【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 おや? 後書きの様子が……?


勇者とは少しも似てなんかないけれど(下)

 勇者一党の救世伝説において、鮮血大公・リアルイーザは割と地味なポジションと言われている。

 英雄性なら勇者・アレクシオスの一強で、少年漫画適性なら拳聖・イライジャがダントツだ。後世の学問への影響は魔道賢者・ゼノンが一番。最も多くの人命を救ったのは極光天使・ジュスティーヌ。今なお続く戦士の憧れは銀竜剣豪・ヴィーカである。

 そんな中、リアルイーザの活躍は地下世界の守護と後の魔族国の建国に終始しており、他と比べると相対的に地味である。英雄ではあれど、それは魔族ひいては吸血鬼族にとっての英雄であって、いわばご当地ヒーローか地元人気の高いマイナー偉人といった趣が強いのだ。

 

 で、あるならば。

 鮮血大公は、勇者一党の魔族枠は、勇者一党の名前を全員答えなさいという問題で忘れられがちなリアルイーザは。

 彼女を除く伝説の英雄達に、劣る存在であるだろうか?

 断じて否である。

 

「リアルイーザ様! 後ろォ!」

 

 悲鳴のようなヘカテの声。ノリノリで媚び決めポーズを取るリアルイーザに影が差す。特撮怪獣規模の大悪魔が、彼女に向かって拳を振りかぶっていた。

 

「無論! わかってぇ……!」

 

 迫る大拳。彼我のサイズは人と羽虫。声に応じつつ優雅に振り返ったリアルイーザは、同じく拳を振りかぶり……。

 

「おるッ!」

 

 ドッゴォオオオオオオ! 迫る拳に拳をぶつける。瞬間、両者の間に爆発めいた衝撃波が発生し、暴風となってネザーレ中に吹き荒れた。

 結果、力負けした大悪魔の腕が爆散し、たたらを踏んで転倒した。これまた、一同唖然である。

 

「ふんッ! 実に脆い! 弱い! 情けない! あの頃の貴様はもっと強大な邪悪であったぞ! やはり所詮は紛いもの! 他者から奪うのではなく、己を高めて出直せい!」

 

 筋肉はゴリラ! 牙は狼! 燃える瞳は原始の炎! リアルイーザの正体見たり! 卓越した魔導士で知られる鮮血大公の本性は、全てを力でぶちのめすゴリラのような脳筋吸血鬼であったのだ!

 

「治るのに時間がかかるようだな。よし! 出でよ我が朋友、我が半身! 美しき獣、ポルフェロス!」

 

 リアルイーザ・リアリティ・ショックに続いてのリアルイーザ・ゴリラ・ショック。大悪魔が倒れた拍子に戦いを再開した一同の中、当のゴリアルイーザは手に持つ大鎌を掲げてみせた。

 すると、彼女の近くに召喚陣が展開され、荘厳な光と共に謎の獣が現われた。軍馬の如き立派な体躯、月光に照らされる美しい毛並み、吸血鬼によく似た翼。イシグロが内心キメラオオカミと呼んでいた飢喰徒の主らしき大狼である。

 

「はははっ、久しいなぁポルフェロス! しかし再会を喜んでいる場合ではないぞ! ゆけポルフェロス! あそこにいる小さいのと遊んでくるのだ!」

 

 ポルフェロスと呼ばれた狼は、雄々しくひと鳴きした後に塔の方へ飛んで行った。行き掛けの駄賃に小悪魔を踏み潰しつつ中型悪魔に襲われていた兵士を身を挺して庇う。そしてそのまま悪魔と交戦。溜まりに溜まった鬱憤を晴らすような暴れっぷりだ。

 兵士そっちのけで悪魔を滅する狼を見て、すわ飢喰徒かと謎狼にビビッていた吸血騎士は現場判断で狼を援護する陣形を取り始めた。

 

「ふぅむ、地上は持ち堪えているようであるな。げに勇ましきは獣の童女よ。イライジャ君に似た熱いハートをしておる」

 

 塔の向こうを見上げるリアルイーザ。彼女の瞳には、地上ネザーレの喧噪もまた見えているのだ。

 五人の少女が奮戦して持ちこたえているようだったが、とかく人手が足りてないようである。

 

「であるが、ちぃとばかし他が危なっかしぃの……ん?」

 

 今は耐えてもらうしかない。そう思ったリアルイーザはしかし、ふとネザーレにある立派な城を見て何か良い事を思いついたような会心の笑みを浮かべた。

 

「腑抜けてる奴発見! こっち来なさい!」

「ぐげ!?」

 

 すいと手を伸ばし、グイと虚空を引っ張るような動き。その手と連動し、彼女の近くに霧が生じて中からまた中から次々に豪奢な衣装を身に纏う美男美女が吐き出された。

 

「な、何事だ? 何が起こって……誰だ貴様!?!」

「ひぃっ!? ぐ、飢喰徒がネザーレを練り歩いてるぅーッ!?」

「始祖の血を引く妾に何たる無礼! このこと直ちに御当主様に言上し、きっと公儀に掛け合うてくれる故、心しておれ!」

 

