒトと魔物による上杉謙信めいた猛攻で攻撃を仕掛ける。対し、ここにきて黒妖ポルカトゥルカの動きはいっそう研ぎ澄まされていき、尋常でない粘りをみせた。
気分的には対人戦だった。それもヴィーカさんとかゲルトラウデ師匠とかの技量マン。あと少し、もう一歩、最後の一手が届かない。
「■――■■■■!」
再度、孔雀鏡が広がる。散布か、空気砲弾か。身構える俺達を無視し、それは明後日の方向へ飛んでいった。
狙いは一つ、動きが鈍いグーラだった。
「グーラ!」
空腹の影響か、雷ステップの制御を失ったグーラは敵の攻撃を避けられず、真正面から圧縮黒煙を食らってしまった。
ついに、状態異常“飢餓”になった。対策アイテムこそ持たせているが、グーラにとってこの状態は天敵デバフである。腹を押さえて止まったグーラに黒曜宇宙人が襲い掛かる。
大剣を提げて俯くグーラに、杖を掲げて迫るポルカ。掣肘の魔法は回避され、ついに奴は武器を振り下ろし……。
「ガァアアアアアアッ!」
次の瞬間、黒曜石の杖が真っ二つになって舞い上がった。
同時、ポルカトゥルカが吹っ飛んだ。杖を持っていた手が真っ黒に焦げている。
「邪ぁ魔ァッ! 死ねェエァアアアアッ!」
黒い炎、赤い雷。飢餓状態になったグーラは暴走形態になっていた。
そう、飢餓グーラはこれが怖いのだ。彼女はお腹が空いて力が出なくなるタイプではない。お腹が空くと暴れるのである。それも身体に染みついた武術を使って。
「構わずいけ! 俺はグーラを止める!」
「むごぉ……! はむっ、もぐもぐもぐゴ……ックン!」
「わ、分かったわ……!」
そんなグーラの口にホットドッグを突っ込んだ。流石にリカバリー優先だ。下手に動かすと危ないので。
で、向こうはトドメ演出に入った。ついにガス欠した宇宙人に遠距離攻撃が殺到し、黒曜石の身体をズタズタにしていく。
「■■……!」
最後の足掻きだろうか。半分しか展開しなかった鏡から再度圧縮黒煙を放ってきた。どういう執着か、またもグーラに。
これ以上はダメだ。咄嗟に動いた俺はグーラを抱えて避けようとして、ぶちぬき丸の重さのせいで避けきれず足に当たってしまった。
次の瞬間、足に直撃したデバフ煙が俺の身体を侵していく。
「……ん?」
が、痛くもかゆくもなかった。
ダメージも、状態異常も、不快感もない。その代わり、腹の奥から凄まじい欲望が湧いてきた。
理性が飛んでいるのが分かる。今抱いているケモミミ少女への愛おしい気持ちが湧いてきた。
けれど、けれどもだ。
「隙あり!」
構わず、黎明のルーンソードを【投剣】する。反撃、直撃! 煙を吐いた鏡が割れて、月の光がキラキラ散った。
ドデカい頭に剣を生やしたポルカトゥルカが呆然と此方を見ている。何故動けるのか、と言わんばかりに。
何て事はない。
どうやら、あの煙には理性を飛ばして欲望を増幅させる効果があったらしい。恐らく、昼になった時の青赤加護もそうだったのだろう。
ルクスリリアは性欲が爆発し、エリーゼも戦闘欲が増していた。グーラは空腹になり、イリハは世話焼き狐でレノは甘えん坊天使になった。
では、何故俺に効かなかったのか。その答えは一つ、俺が世界で一番、皆を愛している男だからだ。
「お前ごときが俺の愛を制御できると思うなよ」
好意も、性欲も、慈しみも、それは愛の一側面に過ぎない。
俺は常に愛に飢えてて、いつもいつでも満たされている。
だから効かない。だから一切揺らがない。
以上。Q.E.D.証明終了。
「■■■■■■■――!」
黒妖ポルカトゥルカが粒子に還っていく。
青、赤、黄、三色の光が月夜に舞い上がり、そしてこの場の全員に吸収されていった。
ようやく、戦いは終わったのだ。なんて厳しい戦いだったのかしら……。
「……え?」
と思った、次の瞬間である。
バッギイイイイイイ! ブォオオオオオ! ドッゴォオオオオオ!
