【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 今年最後の投稿です。
 来年も“たのハク”をよろしくお願いします。


今でもロリが好きですか

 昔から、俺は好きになったゲームは擦り切れるまでプレイするタイプの人だった。

 年を取って遊ぶ時間自体が少なくなり、コンテンツ消費速度が早くなっても、その気質に大きな変化はなかったように思う。

 好きなラノベは何度も読むし、沼ったアニメは繰り返し観るし、ハマッたゲームは気付くと周回している。

 それはノスタルジーを感じたいからそうするのではなくて、単に俺は同じ遊びの繰り返しを心底から楽しめる気質ってだけの話である。

 

 そう、俺は好きな遊びを何度も楽しむ人なのだ。逆説的に、何度も楽しんでいる遊びはめちゃくちゃ好きなのだろう。

 であれば、もう認めざるを得まい。

 恐らく俺は、この異世界の迷宮探索が好きなのだ。

 

「え? ご主人、今の今まで無自覚だったんスか? 逆に怖ぇんスけど」

「戦いを楽しんでいるのよ、私と同じで」

「いえ、でも確かに御主人様は戦いによって強くなる事をお喜びだったかなと」

「いやいや、普通にはしゃいどったじゃろ。ヒャッハー言うとったじゃろ」

「ん、迷宮毒の影響? せっかく王都にいるんだし毒抜きすべき。天使族が経営する蒸し風呂屋は心身に良いってニーナが言ってた」

 

 まぁ、皆にはバレバレだったようだが。

 レベリングとか素材周回とかのハクスラ要素を楽しんでる自覚はあったけど、迷宮探索自体が好きだという自覚はなかった気がする。

 いやだって、命懸けの戦いを“好き”って言うの、なんか抵抗あるじゃん。俺ほどラブ&ピースを切望している人もいないのに。いや、平和と戦闘のどっちも好きな事に矛盾はないのかな。う~ん?

 

 閑話休題。

 

 結婚して一年、ネザーレのアレコレで延期に延期を重ねていたハネムーンに行く前、俺達は王都で出来る事に邁進していた。

 それは大きく分けて三つである。研究開発と自己鍛錬と迷宮稼業。これら一つ一つ、並行してやっていたのだ。

 

「あかーん! ま~た失敗やー! はぁ~あ、計算やともっと威力出るはずなんやけどなぁ……」

「最近は成功続きだったからねぇ。けれど発明なんてこんなもんじゃないかい?」

 

 俺達が迷宮探索に行っている間、ヘカテーニャは天才芸術家淫魔ことパイモ氏と共同でリヴクラフト用の武器開発を行っていた。

 ネザーレに行く前に着手する予定だった新規武器開発だが、いざやってみるとかなり難航しているようだった。

 火力向上の為に武器作ろう武器使おうとなっていたものの、実際に作ってみたら大して使う意義のない産廃が生まれてしまったというのである。

 

「手持ち武器はカッコいいけど、内蔵武装を排してまで装備すべきものではないってのが分かったね。リヴクラフトが通常のゴーレムだったら話は別だっただろうけど」

「それやな。ウチも普通のゴーレムと同じや思て計算しとったわ」

 

 具体的に何を作ったのかというと、手に持つブラッド・ブレードや銃型のブラッド・ブラスター。それ等を合わせた推進機構複合武器ブラッド・ジェット・バヨネットなどである。結果、軒並み費用対効果が劣悪だったのだ。

 魔血加速機構とか色々試してみたそうだが、結局のところ炉心を剥き出しにして放つ“スカーレット・デトネイター”の威力を超える事はできなかったのである。

 専門的な事はともかく、とにかく手に持たせるってのがボトルネックになってたようで。いや難しいね、異世界のダメージ計算式は。

 

「しゃーない。こうなったら外付けやのうて内部機構を洗練させる方向でやってこか。手持ち武器は今後の課題ってことで」

 

 と言う訳で、リヴクラフト用武器開発は中止となり、戦闘用新型リヴクラフトの開発を前倒しして行う事となった。

 現状のエメスアルマはあくまで真祖用カスタム。そこから真祖用新規設計へ世代交代しようというのだ。悲しい哉、真祖用カスタムは一度も実戦投入されずにバラされ、新型リヴクラフトの糧となった。

 

「待ちたまえヘカにゃん! 武器を保持する必要がないなら繊細で脆弱な指パーツは無くてもいいんじゃないかい? その分、両腕の魔血圧縮機構を大型化すれば更なるパワーアップが……」

「それは嫌! ウチは手足みたいに扱えるゴーレムが作りたいの! そーゆーんは次!」

 