 空中に放り出された彼等彼女等は、慌てて翼を広げ浮遊した。真っ先に文句を言ったのは真祖の青年だった。

 同じく怒り心頭の面々の前、大鎌を担いだリアルイーザが立ちはだかる。

 

「黙れ、予はお母様であるぞ! そして悪い子にはお尻ぺんぺんの刑である! 歯ぁ食いしばれぇ!」

「あべし!」

「いってれぼ!」

「いのちば!」

 

 霧を使った拘束術。強制的に跪かされた美男美女は右から順にお尻を叩かれていった。その威力、上位吸血鬼が涙目になるほど。

 

「真祖らしく戦いなさい! 分かったな!? 分かったら返事ィ!」

「「「はいぃ!」」」

 

 そうして、リアルイーザは全員の尻と背中を物理的に叩いて新たな霧の中に放り込んだ。

 同時、地上ネザーレでは突如として発生した霧門から城住まいの真祖達が出てきて、それを見た騎士が「真祖様が助けに来てくださったぞ!」と歓喜していた。士気が上がる。勢いが増す。真祖達は困惑した。

 困惑する真祖達だったが、キラキラした目で見上げてくる兵士を前にしては否応なくやる気になるというもの。相手はスライムだし、まぁいけるっしょと。

 

「よし、とりま地上は問題なかろう。さてさてお次は……っと?」

 

 リアルイーザが振り返る。すぐ眼前に彼女のモノではない霧が生成され、中から小太刀を振りかぶった猫又が現われた。

 

「フシャアアアアアアアア!」

「同じ手管が! 通じる訳なかろう!」

 

 ガッギィイイイイン! 大鎌と小太刀が擦過し、激しい火花が咲き乱れる。

 一合、二合。斬撃の度に位置を変えてアクロバティックに立ち回る猫又に対し、リアルイーザは不動のまま大鎌を無暗矢鱈と振り回していた。

 この競り合い、拮抗しているようで終始リアルイーザが攻勢を維持していた。何故なら、猫又の間合いに応じて大鎌のサイズがベストな形状になるよう拡大縮小していたからだ。至近距離では小鎌、ベストな間合いでは大鎌。そして相手が離れたならば巨人の腕の如き超大鎌といったように。あまつさえ無造作な片手ブンブンである。

 鮮血大公の戦闘技術は、あまりにも力任せで乱暴極まりなかった。最早ゴリラを超えたゴリラである。

 

「なっ、なんと下品な技か! 試行錯誤がない! 鍛錬の形跡が全くない! バカ丸出しの猪武者! 貴様それでも英雄か!?」

 

 小太刀を振るいながら、マゼンタ猫又が古代の英雄を罵倒する。リアルイーザは武器と肉体の性能に頼っているばかりで、そこには戦いに臨む真摯さや武への献身が見受けられなかったからだ。

 いわばリアルイーザは対戦ゲームで強キャラ使ってレバガチャしている状態なのだ。ちゃんとコンボ練習や立ち回り研究をしている身からすると、リアルイーザの喧嘩殺法は不真面目に見えてムカつくのである。

 

「阿呆か汝! 技や武というのは、要は目の前の敵をぶっ殺す力の一部であろう! 膂力、魔力、生命力! それら全て、何一つ! 汝は予に届いておらぬ! そして何よりも……!」

 

 言い返し、巨大化し過ぎて特撮ロボハンマーみたいになった大鎌を振りかぶるリアルイーザ。

 

「根性が貧弱ぅ!」

「ぐぉおおおおおおおおお!?」

 

 範囲攻撃めいたサイズの死の鎌をガードし、地面に叩きつけられる猫又。家を破壊し、石畳を舞い上げ、ネザーレの大地に特大クレーターが生まれる。

 猫又が片膝をついて見上げた先、リアルイーザは大鎌を肩でポンポンしながら牙を剥いて言葉を継いだ。

 

「戦いというのはなぁ! 殴って蹴って最後に立ってた方の勝ちなのだ! つまりは心が一番大事! 精神の力! どんな戦況でも決して勝利を諦めぬド根性よ! これを下らぬと切り捨てる者に限って技術や美学を敗北の言い訳に使いおる! 戦場は汝のお遊戯場ではない! この武芸者気取りの軟弱者が!」

 

 余裕たっぷりな英雄に、猫又の額に青筋が浮き出る。

 始祖の心臓を稼働させる。魔血生成、魔力循環。猫又の怒りに火が点いた。

 

「では、これはどうかな……!」

 

 刹那、リアルイーザの周囲を赤黒い霧が覆い尽くす。霧で転移させた無数の血小太刀の切先が始祖の命に向いている。

 全方位血小太刀攻撃。知っている訳もないが、別世界における吸血鬼の必殺技によく似ていた。

 

「根性とやらで捌いてみせよ! この千の刃をなぁ!」

 

 同じく霧転移した猫又が、エリーゼ達を足止めしていた分裂体と共にリアルイーザを挟み撃ちにした。

 血小太刀を対処している間に前後同時攻撃で狩る。隙を生じぬ二段構え。確かに、神業である。牽制で誘導し、本命を当てる。完成度の高い必殺技と言えるだろう。

 

「ふん、阿呆め……」

 

 しかして、リアルイーザは呆れ顔。

 上下左右前後から、紅の刃が始祖を襲う。対してリアルイーザは空いている手を軽く挙げてみせ。

 

