【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、いつもありがとうございます。創作の励みになっております。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 一人称、イシグロ視点です。
 よろしくお願いします。


淫マ記念

 秋の初めにハネムーンに出発し、季節はすっかり冬である。

 異世界の冬は何処へ行っても寒い。どれだけ距離が離れた土地であっても、暦が冬になったらラリスもリンジュも冬になるのだ。

 それは淫魔王国も同様で、久しぶりに来た淫都ケフィアムもまた白濁の雪に覆われていた。

 の、だが……。

 

「ここがケフィアム……だと?」

 

 街のあちこちにうっすらと雪が積もっている。それはいい。

 春に満開だった花が息をひそめている。それもいい。

 男根噴水が撤去され、普通の噴水になっている。それも、別にいい。

 ただ、住人達の様子が変化……否、豹変していたのである。

 

「ごきげんよう、お姉様。今日もバッシバシのまつ毛がバチクソにキマッてましてよ!」

「そういう貴女こそ胸で服が張り裂けそうでヒトオス収集スイッチがオンになっていますわ!」

「まっ! 殿方をヒトオスだなんてお下品ですことよ! ご存分にご反省なさって?」

「あらまぁごめぇあそぁせ!」

「「「おほほほほほほほほほっ!」」」

 

 淫魔が変だ。

 いやいつも変だろというツッコミは置いておいて、ともかく久々に訪れたケフィアムにいつもの淫魔がいなかったのだ。具体的にはスケベ要素が抜かれているのである。

 まず、ファッションが露出度低めのネザーレ民めいたお上品コーデだし、谷間丸出しレザー淫魔がいないのには凄まじい違和感。あまつさえ会話もお上品? だった。なんたって誰も放送禁止用語を言ってないし、猥談一つしてないのだ。

 もっと言うと、誰もスケベな事をしていないのである。はっきり言おう。誰も野外吸精行為をしていないのである。

 

「申し訳ございません。現在は淫波マッサージも淫魔風呂もおっぱいルーレットもご利用できません。あんなの淫魔の品性を貶めてますわと言って、スタッフがストラ絶頂(イキ)を……」

 

 変化があったのは街だけではなかった。俺達が宿泊するホテル乳鮑も、街の淫魔同様に健全化していたのだ。

 ホテル従業員さんもかっちりしたベスト・スカート姿で実に清楚でいらっしゃる。お土産コーナーに並んでる商品も淫魔王国から淫魔要素を抜いたような土産ばかりだった。

 もしかして、別の国に来てしまったのか? そう疑っちゃうくらい、かつての淫国と今の淫国が違っていたのである。

 

「そうですのよ。然る御方がケフィアムにいらして以降、国中の淫魔がこんな風になりましたの。厳密に言うと、結婚式による純愛潮流に乗っかった感じで」

 

 と、その旨をホテルのレストランで再会したグレモリアさん――ルクスリリアの幼馴染淫魔――にお話しすると、いつもと同じ格好の彼女はそのように答えた。

 曰く、俺を発端とした結婚&純愛ブームと時を同じくして現れた大スターが「結婚したけりゃ清楚たれ」という感じの教えを広め、今の淫魔淑女化に繋がったという。

 なるほど、これまで吸精を求めていた淫魔が結婚を求めた結果としての淑女化なのか。

 

「……ってな具合で、世はまさに大淑女時代なのですわ。野外吸精なんて以ての外。まして積極的なボーイハントや卑猥なお喋りなんかも淫魔ナー違反として白濁視されてしまってますの。あの御方曰く、淫魔の思うカワイイと漢の好むカワイイは別である、と」

「はあ。つかグレモリアはいつも通り淫魔ファッションなんスね。流行に乗り遅れた感じスか」

「な~にを言ってケツかるのかしら? わたくしは一切繕わなくともパーペキな淑女ですもの! スタイルを変えるなんてとんでもない!」

「まぁ良い流れではあるんじゃないですか? このまま行けば誰が見ても恥ずかしくない国になってくでしょうし」

「えぇ、まぁそれは……そうなのですが」

 

 という風に言ってみたものの、続くグレモリアさんの言葉は歯切れが悪かった。

 件の淑女ブームについて、なにか思うところがあるのかもしれない。まぁそれこそ俺には関係のない話なので突っ込むべきではないだろう。

 

「う~ん、にしてもこの料理美味いな……」

「どこかで食べた事ある味じゃのぅ」

「いや待ってください。この優しい舌触りは……」

 

 なんて思いながら美味しいコース料理に舌鼓を打っていると、口の中で宝石箱が開かれた。

 美味い。そして、身体に染みる。これはまるでイリハの手料理を食べた時のような、ユゥリンのお粥を食べた時のような。

 俺はこの料理の作り手を知っている。まさか、ヤツ……?

