【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。いつも感謝しております。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
例によってダメだったら避難所ですが、まぁ大丈夫でしょう。
異世界の年末は冬至である。つまるところ最も夜の長い日だ。
年明けから今に至るまで尖兵戦フィーバーで一年中浮かれていた王都だが、今宵の歓楽街は祭収めとばかりに盛り上がっていた。
対し、一等地にある我が家の周囲は静かなもので、各々の家庭が各々のやり方で年末を祝っていた。中には、恋人や夫婦達が愛し合っているところもあるだろう。
今の俺達のように。
「ひゃ~、この抱き方ず~っと夢やってん。ありがとなぁ」
今年最後の月光が差す中庭で、俺はヘカテーニャをお姫様抱っこした。
蝋人形のように白い肌は月明かりにより青みがかって、人形のような真っ赤な双眸は眩く煌めいている。
「くふふ……なんか、悪い事しとるみたいや。学生の頃、大学の禁書庫に忍び込もうとした時みたい。まぁすぐ見つかって暫く奉仕活動させられたんやけどな」
ヘカテーニャの部屋に向かいつつ、皆の眠りの妨げにならぬよう囁き声で話す。
現在、ルクスリリア達は主寝室で、ゲストは客室で眠ってもらっている。確かに、こうしてステルス行動してると暗い高揚感のようなものがあった。
「色気のない部屋でごめんなぁ。こんな事ならもう少しインテリア置いとくんやったわ。ほら、最近流行ってるオシャレな魔導照明とか」
ヘカテの部屋は、女の子というよりは現役学生の部屋のようだった。
大きな机の上に大量の紙束が散らばってて、ベッドサイドのテーブルにはしおりの挟まれた本が置かれている。あれはグーラお気に入りの英雄譚か。
けれど、全く色気がない訳でもない。ベッドの近くにはドレッサーがあり、クローゼットの中には例のゴスロリ服が収められているのだ。
そういった二面性こそ、ヘカテーニャの部屋って感じでたいへん魅力的である。
「くふふ、ホンマにお姫様みたいや。あーでもラリスのお姫様ってガチで武術やったりするんやっけ」
シングルベッドに部屋の主を下ろし、俺も隣に座る。すると、マットレスが深く沈んで隣のヘカテが少し撥ねた。
至近距離で真紅の瞳を見つめると、途端にキョロキョロと視線が外される。
「あーっと、その……するんよな? これから、ダーリンと……チューとか、その先とか……」
さっきまで饒舌で積極的だったのに、灰髪の吸血鬼は急に肩を窄めて縮こまってしまった。
ここにきて緊張しちゃったらしい。ギュ~ッと、彼女はお手々を膝にしてゴスロリ寝間着の裾を掴んだ。
「その服、可愛いね。よく似合ってる」
「え? あ、うん。これな、普段着と同じとこで仕立ててもろたんよ~」
強張った身体を解すように、小さな肩など撫でながら会話を始める。
案の定、現在進行形でテンパッてるヘカテは自分の得意ジャンルに飛びついてきた。
「ヘカテは普段からオシャレだよね」
「こ、これも吸血鬼風でな、既存の衣服をウチみたいなんでも似合うようにアレンジしたんや。教え子ん中にバリバリ王都で仕事しとる仕立て屋さんがおって……」
ヘカテーニャはオシャレさんである。何たって、彼女は普段からゴスロリファッションなのだ。
実際には吸血鬼風ファッションのアレンジらしいので俺の知っているゴスロリではないのだが、彼女には明確な拘りと誇りを持ってゴスロリをしているように見受けられる。
ゴスロリとはゴシックロリィタの略であり、色や形云々よりも生き様や美意識の表現といった趣が強いファッションスタイルだ。フリフリで可愛らしい衣服を着こなす彼女は、間違いなく一端のゴスロリユーザーだった。
