【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。皆様の反応が執筆の励みになっております。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 引き続き三人称です。
 百合スポ根編簡潔です。よろしくお願いします。

 おや? 後書きの様子が……?


ロリ・カニーナ(結)

 決闘の朝がきた。

 

 武家の親子の決闘は、王城にある練兵場で執り行われる事となった。

 当初はアルヴィニルにある一般運動広場で行う予定だったのだが、イシグロや近衛騎士に加えアリエルまで観戦するとなって急遽場所を変えざるを得なかったのである。

 なんかえらいことになってるなと、当のフェイレンは諦観込みの他人事。対し、錚々たるVIPの観戦にフェイレン父は緊張しまくっていた。いち家庭の親子喧嘩がこうまで大事になるとは思っていなかったのである。

 

「行ってくるよ、メフィ。一生愛してる」

「うん、私も死ぬまで愛してる。ん……ちゅ♡」

 

 決闘が始まる前、フェイレンはメフィスティアに支援魔法をかけてもらい、優しい口づけを交わした。

 それから訓練用の大盾――ラリス王国から取り寄せた物――と木剣を持ち、既に位置に着いていた父に相対する。

 眼前で佇むフェイレンの父は、記憶にある通り遥か格上の戦士だった。けれど、草薙の剣の誰よりも弱かった。威圧感はあれど、怯える理由は存在しない。

 

「色々あったけどさ。自分の道は自分で決める事にしたよ、親父」

「フェイレン……」

 

 どしん、と。相手の返事を遮るようにして、フェイレンは身の丈程もある大盾を構えてみせた。

 父もまた、愛用の古い弓を構えた。実戦用ではない、訓練用の弓を。

 近衛騎士の一人が審判として間に立ち、森人らしい真面目さで決闘のルールを口頭確認していった。

 審判の声が響く中、緊張の糸が張り詰めていく。フェイレンは固い唾を飲み込み、ゆっくりと息を吐いた。

 絶対に、勝たねばならぬ戦いなのだ。

 

「用意……はじめ!」

 

 そして、フェイレンの進退を決める決闘が始まった。

 次の瞬間である。

 

「おらよ!」

「ぬっ……!?」

 

 ぶおん! 風切り音を立て、父の眼前に棒が飛来する。フェイレンによる木剣投擲だ。

 虚を突かれ、驚愕しつつも慌てず回避する父。反撃をせず、狩人らしく油断なく体勢を立て直す。

 フェイレンは護国の家の娘であり、父は森の秩序を守る狩人だ。狩人は必要最小限の一矢を貴しとする。であるならこそ、必殺の時まで見に回るだろうと確信していたが故の奇襲である。

 

「まだまだいくぜ! そらそらそらそらぁ!」

 

 なので、フェイレンは盾の裏に隠していたブツを投げた、投げた、投げまくった。

 続く飛来物も最小限の動きで避けようとする父だったが、すんでのところで危険を察知し大きくサイドステップして避けた。

 投擲物が地面に当たると同時、中身が飛び出て辺りをヌルヌルのヌメヌメにした。踏んだら転倒間違いなしの特殊潤滑液である。

 

「メフィ特製の媚薬ローションだ! これ使ったら親父でもおっ勃つんじゃねぇか? 遠慮せず浴びてけよ!」

「フェイレンお前……! なんて戦い方をするんだ! ここは王城で、アリエル様の御前だぞ!」

「うるせぇえええ! 知らねぇえええ!」

 

 球の中身は淫魔王国名物・媚薬ローションだった。地味に淫魔学校首席だったメフィスティアがヘカテ教授のサポートで錬成した逸品である。

 足で踏んだら最後、ツルツルヌルヌル&あわよくば強制発情でマトモに戦えなくなる危険物である。後者はともかく、前者はフェイレン父には致命的だった。娘であるフェイレンは、父が【清潔】といった対抗魔術を習得していない事を知っているのだ。まして親子喧嘩に大事な狩り道具を持ち込んでくるはずもなし。

 ぶっちゃけ、かなりお下品な戦い方である。確かに誉れのない戦法である。真っ当な戦士がやれば失笑され、護国の狩人がやれば叱責されること請け合いだ。しかし、フェイレンは父と比べれば明らかな弱者なのだ。弱者が強者を打倒する場合、如何なる卑怯卑劣も許されるのが異世界流である。

 

「あんなに真面目だったフェイレンがこんな下品な……あぁそうか、やはり淫魔のせいか……! 品性下劣な淫魔の思考回路に毒されたからこうなったんだな!」

 

 緊張していた父の顔に、徐々に怒りの色が浮かんでくる。

 構わない。寧ろそれを狙っていた。怒ってくれた方が都合がいいのだ。イシグロが言うには、「PVPは相手を煽ってナンボ」らしい。よく分からないが、要は冷静にさせないよう立ち回るべしという事だろう。

 

「しゃあ! かかってこいオラァ!」

「むっ……!」

 

 用意していた物品を投げ終え、地面に盾を突き立てた。不動の構えである。対し、投擲物が尽きたと見て取り矢を番えた父は、動きを止めて僅かに眉を寄せる。

 気が付くと、フェイレンの周囲は例の潤滑液でヌルヌル地獄になっていた。下手に接近すれば足を取られてしまうかもしれない。あまつさえ、フェイレンは後ろ手に何かを隠している。否、隠しているように見せているのだ。