 

「あらあら! さっすがイシグロ様! よくお気付きになられましたわね! 入ってきてよろしいですわよ~! カモ~ン!」

「兄ちゃん!」

 

 グレモリアさんが合図を出すと、厨房から一人の女の子が飛び出てきた。

 赤のメッシュが入った灰髪に、大きなモフモフ三角耳。コック姿の褐色少女だ。

 誰あろう、我が妹・リュドミーラだ。

 

「ミラ! 大きくなったなぁ!」

「久しぶりなのだ~!」

 

 テテテッと寄ってきた彼女を、俺は立ち上がって抱きしめた。

 数度くるくる回って下ろすと、彼女は太陽のような笑顔を見せてくれた。いい笑顔です。

 

「久しぶりだなミラ! 元気してたか? 学校はどうだ? 友達できたか? てゆーかどうして淫魔王国に?」

「めちゃ元気なのだ! 友達もいっぱいなのだ! ここには淫魔料理の修行に来たんだぞ!」

「そうかそうか! よーしよしよしよしよしよしよし! 偉いなぁミラは!」

「えへへ! もっと撫でるのだ!」

 

 リュドミーラ・ファーリ。戦友であるナターリアさんの娘で、今はラリス大学の食学科に通っている。

 久しぶりに会った妹はめちゃくちゃ成長していた。もう俺と殆ど目線同じである。妹が大きくなって俺嬉しいよ。

 

「そうそう。紹介しよう。ヘカテ。鬣犬族の現族長の妹で、前族長の娘のリュドミーラだ」

「兄ちゃんの新しいお嫁さんなのだ? よろしく頼むぞ!」

「ご丁寧にどうも。よろしゅうな、ミラちゃん」

「あと俺の妹でもある」

「そーかそーか……ん? 待って、どゆこと?」

「ミラちゃーん、そろそろ戻ってらっしゃーい」

「呼ばれてるから戻るのだ! あと兄ちゃん、今夜部屋に遊びに行ってもいいか?」

「いいぞ。ミラの話を聞かせてくれ」

 

 混乱するヘカテを置いて、シェフに呼ばれたミラが厨房に戻っていく。

 パッと現れパパッと戻る姿からして、立派に成長こそすれ天真爛漫な性格は変わっていないように見える。天然で同級生の男子を勘違いさせてそうだ。

 

「結婚ブームとか淑女ブームとか、ミラさんの事もそうですし、まぁ淫魔王国も色々と変化しているのですわ」

 

 食事も終わり、グレモリアさんは「次の仕事がありますの」と言い残してレストランを後にした。

 最近の彼女は淫魔王国での仕事に集中しており、とても忙しくしているらしい。

 

 そんな感じで、淑女化した淫魔王国の一日目は過ぎていくのであった。

 グレモリアさんの言う通り、淑女化っつっても単なる流行りか時代の流れってやつだろう。俺が危惧すべき懸案ではない。

 その時はまだ、俺はそう思っていた。

 

 

 

 ホテルの部屋でミラと楽しい夜を過ごした翌日である。向こうのお迎えでケフィアム城に登城した俺達は、予定通り淫魔女王と謁見した。

 元々、淫魔王国にはエリーゼとレノの定期健診の為に来たのである。この検診は淫魔女王のみが行える特別プランで、以前の夢魔討伐のご褒美である。

 具体的に何を診てもらうかというと、エリーゼは解呪の経過。レノはジュスティーヌ様に治してもらった各種内臓器官である。

 要するに、妊娠機能の検診だ。

 

「はぁいお疲れ様。二人とも異常なし。いつでも赤ちゃん作れるわよ~」

「ん、それもこれも陛下とジュスティーヌ様のおかげ。ありがとう」

「楽しみね。アナタもそう思わない?」

 

 検診の結果、二人の予後は良好だった。

 エリーゼもレノもいつでも妊娠オッケーな状態なのである。二人共、経緯が経緯で出自が出自だ。お医者さんに太鼓判を押された事で、安心を得られたようである。

 

「イシグロ君の後に続いてね、他にも純淫魔が何人か増えたのよ。最近だとトリクシィ君とヴィーネちゃんもなったし、そろそろ交流会で噂になってた双子ちゃんもなるんじゃないかなって。イシグロ君の知り合いなのよね?」

 

 で、その後は淫魔女王と会食となった。

 どうやら、グレモリアさんの言ってた結婚及び淑女ブームはマジで起こっている事らしく、昨今は一回の吸精ではなく一生の吸精を望む声が多くなっているそうだ。

 また、俺の後も新たな純淫魔が誕生しているようで、純淫魔関係のデータも集まってきているらしい。で、歴代純淫魔は皆さん幸せいっぱいのご様子なので、我もまた純淫魔たらんと結婚の為に淑女化する流れになっているのだ、と。

 

「まぁでも、結婚に前向きになってるのはいいけれど、最近ちょっときな臭い感じなのよねぇ」

 

 淫魔に愛をと希求している陛下にとって淑女化路線は良い流れなのではないか? そう思うのだが、当の陛下は悩ましげに巨大な胸を揺らしていた。

 

「と、言いますと?」

「結婚したがってる淫魔ちゃんがね? 悪い男に貢いじゃってるみたいなの。男女の事だし、まぁ多少ならオッケーだったんだけど、ちょ~っと怪しくなってきたな~って」

「貢ぐ、ですか?」

 

 続く陛下の話をまとめると、こうだ。

 ここ最近、結婚願望の強い淫魔を狙った詐欺が横行しているらしい。男慣れしてない淫魔の結婚願望につけ込み、イケメンの詐欺師があの手この手で金を騙し取り、最終的に逃げるという手口だ。

 要するに、現代日本にもあった結婚詐欺である。

 