 それはそれとして、新型リヴクラフトにも物を掴む用の手指は付ける模様。

 手持ち武器を使わないなら腕そのものを武器化すればいいじゃんとのパイモ案は、ヘカテ先生の好みに合わなかったようで却下された。右肘から先が剣とか左肘から先が砲とか、俺は割かし好きなんだけどね。

 

「片手間でゴメンやけど、こんなもん作ってみたでー!」

「ん、ものすごく動きにくい。夢の中で走ってる時みたい……」

 

 研究していたのは彼女用のリヴクラフトだけではない。純血魔術以外でも稼働する非戦闘用新型リヴクラフトなんかも作っていたようだ。

 第一弾として、天使族の聖水で動くモデルが発表された。原理は【鮮血操作】による補助付き操り人形方式と同様で、それを天使族の聖水と念力で行うのである。

 

「これ言っちゃっていいんスかね? あれ普通に降りて歩いた方がよくないッスか? リヴクラフトになる前のどっすんゴーレム君の方がよっぽど使えるッスよ。アレには農作業くらいはできそうなパワーはあったッスし」

「レノさんが楽しそうだからいいじゃないですか。まぁお金の無駄とは思っちゃいますけどね」

「アルヴの森の……何だ? あのでっけぇゴーレム解析したら色々捗りそうだがな。おっと、今のは聞かなかった事にしてくれや」

 

 結果、まぁ動いたには動いたけどって感じだった。

 天使の聖水は魔力が籠っていないので、エメスアルマほど馬力が出なかったのである。

 あくまでもハリボテロボット。これで戦うなんてできそうにない。趣味ロボだな。

 

「それはそれとして聖水と念力は他にも色んな使い方できそうだが。水素エンジンとか、念力タービンとか? 知らんけど」

「えっ、なにそれなにそれ? ダーリンそれ詳しく教えて!」

 

 ロボ開発については、そんな感じ。

 

 

 

 時は戻ってグーラが“収納魔法”を獲得した翌日。

 俺とグーラは二人きりのデートついでに武器工匠アダムスの店にやってきた。

 勿論、オーダーメイド武器を注文する為である。

 

「かくかくしかじか……」

「はあ、ぶちぬき丸の予備ですかい。いや普通にできやすがね」

 

 そう、グーラのメイン武器“ぶち抜き丸”の予備を作ってもらおうと思ったのだ。

 彼女の収納魔法には同じのをもう一本入るくらいの余裕があるのだ。そこで、ぶちぬき丸のスペアが要るのではと考えた次第。

 ぶちぬき丸は汎用武器なのだから二本目は属性特化武器でええんでないのと考えるかもしれないが、諸々の事情でグーラに何者かを刈り取る形の剣は合わないのだ。脳筋武器に見えるぶちぬき丸も、実はよくよく考えられた万能剣なのである。

 

「じゃあもう普通に新しいの作っちまえばいい話じゃねぇですかい? 今のグーラ嬢に合う剣をよぉ」

「と、いうと?」

「いや、今使ってんの予備にして、新しいの使えばいいじゃねぇですかい。どうせまた強くなってんでしょ? 腕力ぅ」

「あっ、その手があったか!」

「ボクも思いつきませんでした!」

 

 その旨を相談すると、ドワーフみたいなエルフことドワルフから現ぶち抜き丸を予備に取っておいて新ぶちぬき丸を作ればいいじゃんとのお返事。素直に納得せざるを得ない。

 グーラのぶちぬき丸は既に一度追加強化を受けている。あの時は完成してた剣に重量マシマシ強化を無理やり施した訳で、なら今回は最初から現ぶちぬき丸より重くする前提で新規に作ればいいのでは、と。

 うん、マジでご尤も。逆に何で気付かなかったのか。俺とグーラは感心しきりでポカンとしていた。

 

「あっしとしちゃあ嬉しいがよぉ、お金の方は大丈夫なんですかい? いくら旦那でも流石に……」

「大丈夫だ、問題ない」

「平気です、新しいのはボクのお金から出しますから」

「大丈夫だ、問題ない」

「え? いやボクの剣なのでボクが……」

「大丈夫だ、問題ない」

「いやまぁ大丈夫ならいんだがよ……」

 

 そういう事になった。真ぶちぬき丸開発計画開始である。

 ついでに皆用の予備も作ってもらおうってな塩梅で、それぞれに二つずつ用意する事と相成った。俺が管理する予備とグーラが管理する予備だ。こうすればネザーレの時のように二手に分かれた状況でも安心である。

 

「ん~、まぁな。お上から誘われたりしたがよぉ。結局、オレぁ図面描いたり車輪弄ってんのが好きなんだよな。だからピシッと断ってやったぜ」

 

