【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。いつもお世話になっております。
 誤字報告もいつもありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は三人称です。
 よろしくお願いします。


深く静かにハクスラせよ(5)

 世間一般の価値観では、迷宮ギルドの職員は余裕で成功者の部類に入る。

 何故なら、迷宮ギルドはラリス王国の国営組織であり、現代日本で言うとこの公務員に近い存在だからだ。

 行政官ほど狭き門ではなく、並みのデスクワーカーよりも高給取り、多くはただの荒くれ者だが、強い戦士のサポートが出来るギルド職員は憧れ職の代表格なのである。

 

 当然、その競争率は高い。転移石碑のない地方ギルドならともかく、王都務めのギルド職員はトップオブ花形である。

 これまた当然として、王都のギルド職員は相応に優秀であり、その多くは何処かしらの大学を卒業した上で何処かしらのギルドで実務経験を経ている。

 そして、転移神殿の主であるギルド長は、トップオブ花形職の頂点に君臨する超有能マンだ。

 有能マンの、はずだが……。

 

「先ほどから申し上げているように、当方にイシグロ氏へ命令する権限はございません。同じギルド長ならお分かりでしょう?」

「けれど場を整えるくらいできるでしょう? 聞いたところによると、彼は相当に温厚なお人柄とか」

「貴方こそ、イシグロさんの人品を利用しているのではなくって? 何も知らない彼を良いように、と」

「然り、然り……」

 

 王都アレクシスト、西区転移神殿。迷宮ギルドの会議室にて、各区のギルド長達は実にしょうもない事で揉めていた。

 何を隠そう、イシグロ・リキタカとその同盟の争奪戦である。ここにきて、イシグロはまたもロリ以外から引っ張りだこであった。

 

 西区ギルド長VS他区ギルド長。

 さっさとルクスリリア達を昇格させたい西区と、彼女等の銀細工昇格を邪魔したい他区という構図だ。

 それぞれの主張はこのようなものである。

 

 西区ギルド長としては、イシグロにヘソを曲げられたくないので彼女等には極力早く銀細工を授与したいのだ。大丈夫だとは思うが、彼等に王国から出て行ってほしくないのである。

 対する他区も理由なく邪魔している訳ではなかった。ルクスリリア達の銀細工昇格を承認してあげる代わりに、イシグロと接触させろと言っているのだ。あわよくば勧誘してやろうとも。

 イシグロの気性を知っている西区ギルド長としては、他区ギルド長は迷宮狂いの異常性を分かってないように見え、そんな彼等とイシグロは極力会わせたくないのである。そんな事情を知らない他区ギルド長からすると、それは西区がイシグロを独占しているように見えているのだ。

 

「ふわぁ~」

 

 賢いバカが言い合ってる中、受付おじさんの大きな欠伸は誰にも聞こえる事はなかった。

 イシグロ専属職員として同席させられている受付おじさんは、終始ボーッと天井のシミを数えていた。

 東西南北のギルド長も、普段からこうではないのだ。言ってしまえば、四人とも不世出の英雄に脳を焼かれているのである。

 

 言うまでもなく、イシグロは規格外の冒険者だ。

 まず当人の戦績が過去例を見ない程に突出しているし、西区どころか迷宮ギルドにおける記録を複数保持しているのだ。イシグロのせいで感覚がおかしくなっているが、並みの銀細工は月に一回中位迷宮に潜るかどうかが普通で、且つ必ず踏破するなんてあり得ない。また、これまで一党員が一人も欠けずに生き残ってるなんてのも異常事態である。

 それだけでも凄いのに、イシグロが看板冒険者になってからの西区ギルドは妙に景気が良いのだ。第一に“風舞”のニーナと“剛剣鬼”のラフィが拠点を移してきて、厄介冒険者代表のリカルトが大人しくするようになったのである。ギルドからすると、強い冒険者なんて何人いてもいいですからね。

 また、彼の薫陶を受けた者は大成し易いというのも大きかった。彼に次ぐ最新の英雄“遠き刃”のトリクシィは新人時代からイシグロ道場の常連だったし、イシグロの師の教えを受けたカント少年は野良の剣術大会で優勝してみせた。最近では双子淫魔の恋人である槍使いの少年も順調に実力を伸ばしている。