「【魔血掌握(ブラッド・ジャック)】……!」

 

 CRACK! 音高らかなる指パチン。次の瞬間、リアルイーザを中心に凄まじい魔力波が放散し、波に巻かれた血の小太刀はどういう訳か空中で静止した。

 

「そら、お返しだ」

 

 血小太刀の制御ができない。そう猫又が気付いたと同時、件の血刃が二人の猫又に殺到した。

 

「「何だとぉおおおおお!」」

 

 訳も分からず全力回避する本体。一方、分裂体は蝙蝠回避も間に合わず黒猫危機一髪になって爆発四散した。

 自分が生成し、操作していた純血魔術の制御が奪われたのだ。なおも追いすがる刃から逃げ回る猫又の内心は完全にパニック状態だった。

 

「んなっ、なんやアレ! ダーリンがゆーとこのチートちゃうんかアレぇ!?」

 

 他方、エメスアルマに搭乗していたヘカテーニャは始祖の無法っぷりに口をあんぐり開けて驚愕していた。

 純血魔術の乗っ取り。そんなの聞いた事がない。もしアレを解析し、他の魔術体系にも応用できたなら、あらゆる魔法を術者のモノにできるのではないか?

 面白い。研究したい。何がどうなってああなっているのか。戦場にあって好奇心が抑えられない。ニューロンの閃きに呼応して、ヘカテーニャはもっと重要な事を思い出した。

 

「リアルイーザ様! そいつは始祖の心臓を食ろうてます! 無暗に殺してもうたら……!」

「ああ、それ? 問題ない!」

 

 遠い子孫の忠告を聞き、始まりの吸血鬼は自信満々に豊満な胸を叩いてみせた。

 

「心臓な! なんかさっき再生(なお)ったわ!」

「「……はぁ?」」

 

 同じような顔で驚愕する猫又とヘカテ。対し、リアルイーザはあっけらかんと続ける。

 

「いやぁイシグロ君の血は凄まじいな! 当座の処置として吸わせてもらったのだが、あんまりにも美味過ぎて心臓ごと再生させてしもうたぞ! 故にッ!」

 

 ピッと、猫又を指差す。

 そして、リアルイーザは言葉を継いだ。

 

「もうそいつ殺していいぞ」

 

 瞬間、猫又の脳裏に戦闘者としての危機感が過る。

 これまでじっとしていた男が、既に致死の匕首を振りかぶっていたのだ。

 

「ぐぎぃ!?」

 

 迎撃せんと小太刀を振るが、当然として読まれていた。猫又の肩に薄く小さな刃が突き刺さり、大量の血が噴出する。

 対猫又用アサシンナイフ“木天蓼”。猫又族をスタンさせる特化短剣。通常なら、これでチェックである。

 

「この! 件の匕首か!」

 

 しかし、効果は今一つだった。続く反撃の蹴りを避け、イシグロは匕首に付いた血を払った。

 不意打ち会心、決まったはずだ。けれど奴はピンピンしている。他の個体に効くのは確認済み。であるならば……。

 

「な~る、今は半分始祖だから猫又特効半減ですよって理屈か。複合タイプは弱点残すのが流儀だろ。んなら捕縛は厳しいか」

「言うとる場合ちゃうで! ブラッド・ブラスター!」

 

 エメスアルマによる圧縮血弾を霧転移で避けた猫又に網状の広範囲拘束魔法がヒットする。再度霧転移で逃れようとした猫又だったが、魔力網が絡まって霧転移に失敗してしまった。

 

「なっ、何だこの気色悪い拘束魔術は!」

「あれ? なんか決まっちゃったッス!」

「よくやったわ! 攻略法が見えたわね!」

 

 魔力放出で網を抜けた猫又の背にエリーゼの魔法が突き刺さる。咄嗟に蝙蝠の変わり身でダメージを肩代わりさせたが、先の必殺技で霧および蝙蝠の発生速度が遅延していた。

 それを見逃すイシグロではない。短距離転移を繰り返す猫又に草薙一党による弾幕が殺到する。

 

「そんじゃ、その猫は任せたぞ。えーっと、そっちの子! 苦戦しているようだが、大丈夫か? 予が助けてやろうか?」

「これしき! いやしくも我等は誇り高きラドゥ侯爵の戦士なれば! 何も問題ありませぬ!」

「ほ~う、格好良いこと言ってくれるではないか。その意気やよし! なに、ヤバくなったら予が尻ぃ拭ってやる故な! 思いっきりぶちかましてくるがよい!」

 

 四騎士の対処は後輩に任せ、リアルイーザは再生を完了した粘体大悪魔に対峙した。

 悪い意味で夢にまで見たトラウマと万全の状態で戦えるのだ。彼女の顔には好戦的な笑みが浮かんでいる。これも一種の認知行動療法である。

 

「まただ! またイシグロのせいでこんな事に! ふざけるなよ……!」

 

 リアルイーザが復活した事で、戦況はネザーレ優勢に傾いていた。

 イシグロ達と刃を交わすマゼンタ猫又は思考する。心臓は手に入れた。つい血に酔ってかたき討ちに夢中になってしまったが、件のリアルイーザは何故か復活した上に嘘か真か抉り出した心臓まで回復したという。最早、勝ち目はなかった。

