【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。いつもお世話になっております。
 誤字報告もいつもありがとうございます。感謝の極みです。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。


血とロリと浪漫の結晶ですから

「……っちゅー訳で、一言でゴーレム言うても色々あんねやな。おさらいするで? はいこれ、最初期型のオリジン・ゴーレム、パーツひとつずつ組むやつな。召喚獣としてのサモン・ゴーレム、これは魔法陣から出す半魔力生物や。使い魔のコンプターレ・ゴーレム、これはオリジンに近いけど割と別モン。で、二つ目も三つ目もこのオリジン・ゴーレムから派生しとる。何ならゴーレムの語源が巨像とか石像とかのゴーレム系魔物やから、造り物の方のゴーレムにもゴーレムって名前付けたやつマジでシバいたろか思うで。こういう後先考えんやつがおるから後の学徒が困んねん。あとラリスやと統一されとるけど未だに学派によって長さ重さの単位違うんホンマのホンマにクソや思うわ。そのせいであっちこっちで不具合起きて計算狂って頭からケツまで作り直しになって……! ウチの研究の三分の一が単位調整でパーになったん忘れてへんからな……!」

「落ち着いてください先生ェ!」

 

 ヘカテ先生の憤りはともかく。

 クーラーの効いた部屋で受けるロリ先生の授業は最高だった。流石はラリス大の名誉教授というだけあり、ヘカテーニャ先生の教えはすいすい頭に入ってきた。授業内容は興味深いし俺のモチベもダンチだし。

 なまじ義務教育で慣れている俺とは異なり、こういうの初めてなグーラとユゥリンは特に興味深そうにしていた。彼女達が望むなら、いつか皆で大学に通う生活もアリかもしれない。

 

「ん、ちゅ♡ じゃ、行ってくるぜ」

「行ってきますリキタカさん、ちゅ~♡」

「はぁ~、ええなぁええなぁ。ウチもダーリンとチューしたいわぁ」

「すればいいじゃないッスか」

「いやでも、初めてはダーリンの方からしてほしいし……」

「って言ってるわよ? アナタはどうするのかしら?」

「お友達で」

 

 とはいえ、毎日ロリ授業ばっかを受けてるばかりではなかった。

 とうとうルーン工匠資格を手に入れたシャロと彼女の護衛である銀細工持ち冒険者ユゥリンは度々ルーン関連のお仕事で外へ出るのである。そういう日は授業はお休みし、ヘカテもロボ製作の準備をしていた。

 また、外出時のシャロの肩には例のシンガプーラ型召喚獣――フブキが乗っていた。フブキは斥候・索敵に特化した召喚獣で、まだまだ弱いが現状でも最低限のレーダー係にはなる。何かあったらヘカテに連絡がいくので、防犯アイテムとして持たせているのだ。

 

「ほいっと、この仔が新しいのや。店で働く時はこの指輪ん中に入れるようになっとるから安心してええで」

「かか、かっ、かわいい~! ユゥユゥいなくなって寂しかったのよ~! 癒やされるぅ~!」

 

 で、性能テストの結果まぁまぁ使えるとなったので、二匹目の魔導シンガプーラをユゥリンの姉であるチィレンさんにプレゼント。

 色は茶トラで、名前はアケボノ。アケボノはフブキと特殊ネットワークで繋がっているので、何かあったら教えてくれる。

 彼女は飲食店で働きつつ、一人暮らしをしているのだ。王子の庇護があるとはいえ、治安の悪い王都では何が起こるか分からない。アケボノの戦闘力もヘカテの強化で上がってくから、出来る限り早めに迷宮行きたいな。

 

「まだよう分からんのじゃが、フブキ等とは魂で繋がっとるんじゃよな? そんな分けちゃって大丈夫なんかのぅ?」

「問題あらへんよ。繋がりゆーても細~い糸みたいなもんやから、こんなんやったらいくらでも大丈夫や」

 

 我が家を猫屋敷にするつもりはないが、猫シリーズは今後も増やす予定である。エサ代もかからんし優秀だしで最高である。

 まぁ猫吸いしても無味無臭だから猫って感じあんまりしないけど。鼠も怖がらないし、ホントにネコ型ロボットなのだ。どんなもんでぇ。

 

「ええか? あくまで【魔力の礫】を使う感覚で撃つんやで」

「了解。【魔力の礫(バン)】……!」

 

 私生活も充実してるし、魔法の訓練も順調だった。

 明確なイメージに、上達してきた魔力操作とアーカイオンの認知。これにより、俺は今までロクに使ってなかった【魔力の礫】を実戦レベルまで昇華させる事に成功した。

 具体的に言うと、ワンフレーズの略式詠唱で西部劇のガンマン並みの速射(クイックドロウ)連射(ラピッドファイア)を実現できるくらいに。俺のイメージの所為か今のところ六連射が限界だが、そのうち二十発くらいフルオート射撃できるかも。

 

「と、こんな感じでお願いします」

「そいつぁ構いやせんが、このグリップのガチャガチャすんの要りますかい?」

「絶対いる」

 

 なので、例によって例の如く武器工匠・ドワルフに今の俺に相応しい魔法触媒を注文した。

 形はもちろん銃杖だ。既存の銃杖が立ち回り用で、新しいのが火力用。漢の浪漫が勃起する。

 

「見て見てご主人~、当たったら粘着して剝がれない拘束魔法編み出したッス~。しかもピンク色~」

「うわ絶対当たりたくねぇわソレ」

「ん、普通に優秀だと思う。わたし達も使えるようになるべき」

「何がどうしてそうなっとるか分からんから陰陽術じゃあ無理じゃ」

 

 魔法の実力が伸びてるのは俺だけではなく、皆もめきめきと上達していた。

 そんなこんなで時は進み……。

 

「いやぁ壮観やね。床も壁も頑丈で、これなら多少やんちゃしても問題あらへんな!」

「爆発事故だけは起こさんといてくださいよ」

 

