【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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シュルレロリスム(上)

 ラリス王国は世界最大の国家であり、王都アレクシストは異世界最大の都市である。

 洗練された都市設計は千年以上続くアップデートを可能とする。同時に、長い歴史を重ねてきた建造物もまた形を保っていた。

 王都アレクシストとは、新旧の文化が矛盾なく同居する極めて完成度の高い街なのである。

 

 発展著しい魔道具技術に、民衆に開かれた公共施設。自然溢れる公園に、迷宮に繋がる転移神殿。

 様々な文化が生まれ勢いを止めない王都には、芸術文化もまた当然として根付いていた。

 

 

 

 王立カリオペ美術館。

 場所は王都の中央区。ラリス基準で最近建てられた美術館にして、異世界で二番目に大きい美術館だ。本館は大きな庭の中心にあり、門の前には武装した衛兵の姿があった。

 その門前に、一切の武装を解除した俺達の姿があった。

 

「凄く綺麗なお庭です! 芝生も青々として、この道の白が映えますね!」

「まぁ悪くないわね」

「ん、綺麗だと思う。噴水が無いのが寂しいけど」

 

 丁寧な物腰の門番にパイモさんの紹介状と身分証を見せ、カリオペ美術館の敷地に入る。青々とした芝生に、白亜の石畳。よく分からない柱が並ぶ前庭はそれだけで芸術作品のようだった。

 本日、美術館に来たのは俺とエリーゼとグーラとレノの四人であり、他の面々とは別行動中だ。何故なら、リリィやイリハ等はこういうのにそこまで興味がないのである。

 

 また、俺を含めた四人は完全非武装だった。俺は例のオーダースーツだし、エリーゼ達もロリ用オーダースーツである。なのだが、彼女達のスーツは一般にイメージされるレディーススーツとは趣を異としていた。

 というのも、ぶっちゃけブレザーの学生服にしか見えないデザインなのである。光沢ある黒のジャケットに白いシャツ。下はミニのプリーツスカートで、そのまた下はニーソなのだ。ニーソなのだ。ネクタイも巻いて栄養バランスも良い。

 そんな皆と美術館を歩いていると、何だかJC達の引率をしてるみたいである。興奮してきたな、美術館に入ってみよう。

 

「うわぁ……!」

「人が多いわね。じっくり見て回れるかしら」

 

 ややもせず、遠足ロリと引率ロリコンは由緒正しき美術館のエントランスに辿り着いた。

 第一印象はモダンな美術館といったところ。天井は飛行訓練が出来そうなくらい高く、ドーム状のガラス屋根からは眩い日光が入って来ている。床は純白の大理石製で、壁といい柱といい全体的に清潔感がある。で、このエントランスから各エリアに向かう事ができる構造だ。

 上下左右に広大な空間では仕立ての良い服を着た紳士淑女が交流しており、転移神殿とは月とすっぽんレベルで雰囲気がお上品だ。中には剣を下げた金細工持ち女冒険者の姿もあるが、事前に知らされてるので過度な警戒は必要ない。彼女はこの美術館の守護を任された芸術オタクの金細工らしい。

 

「これはこれは、イシグロ・リキタカ様。お会いできて光栄でございます。私、館長のマッシモと申します」

 

 そんで最初に何処へ行こうと館内地図を眺めていたら、館長を名乗るおじさんが声をかけてきた。

 パイモさん曰く、ここの館長とは芸術性の違いで喧嘩中らしい。館長的には仲直りしたいとかで、そこで俺に接触してきた感じかな。あるいはただの金づる目的か。

 ゲスの勘ぐりはさておき、ぜひ案内したいとの申し出は断らせてもらった。エリーゼ先生の解説でレッツゴーだ。

 

「これは……圧倒されますね。どれも本当に、ふわぁ……」

「ん、言葉もないとはこの事」

 

 エントランスからそれなりの距離を歩き、最も格式高い展示コーナーにやってきた。

 ここは古今東西のAAA級お宝美術品が展示されているブースで、ジャンルもゾーニングも関係なしにとにかくスゲー作品が詰め込まれている。エリーゼ曰く「節操がないわ」らしいが、その節操のなさが好きというファンも多いとか。

 実際スゲー美術品を見てみたら、素人目にもスゲーのが伝わってくるものばかりだった。真っ先に上手い超えて凄いという小学生並みの感想が出てきて、げーじつザコザコ勢の俺ですら足を止めて見惚れちゃうほど。

