【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

295 / 323
 感想・評価など、ありがとうございます。皆様の反応が励みになっております。
 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。


ロリ・カニーナ(起)

 灰墓迷宮の主は逆さピラミッドの中にいる。

 所謂ボス部屋が確定で存在するのは屋内型迷宮限定であり、屋外型と複合型のボスは一部を除き迷宮内をウロウロしている事が多い。

 灰墓迷宮のボスがいるエリアはコミケ会場のような逆ピラミッドになっており、デカいボスが徘徊できるような広いエリアは根本や地下ではなく上の方にある。

 ゲームでも迷宮でも、ボスと戦うなら広くて高低差の無いエリアが都合がいい。俺にとっても向こうにとっても。

 

「カモがネギしょってやってきましたねぇ。ふへへへへへ……」

「いやでもあいつら前衛組からすると辛いッスよ! ユゥリン感覚おかしくなってるッス!」

「そもそも今回俺等は見学だ。いけるか? イリハ、レノ」

「問題ないのじゃ」

「右に同じく。もし危なくなったら援護して」

 

 逆ピラミッドの屋上部。遠く空を見上げる平面エリアに、腹の奥まで届くような轟音が響き渡っている。

 音源の方を見ろ。群れだ。軍だ、いやホネホネライダースだ。なんと、だだっ広い逆ピラミッドの屋上に、骨で出来たチャリオット部隊が疾走しているではないか。

 馬も戦車も骨で、乗り手は一台一人のスケルトン。群れの中心には六頭立ての戦車に乗った巨大骸骨がふんぞり返り、我こそ頭でございと誇示している。奴は新種の魔物なので名前はまだない名称未設定君だ。ボスらしき骸骨の頭頂部には黄金の王冠が乗っかっており、ビロードのマントがばっさばっさと靡いていた。その光景、さながら地獄の暴走族……いや今は珍走団か。

 ともかく、俺達がやってくるまでの間ずっと走ってた骸骨たちは、俺達を見つけるなり雑にこっちへ魔法を撃ってきた。山なり軌道の闇球が雨のように迫ってくる。

 火力よし。取り巻きよし。何より速さが足りている。並みの冒険者一党なら苦戦するだろう強敵だ。しかし、我が一党は並みの一党などでは断じてない。

 

「よし、そろそろ沼らせるのじゃ! 深く広くねっとりと……ほい、【水行・奈落沼】!」

「うぃ。“ひとときの昇天(リミテッド・オブ・アセンション)”」

 

 ひと目見た瞬間に対処法が分かったよ。まずイリハの陰陽術で珍走団の進行方向を広くて深い沼に変え、沼に引っかかった族骸骨を足止めする。

 同時、レノが新たに生えた異能“ひとときの昇天”を発動。次の瞬間、レノが戴く光輪が一際強く輝くなり、燃え盛るような輪に姿を変えた。次いで彼女の背中が光を放ち、新たに二対の翼を生成した。

 燃える光輪に六枚翼。その威容、まさに熾天使である。

 

「皆、レノにパワーを!」

「「「いいですとも!」」」

「皆との間に強い絆を感じる。なのでレノ動きます。ふんぬっ……!」

 

 巨大化した光輪を背後に浮かべ、三対の翼を大きく広げる。熾天使レノ、殲滅形態だ。

 やがて光が満ちた。天使の後光から弾幕ゲーのような大量の光礫がばら撒かれ、同じく高速回転する光の円盤が射出された。それらは骸骨戦車隊に襲い掛かり、地を沼を骨を戦車を次々容赦なく削っていった。

 加えてレノの両手にある光力銃から精密射撃が放たれる。雑な狙いの弾幕と異なり、こちらは緻密に迅速にスケさんヘッドを貫いていた。かと思えば彼女の傍らに水球が生成され、鋭利なウォーターカッターが沼を逃れた骨馬を両断。続いて放たれた低速炎球が迫撃砲のように群れに着弾し、眩い程の爆発を引き起こす。

 まさに一人弾幕ゲー。まるでワンマンアーミー。熾天使と化したレノは、さながら小さな魔導人機だった。

 

「レノ! 元気なの行ったぞ~!」

 

 そんな風に見ていると、族の中から気合の入った骸骨がレノ目掛けて跳躍して突っ込んできた。既に武器を振りかぶっている。骨が天使を潰しに来たのだ。

 の、だが……。

 

「ん、問題ないキック」

 

 ベギィッ! と、骨の折れる痛々しい音が木霊する。迫り来た骨にレノが無月流仕込みの回し蹴りをぶち込み、文字通りに粉砕した快音だ。

 元々、レノにこれほどのパワーは無かった。だが今は違う。熾天使レノはフィジカルも強いのだ。

 

