【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。皆様の感想が執筆の原動力になっております。
 誤字報告もありがとうございます。いつも感謝しております。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は一人称、イシグロ視点です。
 よろしくお願いします。


ラピスラロリ

「「「かんぱ~い!」」」

 

 王都の酒場の二階席で、俺たち草薙の剣は杯を掲げていた。ホントは荒くれ冒険者風にガツンとぶつけたいところ、机がデカ過ぎてできなかったのだ。 

 夜である。いつしか行きつけになった酒場にて、丸くて大きな机の上には種々様々な料理が並んでいた。肉に魚介に野菜に色々。この料理店、質を問えるし何でもあるのだ。今宵のメインは今しか獲れないラリスセンシャガニとかいう化け物蟹だ。

 

「んくっ、んくっ……ぷはぁ~! やっぱ、真夏の夜に冷えたビールを……最高やな!」

「マスターはよくそんな苦いの呑めるね。なんで皆そんなのを美味しそうに呑むんだろ」

「まぁこういう麦系ビールは好き嫌い激しいからのぅ。その点、わしはキンキンに冷えたにごり酒が好きじゃな~」

「酒が美味しいのは心が健康な証よ。このカニには何が合うかしら」

「にしてもこの店は何でも揃ってていいねぇ! おうチィちゃん! アタイにもラリスビールちょうだい!」

 

 何で酒場に来てるかというと、皆の銀細工昇格祝いの為である。

 今現在、シャロとユゥリンを除いた草薙の剣の胸には銀細工が下げられているのだ。

 

「初めて迷宮潜ってから銀細工まで長かったッスね~。奴隷身分の最多踏破記録とかも達成してそうッス」

「実際には最上位迷宮一回でいけたらしいけどな。登録からの最速記録はそのままだ」

「ギルド間政治でしょう? 弱い者ほど権威にしがみつくのよ。圧倒的な力の前には権威など無意味だというのに」

「ふへへ、これシラフで言ってるのマジで凄いと思いますねぇ。しかし暴力の本質を理解してる竜族思考には好感を持てます」

 

 銀細工昇格が内定したのは一回目踏破時点で済んだらしいが、最終的には計六回潜る事となった。

 当初は周回する予定などなかったのだが、踏破報酬にレベルキャップ解放アイテムがあったのだから仕方ない。本当に仕方ない。そんなの回るしかないじゃない。

 そんな感じで周回した最上位迷宮だが、終わってみれば割と楽しかった。潜る度に仕様が異なっていて度々理不尽を感じていたが、何やかんや攻略法があったのだ。

 一回目以降、新しい深域武装はドロップしなかったが、何にせよ稼ぎも経験値も美味しかった。色々あって預けた深域武装については、第三王子が回収して実験に使うらしいとの事。あと、連絡してきたエージェント・メイドさんから「最上位迷宮に潜る際は事前にお知らせ下さると幸いです」と死んだ目で言われた。ごめんて。

 

「皆ホントにおめでとうねぇ。はい、お酒もいいけど野菜も食べなきゃダメよ」

「いやいや、最近はアタイもちゃんとしたモン食ってるから。酒も控えてるしな」

「それでいうとチィ姉のが酷いですよ。この前掃除しに行ったら皿の上にご飯残ってたままだったし」

「うっ? ま、まぁ食生活自体はしっかりしてるから……」

 

 そのうち、シャロとユゥリンも銀細工にする予定である。

 彼女達が銀細工になったら、また最上位迷宮に潜ろうかな。まだまだ先の事だろうが、レベルカンストした時の保険は持っておきたい。

 

「これで屋台で割り込まれる心配はなくなったッスね。いやぁ奴隷身分じゃなくなった直後はマジでうざかったッス」

「あっ、“愛鎌”のルクスリリアさん、ちぃ~っす」

「くるしゅうないッス!」

 

 皆さんも銀細工になったので、例によって二つ名がつく事となった。

 最上位職の中には、二つ名と同じ名の強力な特殊ジョブが存在する。もしかしたら性能が名前に引っ張られるかもしれないので、皆の分はギルドに任せず家族会議で決定した。

 とはいえ当のルクスリリアは二つ名に興味はなかったらしく、キーワードを書いた紙をシャッフルして決めた。ラリス語の愛と鎌で“愛鎌”だ。

 