 そこにきてイシグロ当人が最上位迷宮を踏破しちゃったというのだ。迷宮狂いという悪名はともかく、こっちはマジで英雄の証左に他ならない。

 人格ヨシ、実績ヨシ、あともう少し見た目が良ければ最高だったが流石にそれは望み過ぎ。それが王都のギルド長から見るイシグロ・リキタカなのである。

 

 とかくギルドにいるだけで様々な恩恵を齎すのがイシグロだ。是非とも媚びを売っておきたいというのが他区ギルド長の考えである。

 有体に言って、他区ギルド長は自身の転移神殿にイシグロをスカウトしたいのだ。その為に、いくつかの交渉カードを切る用意があった。迷宮税の控除に、一等地にある住居の提供。何ならエッチな接待だって準備している。

 

「言っておきますがね! 噂や英雄譚だけで彼を計れると思ったら大間違いですよ! 箍が外れてるとか、そういう分かりやすさが無いんです! 変なんですよ根っこから!」

「だったら尚の事お話しするべきよね? 安心して、銀細工の扱いなら貴方より経験豊富よ」

「そういう人こそ危ないんですよ! 彼が王都に愛想尽かして出て行ったらどう責任を取るつもりなんですか!」

 

 会議は踊り、されど進まず。終いにゃ受付おじさんはウトウトし始めてきた。

 呼ばれるだけ呼ばれて放置されている受付おじさんは、眠気を払うべく最近の出来事を思い出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 始まりから現在に至るまで、今年はめでたい事の連続だった。

 

 災厄の前触れたる尖兵戦を退け、人類は一旦の安寧を手に入れた。

 その際には西区の冒険者が動員されたりして、それはイシグロを助ける為であった事は公然の秘密である。

 後に聞いた話によると、現場にいたイシグロは信じられない量の魔物と対峙してなお一切怯まず立ち向かっていたらしい。これには受付おじさんも「そういう事かよ」とご満悦になったものである。

 

 尖兵戦終了後、とにかく街はお祭モードで活気に満ちていた。イシグロを輩出した西区ギルドも鼻高々だ。

 で、件の英雄はぬるっと帰還し、いつもと変わらぬ無事な姿を見せてくれた。

 

「へ? 行っていいのか? 俺が。そうか、そうかそうか。なら一等良い服用意しとかねぇとな。昔買ったのまだ着れるかな……」

「そんな堅苦しいのじゃないですよ」

 

 かと思えば電撃的に結婚を発表。奴隷契約を解除し、元奴隷の少女達と一級国民身分で籍を入れるというのだ。

 これには受付おじさんもビックリだったが、すぐに「そういう事かよ」と納得した。要は責任を取るって話だろう。

 尖兵戦突破に続き、またまためでたい。しかも式には身内枠として受付おじさんも呼ばれちゃったりして、最初期からイシグロを見ている身からすると感慨深くて仕方なかった。

 だが、そんな受付おじさんの笑顔は式の全容が明らかになるにつれ引き笑いへと変化していった。

 

 当初、イシグロは身内のみを呼ぶ小規模な式にする予定だったのだが、その内訳がヤバかった。なにせ最初期の段階で伝説の英雄ヴィーカがいたのである。

 しかしその衝撃は序の口で、時が経つにつれどんどん話が大きくなっていき、いつの間にかイシグロの結婚式は淫魔王国の貴族屋敷で催される規模感になっていった。

 さらに、銀竜剣豪が来るならとイシグロと縁のある有力者がどんどん集まってきたのである。ラリス貴族や他国の重鎮に加え、止まり木盟主のアリエルに荒野の牙のナターリア。唯一の救いは身内枠として顔なじみのアダムスや一部の西区冒険者も呼ばれていたところだ。

 ちなみに、西区ギルド長は呼ばれる気満々だったらしいが、最後の最後まで呼ばれず放置されていた。イシグロとの接点がなさ過ぎた故、さもありなんで致し方なし。

 

「ラリス王国、王位継承権第二位。第三王子ジノヴィオス殿下の御来場で~す」

 

 そうしていざ当日を迎えると、受付おじさんの予想は盛大に外れる事となった。淫魔女王が公然と進行役をやっていた上、まさかラリスの第三王子が来るとまでは思っていなかった。そうはならんやろ、というのが素直な感想である。