 新型魔導人機研究用工房――仮称・実験場が完成した。

 場所は王都西区の工業エリア。大きさはバスケットコート二つ分くらい。内部の半分はごちゃごちゃした機材で埋め尽くされ、空いてる空間はロボの稼働実験に使う予定である。

 また、工房のセキュリティとして三匹目の召喚猫が配置された。こいつは黒いシンガプーラで、名前はシグレ。基本的に寝ているのんびり屋だ。

 

「何かあったら手伝うから、何時でも言ってくれ」

「助かるわ~。なら、景気づけに一回吸わせてもろてええ?」

 

 で、だ。

 全ての準備が整って、いよいよ新型魔導人機の研究開発が再開された。

 新型魔導人機の研究とはいうが、彼女がやろうとしているのは古代兵器の再現ではなくヒトガタロボットの開発である。何故なら、色んな事情で現代の技術では魔導人機は再現不可能らしいからだ。

 そこで目を付けられたのが、ファンタジー系でお馴染みヒトガタゴーレムである。

 

 この世界におけるゴーレムとは、召喚獣と使い魔の始祖的存在である。中でも最初期であるオリジン・ゴーレムは派生先の両特質を持っているそうだ。

 ヘカテが作ろうとしてるヒトガタロボは、このオリジン・ゴーレムをベースにする予定なんだとか。

 

「ほい出来た!」

「早っ……!」

「まぁ重要なパーツは前からコツコツ作っとったし、コイツはただ組んだだけの木偶やでな」

 

 で、翌日には倉庫の中にザ・ゴーレムといった見てくれのヘカテ・オリジン・ゴーレム君が鎮座していた。

 全高は三メートル程だろうか。足は太く、肩幅は広く、異常なくらい前腕が大きい。今ではめっきり使われなくなったらしい古のゴーレムは、如何にも“ちから”と“じょうぶさ”に特化してそうな威容を放っていた。

 

 ヘカテ先生のゴーレム史によると、オリジン・ゴーレムは技術の発展と共に廃れていったという。

 廃れた理由はコストとか使い勝手とか色々あって、現在では自律稼働なら召喚獣ゴーレム、遠隔操作なら使い魔ゴーレムといった住み分けがされているそうだ。

 とかくオリジン・ゴーレムは中途半端で、そのくせどちらの弱点も持ち合わせちゃってて不便らしい。

 

「コレに乗るんですか? 召喚獣でないなら繊細な魔力操作が必要そうですね」

「せや。使い魔制御と召喚魔術の応用でより深く思考を繋げる。これの術式ウチのオリジナルなんやで。ゴーレム自体も出来る限り最適化させたった」

 

 翼を広げてふわりと離陸。ゴスロリ姿のヘカテが岩人形の右肩に座ると、グポーンとツインアイを灯したゴーレムは慎重な足取りで大地に立ち、のっしのっしと歩き始めた。

 前世では人並にプラモを作ってた身からして、一見してすぐコケそうな見た目の割に存外しっかり歩けてて素直に感動である。

 

「かっけぇ……!」

 

 巨大ヒトガタロボがすぐ近くで歩いてるのを見た俺は、その迫力に心奪われた。アルヴの森でみたエルフロボもいいが、こういう感じのちんまい路線も大好きである。

 対し、ファンタジー出身のロリ勢はあんまり感動していなかった。レノなんかキョトンと首を傾げて何が凄いのか分かってないようだ。そりゃ君はサイズS・空中適性Sのロボット乗ってたもんね。

 

「いやマジで凄いな。あとは調整すれば完成だな」

「って思うやん? けどなぁ、これ現状あんま動かしとる感じせんのよな。乗せてもらっとる感というか」

 

 感動してないのは開発者自身も同様で、現状では不満足なようだ。

 そのまま他の動作も試していく。拍手してみたり、一人ジャンケンやってみたり、左右のワンツーをやってみたり。

 凄く凄い、と俺は思うのだが……。

 

「何をするにも遅れているわね……」

「どうやら片足立ちができないようですが。歩くのも摺り足気味です」

「図体ばかり大きくて一見強そうに見えますが、功夫が一切ありません。ワタシなら指先一つで止められるでしょう」

「こいつが突っ込んでくる間にルーン三つは描けちまえるぜ」

「ん、魔導人機でタイマンしたら一秒もかからない。見る、撃つ、勝てる」

「いいとこ農作業用ッスね。忌憚のない意見ってやつッス」

「酷い言われようじゃな。まぁ事実じゃから仕方ないのじゃが」

 

 ロリの評価は散々だった。

 まぁ確かに、こいつと戦えって言われてもって感じはある。戦いの土俵に立ててないというか。何ならヘカテが乗らずに場に出して攻撃指示した方が強いんじゃないの。猫シリーズみたいな自律型が実際ある訳で。

 

「やからオリジン・ゴーレムは廃れてって召喚獣と使い魔に派生した訳や」

「頭で動かしたいなら乗れる使い魔でいいじゃないッスか。そういうのも作れるッスよね?」

「ウチは指示して動かしたいんやなくて、手足みたいに扱いたいの」

 

 なんてのは開発者自身が一番分かっているらしく、ぷんすこヘカにゃんはゴーレムを待機姿勢に戻して飛び降りた。

 その際、自前の翼で滑空し、両足を使って着地していた。ふふんと自慢げな鼻息一つ。こっちの方が嬉しそうだ。

 

「旧魔王軍は何でこんなのを欲しがったんでしょうね。ワタシには分かりません」

「こんなのて……。まぁ色々あるんちゃうんかな。一応、殆ど全てのパーツに最新の術式とか魔術刻印とか使っとるし。地味に素材もほぼほぼ新規開発なんやで」

「ん、具体的にどのへんが?」

「ざっくり頭と心と肉体全部がウチの魂にフィットするようにしてあるんや。厳密に言うと吸血鬼に、やけどな」

 

 言いながら、ヘカテーニャはワゴンに載せた機材を待機ゴーレムの背後に持っていき、コードを伸ばして背中の穴に突き刺していた。

 何かしらのデータを抽出しているようで、既に一部で普及し始めたタイプライターを使ってカタカタやっていた。

 