 ローション地獄に、あからさまな隠し札。当然、父としては警戒を強めざるを得なかった。意表を突いて有利環境を整えた娘の奇策を、狩人らしく慎重に見極めようというのだ。

 

「どうした! 撃ってこないのか! あんだけ偉そうなこと言っておいて口だけか! クソ親父!」

 

 それを分かった上で、フェイレンは更に挑発した。

 時間制限までこの液体は乾かない。今のブラフで数秒稼いだ。父の近接技は封じた。攻撃手段は弓だけだ。

 ここから、制限時間まで耐えきる所存である。

 

「私の矢を、アルヴ狩人の矢をその程度の盾で防げると思っているのか? 時間制限まで耐え抜くつもりか。度し難いぞ、フェイレン……!」

「あいにく親父譲りの頑固者でね!」

「私は頑固者ではない!」

 

 言うが早いか矢が放たれる。難なく盾で受けた。軽い衝撃が盾全体を震わせるも、使い手は身動ぎ一つしなかった。

 この結果に、射手は目を見開いた。訓練用の矢とはいえ、貫き過ぎれば万が一があり得る。故に衝撃を与えるつもりで撃った矢は、全く効果がなかったのである。

 

「なんだ、この手応えの無さは……!」

 

 二の矢。フェイレンはイシグロ仕込みの【シールドバッシュ】で見事に跳ね返した。それは偏にフェイレンの異能と技術と工夫によるものだった。

 加えて盾の表面には対矢特化の油を塗っているし、恋人から体力と持久力を上げる支援魔法を受けているのだ。

 魔物の肉体さえ貫く矢でも、異能者の盾を貫くこと能わず。時間いっぱい、とにかく耐える。フェイレンは、その一点だけを考えて備えていたのである。

 

「はん! 親父の矢ぁ弱すぎだろ! 狩人の誇りはどうなってんだ、誇りは!」

「どういう仕掛けだ? 盾に妙な補助効果でも付けている? たとえ金剛鉄の盾でも、こうも弾かれるはずは……ええい!」

 

 このまま手加減していては娘を止められない。父は覚悟を決めて【矢生成】を使って【つるべ撃ち】を放った。秒間六連射の達人技である。あまりの連射に、板で滝を受け止めるような衝撃がフェイレンの身を襲う。

 しかし、ユゥリンの発勁よりは重くない。イシグロの連射魔術と比べたら間隔が空いている。ましてグーラの拳と比べたら猫に体当たりされたようなものだった。

 だから耐えられる。ひたすら、耐え続けるのだ。

 

「くっ、致し方ない。位置を変えるか……」

 

 正面からの射撃は効果が薄いと見て、父はフェイレンを中心に駆け回って四方から矢を連射した。水溜まりのような媚薬ローションを踏まないよう跳び回る姿からは、長年森を守ってきた狩人としての高い技術が見て取れる。

 対するフェイレンは、その父の動きに合わせた最小限の動きで矢を弾き続けた。彼女は痛みに耐える訓練だけをしていた訳ではない。このキワモノ盾を使いこなせるよう、地獄の調教を受けてきたのである。

 

「そうか、そうか、つまり親父はそんな奴だったんだな! 下品な戦法だのなんだの言うくせして、絡め手使わないと敵わない訳か! そっちこそ皆さんが観てんだぜ! 恥ずかしくないのか!」

「なに……!」

 

 フェイレンの煽りに、父は思わずといった風に硬直した。

 そう、ここには英雄達の目があるのだ。たとえこのまま勝ったとしても、正面から打倒せねば結果的に家長としての技前を疑われる事になる。

 

「……気が変わった。可能な限り楽に終わらせてやろうと思っていたが、父の慈悲は必要ないと見える」

 

 跳び回るのを止め、地に足を着けた父は、静謐な古木のようにドッシリと矢を番えてみせた。

 獲物を仕留める必殺の一矢。己の躯体を第二の弦とし、筈から鏃へ魔力を通す。

 ひやりと、フェイレンの背筋に悪寒が過る。

 

「あの者、まさか娘を殺す気ではあるまいな?」

「流石にそれは……」

「しかし見よあの顔を。完全に冷静さを失っている。危うしとなれば無理にでも止めねばならぬか」

 

 観戦していた近衛騎士がざわめく。フェイレンは息を吐き、衝撃に備えた。

 

「魔力過剰充填、【閃光の鏃】! 射ぁッ!」

 

 親の情だろうか、貫通特化の一矢は盾の縁を叩き、弾け飛んだ。当然、フェイレンは一歩たりとも後退していない。けれどもフェイレンの頬には冷や汗が垂れていた。

 危なかった。あれをマトモに受けていたら、盾を貫通されていたかもしれない。付け焼刃でも瞬間防御(ジャストガード)の練習をしていてよかった。

 

「丈夫な板きれだな……!」

 

 続く剛矢もまた、正面を外して弾けた。

 重く分厚い盾越しに、父は娘の体勢を見透かしていた。一矢ずつ冷静に、どのように当てれば姿勢を崩すかを計算して射っているのだ。

 四射、五射、六射。矢を受けるフェイレンの額を汗が伝い、身体の熱が蒸気となって放出される。油断すると、膝を落としてしまいそうだった。

 