 式自体の構成もまた、一から十まで特別仕様だった。見た事ない演出や料理に、新旧の儀式の数々。とてもではないが、一介の冒険者の結婚式とは思えぬ規模であった。

 

「やぁ、君がイシグロさん専属のギルド職員だね? 少し話をさせてほしいのだけど、ちょっと時間いいかな?」

 

 しかも、である。ただでさえ場の雰囲気に圧倒されている受付おじさんに、トドメを刺すようにして第三王子が無礼講を体現して声をかけてきたのだ。

 後になって、受付おじさんは生まれて初めてラリス大学に通っていて良かったと思った。適当に取った上流礼法の講義がこうも役立つとは……。

 

 なお、王都に帰ってきた受付おじさんは盛大に腹を壊して医者の世話になる事となった。

 

 

 

 西区に帰ってきたイシグロに、式の前後で大きな変化は見受けられなかった。

 新妻達と町をブラブラし、以前と同様に鍛錬場に籠り、当然とばかりに迷宮を攻略する。

 普通に考えてサラッと迷宮を攻略するなんてマジでおかしいのだが、これがイシグロ達の日常だった。ていうか新妻達の様子も奴隷時代と何も変わっていない。

 

 尖兵戦を乗り越え、大規模な結婚式を催した。流石に例年のような奇行はないだろう。実に穏やかな春だった。

 なんて油断していると……。

 

「あー、行ってきます」

 

 何の脈略もなく、イシグロ一党は最上位迷宮に潜っていった。

 最上位迷宮と言えば、上位迷宮を複数回踏破した経験のある銀細工一党すら高確率で未帰還になる最難関の迷宮である。一生のうち一度でも踏破できれば、確実に王家から叙爵の誘いがある程の偉業だ。

 それを、新婚で? 何の為に? 何故? 受付おじさんだけではなく、冒険者を含めた転移神殿の面々は得体のしれない感覚に見舞われていた。いずれやるかもと期待していたが、今かね? という感じである。

 

「と、とにかくギルド長に報告しろ! お前行ってこい!」

「俺すかぁ!?」

 

 踏破後の諸々の為に、書類やら何やら準備する必要があるのだ。潜ったのが並みの銀細工ならともかく、イシグロなら確実に踏破するだろうから。

 時を同じくして、受付おじさんは以前接触してきた第三王子派閥のエージェントに連絡した。話を聞いたメイドは「はえー」みたいなマヌケ顔を晒していた。

 

 最上位迷宮は、他の迷宮とは桁違いの未帰還率を誇っている。

 イシグロなら大丈夫。そう信じていても受付おじさんは落ち着く事ができず、らしくもなく一人で六人分の仕事をこなしてしまった。周囲からの「普段からそれくらい働けよ」という視線は、当時のおじさんには届かなかった。

 

「換金お願いします」

 

 そうして夜になりかけた頃、イシグロはしれっと帰還した。その手に踏破の証たる聖遺物を持って。

 瞬間、神殿中が歓声に包まれた。ギルド職員も冒険者も、皆して星髄石を眺めていた。ベテラン職員たる受付おじさんさえ、最上位迷宮の聖遺物を査定するのは初めてだった。

 

「そうそう。最上位迷宮を踏破した訳ですし、これは流石に皆の評価に繋がりますよね?」

 

 すると、歓声の中心にいたイシグロは、おじさんにだけ聞こえるような声量で爆弾を投下してきた。

 要するに、最上位迷宮を踏破したのは妻達の位階昇格を早める為だったというのだ。過保護と見るか、誠実に過ぎるというべきか。改めて表出したイシグロの異常性に、受付おじさんは畏れと喜びで身を震わせた。

 

 その後の事は、受付おじさんの知るところではない。

 ただ、件の最上位迷宮で手に入れた深域武装がギルドに貸与されたという結果だけを聞かされた。

 戦利品を預けろ……なんて、銀細工からしたら憤慨ものである。いくら契約で縛っても本当に返ってくる保証はないのだ。だというのにあっさりギルドへ預けたあたり、譲歩されたと見るべきだろう。イシグロには明確な目的があるのだから、忖度せねばならなくなった。

 

 翌日である。

 何故か呼ばれた受付おじさんを交え、各区のギルド長が会議を始めて今に至るという訳だ。

 そんでイシグロ争奪戦をしているあたり、ギルド長達も尖兵戦後のお祭モードに当てられているのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 貧乳淫魔のルクスリリア。