「はぁあああ!? なんじゃそれぇ? モテない淫魔の純情を踏みにじるとかマジ許せねぇッス! ケツの穴に剣ぶちこんで奥歯ガタガタ言わしたる!」

「確かにボクもムカムカしますけど、ルクスリリアがこうも感情的になるの珍しいですね」

「これに関してはこっちで色々やってるから、近いうちに解決する見込みなんだけどね。だから、もしルクスリリアちゃんのお友達が引っかかりそうになった時は助けてあげて?」

「承知しましたッス!」

 

 これについては、既に王国側で対策を打っているようだ。相談というより注意喚起である。

 つっても、俺の身内にそんな分かりやすい詐欺に引っかかる人はいないはず……。

 

「リリィ♡ お母さん、結婚する事になったの~♡」

「「「引っかかってるー!」」」

 

 ルクスリリアの母、ラグニアさんがバチクソ引っかかっていた。

 ヘカテを紹介すべくリリィの実家に行った結果がコレである。見れば彼女も淑女化しており、常のレザー衣装ではなく欧州の田舎娘みたいな素朴な恰好をしていた。

 

「リリィが結婚したの見て、羨ましいな~って思って♡ あーしも旦那欲しいな~って思って♡ それでガチで頑張ろうと思って~♡ ついに結果が出た感じ♡ きゃは♡」

「だ、だから、そんな恰好を……?」

「そうなの! 清楚コーデに変えたら速攻出会いあって~♡ これ~、前仲良くなった人に男を堕とす方法とか色々教わって~♡ 最近流行ってんのよ~?」

「は、はあ」

「で、これがあーしの相手♡ どう? めちゃイケメンっしょ?」

 

 そうやって見せてきた紙には、如何にも異世界女子が好きそうな濃いめイケメン君のイラストが描かれていた。

 

「あ、会った事はあるんスよね? 流石に」

「当たり前じゃん♡ 清楚コーデでケフィアム行った時に声かけられて~♡ したらもうめっちゃ好みのイケメン君で♡ しかも向こうも運命の相手って言ってくれて~♡」

「「「うわぁ……」」」

「そ、そうですか。え~、名前はアレックス。王都生まれ王都育ち。職業は……舞台役者? 稽古に必要な資金を稼ぐ為に色んな仕事を掛け持ちしている、と」

「そうそう♡ アレックス君すっごい努力家なの♡ 話聞くだけでマジ泣けてきて~♡」

「「「うわぁ~」」」

「イシグロ君ほどじゃないけど豪華な結婚式するから♡ その為に貯金全部使う予定なんだ♡」

「「「うわぁあああああ!」」」

 

 トリプル役満&スリーアウトチェンジである。

 あまりにもあんまりな母の状況に、実の娘であるルクスリリアは頭を抱えていた。他の皆も各々微妙な表情を浮かべている。

 他方、お義母さんはほわほわしていた。今が幸せの絶頂って感じ。どうしよう、これ指摘してもいいのかな。でも本当の本当に彼が良い子って可能性もゼロではないだろうし……。

 

「絶対それ詐欺ッスよ! いい加減に目ぇ覚ますッス!」

 

 と思ったら、娘が直球を投げた。対し、バッターラグニアは平然とスルー。

 

「そんな事ないって~♡ 協会の人もアレックス君は真面目で誠実な男の子って言ってたもん♡」

「きょ、協会ッスか……?」

「“懸け橋協会”って言って、そこの人に手紙とかお金とか渡せばすぐアレックス君に届けてくれてやり取りできるんだ~♡ マジありがとーって感じで~♡」

「おぉう……」

 

 なんかまた怪しい組織が出てきたゾ。しかもこれ、鑑みるに組織的犯罪じゃないの。

 あー、これはもうアカンわ。実際のところはともかく、一度件の組織を調査する必要があるだろう。

 と、その前に……。

 

「なるほど、何より先に連絡してきたのは賢明ですわね。その協会は騎士団でもマークしていたガチ詐欺組織で、近いうちぶっ潰す予定でしたの」

「ぶっ潰すとは?」

「物理的にですわ!」

 

 かくかくしかじか。ルクスリリア母の身に起きた事をグレモリアさんにお伝えすると、彼女からは力強い御返事がきた。

 話し合いの結果、もう他人事ではなくなったので俺達も詐欺グループ潰しに参加させてもらう運びに。恐らくメイビー無いとは思うが、もし相手が銀細工級の護衛を雇っていた時の為の備えとして。

 

「よりにもよって、まさかオカンがこんなしょーもない詐欺にあうとは……はあ~」

「恋をして賢くいるなんて不可能なのよ。私達もそうでしょう?」

「追い詰められると正常な判断できなくなりますからね~。結婚云々はともかく、ワタシとしてもあんまり他人事じゃないというか」

 

 世に悪事の種は尽きまじといったところ。

 その後、俺達は件の詐欺グループについて情報を共有させてもらった。

 どうやら、ラグニアさん以外にも同様の被害が出ているようで、調査の結果もう完全に黒で確定らしい。

 また、小賢しくも懸け橋何某はケフィアム内にいくつも宿を借りており、そこを詐欺師が行き来しているのも判明している。あまつさえ軽い変装までしている始末。構成員の人数が合わないのは荷物として潜入している人がいるからだ。

 

「レノ、さっき見た文書の内容を書いていってくれ」

「ん、了解。輸送ルートから手紙の内容から全部書き出す」

 

