【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 クリスマスプレゼントだろ!(サンタはせっかち)


幼女は黒い外套を纏いキツネを駆りて夏宵の空を行く

 バシィーッ! バシィーッ! バシィーッ! バシィーッ!

 閑静な住宅街の一角。豪奢な屋敷の中庭に、破裂音にも似た肉を打つ音が響き渡る。

 断続的に続く打擲の隙間に、男の苦しげな呻き声と少女達の楽しそうな笑い声が入り混じていた。

 あからさまにSMプレイなのだ。

 

「きひひ♡ う~わ♡ 叩かれる度に変な声出してるッス♡ なっさけな~♡ それでも英雄様なんッスかぁ?」

 

 男の背中に鞭が振るわれる度、小さな淫魔がせせら笑う。

 眉尻を下げて笑む表情には、嗜虐による快感が満ち満ちていた。

 

「四つん這いになって嫁二人に身体叩かせてるとか、普通に考えて変態じゃないですか。この変態。変態、変態、変態、変態」

 

 一方、機械的に木刀を振るい続ける麒麟少女の青い瞳には淫魔程の熱はなく、ただただ冷たく男を見下ろしていた。

 

「ぐぅううう……! これで勝ったと思うなよぉ……!」

 

 鞭と木刀。四つん這いのまま一方的な加虐を受ける男は、痛みを堪えるように歯を食いしばっていた。

 迷宮稼業によって鍛え抜かれた全身に、あまりにも痛々しい痣が刻み込まれている。

 そして、男――もとい俺は頃合いを見て息を吸い……。

 

「うっ、使うぞ! 魔力過剰充填、【極大治癒】!」

 

 次の瞬間、俺の全身を淡い光が舐めるように過り、リリィとユゥリンの攻撃で負った全ての傷を回復させた。【極大治癒】による回復効果である。

 ちょっとした傷なら即癒やせる【小治癒】。割と深めな傷でも治せる【中治癒】。複雑骨折もいける【大治癒】。その名の通り【大治癒】のアップグレード版の【極大治癒】は、失った手足さえ即座に生やせるくらいにはスゲェ治癒魔法である。最近、治癒特化ジョブを育成したお陰で習得した魔法だった。

 エリーゼの【聖光の極大治癒】? アレはピラミッドの外にあるMP全消費系の魔法版エリクサーなんで……。

 

「はいお疲れ~ッス。大丈夫ッスかご主人? 一旦休んだ方がよくないッスか?」

「かれこれ一時間くらいぶっ通しですよこの変態。そろそろ罵倒の言葉が思いつかなくなってきましたよこの変態」

「時間はまだあるから、もう少し続けるザウルス」

 

 で、何で朝からSMプレイめいた事をやっているのかというと、これも自己鍛錬の一環である。具体的に言うと熟練度上げだ。

 前衛・中衛・後衛に、物理に魔法に指揮に支援に斥候に、そんで治癒までやっちまおうってな塩梅で。

 

「ふぅ……よし! 魔力も回復してきたし、もっかい始めてくれ。時短の為に強めで頼む」

「あいッス! じゃあ今回は鬼教官モードでいくッス!」

「にしても治癒魔術って他のと比べて露骨に魔力消費激しいですよね。まぁ手足生やせるレベルと考えると破格ではあるんでしょうが」

 

 はて、熟練度上げとは何ぞや?

 説明しよう。この世界の魔法やスキルには、“熟練度”という仕様が存在する。

 熟練度とは、スキルや魔法ごとに設定された数値で、文字通りそれらをどれだけ使いこなしているかを示すものだ。熟練度の高い技の場合、より精緻に制御できるようになったり消費魔力が減ったりする。

 実際、俺は【清潔】の熟練度がめちゃくちゃ高いので、こと【清潔】の洗浄パワーと精密動作性はピカイチである。その気になればこれだけで食ってけるんじゃないかな。

 そんで、件の熟練度を上げるには反復練習が必須であると。

 

「貴様は人間ではねえッス! 害獣のクソをかき集めた値打ちしかない! このふにゃチン! マゾ豚め!! そんなにもぶっ殺されたいんスか!?」

「変態! 変態! 変態! 変態!」

「グォオオオオオッ……!」

 

 治癒魔術の反復練習には、HPの減少が必須である。HP満タン状態では治癒魔法自体が不発になってしまう。

 だから、淫魔美少女と麒麟美少女のWご主人様に痛めつけて頂く必要があったんですね。回復職への道、これが一番早いと思います。

 