 これ以上、もう戦う理由はない。ならば当初の目的に移るべきだ。

 

「くっ、撤退だ! お前も来い!」

 

 なので、逃げた。

 マゼンタ猫又は霧転移で地上に降り、ネザーレの出入り口に向かって一直線に駆け出した。ついでに人工粘体の欠片を拾い上げるのを忘れない。

 

「範囲魔法いくわよ! 合わせなさいルクスリリア!」

「余裕! どんだけ一緒に戦ってきたと思ってんスか!」

 

 上空から草薙一党が追い掛けて来る。

 杖を切り替え、二挺杖形態になったエリーゼが猫又の推定転移可能領域に大吹雪を吹き下ろし、二度の転移で範囲を逃れた猫又にルクスリリアの粘着魔力網が飛来。これに当たれば逃走失敗となけなしの血を使って蝙蝠変わり身で逃れる。

 

「ブラッド・ブラスター! オーバーチェイン!」

「【魔力の礫(ガァトリング)】ゥウウウウウウウウ!」

 

 背後から大地を滑走する首無し騎士による追尾純血弾が放たれ、その肩に乗ったイシグロから凄まじい数の魔力弾が乱射される。

 転移回避と蝙蝠変わり身。どちらも範囲攻撃と弾幕には弱いのだ。既に猫又は攻略されていた。

 

「うぉおおおおおおおおお! こんなところでぇ! 殺されてたまるかぁあああああ!」

 

 短距離転移を繰り返し、時に迂回して路地裏に入って逃げる逃げる逃げる。そして、とうとう出入り口の塔が見えた。

 勝った! 任務完了! そう思った猫又の眼前に巨大な影が差す。

 

「ぐぶっ!」

 

 正面衝突。吹き飛ばされた。完全に不意打ちだった。

 吹き飛ぶ猫又。見れば、リアルイーザに召喚されたキメラオオカミが牙を剥いて猫又を見ていた。小悪魔を蹴散らしがてら体当たりしてきたのだ。

 

「くっ、貴様ッ……! 四対一は卑怯だと思わんのか!」

「どの口が言ってるのかしら」

「魔族はそん時そん時に生きてるッスからねぇ」

 

 地上約三十メートル、既に草薙に包囲されている。

 眼前、イシグロは杖を構えていた。その姿を見て、猫又は得体の知れない恐怖を覚えた。

 杖先に、赤黒い炎が燃え盛っている。並みの魔力弾ではない。通常の炎魔法でもない。相手を必ず殺す技。致死の魔弾。まるで、生命そのものを否定するような……。

 

「【煉獄弾(れんごくだん)】……!」

「かはっ……!?」

 

 BLAAAAAAM! 動揺から復帰する寸前、猫又の身体を赤黒炎弾が貫いた。

 凄まじい弾速だった。矢を見て掴み取れる猫又の目でさえ追えぬ程の一撃。当たったと気付いた頃には、既に終わりが始まっていた。

 

「ひぃええええぎゃあああああああ! あがぁああああ!?」

 

 やがて、猫又の全身に件の炎が燃え移った。

 肌肉を焼き、髪を焼き、目玉を焼いて涙を焼き消す。

 必殺魔剣ならぬ必殺魔弾。名を【煉獄弾】。ヘカテと共に編み出した射撃魔法に、“迷宮狂い”の能動スキル【煉獄送り】を付与したチャージ技である。

 無論、勿論、今回は……。

 

「フルチャージだ。尖兵戦からこっちハクスラで稼ぎまくった魔物の命、全部その身で受け止めろ」

「ぐぅやあああああああああああ! あづあづあづぃぃぃひぎぃぁぇあああああああ!」

 

 飛んで火に入る夏の虫。死の炎に巻かれた猫又は、痛みによって錯乱して滅茶苦茶に飛び回った。

 この猫又はもうじき死ぬだろう。だが、ここで終わるほどイシグロは甘くなかった。

 

「フォーメーション・シータ! 遠隔弾幕!」

「逃げらんねぇように縛ってやるッスよ~♡」

「待っていたのよ、この瞬間(とき)を!」

「昔からお手玉は得意やったんや!」

 

 シータのシーは死刑のシー! 都合四人、四弾幕。三角界で囲むのはイシグロ&ルクスリリア&エリーゼ。各々得意の魔法をぶち込みまくり、地上からはバンザイ姿勢のエメスアルマによる血弾弾幕がぶっ放される。猫又の身体はあっちへこっちへ死に際のダンスをダンシング。

 痛みに耐えている間、猫又は霧転移による逃避を試みた。けれども上手く発動できずすぐ隣への極短距離の移動で終わってしまった。逃げも戦闘も許されない一方的なトドメ演出だ。

 しかし、猫又はここで火事場の馬鹿力を発揮した。

 

「やめろやめろやめろやめろ! やめろやめろやめっ! やめろぉぉおおおおああああああ!」

 

 女の全身を色濃い霧が覆い尽くす。これまで短距離転移しかできなかった猫又は、ここにきてイシグロ達の戦闘領域を逃れたのだ。

 