「ん、エリーゼの二つ名も即決だった。さすが判断が早い」

「ふふっ、“月蝕光祈”……前々から考えていたのよ」

 

 対し、エリーゼは自分の権能から取ったガチネーミングだった。

 口当たりも大事だが、もし二つ名がジョブになるなら権能関係でボーナスが付くのではという予想である。まぁ名前に意味を持たせて祈りを籠めるのは日本の感覚なら普通である。

 

「色々話したけど、最終的にはグーラの“炎雷”で決まったのよね」

「んぐ、はい。そうでしたね。もぐもぐ……」

「あん時もグーラさんはお菓子に夢中でしたねぇ」

 

 グーラの二つ名は彼女の種族特性を現したシンプルネームだ。

 彼女の二つ名会議は当人以外が大いに盛り上がり、最終的にグーラによる「もう炎と雷でいいんじゃないでしょうか?」の一言で決着した。その時、グーラはイリハ特製のおせんべいに夢中だった。

 

「時間で言うならイリハの“桜霞”が一番かかったよな。日跨いだ朝に決まったし」

「な~んか恥ずいんじゃよなぁ。良い歳して粋がっとるみたいで」

「おぅ歳の事ぁ言うんじゃねぇやい。それにアタイからしちゃイリハはまだ若ぇ」

「ならシャロさんの時はめちゃくちゃイキッたの提案しましょうか」

 

 地味に一番苦戦したのがイリハである。二つ名は武器や能力から取る事が多いらしく、イリハなら刀とか陰陽術の要素を入れるべきかと思い迷走したのだ。

 結局、翌日に洗い物をしていたイリハの後ろ姿から思いつき、そのまま俺の案が通った。彼女の桜髪は至宝である。

 

「レノっちの二つ名は今風でシュッとしてるよな。アタイもこういうのがいいぜ」

「ん、“射貫く天眼”のレノです。よろしくお願いします」

 

 レノの二つ名もいい感じだ。何より当人がムフーッと気に入ってるのが良い。

 彼女の魔眼は猫又によって無理やり移植されたものだが、現在はそこを含めて自身の能力を肯定できている。これもまた成長だろう。

 

「ご主人の二つ名も変わってよかったッスね~」

「俺は別に前のままで良かったんだけどな。どっちみち“迷宮狂い”だし」

「あら、“黎明”の方が好きよ私は」

「うっす、俺“黎明”のイシグロっす」

 

 あと、なんか知らんがいつの間にか俺の二つ名が変更されていた。

 どうやら俺の知らないところで署名運動があったらしく、以前までの二つ名である“黒剣”は船を降ろされ荼毘に付されたのだ。結婚式の際に発表された剣の名前からとられたっぽい。

 

「あとはユゥリンとシャロだけだな」

「ぶっちゃけ興味ないですねぇ。なんか嵐極拳っぽいのでオナシャスっと」

「さっきはああ言ったが、実際問題アタイはそれなりのもんじゃねぇと困るんだよな。一応、ルーニアでの立場があるしっと。あぁまた失敗しちまった」

 

 綺麗に茹でガニの脚を折っていたユゥリンの隣で、シャロは盛大に失敗してショボン顔になっていた。可哀想だったので俺が綺麗に折ったのと交換してあげた。

 

「その、何だっけ? 皆は二つ名ジョブってのには成れたのか?」

「いや全然」

 

 銀細工認定されて二つ名が付いたものの、ルクスリリア達にはまだ二つ名ジョブは生えていない。

 俺の最上位ジョブに“黒剣”が生えてこなかったように、命名されるだけでは条件を満たせないのかもしれない。実際、二人とも銀細工であるニーナさんとクリシャナさんも前者は二つ名ジョブで後者は種族固有ジョブだった訳で。

 

「まぁ気長にやってくッスよ。最上位迷宮のお陰でレベルアップしたッスし」

「ん、光力の容量が上がった。それでもアレに乗ってた時よりは弱いけど」

「私ももっと強くなりたいわ。負けたままじゃあ姉の沽券に関わるもの」

 