 そんな訳で詐欺グループの拠点に潜入し、証拠の書類をレノの瞬間記憶でメモってもらった。

 また、結婚詐欺対策チームの士気たるや凄まじく、さながらホシを前にした剛腕敏腕刑事といった様相だった。あるいは敵対中の組にカチコミ仕掛ける前のヤーさんか。

 

「隊長~! 早く行かせてくださいよ~! 今すぐ奴等の血を見ねぇと変になっちまいそうだぁ!」

「よくも哀れな淫魔の希望を潰してくれたな! 許せん!」

「殺す殺す殺す殺すころかす犯す犯す犯す犯す犯す……!」

 

 淫行矢の如し。時は進んでガサ入れ当日。俺達は結婚詐欺グループが集まっている宿の前に来ていた。

 調査の結果、ここに詐欺グループのリーダーがいるらしく、実際最も防備が厳重である。そこに今から突っ込んで捕縛する作戦だ。

 ちなみに、本作戦は同日に複数箇所で開始されるので、俺とルクスリリア以外は他チームの援護に向かってもらっている。

 

「開けろ! 淫魔騎士団だ! 貴様等には数えるのも億劫になる程の容疑がかけられている! 三秒後に開けねば強引にいくぞ! いちにーさん! はい突撃ぃいいいい!」

「「「タマ取ったらぁあああああ!」」」

 

 未だ人権の概念が存在しない故、異世界の犯罪捜査は極めて強引である。血気盛んな淫魔騎士達は敵陣に特攻する鎌倉武士のように突っ込んでいった。

 マル暴淫魔に続き、俺とルクスリリアも事務所に入る。奇しくも中にはラグニアさんが持っていた肖像画のイケメン君の姿もあった。犯罪集団というか、限界ホストというか、なんとなく半グレの若者といった雰囲気だ。

 

「こうなったら! 先生、お願いします!」

「うむ、ようやく仕事の時間か。ずっと狭い部屋で待たされていたからな。退屈しておったのだ」

 

 構成員が次々と淫魔騎士に捕縛されていく中、リーダーらしき人物が奥の方に声をかける。すると、凄腕っぽい剣士が扉を開けてエントリーしてきた。

 リンジュの着物に道中合羽。腰に大小二本の刀を佩いている。その姿に、俺は見覚えがあった。

 

「あれ? ジンエモンさんじゃないですか?」

「むむっ。お主はドッ……いやイシグロ殿ではないか。何故ここに?」

「そっちこそ何故こんな奴等に協力を? 犯罪者ですよ、そいつ等」

「あーいや、酒場で呑んでいたら護衛の仕事を頼まれてな。なんだ、また某は小悪党の企みに巻き込まれたのか。これで何度目という話だ……」

 

 彼の名はジンエモン。初めて会ったのはリンジュの飲食店。二回目は王都で軽く試合をし、三回目は尖兵戦のカッサ砦で共闘した。

 

「今なら間に合います。投降してください」

 

 友達でも仲間でもライバルでもないが、なにかと縁のある剣客だ。可能なら戦いたくはない。

 そう思って説得を試みるも、彼は銀細工らしい狂気の笑みを浮かべてみせた。

 

「否、断じて否ッ! しかして僥倖、推して参ってまかり通る! なにせ、イシグロ殿と戦えるまたとない機会なのだからな! ではでは早速、いざ尋常に……」

「じゃかしゃあボケがぁ!」

「フゴォオオオ!?」

 

 瞬間である。刀の鯉口を切ろうとした侍に、ステルス接近したルクスリリアが短剣によるバックスタブをぶちかました。

 

「きさっ、貴様♡ 某とイシグロ殿の戦いを邪魔するでない♡ しかも卑怯にも毒を使うなど♡ あひぃん♡ 菊門にヤクが効くもん♡」

「今だ捕縛しろ!」

「「「往生せいやぁあああああ!」」」

 

 こういう時の為に、彼女の短剣には超強力媚薬が塗ってあるのだ。強制発情させられたジンエモン氏は、大事な刀を取り上げられた後に淫魔流捕縛術で拘束された。

 そして、用心棒が役立たずになった事で他の面々も捕まっていく。パッと見で半グレと見て取った俺の勘は正しかったようで、彼等に魔王軍残党のような本職の武力はなく、抵抗一つさせてもらえていなかった。

 

「逃がさないネ! 大人しくするアルよ! 淫国二千年の歴史、下の口で思い知るアル!」

「ひえええええ! お助けぇえええ! お薬はやめヒィイイイン♡」

「「「乱パ、犯す♡」」」

「捕縛しろと言っとるだろうが馬鹿者共がぁあああ!」

 

 そうして、結婚詐欺グループは呆気なく捕まったのである。

 他拠点も同様で、運よく逃げおおせたメンバーもグーラの鼻とレノの目から逃げ切ること能わず、執拗な追跡の後に全員逮捕されたそうだ。

 問題発覚から事件解決まで、刑事ドラマだったらCM前で終わってるスピード感である

 いや凄いね、異世界の治安維持機構は。

 

 

 

 

 

 

「もぉ~なんなのいきなり~? あーし明日アレックス君とデートだから予習復習しなきゃなんだけど~」

「いいから来るッス!」

「すみません。ですが大切な事なので……」

 

 後日の事である。

 淑女フォームのルクスリリア母を連れだした俺とルクスリリアは、淫魔王国の競馬場にやってきた。

 ちなみに、ルクスリリア以外の妻達はラグニアさんの牧場の手伝いに行っている。気分的には牧場体験だ。

 