「ぐぉ!? い、今のが能動技能(スキル)ってやつか……! もっかい同じのは無理か……」

 

 八射、初めてフェイレンの盾が浮いた。防御が緩んだのだ。透かさず放たれた九射目を、奇跡的な直感で【弾き返し(パリィ)】た。

 今の【弾き返し】は偶然だった。イシグロに見せてもらっただけの技で、やろうと思ってやった訳ではない。もう同じ事はできないだろう。

 

「はぁ、はぁ……クソッ! あとどんくらいだ? うっ、ぐぅううう!」

 

 理想の展開にこそなったものの、フェイレンは劣勢だった。

 正面から矢を受ける度、彼女の身体には気を失ってもおかしくない程の衝撃が襲ってくるのである。彼女は既に倒れそうだった。特訓と違い、ここで気絶してしまっても治癒魔法の助けはない。まだ倒れる訳にはいかなかった。

 他の森人と同じように、フェイレンにも魔法の才があれば自分で自分を治癒できたかもしれない。心の隅で、幼かったフェイレンが今の自分の背中を見ている。あの頃は、皆と同じになりたかった。けど、今は違う。だからこそ、立ち続ける事ができるのだ。

 

「現実を見ろ、いい加減に大人になれ! 元よりお前は森人なのだ! 愛する者と、まして魔族と一生を添い遂げるなどできん! 淫魔との事は若いうちの病のようなもの! 一時の熱情に流され、永久の悲しみを背負うつもりか! 決して悪いようにはしない! 今は分からずともよい! 私の言う通りにした方がよかったと! そう思う時がくる!」

「黙れ! ごちゃごちゃ喧しいんだよクソ親父が! メフィの事もロクに知らねぇくせに、分かったような口ぃ叩くんじゃねぇ!」

 

 娘の限界を見てとった父は、矢継ぎ早に攻撃を仕掛けていった。

 耐える。耐える、フェイレンにこれ以上の奇策はない。我武者羅に耐えるしかなかった。

 意識が朦朧としてくる。生命力の限界だ。事前に呑んでいた治癒薬の効果が切れた。支援魔法も途切れている。ここからは、フェイレン一人で戦うしかない。

 

 ふと、草薙による特訓の記憶がフェイレンの脳裏に過る。

 弱気の虫が囁いて、負けた時の事を考えてしまった。そんな時はどうすればいいか、そうイシグロに訊いた事がある。

 敗北に怯える弱い女に、イシグロはこう云った。

 

『その時は、愛する人の顔を思い浮かべてください。すると絶対に倒れなくなります。愛こそが最強の強化魔法なんですからね』

 

 その通りだった。

 父の矢を受け切れなかったら、メフィスティアに当たるかもしれない。激昂した父に、愛する人が殺されるかもしれない。

 もし本当にそうなったら、痛みに負けたから、体力の限界だからと、彼女の危機を見過ごせるのだろうか? 自分はそれを良しとするのか?

 否、断じて否である。

 

「うぉおおおぉぉあぁあぁぁぁぁあッ!」

 

 トドメの魔法矢が迫る。足を踏ん張り、腰を落とし、ぶつけるように盾で受けた。

 技もクソもない。膂力もそれほど籠っていない。ただ、精神の力だけが身体を動かす。森人らしからぬ泥臭いド根性が、フェイレンを戦士に変えていた。

 

「な、何故分からん。父さんは、フェイレンの幸せの為に……」

 

 ぼやけた視界の先で、矢を番えたままの父は呆然と呟いていた。自分より遥かに強い父が、今はやけに弱々しく見える。

 苦しそうなフェイレンの姿を見て、父は娘を心配していた。今すぐ駆け寄って助けてやりたい。そう、顔に書いてある。

 昔から過保護なのだ、このダメ親父は。

 

「ま、まだまだ! むしろここからだろ、意地の張り合いはぁ……!」

 

 だが、フェイレンはもう心配されるような子供ではない。

 圏外の森で、真の勇士達と戦った。愛する人と出会い、本当の居場所を知ったのだ。英雄達に支えられ、今こうして立っている。

 立ち続ける理由が一つ増えた。歩き出す勇気は胸にある。だから、もう充分なのである。

 

「馬鹿娘が……!」

 

 吐き捨てるような、自嘲するような声。

 父の矢が解き放たれる。風の壁を貫き、魔力の尾を引き、音を追い抜き……。

 そして、盾にぶち当たる。

 

「ぐぅうぉおおおがぁああああああ!?」

 

 これまでとは比較にならない衝撃がフェイレンを襲う。魔力の火花が散り、盾の表面がガリガリと削れていく。

 拮抗は一瞬だ。矢を弾いた。凌ぎ切った。制限時間まであと少し。勝った、フェイレンは自由を勝ち取ったのだ。

 そう思った……直後だった。

 

「う、ぐぉ……!?」

 

 金属がひしゃげるような破砕音、気付けば、フェイレンは空を見上げていた。背中に痛み、仰向けに倒れている。彼女のすぐ傍で、ボロボロになった鉄片が地に落ちた。

 耐久限界だ。盾が砕け、衝撃がモロに使い手に入り、勢いに負けたフェイレンは倒れたのだ。彼女の異能はあくまでも攻撃を受け切るものであって、物体そのものを頑丈にする効果はないのである。