 次である。戦車工匠ケイン氏に空戦車をメンテしてもらいに行くと、彼は真新しくなった工房で自転車を弄っていて、忙しいと思っていたのに当日中にメンテを始めてくれた。

 曰く、王家から正式にホバークラフト・プロジェクトに誘われたそうだが、車輪周りを弄ってるのが性に合ってるからと断ったらしい。

 多額の給与をもらえるというのに、である。

 

「ところで……また新しい戦車とかぁ入用じゃねぇか? へへっ、実は最近金がなくってよぉ。かれこれ二日は粥しか食ってねぇんだ」

「儲かってるのに何で?」

 

 ちなみに、戦車工匠として汚名返上名誉挽回したケイン氏だが、何故か今も金欠らしい。いや本当に何でだよ。

 仕方ないので、ヘカテ&パイモ氏が計画している移動用リヴクラフトの研究を手伝うのを条件に資金援助した。勿論、正式な契約書付きで。

 ロボや武器などの開発については、そんな感じ。

 

 

 

 次、自己鍛錬である。

 これについては、例によって今後の戦いに備えていつもの対人戦依頼を出し、例の如く模擬戦をやっていた。

 

「よろしくお願いします、イシグロさん! 前はボコボコにされちゃいましたけど、今回くらいは一矢報いさせてもらいます! おっす!」

「イシグロさんとの模擬戦は得られるものが多いからね。胸を借りるつもりで挑ませて頂きます」

「行くぞラモン! 俺等の友情、見せつけてやろうぜ!」

「友情♡ むほほ♡ ええ、ええ♡ たいへんよろしいかと存じます♡」

 

 最初に模擬戦を行ったのは、羊人少女の一党だった。

 いや、彼女達は年齢的にはもう少年少女ではない。冒険者的にも立派に成長し、一党全員が銀細工持ち冒険者になっていたのである。

 頭目の羊人少女カリッセはご立派ぶっともも美女へと成長し、同じく白金髪のイングリット女史はその胸で聖女は無理でしょって感じの巨乳美女に大変身。ガリ勉っぽかった半岩人ラモン君はインテリビジネスマン風に、体育会系のディエゴ君は身長二メートル超えのアメフト選手めいた巨漢に。

 若者の成長ってなぁ凄いもんだね。

 

「なるほど、あの時にヴィーカさんから剣の手解きを」

「はい。あん時は何が何だかって感じっしたけど、少しずつ分かってきた気がします」

「昔は素振りなんて嫌いだーって言ってむちゃくちゃに振り回してたもんね~」

「うっせカリッセもクーシェン行くまで似たようなもんだっただろ」

「今にして思うと、僕等ってめちゃくちゃ危ない橋を渡っていたんですね。こうして生き残っているのも偏に幸運だったとしか」

「それで生き残った事自体が英雄の器と見做されるのです。肉体派のディエゴさんがラモンさんを守り、頭脳派のラモンさんもまたディエゴさんを守り抜いた……そんな親友同士の熱い友情があったからこその結果だと私は思います♡」

 

 大人っぽくなったのは確かだが、それはそれとして彼等には冒険者にあるまじき爽やか&フレッシュな若々しさが満ちていた。

 曰く、彼女の一党は追加メンバーを募集しているそうだが、なかなか集まってくれないらしい。イングリット女史は「新しい仲間は男子がいい」そうだが、当の彼女狙いの冒険者が多くて困っているんだとか。

 

「イシグロさん! 御久しぶりです! ネザーレでは大活躍だったそうで! 本場の吸血鬼ファッションは如何でしたか? ぜひ教えてください!」

 

 続いて中二病鼬人少年トリクシィさんとも再会し、互いに剣で以て旧交を温めた。

 彼もまた、立派な青年剣士になっていた。何なら恋人のお姉さん淫魔とは先日結婚したそうで、あまつさえ純淫魔契約まで交わしたそうである。

 治療不可能と思われた中二病も今となっては一周回って完璧に堂に入っており、もはやダークファンタジー世界の凄腕剣士のような渋みを醸していた。そのうちマジでヴィーカさんみたいになりそうだ。

 

「闇夜に踊れ、斬月流……【綺羅星穿ち】!」

「くっ、露骨な【受け流し】対策! これぞ対人戦って感じで楽しいねぇ!」

「あらあら、トリィ君ったらはしゃいじゃって♡ 相変わらずイシグロさんには甘えん坊なんだから♡」

「つか純淫魔になったんスね! おめっとさんッス! 何回で行けたんスか?」

 

 ちなみに、剣の腕は普通に俺を超えていた。

 いやジョブレベルとかステータスとかを含めた総合力なら俺の方が普通に上だし、模擬戦で負けた訳ではないんだけどさ。もし俺が剣士系だけを育成してたら勝てなかっただろうなって。