「え? え? なんかのフェス? 馬の競りでも始まんの?」

 

 夫婦と義母で競馬場に入って観客席に着くと、そこにはラグニアさんと同じように淑女淫魔が集められていた。

 彼女達の視線の先……パドックには、何故かお立ち台があった。さながら断頭台のような、あるいは絞首台のような。

 ややもあり、出入口から拘束された半グレ達が歩いてきた。彼等の登場に、観客席のざわめきが大きくなる。

 

「う、うそ! なんであそこにアレックス君が……?」

 

 その中には、ラグニアさんと将来を誓ったはずのイケメン君の姿もあった。彼は肖像画通りの顔を真っ青にして歩かされている。

 そして、彼等は処刑台の上に並ばされ、その近くに大鎌を持った淫魔騎士が堂々ガイナ立ち。また、お立ち台の外にはグレモリアさんやラリス王国の文官も立っていた。

 

「親愛なる王国民よ! よく集まってくれた! 君達に来てもらったのは、これからこの者等の罪を暴くのに、見届け人となってもらう為である!」

 

 淫魔騎士の張りのある声が響くと、アダルトグッズみたいな口枷を噛まされている罪人達がむーむーと唸り始めた。

 けれども騎士が一回ガンをつけると、彼等はびくりと大人しくなった。

 

「懸け橋協会……諸君も聞いた事があるだろう! この者等は我が国民に対し、恋愛感情を利用して金銭を騙し取った容疑がかけられている! 思い当たる者はいるか!」

 

 ただでさえ顔色の悪かった罪人の顔が更に青ざめていく。対し、淫魔達の顔には未だ困惑の色が濃い。

 そう、困惑だ。怒りに支配されるでもなく嘆くでもない。彼女等は乳食系淫魔で、淫魔にしては珍しく心底から大人しい性分なのだ。

 

「まさかと思うだろう。そんな馬鹿なと、我々を疑う気持ちも分かる。故にこの場を用意したのだ。おい、上の口枷を外せ」

 

 淫魔騎士が命じ、淫魔兵に罪人のボールギャグを外させる。初めに口を解放された男は、半グレのリーダー的存在だった。

 

「発言を許す。ここに集まった淫魔達に何か言いたい事があるなら言うがよい」

「み、皆さん、この人達は嘘を吐いています! 我々は真摯に淫魔族と人間族の架け橋になって参りました! これは陰謀です! 我々は無実でございます!」

 

 やつれた顔のリーダーは、必死の形相で弁明していた。彼の視線の先を辿れば、なおも困惑している小柄な淫魔がいる。

 それから次々と拘束を外され、半グレ達はその都度淫魔に声をかけていた。

 

「そうだ! どうか信じてくれフルールさん! 僕の目を見て! これが嘘吐きの目だと思うかい!」

「あの日誓った事を忘れはしない! え~っと、そうだアガレーさん!」

「ラグニアさん! これが終わったらすぐ結婚しよう! だから助けてくれ!」

 

 イケメン君ことアレックス氏も、他と同じようにラグニアさんに声をかけていた。動揺するラグニアさんの手を、ルクスリリアが強く握る。

 

「そ、そもそも何を証拠にこんな事を! あまりにも横暴だ! 然るべきところに訴えて、ラリスの法で裁いてやる!」

「証拠ならあるし、これから作るのだ」

「な、なにを……」

 

 リーダーの発言に次いで、淫魔兵から被害者淫魔達に紙が配られる。

 その紙には、それぞれにレノが書き写した手紙の内容が書かれており、ついでに詐欺の証拠となる文書が添付されていた。

 

「そんな、これ私達のやり取りそのまま……」

「ちょっと待って全部字が同じじゃない! どういうこと? 印字機の文字ってこと?」

「ほ、本当にあの人が書いてくれていたの? もしかして別人とかじゃ、ないよね……」

 

 内容を読んだ淫魔達はようやく事態の深刻さを呑み込めたようで、各々感情を出していた。

 怒りより悲しみの比率が多く見受けられるのは、乳食系の乳食系たる所以だろう。

 

「しかし、これだけでは証拠としては不十分だろう。続きは下の口に訊くとしようか」

 

 言って、処刑人と化した淫魔騎士さんは胸元から謎のアイテムを取り出してみせた。

 それは、ヒョウタン形をしていた。大きさは手に収まるくらいで、表面は柔らかそうな素材で出来ている。キラリと尖った先端が日光を反射した。

 

「自白濁剤だ。中には我々が開発した上の口が正直になる薬と、即効性の媚薬が入っている。貴様等が潔白であるなら、なんの問題もあるまい?」

「何を、まさかそれを入れる気か? 公衆の面前で? 正気かお前……!?」

 

 つまるところ、お尻に入れるお薬である。尖ってるところを尻に刺し、中身を注入するのである。

 

「挿れろ」

「おいやめ! 皆、ケツに力入れろぉおおお!」

「お前初めてかここは? 力抜けよ」

「「「おほぉおおおおお♡」」」

 

 ブスリ♂

 なんの容赦も慣らしもなく、一人につき一人の淫魔が半グレのケツに座薬を注入していった。

 不慣れな半グレとは対照的に、手にローションを付けて馴染ませている淫魔達には職人的熟練が感じられる。

 