「前までは歩けて飛べたらそれで良かったんやけど、ウチはこれで戦えるようになりたいんや。その為に、もっとスムーズに動けへんとアカンわな」

 

 そう語るヘカテは、学者というより研究者の目をしていた。

 お迎え当初の陰鬱な雰囲気はない。ただ、子供のような輝きがその双眸には宿っていた。

 

「せやないと、塔出た意味ないからな……」

 

 けれど、その背中は何故だか孤独に見えた。

 

 

 

 その日から、プロフェッサー・ヘカテのロボ開発生活が始まった。

 専門的な事はともかく、最初に取り掛かったのは既存の操作術式の改良らしい。現在の思考操縦のラグをなくし、より素早く反応するように調整するというのだ。知らんけど。

 その工程は極めて単調で、動かして調整動かして調整の繰り返し。そんな作業が続く中、術式改良は割と頻繁に失敗してゴーレムが謎の挙動をする事が多々あった。

 

「ウチは失敗したんやない。成功しいひん方法を見つけたんや」

 

 めげずに続けるヘカテだが、調整する度に彼女の中には疲労が溜まっていった。術式調整には多量の魔力を消費するからだ。

 枯渇すると寿命が削れる。そのくせ当人は変なところで遠慮しいなので、こっちから言わないと吸血補給しようとはしないのだ。

 トライ&エラーに続くトライ&エラー。一週間の作業の結果、ヘカテ・ゴーレムは競歩ができるようになった。ただしパイロットの思考負荷が高いらしく、ちょっと歩かせただけでヘカテはヘトヘトになっていた。

 

「はぁ……これもアカンかったか。ほな次いこ」

 

 地味な作業と並行し、新しい術式の追加やら外付け装置やらも試していく。

 一応、動き自体は洗練されている。だが、このまま手足のように操れるようになっても、俺にはこのゴーレムで戦えるようになるビジョンが見えなかった。

 人類という生物が、如何に戦いに適しているかが分かる。

 

「おっと、大丈夫かヘカテ。ほら、血」

「あぁごめん。ちょっとフラついただけやで大丈夫……」

 

 今のヘカテは文字通りのお荷物になっている。戦うだけなら高性能なゴーレムを操る方が効率的だし、ただ強くなりたいなら素直に迷宮に潜って魔術師育成する方が効率的だ。何かに乗って戦うにしても、専用の使い魔や召喚獣で充分なのである。

 それは分かっていても、ヘカテはロボへの拘りを捨てなかった。ゲームで例えるなら、バトルで勝ちたいから特定のキャラを使うのではなく、そのキャラで勝ちたいからバトルするような。

 

「また失敗か。いや失敗やない。理論に破綻はないから、もっと別んトコがおかしいんや。一回全部整理してみぃひんと……」

 

 その拘りは、ヘカテの心身を徐々に傷つけていった。

 同じように、その拘りこそがヘカテをヘカテたらしめている精神的支柱であった。

 少なくとも、そうでなくては今の生活はなかっただろうから。

 

「ヘカテはさ、なんでそこまで自分で乗るゴーレムに拘ってるんだ?」

 

 ある夜の事だった。

 吸血後も元気が出なかったヘカテに、俺はそのように問うてみた。

 こういう時というのは、自身の原体験とかを振り返るものと相場が決まっているからだ。ベタだが王道で、実績があるから有用なのである。

 

「あー、何でなんやっけ……」

 

 問われ、パジャマ姿のヘカテーニャは膝を抱いて頭を悩ませていた。

 自分でもよく分かってないのかもしれない。聞くに、魔導人機に魅せられたのも大した理由はなくて、作ろうと思ったのも足を悪くしてからだったらしい。

 じれったい程の沈黙の後、血色の薄い唇が僅か開いた。

 

「……復讐したいんかもしれへん」

 

 と思ったら、予想以上に物騒な返答がきた。

 すわシャーロットパターンかと思って身構えてしまったが、ヘカテは内なる自分に言い聞かせるようにして言葉を継いだ。

 

「弟子と喧嘩して塔を出て、籠った先で研究成果を奪われた。しかも殺されそうになった。ギリ逃げ延びて、ついでに大体自爆させたったけどな。今はこうしてられるけど、彼奴らのせいで無ぅなったんや。普通にムカつくやろそんなん。やから、意地でも完成させたるって気持ちがあるんかもしれへん」

 

 負の感情は正の意思力に。短絡的な俺とは異なり、ヘカテは見た目よりずっと立派だった。

 そんな彼女が困っている。何かしてあげたいと思うのは、ロリコンでなくとも自然な流れではなかろうか。

 

「吸血以外に何か手伝える事ある?」

「いやいや、血ぃ分けてくれるだけで凄い有難いよ。ホンマ」

 

 実際、素人が関わっても何にもならない分野ではある。

 彼女の生徒だからこそ、尚のこと思い知っているのだ。

 

「つっても、放っておけないッスよね~ご主人は」

「ああ……」

 

 結局、ヘカテーニャが吹っ切れる事はなかった。

 分かりやすい敵がいれば良いのに。そう思っても、剣の向け先がいなかった。

 それでも何かできる事はないか。藁にも縋る想いでノートを開き、彼女の授業内容を思い返した。

 

 オリジン・ゴーレムは、主に三つの要素で構成されている。

 学習および制御装置たる“智核”。動力源もしくは動力タンクの“炉心”。それらを収めるボディやフレーム全般を指す“義体”。実際には他にも細かいパーツがあるのだが、それは置いておいて。

 

 ヘカテはその三つの全てに手を加えている。昔の機械を最新の独自技術で再構成しているのだ。

 術式を見直し、地味な調整を続け、現在では四股を踏む事ができるようになった。片足立ちができたので、走れるようにもなったのだ。

 

「全然アカンな。こんなんで現行のコンプターレと殴り合ったら勝負にもならん。出力は……いやこれ以上ピーキーにしたら暴走の恐れが。思考深度落としたら本末転倒やし……」

 