「ウチ、見てくれがコレやろ? 服も靴も、若い頃は全然興味なかってん。頑張ってオシャレしても男子には相手にされへんしな」
いじらしく、上目遣いで、チラリチラリと視線が重なる。
自分の事をぽつぽつ話すヘカテの姿は、初恋の人を前にした少女のようだった。
「教授はじめて何年目やっけな。元教え子……あぁさっき言うた仕立て屋の子にな、如何にも魔導士なローブ着ても小さい子が背伸びしとるみたいで舐められるよ言われて、せやったら個性バリバリの可愛いの着ましょ~って吸血鬼の伝統衣装を魔改造してもろたんや。ウチ的には恥ずかったけど、したらまぁ女の子達に可愛い可愛い評判でな。ただ舐められるよりは親しみ持ってもろた方がええかな思って、それ以来ずっと着とるんよ」
「いいね。普段着の丁寧な作りといい、デザインといい、その人が如何にヘカテ先生を慕っているか伝わってくる」
「まぁ男子ウケはからっきしなんやけどな。変わりモンやで、ダーリンは」
互いの体温が混ざり合ってきた頃には、彼女はいつもの調子を取り戻していた。
それでも、暖房のない冬の寝室は互いの肌に触れる言い訳に満ちていた。
「元々はリンジュ出身やねん。オトンは鬼系の偉い人で、オカンはお妾さんでな。長い間おひい様の傍仕えみたいな事しとったんやで。でも御当主様が圏外戦で死んでもうて、何よりその後の始末が悪ぅて見事に没落してなぁ。どないしよなった時に、おひい様のお陰で学校行かせてもらえるようになったんや」
二人の間に話題の種は尽きなかった。思えば、身の上話などはお互い気を遣ってしないようにしていたっけ。
曰く、妖血娘は吸血鬼系種族の中でも劣等種と言われてて同族からは蔑まれているらしい。そこでヘカテの母親は同じ妖血娘族の同胞と地上に出て、そこでヘカテを産んだのだと。
どうやら、俺がマイルド京都弁か柔らか関西弁だと思っていた言葉遣いはリンジュ共和国の方言だったようだ。
「そうか、そこから学問の道に。リンジュの学校ではどんな感じの生徒だった?」
「ん~、一言で言うと劣等生やったな」
学生時代について訊いてみると、彼女は可笑しそうに笑って意外な返しをしてきた。
教授になる程の逸材である。てっきり当時から優秀だったのだとばかり。
「いやぁ興味ない事は昔からサッパリでな。好きな事にしか本気になれへん性分で。ウチなりには頑張っとったつもりやってんけど、ガッコの成績は下から数えた方が早かったんよ。あん時のウチは結構暗かったし、友達なんて一人もおらんかったわ」
遠くを思い出すような表情には、以前まで確かにあった焦燥感は見受けられない。過去は過去として、しっかりと飲み込んでいるようだった。
「けどな、転機があった。魔術の授業や」
一段高く、声音が跳ねた。
まるで、とっておきの秘密を明かすような三日月の目で、星々を湛えた双眸で、ヘカテーニャは運命との出会いを語った。
「オカンに教えてもろとって純血魔術なら使えとったけどな、現代ラリス式も魔術概論も総論もめっちゃオモロかったわ。夢中になった。気ぃ付いたら論文っぽいモン書いとって、それ読んでもろた先生にラリス大行くか? 言われて試験受けたんや。魔術以外ダメダメやったけど、魔術学科で合格もろてん。ラリス大は楽しかったなぁ。冒険者雇って遺跡に潜ったり、魔物の研究中に襲われて死にかけたり。あん時に遭難したお陰でウチは襲撃から逃げ延びれたんやなぁ」
随分と騒がしいキャンパスライフをエンジョイしていたようである。
彼女にとって、魔術学科での生活こそが青春だったのだろう。あるいはアイデンティティそのものなのかもしれない。とうの昔に過ぎたもので、遠くにあって思い出すものなのだ。