「「「おお♡」」」

「なにが“おお”だよ」

「あ、アレックス君の出口が入口に……!」

「マジで何見せられてんスかね。アタシもう帰りてぇッス……」

 

 しかも、半グレを含めた皆さんは尻穴(シリアス)な顔をしていらっしゃるので茶化せない。笑っちゃダメな空気の時って、却って笑いそうになるから大変だ。

 

「お♡ お♡ おぉぉぉ……♡」

 

 エネルギー充填百二十パーセント。限界まで座薬を注入された半グレ達は、一様に顔を赤くしていた。

 羞恥によるものか? それもあろうが、あれは座薬による催淫効果だ。中には既にテントを張っている半グレもいて、心底エリーゼ達を連れてこなくて正解だと思った。

 

「答えろ。お前は誰で、何者だ」

「くっ、こんな薬で俺の自制心を崩せると……お、俺の名前はキピオ♡ 元パース協会の奴隷部門♡ アイゼン支店長……だ♡ ぐぁあああ♡」

 

 そして、淫魔騎士が一人一人に質問していく。それは事件とは関係ない問いから始まり、少しずつ詐欺についての質問に変わっていった。

 

「貴様、名と所属を答えろ。そして、今は何をしている」

「名はライアン♡ 元アレックス一座所属♡ 追い出された後、今はバカな年増女を騙して金を巻き上げてる♡」

「あ、アレックス君? そんなウソじゃん……だってアレックス君は、あーしのこと愛してるって言って……結婚だって約束して……」

 

 やがてラグニアさんを騙していたイケメン君の番になると、彼は偽名を名乗った。はい、クズ確定。

 

「何故こんな事をした? 言え」

「い、今の淫魔王国は結婚願望の強いチョロい淫魔ばっかだってんで♡ ひと儲けできそうだったからやっただけだ♡ 淫魔っぽくない恰好の淫魔狙って小銭稼ぎ♡ でもいいだろ♡ 淫魔とかいうクソ劣等種が♡ 一時でも良い夢ぇ見れたんだからな♡ むしろ感謝してほしいくらいだぜ♡」

 

 そのまま次々と詐欺グループの嘘が暴かれていく。詐欺の手口から動機から何から。

 これには淫魔達もショックだったようで、中にはボロボロと泣き崩れる女性もいた。

 

「貴様等は、彼女を愛しているのか」

 

 やがて、感情を見せない淫魔騎士が半グレ全体に問うと、彼等は顔を真っ赤にして……。

 

「ぶっちゃけどうでもいい♡」

「んな訳ねーだろ♡ ちょっとでも歴史知ってたら、淫魔なんざ迫害されて当然のゴミ種族だって分かんだからな♡ 淫魔なんざ俺等ラリス人の養分になってりゃいいんだよ♡」

「淫魔は大好きだぜ♡ なんせアホでチョロくて能天気で♡ 騙されやすいからなぁ♡」

 

 皆、本当に正直に答えていた。

 さっきまでの発言からして、そこに嘘があるとは考えにくい。

 対する淫魔達は感情の上限に達したと見え、何人かは負の感情が振り切れて淫魔兵に取り押さえられていた。ラグニアさんは呆然としている。

 

「こ、これは洗脳だ! 自白剤を使った証言など違法だろう! 不正だ! そうだろ、そこのラリス女!」

「いいえ、彼女等の行いには一切の不正はございません」

 

 やがて半グレの一人が叫ぶと、これについてはラリスの文官が答えた。

 確かに、淫魔族には男性特効の催眠能力がある。言わせたい事を言わせるよう催眠したという指摘は真っ当だと思う。

 だからこそ、こういうのには厳密に定められたルールがあるのだろう。そして、今回は一切の不正はなかった。

 

「静まれぃ!」

 

 淫魔騎士が一喝し、騒ぐ半グレと淫魔を静かにさせる。

 全員の注目が集まったところで、淫魔騎士は唐突に見得を切ってみせた。何故か周囲に桜の花が舞い散る。

 

「恋情を弄び、甘言をもって心を惑わせ、あたかも真の愛あるが如く振る舞い、あろうことか金子を巻き上げた! 淫魔の恋心を食い物にしたその所業、まこと許しがたし! よって、この日この時この場で! その者等に沙汰を下し! 刑を施す!」

 

 ダン! 謎の桜吹雪――幻影魔術だ――を舞い上げた淫魔騎士は、外連味たっぷりにお立ち台へと大鎌の石突きを叩きつけた。

 そして、厳かに口を開く。

 

「この者等、淫魔刑に処す!」

 

 ざわ……♡ ざわざわ……♡

 淫魔騎士が刑の執行を宣言した瞬間、その場にいた淫魔達の様子が変化した。負の感情でいっぱいだった彼女達のざわめきに、ハートマークが付いたのだ。

 流れ変わったな。

 

「馬鹿な! 淫魔刑など、魔王戦争の後に廃止されたはず!」

「はい、ご指摘の通りです。しかしながら、ラリス王の承認を経て淫魔王国の法は改正され、現在では国内の淫魔に対して害を与えた罪人に限り、現代の価値観に即した淫魔刑が適用されることとなっております」

「なん……だと……」

 

 半グレリーダーの叫びに、冷静な文官が返答する。まぁ淫魔刑が何なのかを俺は知らないが。

 