 ルクスリリアの言う通り、最上位迷宮の経験値はかなり美味しく、各々レベルアップしていた。

 一方、エリーゼだけはここ一年レベルアップしていない。例によって最上位迷宮でもMVPを連発してたのに、である。以前まではピンピン伸びてたのに、ここにきて停滞したのだ。

 既にレベルキャップが来てるのかとも思ったが、エリーゼの感覚的には違うっぽい。例え限界が来てもすぐ解放できるのもあって、特に焦ってはいなかった。

 

「レギーナへのリベンジはそのうちな。俺もいつかハンデ無しで倒したいし」

「竜族倒すってだけで充分偉業なんスけどね~」

「ていうか、さっきからグーラが大人しいんじゃが……」

「もぐもぐ……すみません、カニに夢中で、もぐもぐもぐ……」

「はぁい。カニ飯カニ汁カニ天カニ焼きカニ刺し、あとカニクリームコロッケお待たせ~」

「ひゃっはー! カニクリームコロッケはアタシのもんッス~!」

「ご主人様発案の料理が王都で食べられるなんて感動ですね。あ、カニみそいりません」

「別に俺が考えた訳じゃないって。カニみそは貰う」

「美味しいですよねぇ、カニみそ」

「アナタ、刺身と清酒を取って頂戴」

「いやぁ生で食うなんてどうかと思ってたが、こいつぁマジのガチで最高だな!」

 

 ていうかカニばっかである。そんくらい食いでがあるのだ、このラリスセンシャガニには。

 そんな感じで、銀細工昇格祝いの宴会は過ぎていくのであったとさ。

 

 

 

 

 

 

 スタメンが銀細工になって以降、俺はシャロとユゥリンを銀細工に上げるべく彼女達を連れて迷宮に潜っていた。

 迷宮の内外でブイブイ言わせてたルクスリリア達と違い、二人にとって迷宮探索はゴブサタである。なので最初は下位から始めて、現在は中位迷宮をヘビロテ中だ。

 ヘビロテと言いつつ、そこまでヘビーではない。依然としてシャロにはルーン使いとしての仕事や資格取得の勉強があるので、せいぜい週に一回程度だ。

 

「はい解毒解毒。大丈夫かしら?」

 

 ちょうど今潜っている迷宮は四人で潜れる迷宮なので、補助要員としてエリーゼにも来てもらった。

 彼女には攻撃を控えてもらい、バフ・デバフや回復に専念してもらった。この世界の経験値配分は仮称戦闘貢献度で決まるので、攻撃はシャロとユゥリンに任せている。位階昇格もそうだが、ちゃんとレベリングもしないとな。

 

「どひゃー! ルーン描く暇がねぇよ! こ、こいつ何とかしてくれぇーっ!」

「情けないですねぇ。今助けますよっと、ふん!」

 

 取り巻き付きのボス戦である。さっきから危なっかしいシャロと違い、ユゥリンの立ち回りは堂に入っていた。

 ステータスは置いておいて、草薙の剣で最も戦いが上手いのはグーラだ。ユゥリンはその次。戦闘全般が上手いのがグーラで、タイマンが上手いのがユゥリンといった感じか。

 それでいうと、最も下手なのがシャーロットだ。次点でエリーゼである。エリーゼの場合、スペックと実戦経験で何とかなってる感じだ。そんな彼女も一年目よりずっと動けるようになっている。

 

「行くぞ! へいパース!」

「んなもんパスすんじゃねぇーっ!」

「おぉ上手上手。その調子ですよ、シャロさん」

 

 慌てず騒がず落ち着いて。シャロに作ってもらった不殺の木刀――神樹刀で【受け流し】から【剛剣一閃】で雑魚魔物をパスする。

 俺も俺で、自分の事を才能マンとは思ってない。借り物を持ってるだけのパンピーだ。なのでとにかく実戦を重ねていき、やがて戦闘のプロになろうと思う次第。

 だが、戦闘慣れしても油断はしない。レベルアップしてもあっさり死ぬのがこの世界だ。戦闘慣れは結構だが、努々油断せずに行こう。

 