 けれど、巨人の肩には届かない。

 鬼気迫った雰囲気はない。ただ落ち込んでいっている。理由は分からないが、焦っているようにも見えた。

 お喋りが少なくなり、ふとした時にぼーっとするようになっていた。

 

「心配ですね。以前、魔力暴走で飛べなくなったと聞いているので、もう一回暴走したら……」

「魔族は落ち込むと心が削れるんス。心が削れると肉体も滅びるッス。ご主人の血が無かったら、今頃ヤバかったと思うッスよ」

「一緒に住んでみて分かったけれど、ヘカテはそこまで強くないわ。明るくないと心が死ぬから明るいフリをしているだけね」

「身体を休めても気が休まらないってのは辛いのじゃ」

「ん、もっと飲ませるべき」

「つっても毎日飲ませるとお腹壊すらしいしな……」

 

 今の俺には何もできない。

 でも、何かをしてあげたい。

 俺にできるのは、目の前の敵を殴る事と周囲のロリを守る事だけ。今まではそれだけでいいと思っていた。

 俺に彼女の悩みを解決する方法があれば、何でもするというのに……。

 

「おやおやおや、そこにいるのはイシグロ君じゃあないか。結婚式ぶりだねぇ。噂によると新しい女の子を迎えたと聞いたけれど、もう嫁を増やすのかい? 一体どんな娘かな? ぜひとも一度スケッチさせておくれよ。勿論、君と営んでいるところをね。ハハッ」

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

「パイモさん、ちょっと手伝ってくれませんか?」

「見抜き一回で手を打とう」

「しょうがないにゃあッス。その代わり、ご主人とアタシだけッスよ」

 

 あった。

 

 

 

 

 

 

 その日もヘカテは実験場に向かって行った。

 彼女が実験場に行く日は護衛として誰かがついていく事になっている。ルクスリリアと二人、日傘を差した妖血娘は太陽の下へ歩き出した。

 

「はあ、別にかまへんけど。今日はそんなに魔力使う予定ないで、気ぃ遣ってくれんでもええよ?」

 

 後で顔出すよと言うと、彼女は怪訝そうにしていた。

 ともかく俺と草薙の面々も一緒に外へ出て、工業区と転移神殿方向で別れた。

 転移神殿下の階段前広場で待ち人と合流し、そのまま他のゲストを連れて実験場へ向かう。

 問題を解決しに。

 

「邪魔するよ」

 

 実験場に到着すると、そこは当初よりも荒んでいた。

 整理整頓こそされているが、細かいところの汚れや傷が目立つのだ。

 ジャンプし過ぎて穴を開けてしまった天井の補修跡に、激突してヘコませてしまった壁。ゴーレムを歩かせ過ぎてすり減った床。

 そのどれも、ヘカテーニャの努力の痕跡だった。

 

「ん? あぁダーリン……って」

 

 気づいたヘカテが俺達を見た。

 彼女の瞳には、草薙の剣のメンバーの他にイツメンではない三人の姿が映っていた。

 

「工匠三銃士を連れてきたよ!」

 

 前にも似たような事あったな。

 なんて思いつつ、俺は努めて明るく紹介を始めた。

 

「武器・武装の専門家、アダムス」

「うっす、よろしく」

 

 ドワーフみたいなエルフこと、武器工匠・アダムス。

 パイモさん経由で話を聞いたらしく、なんか実験場についてきたのだ。

 

「戦車・装甲の専門家。ケイン」

「頑張るぜ、よろしくな」

 

 ガリガリダークエルフこと、戦車工匠・ケイン。

 自転車製作のパイオニアにして、最近は別の工匠資格を勉強中。彼はドワルフについてきた感じだ。

 

「そして、天才発明家・パイモ」

「よっす、どーもどーも。最近は引きこもっていると聞いてたけれど、まさかイシグロ君のトコに転がりこんでいたとはね。にしても面白い事やってるそうじゃないか、ええ?」

「パイモはん! アダムスはん! あと……誰や」

「ケインだよ! 自転車使ったことない? ナウなヤングにバカ受けなんだけど!」

 

 パイモとヘカテは顔見知りである。それはそれとして、何か有名人らしいアダムスの登場にはビックリしていた。

 なお、ケイン氏のことは知らない模様。

 

「困ってそうだったから、パイモさんに相談したんだ。何か刺激になればと思って」

「いかにも。ぼくと君の仲じゃあないか、混ぜてくれよ」

「あっし等二人は勝手についてきただけだがよ。まぁ安心しな。ゴーレムについてはさっぱりだが、あっしは武装のプロだぜ」

「お、オレだって戦車のプロだ!」

 

 俺に何とかできないなら、できる人に何とかしてもらう。

 けれども、それはヘカテのプライドを傷つける行いかもしれなかった。

 

「いや、いきなり言われてもやな……」

「迷惑だったら後で謝る。何なら殴ってくれていい。その前にこれを読んでくれ、こいつをどう思う?」

「す、すごい分厚いな……」

 

 ドン! と、机の上に王子から譲ってもらったタイプライターと一部手書きで作った資料を置いて黙らせる。

 この書類には俺の知っているロボット系作品の設定やパイモさん発のゴーレムのアイデアなんかが書いてあるのだ。当然、膨大なり。

 

「まぁ読ませてもらうけど……あぁ皆さん見るんはええけど触らんといてくださいよ」

「ほうほう、これは見事な術式だねぇ。執念すら感じてしまう程の完成度だ。け・れ・ど、エレガントさに欠ける。もっとスッキリさせられないのかい?」

「何だ、ずいぶん古い魔術体系だな。いやあえて古いの使ってんのか? しかしこれじゃあ力が籠らんでしょう」

「それ以前に二足じゃあ限界がある。いっそ車輪にしちまってもいいんじゃねぇか? いやそれじゃ意味ねぇのか」

 

 不承不承といった風に、ロボアイデア集を読み始めるヘカテ。

 一方、技術者連中は過剰改造によって原型を保てなくなったヘカテ・ゴーレムを観察し始めた。

 広い実験場にページをめくる音と三人の話し声が響く。そんな中、草薙の面々は勝手知ったるとばかりに各々リラックスし始めた。ここには仮眠用のソファや休憩用のティーセットがあるのだ。