 銀竜一族のエリーゼ。

 鉄塊剣を振るう魔族のグーラ。

 天狐陰陽術師のイリハ。

 変な杖を持つ天使のレノ。

 

 最上位迷宮を突破した元奴隷達の実力など、今さら疑うべくもない。強者一人が引率したからといって、そう易々と突破できる訳がないのだ。

 それはともかく、六人中五人が木札の一党が最上位迷宮を突破するなんて前例がないのも確かだった。前哨戦の迷宮探索で鉄札への昇格が内定していたところ、それを待たずしての現状である。

 ここで相応の対応をせねば、最上位迷宮の価値自体が低くなってしまう。イシグロからの催促もあり、もう木札から銀細工への飛び級昇格でよくない? ってなっていた。

 

 そこに横槍を入れてきたのが他区のギルド長だ。ただでさえイシグロの活躍と恩恵でぐぬぬしてたところ、続けてルクスリリア達が一気に昇格してしまっては面白くなさ過ぎて沽券がどうのというレベルの話ではなかった。

 そも、数年前のイシグロの銀細工授与自体に反対していたのも他区ギルド長達である。当時は実績で殴られて承認せざるを得なかったが、今回ばかりはただでは退かない。西区だけでいくつの記録を独占するつもりだ、と。

 

 完全に厄介権力者ムーブのソレだが、割と切実な事情があった。何せ他区の冒険者達がイシグロ目当てに西区へ流れていっているのである。その筆頭こそがニーナだった。他区も頑張って引き留めているが、強い冒険者ほど言う事を聞かないのでイマイチ効果がなかった。

 対し、西区ギルド長も必死だった。如何に温厚なイシグロとはいえ、例の元奴隷が彼の逆鱗である事は明白なのだ。一刻も早く新妻達を昇格させねば、物理的に首が飛ぶかもしれない。迷宮狂いの性質を知り得ているギルド長からすると、この現状は強風が吹きすさぶ高所で綱渡りをしているような心地であった。

 

 他方、受付おじさん視点そんなギルド間政治には無関心にならざるを得なかった。

 確かに、イシグロは妻達の迅速な昇格を望んでいるようだったが、奴の性格上しっかり誠実に事情を説明すれば普通に待ってくれる確信があった為だ。

 それに、この会議のオチは見えている。欠伸をかみ殺したおじさんは何となく扉の方を見た。頭の中で噂をすれば、である。

 

「失礼します」

 

 バン! と、わざと出したであろう大きな音に注目が集まる。会議室に入ってきたのは、第三王子付きを意味する記章を身につけた男性文官だった。

 困惑する西区以外のギルド長に、彼は速足で接近して何事かヒソヒソと耳打ちした。すると、ギルド長達はビクッと身を震わせて顔を強張らせていた。

 まぁこうなるな、と。受付おじさんは温くなったお茶を飲みながら思った。

 

「ごほん! えー、先程は何を話していたかな。そうそう、銀細工授与の日程だったね」

「おほほほほ……」

「し、然り然り」

 

 以降、他区ギルド長は態度を一変させ、何事もなかったかのように会議は順調に進行していった。

 最終的に、ルクスリリア達の銀細工飛び昇格は承認された。その代わり、手続きの関係で実物の授与は遅れるという運びとなった。これによってイシグロの銀細工最速記録は更新されず、八方丸く収まる……はずだ。

 

「そうでしたか。ご対応頂き、ありがとうございます。皆もお礼言おうな」

「「「ありがとーございまーす」」」

 

 その旨を受付おじさんから伝えられると、案の定イシグロは普通に受け入れていた。

 以降、銀細工昇格が内定したルクスリリア達は、頭目共々いつも通り過ごしていた。何日か休養を挟んで鍛錬場に通い。ややあって中位迷宮を踏破していた。

 いや休めよって話だが、迷宮狂いは定期的に迷宮を踏破しなければ気が休まらないのだろう。知らんけど。

 

「では……始めようか。昨日はどこまで進んだかな?」

「何も進んでいませんよ、ギルド長」

 

 さて、一難去ってまた一難。西区ギルドの会議は連日続く事となった。

 今回のメンバーは西区ギルド長に加え、参加を希望するギルド職員全員である。

 その議題はというと、やがて昇格するイシグロの妻達の二つ名についてである。

 