「そろそろ限界……【極大治癒】!」

 

 バシィーッ! バシィーッ! 飛び散る汗、弾ける筋肉、もうどうにも止まらない。

 超苦しい、酸欠で死にそう。けれど、皆を守る為の痛みだから耐えられる。変態紳士でなければ即死だった。

 

 真面目な話、今の俺は多少の怪我程度なら魔族特性で瞬時に再生してしまうので、再生が追い付かないようなダメージを負うにはある程度強い人に迷宮用武器で殴ってもらう必要があるのだ。

 で、我が同盟にサド適性があったのがルクスリリアとユゥリンだけだったという訳である。エリーゼは最初ノリノリだったのに途中でリタイアし、グーラとイリハとレノは最初からNG。シャロとヘカテは素直にドン引きしていた。

 

「よっしゃできたで! 割とマジで最高傑作! 真祖の魔力で生み出されし召喚獣を超えた召喚獣のお披露目やー!」

 

 そんな風にご主人様から物理的な愛の鞭を頂いていると、中庭に繋がる工房からゴスロリ真祖ヘカテーニャ教授が現われた。その腕には目つきの悪い大型猫が抱えられている。

 アレは猫は猫でも人工生命体で、ユゥリンの姉ことチィレンさんへのプレゼント用召喚獣だった。

 

「あ、ヘカテさん、情けない姉の為にありがとうございます。このお礼は必ず」

「えーねんえーねん。それに真祖パワーで作る召喚獣の性能も気になっとったでな。このノウハウで今おる猫の性能も底上げできるんやで」

 

 ユゥリン曰く、先日チィレンさんから護衛用召喚猫を回収しようとしたところ、めちゃくちゃゴネられたらしい。預かった召喚猫に情が湧いちゃって手放したくないというのだ。多頭飼い生活に慣れた現状、護衛用の一匹だけでは妹のいない寂しさを埋められなかったようで。

 まぁでも、どのみち個人警護用のフブキと夜間監視用のシグレは草薙の魔力で稼働しているので、彼女の傍に置き続ける訳にはいかない。そこで、代わりとなる猫を新たに作ってもらったのだ。

 しかも今回は真祖エディション召喚獣。低燃費・高性能のハイエンドキャットである。彼女の要望通り。見た目はモフモフの大型黒猫である。なんか百戦錬磨のボス猫って印象。

 

「さてと、ほなチィちゃんトコに届けてくるわ。留守番よろしゅうな~」

「ん、わたしが護衛する」

「行ってらっしゃ~い。あっ、【極大治癒】!」

 

 猫の宅急便に行った二人を、マゾ奴隷スタイルのままお見送りする。

 冒険者登録したばかりで未だ木札級のヘカテだが、現役銀細工のレノがついているので変に絡まれる事はないだろう。草薙マークも抑止力になってるといいな。

 

「うわぁ、まだやっておるのじゃ。痛くないんかのぅ?」

「痛いよ。でもこれも強くなる為だからグゥーッ! 痛いのは生きてる証拠ぉ……【極大治癒】!」

 

 ややもあり、掃除用具を持ったイリハが俺達の様子を見に来た。

 件の治癒魔法を習得してからこっち、何度も何度も殴られては治してを繰り返しているものの、未だ苦痛が快楽に変わる感じはしなかった。マゾって才能なんだなって思いました、まる。

 あーいや、でも営みの最中に足で踏まれたり無理やり舐めさせられるのとかは普通にいけるんだよね。俺には方程式が複雑過ぎる。

 

「おっと、もうこんな時間か。本日最後の【極大治癒】」

「やっば♡ 鬼教官ごっこおもろ♡ またやるッスよ♡ ご主人♡」

「まぁワタシでよければいつでもお手伝いしますよ。この変態」

 

 ピンポーン。来客を知らせる魔導チャイムが鳴る。

 時計のない異世界は朝のラインがファジーである。二足歩行に戻った俺は全身に【清潔】をかけ、皆に身だしなみを整えてもらってからサマースーツを身に纏った。

 トレーニングの時間は終わり。これからはお仕事の時間だ。

 

「じゃ、ちょっくら行ってくるよ」

「「行ってらっしゃ~い」」

 

 そんな訳で、俺はお迎えのエージェント・メイドさんに連れられ、VIP用の馬車に乗り込んだ。

 今から、王家秘蔵の深域武装を受け取りに行くのである。しかも好きなものを選んでいいと言うのだ。

 これも、強くなる為である。

 