 

「……ん?」

 

 黙々と読んでいたヘカテだったが、とあるページを前に目を見開いた。 

 呼吸を止めて数秒後、急に鼻息を荒げるヘカテーニャ。いいの見つけたか。

 発想の種になればいいと思い、知ってる限りのロボ関係の空想科学を羅列しておいたのだ。何かが引っかかったのなら何より。

 

「こ、この……液体を循環させて機体動かすっちゅうやつ。これ真血で再現できるんちゃうか? 智核にしても、オートとマニュアルを上手いこと使い分けるとか。ジャイロって、反重力って、人工筋肉って何やこれ……! あり得ん、あり得んはずやけど……!」

 

 蝋のような肌に、うっすら赤みが差していく。ヘカテーニャは見るからに興奮していた。

 かと思ったら紙に勝手に付箋を入れていき、別の紙を引っ張り出して何かしら計算し始め、ガタッと立ち上がって黒板に向かいチョークを叩きつけるように書き込み出した。

 

「まぁ悪くないんじゃないかい? 今のところ破綻している理論は見当たらないね」

「細けぇトコは分かんねぇが、かっちりし過ぎてる武器は使い物にならねぇぜ。武器もゴーレムも、ある程度の余裕がねぇと」

「よく分かんねぇけどよぉ、やっぱ二足歩行って無理くねぇか? 例えば車輪ついた靴履かせるとかさ」

 

 ゴーレムの観察を終え、戻ってきた技術者達が黒板の前でアレコレ議論を交わす。

 書くスペースが足りないというので予備を出すと、自分達の世界に入った四人はダブル黒板スタイルで話し込んだ。

 まだ誰も何も言ってないのに、いつの間にかチームになっていた。

 

「……試してみる価値はあるな」

「だねぇ。なに、忙しいぼくだけど代金は要らないよ。もう見抜かせてもらったからね」

「流石にこんだけで金貰おうとは思ってねぇや。何か入用だったら言いな。最優先でやってやんよ」

「いや足が要るなら別の切り口もあるか。確か前にみた刻印に……」

 

 二時間ほど立ちっぱなしのぶっ通しで話しまくり、ようやく納得のいく内容に仕上がったらしい。

 ドワルフとケイン氏は立ち去って、パイモさんは居残って早速ゴーレム開発に着手し始めた。

 

「あ、ありがとなダーリン。お陰で詰まっとったトコが解消されそうやわ」

「迷惑でなければ良かった」

「……いや、最近ずっと一人やったで、共同研究って発想がなかったんや。そうやんな、普通にチーム組んでやるべきなんよ、このレベルの研究は」

 

 やはり、彼女は意固地になって個人研究に拘ってたのではなく、頭からチームの発想が抜けていただけだったのだ。何にせよ助けになれたなら幸いだ。

 そんな訳で、停滞していた計画は再加速したのである。

 

「まず、智核はウチ用に最適化された新型を用いる。基礎術式も変更するから、残念やけど今まで使っとったのはお役御免や」

 

 智核とは、オリジン・ゴーレムにおける制御・学習用のパーツであり、召喚獣のAIのモデルになった機構のことだ。

 現状の智核は、あえて機能を最小限にしているらしい。何故かというと、ヘカテが直接操縦する為に高すぎる知能が邪魔だったからだ。

 そこで、新しい智核には姿勢制御とパターン学習に加え、一部召喚獣で実装されている“空気を読む”能力による出力調整を担わせる事となった。

 手動なとこは手動で、自動でいいとこは自動で。上手くバランスを取るのだ。

 

「炉心は昔ながらの器型にして、触媒を介してウチの血ぃを直接使う。純血魔術を使ってな」

 

 炉心とは、動力源あるいは動力タンクの事だ。猫シリーズを含め。現代の召喚獣や使い魔の殆どは魔力で動くように出来ている。完成度が高いやつだと大気中の魔力を吸って半永久的に動くとか、飯食って生成するやつとかあるらしい。

 で、ここはあえて時代と逆行させる。新しい炉心は完全タンク型にして、動力源および操作の一部はヘカテーニャの純血魔術を使用。これまでのヘカテは、ゴーレムは魔力で動かすものという固定概念に縛られていたのだ。

 ちなみに、血と言ってもリアル血液ではなく、純血魔術における血とは水&闇属性の触れられる魔力らしい。この動かせる燃料を使ってロボを動かそうというのである。

 

「義体のデザインはこのパイモが行おう。内部構造はヘカテ、装甲はアダムス率いる王都の鍛冶屋。うぅんワクワクしてきたぞ!」

 

 義体とは、ゴーレムにおける基礎となるフレームや外装の総称である。

 新型義体においては、炉心からフレームを介して外装内の人工筋肉に純血魔術を流す予定だ。

 故に、これまでの岩人形とはオサラバする事となった。

 

「オリジン・ゴーレムをベースに造られる新たなゴーレム……いや、これは最早ゴーレムやない。そう、名付けて……!」

 

 プロジェクト名にして、開発コードにして、新たな規格・概念の総称。

 黒板消しをバサバサやって、ヘカテは全く新しいヒトガタゴーレムの名前を書き込んだ。

 

「名付けて、リヴクラフト! ウチが活きた証、ウチを生き残らせた心の柱、明日を生きる工芸品や!」

 

 新型魔導人機もとい新型ゴーレムもとい――リヴクラフト。

 リヴクラフト・プロジェクト、始動である。

 

「よぉしよぉし見えてきたで! 地を走り空を舞うリヴクラフトの雄々しい姿が!」

「何か手伝える事ある?」

「あぁ買ってきてほしい錬金素材があるんや。その間にウチ等は組むモンあるで」

「いやその前に掃除じゃな」

 

 プロジェクト最初の仕事は、実験場の清掃だった。

 ともかくとして、こうしてリヴクラフトの開発が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 一歩進んで二歩下がり、気付いた頃には五十歩百歩をジャンプしていた。