爆発、爆風、破砕音。
振り向くと、近くにいた魔物同士が喧嘩を始めていた。
次いで敵味方反応レーダーに異常が発生した。いや正常に戻ったというべきか。
後回しにされてた乱戦が再開したのである。
「昼になんねぇ……!」
後退しつつコンソールを見てみれば、新たに“黄金月の加護”なるバフが入っていた。ついでに魔物が仲間じゃなくなってる。
夜も終わってないし、なるほどボス倒してもバトロワ継続って事ね。
「ガァアアアア!」
「ご主人! もっとグーラにご飯あげるッス! 過去一キテるッスよ!」
「ちくわしか持ってねぇ……!」
「冗談よね? 冗談よねぇ? 治癒が効かないのよアレは」
「ん、おかしい。ラリスの戦闘糧食は一食で一日分のはず……」
「ほれ見ろ! デカいのがこっちを狙っとるのじゃ!」
てな訳で、俺達は最後の加護持ちになるまで殺し合いをするのであったとさ。
さすが特異個体と言うべきか。もうめちゃくちゃに苦戦した。
もうバトロワはこりごりだよぉ~。
〇
斬! 赤黒い炎刃が一閃し、ダイヤカマキリを両断した。
【受け流し】からの【煉獄斬り】である。カウンター特化の黎明の性能に加え、その他クリバフ盛り盛りの一撃が魔物の命を絶ったのだ。
「や、やっとッスか……! 疲れたッス~」
「きゅ~」
「ふぅ、なかなかいい戦いだったわね」
最後の生き残りを葬ったところで、例の如く月が消えて昼へと切り替わった。無駄に爽やかな青空が恨めしい。
一党全員、疲労困憊だ。獣人のイリハはバタンキューしてるし、レノも太陽光不足で気持ち羽根がパサパサしている。一方、戦闘種族たるエリーゼはツヤツヤしていた。
「お? これが本にあったやつか」
ややもせず、俺達全員の身体から信号機カラーの粒子が溢れ出し、青い空に凝集していった。
やがて粒子は結晶となり、それはゆっくり俺の手に収まってきた。パッと見、野球ボールサイズのサファイアである。
「これが“星髄石”……」
間違いない。これこそ最上位迷宮の聖遺物――星髄石だ。
入る度に仕様の異なる最上位迷宮だが、ボスドロップは固定されており全てこの宝石になるらしい。
コイツはかなり高額で売れるようで、他の使い道はないとのこと。
「ん、グーラ大丈夫か?」
「ええ、何とか。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません……」
「問題ないわ。誰も貴女が悪いなんて思っていないもの」
「それよりレベルアップしたッスよ! 確認してほしいッス!」
「いいねぇ」
リリィに促されてコンソールを開けば、申告通りルクスリリアとイリハとレノがレベルアップしていた。
確かに経験値的にはかなりの美味さだが、それでもこの迷宮で倒した魔物の数とは不相応だ。恐らくこの経験値はポルカトゥルカ一体分と思われる。
「ん? はぇっ?」
そうやってジョブレベルを確認していると、俺等全員のジョブ欄に驚くべき表記を発見した。
なんと、全く見覚えのない新ジョブが生えていたのである。
「“黒妖”って……」
「何でしょうか? それは」
なんか黒くて妖しい奴……これ、まんまポルカトゥルカの二つ名である。
ジョブの中身は斥候+魔術師系らしく、成長方針もそれに準じている。伸び代は二つ名系ジョブと同等だった。
にしても、特定のボス倒して生えてくるジョブとかあるんだな。なんか胸熱。使い勝手は分からないが、ジョブ獲得ルートが開拓されたのは素直に嬉しい。
今回だけかもしれないが、やはり最上位迷宮は色々と規格外だった。
「で、最後にアレを登ればいいんじゃな?」
休憩もそこそこに、俺達は帰還水晶がある塔へ歩いていった。
見れば、さっきまで張られていた塔の結界が無くなっていた。それどころか、塔の周りを何重もある半透明の螺旋階段まで生成されているじゃないの。妙にユーザーフレンドリーじゃん。今さら飛べない人への配慮を感じる。