「今です! ルーン魔術かましちゃってください!」

「おっしゃ間に合えぇええええ!」

 

 動きを止めたボスに、シャロが描いたルーンから出た黒い雷が突き刺さる。他一族との交流で生まれた新規戦闘ルーンだ。 

 その性能は現魔法環境でも通用する程で、実際その弾速と貫通力は並みの雷魔法を優越している。チートが無かったら受け流せないだろう。

 

「はいお疲れ~」

「うへぇ~、やっぱまだ慣れねぇなぁ」

 

 ややもあり、ボス魔物は死んだ。青白い粒子となり、俺達の身体に吸収されていく。帰還水晶も出てクエストクリアだ。

 やっぱ、圏外の強ボスより迷宮内の魔物の弱ボスのが経験値が多いな。ドロップも美味しい。

 

「この感じ、ワタシってばレベルアップしちゃったみたいですよ」

「おぅアタイもそうらしいぜ。冬の仕事終わりに入る風呂ってこんな感じするもんよ」

 

 ユゥリンとシャロは今の戦いでレベルアップしたらしい。

 全員最上位職に到達している草薙スタメンと異なり、彼女達は未だ上位職だ。早めに銀細工を得ておけば、最上位職の解放と共に二つ名系が生えてくるかも。

 で、エリーゼはというと……。

 

「お待たせ。私も今さっき強くなったわ」

 

 うっすらどころかがっつりドヤッている。どうやら彼女もレベルアップしたらしい。

 そんな訳で、各々のレベルを確認してみる。

 

「ん?」

 

 したら、なんか変だ。エリーゼの名前の横に謎の記号が増えていたのである。タップしてみると、「レベル上限到達」と表示された。

 一瞬、ゾッとした。けれども、次の瞬間には落ち着く事ができた。何故なら、既にレベルキャップの解放アイテムを持っているからだ。

 

「エリーゼ」

「なにかしら?」

 

 コンソールから視線を外し、ドヤ顔エリーゼと目を合わせる。

 

「最初に使うのはエリーゼになるぞ。アレ」

 

 記念すべき初開花は、エリーゼだった。

 

 

 

 レベル上限とは、そのままレベルが上限に達してこれ以上成長できなくなる状態の事だ。

 異世界人にはレベルの概念が無いので、こっち的には魂の器が満杯になったという風に表現されるらしい。

 ……と、最上位迷宮踏破後に王子から貰った本に書いてあった。

 

 件の本に曰く、星髄石によるレベルキャップ解放は魂の器の拡張だと考えられており、レベルアップ解放時にはランダムで異能を得る場合もあるとか。

 ただレベルキャップが解放されるだけじゃない。確実に強くなるのが上限突破だ。これはもう普通にめでたいだろう。

 

「ふぅん?」

 

 で、だ。とうとう上限に達したエリーゼはというと、手に持った星髄石を矯めつ眇めつしていた。見た目は如何にも何かのキーアイテムっぽい青クリスタルである。

 翌日である。場所はいつもの鍛錬場で、今から上限解放の儀を行おうというのだ。

 

「それで、これをどうすればいいのかしら?」

「え~、まず一定まで魔力を籠める。したら石が光るから、それから握りつぶして」

「貴重品なんスから、権能で壊すんじゃないッスよ~」

「分かってるわ」

「何だか緊張しますね……!」

 

 本人でもないのに一番ドキドキしているグーラを置いて、星髄石を掲げたエリーゼは少しずつ魔力を籠めていった。

 すると謎クリスタルは発光していき、やがてLEDクリスタルになった。条件満たしてないと光らないらしいので、表示通り彼女は上限に達していた訳だ。

 

「そのままギュッと握るんだ」

「ええ……」

 

 ギュッ、と。さながらリンゴでも潰すように、エリーゼは星髄石を砕いた。

 すると砕け散った星髄石の欠片は純白の粒子となり、DNA二重螺旋めいてエリーゼの周囲を回転し始めた。

 次いで彼女の足元に謎魔法陣が展開し、回転していた粒子がエリーゼの心臓に吸収されていった。ややもせず全ての粒子が身に収まり、最後にピカッと光って終了である。

 