 次は剣術一本で圧勝してやる。彼と戦うと健全な競争心が湧いてきて良いね。

 

「そこ! 墜ちろ、カトンボ!」

「うぉ危なっ! なんかお二人とも強くなってません? 力もそうですが技が前より……!」

「イシグロさん達に触発されて、ここ最近は迷宮探索の頻度を上げていたんです。技についても色々と」

 

 またまた続いて、ニーナ&クリシャナの淫魔・吸血鬼コンビとも模擬戦を行った。そして二人は以前戦った時よりも順当に強くなっていた。

 ニーナさんは母の剣術の全てを継承し、現在では淫魔王国と技術交流をしているそうだ。鬼教官ニーナである。

 

「真血術全開! いきますよニーナさん! うぉおおお【変身(メタモルフォーゼ)】!」

「な、なにぃいいいい! 吸血鬼が怪獣に変身したぁあああ!?」

「ああいうのも出来るのね。まぁ私からすると的なのだけれど」

 

 中でも百合吸血鬼クリシャナさんの成長は著しかった。

 どうやら彼女は毎日のようにニーナさんの血を飲んでいるそうで、銀細工大淫魔の血の栄養価の効能か吸血鬼族の潜在能力が引き上げられているという。

 また、これも吸血の効能か何故だか急に男達からモテ始めたらしく、当人はめちゃくちゃウザがっているとか。

 

「今のが武闘家系スキルの【雲渡り】です。例によってスタミナの消費が激しいので、あんまり連発しない方がいいですよ」

 

 模擬戦も大事だが、武術や各種スキルの鍛錬も欠かせない。

 スキル研究の一環として、いつぞやの槍使い少年を頭目としたおねショタ一党とも交流した。

 というか、いつの間にか彼は自分以外全員淫魔のハーレム一党を築いていた。俺が言うのもなんだが、淫魔五人を一人で相手するなんて凄まじき性戦士である。

 

 槍使いの少年――ユア君は、先天的に“活力回復促進”とかいうスタミナチート異能を持っている。以前はその異能を使った戦法など考えて色々と参考にさせてもらったものだ。

 現在の彼はというと、常時【薪の呼吸】で体力と魔力を回復させつつ、敏捷強化魔術とスタミナ消費系スキルをぶん回して地上と空中を謎挙動で動きまくる変態高機動ランサーに成長していた。なんかもう動きがキモくて草だった。これまたいつの間にか銀細工になってるし。

 

「え~っと? どうやら貴女は光力が扱えるようですね。治癒魔術が上手かったのはその影響かと」

「え? え? あの、わたくしは淫魔族なので、光力は使えないはずなのですが……」

「いいからコーチングだ。レノ、光力の使い方を教えてやってくれ」

「ん、分かった。楽園に居た時から他の子にモノを教えるのは得意だった。任せてほしい」

 

 そのついでに、双子淫魔の時と同じように新しい仲間達の適性なんかも視ていった。

 空を飛べない王子様系ボーイッシュ中淫魔さんには、脚技全般に適性があったので武闘家ジョブの蹴りスキルを伝授。魔力は多いのに魔法が苦手な地雷系トランジスタグラマー小淫魔さんは、デバフ特化っぽかったのでデバフ魔法をお勧めした。治癒魔法以外ダメダメらしい清楚系大淫魔さんは、ステータスを見てみたら何とびっくり光力が使えたのでレノに光力の扱いを手解きしてもらった。

 ほう、高機動ランサーと召喚士と楽器バッファーと蹴り武闘家と馬鹿魔力デバッファーと回復聖女ですか、大したものですね。他の冒険者のパーティ構成って見てるだけでもなんか楽しいよね。どういう連携でどう立ち回るのか、今後の活躍に注目である。

 

「リカルトさん、冒険者やめるってよって聞いたんですけどマジですか?」

「マジマジ、もう冒険者証は返却したよ。いやぁ流石におじさんも歳だからさぁ。身体はともかく勘の方が鈍くなっちゃって」

 

 更なる成長を続ける顔見知り冒険者の中には、引退の道を選ぶ人もいた。パワハラ大好き迷惑おじさんこと、“猟斧”のリカルト氏である。

 彼はギルドから正式にお前も教導官(ドクトレ)にならないかと勧誘され、それを受けたそうだ。当人が言うには、新人いびりの経験が活かせるとか何とか。本当でござるか?