「えぇ~、これ登るんスかぁ? 普通に上に飛んでった方がいいと思うッス!」
「こういうのは一段一段登っていくのがいいのよ」
「ん、そうなの?」
様式美に則り、天空の階を登っていく。いざとなったら飛べるからいいが、そうじゃなかったら絶対イヤだ。
で、俺くん思った。コレものすごく面倒臭いぞ。実際景色は綺麗だが、大自然を見慣れてる身からすれば新鮮さはない。銀細工の運動神経で蹴躓くとも思えないし。
「……やっぱり飛びましょう。この森には風情がなくて退屈よ」
「まぁ最初は楽しかったから、多少はね?」
「すみませんご主人様、垂直方向は苦手なのでおんぶしてください」
結局、皆して空を飛んだ。グーラは俺がおんぶである。
ゲームだとムービーで一瞬だったろうが、こういう移動はパパッと済ますのが一番よ。
「「「おお」」」
これは「おお」だろう。間もなく頂上に辿り着き、感嘆の声を上げる。その光景は流石に壮観であった。
屋上の縁には手すりがなく、中心には帰還水晶が鎮座していた。3D格ゲーのバトルステージみたいだぁ。
「え……」
で、だ。この迷宮に入って何度目だろうか。塔の頂上にまたも驚くべき物を発見した。
皆も気づいたようで、各々異なる顔をしていた。そんな中、ルクスリリアが目を輝かせていた。
「宝箱ッス! あれめちゃくちゃ宝箱! あんな宝箱宝箱してる宝箱はじめて見たッスよ! うひょー!」
そう、宝箱である。
それも全面ピカピカ仕様で、縁や錠前には金や宝石の装飾が施されているではないか。
「迷宮に宝箱って……怪し過ぎないかしら?」
「罠にしか思えんのぅ」
「今すぐ開けるッス!」
訝しむ一行の中、ピューッとルクスリリアが飛び出した。
「待ちたまへ」
「ぐえ!」
そんな彼女の首根っこを掴んで止める。気持ちは分かるが、ちょいと待って頂きたい。
「その前に調べないと。頼む」
走り出したいのは俺も一緒だが、宝箱を開ける前には相応の準備が必須なのである。
とりま探知だ。大丈夫だとは思うが、開けた瞬間噛みつかれるかもしれないし。最悪転移からの石の中ワープとかも否定できない。
「まぁ変な魔力は流れてないけれど」
「そもそも鍵かかっとらんしのぅ。氣も普通じゃ」
「ん、問題ない。中身は……」
「おっとそこまでだ」
「アタシが開けていいッスか?」
「くれぐれも慎重にな」
「気を付けてくださいね? ここにきて全滅とか笑えませんよ」
探索組のお墨付きをもらったところで、いざいざ開けんと歩み寄る。
すごいドキドキする。まさかここで傷薬的なショボいアイテムなんてないでしょう? 如何にもなオタカラボックスな訳でして。
そうして、ルクスリリアがゴマダレすると……。
「……何スかこれ」
ルクスリリアの喉から、一段低い声が出た。
彼女の後ろから覗き込む。確かに、なんじゃコレであった。
キラキラ宝箱の中に、幼少の頃に持っていたソフビ人形みたいなのが入っていたのである。
「ていうか、ポルカトゥルカじゃん。こいつ自己主張激しすぎない?」
「ポルカトゥルカ、とは何でしょう?」
「ん? あぁあの魔物の名前。固有名詞ついてたんだよ」
「つくづく不思議が多いわね。最上位迷宮は」
「すっげぇキモいデザインッスね!」
呪いのアイテムかもしれないので、専用のハンケチーフ越しに摘まみ上げる。
次いでコンソールを開いて“調べ”てみると……。
◆ポルカトゥルカの人形◆
攻撃力:1
異層権能:千夜月夜の加護
補助効果1:自動修復
補助効果2:毒耐性(大)
補助効果3:麻痺耐性(大)
補助効果4:睡眠耐性(大)
「う~ん……?」
案の定、こいつは深域武装だった。それも権能特化な感じのやつ。
そんで権能の内容はというと、使用によって例の三つの加護を得るらしい。
つまり、いつでもあの夜の状態になれるのか。強くね?