「で、卒業して教授になって、魔導院とか天文台とかランベール学院とか色んなとこ行った。最終的にラリス王家から賢者の称号もらって倫叡塔入りや。これでも何人か弟子おったんやで。今でも最前線で活躍しとる子もおるし、ウチより偉うなった子ぉもおる。金細工になって圏外で死んだ子とかも……」
やがて青春は色褪せて、魔術の探求は彼女一人のものではなくなった。
ヘカテーニャという女性の身体には、ヒトとしての確かな歴史が内包されていた。
「こん歳まで生きてきて、それなりに楽しかったしそれなりに辛かった。何とな~く、このまま死ぬんやろな思っとった。で……初めて人を好きになれた」
「ヘカテ」
過去と、現在と、未来。全てを語り終えたヘカテーニャは、俺の身体に体重を預けてきた。
その意味を分からない俺ではなかった。
「賭けやったんや。ダーリンの噂聞いて、助けてくれるんちゃうかなって、捨て鉢になっとった。んで気付けば一気に全部解決して、その後も。今はこうやって温めてくれとる。こんなん、好きになってもおかしないやろ」
小さな肩を抱き、視線を合わせる。
宵闇にあって、澄んだ紅の瞳は俺だけを映していた。
「皆を守る為に剣の鍛錬しとる時のダーリンが好きや。真剣にウチの授業聞いてくれるダーリンが好きや。ウチを一人の女として見てくれるダーリンが愛おしくてたまらん」
飾り気のない、らしくもない、真っすぐな言葉だった。
真っすぐ過ぎて、恥ずかしくなって、勢いが止まってしまうほど。
「同じくらいとは思わん。けど、叶うんなら……」
弱々しく言葉を紡ぐ頬に、優しく手を添える。
その先は言わせない。目は口ほどに物を言うのだ。
「ん……」
唇を重ねる。
僅かに窄められたヘカテの唇は薄く、その感触は控えめだった。
キスというより、チューといった雰囲気だ。
「んぅ……チューってこんな感じなんやね。もう一回」
それから、何度も唇を重ねた。
感情を伝え合うように、やがて気持ちをぶつけるように。ヘカテは唇の隙間を厭うようにより深いキスを求めてきた。
「ん……♡ んむ、ちゅぅ……ちゅぷ♡」
長いキスの最中、挨拶するように舌を出すと、彼女もおずおずと応じてくれた。
舌の先っちょが触れて、すぐに引っ込む。やがて一転、大胆に絡めてきた。猫が水を飲むように、俺の口内をペロペロしてくる。
「ちゅ、れろぉ……♡ んっ、はぁ♡ はぁ……んぁ♡ チューすご♡ はぁ……♡」
唇を離すと、呼吸要らずの吸血鬼が息も絶え絶えといった様子で顔を赤らめていた。
明らかに興奮している。彼女の肌が非現実的に白いからこそ、頬の赤みは顕著だった。
「……美味しい♡」
え? という困惑の声を漏らさなかったのは、彼女を困惑させまいと自制した結果である。
ちょっと、予想外な反応きたな。
「え? あっ! あーその……これも妖血娘の特性というか! 吸血鬼と違って、妖血娘は一回吸血した雄の体液を魔力に変換できるようになるんよ! ついでに味覚も変わるとかで! 初吸血時に身体構造が対象に最適化される説ってのがあってぇ……!」
恥を誤魔化すような早口。解したはずの緊張がぶり返している。
「大丈夫だ」
「あ……♡」
なので包み込むように抱きしめる。早鐘を打つ心臓の音が、少しずつ重なっていった。
「も、もう一回して……ええ?」
一回と言わず何度でも。了承すると、彼女は最初から舌を伸ばしてきた。
ヘカテとのキスは、吸血ならぬ吸唾といった具合だった。舌で唾液を舐め取られ、絡め取られ、唇で挟まれちゅーちゅーと吸引される。
何分も唾液を啜られた俺は、押し倒されるようにしてベッドに仰向けになった。