「まるでガチャ演出みたいだぁ」

「特に氣に変化はないのぅ」

「ん、異物混入なし」

「ど、どうなんでぇ? 怠くねぇか? 頭クラクラするとか腰が痛ぇとか肩が凝るとか」

「それシャロさんでしょ」

「そうね。何も問題はないわ」

 

 体調に悪影響はないようだ。迷宮毒も無問題。

 で、出しっぱなしのコンソールを見てみると……。

 

「んんっ!?」

 

 新しいポップアップが出ていた。しかも選ばないと戻れないやつだこれ。

 え~っと、何て書いてあるんだ?

 

「……好きな異能を選択して下さいって」

「なによ、それ」

「いや、そうとしか書いてないから……」

 

 そのままである。ウィンドウのタイトルバーに「好きな異能を選択して下さい」って書いてあって、その下に選択可能と思しき異能の一覧が表示されているのだ。

 異能の右には取得するのに必要なコストが表記され、画面下部には保有コストが載っていた。なるほど、コストの範囲内で買い物してねって話か。

 

「察するに、星髄石を使った際に異能に目覚める現象の事ではないでしょうか?」

 

 恐らくそうだろう。星髄石を使う時、稀に何かしらの異能に目覚めるケースがあるらしいのだ。

 けど、ここまでシステマティックだとは思ってなかった。目覚めるにしてもランダムって話だったし。

 これも俺のチートの影響なのだろうか。ゲーマー的には好きなの選べる方がアドだけども。シナジーのない異能に目覚めるパターンとか普通にあるらしいしな。何だよ、味覚が鋭くなる異能って……。

 

「え~っと、エリーゼは何が欲しい?」

「何がと言われてもね……」

 

 エリーゼは困り顔だ。そりゃそうだ。

 俺はウィンドウの右上にあったソート機能を使い、一覧をスワスワしながら口を開いた。

 

「色々あるぞ。魔力回復量アップに、魔力出力アップ。病気耐性に視力上昇。おぉ絶対音感……! なにこれオモロ! こんなん一日中眺めてられるわ!」

「決めちゃう前にメモしておきましょう。次の時までにじっくり考えられます」

 

 一言で異能と言っても色々あった。

 ざっくりランク付けすると、基礎能力強化系が最低レア度の(ノーマル)枠で、如何にも強そうな異能はSSR(スーパーシークレットレア)といった感じだった。

 というか、これ事前に異能について調べておくべきだったな。詳細が表示されないから何にすればいいか分からんぞ。

 

「え~っと、じゃあ安いやつからいくな」

「はい。多少早くても大丈夫ですよ、どうぞ」

「てゆーか危機察知って、主様と一緒なら基本付いてるから要らん気するのぅ」

「ん、エリーゼとの相性を考えるべき」

「鍛錬で解決できる課題は取得する意味ないと思いますねぇ。世の中どうにもならない事なんて沢山あるんですから、どうにもならない事を異能で解決すべきだと思います」

「アタイはその蟒蛇ってのが欲しいなぁ。美味い酒飲み放題とか最高じゃねぇか」

「銀細工になったらそのうち酒にも強くなるッスよ」

 

 中には俺が持ってる異能や完全初見の異能なんかもあったりして、皆さんも異能の話題で姦しくしていた。

 一方、エリーゼは顎に手を添えて真剣に考えていた。

 

「そう。魔法が使えるようになる異能はないのね……」

「もしエリーゼが魔法使えたら名実ともに最強の竜族になっちまうよ」

「戦術的優位性で言うと、魔力系は無用の長物になりそうですが」

「アタシはエリーゼの好きなのでいいと思うッス。ぶっちゃけ殆ど間に合ってると思うッスから」

「そうね。なら収納魔法にするわ」

「あいよ。ちな、その心は?」

「杖の持ち替えが早くなるでしょう?」

 

 これまで、エリーゼが杖を交換する際は俺がアンパンヒーローの顔のようにしていた。収納魔法が使えるというなら、確かに瞬時にフォームチェンジできて非常にアドである。

 