「ん……いいとこだったのに。やっぱり時間短いね、これ」

 

 しかし、熾天使化にも弱点がある。時間制限だ。その時間、凡そ三分。光の巨人ならぬ光のロリだ。六枚あった翼のうち四枚が消え去り、光輪が縮小して元のサイズに。フィーバータイム終了のお知らせだ。

 また、たとえ一時的に熾天使になっても光力の総量自体が増える訳ではないので、バカみたいに使えばバカみたいに減るのが現実だった。実際、現在のレノの燃料はすっからかんだ。

 弾幕を生き残った骸骨族のヘイトが天使に集まる。このままでは戦えない。どうするか。こうするのだ。

 

「あまねく照らせ(・・・)!」

 

 灰墓迷宮に光が灯る。レノは自身の深域武装を頭上に放り、異層権能を発動した。

 すると、どうだ。疑似太陽光を浴びたレノの翼に、再び光力が充実していくではないか。失った光力を取り戻し、それどころか使い切れないくらいパンパンに。

 

「よし溜まった。ので、今から乱れ撃つ。撃ち漏らした骨はお願い」

 

 熾天使モードが終わったら、今度はガンスリンガーモードである。光力無限状態になったレノは次々と特大ゲロビを撃ちまくり、迫り来る骸骨に次々ヘッショし、次々マガジンをリロードしまくった。

 時限強化のデメリットを別の時限強化で補う作戦。隙を生じぬ二段構え。これが“ひとときの昇天”を手に入れたレノの基本戦術だ。レノがプレイアブル化した暁には、ウィキに上級者向けって書かれそう。

 

「さすが天使は吸血鬼族に次ぐ最強種って言われるだけあるのぅ。今更じゃけどわし等ようパレエスに勝てたのじゃ」

「まぁ熾天使化の残念ポイントはクールタイムが長いところだな。流石に一日一回は実戦だと使い時を選ぶ必要がある。ホントのホントに切り札だな。あるいは逃げ打つ時用に残しとくのが安パイか」

「それでもあの強化っぷりはかなり無法ッスよ。アタシがコスト度外視で超淫魔化してもああはならないッス」

「せやな……ん? えっ? パレエスって、熾天使のパレエス? ダーリン、あのパレエスと戦ったん? てゆーか勝ったってどゆこと!?」

「言ってなかったっけ?」

「クーシェンの穢龍の話とかってしました?」

「ほわぁ~」

 

 ちなみに、熾天使化は実質一日一回限定技だ。三分の強化のインターバルが十八時間なのを長いと見るか短いと見るかは人によると思う。

 もう一つちなむと、熾天使化で向上したのは戦闘力だけではない。元からあった治癒魔法の効果量アップに加え、転移や念力等の各種天使権能も純粋に強化されている。

 重要なのが、ひとときの昇天によって上位天使の一部権能を使えるようにもなったところだ。レノのフィジカルアップは力天使の権能であり、以前は姉妹と協力して使った【記憶転写】も今は一日一回一人でできるもん。

 色々悩んだ異能選択だけど、結果的には悪くなかったんじゃないか? 未だに何故俺のゴーストがああも囁いたかは不明だが。

 

「はいお疲れはいお茶。凄い活躍だったな」

「ん、我ながらよく動いた。イリハのお茶美味しい」

「レノの聖水で淹れたんじゃよ~」

 

 そんなこんな。

 熾天使化を手に入れたレノは、殆ど一人で骨暴走族の撲滅に成功した。

 当初、彼女は姉達を守れるだけの力を欲していた。“ひとときの昇天”を手に入れた今、もう充分と言えなくもない。

 だが、当の本人はまだまだという認識らしい。尖兵戦で戦ったエリーゼシスターことレギーナと戦った結果、自身の弱さを思い知ったのである。そして、それは大なり小なり皆同じだった。

 ヴィーカさんやリアルイーザ様が自分より強いのは当然。ゲルトラウデ師匠やアリエルさんに敵わないのも受け入れられる。しかし、明確な敵に後れを取るのは命に関わるので、ちょっと本気で鍛えなきゃと。まぁそんな具合である。

 

「昇天使うと翼が増えて楽しい。隙あらば使いたい気持ちがある」

 

 それはそれとして、翼が増えたのは純粋に嬉しいようだ。

 熾天使化実戦検証、極めて良好である。

 

 

 

 

 

 

 魔導都市旅行は最高だった。

 美味しい料理を沢山食べたし、美味しい迷宮も沢山潜った。符操霊とかいう新技術に触れたり、ランベール大学を見学したりもした。あと今後の楽しみとしてコーヒー豆や器具なんかも購入した。何にせよ新しい趣味ができて良いね。