 

「それにしても教導官ですか。実は俺も一回打診された事があったんですが、無月流も嵐極拳も半端な身で何を教えるのかと思って断ったんですよね」

「まぁガチガチの武術はそう思うだろうな。けどまぁガチで迷宮稼業に要るのってそこじゃねぇとおじさん思うワケ。別に楽な仕事って訳でもねぇし、そんな儲かる訳でもねぇけどよ。自分の技術が若い連中に繋がるってのはいいもんだ……って、引退する教導官の爺さんが言ってたぜ」

「技術の継承、ですか。確かにいいかもしれませんね。教え子が死んだ時とか超ショック受けそうなんで、まぁまぁ覚悟が要りそうですけど」

「イシグロの場合はそこだろうな。その点、おじさんは基本ドライだから、そーゆーの全くねぇな。冒険者もそうだが、ギルドの教導官も箍ぁ外れてねぇと」

 

 例えば、こんな将来設計。田舎に引っ込んだ俺が武術道場開く……とか、どうだろうか。

 で、免許皆伝した弟子達が色んなところで活躍して、たまに帰って来た時に話を聞くとか。無月流を極めた息子があっちこっちで事件を解決して、たま~に俺が出張って乱暴狼藉の悪人をやっつける展開とか。

 う~ん、どこぞの老剣客の隠居生活みたいで良いと思う。将来の選択肢の一つとして頭の隅に入れておこう。

 その前に、今やってる武術を極めないとな。難しそうだが、やりがいはありそうだ。

 

「引退? いやいや、俺は一生現役だぜ! 故郷帰っても何もやる事ねぇしな!」

「そうそう。それに良い娼館行くにゃあ稼がねぇといけねぇし。冒険者しかねぇよ」

「ゲゲゲッ! オデ、コキョウ、モウナイ! コレシカ、ヤレルコト、ナイ!」

 

 リカルトさんは引退するそうだが、他の面々は死ぬまで迷宮稼業を続けるつもりらしい。

 生きるか死ぬかの危険な生業。得られる栄光は大きいが、失うモノもまた多大。冒険者は外れ者の集まりで、ある意味で異世界のセーフティネットなのだろう。

 

 その他、細々とした用事を片付けていった。

 止まり木協会に更なる寄付金をシュートしたり、ネザーレ復興基金にシュートしたり、ラリス大学の例の美大生の新作を買ってシュートしたり。

 大丈夫だ、こっちは無駄遣いじゃないはず。俺個人の名声はいらないが、皆を守る為の名声は欲しいからね。

 

「ごぼごぼごぼ、ごぼごぼごぼ……! ぷはぁ! いや水ん中泳ぐんってめっちゃムズイな! 理屈は分かるんやけど全然上手くいかんわ! 皆どうやっとるん?」

「でしょう? 難しいわよね、水泳って」

「こんなん全身の力抜いてバタバタやって流れに乗るだけじゃないですか。なに難しく考えてるんです?」

「戦うばっかじゃなくて、学者センセはもう少し運動しといた方がいいぜ。魔物から逃げる時とか泳げた方がぜってぇ良いからよ」

 

 勿論、休日は家族サービスである。

 最も大きなイベントはリニューアルされたプール――第三王子から再開前に入れる特別パスを貰った――に行った事だった。これまで日光を避けていたヘカテなんかは人生初プールである。

 VIPしかいなかったそのプールでは、陰キャ魔女デアンヌさんやカトリア伯爵家のエレークトラさんや金髪トンファー少女など知り合いの偉いさんとも再会した。ラリス貴族もプール遊びとかするんだなって。

 

「じゃじゃーん! これが新しいリヴクラフト! 名付けてエメスアルマ・リライズちゃんやー!」

「めちゃくちゃカッケェー! めちゃくちゃカッケェー!」

 

 そうこうしていると、ついに新型リヴクラフトが完成した。

 その名も、“エメスアルマ・リライズ”。

 色も形も初代エメスアルマと全く同じだが、中身は殆ど別物レベルで基本性能が上がっているらしい。

 相変わらず頭部パーツはないし、相変わらず脚が太い。重量二脚の鈍足ロボって見た目だが、実際はかなり機敏に動けるのだ。

 

「「「「「ご安全に!」」」」」

 

 作中に出た武器は使わねばならぬという訳で、早速とばかりにエメスアルマ・リライズを実戦投入。

 迷宮探索をする真祖入りゴーレムは、新型智核で動きヌルヌル新型炉心で出力バリバリで超快調。義体の素材は希少金属マシマシの新合金なので、頑丈さをそのままに軽量化にも成功した。

 開発費? なに、迷宮行けば無問題だ。迷宮潜ってロボに突っ込む、ロボを使って迷宮潜る、永久機関が完成しちまったなァ!