「チッ、魔力探知いけるか?」

「こうも荒れた戦場では無理ね。ヘカテーニャ」

「今やっとる。なんかあいつメチャクチャに転移しまくっとるで。どこ行こうとしとるんかサッパリや」

「どのみちロクな奴じゃねぇんだ! 見つけ次第殺るぞ!」

「あいッス!」

 

 イシグロ達は猫又を追跡すべく動き出した。

 明日の平和の為、戦争賛成派には死んでいただく。後顧の憂いを絶たねば熟睡できない。

 自分達の邪魔をする奴は殺す。尖兵戦で、そう誓ったのである。

 

 

 

 

 

 

 戦場は混沌を極めていた。

 塔の周囲ではキメラオオカミが大暴れし、空中ではラドゥ侯爵達と四騎士が戦い、ネザーレの中心ではリアルイーザと大悪魔が怪獣プロレスみたいな戦いを繰り広げている。

 地上部はというと、こっちもかなり混沌としていた。真祖が現われて優勢になったと思えば、件の真祖の血を取り込んだスライムが超強化&大暴走してもうめちゃくちゃ。ネザーレ騎士に「下がってください」と言われた真祖はすごすごと後方支援に徹し、最前線で草薙の剣のロリ勢が暴れている。

 

 地下も地上も、轟音と怒号と爆発の大嵐だ。

 けれども、地下のとある一角だけは静寂に満ちていた。

 

「はぁ、はぁ……ぐぅ、げぼっ……おぇ!」

 

 マゼンタ猫又の周囲である。

 短距離転移を繰り返した猫又は、人気のない路地裏で倒れていた。

 鮮やかだったマゼンタの髪は煤に塗れ、自己再生が追い付かない。生命力がない。魔力がない。何より、体内の血が足りていない。半猫又半始祖の彼女は、吸血鬼族なら誰もが恐れる血の欠乏に苦しんでいた。

 万事休すである。けれども、その目は死んでいなかった。

 

「お、お前だけでも、逃げるのだ……」

 

 言って、猫又は一握りの人工粘体を懐から取り出し、地面に置いた。

 次いで勢いよく自身の腹に手刀を突っ込み、始祖の心臓を取り出した。猫又の髪が元の黒髪に変じていく。

 

「これを食って、本体と合流するのだ。さすれば我々の任務は成功し、栄光ある魔王国の礎に……!」

 

 スライムの身体に、始祖の心臓を埋め込む。すると、半透明だった粘体の身が少しずつ赤色に染まっていった。小さかった粘体が肥大化し、淡い輝きを放つ。

 安堵して目をつぶる。そうだ、このまま逃げれば勝利である。あとは自害すればいい。覚悟を決めた猫又は、肉体に刻まれた自爆術式を起動しようとした。

 しかし、それはできなかった。

 

「なに、何をする気だ……? おい、貴様?」

 

 冷たい感触がした。

 見れば、猫又の腹に粘体が覆いかぶさっているではないか。粘体はそのまま這って移動し、猫又の身体に纏わりついていく。

 

「や、やめろ……! そんな事をしたら計画が……!? 嫌っ、嫌だ! こんな奴に食われるなど……!」

 

 赤い粘体が胴全体を覆い尽くし、四肢を拘束する。抵抗を試みる猫又だったが、弱りきった身体には力が残っておらず無様に藻掻く事しかできなかった。

 

「んぶぅ!? んぼっ ぶぢゅ……! がぼぼぼ、ゴボアもがが……! ぶじゅば……!」

 

 声を発しようとした口にスライムが入り込み、猫又の呼吸を阻害する。

 なおも肥大化する粘体は猫又の顔面を覆い、頭から爪先までを身に収め、人体の穴という穴から侵入を開始した。

 

「ごぼ……がぼっ、ごぼぼぼぼばぁ……!」

 

 程なく、猫又は赤い粘体に吞み込まれた。

 本能的な捕食行為。猫又を食らった粘体は、膨れ上がり、波打ち、拍動し……。

 そして、新たな核を生成した。

 

「何の光!?」

「構えなさい! 拙いのが来るわ!」

 

 禍々しい爆発である。ネザーレの路地裏から莫大な魔力が柱となって噴出し、近くまで来ていたイシグロ達を吹き飛ばした。

 膨れ上がる魔力。屹立する巨躯。マゼンタ色の人工粘体が、ネザーレの一角に顕現した。

 

「す、吸い込み!? お前は吸い込まれて能力コピーされる側だろ!」

 

 かと思えば、巨大粘体はおもむろに口らしき孔を開けて近くにいた小悪魔を吸引していった。

 小悪魔だけではない。遠くで飛んでいた中悪魔を吸い込み、騎士団と戦っていた四騎士までも一人また一人と吸い込んでいく。リアルイーザに吹き飛ばされた大悪魔もまた、運悪くスライムにホールインワンしてしまった。

 

「おぉ、なんか凄いのが出てきたな。汝、アレの名を知っておるか?」

「し、知りません。少なくとも既存の生物では……」

「普通に粘体じゃねぇんスか?」

「それはそうなんやけど、その枠跳び越えてるというか……」

 