 思う存分フォレを回ってから、俺達は魔導都市を出た。予定より長い滞在になったが、まぁ予定は未定なので致し方なし。

 

「ケナズの里ですか、久しぶりですね。今どんな感じかシャーロットは知らないんですか?」

「なんかルーン使いが集まってるらしいってのは聞いたな。前にアタイが行った時はまだまだこれからって雰囲気だったぜ」

 

 今向かっているのは、シャロの故郷であるケナズの里だ。厳密には里に面するラリス王国はゲパルト領である。

 ケナズの里は旧魔王軍のせいで全滅してしまい、現在は別の村になっているらしい。今回は墓参り兼そこに住むルーン使いの人にご挨拶しに行くのである。

 

 ゲパルト領のギルドに手続きをして、その日のうちに国境を跨ぐ。ハイエンド空戦車で土むき出しの道を往けば、ガタガタ道も快適だった。

 町から里の道中は、冬の気配を感じる静かな森だった。背の高い木は細い緑の葉を揺らし、時折淡い金色の枝が太陽に煌めく。遠くで冬越えの準備をするリスが走っているのを見かけた。

 長閑な光景だ。ヘラジカが引く戦車に揺られながら、シャロは黙って景色を眺めていた。

 

「はえ~、ここがシャロさんの故郷ですか。普通に田舎出身なんですね、納得です」

「アタイからすると生まれてからこっち故郷出るまで木ぃ見た事無いって方が異常に思えるぜ」

「田舎ゆーけど見たとこ結構発展しとるやん。ルーン彫刻品いっぱいで興味深いわぁ」

 

 ケナズの里に着くと、そこには沢山の人々が暮らしていた。

 ラリス王国兵とアルヴの森出身と思われる森人が談笑する傍ら、岩人族のルーン職人がパンパンになった麻袋を運んでいる。見かける種族は多種多様で、少数ながら子供の姿もあった。

 

「お久しぶりでございます、シャーロット様。イシグロ家の皆様もお会いできて光栄です。あ、そうそう……ようこそシャーロット村へ!」

「ぶっ! な、なんでぇその村の名ぁ!?」

「良かったわね。地図に名を残せたじゃない」

 

 ケナズの里もといシャーロット村を、シャーロットと共にシャーロット村の長の案内で歩く。

 村長が言うには、これまで距離を取っていたラリスとアルヴに対して今後は積極的にルーン技術を広めていくつもりらしい。

 そこにケナズの里はなかった。けれど、人の営みがあった。人も家も形も変わったシャロの故郷はしかし、以前と同じようにルーン彫刻の聖地として存続していくのだ。

 

「むっ、そこにいるのはイシグロ殿? イシグロ殿ではないか! おーい!」

 

 その時だ。不意に声をかけられて、見れば顔見知りと目が合った。

 大きな胸に牛の角、牛鬼剣豪・イスラさんだ。彼女は俺がお世話になっている止まり木同盟に所属するリンジュ剣士で、尖兵戦では共に戦った戦友でもある。

 

「イスラさん、どうしてここに? 一人で遠征を?」

「いやなに、ちょうど今アルヴの森にアリエル様がお越しでな。帰路にて村を視察なされる前に、近くの森の安全を確保しているのだ。よければイシグロ達もやらないか? 森の狩りは楽しいぞ」

「そうでしたか。とりあえず今日は用があるので、また明日」

 

 明日アリエルさんが村に来るとかで、彼女を筆頭に止まり木の盟友達はシャーロット村周囲の安全を確保しているそうだ。いい機会なので、明日俺達もアリエルさんに挨拶しよう。

 イスラさんと別れ、かつてシャロの実家があったところに向かう。するとそこには、以前よりも大きな屋敷が建てられていた。

 この屋敷は集会所兼お偉い客人用の屋敷であり、外部との交渉とかに使っているそうだ。エリーゼが言うところによると、アルヴの森の木材を使った現代ラリス式建築らしい。なんか芸術的(適当)

 

「ははっ、家も墓もめちゃくちゃ綺麗になってんじゃねぇか」

 

 村全体を見渡せる高台に、粗削りな墓石がある。

 ゲパルト卿が立ててくれた墓標だ。その表面には、以前まではなかった里人達の名前が刻まれていた。

 墓石も、墓の周りも荒れていない。どうやら、シャーロット村の人々はこの墓を定期的に手入れしてくれているようだ。

 

「いつの間にか様変わりしちまって。でもここから見る景色はあんま変わんねぇな。お前等もそう思うだろ」

 