 

「どうやら奴さん陽氣に滅法弱いらしいのぅ。ならもっと薄く広く式を組むのじゃ」

「属性は気にしなくていいぜ。しばらく炎が弱点って事にしといたから」

「ん、【念炎】だけで倒せる。信じられないくらい脆い」

 

 で、今回の迷宮探索メンバーは、俺とグーラとイリハとレノ、それからシャロとヘカテである。

 俺とグーラが前衛で、他は全員後衛である。イリハとシャロを固定砲台とする特殊連携だ。

 

「ここは任せて先に行け! グーラ!」

「分かりました! 後ろお任せします!」

 

 広い迷宮でロボや魔法がドッカンドッカンやっている中、俺も俺で新武器の扱い方を模索していた。ヘーファの首飾りである。

 結論から言うと、こいつは装飾品運用よりも暗器運用が向いていると思う。これをマトモに使うとアクセサリ枠を潰してしまうので、普段はポッケに入れて権能を使う時だけ手に持って使うのだ。すると、既存の装飾品の補助効果を発動させたままヘーファの首飾りの権能だけを運用する事ができるって寸法である。

 いや、暗器というよりはお守りとか保険としての運用だな。必要な時だけ使うのだ。

 

「ゆけぇ不人気武器! 忌まわしき記憶と共に!」

 

 そんでお守り運用で最も優秀な攻撃手段こそが、この巨大チャクラム投擲である。

 この異世界、何気に純斬撃属性の投擲攻撃は貴重なので、巨大チャクラムには投げナイフとは別の使いでがあるのだ。まぁ威力だけ見れば弓矢とか射撃魔法のが高いんだけどね。

 あと、ついでに皆にもヘーファの首飾りを試してもらったのだが、この権能をちゃんと使えたのはシャロとヘカテだけだった。前者は俺より精緻な武器を生成でき、後者は色んな合金を出す事ができた。ちな二人とも「別に要らない」だとさ。かわいそうな首飾り君。

 

「やぁああああああ!」

 

 パワーアップで言うと、収納魔法と新ぶちぬき丸を手に入れたグーラも凄かった。

 これまでと同様に重量マシマシ大剣に仕上がった新ぶちぬき丸は、従来通り重くて長くて太くて強い。旧ぶちぬき丸と二刀流でローリングぶちぬきハリケーンで雑魚一掃できるしな。

 つっても、この世界の大剣二刀流は費用対効果が悪いので、ガチで立ち回る時は新ぶちぬき丸一刀流なのだが。グーラのジョブの場合、大剣二刀流はモーション値に強烈な下方修正がかかる上、こと地上での機動性が落ちるってデメリットがあるのだ。大剣二刀流は空中雑魚狩り用スタイルだな。

 

『グーラから見て右斜め上、遠くから凄い勢いで迫ってる。そっちで撃墜して、オーバー』

「了解しました! 狙いを定めて……えい!」

 

 空から襲ってくる魔物に対し、気合一発グーラは収納魔法から取り出した短剣を【投剣】した。

 収納魔法の恩恵は予備の保管だけではない。予備大剣とは別に、投擲武器を携帯できるようになったのが地味且つ派手にデカかった。これまではぶちぬき丸の柄に鎖を繋げてから投げていたので、威力こそ高いものの飛び道具としては使い勝手が悪かったのだ。

 その点、収納魔法に入れている鉱深鍛冶製超重量投げナイフは極めて優秀だった。投げキャラだったグーラに236コマンドの出し得飛び道具が増えたのである。ついでに習得させた射手系スキル【照準】で【投剣】の狙いも定めやすくなったしな。死角? ありません、無敵です。

 

「ブラッド・ブラスター! オーバーチェイン! 任せたで、お二人さん!」

「ナイスタイミングじゃ!」

「こんな事もあろうかとってな! とっくのとうに描き終えちゃってるんだぜぇ!」

 

 そうこうしてたら、もうボス戦である。

 ロボに乗ったヘカテが大量の眷属を召喚し、眷属に守られたイリハとシャロがチャージ攻撃で無法の限りを尽くしまくる。

 魔力消費が激しくなってピーキーになった真祖ヘカテーニャだが、眷属のお陰で味方を守る能力は一党でも上位になった。俺とレノは漏れた魔物を狩ればいいし、グーラは雑に暴れさせときゃクッソ強いし。

 う~ん、この連携がピッタリ嵌った感覚、ナイスだね。

 

「はい、お疲れ~。ナイス~」

「主様主様! わし、レベルアップしとるかもじゃ! 確認してくれ!」

「上がってる上がってる! 超いいね、最高!」

 

 油断せずにいって、何事もなくクエストクリア。異世界迷宮にはノーダメージボーナスやラストアタックボーナスこそないが、この迷宮は金も経験値も極めて美味かった。レアドロが出た時の高揚感よ。

 申告通り、イリハはレベルアップしたようだ。けれど未だ二つ名ジョブは生えてこない。何か条件があるのか。まぁ別にそのままでもいいけどね、今でも普通に強いし。

 