「アナタから受け取るのは素敵だったけれど、戦いは一瞬の隙が命取りになるものね」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」

 

 言いつつ、コンソールを操作。収納魔法はSSR枠で最高コストだったが、取得しても少し余った。余りのコストをどうするかは置いておいて、一旦収納魔法をタップする。

 したらまたポップアップが出てきた。

 

「追加コストで容量増やせるらしいな」

 

 ウィンドウには美少女ゲームでよく見る音量設定のような画面が表示されており、コストを支払って目盛を弄れば収納魔法の容量を調整できるようだ。

 けど、例によって初期状態でどれくらいの容量があり、目盛一個分でどれくらい増えるかは分からなかった。そういうトコやぞ。

 

「変に絞って足りなかったら本末転倒だし、最大でいいでしょう」

「りょ」

 

 エリーゼがそう言うならと、余ったコストを全部使って容量を増やした

 と言いつつ、初期容量から目盛一つ分増やしただけで全コストが消し飛んだんだけども。流石SSR枠といったところか。

 

「決定するけど、いい?」

「ええ、よろしくね」

「本当にするけど」

「構わないわ」

「後悔しませんね?」

「しないってば」

 

 ここまで訊けば大丈夫だろう。俺は決定ボタンをタップし、エリーゼに異能を取得させた。

 のだが、特に演出とかはないようで、エリーゼの身に変化は見受けられなかった。一応、コンソール上では例の成長限界マークは消えてるのでレベル上限は解放したらしいが。ステータスにも異能の欄はないし……。

 

「どう? できそう?」

「……多分、使えるわ」

 

 感覚的に、エリーゼには収納魔法を使える確信があるようだ。

 俺は彼女に杖を渡した。

 

「こうかしら。で、こう」

 

 収納して、出す。二個収納して、二個出す。

 収納中の杖は新規に増えたエリーゼ用インベントリに移動してるようで、装備中の武器・防具とは別枠で表示されていた。

 

「わぁ、本当に収納魔法を使えています! ちょっと羨ましいですね!」

「あると便利じゃしのぅ。わしもお肉とかお魚用に欲しいのじゃ」

「ん、あれば弾倉入れ放題。収納魔法の有用性は計り知れない」

「大鎌もこれ場所取るッスもんねぇ~」

「収納魔法があったら外出中にも美味ぇ酒が呑めるな!」

「で、容量はどんなもんなんですか? まさかリキタカさん程はないでしょうが」

「そうね。まだ余裕はあるけれど、杖一つでもそれなりに使っている感じがするわ。そこまで多くは入らないみたい」

 

 全ての杖を収納し、最大容量を調べるべく適当なアイテムを入れていく。

 したら存外早く限界が来た。エリーゼの申告によると、棚一つ分くらいの容量があるらしい。

 

「あら、こう出す方がオシャレね」

 

 それから、エリーゼは収納魔法の練習をし始めた。

 手を突っ込むのではなく、虚空から杖半分を出してそこから引き抜いている。何それカッコいい。

 

「ん? ていうか、手に持つ前から杖が装備中になってるな」

 

 よくよく見てみると、エリーゼの杖は手に持つ前から先端が出た時点で装備判定がされていた。

 通常、武器を装備するには手に持つ必要がある。試しに同じ事をやってみたが、手に持つ前と後では例の如く装備と未装備で切り替わった訳で。

 なにこれエリーゼ限定の仕様? んな馬鹿な。

 

「出すところは割と自由なのね。出来るだけ遠くに……」

「あいた! 何してくれてんスか!」

「ごめんなさい。そこまで届くとは思わなかったの」

 

 そんな風に考えていると、エリーゼは収納魔法の出口の位置を検証していた。エリーゼは俺より遠くの位置に出口を出せるらしい。

 他にも多重展開してみたり、上から出して落としてまた収納したり。流石に射出はできないようだが……普通に俺より使いこなしてないか?