 

 

 

 

 

 最上位迷宮からドロップした深域武装は、持ち主の手に渡る前に王家による危険度チェックを受けるのが決まりだ。

 ルールに従って預けた結果、危険と判断された我が初最上位迷宮踏破記念品は俺の目の前で破壊された。で、その補填として王家秘蔵の深域武装を貰えるという話だ。

 俺が最上位迷宮に潜ってから、もう一年が経過していたようだ。準備に一年かかったあたり、色々と面倒な手続きとかあったのかなって考えちゃうね。

 

 そうして連れて来られたのは、件の深域武装を破壊した時にも訪れた秘密の地下施設だった。

 俺としては皆と一緒に選びたかったが、今回もまた俺単独だ。それだけ機密性の高い案件に使われる場所なのだろう、此処は。

 なんて事を考えつつ迷路のような通路をメイドさんの案内で歩いていき、程なく質実剛健な両開きの扉の前に辿り着いた。

 次いでメイドさんの手で扉が開かれる。なんだかんだドキがムネムネ。さて、どんな感じかな。

 

「おお……!」

 

 我知らず、感嘆の声が漏れた。視界いっぱいに夢のような光景が広がっていたからだ。

 体育館ほどある広い空間に、美術館のように武器が陳列されている。一つの台座につき深域武装一つ。あまつさえ全ての武器が映えるようライトアップされているではないか。これは「おお」だろ。

 どことなく、叡智な同人ゲームのシーン回想部屋みたいだ。そう思ったら一気にありがたみが失せちゃったな。いやどっちも漢のロマンが詰まってるけども。

 

「こちら、ラリス王家が所蔵する数多の秘宝の中から選び抜かれた深域武装でございます。どうぞ、ご自由にお取りください」

 

 と言われたが、如何せん数が多い上にどれも凄そうなので目移りしてしまう。

 にしても本当に色々あるな。オーソドックスな両手剣に、奇妙な形の槍らしき何か。深域武装なのか怪しい謎の物体Xまであるじゃないか。

 とりあえず、一番手前にあったザ・聖剣って感じのロングソードを手に取ってみる。そんで手癖でコンソールを開き……。

 

「うわビックリしたぁ!」

 

 驚きである。ビックリした事を口に出すくらいに驚愕してしまった。幸い、後ろで控えるエージェント・メイドさんはいつも通りの無表情だ。

 いやでもコレは実際凄いぞ。何が凄いって性能が凄いのだ。何たって物理基礎攻撃力が黎明と同格な上、素で魔力属性の属性基礎攻撃力まであるじゃないの。それに加えて膂力・技量・魔攻・知力の全てに高い能力補正がかかってるらしく、使い手次第で相当なDPSが出るはずだ。

 万能物魔剣士の最適解。今の俺のステータスなら、適当にブンブンするだけでとんでもない火力が出そうである。凄い剣だ。

 

「そちらは“ミザールの剣”でございます。性能についてはご自身で確かめるのが宜しいかと存じます。異層権能につきましても、遠慮せずお試しになってください」

 

 深域武装には、それぞれに固有の特殊効果が存在する。“異層権能”がソレだ。

 件の剣の権能だが、どうやら攻撃属性を物理か魔力のいずれかに傾けられる効果のようだ。

 物理一辺倒にしたい時は全ての魔法攻撃力を物理攻撃力に変換・加算でき、同じように魔法一辺倒にしたい時は全ての物理攻撃力を魔法攻撃力に変換・加算できる。見てくれは地味だが、極めて実戦的な権能と言えよう。

 その他の補助効果もまた、優秀だった。どれもこれも腐らないのが揃っている。なんて優秀な剣なのだ。間違いなく俺が見てきた中で最強の深域武装である。

 

「う、美しい……! 物干し竿と名付けよう!」

「ミザールの剣でございますよ、イシグロ様」

 

 これが王家秘蔵の深域武装の性能か。ただのSSRじゃねぇぞ。ド級のSSR……ドSSRだ。

 しかしねぇ、俺は既に黎明のルーンソードを持っているのだから。今回はご縁が無かった……いや惜しいな、欲しいな。これと黎明の二刀流とかビジュ的にも性能的にも最高じゃなかろうか?