 盾を失ったフェイレンに、これ以上抵抗できる術はなかった。

 

「フェイレン!」

 

 少女の声が聞こえた。

 思考が乱回転する。制限時間はまだある。手に盾はない。次の矢を撃たれたら負ける。

 フェイレンは、完膚なきまでに敗北したのだ。

 

「フェイレン……!」

 

 次に彼女の名を呼んだのは誰だったか。少女の声ではなかったと思う。身を案じるような、動揺したような情けない色があった。

 全身が痛い。これ以上抵抗しても意味はない。彼女は、敗北したのだ。

 だが、心はまだ屈していない。

 

「……絶対、に」

 

 フェイレンは両手を突き、膝を叩いて立ち上がった。

 風が吹けば倒れるほど弱々しい佇まい。ただ、双眸だけが輝いていた。熱く、強く、眩い程に。

 そして、守るべき誰かを庇うようにして、両手を広げた。

 

「絶対に……ッ!」

 

 最早、考える余裕などなかった。

 あまりにも未熟な、幼い精神性の発露。

 理と知を重んじる森人らしくない、感情の爆発だった。

 

「自分が! メフィスティアを守るんだッ……!」

 

 心の枷が、爆ぜた。

 その時である。これまでフェイレンの身に収められていた魔力が、文字通りの爆風を伴って全身から放出された。

 意思力の籠った黄金の魔力。ゆらゆらとフェイレンの魂から噴き出て、周囲の空間すら歪めている。

 まさしく、覚醒であった。

 

 フェイレンの中に宿る、第四の異能。

 それは、感情の解放と共に発揮される魔力量の増大――即ち、一時的な魔力無限状態である。

 この瞬間、落ちこぼれのフェイレンには、草薙の銀竜に迫る程の魔力が宿っていた。

 

「フェイレン、お前は……そんなにも彼女のことを……」

 

 父は、魂が抜けたように言葉を漏らした。

 矢を放てば、勝てる。この距離で外す訳がない。

 だが、撃てなかった。

 撃てるはずがなかった。

 

「ふぇ、フェイレンちゃん……♡」

 

 時に、人の魔力には大なり小なり持ち主の感情が宿るものだ

 これについては竜族が特に敏感で、エリーゼは魔力に乗った感情を目で見る事さえ可能だった。森人もまた鋭敏な魔力感覚を持っており、故にこそ魔力を制御して感情を隠すのが常識とされている。

 そんな森人からして、今のフェイレンから放たれる魔力は、あまりにも非常識で、異常で、純粋に過ぎた。

 純粋過ぎて、それを肌身で感じた淫魔の少女の脳がカリッカリに焼け焦げてしまうほど。

 

「……誰が好き好んで、娘など撃つものか」

 

 子に届かぬ、伝わらぬ言葉。

 変わり者で落ちこぼれの娘の幸せは、もう父の後ろに存在しない。

 子離れする時が来たのだ。

 

「降参する。負けを……フェイレンとメフィスティアさんとの交際を認めよう。父さんの完敗だ」

 

 そうして、父は弓を下げた。

 審判が宣言する。先に降参を認めたのは父だ。故に、この決闘はフェイレンの勝利に終わったのだ。

 審判の声は聞こえたのか、聞こえていないのか。フェイレンの魔力暴走は、蝋燭の火のようにかき消えた。

 

「フェイレンちゃん!」

 

 なおも立ち続けるフェイレンの下に、変わり者の淫魔が駆け寄る。容体を改め、愕然とした。

 フェイレンは、立ったまま気絶していた。いつから意識がなかったのかは分からないが、彼女は気を失ってもなお恋人を守らんと立ち往生してみせたのである。

 

「もう、いくらなんでも無茶し過ぎ。こんなにボロボロになって、後ろで守られる方の気持ちも考えてよね……」

 

 観戦席で、黎明の英雄が何か尊いモノでも見たようなアルカイックスマイルを浮かべている。天狐の陰陽術師は心底驚いたと言わんばかりに目を見開き、エリーゼはそっと盟主の手を取った。

 止まり木の盟主は、うんうんと謎のしたり顔。近衛騎士が父の背中を叩き、促された父は恋人達へと歩み寄った。

 

「ありがとう、フェイレンちゃん。私の事が大好きな、私の愛しい人……」

 

 穏やかな風が吹く。

 こうして、無駄に壮大な親子喧嘩が終了したのである。

 

 

 

 

 

 

 人の口に戸は立てられない。それは異世界も同様である。

 決闘騒ぎの後、フェイレンとメフィスティアの百合カップルはアルヴィニルの有名人になっていた。

 それというのも、決闘の際に噴出したフェイレンのラブラブ魔力がアルヴィニル全域に伝播してしまった為である。

 言ってしまえば、フェイレンは森の中心で愛を叫んでしまった訳だ。

 

「ようお二人さん! もう冬だってのに熱いねぇ!」

「見ろ、変わり者のフェイレンだよ。うんうん、めっちゃキテるわ。目の保養になるぜ……」

「お、応援しています! 私も女の子は女の子と付き合うべきだと思いますから! はぁ~素敵♡」

 