 なんて軽口を叩きつつ、静かに献花したシャーロットは黙祷を捧げた。彼女の後ろで、俺達も続く。

 黙祷後、ひと息吐いて立ち上がったシャロは、ゆっくりと村を見渡した。

 初めて俺達が訪れた時、此処には雪と瓦礫しかなかった。今は新しい人が住んでいて、かつての住民と同じように生活している。中には、此処で生まれた子供もいるらしい。

 

「……ありがとな。皆のお陰で、アタイ今幸せだ。これからずっと幸せだと思う。ルーニア云々じゃなくてさ、繋ぎてぇから繋いでくよ。皆とアタイの血をさ」

 

 ふんわり笑って、シャロはケナズの里に別れを告げた。

 その背中は、真っすぐ綺麗に伸びていた。

 

 

 

 それからの事。

 俺達は村の集会所で歓迎を受けた後、屋敷の離れに泊めてもらった。人数多いからね、しょうがないね。

 この離れは偉い人の護衛が泊まるところらしく、今回俺達が初めて使うそうだ。建物の中には最低限の家具しか置いておらず、何だか引っ越し直後みたいでワクワクした。

 

「いらっしゃ~い♡ お客さん、こういうお店は初めてッスか? 指名してくれて嬉しいッス♡ じゃあ、い~っぱいサービスしてあげるッスね♡」

 

 せっかくなので、その夜は一人につき一つの部屋で寝てもらい、俺が一人一人に夜這いを仕掛けていった。

 ノックしてコンコン。いらっしゃいませルクスリリアの次は情熱的なエリーゼ。寝たふりグーラにいたずらし、イリハとレノは声を殺してこっそり致した。

 おぉ、なんたる背徳感。ドキドキが止まらない。お相手が眠ったらコソッと離れて次の部屋へ。俺の脳内では終始ピンク色のパンサーな曲が掛かっていた。

 なお、ヘカテとユゥリンはガチ寝してたので夜這いに失敗した模様。こんな日もあるよね。

 

「遅かったじゃねぇか、亭主殿。待ちくたびれたぜ」

 

 ラスト夜這い。シャロの部屋にお邪魔した俺は、一切のスケベ心なしで只管にイチャついていた。

 今宵のシャロはそういう気分ではないらしい。静寂の真夜中、他愛もない話で笑い合った。

 寒くなってきた今日この頃、互いの体温だけが暖かかった。

 

 

 

 翌朝。吸血鬼の吸血(意味深)で起こされた俺は、後から来たユゥリンと共にシャロを巻き込んでスッキリした朝を迎えた。

 スッキリした後は村長の奥さんから貰った朝ご飯を食べ、止まり木同盟と共に狩りに出かけた。狩猟対象は先のラリスオウマガシカのような危険な魔力保有生物である。

 まぁでも、元々この地域は魔物の発生件数が低いらしく、歩けど歩けど危ない生き物は見つからなかった。

 

「やったか? うん、本当にやったな」

 

 唯一狩った獲物は僅かに魔力を帯びたクソザコ猪である。隠れてスナイプ、一撃だった。

 仕留めた獲物の処理は村の狩人に任せた。ここで最低限の処理をして持って行くらしい。ラリスオウマガシカの時もそうだったが、普通の狩猟では迷宮潜りの出来る事って少ないんだなと痛感した。

 

「久しいなイシグロ殿。ヘカテーニャ教授の結婚式以来か。あの時は話す機会がなかったからな。貴殿がいると聞いて、会うのを楽しみにしていたよ」

 

 シャーロット村に帰ると、そこには止まり木盟主であるアリエルさんの姿があった。

 イスラさんが言ってた通り、ここ最近の彼女はアルヴの森で色々やっていたそうで、今から王都に帰るんだとか。ひと仕事終えた後は気分がよろしいようで、元シャロ宅の集会所で俺と話す彼女は常に上機嫌そうにしていた。

 

「ところで、フライシュ領でのリント・ソースについてだが、アレは本気だろうか? 手続きのミスでそうなったのではなく、本当にイシグロ殿の意思で行われたものかな、と」

 

 和やかなお話しの途中、アリエルさんから今後フライシュ領で作られる予定のリント・ソースの利権についての話題が出た。

 最近、俺はフライシュ領で慈善団体を立ち上げ、そこ経由で止まり木協会にソースで得られる収益を寄付する契約を交わしたのだ。当代フライシュ侯爵が言うにはリント・ソースは莫大な富を吐き出すとか何とかで、たとえ一部であっても止まり木協会には今後相当な額が寄付される見通しだ。

 寄付してくれるのは嬉しいけど、いくら何でも貰い過ぎでは? アリエルさんは遠回しにそう言っているのだ。

 