 役割分担ってのは凄いもんで、再始動したプロジェクトはヘカテ単独時代よりも圧倒的に爆速で進んだ。

 

 学習の軸である智核をヘカテが作り直し、その間にパイモとドワルフが炉心を設計・開発。義体設計もまたヘカテーニャとパイモで新規に起こし、人工筋肉は得意の錬金術で錬成。外装パーツはドワルフを中心とした鍛冶師チームが造った。

 なお、ケイン氏は「いやこのままじゃ無理あるって」と言い残し、一人でプランBの作業をしていた。

 

「ん~、やっぱ関節可動域は制限されるけど、その分姿勢は安定するなぁ」

「もう少し大きめの足……いや靴を履かせる必要があると見た」

「その為の余裕でしょう。とりあえず理論が正しいかどうか確かめねぇと」

 

 まるで、大きなプラモでも作っているかのよう。

 合金製のフレームパーツが組まれ、血管めいた動力パイプが巻かれ、魔術刻印を刻まれまくったアーマーが被せられる。

 重機もないのに異常な速度で組み上がるヒトガタロボット開発は、異世界人の異常なマンパワーを見せつけられるようであった。

 

「よし、ブラッド・ドライブ試験用リヴクラフト……ハリボテ君一号完成や!」

 

 そうして出来上がったのは、ゴーレムというよりリビングアーマーといった風な鉄人形だった。

 ハリボテ君は理論実証用としての意味合いが強く、以降に追加予定の機能や装備を試験する為に使用する機体だ。

 

「よし、今から稼働実験するから皆下がって~」

 

 ハリボテ君の肩に乗ったヘカテーニャが、鉄巨人の頸椎に片手を当てて炉心に真血を注ぎ込む。

 ヘカテから炉心へ。血管めいた動力パイプを通り、吸血鬼族の特殊魔力が人工筋肉を循環していく。やがて、智核の起動を示す頭部のツインアイが光を放った。

 

「動いた……!」

「まだや。思考制御術式、リンク開始……」

 

 ゆっくりと、ハリボテ君が立ち上がっていく。

 そのまま、一歩。片足を前に、もう一歩。ちゃんと膝も曲がっている。重心移動もバッチリだ。

 新機体の歩行動作は、これまで積み上げてきたゴーレムのソレより拙かったが、それでも確かにヘカテーニャの足として動いていた。

 

「よし、よし、よっしゃ……! 一旦終わるで。じゃあ片膝を……のわぁ!」

 

 実験終了。着座姿勢にしようとした瞬間、まるで地面に膝蹴りでもかますようにハリボテ君は力強く片膝をついた。

 放り出されたヘカテーニャはしかし、自前の翼を広げて軟着陸。彼女の翼にハリボテ君の中にあった血液が凝集していき、動力源を失った智核は完全に停止した。

 

「オリジン・ゴーレムとは逆に、リヴクラフトは鋭敏過ぎるね。これは地道に調整するしかないぞぉ」

「せやな。けど……」

 

 ふぅと一息。ハリボテ君を見上げたヘカテーニャは、口の端を歪めて云った。

 

「自分で動かしてる感は満点やで! 実験は成功や!」

 

 手応えを得たチームは、ハリボテ君一号で得たデータを基にハリボテ君二号を作成した。

 二号の次は三号、三号の次は四号。最初は全身鎧の騎士のようだったハリボテ君は、少しずつ異形の騎士に変じていった。

 

 まず、操縦席が造られた。これまで肩乗りスタイルだったところ、胸椎背後に座席を作って半分おんぶスタイルかバイクに乗るみたいにした。

 それに伴い、智核を収めていた頭部パーツが撤去され、さながらデュラハン・ロボといった見てくれになった。智核と炉心は丈夫な胴パーツに収納されたのだ。

 そして、太った。オーセンティックなデュラハンから、馬に乗れなさそうな重装騎士に。これは重要パーツを保護するのと、必要な機能を付け足しまくった結果である。

 で、例によって太ったせいで動けなくなったハリボテ君。当初考えていた機動力向上装備も出力不足と判明し、頭を悩ませる一同。

 だが、そこに救世主が舞い降りた。

 

「だから二足歩行には限界があるって言っただろ。任せな、騎乗兵器のプロである俺が、お前等の要望を全部叶えた最高の最適解ってのを見せてやっからよ」

 

 ガリガリダークエルフ、戦車工匠・ケイン氏である。

 これまでプロジェクトから離れていた彼が、デブハリボテ君の機動力を解決してくれたのだ。

 

「こ、これはダーリンの資料にもあったやつか! まさかこんな短期間で、しかも実現させるとは……やはり天才か」

「こいつは凄いぞ! 一体全体どんな術式を……ってこれ普通の現代ラリス式じゃないか!」

「いやでも地味に革命ですぜ。何で今まで誰も思いつかなかったのかって感じで」

「まあな。実は今、魔工学の勉強しててよ。そんで気付いちまったワケ。こいつは次なる空戦車に活かせるかもしれねぇってな」

 

 四号の弱点を克服した後、とうとうハリボテ君は五号機へと進化した。

 一周回ってオリジン・ゴーレムに近いシルエットになった五号機の性能は、ケイン氏の尽力で四号とは比較にならない程に向上した。

 

「リヴクラパンチは破壊力ぅ! ここまできたら魔物にも効くんちゃう?」

 

 パワーは見た目相応になり、戦闘に耐え得る程。

 

「っとな、はいどーぞ。いやぁハリボテ君で切ったリンゴは美味いなぁ」

 

 精密動作性は左手で摘まんだリンゴを右手のナイフで切れるくらい。稼働時間が増えれば皮剥きまでできる見通しだ。

 

「ヒャッホォーゥ! 最高やでぇーっ!」

 

 課題だったスピードに関しても、例のケイン氏の発明によって解決した。

 ただ速いだけではなく、図体に見合わぬ小回りまで備えているのである。

 

「どう? 例の動かしてる感はある?」

「そらもうリヴクラフトはウチの手足より自由や。今は言い過ぎかもしれへんけど、そのうちきっとそうなるって信じとる」

 