 こんな風に、街を歩けば冷やかされるようになってしまった。

 恋人への想いに嘘はないが、恥ずかしいのはその通り。幸いだったのは、声をかけてくる人の中に二人の関係を悪く言う者はいなかった点だ。

 実際、フェイレンが女子好きと聞いても驚かれこそすれ邪険にしてくる人はいなかった。あれもこれも、気にしてたのは本人だけだったというオチである。

 世の中、そこまで他人に興味などないのだ。

 

「ただいま~」

「ただいま戻りました」

「ああ。お帰り、二人とも」

 

 変わったのは街の反応だけではない。

 紆余曲折あり、フェイレンと父の親子の仲は修復され、父とメフィスティアもまた普通に話せるようになったのだ。

 

「いや~、ちょっと買い物しただけでめっちゃオマケ貰っちまったよ。これ食いきれるかなぁ?」

「どうせならジャムにしましょうか。お鍋お借りしても大丈夫ですか?」

「いやいや二人とも疲れてるだろ。夕飯ついでに私がやっておくから、二人は休んでなさい」

 

 雨降って地固まる。決闘の後、三人それぞれが歩み寄り、しっかりと対話をした結果であった。

 というか、フェイレンが気絶していた間に父とメフィスティアの対話は完了していたので、フェイレン視点いつの間にか二人が仲良くなっててモニョッていた。

 

「つーか最近どうなん? 獣の動きとかさ」

「やっと戻ってきた感じかな。前に大きな嵐があって、それで逃げたヌシが少しずつ戻ってきた感じでね。あれ? 水飴が足りない……」

「あ、それなら買っておきました。どうぞ」

「ありがとう。本当に気が利くねメフィスティアさんは。我が娘ながらフェイレンちょっと適当なところあるから、そのへん大丈夫? 迷惑かけてないかな」

「うるせぇ、いつの話してんだよ。ったく……」

「でもフェイレンちゃん、この前脱いだ服椅子に掛けっぱなしにしてたよね? 旅してた時も何度か宿に忘れ物してたし、軍抜けてからどんどん気が抜けちゃってるよね」

「わーっ! わーっ! そーゆーの言わねぇのが優しさだろ!」

「娘がすまないねぇメフィスティアさん……」

「いえいえ、持ちつ持たれつですから」

 

 思い返せば、今に至るまでは本当に色んな事があった。

 尖兵戦を戦い抜き、メフィスティアと出会い、実家に帰って決闘した。

 そして、今はイシグロの指導を受けている。

 

「イシグロさん、そろそろ帰っちゃうんだよね。見送りはいらないって言ってたけど」

「弟子的にゃもっと技ぁ教えてほしかったけど、まぁしょうがねぇよな」

 

 安らかな時間の仲、フェイレンは決闘後の事を想い返すのであった。

 

 

 

 気絶から復活したフェイレンは、父との対話もそこそこに今回お世話になった人達全員に感謝を伝えて回っていた。

 その際。アリエルからは止まり木同盟に勧誘され、近衛騎士隊長からは王城勤めの為の訓練を受けないかとの打診を受けた。

 どうやら、決闘におけるフェイレンの盾捌きが認められたらしい。こうも守護に特化した存在は貴重なんだとか。

 憧れの存在に認められたのは嬉しかったが、よくよく考えてメフィスティアと話し合った末、どちらも断る事となった。

 

「改めて、本当にありがとうございました! どうかお礼をさせてほしいっす! 師匠!」

「いいえ、大丈夫ですよ。此方にも益のある事でしたので。それに、本当に美しいものを見させてもらいましたから」

 

 勿論、イシグロにも感謝を伝えた。

 言葉だけではアレなので、しっかりお金で誠意を示すべきと思っていたのだが、当の英雄は礼は要らないと言ってきた。

 銀細工は箍が外れている。もしやイシグロは善性の方向に外れてしまった人なのか。そう勘ぐってしまうほど、フェイレン達にとっての黎明の英雄は都合が良すぎた。

 

「なら、もし私の子供が困っていたら、その時は助けてあげてください」

 

 それでも何かお礼をしたい旨を伝えたら、そんな事を頼まれてしまった。

 あまりの光に脳が焼ける。ただでさえファンだったのに、よりいっそう強火のファンになってしまうフェイレンだった。恋愛感情と推し活感情は別腹である。

 

「それより現状だとフェイレンさんのビルド構築はあまりにも隙だらけなので、もうしばらくお付き合いして頂きますよ。一度指導を引き受けたからには合格まで外に出しませんからね。大丈夫です。習得すべきスキルのリストは作っておきましたので、練習法を覚えたら合格にしときます。キャプテン・アルヴになるんぜよ」

「は、はあ」

 

 かと思えば、フェイレンの特訓――もとい地獄――の続行宣言がなされてしまった。

 一体、これにはイシグロに何の得があるというのだろう。決闘が終わったら終了と思っていた師弟関係は、決闘の後も続くのであった。

 

「今のが武闘家系スキルの【軽功】です。タンク役でも、いやタンクだからこそ機動力はあるに越した事はありません。なので絶対にマスターしてくださいね。これも練習方法をメモしといたんで、【返り盾】共々頑張って習得してください。盾スキルは他にも色々あるんでしっかりメモって……いやメモじゃなくて巻物にした方が雰囲気出たかな? まぁいいや」