「いえ、間違いございません。私の願いは世界中の幼……子供達が幸せに暮らせる世界になる事です。それには止まり木協会への助力が最も効率的だと判断いたしました。どうぞ、お受け取りください」

「そ、そうか。流石はイシグロ殿だ。私も全く同じ願いを抱いているよ。貴殿から頂いた支援金は私の責任において全て子供達の安寧の為に使う事を誓おう。うむうむ……」

 

 だが、俺からすると件のソースは先人達の知恵と努力によって生まれたものなので、その利益を俺が享受するのは後ろめたい。なので全額寄付に何の躊躇いもない。

 その旨を地球云々を隠しながら答えると、アリエルさんはにっこりと嬉しそうに微笑んでいた。この人はカッコいい系の美人なのだが、今は少女みたいな笑顔を浮かべていた。

 

 以降は、戦友同士たくさん話をした。

 止まり木協会のこれからについて、当代上森人王の婚姻について。アルヴの森の変化について等々……。

 

「ところで、イシグロ殿はいつ頃子供を作るのかな?」

「え? えぇ、まぁ……?」

 

 そんな折、俺の子供について訊かれた時は内心ちょっとビックリした。

 こういう話題ってセンシティブなのでは……と思ったが、けれども此処は産めよ増やせよの異世界ナーロッパなのを思い出したらば納得せざるを得ない。

 で、いずれ子供は作るつもりと答えたら、子供好きのアリエルさんは耳をピコピコさせて喜んでいた。この人が現役な限り、止まり木同盟は安泰だろう。

 

「それではな、イシグロ殿。貴殿の子を抱ける事を願っている」

 

 アリエルさんと会いたがる人は多い。ご多忙の盟主を独り占めするのも悪いので、俺はその場を離れてイスラさんと手合わせしたりしてその日を過ごした。

 ちなみに、その時村を回っていたシャロ達は子供に子供扱いされて騎士ごっこに付き合っていたそうだ。年長組と年少組みたいで微笑ましかった。

 

「あん♡ もう、ご主人様♡ さっきから何回出す気なんですか♡ こんなにしたら、発情期じゃないのに赤ちゃんデキちゃいますよ♡」

「アリエル様に子供の話振られたからってハッスルし過ぎですね♡ このスケベ野郎がよ♡ しかしその甲斐性誉れ高い♡」

「ん♡ 淫魔女王によるとわたしもそろそろ大丈夫なはず♡ 地上で新しい天使作る♡」

 

 その夜、俺達は昨夜と同じ建物のリビングで楽しんだ。

 ベッドを使わずソファやら机やら空間をフルに利用してアグレッシブにエキサイティング。ワイルドだったりテクニックだったり。淫細胞がトップギアだぜ。

 やっぱこれだね。

 

 

 

 

 

 

 アルヴの森は、天に聳える上森神樹を戴き、上森人の王が治める亜人の国家である。都市国家ならぬ森林国家だ。

 神樹の都、アルヴィニル。そこは神樹を擁する城下街であった。

 

「はえ~、ここがアルヴの森ですか。意外と都会なんですね。悪い田舎感が全然ないです」

「悪い田舎ってなによ……」

「それにしても空気が美味しいです。ここで生まれた子は健やかに成長しそうですね」

 

 猫又騒動以来、久々に訪れたアルヴィニルは、やはり綺麗な街だった。

 よく手入れされた色とりどりの花々。流れる水路のせせらぎが耳に心地よく、森の恵みと人の手になる建築物が見事に融和している。例えるなら、都市と自然公園が互いの良さを殺さず融合したような街だった。

 ぶっちゃけ、こと街としての美しさだけなら異世界でぶっちぎりのトップだと思う。

 

「久しいなイシグロ殿! アリエル様から伺いましたよ! 尖兵との戦いでは凄まじい戦働きをしたようですな! どうか余にも詳しく聞かせてくれまいか?」

 

 そんな街で観光を楽しむ俺達だったが、どういう訳かあれよあれよとお城に連れていかれ、当代上森人王にご挨拶する運びとなった。

 若き王は未だに俺をアルヴの英雄と遇するつもり満々らしく、なんかもう一周回って馴れ馴れしいまであった。てゆーかアポッてないのに呼び出し即謁見って、お仕事大丈夫? 実際かなり忙しいとの事で、宰相の老上森人――細面のイケメンだった――の一声で俺と王のお話しは五分もかからず終了した。

 神樹防衛線の際、確かに俺はかなり頑張って戦った。表向きアルヴの森を救ったのは止まり木協会という事になっているが、あの戦いを生き残った戦士は俺が派手に暴れたのを知っている。