「あの~、な~んかいつもよりレベルアップの感覚がズッシリしとるんやけど、ウチも確認してもろてええ?」

「どれどれ……って、マジでレベルアップしてんじゃん! 最近レベルアップしたはずなのに随分と早い……んんっ!?」

 

 なんて考えていると、最近パワーアップしたばかりのヘカテーニャもレベルアップしていた。

 それどころか、最近グーラで見たばっかりの例の表示まであるじゃないか。

 

「も、もうカンストしている! ルクスリリアでさえまだなのに!」

「わしもまだじゃぞ! どうなっとるんじゃ?」

「おめでとうございます、ヘカテーニャ! これで収納魔法が使えますね!」

「もしここにリリの字がいたら、童貞ッスかぁ? とか言いそうだな」

「どどど童貞ちゃうわ! いやマジで何でなん? 成長限界早すぎん?」

「ん、真祖化した影響?」

 

 レベルカンストである。しかも、この中で最も迷宮歴の浅い彼女が……何故?

 ふと、以前に図書館で読んだ本の内容を思い出す。ざっくり言うと、この世界の人には成長限界というものがあり、元々強い種族や個人は早熟で、その逆は大器晩成なケースが多いらしい。

 例を挙げると、最強種代表たる竜族はすぐに成長限界が来て、貧弱種代表たる人間族はなかなか限界が来ずに強くなり続けるらしいのだ。

 いや竜族のエリーゼと吸血鬼のヘカテは色々と例外なので何とも。

 

「細けぇ事ぁいいんだよ! いいから星髄石だ!」

 

 考えたって仕方がない。大事なのはヘカテに新異能が生えてくるという事。

 そんな訳で早速帰宅し、中庭にやってきた。皆が見守る中、ヘカテーニャに星髄石を手渡す。

 そういえば、ここでヘカテが星髄石を使ったら一人分無くなっちまうな。予定通り、ハネムーン行く前に最上位迷宮潜っとこう。

 

「後天的な異能の獲得なぁ。調べた感じ事例はいっぱいあったんやけど、まさかウチに起こるとは。ほないくで? えいっ」

 

 パキッと、ロリ真祖が課金石を割る。するとソシャゲのガチャ演出のようなキラキラが溢れ、エリーゼともグーラとも違う確変演出と共に光が収まった。

 次いで俺のコンソール画面に例の異能購入画面が表示された。

 の、だが……。

 

「ど、どないや? ちゃんと異能のやつ出とる?」

「ああ、ちゃんと異能の購入画面だ」

「そか。ほなまぁ迷う事あらへんな! ほなウチもエリちゃんとグーラちゃんと同じ収納魔法で頼んますー」

「無いよ」

「……へ?」

「そんなもの、うちには無いよ」

「えっ、えぇ~!?」

 

 何故か、ポイントが少なかった。

 それどころか、購入可能な異能の種類が少なく、そこに収納魔法は存在しなかったのである。

 収納魔法以外のSSR級異能も全く見当たらない。あるのはコモンというかノーマルというか、ともかく何か微妙そうなのばっかりだ。

 やはり個人差があるのか。う~ん、分からない。

 

「無いとは、どういう事かしら? ポイントとやらが足りないと言う意味?」

「そういう訳じゃないんだ。とにかく買えるやつ書き出してみる」

 

 ともかく、ここから選んでもらわないといけない。俺は用意していた紙に購入可能な異能を書き出していった。

 まぁ中にはエリーゼにもグーラにも発現しなかった異能とかもあるから、希望を捨てるのはまだ早い……ん?

 いや、これ……もしかするともしかするかもしれませんよ?

 

「“暗算力”て……いや計算早なるんは普通に便利やろけどやな」

「ヘカテーニャにピッタリな魔力節約系が見当たりませんね」

「ヘカテは迷宮で一番疲れとったでのぅ。真祖様も難儀なもんじゃ」

「他に良さげなやつはないんですか? この際、戦い系の異能じゃなくてもいいと思いますよ、ワタシは」

「ん。この“管理領域(インベントリ)”ってやつ、多分これ収納魔法の亜種だと思う」

 

 レノが指差したのは、“管理領域”なる異能だった。

 管理領域。ヘカテのポイント残高でギリギリ購入可能な異能。その仕様は分からないが、名前からして収納魔法の代わりになりそうじゃねって。

 ちなみに、管理領域はエリーゼとグーラには発現していないコモン異能である。ついでに以前に読んだ異能大全にも記載がなかった。まぁ本に書かれてなかったのは収納魔法とごっちゃになってるからかもしれないが。

 

「そ、それ以外は微妙やし、管理領域で頼んますぅ」

 

 という訳で“管理領域”を購入。全ポイント注ぎ込んで終了である。

 