「はえ~。それより、どうせ盾使うなら都会の衛兵みたいに全身鎧で防御固めた方がいいんじゃないですか?」

「フェイレンさんは頑強ステがゴミカスなので鎧着るだけ無駄ですよ。逆に言うとスピードを犠牲にせず重量盾を装備できるんだから、目指すべきは高機動シールダーがロマン&最適解ビルドです。願わくば指揮バフも欲しいところですが、それは流石に欲張り過ぎかな。じゃけん足の速い盾役になれるよう努力しましょうね」

 

 決闘前に使わせてもらっていた訓練場で、その後もフェイレン達は特訓を受けていた。

 その中で、フェイレンはどう見ても何かしらの武術流派の奥義――イシグロ曰く能動スキル――を教導されていた。いやこれプロの教導官に教わるやつでは? フェイレンは訝しんだ。

 

「……と、このように一つの魔術も工夫すれば色んな使い方ができる訳や。メフィちゃんも見たやろ? ダーリンの射撃魔法。あれ全部【魔力の礫】なんやで」

 

 他方、メフィスティアはヘカテーニャ教授に様々な学問を習っていた。

 相変わらずメフィスティアは優秀らしく、「詰め込み教育で詰め込んだ分だけ学習すんのオモロ!」とは件の吸血鬼の談である。

 

「しゃあっ、【烈風刃】! 【烈風刃】! 【烈風刃】! 【烈風刃】! 最後に一発【真空烈風刃】!」

「馬鹿なぁあああああ!」

「せ、戦闘不能! 勝者イリハ!」

 

 二人がラリス教育を受けている間、近衛騎士は何故か天狐にボコボコにされていた。

 厳密に言うと、天狐と近衛騎士による魔法無し武器のみの模擬戦である。これは両者の希望に沿った催しだった。近衛騎士は強者との戦闘経験を、天狐は勝ち癖を身につけられてウィンウィンなのだという。

 

「わし、剣も結構やれるんかもしれん……!」

「いや武帝祭で分かってたッスよね? なぁに言ってんすかこのモフモフ狐」

 

 曰く、最近の天狐イリハは戦闘力関連で悩んでいたらしい。

 というのも、草薙の剣には近接最強のグーラがいて、遠距離戦も他の面々と比べれば明確に劣っている。治癒も微妙で、ルーンといった特殊技能もない。それで自信を失っていたところ、特訓では盟主にボコボコにされて強くなってる自覚まで無くなっていたそうだ。

 そこで、決して弱くないが勝てる相手と戦わせ、自分の強さを再確認させて自信をつけさせたのだ。フェイレンからすると、本業後衛の陰陽術師がなに言ってんだといったところである。

 

「何を気にしてたのか知りませんけど、イリハさんって普通に強いですからね。まず遠隔発勁はワタシより上手いですし、いざ近づいたら無月流で捌かれて、【受け流し】からの嵐極拳でぶっ飛ばされる訳ですから。普通にやってられませんよ。ほら見てください。さっきまでイキッてた近衛騎士さん泣いちゃったじゃないですか。人の心とかないんですか?」

「最近はトリクシィさんみたくなってきましたからね、イリハの発勁。通常攻撃が全部飛ぶ発勁で魔力ロス無しなんですもん」

「ん、イリハは自信持つべき」

「私なんて魔法装填がないと戦えないのよ? 生まれ持った才に恵まれている事も自覚なさいな」

「訓練でアタイをボコッてたの誰だよって話でもあるんだぜ」

 

 実際に、お試しバトルではフェイレンもフェイレンの父も剣術オンリーのイリハによってボコボコにされたのだ。これで自信ないとか、どんな環境で何を目指しているという話だった。

 まぁ、それはそれとして……。

 

「頑張ろうね、フェイレンちゃん」

「ああ。もう一本お願いします、師匠!」

 

 愛する人を守る為、強くなる。

 そんな、草薙の剣の本質に触れ、二人はよりいっそう強い意思を抱く事ができた。

 健全に、頑張ろうと思ったのだ。

 

 

 

 そんなこんな。

 お互い落ち着いたところで、フェイレン達と父は改めて話をする事と相成った。

 思えば、以前は互いに互いの主張をするばかりで、ロクな対話ができていなかった。決闘を終えた今だからこそ、冷静に話せる。

 

「実はな……父さん、初恋が淫魔だったんだ」

 

 そうして語られたのは、これまで知らなかった父の過去だった。

 初恋の淫魔と仲を深め、恋仲になり、一生を添い遂げると誓った。けれど、その約束はあっさりと反故にされた。淫魔の浮気……否、つまみ食いによって。

 同じ味に飽きた。そう言われ、父の初恋相手は去っていったそうだ。吸精は淫魔の性だ。愛があったのも間違いない。けれど、その淫魔にとっての愛は冷めたら放棄をためらわない程度の一過性の性欲でしかなかったのである。

 それ以降、父は淫魔に対して強い忌避感とコンプレックスを抱くようになったという。

 

「あの時は、もう本当に参ったよ。何年も、何十年も苦しんだんだ。フェイレンも、私と同じような目に遭うんじゃないかって思って、あんな思いをするくらいならいっそ……と。本当に独りよがりで、子供の頃に嫌いだった老森人そのものになっていたね」