 リアルイーザの周囲に、イシグロ達が集合する。

 注目の中、全ての悪魔を飲み込んだ人工粘体が形を変えていく。不定形な肉体の一部が隆起し、十字架を成し、左右を腕とし上部を頭に。やがて半粘体の巨人へと姿を変えた。

 粘体巨人の頭部に核らしき光が灯る。それから頭頂部に左右一対の三角耳が生え、口が開き、牙が生え揃い……。

 

「ニャオオオオオオオオオオオオン!」

 

 咆哮が響き渡った。

 復讐の牙が折れ、本能による進撃が始まったのだ。

 

「ニャアアアアアアア! ンナアァアアアアア!」

 

 真っ先に狙われたのは、リアルイーザ城だった。水中ウォーキングのように前進した猫又スライムが城に大振り猫パンチをぶちかます。歴史ある建築物が玩具の家のように崩壊する。

 それから中にいた吸血鬼を掴み上げ、口に持っていこうとした。捕食する気なのだ。

 

「させぬわぁあああああ!」

 

 そこにラドゥ侯爵が割って入る。口に入る直前、件の吸血鬼は救出された。

 続いてラドゥ騎士団が交戦開始。ぶつけた剣は暖簾を押すようで、直撃魔法は溜池に水を注ぐかの如く。攻撃を受けた猫又スライムは、鬱陶しそうに両腕らしき部位を振り回していた。

 

「ふむ、予の心臓を食ったようだな。まぁ所詮は粘体、大した事なかろう」

 

 そんな猫又スライムの挙動を、リアルイーザは観察していた。

 とりま少しは効くらしい純血魔術で援護しようと血ビームを発射する。しかし、彼女の血は他魔法と同様に飲み込まれた。

 それどころか、リアルイーザ・ビームを飲み込んだスライムはHPを回復させ、よりいっそう身体をデカくしていた。

 

「なんと!? だが、いつか死ぬであろう! ぬぅおおおお!」

 

 自身の攻撃が効かずにキレたリアルイーザは、ムキになって血ビームを連射。スライムはその全てを飲み込み、歓喜するように成長していった。完全に逆効果である。

 

「り、リアルイーザ様、純血魔術が吸収されております! これ以上はお止めください!」

「ええい面倒な! 予、ああいうの大っ嫌い!」

 

 イシグロは慌てて始祖の蛮行を止めさせた。

 リアルイーザの魔血を吸収して肥大化したスライムは、今度はラドゥ侯爵を捕食すべく両腕を振り回していた。翼を広げて避ける侯爵だったが、彼とその騎士団の反撃は一切通じず防戦一方だった。

 

「リアルイーザ様、あの頭っぽい部位にあるのが核やと思われます。あそこに攻撃当てれば勝てるはずですわ」

「であろうな。ついでに予の心臓と同化しておるわ」

「見たとこ物理無効に魔法吸収。唯一通ってるのは純血魔術か。ただダメージは入ってるけど同時にリジェネも入ってるっぽいんだよな。吸収とは別の耐性? 割合吸収? 遅延が起きてる?」

「もう全部の属性は試したんスか?」

「ただいま。さっき持ってる杖を試してきたけれど、全部効かなかったわ。呪詛は通ったけれど、時間が掛かりそうね」

「そも、ああいう敵はゼノン担当なのだよな。お~い、ゼノ~ン! 聞こえてるかゼノ~ン! ちょっと転移してあいつ倒しといて~!」

「恐れながら、ゼノン様は既にお亡くなりになっております」

「むぅ、やはりそうか。ん? てゆーか予が眠ってから何年経っておるのだ? 何時何分何十秒? 災厄は何回やってきた?」

「ラリス王国が建国されてから、既に五千年以上が経過しとります」

「うっそ! もうそんな経っておるの!? なら魔術も進んでおるであろう! ほれ、何か凄いの使うがよい!」

「僭越ながら、人類はかつての大戦で魔術知識の多くを失っとります」

「かぁ~っ! この期に及んでまだ戦争やっておるの!? ちょっと人類愚か過ぎない? まったく、これだから最近の若いモンは!」

「い、一応今は平和ですんで……」

「ちな、その平和を乱そうとしてんのがあの猫又とあの粘体ッスよ」

「左様か! ならさっさとぶっ殺さねばな!」

 

 侯爵達が足止めをしている間、リアルイーザと草薙は作戦会議をしていた。

 イシグロが観測し、エリーゼがまとめ、ルクスリリアがアイデアを出し、ヘカテーニャが具体的な解決策を考える。リアルイーザもまた、積極的に意見を出していた。

 危機的状況だというのに、リアルイーザの心は春風のような清々しい気持ちに満ちていた。

 

「うむ、それでよかろう。頭目は汝である。頭目らしく指示を出すがよい」

「え? あ、はい! 行動開始!」

 

 会議の結果、方針を決定する。

 そうと決まれば即行動。迷宮潜りらしい即断即決ぶりだった。

 

「エリーゼ、ルクスリリア、よろしく頼む」

「此度の戦いは裏方ばかりね。まぁいいけれど」

「アタシ的にはこういう役回りのが気が楽ッス。出ろ、ラザニア!」

「ほう、うちのポルフェロス程ではないが、悪くない守護獣であるな。良い目をしておる」

 