 一応、候補に入れておこう。とりあえず他のを見てからだ。

 

 それから、俺はエージェント・メイドさんの解説を聞きながら王家秘蔵のSSR深域武装を見て回った。

 そのどれもが超がつく程の一級品で、クーシェンにおける国宝級がゴロゴロしていた。まさに修羅の国。

 

「こちらには、殿下がお選びになった深域武装を取り揃えてございます。イシグロ様なら、お気に召してくださるかと存じます」

「ほう……! ほうほう……!」

 

 一通り見て回ったところで、少し趣を異とする武器コーナーに差し掛かった。

 どうやら、このコーナーにある深域武装は性能度外視で俺が好きそうなのを並べてあるらしい。見てくれもユニークなのが揃ってるじゃんよ。

 性能よりも面白さ重視。空飛ぶ槍ことヴァルゼアの突撃槍とかまさにソレであり、俺はああいうロマンと実用性を兼ね備えた武器が大好きなのだ。これは期待大ですねぇ。

 

「これもいいなぁ! こういうゴチャゴチャした武器好きなんですよね、俺!」

 

 例によってどれも素晴らしかったのだが、中でも気に入ったのは合体機構を持つ謎剣だった。

 通常形態はハサミのような両刃剣なのだが、分裂させて曲剣二刀流にする事ができ、柄同士をくっつけるとS字ツインソードに武器種ごとモードチェンジ。しかもしかも、ツインソード形態のまま柄を捻って刃を同じ向きに変えれば切先と切先の間に魔力弦が張られて弓になるという素敵仕様。そんで弓形態から折り畳めば元のハサミ剣状態に戻るのだ。

 あえて言おう、俺こういうの大好き! ギミック武器ってのはいつの時代も男心を擽ってきやがる! 性能もいけるしな!

 

 その他、鎖で繋がった刃を飛ばせる双剣やら殴ると爆発する杭打ち手甲やらドリルランスやら。ぶっちゃけ最初見てたゾーンよりこっちのが面白くて好きだった。

 あぁどうしよう。最初に見た優等生の聖剣君よりネタ枠なはずのギミック武器に惹かれてしまう俺がいる。ラブコメでもソシャゲでも後発ヒロインの方が有利な悲しき宿命。

 

「そちらは“ネブの弩”と申します。装填した矢に魔力を籠めると、その分だけ威力が上がる権能を持っております」

 

 もう一つ、いいのを見つけた。異世界武器ティアー最底辺の弱武器代表ことクロスボウ君である。

 この弩、なんと魔力を籠めれば籠めるほど発射した矢の威力が上がるというのだ。能力補正が乗らずDPS不足が叫ばれる弩界隈に一筋の光。

 エージェント・メイドさんの了解を得て、俺が籠められる最大まで魔力を籠めて撃ってみたら、普通に自前の遠隔最大火力を超えやがった。しかも籠められる魔力はまだまだ上限値に達していなそうな雰囲気だ。

 もし、この弩をエリーゼが使ったなら、一体全体どうなっちまうんだ? いいねぇ、実に面白い。浪漫が溢れる。

 

「ん? これは……」

 

 あまりにも楽しいユニーク武器コーナーで遊んでいたら、ふと視界に入った深域武装に意識が吸い寄せられた。

 それは銀色のペンダントだった。細いチェーンに、銀色のダイヤモンド型の物体がぶら下がっている。アクセサリ枠の深域武装だろうか。

 手に取って、調べてみる。

 

 

◆ヘーファの首飾り◆

 

・異層権能=夢幻錬金

 

・補助効果1=自動修復

・補助効果2=物理耐性(小)

・補助効果3=全属性耐性(小)

・補助効果4=全状態異常耐性(小)

 

 

 

 権能の詳細は分からないが、補助効果に特筆すべきものはなかった。

 けど、なんだろう。何故か、無性に、凄く気になる。

 

「そちらは“ヘーファの首飾り”。権能により、思い浮かべた通りの武器を生み出す事が可能です」

 

 曰く、この首飾りは頭の中で想像した武器を生成できる深域武装らしい。

 言われた通り、脳内で武器の形をイメージしながら首飾りに魔力を籠めてみる。

 すると、飾り部分が膨張・分離して一振りの剣となった。適当な剣のイメージだったが、奇しくも無銘と同じ形だった。

 軽く振ってみる。いや無銘なのは形だけで、中身はハリボテだ。あまりにも軽い。

 

「使用者が知り得ている金属であれば、材質ごと再現可能との事です。金剛鉄でも真銀でも。希少金属の場合、通常より多くの魔力を消費するそうですが」

 