 

「アナタ、この彫刻が欲しいわ……」

「ここの作品は国宝だ。買えないよ」

「ん、そういうトコ実に竜族」

「お金に替えられるものではないでしょうけど、実際お金にするとどれくらいになるのでしょうか」

 

 節操無しと嘲ってたエリーゼさんも欲しがるくらいにはスゲーのだ。

 美術館巡りなんて歩いて見て帰る程度のイメージだったが、一つ一つの作品を立ち止まって見ていたら気づけば結構な時間が過ぎていた。この世界には腕時計がないからちくせう。

 

「やっぱ英雄譚系が多いんだな。優美より勇壮って感じ」

「ラリス文化といえば英雄ですからね。イライジャ様の作品が多くて嬉しいです」

「見て見てエリーゼ、ヴィーカ様いる」

「ええ。実家にああいうのは置いていなかったから、新鮮ね」

 

 とにかくスゲーブースの次は、古の英雄を題材とした古典ブースを見て回った。

 やっぱり一番人気なのが初代勇者の一党で、次点で外伝キャラや子孫などモチーフの作品だ。中にはイリハのご先祖であるシュリ様や先代上森人王の作品なんかもあった。

 特筆すべきはラリス伝統の石像で、中でも銀竜剣豪ヴィーカ像のクオリティは圧巻だった。ただ剣を提げて前を見てるだけなのに、目の造形だけで敵を睨んでるってシチュエーションが瞼の裏に浮かんでくる。風に靡く裾とか、軽く狂気みたいなものを感じ取ってしまう。

 

「あら、見なさいアナタ。アナタじゃないアナタがいるわ」

「うわぁ……」

 

 次、新しくオープンした現代英雄ブースに入ってみると、早速とばかりにイシグロ・リキタカなる英雄様モチーフの作品がお出迎えしてくれやがった。

 ぶつかったらその世界に入れそうなサイズの額縁には魔龍と対峙する俺らしき剣士が描かれているし、アーサー王のポーズを取ったイシグロ何某像なんかもあった。件の石像の周辺にはお上品な紳士淑女が屯っており、皆さん顎に手を添えてうむうむ頷いている。

 リンジュでもそうだったが、俺モチーフの作品ってやっぱり美化……というかハリウッドナイズされてるんよな。お陰で此処にいる誰もご本人登場に気付いてないから助かるっちゃあ助かる。まぁそっくりだった場合は実際恥ずか死ぬと思われるが。

 

「こういうのは特徴や持ち物を誇張して表現するのよ。聖剣を持ったマントの青年は勇者アレクシオスというようにね。ほら、イライジャは大体半裸でしょう?」

「なるほど、黒髪黒目と黒い剣でマスターと。もしくは使い込まれた革鎧と無骨な剣で表現されている、と」

「はぁ~、だからあえて汚しを入れてるのか。なんかプラモみてぇじゃん、すげぇ」

「鎧や剣についている傷一つ一つから討伐してきた魔物の大きさが想像できるようになっていますね」

 

 古典ブースと違い、現代英雄ブースの作品は全点購入可能である。モノによっては買ってもいいな。

 というか、それを第一目的にやってきたのだ。俺より長生きするだろうエリーゼやシャロの為に、こういう形でも思い出を残そうと思ったのだ。俺からすると恥ずかしいが、皆の為なら多少はね。

 

「いいのが無いわ……」

 

 が、どうやらエリーゼのお眼鏡には適わないようだった。俺からしたらどれも上手に見えるんだけども。

 ふと見ると、エントランスにいた館長がチラチラこっちを見てうずうずしていた。セールストークがしたくてたまらないのだろう。いや買う事自体は吝かではないんですけど、うちの子は目が肥えていまして。

 

「おっ、ここらへんは良さげだな」

「私がアナタ以外の英雄画を欲しがる訳ないでしょう?」

「でもこの絵は止まり木協会と一緒に描かれていますよ。背景からしてルーゴウン砦みたいですね」

「ん、人物は背景の一部。メインは小神樹だよ」

 

 入ってすぐの俺ゾーンを抜けたら、尖兵戦で活躍した英雄達の作品が数多く展示されていた。

 俺が戦ってたのは西南のフボール地方だったが、他の戦線にも多くのドラマがあったんだなぁと作品下の解説を読んで思った。あと同じモチーフでもクリエイターによって全然違うのが興味深い。