 真っ先に動いたのはルクスリリアとエリーゼだ。前線で飛ぶ二人が騎士団に連絡すると、侯爵を除く騎士団は彼女等と入れ違いに戻ってきた。

 現在、猫又スライムを足止めしているのは侯爵とロリコンビである。ラドゥ侯爵を捕食しようとしていた猫又スライムは、今度はエリーゼを食おうとしていた。

 

「ダーリン、血ぃちょうだい!」

「おう、ちょい待ち」

 

 城に続く大通りド真ん中。騎士団がリアルイーザの背後に整列している間、イシグロは始祖に吸われた分の血を回復すべく行動開始。

 という訳で、収納魔法からグーラの手作り特大おにぎりを取り出した。

 

「くぅ~これこれ! 最高~! この握り飯がシャケだからちくしょう!」

 

 そして、食う。貪った。

 おにぎりだけではない。イリハ特製のおしんこに、レノの聖水で作った緑茶。ユゥリンが握った寿司。シャーロット自作の燻製肉。全て腹に収めていく。

 すると、どうだ。みるみるうちにイシグロの肉体に生命力が蘇っていき、肌がツヤツヤ元気モリモリになっていくではないか。

 

「ふぅ……待たせたな」

「あんたホンマに人間かいな!」

 

 それはそうと時間はない。失った血を取り戻したイシグロの首に、ヘカテーニャはがぶりと噛みつき吸血。彼女の肉体に尋常でない力が満ちていく。

 その光景を、リアルイーザを含めた吸血鬼ズは羨ましそうに見ていた。

 

「よっしゃ、準備できましたでぇ!」

 

 満タンになったヘカテーニャがエメスアルマに搭乗。次いで胸部装甲を展開し、そこに炉心を通した魔血を凝集させていく。

 エメスアルマの必殺技、スカーレット・デトネイターの予備動作である。

 

「うむ、皆の者! 魔血を捧げよ!」

「「「ご命令のままに、我等が始祖よ(イエス・ユア・オリジン)!」」」

 

 始祖が号令すると、ラドゥ騎士団は左手を掲げて魔血を捧げた。

 リアルイーザの周囲に騎士団の魔血が集まっていく。それから始祖は指パッチンを一つ。

 

「【魔血掌握】ッ!」

 

 魔力波が放たれ、リアルイーザが魔血の操作権を掌握する。そして、その血を圧縮中のエメスアルマの魔血に混ぜ込んでいった。

 始祖と騎士と妖血娘。交わるはずのない三種の魔血が一つになり、炉心の限界を超えて圧縮されていく。

 

「ンニャオオオオオオオオオオッ!」

「あ、やべっ! そっち行ったッス~!」

 

 高濃度魔血を感知したか、猫又スライムがリアルイーザの方に向かってきた。

 早く撃たねば。だが、まだ溜める。もっと強い一撃を当てねば意味がない。突撃した騎士団員が足止めにかかるも、派手に跳ね飛ばされるばかりで一秒も足止めできていなかった。

 

「あばばばば! もう撃ったってええんちゃいますかぁ!?」

「まだだ! もっとゴツいの当てるべきである!」

 

 炉心が限界だ。機体が悲鳴を上げている。エメスアルマの智核が何度も何度も警告を発する。

 赤黒かった魔力が緋色に変じ、臨界を超えてマゼンタになる。

 これでいけるという確信。始祖と妖血娘は同時に口を開いた。

 

「「スカーレットォオオオ! デェトネェイタァアアアアアアアアアア!」」

 

 刹那、紅紫の眩い極光が解き放たれた。

 ほんの一瞬、音が消える。遅れて爆音が響き渡り、その頃には猫又スライムの頭にマゼンタビームが直撃していた。

 しかし、殺せていない。貫通もしていない。純血魔術を受けたスライムは、それを飲み込むようにして身体を肥大化させていった。

 過剰に膨張し、過剰に成長し、過剰に破壊と再生を繰り返す。理性なき無垢なる生命は、本能のまま血を喰らっていた。喰らい続けていた。

 

「今です! やったってください!」

「今度は強めにもう一回……【魔血掌握】! ぐぬぬぬぬ……っしゃ掴んだぁ!」

 

 再度、フィンガースナップが響き渡る。吸血鬼の始祖が魔血の制御権を完全掌握。スカーレット・デトネイターも、ヘカテーニャの魔血も、猫又スライムの体内に入った消化しきれていない魔血までも。

 全て、鮮血大公の思うがままに。

 

「ぶっ潰れろぉおおおおおお!」

 

 五指を握り込む。スライム内の魔血が操作され、その核を砕くべく力いっぱいギュッとする。

 粘体核が軋みを挙げる。さすが始祖の心臓を取り込んでいるだけあり、その心臓部は硬質で頑丈だった。

 

「ニャアアアアアアアアアア! ンナァアアアアアアア!」

「喧しい! いい加減に壊れるがよい! 肉片一つ残さず、この世界から消え失せろぉおおおおお!」

 

 猫又スライムの悲鳴。構わず始祖は殺意を籠めて握り込む。気合、ただ気合だ。

 その時だ。粘体核に亀裂が生じ、徐々に徐々に広がっていく。

 そしてパキッと、生命の核は呆気なく砕けた。

 

「ンニャォオオオオオ……!」

 