「ほう、淫魔刑ッスか」

「知っているのかルクスリリア」

「歴史の授業で習ったッス。二代目女王の時に実際にあった刑らしいッスね。まさか失われた淫魔刑が復活するとは、陛下はラリス王にどんだけ譲歩を……いや、これは今まで頑張ってきた陛下へのご褒美みたいな感じッスかね」

 

 見ていると、お立ち台を下ろされた罪人達はパドックを離れ、やがてゲート前のターフに集められた。

 そして、半グレ達はゲートの中に押し込まれ、その後ろにはいつの間にか被害者淫魔がクラウチングスタートの姿勢で並んだ。

 この段階で、俺は淫魔刑の内容を察してしまった。

 

「馬場は良。晴れ渡る空にギン目の淫魔が集います。二千年の時を超え、今こそ蘇ります淫魔刑。今回は記念すべき第一回、伝統あるレース式で執行されます。さぁ最後の種馬がゲートに入りまして、スタート!」

 

 ラッパの演奏が鳴り響き、冬のターフに半グレが集う。ややもせずにゲートが開くと、半グレ達は必死の形相で駆け出した。

 後方から差し追込(意味深)の淫魔が追い掛ける。半グレ達は全員大逃げ。ハナに立ったのはリーダーだが、運動不足かすぐ垂れ始めた。

 

「「「お~い♡ 待て待て~♡」」」

「「「ひぃいいいいいい!」」」

 

 淫魔達は各々、八方睨みしたり魅惑の囁きをしたり悩殺術をかましたりで狩りを楽しんでいた。

 あんなに大人しく淑女淑女していた淫魔達が、吸精オールフリーとなったらこの始末。今回に関しては、さもありなんといったところ。

 

「要するに、捕まったら吸精されるっつーやつッス。ほらあそこ、さっそく吸われてるッスよ」

 

 走りに走って暫く後、半グレの一人が絞られていた。

 一人が吸精を始めたら、二人目三人目も獲物を捕らえて吸い始める。中には足の速い半グレもいたのだが、催淫座薬で前が突っ張ってたせいで上手く走れず捕まっていた。

 

「バカ野郎! そこは入り口じゃねぇええ! あひぃいいい♡」

「でも手紙では開発してるって言ってましたぁああああ! もう我慢できませぇええええん!」

「きゃはは♡ イリンくぅ~ん♡ 私の為なら死んでくれるって言ったよねぇえええ♡」

「やめろぉおおお! 死にたくない! 死にたくなぁあああい!」

「赤ちゃんになってくれるんでちゅよねぇえええええ!? ハイチャンバブーって鳴けよオラァン!? お手製のおしゃぶりをしゃぶれぇ!」

「チャアアアアアアアアン!」

 

 普段は競走馬が走っているターフは、今や種馬による強制種付け会場と化していた。

 目には目を、淫魔には淫魔を。これでいいのかと思わなくもないが、これでいいのだろう。知らんけど。

 

「「「淫色ぅ……ナイトメアーッ!」」」

「「「堕・と・せ! 堕・と・せ! 堕・と・せ! 堕・と・せ!」」」

「あはははは! アレックス君ちっちゃ~♡ かわいい~♡ 男子マジメにやって~♡」

 

 一方、観客席ではレースに参加してない淫魔が競馬場かプロレス会場のおっさん達みたいな声を挙げていた。

 ふと見ればラグニアさんの姿がない。声をした方に目を向けると、彼女もまた観客席の最前列でビール片手に叫んでいた。完全にヤケで酒を呷っている。

 なお、例のイケメン君はアナル大好き淫魔に掘削されていた。

 

「まぁこうなるッスよね。いくら乳食系っつっても淫魔族の本能がそう簡単に変わるわきゃねぇんス。つかジンエモンはどこ?」

「奉仕活動かっこ意味深の真っ最中だってさ」

 

 一見すれば、半グレ達も楽しんでいるように見える。

 だが、実際のところパラダイスではないのだろう。俺の視界には、刑として禁止された理由もむべなるかなといった光景が広がっていた。

 一回や二回で役立たずになるとか、トレーニングが足りん。ウマナミジャナイノネ。

 

「「「まだ終わってなぁあああい♡」」」

 

 このようにして淫魔刑は執行され、結婚詐欺グループはガチで壊滅したのであったとさ。

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 淫魔刑執行後、一連の事件の顛末は大々的に報じられる事となった。

 搾り取られた後の半グレ達は、法に則って奴隷身分へと落とされた。期間限定の労働奴隷であり、これ以上の吸精を禁じる為に身柄はラリスへ送還される予定だ。

 

「はぁい♡ 初見さん赤スパありがとー♡ それじゃ百回スパンキングしてあげるね♡ 歯ぁ食いしばれオラァ!」

「ねぇ? 昨日のディルドどうだった? 新しいの何にしようか迷ってるから、どんなのか教えて欲しいんだよね」

「チンイラ完売しましたー!」

 

 そして、街の様子も元に戻った。

 かつての淑女ブームはどこへやら。ドスケベ衣装の淫魔達が男根噴水の縁で猥談しまくり、あっちこっちでスケベにエレクトしたパレードで大きな山をスプラッシュしている。

 しかし一度生まれたモノはそう簡単に滅びはしない。ブーム後も、淑女服は淫魔ファッションの一部として残るらしく、既に淑女服専門店がオープンしていた。相変わらずフットワーク軽いな淫魔王国