「いやでもこれは……」
何だろう、得体が知れない。控えめに言って怪しい。
ああも知能の高かった魔物が、そうそう親切で使い勝手のいい便利アイテムを落としてくれるものだろうか。
そもそもデザインがキモくて使いたくないというか、もっと言うとアイテムボックスにも入れたくない。例え強かろうが、感情的には売ってしまいたいなぁ。
「うん、売ろう」
「ッスね。もうがっかりッス」
どこか、遠い空の向こうで……。
黒曜石の宇宙人が笑っているような気がした。
〇
帰還水晶で神殿に戻ると、常の喧噪は波が引くように鎮静し、静寂がギルド全体に広がっていった。
冒険者同士、何事か話しながら俺達を注目している。
「イシグロだ。最上位迷宮から帰ってきたぞ」
「失敗したのかな? なんか浮かない顔してるけど」
「いや踏破しなきゃ戻れねぇんだって」
こういうの、未だに苦手である。俺は同業者の視線を強いて無視し、受付おじさんのところへ向かった。
トントンと書類をまとめていた彼は、何故だか複雑そうな表情を浮かべていた。
「換金お願いします」
収納魔法に手を突っ込み、換金台に件の宝石を置く。
次の瞬間、神殿中に冒険者達の歓声が響き渡った。拍手とか口笛とか聞こえてきて、それこそ英雄の御帰還って雰囲気だ。
「ああ。緑の一番だ」
「どうかしました?」
「いやなに、春が来たなと思ってよ」
「何の話です?」
分からないが、受付おじさんは遠い目をしていた。
なんて考えてた時、ちょいと思い出す事があった。
「そうそう。最上位迷宮を踏破した訳ですし、これは流石に皆の評価に繋がりますよね?」
「え? そいつぁ、まぁ……」
俺の発言に、受付おじさんは冷や汗をかいていた。ナンデ?
言うてそこまで変な話ではないはずだ。冒険者界隈は実力主義。成果を出したら相応の評価がされるものと俺は信じているゾ。
「そうか。まぁ俺からも掛け合っておくぜ」
「よろしくお願いしますね」
「へっ、そういう事かよ。まったく……」
「やぁイシグロくん! お疲れ様! 無事に戻ってきてくれて嬉しいよ!」
なんて話していた、その時だ。俺達のいる受付スペースに、美人秘書を侍らせたナイスシルバーが現われた。
ナイスシルバーは如何にもデキるビジネスマンといった出で立ちで、それこそ実力でのし上がってきた雰囲気をビシビシ感じる。武力とは別のエネルギーを持ってる人だ。
「ギルド長? どしたんです、急に」
ギルド長だった。
会った事あった気もするし無い気もする。記憶に残ってないあたり、まぁ別にいいだろう。
「いやね、ちょっとイシグロくんと話をさせてもらえないかと思ってね」
「ああ、報告は明日でいいですか? 一党の者も疲れてまして……」
「いいや、それとは別の話なんだ。時間は取らせないから」
報告ではなく、今すぐすべきお話があると。仕方ないので了承した。
ややもあり、我等一党は一番豪華な応接室に連れて来られた。次いで美人秘書がお茶菓子やら何やらを用意して、そそくさと去っていく。ここには俺の一党とギルド長しかいない。斥候が隠れてるかと探ってみたが、俺には見つけられなかった。
「さっきも言ったが、時間は取らせないよ。用件は二つ。まずは、そうだな。最上位迷宮に潜って、深域武装を手に入れたりはしていないか? もし持っているのなら、見せてほしいんだ」
「まぁ……はい、入手しましたが」
早口にそう言われ、ついさっき手に入れたソフビ人形を机に置いた。アイテムボックスに入れるのも嫌だったので、ズダ袋に入れて吊るしてたのだ。
妙に質感の高いソフビ人形を見て一瞬目を細めたギルド長は、紅茶をひと啜りして覚悟を決めたような顔になった。
「これについてだが……暫くの間こちらで預からせてほしいんだ」
買い取るのではなく、預かると。
ちょっとギルドの意図するところが分からない。これまで、迷宮で手に入れた深域武装は無条件で冒険者のものって話だったが。
「というと?」
「王家絡みでね。最上位迷宮から顕現した深域武装は、王家とギルドの研究者が調べる事になってるんだ。なにぶん危険な代物が多くてね」
それから、ギルド長は最上位迷宮由来の深域武装についての説明を始めた。
曰く、通常の深域武装とは異なり、最上位迷宮から出た深域武装は使用に際して多大なデメリットのある代物が多く、嘘か真か過去には廃人になった奴もいたらしい。
「勿論、返す事は約束する。安全性を確認するだけだから、預けてほしい」
調査予定の深域武装は実際預けるだけでよく、貸与中はその分お金が出るそうだ。