 どうするんだろうと思いつつ再度無銘を思い浮かべて権能を発動してみれば、手に持った偽無銘の色がどんどん黒ずんでいき、やがて無銘くりそつ剣に変化したではないか。

 色も長さも重さも、マジで無銘の双子である。チートを使って調べてみたら、補助効果を除いた全ての能力が無銘と同じだった。これは凄いな。

 

「なるほど、武器を生み出すにしてもちゃんと頭ん中で形やら何やらを決めておかないといけないのか。なかなか難しいな」

 

 イメージ次第で色々出来るというので、色々試してみた。

 金剛鉄の鉄球から、真銀の槍へ。聖銅の杖を作り、最後に疑似ぶちぬき丸を生成してから【投剣】。投げられた疑似ぶちぬき丸は的にぶち当たった後に粒子となって消失した。

 さて、一度に生成できるのはどれくらいで、どれだけ離れたら消えるのか。詳しい仕様はまだ分からないが、少なくとも俺の魔力が続く限りエンドレス鉄球投げができるっぽい。何球続ける? 千球だ。

 

「うぅ~ん……」

 

 使ってて楽しい武器だ。他にも面白い使い方とかないだろうか。もっと色々検証してみたい。

 けど、まぁ今まで見てきたSSR深域武装と比べたら、ハッキリ言って見劣りする代物ではあった。

 確かに無限投げナイフとか瞬時展開特大シールドとか使い道は思い浮かぶが、俺には既に様々な用途の特化武器があるのだ。必要性は低いと言える。何よりアクセサリ枠を圧迫される都合上、耐性面に脆弱性が生まれるのが痛すぎる。

 けど、うぅ~ん、やっぱ……。

 

「運命的な何かを感じる……」

 

 そう、運命だ。英語で言うとデスティニー。

 どう考えても他の深域武装の方がいいってのは分かっているし、特別この武器が俺に合う訳でもないだろう。

 でも、俺の勘が「これにしろ」って言っている気がする。さもなくば後悔するぞ、と。

 なら、これにするか?

 

 いや待て、落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。

 せっかく王家からSSR深域武装を貰えるチャンスなんだ。もっと冷静に考えろ。

 浪漫武器や勘に従うより、今は力を追い求めるべきではないか?

 

 現状、我が同盟に必要な武器は何だろうか。

 深域武装持ってない組はどうだ。シャロは……深域武装嫌いって言ってたな。ヘカテーニャに合う深域武装は……見せてもらった中には見当たらなかった気がする。あくまで俺が使う用を集められてるというか。

 俺個人の場合はどうだろう。現状でも大体は揃っているが、強いて言うなら単発火力の高い打撃武器が欲しいところではある。おあつらえ向きに強力な打撃武器あったんだよなぁ。

 さて、どないしよ。

 

「どうすっかな~」

 

 時間も時間なので流石にそろそろ決めようとなり、見せてもらった中から五つまで絞ってみた。

 候補一、性能重視のガチ聖剣。

 候補二、単発高火力のデカハンマー。

 候補三、ギミックロマンの合体曲剣。

 候補四、エリーゼ用魔力クロスボウ。

 候補五、例の運命錬金首飾り。

 う~ん、どれも捨てがたい。ぶっちゃけ全部欲しいんだが、一つだけなんだよな。厳しいルールだぜ。

 

 今一度手に取ってみて、軽く使ってみる。

 聖剣君はもう純粋に強い。大きなハンマーはそんなに得意じゃないが、そのうち慣れて使いこなせるだろう。曲剣は面白くて楽しいが、空飛ぶ槍と違って収納魔法内で埃かぶりそうなんだよな。魔力弩はエリーゼが喜んでくれる……か? ちょっと怪しいな。

 そして、五つ目の首飾り。やはり、これだけ使ってみた感触が違う。強い弱いじゃない。合う合わないでもない。ただ、俺と首飾りが運命の赤い糸で結ばれているような気がしてならない。

 

 消去法で搾るなら、聖剣かハンマーか首飾りだろう。

 実戦志向なら聖剣。対応力ならハンマー。勘に従うなら首飾り。それぞれ、受け取った後の事を想像してみる。

 そうしたら、もう迷いはなくなった。

 

「お待たせして申し訳ありません。決まりました」

 