 二つ名決定会議。現代日本の感覚だと「はぁ?」って感じだが、異世界人からすると一大事に他ならなかった。

 元々、二つ名制度については当のラリス王家が必ず付けるよう厳命していたのである。制度はやがて文化・伝統となり、こうして銀細工への名付けは慣例となったのだ。

 

「う~む、やはり私としては“銀杖”とか“光束”とかが良いと思うのだが……」

「ちょっと普通……三点!」

「古過ぎィ! それ百年くらい前のセンスですよ!」

 

 残念ながら、二つ名会議は難航していた。そんなん一回で決めろって感じだが、昇格が内定した翌日からこっち連日で行われていた。

 というのも、名付けに精力的な西区ギルド長のセンスが非常に爺臭かった為である。ぶっちゃけイシグロの二つ名である“黒剣”自体、ギルドの若者には不評だった。別にダサくはないのだが、言ってしまえば異世界版山田太郎なのである。色+得意武器の二つ名なんて界隈ではありふれているのだ。

 そもそも今のイシグロの剣は黒くないし。これを機にイシグロの二つ名も変更するという案も出ていたが、西区ギルド長は頑として譲らなかった。

 他区ギルド長との口喧嘩では三対一で拮抗してたのに、名付け関連はポンコツなギルド長。彼がボトルネックになってるせいで、なかなか決まらないのである。

 

「ギルド長、相手は女の子なんですよ! だったらもっとオシャレなのにしましょうよ! ほら、最近は頭に動詞を付けるのがトレンドだったり!」

「しかしねぇ、昔から戦場では短い二つ名が好まれるというし……」

「最近は二つ名を呼ぶってのも無いらしいですけどね。あくまで覚えやすくする為っていうか」

 

 良く言えば古風な二つ名を付けようとするギルド長に対し、女性を筆頭に若いギルド職員は猛反発していた。

 何故なら、下手なのを付けるとイシグロが不機嫌になるかもしれない……というのは建前で、西区ギルドの女性陣がルクスリリア達に肩入れしていた為である。

 全くモテない元奴隷がどちゃクソ強い元主人の英雄に見初められるという異世界シンデレラストーリーは、ギルド務めのエリート女子に大いにウケたのだ。彼女達にとって、ルクスリリア達は現実に起こっているラブコメの主人公なのである。そんな主人公に古くて爺臭い二つ名がつくなんて絶対絶対あり得ない。

 ちなみに、ルクスリリア達の中で最も女子人気があるのはエリーゼだった。エリーゼ視点のラブコメのタイトルを付けるなら、「高貴な銀竜一族に生まれた私が奴隷堕ちして絶望してたところ新進気鋭の英雄に買われて富も力も名誉も愛も溢れるくらい捧げられちゃいました! ~実家に戻ってくれと言われてももう遅い~」みたいな感じになるだろうか。

 

「では、ここに書かれたものから、イシグロ氏に選んでもらうという事でいいかな?」

 

 喧々諤々の会議の末、ギルド側で出した候補からイシグロ達に決めてもらおうという流れになった。

 時は進んで翌朝である。夜遅くまで続いた会議でパッキパキにキマッている職員達は、その日も神殿にやってきたイシグロ御一行に注目していた。

 そこで職員の一人が彼に声をかけたところ……。

 

「ああ、すみません。今から迷宮なので、後でお願いします」

 

 けんもほろろにいなされて、イシグロ達は転移石碑のある方へ歩いていった。

 ギルドの職員に迷宮探索に挑む冒険者を止める事は許されない。ああ今日も潜るのね、

 なんて思っていると……。

 

「「「ほげっ?」」」

 

 イシグロ達は、またも最上位迷宮に潜っていった。

 ポカンを超えたポカンである。以前の最上位迷宮踏破から七日しか経っていないぞ。ていうか昨日中位迷宮潜ってるじゃん。つまり昨日のもまた前哨戦だった……ってコト!?