これは義務だと押し通してこないのは好感が持てる。つくづく強者を優遇するお国だと思った。
「はい。よろしくお願いします」
「そ、そうか。よかった……」
報連相の結果、預ける事にした。
ぶっちゃけ惜しくないし、最悪盗られてもいいとさえ思っている。いくら性能重視勢とはいえ、アレを持って戦おうとは思えないしな。
「では、次にこの星髄石について説明しよう」
次にギルド長が示したのは、先の迷宮からドロップしたクソデカサファイアだった。
一見すればポピュラー聖遺物の魔石に見えるが、実際には違うっぽい。素人の俺にも分かるくらい幻想的なのだ。
「表向き、この星髄石は高額で買い取られるだけの聖遺物という事になっているが、実際には星髄石には他の使い道があるんだ。その事をイシグロくんのような冒険者には伝える規則になっているんだ」
「はあ」
何か話があるらしい。疲れからか、礼儀正しい態度を維持できていなかった。シャキッとせねば。
「時に、人には成長の限界があるという事は知っているかな?」
「話だけなら、ですが」
急な話題転換。後に繋がるだろうと思い、頷いておいた。
無論のこと、彼の言う事は存じている。ゲーム的に言うならレベルキャップってやつだ。異世界人にはステータス限界が存在するのだ。それには個人差があるらしく、統計的に弱い人ほど大器晩成な傾向らしい。
今のところ、我が一党に成長限界が来てるメンバーはいない。が、実際ルクスリリアは一度種族上限に達したのだ。今は大丈夫でも、今後は全くの無関係ではないだろう。
「結論を言うとだ。星髄石を使えばその限界を超える事ができる」
「……何ですって?」
思わず腰を浮かしてしまった。
そりゃもうゲーマー的にレベルキャップの解放なんて見過ごせるものでは断じてない
浮いた腰を落ち着けて、今一度マジマジと観察してみた。やっぱりデカいサファイアにしか見えない。精密で美しいカットが妖しい光を湛えている。
才能開花。レベルキャップ。これがピースなりメダルなり聖杯だというのか。
「最上迷宮を突破した冒険者には、ギルドから二つの選択肢を提示できる。君が保持する場合、書類上ギルドで買い取った事にして査定された金額を渡そう。保持しない場合、査定の倍の金額で買い取ろう。追加分に迷宮税は掛からないよ」
要するに、自分で使うかギルドに売るかって話だろう。
お譲りするなら上位迷宮数回分の稼ぎになるそうだが、こんなもん確定一択である。
「保持させてください」
「そうか。それは君自身が使うのかな?」
「いえ、あくまで予定ですね。いざという時の保険です」
「そ、そうか。保険か……」
暫く後、査定通りの金を受け取った俺達は、何故か俺の迷宮踏破で盛り上がる転移神殿を出て行った。
途中宴会に誘われたりしたが、止めておいた。普通に疲れてるしな。
「それ、持っておくのね」
「そりゃあな」
帰り道、俺は疲労と同じくらいのワクワクに心を躍らせていた。
レベルキャップ解放権なんてナンボ持っててもええですからね。今のところ使い道がなくとも、いつか使える日がくるはずだ。
何気にレベルキャップの事を知ったのは最近だったので、ちょっと不安だったのだ。まぁ全然兆候がなくて半ば忘れていたのだが。だって俺、一年目時点で大量のジョブ獲得してたし、グーラも全然余裕だし。
「今日の迷宮は激戦でしたね。それこそ尖兵戦みたいでした」
「まさか戦ってる最中にグーラが黒い炎を使いこなせるようになるとは思わんかったのぅ」
「ん、すごかった。でも燃費悪いから封印安定」
皆も皆で、久しぶりの熱戦にテンションを挙げていた。
ポルカも大概だったが、その後の乱戦は本当にマジで厳しい戦いだった。まさかダイヤカマキリ君にあんな能力が隠されていたなんて。イリハの奇策がなければかなり危うかっただろう。
「とりあえず、あと五回は潜ろうか」
「あいッス」
それはそうと、レベルキャップ解放権はスタメン分用意しようと思う次第。
暫くは最上位迷宮をヘビロテしよう。
隠しジョブに、レベルキャップ解放アイテムに、呪いの深域武装。
ここにきて知らない要素がガンガン出てきた。ワクワクが止まらないな。位階昇格の為に潜った最上位迷宮だが、またすぐにでも潜りたいところ。
まぁその前に自制していた欲望を解放しておきたいし、相応の休養も取らなくては。あと隠しジョブの検証なんかもしたいな。
異世界生活、最高である。
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