 その時、ふと思いついちゃった。

 

「エリーゼ、その状態で装填魔法使える?」

「持たずに、ということかしら?」

 

 自身の周囲に杖を半出しさせていたエリーゼに、手に持たない状態で装填魔法を使えるかどうか訊いてみる。

 補助効果に限らず、武装に装填された魔法も装備しないと使用できない。通常なら装備枠には制限があり、指輪十個付けて最強装備~とかはできないのだ。

 そのはずだが、エリーゼは少しでも収納魔法から出ていれば装備判定になり、その数に限界はないようなのだ。逆に杖の全部が収納魔法外に出ると装備から外れるのだが。

 で、装備中なら装填されてる魔法も使えるんじゃないのと。

 

「……出来たわね」

「できたな」

 

 実際にやってみた。

 収納魔法の隙間から先っっちょだけ出した王笏に魔力を流してもらうと、エリーゼは手に持ってない杖から魔法を撃つ事ができたのだ。

 流石にこれはビックリだったようで、エリーゼ自身も目を丸くしていた。何だか知らんがとにかくヨシ。理由は分からんが、これは夢が広がるぞ。

 

「実に面白い……」

 

 なので、エリーゼにはそのまま練習してもらった。

 案の定、展開数装備数に制限はなく、空中に五つ並べた杖から別々の魔法を撃てたりした。

 けれども、それほど使い勝手のいい技ではなかった。どうやら手に持たない杖には照準系チートが適用されなかったようで、どうしても狙いが甘くなるのだ。エリーゼがノーコンなのも大きかろう。

 

「難しいわね……」

 

 あと、遠隔で杖に魔力を流す場合、手のひらから直接流すよりもラグがあるらしかった。精密な操作がしたいなら、これまで通り手に持って使うのが安パイか。

 

「でもこれ、普通にボク等が離れてたらいいだけですよね。点や線ではなく、面の制圧には最適かと」

「そういう事になるか。でもそういう機会って少ないんだよな。だいたい大魔法一回で殲滅できるし」

「あら、破壊力なんてあればあるだけ嬉しいじゃない」

「ヴィーカ様の剣を使えば【魔導極砲】を三つも撃てちゃいますねぇ。竜族かな? 竜族でしたね」

 

 ともかく、レベルだけでなくエリーゼの伸びしろが増えたのは非常にめでたい。

 まぁ精密操作はともかくラグは痛いな。何かいい方法は無いものか。

 なんて考える俺だったが……。

 

「……あ、もしかして」

 

 割とすぐ解決した。

 

 

 

 

 

 

 鱗群迷宮。

 とにかくザコの多い屋外型中位迷宮で、例え銀細工でも数で圧殺される事もある地味に高難度な迷宮だ。

 そんな空間の偽りの空に、最近お気に入りの杖を持ったエリーゼが浮遊していた。

 

「行くわよ」

 

 凛、と鈴のような音を鳴らし、月光の翼を展開する。

 魔力の放出量を上げ、やがて照明弾のような光を放つに至る。

 眩い程の翼の周囲、空間の揺らぎから煌びやかな杖の先端が現われる。魔力特化の王笏、炎特化の杖。雷や氷や光や闇など。手には火力特化の杖を持っていた。

 大きな翼を広げ、大量の杖を向け、そして……。

 

くたばれ(・・・・)……」

 

 全ての杖から、必殺の大魔法を発射した。

 光線が閃き、吹雪が地を舐め、偽の太陽が落下する。轟音を伴い青と黒の雷が落ちて、ゆっくり降りてきた光の粒が静寂の後に大爆発した。

 結果、地上の魔物は大殺戮され大混乱。唐突な爆撃に逃げ回る魔物に対し、間髪入れず破壊の驟雨が降り注ぐ。炎に耐性のある魔物を雷が貫き、魔法耐性のある魔物さえ絶え間ない攻撃により圧殺されていた。

 

「ええ、ええ。むしろこれからよ……!」

 

 まだ終わらない。腰にある小剣を引き抜き、エリーゼは手にある【魔導極砲】特化杖を複製し二挺杖形態になった。都合三条のビームがローテーションされて発射される。

 天から地へ、破壊の光が降り止まない。空に飛ぼうとする魔物は弾幕で撃墜され、足の速い魔物も闇の沼に捕らわれる。そして、光が落ちる。光が満ちる。

 