 

「ご主人様、デアンヌ様ですよ。とても勇ましいですね」

「こんなだったかしら……?」

「や、特徴は捉えてる。三日休んでキッチリ整えたらこうなると思う」

 

 同じく現代英雄ブースでは見知った顔を見かける事ができた。ミッド砦を守護していたメカクレ魔女デアンヌさんの肖像画だ。彼女も彼女で、陰キャっぽさがオミットされている。

 その他にも、“歌う髑髏”討伐に向かう荒野の牙や、戦場で宴をするフライシュ侯爵など、存外に圏外の様子が詳細に描かれていた。そういえば一回だけスケッチさせて欲しいとか言ってきた人とかいたな。当時の俺はわがまま銀細工ムーブで拒否ってたっけ。

 ともあれ尖兵戦を共にした人達がこうやって描かれているのは誇らしいね。今なら名前も知らないモブ兵士とも楽しく酒を酌み交わせる確信がある。少なくとも圏外には戦友がいたんだ。

 アレだな。エリーゼじゃないけどこういうの見ると俺も欲しくなってくるな。圏外戦は総じてクソだったが、あの戦いには忘れられない忘れてはいけない輝きがあったのだ。なるほど、ようやく俺なりの楽しみ方が分かってきたぞ。

 

「で、欲しいのあった?」

「ボクはないですね。やはり、今は新しくイライジャ様を描く方は少ないのでしょうか」

「どれもダメね。私の宝に値するものはなかったわ」

「や、エリーゼは厳し過ぎ。何であれ高度な技術には相応の敬意を払うべき。わたしはこれが好き」

「第三王子か。んじゃレノが言うなら買うか」

「や、買う程ではない。それにもう覚えた」

「う~ん、この」

 

 なんて言いつつ、気になった作品を見つけては案内人を呼んで購入予約を入れておく。買えるかどうかは競走相手次第だな。

 するとまぁ高いの何ので。尖兵戦や最上位迷宮でクソほど儲けたからいいけども。

 

「あ、いいいイシグロさん。お、お、久しぶり、です。エリーゼちゃんも、今日もいい魔力、して、してますね……」

「ええ、まぁね……」

 

 そんな風に美術館巡りをしていたら、突然声をかけられた。

 声の主は長い黒髪の美女で、質の良さそうなワンピースドレスを身に纏っていた。

 はて、どちら様?

 

「ご主人様ご主人様、ミッド砦にいらっしゃったデアンヌ様ですよ」

 

 背伸びしたグーラにこっそり耳打ちされる。びっくりはてなだった。

 戦友の活躍に想いを馳せていた身で何たるシツレイ。幸い彼女はエリーゼとのトークに夢中で俺の失態には気付いていなかった。

 言い訳ではないが、俺の知ってるデアンヌさんは黒髪超ロングのメカクレ陰キャ魔女なのだ。肖像画の歴戦魔導士姿なら気づけただろうが、今の彼女はパーフェクト貴族令嬢である。

 

「わ、わ、私事ですが、私は近々金細工を返却し、ラリス大学で教鞭を執る事に、なななっています。今日はその、付き合いで……仕方なく」

 

 どうやら、ここには仕事で来ているらしい。いくら力こそパワーなラリス貴族でも、社交からは逃れられないのか。

 ラリス大学の付き合いらしいが、今の俺とは全く無関係って訳ではなかった。本日この場に参った二つ目の理由こそ、ラリス大学の現役美大生の青田買いなのである。

 

 本日、ここカリオペ美術館ではラリス大の学生による展示会が催されている。

 そこで気に入った芸術家を見つけ、作品の購入やら活動費やらで支援できるのだ。要するにパトロンになれるというのである。

 しかしまぁ特に熱意を持って見出そうというのではない。あくまでメインクエストは美術館巡りと作品の購入だ。サブクエの方は良い子いたらいいなぁ程度である。

 

「わ、私はこれで……憂鬱です」

 