 そういう訳で、草薙の剣というか黒剣一党は当時騒動の渦中にいた人からは絶大な人気を誇っている……らしい。

 

「イシグロ殿! ささっこちらに!」

「イシグロ殿! イシグロ殿ではないか! 皆、イシグロ殿がいらっしゃったぞ!」

「「「イシグロ殿だ!」」」

 

 王との謁見を終えたら、今度は近衛騎士ともご挨拶。森人と聞いてファンタジー的偏見を持ちそうになっちゃうが、王様同様こっちも普通にフランクだった。

 吸血鬼もそうだったが、美形しかいない異世界人にあって森人は特に美男美女が多い気がする。濃くて男らしい異世界モテ男こそ少ないが、シュッとしてスラッとしてる日本人好みのイケメンが多いのだ、森人は。女性はグラドルみたいな痩せ巨乳ばっかだし、マジで凄いなって。

 

「はぁ、はぁ! 流石は誉れ高き黒剣……いや黎明のイシグロ殿だな! まさか我が矢が掠りさえせぬとは……!」

「そちらこそ魔法もなしに見事な技です! 実戦ではどうなりましょうか……!」

 

 そんなこんなで、これまた近衛騎士の訓練に参加する流れとなり、もう仕方ないのでガッツリ混ぜてもらった。

 流石は上森人王の近衛騎士というだけあり、全員漏れなく銀細工級の強者だった。隊長とか普通に俺より強くて、模擬戦の際はお互いボロボロになるまで戦う事となった。

 俺も彼も切り札は隠してたが、それでも良い戦だった。俺は隊長と漢同士の握手を交わした。異世界での友達作りは戦いから始まるのだ。多分、知らんけど。

 

「にしても本当に綺麗な街なのじゃ。陽と陰の氣が見事に調和しておる。ここほど天狐にとって居心地の良い街はなかろうのぅ」

「イリハの方が綺麗だよ」

「うわご主人の褒め言葉適当過ぎッス♡ そこらへん全く成長してないッスね~♡」

 

 お城で歓迎され、隊長の家で歓待され、それからやっと森人の都を見て回れるようになった。

 観光スポットらしい綺麗な泉で禊をして、清めの滝に打たれて精神統一。森林浴の際、我が一党の獣と天使はめちゃくちゃ整っていた。ルーン森人は花より団子で酒ばっか呑んでいた。

 勿論、最近マイブームの食べ歩きも忘れない。本場の森人豆料理を食べたところ、どれも美味しくてハッピーである。旅行中は肉々しい美食に舌が慣れていたので、逆に新鮮で有難かった。

 岩人や獣人や魔族など、アルヴの森には森人以外の種族も多く、全体的に彼等彼女等はラリスやリンジュより大人しい印象だった。恐らく、ここに住んでるとそうなるのだと思われる。

 

「ほ~う、ここが噂の特訓場所か」

「伝説によると静謐なるイレーナ様がここで修行をなさったとか。ボクは今聖地にいるんですね……感動です!」

「美しい魔力が流れているわ……」

 

 アルヴの森滞在四日目、俺達はとある場所にやってきた。

 この場所は高位の戦士に認められた者だけが立ち入りを許される鍛錬場らしく、戦って友となった近衛騎士団長にお勧めされて立ち寄った次第。ここで特訓をしようというのだ。

 アルヴの森深部、神樹の近く。件の鍛錬場は木漏れ日のたまり場といった雰囲気で、エリーゼ曰く実際に魔力的にも優れているらしい。なんだかマイナスイオンたっぷりな感じ。もっと俗っぽい表現をするなら、聖剣の置き場か3D格闘ゲームのステージのようだった。

 

「さて、やりますかっと。ヘカテも前に教えた無月流をやってくれ。地味だけど効果あるからさ」

「あいよ~。まぁ何するにしても基礎は大事やでな。ダーリンのお師匠様に会うん楽しみやわ~」

 

 各々装備を整え、トレーニング開始である。

 旅行中もちょこちょこやってたが、王都にいた時よりはガッツリやってなかった……というか出来なかったんだよね、場所がなくて。だからいっちょここらで一つ心の帯を締め直そうかと。

 瞑想から始まり、素振り&型稽古。なんだろう、何故か自然と集中できるな。集団でバラバラの鍛錬をしているというのに、謎の一体感があった。

 通常トレーニングというか友情トレーニング。何となくマスクデータ的なバフがかかってる気がしてならない。よく分からんが、いい場所だと思う。

 

「よし、始めるぞイリハ」

「よろしく頼むのじゃ!」

 