 核を砕かれた猫又スライムが形を失っていく。

 元の水滴形態になり、拡大縮小を繰り返し、圧縮された肉体がネザーレの空に打ち上がる。

 その光景を、皆が見上げていた。

 

「グゥウウウニャアアアアアアアアアア!」

 

 パァアアアアアアアアアン! 粘体が弾け、花火の如く見事に散った。

 マゼンタ色の魔血がネザーレ全土に舞い上がる。傷ついた地下都市に、勝利の血の雨が降った。

 窮地を乗り越えた。安寧を勝ち取った。吸血鬼達の心に、絶体絶命の戦いを生き抜いた自信と誇りが漲っていく。

 

「勝鬨を挙げよ! 我等の勝利である!」

 

 ワァアアアアア! 皆、一斉に歓声を挙げた。皆、勝利の美血に酔っていた。

 リアルイーザ達も、ラドゥ侯爵も、ドラグーシュやベアトリス達も、笑顔で勝利の美血を浴びていた。

 

「はぁ~! い、癒やされるぅ! 清められるぅ!」

 

 すると、何という事でしょう。勝利の雨を浴びた吸血鬼兵の身体に刻まれた傷が、みるみるうちに癒やされていくではないか。

 枯渇して気絶していた兵士が意識を取り戻し、負傷者の傷が治癒されていく。老いて死を目前にしていた老兵もまた、心身の活力を取り戻した。

 しかし、勝利の美酒の効能は、それだけでは収まらなかった。

 

「うわぁ! 俺の筋肉がラリス彫刻のように美しく!」

 

 ややもあり、とある吸血鬼兵士の肉体がバッキバキにパンプアップし、着ていた鎧が音を立てて弾け飛んだ。

 彼だけではない。とある吸血騎士の鎧がキャストオフして強制マッスルフォームへ。塔の前で戦っていた貴族令嬢も胸を肥大させてボタンを粉砕していた。

 吸血鬼少年がショタ顔そのままボディビルダーみたいに変身し、幼女吸血鬼もまた豊満美女に急成長。

 勝利から一転、ネザーレはマッチョとセクシーの楽園になっていた。

 

「ぬぅ! この力、イシグロ殿の……!」

 

 ラドゥ侯爵の勝負服が破れ、真祖が嫉妬するような広背筋が露わに。

 

「うぉ! 筋肉が爆発しちまうぅううう!」

 

 ドラグーシュの服もビリビリ破れ、純血果みたいな大胸筋が露わに。

 

「くぅ~! 私も、もう限界……んはぁああああ♡」

 

 ベアトリスの服が破れ、採れたて新鮮胸メロンが露わに。

 そして勝利の雨は肉体だけでなく精神にも作用し、ネザーレ吸血鬼のテンションはどんどん高くなっていった。

 

「キレてる! キレてるよ! ん~ナイスバルク! 背中にイライジャ宿ってる!」

「三角筋がリアルイーザ城! カット抉れ過ぎて外交問題だよ!」

「腹筋割れすぎ人類平和条約! ラリス王も嫉妬しそうな肉体だぜ!」

 

 そこに、貴族も平民もなかった。

 皆、平等に、血を浴びた吸血鬼族は健康な肉体と精神を勝ち取ったのだ。

 恐らく、イシグロのせいである。イシグロの血がヘカテを通してスライムにぶち込まれた事により、何やかんやこうなったのだ。真祖化してる吸血鬼は見当たらないあたり、リアルイーザの血は無関係だろう、多分。

 

「あ、悪夢たん……」

「一回調べてもらった方がいいんじゃないッスか? ご主人の血」

「ヘカテーニャは……何もないわね」

「うん、ウチだけ何も変わってへんな。妖血娘やからやろか?」

 

 今度こそネザーレは歓喜と祝福に包まれた。

 筋肉同士が抱き合って、互いの筋肉をほめたたえている。爆乳女騎士が恥ずかしそうに胸を隠し、巨尻女兵士とぶっともも女兵士が男共の肉体美に見とれている。気絶していた吸血鬼達も、皆して復活のサイドチェストを披露していた。

 

「うむ! 地上の方も収まったようだな! あの猫又も死んでおるようだし、完全勝利である!」

 

 悪は滅びた。勧善懲悪、実にリアルイーザ好みの展開である。

 その胸は豊満であった。

 

「これにて! あっ一件落着~! な~っはっはっはっは! な~っはっはっはっはぁ!」

 

 戻ってきたキメラオオカミを撫でながら、古代の英雄は高らかに大笑した。久々に、清々しい勝利だった。

 ネザーレの危機は去った。リアルイーザは、今回も愛を守り抜いたのである。

 

 その姿は、紛れもなく英雄であった。




 お ま た せ

 しゃあっ、という訳でカバーイラスト公開!
 イラスト担当は、しおこんぶ先生です!




【挿絵表示】




 可愛い! エロい! 特に下半身がヤバいですね!
 この淫紋の正体は? ウェブ版との違いは?
 そのへんはオイオイネです。ごあんしんください。エリーゼの防具が白いのは書籍化に際しての変更点の一つです。。

 書籍版正式タイトルは「たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚1 迷宮より愛をこめて ~非モテな淫魔と寂しがりやなドラゴン令嬢~」となります。
 今後ともヨロシク!
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