 ややもあり、貴族令嬢に擬態したデアンヌさんは去っていった。あんた背中が煤けてるぜ。

 そうか、デアンヌさんは大学教授になるのか。そういやナターリアさんも族長の引継ぎ準備をしてるらしいし、リュドミーラも来年ラリス大学に入学する予定だっけか。共に戦った先代フライシュ侯爵も現在はミスター・フライシュとして料理の修行をしている。アリエルさんは……変わってないな。多分そのうち結婚とかするだろう、知らんけど。

 本当、時間はただ過ぎていくばっかりではないんだなぁ。タカキも頑張ってたし、俺も頑張らないと。

 

「じゃ、例の展示会を見にいくか」

「あまり期待できないけれど」

「マスターの絵を描いてる人とかいるかも」

「なら尚のこと厳しく見なくちゃね」

「お手柔らかにですよ、エリーゼ」

 

 目ぼしいブースを見て回った後、俺達は件の学生の展示会場へ向かった。

 するとそこには人がいっぱいいて、ブース内のデシベルが先のブースより遥かに高かった。商人風の人等は過剰なほど着飾っていて、紳士淑女より成金っぽい人が多い印象だ。

 対し、作品を展示している学生は個性が強く、キラキラ系JDがいれば明らかに遊んでますってイケメンや童貞臭ハンパない男の子等々いっぱいいた。

 

「個性的な作品が多いですね」

「ええ。存外に面白いわ」

「ん、わたしより下手なのに上手い。不思議」

 

 ともかく、まず作品を見て回る事に。するとまぁフレッシュというか勢いというか、「描きたいモンを描くんじゃ!」とばかりの熱を感じる作品が散見された。

 王道古典絵画の隣に、なんじゃこれって言いたくなるような抽象画らしき何か。謎のロンソ画像に迫力満点な墨絵など、本当に色々あって面白い。

 プロの作品を見たばかりなせいか技術的な粗さは目立つが、それはそれとして若々しいパッションを感じる。振り向かず、ためらいが無いと言えばしっくりくるか。

 

「そんな、私は思うがままに筆を執ったに過ぎません。ただ美術の為の美術を追求しているだけですの」

 

 ブース内では、作者と思しき学生と商人風の人達がお話ししてる光景も見られた。

 最も多くの支援候補者に集られてるのはラリス系美少女女子大生で、そんな彼女とおじさん達を見ると変な邪推をしてしまいそうだ。俺は心が汚れています。

 

「あら、上手じゃない」

 

 けどまぁエリーゼがそう言うなら実力はあるんだろう。だからこそ商人が集まってる訳か。

 

「あ、あの、僕はディング式の彫刻を専攻している者で、大戦前の素晴らしい作品をですね。ぶほほ……」

「お、オイラはサキュバティック・アートの道を志してるんだな」

「へい、あたしぁ家に帰りますと今年で九つになる母と五つになる祖母と八十になったばかりの妹が六人おりまして。あと姉の裏は花色木綿です。支援してください」

「ずいぶん複雑な家庭だね……」

 

 ブースの談話スペースを見れば、学生と支援者候補の対面交流が行われていた。悲しい哉、ここでも陽キャ学生が強く、陰キャ学生は弱いっぽい。

 殺気立ってるとまでは言わないが、学生達には鬼気迫る雰囲気がある。彼等にとっては今後の身の振り方に関わってくるんだもんな。そりゃガチにもなるか。

 

「ん?」

 

 そんな学生達を無視して展示作品を眺めていると、妙に気になる絵を発見した。

 これも風景画になるのだろうか。荒廃しきった地面を一人の人物が歩いている。けれども現実そのままを描写している訳ではないように見え、空といい大地といい現実離れした光景が描かれていた。

 あと、なんだろう。全体的に絵の彩度が低いというか、地味というか。

 

「いい絵だけれど、安い顔料を使っているようね。きっと苦学生なんでしょう」

「ん、他の学生と比べても下手な部類に入る。けど他にはない凄みがある。わたしがこれを模写しても、同じ魅力は出せないと思う」

「どうやら迷宮画のようですね。描かれてるのは剣士一人ですか。題名は……無いようですね」

「あー、これ迷宮か」

 

 迷宮と言われ、ピンときた。これ単独の冒険者が迷宮探索してる絵なのか。

 よくよく見ると、件の冒険者は一振りの剣を引きずって歩いているのが分かった。戦った後に勇ましく凱旋しているようにも見え、絶望して彷徨っているようにも見え、息も絶え絶えに跛行しているようにも見え……。

 何とも味わい深い作品だった。

 