 ややもあり、次のトレーニングである。

 アルヴの秘密の訓練スポットで、俺とイリハは向かい合って構えた。お互い訓練用の武器である。

 訓練開始。俺が攻め、イリハが受ける。ロリを攻撃すると俺の心のHPが減るが、これは訓練なので心を鬼畜同人ゲーの主人公のようにして攻め続けた。

 

「どうしたイリハ! 集中力が鈍ってるぞ! 術式を編み続けるのを忘れるな!」

「くぅ! 凌ぐので手一杯じゃというに……!」

 

 俺は時に荒々しく剣を振るい、槍に持ち替えて鋭く突き、獣のような蹴りを浴びせまくった。俺と言う個と我を消し、より純粋な暴力を押し付けていく。

 何故このような訓練をしているかというと、当のイリハが希望したのである。曰く、最近我が一党の面々が強くなっている中、イリハには置いていかれてる感があるらしい。俺からすると彼女は充分役割をこなせていると思うのだが、本人的には足りないそうだ。

 何にせよ自分で考え自分で決めたのならば尊重すべき。俺は彼女の要請に応じ、特訓に付き合う事にしたのである。

 

「そうですよイリハさん! 発勁を上手く使って、ナイスです! 完璧!」

「ウチからするとイリハちゃんめっちゃ強ぅ見えるんやけど、あれより上目指せるって時点でもう凄いわ」

「実際、私でも剣を使いながらあそこまで見事な魔力制御はできないわ。そこらへん、いまいち自覚がないようね、イリハは」

 

 イリハの剣術は守りの技だ。

 これは無月流剣術参ノ型というもので、先述の通り守りの技術である。師匠曰く、この型を極めたらどんな攻撃も凌げる鉄壁剣士になれるという。

 剣術で身を守り、陰陽術で敵を倒すのがイリハの基本戦術だ。だからこのような訓練をしている訳で、俺が終わったら皆との訓練が待っている。

 なお、エリーゼは火力が高すぎるから出禁な模様。

 

「甘い! あと三手! いち、にっ! はい終わり!」

「ぐっ! いぃぃぃっ……たいのじゃ~!」

 

 そうやって続けていると、俺の攻撃がイリハの身体に直撃した。陰陽術式が途切れ、魔力が霧散する。俺は直ちに攻勢を止めた。

 

「どうする? そろそろ休憩時だと思うけど」

「いやまだ続けるのじゃ。ニーナも言うとったが、痛みに耐えながらする練習もしとかんといかんからのぅ……!」

 

 続行である。俺は手を変え品を変え天地仙刀士を攻め、防御を崩し、攻撃を当てていった。

 少しずつ、イリハはボロボロになっていった。それでも彼女の目は燃え続けていた。

 

 ふと思う。いったい、彼女のやる気はどこから来ているのだろうか。レギーナとの戦いで思うところはあっただろうが、そもそもイリハはこうも戦いに積極的な人ではなかったはずだ。ただ単に戦闘面で置いていかれたくないというだけではない気がする。

 ずっと一緒にいたのだ。直近こうも心境が変化するようなイベントなんて無かったように思うのだが、今度ゆっくり話してみよう。コミュニケーションは大事だ。

 

「ここまでにしよう、イリハ」

「むぅ……すまぬ。主様が言うなら、そうするべきなんじゃろうな。ありがとな、皆も付き合ってくれて。少し休んだら続きを……」

「いやそれもあるけど、ちょっと違くて」

「のじゃ?」

 

 それはそうと、イリハのやる気に水を差す無粋な輩を見つけたので一旦ストップ。

 どうやら、イリハ以外は気づいていたようだ。

 

「そこで見ている人、出てきてください。我々は許可を得てここに来ています。不法侵入ではありませんよ」

 

 背後の物陰に対して声を飛ばすと、件の覗き魔の気配が揺れた。

 この鍛錬場は貸し切りという訳ではないのだが、こうも見られては気分がよろしいはずもない。

 

「あの、え~……すみません。私達は怪しい者じゃなくって。どうかお上に言うのは勘弁して頂ければと……」

「すみませんすみません。覗くつもりじゃなかったんですけど、つい見惚れちゃって……」

 

 やがて、俺達の前におずおず現れたのは、決して強くなさそうな少女二人組だった。

 大きな弓を背負った森人と、深くフードを被った魔族っぽい雰囲気の少女。敵意はないという感じで、さながら熊に相対するようにして歩いてくる。

 

「実は自分等も修行の為にここに来て、そしたらイシグロさん達がここにいたもんで、つい……」

 

 あたふたと言い募る森人少女を見た時、俺は謎の既視感を覚えた。

 あれ? 俺、この人と何処かで会った事ある気がする。思い出せそうで、思い出せないな。しかも向こうは俺を知っている?