 

「あーこれこれ! これぞ淫魔王国って感じだな! すけべじゃねぇケフィアムなんて木が無いアルヴみてぇなもんだぜ!」

「前のままのが良かったんじゃない……?」

「ですが、今の方が皆さん活き活きしてますよ。それに淫魔ソーセージが無いのは寂しいですから」

「あのままだったら心を病んでたかもしれんしのぅ」

「見てくださいあそこ! 何故かいなり寿司売ってますよ! そろそろ寿司を食わないと死にます!」

「あれ? なんか、あのおいなりさん変な形してない? 妙に丸いっちゅーか、二つセットになっとるし。真ん中にちっちゃいウィンナーも添えて……ナンデ?」

 

 淑女化はともかく、結婚ブームは未だ根強い。これを機に吸精派に戻った淫魔もいれば、それでも結婚したい純愛派淫魔も生き残っていた。ある意味、多様性が広がったと言えなくもない状況になったのだ。

 

「見て! あーし、ついに合格しちゃった! ウケる!」

 

 あと、もう一つ変化があった。ルクスリリアの母が旅券の取得に成功したのである。

 これまでは欲求不満と理性不足で旅券の取得試験に落ちていた彼女だが、淑女訓練で身に着けた自制心により、見事に突破してのけたのだ。

 

「これで旦那ゲットの旅に出れるわ~!」

 

 旅券を手に入れた目的はただ一つ、婿探しである。

 ルクスリリアという娘はいても、彼女に夫と呼ぶべき存在はいない。娘に感化された母は、第二の人生の目標として愛する人との結婚を目指しているのだ。

 

「マジで一人旅すんスか? 護身もそうッスけど、また騙されたりしない? 大丈夫ッスか?」

「大丈夫だって~。前言ってた淑女道教えてくれた人に護衛してもらえる事になったから。ほら、あそこ」

 

 彼女の指差す方を見ると、ケツとタッパのデカい美女がこっちに向かって歩いてきた。

 太陽を照り返すマゼンタの髪に、ゲレンデのような白い肌。傍らには翼の生えた狼がついていた。

 てゆーか、普通に見覚えがあった。最近、よく顔見知りと再会するなって思いました、まる。

 

「待たせたなラグニアよ! 余、朝寝坊から復活である! なーっはっはっは!」

 

 リアルイーザ様である。一同、唖然である。

 数ヵ月ぶりに再会した鮮血大公は、今朝も大物オーラに満ちていた。

 

「リーザちゃんおはよう!」

「おはよう&ごきげんようである! イシグロ君達も久しぶりであるな! 元気してたか!」

「え? イシグロ君達、知り合いだったの?」

「えぇ……まぁはい。それより、リアルイーザ様こそラグニアさんとはどういう……」

「なに、リリィちゃんによく似た魔力をしてたのでな! 母かと思って声をかけたのよ! 旅の護衛は成り行きである!」

 

 リアルイーザ様は、かつて勇者アレクシオスと共に世界を救った大英雄吸血鬼である。

 紆余曲折あって長い眠りから目覚めた彼女は、ネザーレを出て気ままな旅をしている……いや、ちょっと待て。

 

「もしかして、淫魔達に淑女化をお勧めしたのって……」

「予である! なにせ予は勇者アレクシオスをバチコリ堕としてみせたイケイケヴァンパイア故な! 同じ事すりゃイチコロよ!」

「またリーザちゃんは冗談言って~。勇者様は魔王戦争前の人でしょ~」

「そうであったそうであった! なーっはっはっはっ!」

 

 どうやら、淫魔王国に淑女ブームを起こしたのはリアルイーザ様だったらしい。

 恐らく、酒の席とかそのへんで溢れ出るカリスマ性を発揮して、乳食系淫魔に対し大演説をぶちかました結果こうなったのだろう。知らんけど、多分恐らく間違いない。

 

「まぁ、ラグニアの事は任せるがよい! どのみち目的のない旅路であるから、勇者流の人助けと思って最後まで面倒見てやろうぞ!」

「じゃ、行ってくるから! 次会う時には旦那紹介するからね~!」

 

 言って、伝説の英雄とルクスリリアの母はケフィアムを去っていった。

 そういえば、初代淫魔女王は勇者に助けられてから淫魔王国を興したんだっけ。勇者一党の一人である彼女にとって、淫魔族は何かと縁のある種族なのだろう。

 

「……俺達も行こうか」

「ッスね。実家帰ったら却って疲れたッス……」

「ん、終わり良ければすべてヨシ」

 

 事件にこそ巻き込まれたが、楽しい観光はできた。

 なんやかんやありつつ、淫魔王国は平和でしたとさ。

 

 あと、エリーゼとレノに妊娠オッケーのお墨付きを頂いた訳だし、そろそろガチで考えよう。

 楽しい楽しい家族計画、本格始動である。




 ルクスリリア母の見た目は、書籍版ルクスリリアを大きくしてオタクに優しいギャルナイズさせた感じのをイメージして下されば。ちなラグニアのバストはGくらいあります。


【挿絵表示】


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書籍版一巻の発売日は今月25日!
発売まであと20日! よろしくお願いします!

そんな訳で色んな人や色んなところに「たのハク出るよ!」って触れ回って頂けますと幸いです!
単刀直入に言うと、宣伝に協力してください! 続き出したいです! オナシャス!
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