「ふふふふっ、ははははは! ははははっ! 凄くいいじゃない、これ! 最初はただ持ち替えやすくする為だったけれど、こんな使い方が出来るなんてね! 最っ高じゃない!」

 

 完全に(ヴィラン)の笑顔である。

 ジェノサイドを見下ろして口の端を歪める姿は、紛う事なき邪竜だった。

 破壊規模がプレイアブルキャラのソレじゃないぞ。

 

 今のエリーゼはハナから狙いを定めていない。有り余る魔力で以て装填魔法を乱れ撃ちしているだけだ

 元々。彼女は杖一挺状態でも高い殲滅力を持っていた。それを二挺で強化形態だったのに、更に全杖形態とくれば、もう……。

 

「「「うわぁ……」」」

 

 そんな悲惨な光景を、俺達はドン引きで見ていた。

 仮称フルバーストエリーゼは色々と欠点こそあるものの、その殲滅力は規格外だった。あるいは彼女の父をも超えているかもしれない。知らんけど。

 タイマン戦に関しても、単調だった攻撃に緩急を付けられるようになったのではなかろうか。

 

 エリーゼのアレ、俺も一回真似してみたが何故だか再現できなかったんだよな。どだい手から離れると装備から外れるのだ。

 なのに、エリーゼはソレができる。ラグに関しても翼を広げて魔力を散布したら解消されたのだ。

 仮説だが、エリーゼの高濃度な魔力が疑似的な腕として認識されているのではないだろうか。通常時と翼展開時で起動速度に差があるのは、放出魔力量および大気中の魔力濃度によるものと考えれば納得はできる。

 要するに、高濃度エリーゼ粒子が散布されて杖がビット兵器になってるんだな。実際、今の杖はAUOというより自機追従ビットみたいだもんよ。

 

「ふぅ~、スッキリしたわ。圧倒的な戦いの後は気分がいいわね」

 

 なんて、ザコもボスも一緒くたに殲滅したエリーゼさんが仰られた。

 その笑顔はさっきまでとは別人のようで、さながら部活後の爽やかスマイルのようだった。

 

 スペック自体は高くとも、魔法装填の都合上それを活かしきれなかったのがエリーゼだ。

 周囲は発勁の習得などで地力を上げていく中、レベルアップでも鍛錬でも彼女は成長を感じ辛かったはず。

 そんで、そこにきての、これだ。

 

「もう一回潜らない? もう少しでコツを掴める感じがするのよ」

「そ、そうだな。したら短めなとこ行くか」

「もうエリーゼだけでいいんじゃないッスか? 割とマジで」

「ですが、フルバースト時は隙だらけなので、使ってる間は誰かが守ってあげませんと」

「ん、狙いも雑。漏らしたのを狩る係がいる」

「これ杖増やせば増やすだけ強くなるって事かのぅ」

 

 ていうか、上手くいけば二つ名ジョブも待ってるんだよな。実に末恐ろしいドラゴンである。

 何はともあれ、エリーゼが楽しそうで何よりです。




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 黒剣改め“黎明”のイシグロ
“愛鎌”のルクスリリア
“月蝕光祈”のエリーゼ
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“桜霞”のイリハ
“射貫く天眼”のレノ

 よろしくお願いします。
 本作世界の価値観では、黒剣が最もクラシックで射貫く天眼が最もモダンです。



 エリーゼの装備枠について、珍しくイシグロの仮説が的中しています。
 エリーゼの周囲には彼女自身が自然放出する高濃度の魔力が漂っており、これが擬似的な「見えざる手」として機能しています。とりわけ収納魔法の内部は魔力濃度が高く、実際に装備品を保持するにはこの収納魔法の“隙間”に配置する必要がある。
 さらに、エリーゼは翼を用いて魔力を散布することで、周囲の魔力濃度を高め、その効果を強化しています。これで何となく伝わるかなと。
 ちなみに、これが出来るのはエリーゼかアヴァリか第二王子くらいですね。まともに運用できるのはエリーゼだけですが。
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