 

 聞いて、娘は納得してしまった。

 親の心は分からない。けれど、もしフェイレンがそのような経験をしていたら、どうなっていただろうか。もう一度、他人を愛せる事ができただろうか。

 父のように家を継ぎ、たった一人で子供を育てられただろうか。

 

「息子は私に無断で圏外に行ってしまってね。それで、死んでしまった。あの時、大丈夫だろうと思って何もしなかったんだ。もう、私にはフェイレンしか残っていない。だからせめて、娘だけでも安穏無事に……幸せになってほしかった」

 

 娘の眼前には、息子を失った弱い男の姿があった。

 心配性で、過保護な、どこにでもいる普通の父親が。

 この時、フェイレンは生まれて初めて父親の心根を思い知った。

 

「本当に、すまない事をした。お前はもう、立派な戦士だった。そして、メフィスティアさんはお前が選んだ女性なんだな。改めて、謝らせてほしい」

 

 フェイレンとメフィスティアの二人に対し、父は潔く謝罪した。

 父は父なりに、受け継いできた家とフェイレンの幸せの事を考えていた。翻って、フェイレンは自分の事ばかり考えていたのだ。そして、お互い相手の話を聞こうとしなかった。

 ただのすれ違い。そうとしか、言いようがなかった。

 

「こっちこそ、親父が大事にしてるもん悪く言って……すまん」

「淫魔が品性下劣で軽薄な種族なのは本当の事ですから。むしろ、お義父様が警戒なさるのは当然の事だったかと存じます」

「いや、それでもだよ。私は淫魔族だからと、君という個人を見ようとしなかった。どんな理由があれど、未熟な行いだったのは確かだ」

 

 フェイレンもまた、素直に自身の過ちを認め、真摯に謝罪した。

 父の大事なものを蔑ろにしたのだ。相手が誰であれ、怒られても仕方ない。

 そうして、ここからもう一度始めるのだ。

 

「その時々の気分で主張を切り替えるのは魔族なりの長生きの秘訣というのは知っているんだが、私はまだ淫魔族を信用できる種族だとは思えないんだ。国と個、種と人は異なるというのは分かっていても……けれど、娘の事は信頼している。どうか、フェイレンをよろしく頼みます。メフィスティアさん」

「はい。謹んで……」

 

 その日は、三人で過ごした。

 メフィスティアが淫魔料理を作り、父と一緒に食べた。兄のいなくなった家で、家族三人で。

 とても、穏やかな夜だった。

 

 親譲りの性癖で、いつも損ばかりしてきた。

 その日までは。

 

 

 

 

 

 

 春になり、旅立ちの朝がきた。

 アルヴの森の国境には、森人の男女と淫魔の姿があった。フェイレン父娘と、メフィスティアである。

 

「本当に迷宮潜りになるのかい? 圏外よりも危険と言うじゃないか。なるにしても、もっと外で経験を積んでからの方が……」

「それじゃ強くなれねぇの」

 

 背中に巨大な盾を背負ったフェイレンは、杖を持ったメフィスティアと並んで父親と別れの挨拶を交わしていた。

 二人はこれから森を出て、迷宮に潜るのだ。

 

「圏外でも、森でもそうだった。強くなきゃ、好きな人ひとり守れない。だから自分達は最速で強くなんなきゃいけないんだ」

「ご安心ください。勿論、向こう見ずに潜ろうとは考えておりません。イシグロ様にもご助言を頂きましたので。ご安全に、です」

 

 ただ、強くなる為に。幸せになるのは、それからだ。

 茨の道だ。間違いなく苦難が待っているだろう。最悪、死ぬかもしれない。

 それでも、二人は草薙の剣のようになると決めたのだ。

 

「そっか」

 

 父親としては、止めたいのだろう。森で家の仕事をすればいい。安全な暮らしをして、安心させてほしい。

 そうは思っても、大人になった娘を止める程、彼は頑固親父ではなかった。

 

「で、親父はどうすんの。流石に引退?」

「ん? あぁ、実は次の仕事はもう決まってるんだ」

「へ~」

「森に残って弟子を取る事になったよ。教導官というより、少数の狩人を育成する感じで」

「マジか、まぁそうなるよな」

「相手ももう決まってるんだ。止まり木協会の子で、こっち来て学びたいんだってさ」

「マジかよ!?」

 

 なんとびっくり、フェイレンの父は止まり木協会から送られてくる子供達に狩人の技を教える事になったという。

 流石に国防の都合で神樹関連のアレコレは教えられないが、どんな森でも生きていけるよう狩人の技を教えていくそうだ。

 

「大切なのは家ではなく、家が繋いできた心なんだ。私の生きた証は、何処か誰かの鏃に、指に、残り続ける。それはきっと、どんな事があっても不滅で、素晴らしいモノに違いない」

 

 そう語る瞳には、娘によく似た覚悟があった。

 父ももう年だ。今から後妻を迎えたところで、子供が出来るとは考え難い。

 その上で、父は父の道を歩み出したのである。

 

「……行ってくる。あんま酒呑み過ぎんなよ」

「分かってるよ。メフィスティアさんも、また顔を見せてくれると嬉しい」

「はい、お義父様、必ずや、今よりずっと強くなって戻ってきます」

 