 

「ぎ、ギルド長~!」

 

 そんな訳で、一般職員は疲れて眠っていたギルド長を叩き起こす事になり、急いで諸々の準備に取り掛かるのであった。

 

「換金お願いします」

「……おう、緑の一番な」

 

 で、イシグロ達は何事もなく帰ってきて、星髄石を持ってきた。

 ギルドにとって幸運だったのは、その迷宮探索でイシグロ達は深域武装を持ち帰ってこなかった事だ。アレがあると色々と手続きが面倒なのである。

 

「あー、お嬢さん方の二つ名なんだがな……」

「その事なんですけど、昨夜こっちで考えてきたんでこの中から選んでもらっていいですか? 被ってるのとかあるとアレですし」

「……え?」

 

 そんな中、二つ名会議の内容を伝えようとした受付おじさんに、イシグロは自分達で作成した二つ名候補の一覧表を手渡してきた。

 

「前に、こっちで希望した二つ名は基本通るって聞いたんですけど」

「あ、ああ……」

「ていうか、何でトリクシィさんの二つ名通らなかったんですか? 本人けっこう気にしてましたよ」

「それはアレだ……もう似たのがあってな」

 

 間が悪いというか、何というか。

 これはもう、こっちを通すのが一番丸いだろう。昨日の会議は何だったんだという気持ちが、受付おじさん含む西区ギルド職員に広がっていた。

 

「まさか、これ以上潜るとか……ないよな」

「流石にないっしょ。昇格は確定してんすし、もう潜る理由ないっすもん」

「そうだよな、うんうん。まさか、な」

 

 転移神殿を去るイシグロの背を見て嫌な予感を覚えた受付おじさんに、軽いノリの職員が笑って返す。

 人、それをフラグという。 

 

「ふぅ~、今日のはアトラクションみたいで面白かったな!」

「アトラクション? まぁ楽しめたのは事実ね」

 

 やっぱり潜った。

 三回目の最上位迷宮、イシグロ達はニッコニコで帰ってきた。

 

「今日は早めに寝ようか。夜も胃に優しい飯にしよう……」

「うッス。今はもう一刻も早く寝たいッス……」

 

 四回目、イシグロ達は疲労困憊の様子で帰ってきた。

 

「あ、やっと解放されたんだなって。今俺クソゲーハンターの気持ち分かった」

「色んな意味で辛かったですね。匂いからして、こっちは一日しか経っていないようですし……」

 

 五回目、イシグロ達は死んだ目で帰ってきた。

 

「いやぁ大量大量。今回のはめちゃくちゃ美味かったゾ~」

「ん、今までで一番バランスが整ってた」

 

 一度目から数えて六回目、イシグロ達は満足げな顔で帰ってきた。

 後々の報告によれば、イシグロ達が潜った最上位迷宮はどれも一筋縄ではいかなかったようで、並みの一党なら手も足も出ない難度のように思われた。

 また、イシグロが書いた報告書には、「この仕様は楽しかった。またやりたい」だの「このギミックを考えた奴は真摯にユーザーの声を聞くべき」だの「開発者は本当にテストプレイしたのかと思うくらい雑な仕様だった」だのといった謎の所感が載っていた。

 めっちゃエンジョイしていた。

 

 結局……。

 銀細工昇格までの二ヵ月、イシグロ達は最上位迷宮を都合六回も踏破してのけた。

 そのうち前哨戦として中位迷宮の踏破なんかも添えて。

 

 前人未到というか、前代未聞である。

 長い迷宮史の中で、ラリス王家を除けば間違いなく最上位迷宮の最多踏破記録だった。

 

「ほぉ~? これがアタシの銀細工ッスか。ご主人のとは違うッスね」

「見てください! ボクの銀細工はイライジャ様の意匠で、ルクスリリアはリアルイーザ様ですよ!」

「私のはお祖父様ね。随分と粋な事してくれるじゃない」

「ん、わたしのはジュスティーヌ様」

「わしのアレクシオス様なんじゃが、どっちかというとコレ主様のが相応しいんじゃないかのぅ」

「ハブられてるゼノン氏に悲しき現在。まぁこれ本来は授与される年によって変わるらしいし」

 

 約束の日になり、元奴隷の新妻達には元主人と同じ冒険者証が授与された。

 粋な事に、エリーゼの銀細工は銀竜剣豪モデルで、グーラは拳聖イライジャ仕様。当然、レノは極光天使エディションだ。二つ名もイシグロの希望が通って、それぞれが新たな名を持つ事となった。

 