 一号機から五号機まで引き継いでいる智核もまた、初期とは比べ物にならないくらい進化した。

 その成長は著しく、隙あらば乗り回した甲斐あって現在ではパイロットの無意識の操縦にすら出力を微調整してくれるようになった程。

 まさに、人機一体である。智核が勝手に判断するのを嫌っていたヘカテだったが、こういったサポートには寛容になっていた。何より操縦の負荷も減ったのだ。

 

「次はいよいよハリボテやない本物のガチなリヴクラフトを造る! その為に五号機でテストしまくるで!」

 

 リヴクラフト・プロジェクトは次のフェーズに移行した。

 そこからは、如何にハリボテ君をハリボテじゃなく仕上げていくかの戦いだった

 これまでに得たデータから、より実践的な設計を考えるのだ。このフェーズからは、アドバイザーとして俺達も参加する事となった。

 というのも、ヘカテやパイモの言う実戦想定の装備には机上の空論が多かった為である。

 

「当たらんなぁ。なんや射撃っちゅーんは難しいんやね。魔法やったら適当に追尾させたらええだけやのに」

「しかし上手く撃てているぞ。あとは練習あるのみだ」

「さぁ♡ 次こそちゃんと当ててくださいね♡」

「何でニーナさんが的になってるんだ? 普通に木板を使った方がスッキリするのに」

「知らない方がいいッス」

 

 火力については既存の武装を流用した。百合吸血鬼・クリシャナさんの意見を取り入れつつ、ドワルフ設計で新たな規格を開発。

 防御力についても、装甲とは別に新たな防護装備を追加。拡張性にはまだまだ余裕がある。完成予定のリヴクラフトは、あらゆる戦場に適した装備を換装できるようにしてあるのだ。

 

「このリヴクラフトが完成したら、次は四脚タイプを作ろうよ。虫みたいにわしゃわしゃ動くの、きっと可愛い」

「四脚はキモいから嫌や。てゆーか今動けとるんはリヴクラフトが二足歩行やからなんやで。パイモはんは四つ脚で歩けるイメージ持てるか?」

「いやいや、オレとしては車輪をだな。何だっけ、前に旦那が言ってたタンクってやつ? いいと思うんだよなぁ」

「いっそ馬の胴体をつけるのは如何でしょう? へっへっへっ、そんで槍を構えて突撃とくりゃ浪漫がありますぜ」

「そのうち足を無くしたリヴクラフトをだね」

 

 時に、趣味嗜好の違いで喧嘩する事もあった。必要ない装備を追加しようとするパイモさんを皆で説得するなんて事も。

 いずれにせよ、楽しい時間だった。孤独に苦しんでいたヘカテも、最初みたいに笑顔でいる時間が増えた。

 

「ねぇ? 何で盗み入ろうなんて思ったの? 悲しいじゃん……もう殺すしかなくなっちゃったよ」

「ひぇええええ! 冒険者だ! 冒険者に殺されるぅ!」

 

 途中、倉庫に侵入してこようとした奴を捕まえるなんてイベントも発生した。

 すわ旧魔王軍かと思って合法チェストしてみたところ、単なる金目当てのチンピラだったので第三王子の息がかかった衛兵に突き出した。セキュリティ猫がいてよかった。

 

「まぁ入ったところで何もないんやけどな」

 

 実のところ、実験場内に金になる物など殆ど置いていない。

 何たって、最近のハリボテ君は全部俺の収納魔法に入れているのだ。巨大ロボの置き場がないなんて現象、うちの一党とは無縁である。

 

「これまではハリボテという名の実験機。ここからはホンマのリヴクラフト。記念すべき一号機にして、ウチの専用リヴクラフト……そうやな、“エメスアルマ”とでも名付けよか!」

 

 そんなこんな。

 ハリボテ君を卒業し、記念すべきリヴクラフト一号機が完成した。

 太り過ぎて鈍重だったハリボテ君五号から、結構絞ってなお重量二脚。故にこそ高い火力と生存力を持ち、機動力も迷宮基準で及第点。

 そうして完成したリヴクラフトは、ガチガチの鎧を身に纏ったヒロイック・デュラハンのようだった。

 

「勇ましいわね。嫌いじゃないわ」

「あとは出力ですね。レベルアップで何とかなるでしょうが」

「今は節約して動かしとるらしいからのぅ」

「ん、そのうち天使の聖水で動くリヴクラフト乗ってみたい」

「意外ッスね。魔導人機はトラウマかと思ってたッス」

「や、アレに乗るの自体は嫌いじゃなかった。任務は嫌だったけど」

「ところで……こいつの肩は赤く塗らねぇのか?」

「ん? まぁ色に拘りはないから、何色でもええけど」

「へっ、冗談だよ……」

 

 ややもあり、ついに完成したリヴクラフトでは、早速とばかりに実戦を想定した操縦訓練を開始した。

 オリジン・ゴーレム時代は小走り一つで息切れしてたヘカテーニャだが、今となっては銀細工程度の戦闘機動ができるようになった。

 まぁヘカテ自身の運動神経が微妙なので、立ち回りはそんなに上手じゃないんだけども。

 

「はい、チート共有したよ。どんな感じ?」

「……ウチ、剣の天才やったかもしれへん。そうや、ウチは学やのうて剣を握って成り上がるべきやったんや……!」

「はいはい。じゃあ実験しましょうね~」

 

 なので、色々説明してから各種チートを共有してみた。

 同時に彼女のステータスを見てみたが、ヘカテは知力特化の吸血鬼固有魔法職だった。一応上位職ではあったが、ステータスは微妙だったので条件満たして入手した感じだろう。

 何にせよ、魔力が伸びたらリヴクラフトの戦闘力と稼働時間も伸びるはずだ。動力源兼パイロットのヘカテも迷宮に行くモチベが上がっている。

 

「おぉ、乗りやすなったわ! マジで手足の延長っていうか、第二の肉体って感じ! しゅげー!」

 

 すると、彼女の操縦はメキメキと上達していき、以前より遥かに動けるようになった。

 そしたらその動きをリヴクラフトが学習するので、チート抜きでもかなり動けるように。これぞ正のスパイラルである。

 