「どう? 出来そう?」

「分からん。あんま何がどうって感じやけど……おぉ、ヌルッと入った! なにこれ気持ち悪っ! 意味わからへん! おもろ!」

 

 さて、購入したらば検証である。

 適当なナイフで試させてみると、収納魔法と同じく普通に異空間へと収納できた。

 そのまま一本また一本と追加で収納させてみたところ……。

 

「あれ? なんかもう入らんなったんやけど。もしかして、ウチの容量……少なすぎ?」

 

 四本目のナイフは入らなかった。打ち止めである。

 次の実験だ。一回全部出して、ナイフより大きな物を入れてみる。そしたら三つ入って四つ入らなかった。もっと大きな物で試してみたら、やはり三つまで入れる事ができた。

 

「なるほど、実に面白い……」

「言うほどそうッスか?」

 

 どうやら、管理領域は個数制限制の収納魔法らしい。

 収納魔法が自分だけがアクセスできる謎空間にアイテムを入れているのに対し、管理領域は何であれ入る物を個数でカウントして収納しているのだ。

 ヘカテの場合、リンゴは三つまで収納可能で、そのリンゴが大きくても小さくても三つ入れば満杯になる。でもリンゴ十個入りの箱は一個として計算されるので、ヘカテはリンゴ十個入りの箱なら三つ持てるって感じである。

 

「おぉ入った! エメスアルマ入った! でもこれパーツ単位では……やっぱ全部組んだ状態やないとアカンのやな! ほえー!」

 

 で、エメスアルマは一個のアイテムとして見做されて、何事もなく管理領域内に収納する事に成功した。

 これで俺無しでも即座の搭乗と格納ができるようになった訳である。詳しい仕様の検証はまた今度するとして、とりあえず純粋強化を喜ぼう。マジで換装キャラめいてきたな。

 

「まぁ良かったじゃないッスか! 都合よくエメスアルマ仕舞うのにぴったりな異能が生えてきたんスから! アタシも早く鎌ぁ収納してぇッス!」

「それもそうやな。仮に収納魔法やったとしても容量足りんかった可能性もあった訳で、結果オーライやな」

「ん、大きい武器持ってる人は大変」

「でもこれ、もう一回考え直す必要性が出てきましたよ。たまたまエリーゼさんとグーラさんが収納魔法を選べただけで、実はめちゃくちゃレアって可能性もあるんですから。適当に安パイ収納魔法だけじゃなく、第二候補も決めちゃいましょう」

「アタイはやっぱ“蟒蛇”が欲しいなぁ。どんだけ呑んでも酔わねぇんだろ? 最高じゃねぇか」

「逆に酔いたくても酔えなくなるのかもしれませんよ」

「酩酊も酒のうちよ。楽しみたいなら程々にすべきね」

「お料理系の異能とか生えてこんかのぅ。こう、完璧な焼き加減が分かる異能とか、お漬物を一瞬で完成させられる異能とか……」

 

 こうして、俺達の王都生活は過ぎていくのであった。

 立て続けに起こったヘカテの上方修正アプデも素晴らしいが、そろそろルクスリリアやイリハのパワーアップイベントとか来てほしいですね、本気(マジ)でね。

 異世界生活が最高なのは言うまでもないが、迷宮探索も最高である。少しずつ強くなっていき、少しずつ出来る事がアンロックされていくこの感覚、イエスだね。

 ハクスラが止まらないぜ。




 よいお年を。

KADOKAWAたのハク公式ページ



◆冒険者達の変化◆

・カリッセ=元羊人少女。銀細工。ぶっともも美女に。
・イングリット=銀細工、巨乳聖女に。
・ラモン=銀細工、インテリサラリーマン風に。
・ディエゴ=銀細工、アメフト選手みたいに。

・トリクシィ=ダークファンタジーの影の実力者みたいな雰囲気に。純淫魔契約者。
・ヴィーネ=純淫魔。

・ニーナ=シルヴィアナ流剣術を完璧に継承。淫魔王国と技術交流。
・クリシャナ=吸血の影響で謎の色気が出るようになり元から評価が高かったところ露骨にモテモテに。

・ユア=銀細工。
・アビー=鋼鉄札。中淫魔に
・ラバー=鋼鉄札。中淫魔に
・王子様風のボーイッシュ中淫魔=翼はあるのに飛べない中淫魔。蹴り主体の武闘家ルートへ。
・地雷系のトランジスタグラマー小淫魔=高い魔力持ち、デバフ特化に。
・清楚系の落ちこぼれ大淫魔=回復特化だったが、光力が使える事を自覚した。

・リカルト=引退。教導官の資格を取得中。
・ラフィ=現役。
・ウィード=現役。
・一人称がオデの冒険者=現役。
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