「いいな、これ……」

 

 その時だ。ふと、何故だか中学生の頃にめちゃくちゃ好きだったゲームの事を思い出した。

 俺史上屈指の名作だった。けれど、そのゲームは世間ではクソゲー扱いをされていて、それを知った当時の俺はとてもショックだったのを覚えている。

 案の定、レビューサイトは酷評の嵐だった。グラが時代遅れ、システムが不親切、ストーリーの整合性が取れていない。御意見ちくいち御尤もで、その多くはファンの俺も概ね同意できるものではあった。

 けれど、俺はそのゲームが好きだったのだ。クソなのはクソとして、めちゃくちゃ楽しんでやり込んでいた。

 

「うん、今日見た中だとこれが一番好きだな。見てると単独時代を思い出せる」

 

 他の人がどう評価してるのかは知らない。評論家が何を言うかも知った事ではない。

 ただ、あのゲームと同じで、これは俺が好きな絵だと思った。

 

「今日見た中では良い方ね」

「買うんですか?」

「ああ。場合によっては支援もしよう」

「ん、芸術家の卵を守らなくちゃ」

 

 支援するかどうかはともかく、作品は気に入った。俺は近くにいたスタッフに声をかけ、この絵の購入手続きを行った。

 学生が描いた絵ってのもあってか、本日購入予定の芸術作品と比べればめちゃくちゃ安かった。他に誰も名乗り上げなかったら超激安で買う事になるが、それでいいんだろうか。

 

「支援を検討しているのですが、この作者さんの他の作品は見れますか?」

「もちろん、その為に倉庫に置いてありますよ。ただ支援をお決めになる前に、彼女とお話をすべきでは?」

「それは……」

「ほら、あそこにいますよ。呼んできましょうか?」

「いえ、大丈夫で……」

 

 確かに、他の支援者候補は作者と直で話して支援の是非を決めているようだ。

 俺としては別にいいのだが、そう言うスタッフが差し示した方を見ると……。

 

「あ……」

 

 その時、俺に電流走る。

 この絵の作者は、背が低く胸の小さい童顔の女の子(ロリロリのロリ)だった。

 幼女というより少女。JSというよりJC。少女と大人の境目。最も不安定で、最も神秘的な年齢の女の子。

 

 茶髪のボブカットの上に、ベレー帽が乗っている。良いもの食べてなさそうな身体は心配になるほど痩せぎすである。

 如何にも地味な容姿で、控えめそうで、幸が薄そうな少女は、俺の目にはキラキラ輝いて見えた。

 

 そして、俺は彼女の姿に見覚えがあった。

 以前、王立図書館で高いとこにあった本を取ってあげた女の子だ。

 どうやら、あの素敵な絵を描いたのは彼女だったらしい。運命的な何かを感じる。

 

「結局、オラみてぇな田舎モンが必死こいて頑張ったって、所詮こんくらいのもんだべさ。アリアドネさんも皆も、オラと違ってめちゃくちゃスゲェんだわ。ほんと集大成って感じで、カリオペ美術館さ展示してもらえただけでも、一生モンの思い出だっちゃ。んでもう、思い残すことなんてねぇがな……」

 

 なのだが、当の彼女は死人より死んだ目をしていた。

 絵具で汚れた学生服を着て、暗く淀んだ双眸で、自分の作品ではなくキラキラしている美大生を見ていた。

 そう、彼女は……自分で自分を負け犬と見做す顔をしていた。

 

 ふと、思い出す。

 パイモさん曰く、美少女画家はパトロンが見つけやすい傾向にあるらしい。理由は、まぁ察せられる。

 無論、あっていい事ではない。実際にラリス大学はそういった目的の支援を禁止している。けれどもソレを取り締まれる法はなく、現実には横行しているそうだ。

 そして、腕はなくともそういう方法で生き残って大成する画家もいるとかで、一概に被害者と加害者に分けられる問題ではないらしい。

 そう、ラリス大学は実質的に黙認しているのだ。ラリス王は何も禁止してない。夢より利益を上げませんと……。

 

「失礼。あの子を支援させて頂けますか?」

 

 考えて、考えて、考えて……。

 魔銀龍戦の時くらい考えた末、俺は彼女を支援する事に決めた。

 勿論、俺用のお金で。

 

“あしながおじさん”は世界的名作だ。




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