【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
異世界における強者同士の戦いは周辺被害が凄まじい。それは訓練であっても同様だ。
思い切り剣をぶつけ合わせると近くの窓ガラスが木っ端微塵に粉砕されるし、前ステップで踏み込んだならば石畳に亀裂が走る。火でも水でも攻撃魔法など撃とうものなら何をかいわんや。
故に、型稽古や瞑想ならともかくとして、本気で模擬戦したいなら異空間たる鍛錬場がベストである。
空中戦をするなら、尚の事。
「「はぁああああああッ!」」
鋼と鋼が打ち合う度、果てある空に火花が散る。斬撃の余波で木々が折れ、地が抉れ、魔法の擦過で葉が灰に。二人の剣士が通り過ぎた跡は、さながら嵐が過ぎ去ったかのようである。
ここはリンジュの鍛錬場。そんな場所で、俺とゲルトラウデ師匠は模擬戦をしていた。
「【
「素晴らしい魔法だ、牽制にはちょうどいい。だが……!」
「くっ!? ニュータイプかよ……!」
今回の対戦相手――ゲルトラウデ師匠は、言うまでもなくめちゃくちゃ強い。
ゲルトラウデ師匠は元々エリーゼの護衛をしていた竜族騎士である。紆余曲折あって銀竜一族を離れた現在は、リンジュ共和国の首都カムイバラで自身が興した武術流派――"唯心無月流”を広めている。で、俺はその弟子の一人という訳だ。
前までの師との模擬戦は、ハンデとして鎧無し翼無し等かなり縛って戦ってもらっていたのだが、今回は鎧も翼も有り有りでやってもらっている。結果、ボロカスだ。
一応、戦闘にはなっているものの、実際全く歯が立たない。こと空中戦は完全に竜族の領域であり、師匠の攻撃に都度対処するのがやっとで此方から攻める事ができないのだ。甘えた攻撃したら普通に咎められるし、かといって守ったら負けるし、どないせえっちゅーんじゃ。
「どうした? もっと本気を出せ! 集中を切らすな! その程度の力でエリーゼ様をお守りできると思っているのか!」
「思ってないから戦ってるんでしょうが!」
だからこそ本気で
俺は左手の銃杖から射撃魔法を放ち、対手の動きを制限してから右手の剣で攻め立てた。当然いなされるので魔法の足場を先行入力。即座に踏み込んで二撃目を強攻撃で叩き込む。
師匠の眉間にシワが寄る。今のは良かった。初手からこっち追い詰められっぱなしの俺ではあれど、戦闘してるうちに少しずつ順応してきた。全部の手札を晒した後に、やっと太刀打ちできるようになったのである。
ネザーレにおけるマゼンタ猫又との戦いにて、俺は戦闘における核心的な何かを掴みかけていた。今、その片鱗に触れた感じがある。
「良いぞイシグロ! だが攻めに偏り過ぎだ! そこっ!」
「ぐぅううううう!?」
だが、あと一歩届かない。純粋剣術で押し切られ、続く攻撃を捌けずかなり良い一撃を喰らってしまった。HPの半分が消し飛ぶ。
しかして今の俺は純淫魔契約者。身体の傷はすぐ再生するし、MPを使えば即治癒魔法で即全快。そして、リアルな痛みのお陰でギアが上がった。真血術で魔力を回し、内勁で以て氣を巡らせる。俺は例の核心に指を掛け、考えるより先に反撃を……。
「これで終いだ」
「おぐぇ!」
出来なかった。隙を生じぬ二段構え。ゲルトラウデ師匠による二撃で決殺された。
一瞬、意識を断たれた。集中状態が解除されたせいで魔力循環が上手くいかず、そのまま片翼を奪われた戦闘機のように墜落する。
べちゃっと地面に不時着したら、即座にエリーゼの治癒が飛んできた。身体は回復したが、斬られたショックで空中復帰できなかったのだ。
実戦だったら、今ので俺は死んでいた。こーゆー時の対策も考えないと……。
「た、対戦ありがとうございました。師匠……」
「うむ、尖兵戦の後も鍛錬しているようで安心した。それにその射撃魔法とやらも素晴らしい。イシグロに合っていると思うぞ」
それでも気合で立ち上がり、鎧を解除しながら降り立つ師匠に対ありの一礼をする。
例によって師匠の身体に傷はない。なんだろうね、この同じ土俵に立ててない感。スペック的には近しいはずなのに、越えられない壁があるんだよな。
「ゲルトラウデ。模擬戦もいいけれど、今のは少しやりすぎじゃないかしら? 私がいなかったら危なかったわよ」