 いつまでも出入口にいては、通行の邪魔である。二人は手を繋ぎ、父に背を向けて歩き出した。娘の門出を父が見守っている。

 迷宮潜りは危険な生業だ。もしかしたら、森を出なければよかったと後悔する日が来るかもしれない。その時は、まぁ戻ってくればいい。生きてさえいれば、なんでもいいのだ。

 変わり者同士、きっとうまくいくだろう。

 

 繋がった二人の影は、一つになって歩み出した。

 希望の明日へ。

 

 

 

 後の話である。

 

 冒険者になったフェイレンとメフィスティアは、紆余曲折ありつつも王都アレクシストに辿り着いた。

 そこで、とある銀細工の聖女に勧誘され、羊人美女が頭目を務める一党に参加する事となる。

 四人で固定化していた一党に、防御と魔法に秀でる二人が参加したのだ。フルメンバーになった事で、件の一党の戦力は盤石になった。

 

 やがて銀細工になったフェイレンは、代名詞となった金剛鉄の大盾を手に、仲間だけでなく多くの人々を守れる存在になっていった。

 メフィスティアはそんな彼女を支え、信頼できる仲間と共に更なる成長を遂げた。

 そして、王都を離れて旅に出たその一党は、様々な困難を乗り越え、新たな英雄譚を紡いでいく事となるのだが。

 それはまた、別のお話である。

 

 

 

 

 

 

「どうしたのフェイレンちゃん? また初夜の時みたいにブルブル震えて、なに読んでるの?」

「えっ、あぁ……親父から手紙が来たんだが……」

 

 更なる余談である。

 例の決闘からそれなりの月日が流れた頃、アルヴの森から手紙が届いた。

 

「親父、再婚したってよ」

「えぇっ!? で、でもかなりの御歳だったんじゃ……?」

「うん、まぁ実際そうなんだが……」

 

 相手は止まり木協会に拾われた元孤児現弟子の獣人少女だった。

 曰く、顔合わせして即想いを告げられ、断ってからも熱烈に迫られたらしい。最終的には絆されて、よくよく話し合った結果、森人基準でもめちゃくちゃな年の差婚をしたのである、と。

 

『いやぁ~、あとは森に還るだけだと悟ったつもりでいたけれど、人生長生きはしてみるもんだなぁ! あはははは!』

「なんだろうな、今自分めちゃくちゃ親父殴りてぇよ……」

「まぁまぁ、終わりよければ全て良しですよ。それに見てください。赤ちゃんってこんなに可愛いんですね~♡」

 

 あまつさえ、結婚してすぐ子供を作っていた。しかも森人と獣人の双子である。

 フェイレン視点、死ぬ気で挑んだあの決闘はなんだったんだって話だった。

 

 神樹、天にいまし。

 すべて世はこともなし。

 アルヴの森は、今日も平和だった。




◆ロリ・カニーナの登場人物◆

・フェイレン
 森人少女。容姿の描写をするのを忘れたので、見た目のイメージはご自由に。
 親譲りの魔力フェチで、女の子が好きというより好きな魔力の子が女の子なパターン。
 世にも珍しい四つの異能持ち。一つは装備重量ペナルティ無視の異能。二つ目は両手持ち時の武器適性値上昇。三つ目は盾によるガード値上昇。四つ目は感情の爆発をトリガーとする一時的な魔力無限状態。最後のは強いけど使い勝手の悪いロマン技。
 メフィスティアと一緒に冒険者になった後は羊人美女カリッセの一党に加入し、世にも珍しい純粋タンクとして活躍。騎士スキルでヘイトを管理し、武闘家スキルで素早く移動し、盾を投げたりぶつけたりして戦う。
 なお、迷宮の狂気は全てメフィスティアへの愛情に変換されている為、実質的に無毒化している。

・メフィスティア。
 百合淫魔。容姿描写をしなかったので見た目のイメージはご自由に。
 最近生まれた乳食系小淫魔。生まれつき男性に対する興味がなく、吸精の欲求もない異端児。淫魔学校を首席で合格し、そのまま旅券を取得して各地を旅していた。旅の中ではそれなりの淫魔差別を経験し、軽度の男性恐怖症になった。
 フェイレンに会った後は彼女と恋仲になり、色々あって冒険者になる。ヘカテに教えてもらった事で多くの魔術を習得。得意魔法は支援魔法と妨害魔法。イシグロの射撃魔法を習得し、【魔力の礫】による単発狙撃が使える。
 将来はお金を溜めてラリス大学に入りたい模様。迷宮の狂気はフェイレンへの愛情に変換されており、こちらも無毒化に成功している。

・フェイレン父
 老森人。見た目は若いが、人間換算で七十後半くらいの老人。
 初恋だった淫魔に捨てられて以降、淫魔に対して強い嫌悪感を持つようになる。転じてちゃらんぽらんな魔族全体への差別意識に繋がった。
 フェイレンが尖兵戦へ向かった後、兄は誰にも告げず圏外へ向かった。結果として兄は帰らず、引き止めなかったことを後悔している。。
 色々あって止まり木から来た教え子と再婚。最近は長生きの為に酒を止めた。



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