 ややもあり、俺は悩みに悩んだ末に、王家から貰える補填はヘーファの首飾りに決定した。

 これを選ばなかった未来を考えた時、絶対に凄まじい後悔をするだろうと直感したからだ。

 

「承知いたしました。ヘーファの首飾りでお間違いございませんか?」

「はい、大丈夫です」

 

 多分、そんな使い道はないだろうけど。選んだ事に後悔はない。

 あーでも、皆に理由を訊かれた時、どう答えりゃいいだろう。

 奥さんに内緒で高額な趣味グッズ買った旦那って、こんな気持ちなんだろうか。

 いや打刀買った時も何も言われんかったし、大丈夫だろ、うん。

 

 

 

 

 

 

 翌々日である。

 熟練度上げも大事だが、異世界における自己強化の基本はレベリング。即ち迷宮探索である。

 てな訳で、我等草薙の剣は俺+グーラ+ユゥリンの三人一党で三人専用迷宮に潜っていた。

 

「いきますよユゥリン! 合わせてください! やぁああああ!」

「全く頼もしくって涙が出ますね! お任せを!」

 

 取り巻き完備のボス戦である。暴れる主の周囲では、W獣耳の天才ロリコンビが無双していらっしゃった。

 天駆けるグーラが大剣をブンブンしまくり、地を這うように疾走するユゥリンがテクい体捌きで機敏に立ち回る。ステータスでは前者が圧倒しているはずだが、麒麟少女は普通に追随していた。強いのではなく巧いのだ、ユゥリンは。

 前にグーラ後ろユゥリンのマヴ戦術。編成の都合で普段あんまり組まない二人なのだが、実はめちゃくちゃ相性が良かったりするのだ。

 

「そぉい! そぉい! はい、曲っが~れ!」

 

 他方、俺は俺でいつもと異なる立ち回りで戦っていた。

 真銀製の弓で金剛鉄の矢を撃ちまくる。矢は刺さったそばから消失し、怯んだ隙に接近して弓を振るう。攻撃軌道中、弓はヒヒイロカネブレードに変じ、ザコの魔物を真っ二つに切り裂いた。

 言わずもがな、首飾りの権能である。

 

「しゃあっ、【弾き返し】! からの【飛び込み突き】ィ!」

 

 フル金剛鉄の盾で魔物の突進を【弾き返し】、聖銅の突撃槍をぶち込む。真銀鉄球に魔力を籠めて連続投擲。杖に変えて前衛二人にバフを付与した後、杖先に鉄塊を生成して巨大ハンマーを振り下ろす。おそらくこうやって使うのが王道ではあると思う。

 うん、普通にいい。使ってて楽しい武器だ。けれど、俺の使い方が悪いのかメイン武装には成り得ない塩梅。なんとかして無限発射クロスボウとかやってみようと試行錯誤してみたが、仕組みが分からずせっかくの性能も持て余し気味だった。

 

「大丈夫です! いけます! やぁああああああ!」

 

 ややもあり、グーラの発勁斬りがボスを一刀両断した。

 敵ながら哀れ、誰にも一矢報いれなかった迷宮の主が青白い粒子に変じていき、例によって俺達に注がれる。帰還水晶が出て、クエストクリアだ。

 

「ふぅ~、はいお疲れ~。今日も頑張ったな、二人とも」

「お疲れです。援護して下さり、ありがとうございます」

「乙です~。いえいえ、ワタシはワタシで楽させてもらったんで」

 

 経験値も美味いし、報酬も美味い。三人用ってのがネックだけど、準備運動にはいい迷宮だ。

 コンソールを開く。ヘーファの首飾りで戦う為に、ジョブは深域武装特化の“武装優位者”にしておいた。お陰で実戦レベルで使いこなせていたとは思う。

 今でもコレを貰った事に後悔はないが、やっぱり強武器ではないよな。素直に聖剣君だったら俺に不足しがちなDPS補えたんだろうなって。いやホントに後悔はしてないけどさ。

 

「ご主人様、なんだかレベルが上がった気がします。しかもいつもと違うような……!」

 

 なんて考えつつコンソールを見ていくと、申告通りグーラのレベルは上がっていた。

 最上位職はレベルアップごとのステータス上昇幅が素晴らしい反面、レベルアップに必要な経験値量は極めて多大。例によってグーラは“魔獣勇士”という獣系魔族固有最上位職なので、一回レベルアップするだけでも実にめでたく超強化。輪になって歌って祝いたいところ。