「お前、来週もまた潜ったりするのか……?」

「いや~、流石にちょっと食傷気味ですね。最上位迷宮は別ゲーやってる感じで楽しいんですけど、当たりハズレ激しいですし。あくまでメインコンテンツはローグライクダンジョンハクスラなんで、俺はこっちのが好きかなと」

「おう、そうかそうか」

 

 どうやら、これで終わりらしい

 ふぅと安堵した受付おじさんの眼前……。

 

「なので……」

 

 ポン、と。

 イシグロはスタメンとは別の妻達の肩に手を置いた。

 

「次は彼女達ですね。下位から始めて、少しずつやってくつもりです」

「おう、戦いは久しぶりだからな。ちょっとずつ勘を取り戻さねぇと」

「まぁ余裕だとは思いますが、程々にお願いしますよ。連日潜ると色々と緩んでくんですから」

 

 再登録で木札に戻った森人と、鋼鉄札の麒麟。彼女達もまた、イシグロの妻であり草薙の剣の盟友だった。

 呆気に取られる受付おじさんを置いて、二人を連れたイシグロは三人専用の下位迷宮へ潜っていった。

 

「お、おかしい。おかしいと思わない事が、色々とおかしいぞ……」

「イシグロさんって間違いなく英雄なのに英雄って思いたくねぇっす、自分」

「だな。ベレニケちゃんもそう思わない?」

「はぁ~♡ イシグロさん、今日も素敵♡」

「ダメだこりゃ。クーシェンでも盛大にやらかしてたんだろうなぁ」

 

 受付おじさんも、一般ギルド職員も、西区ギルド長も。

 まだまだ振り回される事が確定した瞬間であった。

 

「換金お願いします」

「おう、緑の一番な」

 

 無論、言うまでもなく、明白な事として。

 イシグロ・リキタカは帰ってくる。




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 同盟所属の銀細工下位冒険者は、基本的に中位迷宮に潜っています。中位迷宮の稼ぎがザコドロップ無しで1000~2000万ルァレくらいなので、冒険者個人の儲けそこから同盟への上納金を引いた残りを等分したものになります。
 イシグロの無銘ロンソが素材提供無しで2億くらいするので、そういう人からするとルクスリリア達の武装は羨ましくて仕方ありません。銀細工下位の多くはザコドロップを加工した補助効果無しor補助効果の少ないモンハン風武器を使ったりしています。鉄製武器より頑丈なので。
 ちゃんと貯金してたら怪我したり武器壊れたりしても平気なんですが、冒険者の多くは宵越しの銭を持たないので保険として同盟に参加してる訳です。
 戦闘力はマチマチで、何かしらに特化しがちな人が多く不安定。
 例:ウィード(尖兵戦後時点)、一人称がオデの冒険者等。

 銀細工中位は割と悠々自適な暮らしをしており、月一回中位迷宮を潜ったり、雑に迷宮外の冒険者依頼を受けています。
 このレベルの冒険者は自己管理できている事が多いので、必要経費としてしっかりと武器やアイテムにお金を使っています。ここで補助効果の多い鉄製武器派になるか基礎性能の高いモンス素材派になるか分かれます。強い人は比率的に補助効果を重視する傾向にあります。
 戦闘力は安定しており、「~はできるけど、~はできない」という人は少ない。
 例:リカルト、モニカ、グレモリア等。

 銀細工上位は殆ど超越者めいた扱いで、武器も防具もキラキラしています。貯金もクソほどあるのでお金に困る事はまずありません。
 同盟に関しても盟主になったり未加入だったり、加入してても上納金免除とか特別待遇を受けます。好みの冒険者を集めたハーレム同盟とか作っちゃう剛の者もいます。
 ここまで辿りつく人はある程度の狂気耐性を得ているので、中位以下に比べると暴走し難い傾向にあります。そうでなくともお上に怒られないか怒られるけど許される範囲で自分のご機嫌を取る術を心得ています。
 このランクの冒険者は突出した戦闘力を持っており、均整が取れつつ明確な得意分野を持っています。
 例:グレイソン、ラフィ、ニーナ等。

 ちなみに、イシグロやトリクシィは冒険者ピラミッドから外れた変態枠で、登録からこっち唯我独尊のゴーイングマイウェイを貫いて生き残っています。
 ギルド的に扱いに困るが、こういう人は統計的に英雄になりやすいので王家的には大歓迎。
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