「ぷはぁ♡ はぁ♡ はぁ♡ あかん美味し過ぎる♡ ヴィンテージのブラッド・ワインより、故郷の大吟醸より圧倒的に♡ ちゅっ♡ ちゅっ♡ れろれろぉ~♡」
馬乗りになったヘカテーニャに覆いかぶさられ、文字通りに貪られる。
好きなようにさせつつ背中を撫でてやると、興奮状態だったヘカテは徐々に落ち着いてきた。
「キス好き?」
「うん♡ 好きぃ~♡」
世界一美味しいお菓子を食べたような、世界一の美酒に酔っているような。
そんな感じで幸福フェロモンを放出しているヘカテーニャは、本当に美味しそうに俺の体液を啜っていた。
「はぁ……♡ 肌も♡ ちゅ~……ちゅぱ♡ こんなに美味しい♡ エッチな首……♡」
「血、飲んでもいいよ」
「ううん♡ それとこれとは別や♡ 初めてで血に酔うのは違うやろ♡ はぁ……んむ♡ ちゅぅううう♡」
いつも血を吸うところに甘噛みしてきた。
薄い唇ではむはむされ、情欲で温まった舌が俺の肌を撫でる。ちゅぱちゅぱと音を立てて吸引され、離れたところが外気に触れて冷やっこい。
愛撫というよりは捕食の前準備のよう。あるいは大きな飴でも舐めるようだ。初めて血を吸った日のように、今のヘカテは俺という食料によって酩酊していた。
「血ぃはお肉で口はお菓子♡ 肌も甘い果物みたいや♡ こんな変な女でごめんな♡ 許してダーリン♡」
食欲と同時に、色欲も満たしている。気持ちいいが、けど少しもどかしい。
このまま最後までするのも悪くないが、今宵は冬至なので朝まで長いのだ。
「ひゃん♡」
交代だ。体勢を変え、向かい合うように側臥位になる。
次いで、房中術を使いながらお返しに愛撫を施した。
「こ、こんな薄い身体に夢中なんて♡ 何がオモロいんや♡ あっ、これが房中術? 興味ぶか……ひぃん♡」
攻める時は獅子のようだったヘカテーニャは、攻められると借りてきた猫のよう。
物欲しそうに伸ばされた舌を絡めてやると、彼女は真っ赤な目を細めて喜んでいた。
「ふ、不束者ですが、末永くよろしゅうお願いします♡ ダーリン♡ 大好き♡」
妖血娘は体温が低い。それでも、出来上がったヘカテーニャは病に罹ったように熱かった。
優しく優しく、俺は宝石を扱うように彼女を愛した。
童貞でなくなってから何年が経つだろう。流石の俺も慣れている。どちゃくそに愛らしい美吸血鬼でも、獣の如くがっつくなんてしない。
というか、どちらかというとヘカテの方が童貞のようだった。
浅ましく腰を使い、積極的に体液を啜る。満たされたと思えばすぐに乾いて、それはもう派手にトランスしていた。
最初は恐らく同時だった。二度目は舐められ咥えられ、頼んでないのに飲み込まれた。例によって「上質な卵料理みたい」で美味しいらしい。
結局、彼女の顎が疲れるまで舐めてもらった。何なら吸いついたまま寝落ちした彼女の口から半ば強引に引き抜いたまである。
「これは……ひどいな」
大掃除をしたばかりだというのに、ヘカテーニャのシングルベッドは二人分の体液でぐしょぐしょになっていた。つくづく【清潔】をマスターしててよかったと思う次第。
ともかく、素敵な夜だった。彼女にとってもそうだったら良いな。
感慨にふけりつつ、俺は弛緩する彼女の寝顔を眺め、灰色の髪を優しく撫でるのであった。
〇
年明け特有のまったりした雰囲気は、異世界でも現代日本もそこまで変わらなかった。
アケオメ・アトモスフィア溢れる今の王都はどこか気が抜けている。夜通し遊んでいた人々も太陽が来れば静かなもんで、屋台の数も少なかった。年末年始にしこたま働いたであろう衛兵が日の出と共に交代して兵舎に戻って行く。
とにかくめでたい。去年は良い年だった。今年も何にもなければいいな。そんなノリで、王都に新たな朝がやってきたのである。