「見てみぃ、この優雅なダンス! ほいほい、ほいっとな!」

 

 とにもかくにも。

 ヘカテ教授が楽しそうで何よりです。

 

 

 

 そうこうしていると、時間はあっと言う間に過ぎていった。

 ヘカテを夏にお迎えして、気付けば真冬の年明けである。

 

「「「誕生日おめでと~」」」

 

 なので、俺の誕生日兼年明けパーティを行った。

 会場は我が家で、チィレンさんとファリナさんと、ようやく旅券を手に入れたルクスリリアママことラグニア義母さんを招待した。

 ヘカテを迎えて以降、俺達は迷宮に潜っていない。去年の夏~秋は尖兵戦やってた反動か、今年の夏~秋は何もしていなかった。

 それでも日々が充実してたのは、ヘカテを含めた皆のお陰だ。感謝してもしきれない。

 

「この前ね、アケボノちゃんのお陰でストーカーに気付けたの! ありがとねヘカちゃん!」

「いえいえ、お役に立てたようで何よりです~」

「そういえばこの前、こいつ作ったの誰だってんで話しかけてきた奴がいてな、話してみたらヘカ先生の弟子だったぜ。なんか吸血鬼の姉ちゃんだったが」

「あぁアナちゃんか~。どない? 元気しとん?」

 

 この頃になると、俺達とヘカテの間には確かな信頼関係が築かれていた。

 当初はしつこかった好き好きアピールも次第に鳴りを潜めていき、その分要所要所でアピールしてくるようになった。恐らくルクスリリア達の入れ知恵だろう。悲しい哉、効果は抜群だ。俺はもう、この聖なる吸血鬼に絆されていた。

 手取り足取り魔術の手解きをしてくれて、勉強を教えてもらえて、お菓子やお茶を作ってくれて、それでいて自分の研究に直向きに挑むゴスロリ美少女吸血鬼と何カ月も同居して好きにならない男だけが俺に石を投げなさい。

 

「あの娘、もう主様に惚れとるのじゃ。恋が愛に変わっておる」

「ん、マスター覚悟決めるべき」

「既に心は決まってるのでしょう? あんな物まで用意して」

「相変わらずリキタカさんは甲斐性ありますねぇ」

 

 確かに、腹を括るべきだ。

 皆とも仲良くなったし、俺も好きになってしまった。血の味とか関係なく好意を持たれているという自覚もある。

 今日はいい機会だ。だからこそ、用意していた。

 

「ヘカテ、ちょっと渡したいものがあるんだけど」

「なに? とうとう抱いてくれはるん?」

 

 宴が終わり、ゲスト達が寝静まった頃、俺は中庭でヘカテと相対した。

 お決まりの冗談をあえて無視し、収納魔法から衣装ケースを取り出した。

 

「これは?」

「開けてみてくれ」

 

 ケースを開くと、彼女はパチクリと目を丸くした。

 中には迷宮用装備一式が入っていた。リヴクラフトの操縦の邪魔にならぬよう工夫してある、パイモデザインのゴスロリ風防具だ。

 あと、ドワルフに作ってもらった魔法触媒も。

 

「これ傘? いや触媒か。何やこの魔術刻印、すご……」

 

 傘だ。厳密に言うと傘型の魔法触媒だ。

 彼女は種族柄日光が得意ではないので、太陽の強い日に出かける時は日傘を差しているのだ。その日傘は特注の魔法触媒らしい。だから、これにした。

 いくらリヴクラフトが強くとも、生身で自衛する機会もあるだろう。その為のお守りであり、ガチ装備だ。

 

「ヘカテ」

「な、なんやろか」

 

 ぽーっと赤面しているヘカテに、俺は片膝をついてみせた。

 膝に矢を受けてしまってな。

 

「もし、君の気持ちが変わってないなら、俺のハーレムに加わってほしい」

 

 現代日本の倫理観からすると、最低最悪な告白だろう。

 それでも、これしかないと思った。実際に彼女の望みを叶えるならば、皆との関係を前提にせざるを得ないのだ。

 

「……いけず」

 

 息を飲むような静寂の後、彼女は包み込むように俺の手を取った。

 その手は冬の寒さとは無関係に冷たく、じんわり温かかった。

 

「流されて、流されて、やっぱウチじゃアカンのかなぁって思っとった。こっちは半分諦めとったのに、もう……」

 

 俺の手が、彼女の胸に引き寄せられる。ノー・ライフ・キングの心臓がバクバクと動いていた。

 そう、この世界の吸血鬼は、確かな存在として生きているのだ。

 

「こちらこそ、よろしゅうな」

 

 こうして、俺のハーレムに新たな少女が加わった。

 名はヘカテーニャ。妖血娘族のゴスロリ教授。

 例によって、エターナルロリだ。

 

「ダーリン♡」

 

 向日葵のような笑顔を見て、新たな誓いを胸に刻む。

 俺は、この人を、絶対に守り抜くと。




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・リヴクラフト
 オリジン・ゴーレムを基に、使い魔と召喚獣の良いとこ取りをした全く新しいゴーレム。
 純血魔術を応用し、炉心から真血を機体全体に送って「第二の肉体」として動かす実質的な吸血鬼専用ロボット。

・ハリボテ君
 リヴクラフトの開発過程で生まれた理論実証機。
 一号から五号まで存在する。

・エメスアルマ
 リヴクラフト・プロジェクトによって生まれた最初の完成型リヴクラフト。
 全高2.6メートル。さながら重量級デュラハンといった井出立ちで、人間でいう胸椎棘突起から突き出す形で座席が設けられており、操縦者はそこにまたがって搭乗する。スタイルとしてはバイクかおんぶの感覚に近い。先述の通り頭部パーツはなく、両肩および両足部がゴツい。
 メインカラーは無塗装のシルバーで、差し色に蛍光紫。ヘカテーニャが約140㎝でエメスアルマが約260㎝なので、その身長差はfateのイリヤとヘラクレスと同じくらい。
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