 しかも、ただレベルアップしただけではなかった。グーラのジョブの欄に、あの時のエリーゼと同じ謎記号が表示されているではないか。とうとう来ましたね、二人目が。

 

「レベルカンスト! やったぞグーラ! 戦いは次なるステージへ!」

「わぁ、これでご主人様の手を煩わせずに済みますね!」

「とうとう例の異能が手に入るんですねぇ。いいなぁ、ぶっちゃけワタシも欲しいです」

「いいぞ、なら明日から毎日迷宮だ!」

「それは嫌! ワタシは楽して異能をゲットしたいんですー!」

 

 レベルカンストである。

 グーラはこれ以上レベルアップできなくなった。けれど、今は悲しむ場面ではない。むしろ更なる強化を喜ぶ場面だ。何故なら、上限突破時に新しく異能が生えてくるからだ。しかもしかもランダムではなく、選択制なのである。

 上限を突破するには最上位迷宮で確定ドロップする“星髄石”という謎アイテムを使う必要があるので、俺達はそのまま帰還して寄り道せずに家路についた。ウッキウキである。

 

「おぅおぅ、うちの同盟からまた異能使いが増えちまうのかよ。すげぇな、おい」

「ためらわず一気に砕くのよ、グーラ」

「は、はい……! 頑張ります!」

 

 帰宅後、皆の前でグーラに星髄石を手渡す。

 ギュッと握られ、バキッと割れる星髄石。するとソシャゲのキャラ召喚エフェクトのような光が溢れ、エリーゼとは異なる演出と共に彼女の身体に収まった。

 開きっぱなしにしておいたコンソールを見れば、新たなポップアップウィンドウが浮かんでいるではないか。案の定、異能の購入画面と保有ポイントが記載されている。

 ん? 気のせいか、エリーゼよりポイント多いな。異能の数も多い? 何故? めっさ気になるゾ。

 

「ど、どうでしょうか? ちゃんとできてますか……?」

「ああ、大丈夫だ。何個かエリーゼにない能力があるな。実に面白い」

 

 ざっと流し読んでみたところ、汎用異能の他にもエリーゼには発現しなかった異能が見受けられた。その逆もまた同様に。

 これは個人差なのか種族による差異なのか。ともかく、俺は以前に書いておいた異能メモを見ながらグーラにのみ生えてきた新異能を書き出していった。

 

「【荷物持ち】って……なんスかそれ? まさか荷物を沢山持てるようになる異能とかじゃないッスよね?」

「ん、割と使いではありそう。グーラには要らないと思うけど」

「種族柄か炎と雷に関する異能が多いみてぇだな」

「なかなか優秀そうなのが揃っているじゃない」

「そうですね。ですが、予定通りボクも“収納魔法”でお願いします」

「ぶっちゃけそれが安パイですよね~。迷宮でも日常でも」

 

 色々と面白そうな異能が並んでいたが、グーラは事前に決めていた収納魔法を選択した。

 元々、彼女は自分の身の丈を超える愛剣の持ち運びに苦心していたのだ。戦場で振り回す分には良いとして、街中で持ち歩くのは不便極まりないのである。

 

 という訳で、俺はウィンドウにある異能ショップから収納魔法をタップし、グーラが保有する異能ポイントを全部突っ込んで目盛りを弄って容量を最大にしてから購入した。

 これでヨシ……とはならなかった。何と、保有ポイントが少し余っていたのである。

 

「……っと、ちょっと余ったな。他も買わないと閉じれないぞ」

「相変わらず変なところで不親切じゃな。詳しい効果も分からんというのに」

「収納魔法以外ですか。全然考えてませんでしたね。どうしましょう?」

 

 現在の残りポイントで購入できるのは、ノーマルスキルというかコモンスキルみたいなのオンリーで、これといった超優秀異能は見当たらなかった。

 改めて購入可能な異能を書き出し、皆に見せる。グーラを含め、皆さん食い入るように見ていた。

 

「“怪力”とかいいんじゃないですか? 名前からしてパワー強化ですよ。よくないですか?」

「これ以上グーラの力を強くしてどーすんスか」

「あら、強みを伸ばすのって面白いじゃない。私は好きよ」

「魔力回復系は……余りでは買えんようじゃな」

「単純に弱点に耐性を付けるんでいいんじゃねぇか? グーラぁ水に弱ぇんだろ?」

「ん、装備でどうにかなる事は装備でどうにかすればいい」

「耐性とかって補助効果と重複した場合どうなるか分からんのよな」

 