実際、我が家もしばらく寝正月だった。最近は研究で忙しかったヘカテは安楽椅子で昼寝して、他の面々も各々ゆっくりしていた。何にもしないをしているのだ。これに勝る幸せがあろうか。
外に出たのも、せいぜいラグニア義母さんの王都観光に付き合ったり、初スーパー銭湯のチィレンさんをナンパからガードしたり、ファリナさんのお土産選びを手伝ったり、まぁそんくらいだ。
ざっくり一週間ほど過ぎて、ようやく王都が微睡から覚めた。ゲストが帰った我が家は少し静かになった……っていうかラグニア義母さんが常に喋ってないと死ぬ感じのギャル淫魔だから何とも。
「くふふ~、ウチと店主、それからエリちゃんでデザインしたでな。楽しみにしといてや~」
「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ」
そんな訳で、王都と共に微睡から覚めた我々は南区にある服屋さんに来ていた。
ここはオートクチュール専門の仕立て屋で、主に吸血鬼風ファッションを扱っているらしい。あと、ヘカテーニャの教え子が店主やってて、彼女のゴスロリ服を生み出したトコでもある。
「ヘカテ先生。イシグロ様、準備整ってございます」
そこで、皆の服のお披露目会をしようというのだ。
プロデュースはヘカテーニャで、例によって俺はどんなのがお出しされるか知らされていない。
お披露目を前に鼻の下を伸ばす俺の前で、シャッとカーテンが開かれた。
そうして出てきたのは……。
「はぁい御開帳~♡ どうッスかご主人? 淫魔ファッションと吸血鬼ファッションの融合ッスよ~♡」
黒・赤基調のジャンパースカートに、チェーンなどのシルバーアクセ。煽情的な編み上げブーツ。
そう、ルクスリリアはパンクロリィタ風の衣装を身に纏っていた。彼女のメスガキ性とベストマッチで、実に良い仕事してますねと言わざるを得ない。
「こういうのなら毎日着てもいいわ。好きでしょう? アナタは」
ふわりと広がったホワイトスカートに、花嫁を思わせる純白のレース。角に巻かれたリボンが実にキュートだ。
銀竜令嬢エリーゼは白ロリだった。高貴さと少女性が矛盾なく合わさり最強に見える。
「気付けばコレを着る事になっていました。ど、どうでしょうか? 変じゃありませんか?」
華やかなピンクのミニスカートに、これでもかと多用されたフリルやリボンが彼女の健康的な褐色肌を彩っている。
グーラは甘ロリ担当だった。普段動きやすさ重視の恰好をしている分、こういう服を着た時のグーラは最高に最高なのだ。
「一応リンジュ風の意匠を取り入れとる言うとったが、ぶっちゃけカムイバラファッションとの違いが分からんのぅ」
ふわりと広がった短袴、リンジュ風の振袖。本格的な小物として腰には深域武装の太刀を佩いている。
和ロリ姿のイリハは、もう本家本元のリアリティがあった。ロリィタ要素はフリル多めなとこくらいか。
「ん、よく分からないけど全く新しいファッションスタイルらしい。天使族とはミスマッチな気がするけど」
艶のある黒のワンピースに、ネオンカラーの差し色。金属的な装飾も相まって、自前の機械耳や尻尾が良いアクセントになっている。
この世界にまだその概念はないだろうが、レノはサイバーパンク風ロリィタを着ていた。新しい、惹かれるな。
「こ、こんな服、上森人のお姫様でも着ねぇぞ。それをアタイみてぇなババアに着せるたぁどういう了見でぇ……」
赤ずきんを思わせるシルエットに、段々スカートと広がるレース。マジで古い絵本から飛び出てきたような衣装。
エントリナンバーシックス! カントリーロリィタのシャーロットだ! この世界が巨乳信仰一強でなければ王子様が迎えに来そうな素朴美少女である!