 

「本当に、あの本当によろしければなんすけど……さっきの訓練を見てどうしてもと思って……イシグロさんがご満足なさるようなお礼とかは多分持ち合わせてないんすけどぉ。イシグロさんに、一つお願いをさせてもらってもいーすか……?」

「はあ」

 

 俺を含め皆して訝しんでいると、彼女は何かに追い詰められているかのような表情で言葉を継いだ。

 いきなり現れてお願いとな? 俺はレノの治癒を受けているイリハと目を合わせた。

 

「そ、そんな、やめようよ。イシグロさん困ってるよ、悪いってぇ……」

「でもチャンスじゃんか。一か八か、やれる事はやっとかなきゃ後で後悔するし……」

「でもぉ……」

 

 その時、背後にいた魔族少女が押し止めるようにして森人少女の腕を掴んだ。随分と仲が良さそうで、何故だかこっちには違和感を覚える。

 既視感に続いて違和感とな? 最近、妙に働くこの勘は何だというんだ。俺の脳みそバグッたか? 誓ってクスリはやってません。

 

「その……自分イシグロさんのファンなんすよ。一度でいいんで、どうか自分等にも稽古つけてもらってもいいすか……?」

「お、お願いします……!」

 

 はあ、である。さっき会ったばかりの二人組から謎のサブクエ発生。

 今回の相手は初対面……だと思うのだが、実はこういうお願い自体は初めてではなかったり。王都にいた時、自称俺のファンに指導してくれ稽古つけてくれと何度か言われたものである。

 なので、こういう時の対処は事前に決めてあった。

 

「そういう事は一律で断るようにしています。戦闘技術の指導であれば、然るべき方にお願いした方がよろしいかと」

 

 基本、断る。何故なら、責任を持てないからだ。

 技術を身に着けたいのなら、道場に行くなりプロにお願いすべきである。人にモノを教えるのは、そんな簡単にやっていい事じゃない。たとえどれだけ強かろうが、俺のような素人が指導をすべきではないと思う。

 身内への無月流伝授については人生丸々責任取るから無問題。今度もっかい師匠んとこ行くしな。

 

「で、ですよね。ははっ……すんません。いきなり、こんな失礼なお願いしちゃって……」

 

 対し、断られた森人少女は耳を垂れさせショボン顔。相棒の魔族少女は仕方ないさとばかりに彼女の肩を撫でていた。

 まただ。また、既視感と違和感が俺の脳裏を過る。俺はこの女の子と、この感覚を知っている気がする。分からない。気持ち悪い、アハりたくって仕方がないぜ。

 

「別のところ行こう。これ以上邪魔しちゃいけない。すみませんっした、イシグロさん。自分等はこれで……」

「う、うん、そうだね。お邪魔してごめんなさい、皆さん」

 

 言って、二人は手を繋ぎながら去っていった。

 互いを慰めるように、ギュッと。恋人繋ぎで。

 恋人繋ぎで……!?

 

「ところで、お二人の関係を伺っても?」

 

 つい呼び止めるように訊いてしまった。皆も訝しげに俺を見てくる。

 振り向いた森人少女は、一転してキッと鋭い視線を向けてきた。覚悟の籠った強い眼だ。

 

「……恋人同士です。それが何か?」

 

 恥ずかしそうな、それでいて拒絶するような、警戒する猫のような表情だった。

 瞬間、俺は既視感と違和感の理由に思い至った。

 

 ――あの自分……ファンなんすよ。握手してもらっていいスか。

 

 そうだ、俺はこの森人を知っている。

 尖兵戦の時、俺に握手を求めてきた兵士。すげなく断ってしまった相手。断られた時の、あの表情。

 そして違和感の理由は二人の距離感だ。より魔力感度を上げてみれば分かる。フード少女は頭の角を隠しているのだ。この魔族少女、淫魔族である。

 この二人は、強気そうな元兵士森人少女と、気弱そうな淫魔のカップルだったのだ。

 

「……キマシタワー」

「何が来たのじゃ?」

「あ~、アタシこの後の展開読めちゃうんス~……」

「ん、やれやれだぜ」

「何がやれやれなん? えっ、何どゆこと?」

「始まるのよ。イシグロ・リキタカの英雄譚が」

 

 百合の波動を感じる。




 敵キャラが味方化&弱体化した後、味方になってからまた一時的に敵キャラ時代の能力を取り戻した感じです。

・通常レノ=ダブルオー
・疑似太陽レノ=ダブルオーライザー
・熾天使レノ=トランザムダブルオー
・疑似太陽+熾天使レノ=トランザムライザー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。