 グーラの異能についてアレコレ話し合う。ロリロリしい見た目も相まって、女児が高難度ゲームの攻略法を検討しているようで微笑ましい。

 黒板なんか取り出して、それぞれのメリット・デメリットを書いて検討する。けれど、実際の効果は使ってみないと分からないので、浅い議論にしかならなかった。

 

「なら、“断食適応”をお願いします」

「ふむ? その心は?」

 

 断食適応。具体的にどんな効果なのか分からないが、字面からして食欲とかそのへんに関係する異能ってのは察せられる。

 何故にソレを取ろうと思ったのか問うと、グーラは僅かに耳を伏せて口を開いた。

 

「ボク、ご主人様に甘え過ぎていたと思うんです。種族柄多くの食べ物を必要とするというのは仕方ないにしても、いくら何でも食べ過ぎている気がするんです。このままじゃ迷宮稼業を引退した後に家計を圧迫してしまうのでは、と」

 

 ちょっと、予想外だった。

 数年前、グーラをお迎えしてからというもの、彼女には思う存分に食べさせてきた。それもこれも、グーラに喜んでもらう為。

 けれど、当然として食費は無料じゃない。迷宮用装備に比べれば安いし銀細工持ち冒険者からすりゃ大した負担でもないのだが、元々村暮らしだったグーラは自身の食べる量を気にしていたようだった。

 実際そこまで気にしなくていいとは思う。けれど、現実問題もしもの事を考えると切実な課題ではあった。今は大丈夫だが、今後どうなるかは分からないのだから。

 賢いグーラは、俺よりずっと先の事をよく考えていた。未来の家庭を慮って。

 その成長が、嬉しくて仕方なかった。

 

「よし分かった。その異能にしよう」

 

 俺は“断食適応”をタップし、残りポイントを綺麗に使い切った。

 異能ショップが強制終了する。これで彼女に収納魔法と断食適応が生えてきたはずだ。うん、彼女のステータスにも載っている。

 

「とりま、ぶちぬき丸を収納してみてくれ。なんかこう見えない棚とか籠に入れるイメージで」

「ん~っと……はい! できました! 容量もまだ余裕ありそうです!」

「重量は関係なさそうね」

 

 断食の方は後々検証するとして、さっそく収納魔法を使わせてみる。

 とりあえずぶちぬき丸は入れる事ができた。グーラの収納魔法はエリーゼよりも容量が多いらしく、ぶちぬき丸以外にも沢山の本が入った。エリーゼが棚一つ分だとしたら、グーラはクローゼットくらいだろうか。

 これなら、ぶちぬき丸の予備大剣とかも用意してよさそうだな。

 

「え? え……? あの、なに? 何なん? わ、わからへん。何の何が何で……つまり、どゆこと? こ、こんな事が、こんな事が許されてええんか……? 異能とは、アーカイオンとは……うごご」

 

 なお、ヘカテーニャ教授は一連の異能購入の儀に宇宙吸血鬼になっていた。一応、事前に説明しておいたはずだが。

 

「ほい! 今日の晩御飯はグーラご所望冷やしうどんじゃ! 薬味使い放題! おつゆ選び放題! 麺はいっぱいあるからのぅ!」

「わぁ~、ありがとうございます! いただきます!」

 

 上限突破のお祝いに、その夜はグーラが希望した飯を食べた。

 なお、断食適応獲得後も普通にいっぱい食べる模様。断食できる事と実行する事は別なのである。

 そう、彼女の断食はあくまで備え。万が一にも腹を空かせる訳にはいかない。彼女も、いつか生まれる子供達も。

 その為にこそ、迷宮稼業以外の稼ぎを手に入れなければ。俺も俺で、未来を前向きに考えてみよう。そのへんはヘカテに手伝ってもらうとして。

 ホントのホントに、夢が広がりんぐ。




 お ま た せ



KADOKAWAたのハク公式ページ

 しゃあっ、公式作品ページ!
 発売日は2月25日となります。ギリ冬!

 あらすじにも記載がありますが、書籍版には約5万字の書き下ろし新章があります。
 がっつり本編の新章です。かなりの読み応えがあるかと存じます。書籍版にしか存在しない武器や設定等が普通に出てきます。
 ウェブ版と書籍版の違いですが、ざっくり言えばTV版ウイングとEW版ゼロくらい違います。
 具体的に何がどう違うかは君の目で確かめてくれ!
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