「これってクーシェンに来た事ない人が考えるクーシェン風ですよね~。まぁ上流層は実際にこういう服の美女を侍らせてる訳ですが」
真っ赤な生地に黄金に輝く魔龍の刺繍。華やかで煌びやかな意匠。そして髪の毛がお団子だった。
ユゥリンは華ロリ担当だった。彼女の長い脚が実に魅惑的である。
「どや? 可愛いやろ? 値段が値段やでまだ市井には出回ってへんけど、そのうちぎょうさん愛好家が現われる予定の未来のスタイルやで」
ドヤ顔のプロデューサーさんである。そんな彼女もまた例によって黒基調のゴシックロリィタだ。
なんだろう、視界全体に可愛いの波動が溢れててヤバい。似合うとか最高とか超えてバッチグーのその先へ向かい、とうとう俺の語彙力は弾け飛んだ。
「カワイイ! かわいーーー!」
全く以て洒落てない、思わず飛び出たストレートな発言だったが、皆はドヤ組と恥じらい組に分かれて喜んでくれた。
いや本当にカワイイ。カワイイの権化であり、カワイイの代名詞。俺は店主さんが見てるのもお構いなしに、その後も皆を褒めまくった。
「も、もう充分よ。続きは家で聞かせて頂戴……」
というエリーゼによって、俺はようやくストップした。店主さんの生暖かい視線が恥ずかしい。
会計の際、ヘカテの教え子だったらしい店主さんに「先生のこと宜しくお願いしますね?」とギン目で言われた。無論、そのつもりである。
「でも良かったんですか? 今日はヘカテーニャがご主人様を独占できる日だったのに」
「ええの。ウチが皆を着飾らせたかっただけ」
ゴスロリ姿のまま街を歩く。ちなみに俺はフル武装だが、ヘカテ曰くこれで良く、これが良いらしい。
空は爽やかな青で、実際デート日和だった。
「それに、こんな気持ちは皆で分けへんと嬉しゅうて爆発してまうわ」
「め、目立ってる。ちょっと怖い」
「問題ありませんよ。目に入った人を最短何秒で殺せるか計算してたら何も恐れる事はありません」
「いやいやユゥちゃん、そうやなくってやな」
実際、俺達は常より多くの注目を浴びている。
普段は銀細工にビビられてるのだが、今日ばっかりは皆に視線が集まっていた。
その先頭を、ヘカテーニャは豪奢な日傘を優雅に差して、堂々と胸を張って歩いていた。
「お母さん見て見て~! あそこの子、すごい可愛い~! あれ欲しい~!」
「やば! マジやば! 超かわいい! どっかのお嬢様? 可愛過ぎてしんどいんだけど!」
「あらまぁお可愛いこと」
そんな彼女達と背後の俺に、一般通過ロリがピュアピュアな憧れの目を向けていた。
現代日本ならコスプレっぽく見えるだろうが、こっちじゃお姫様と騎士に見えるかもしれない。気持ち的にはナイトやってるつもりです。
女子勢から憧れの目で見られるのには慣れてないのか、皆は当惑しているようだった。
「不思議ですね。いつもより好意的に見られているような気がします」
「蔑まれとる感じせんのぅ」
「くっふっふ~、覚えとき、カワイイは正義なんやで」
至言である。そして、激しく同意である。
次第に、皆も堂々と胸を張って歩くようになっていた。
「幸せだなぁ」
そんな皆の背中を見た俺は、得も言われぬ充実感を覚えていた。
これこそが世界平和だ。この世界に美少女の笑顔より優先すべき事などあろうか。いやない。
ヘカテーニャをお迎えしたのは、間違いではなかったのだ。
「ほな、このまま買い物行くで! 普段と違う恰好で街歩くだけでも楽しいもんや!」
「ですね。そろそろ次に読む本を見つけないと……」
「ん、活字中毒」
「そういやぁ最近妙に本安いッスよね」
「あーそれな、文字打ち機の進化形のお陰らしいぜ。亭主殿が持ってるだろ、あのカタカタやるやつ。作り方的にはリンジュの瓦版とほぼ同じなんだっけか。それを予め作っといた文字のハンコでペッタンコだ」
「ペッタンコか、良い響きだ……」
「なるほど、これからはもうボクがやってたような手書きの仕事はなくなっていくんですね。何だか寂しいです……」
「そうでもないでしょう。長く残す本は職人が作ったモノの方が保存魔法の効きが良いのだから」
「実際、技術が進んでも職人芸に追いつく事ってそうそうないですからねぇ。合理的なのは結構ですが、却って不便になったりするものもあったり」
なんて話をしつつ、皆と一緒に華やかな商業区へ向かう。
腰に剣を下げながら、その日の俺は荷物持ちに専念するのであったとさ。
楽しい、幸せだ。異世界生活、最高である。
あけおめことよろ。俺は今年もハッピーな年になる事を確信していた。
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妖血娘は吸血鬼族の中では弱い方なので、生存の為に自身の身体構造を吸血した男性に最適化させます。要するに血だけじゃなく他の体液や皮脂等でもOKということ。
同じく体液を魔力に変換する淫魔と妖血娘ですが、不特定多数の男を絞るのに特化した淫魔と一人の男から魔力を得るのに特化した妖血娘なので、その生態は似ているようで全然違います。
エリーゼに言わせると、どっちも下等種族な訳ですが。