「し、しかしエリーゼ様、その気で対峙せねば私の方がやられておりました。今のイシグロを相手に、以前のような手加減はできません」
師匠にそう言われるのはまんざらでもないが、ボロ負けしたのは事実である。
尖兵戦の後もレベリングしまくっていたので、俺のスペックは当時の比ではないはずだ。にも拘らずのこの始末。流石にもう少し善戦できると思っていたが、残念ながらこれが現実である。
逆に、ここで勝っちゃったらそれはそれで問題なんだよな。師匠に勝って増長しない程、俺の心は強くない。だから寧ろ負けて良かった。
「ていうかお師匠、前より強くなってるのじゃ。氣の流れが綺麗になっておるし、何より動きに間隔? 遊び? そう、余裕が出来たというか」
「イリハの目利きは正しいぞ。ヴィーカ様のお陰だ」
とはいえ、俺が勝てないのも仕方ない話ではある。なんたって、ただでさえ強かったゲルトラウデ師匠が前より強くなっていたからだ。
何故なら、今の無月流には大規模アップデートが入っているのだ。いくつもの修正パッチが当てられ、無月流に相当なアッパー調整が施されたのである。それもこれも、彼女がヴィーカさんの鍛錬風景を見学した事による恩恵らしい。
で、本日はハネムーンの最中にお会いし、シン・無月流をお教え頂き、〆として模擬戦をやって頂いた流れである。パッチ適用後の無月流もインストールしなきゃな。やる事が、やる事が多い……!
「それはそうと、イシグロは少々焦っているようだな。前に戦ったという猫又とやら、それ程の相手だったのか?」
「そう、ですね。はい」
なんて考えるでもなく思っていたら、そんな事を訊かれた。
焦り、言われてみればそうかもしれない。なまじネザーレの戦いで何かしらの核心に触れてしまった為に、俺は不必要な焦燥感を抱いてしまっているのか。
あの感覚を自由に引き出せるようになったら、レベルやステータスに関係のないマジな強さが手に入る気がするのだ。俺も師匠やヴィーカさんと同じ領域に立てるのでは、と。
「でも、なんとなく分かる気がしますよ。あの戦い以降、ご主人様の動きは以前より洗練されていっていると思います。たまにぎこちなくなる時ありますけど」
「アレですよね、技と技が噛み合って且つ余裕ある感じ? カッチリしてるというよりはドッシリしてるような?」
グーラ&ユゥリンの天才コンビには、今の俺の状況がなんとなく分かるそうだ。なるほど、分からん。
「ふぅむ。しかしイシグロはイシグロが思っている以上に基礎が出来ている。だからこそ土台に根が張ってきたという事だろう。焦れる気持ちも分かるが、花が咲くには時間がかかる。イシグロはそのまま鍛錬を続けていればよいと、私は思うぞ」
今の俺は、当初目指していたスタイルへと着実に成長している。数多のスキルを使いこなし、数多のジョブをマスターし、如何なる状況にも適応できる真の器用万能型に。
本当に強くなりたいならば、今の路線で間違いないはず。師匠のお墨付きもある。だというのに、焦っている。師匠を信じてないというより、俺自身を信じ切れていないのだろう。
「あるいは、ヴィーカ様はこれを見据えて戦いをお教え下さったのかもしれないな」
「ヴィーカさんが?」
「確かに、ヴィーカ様ならあり得るかと。寡黙な方ではいらっしゃいますが、剣は雄弁な御方でしたので」
「ん、意外と面倒見いい。護衛の間、よくお話ししてくれた」
「まぁワタシには何も言ってくれませんでしたけど」
「それはユゥリンには何も言う事ねぇって意味じゃあねぇか?」
俺の知る限り、この世界で最強の戦士はヴィーカさんである。そんな彼からも、今のままでオッケーと太鼓判を押してもらっている。
以前お会いした時、彼はグーラに大剣の扱い方を教えてくれた。以降、彼女の剣の成長は緩やかに右肩上がりである。伝説の剣豪は指導が上手いのだ。
「あの戦いにヒントがあるって事か……」
かつて、俺は一度だけヴィーカさんと戦った事がある。
戦いというか、あれは完全に試験兼教導だった。もしかしたら、あの中に例の核心を掴むヒントが隠されているのかもしれない。
「とはいえ、あまり悩み過ぎるなよ。貴殿のソレは恐らく人生をかけて追い求め続けていくものだ。一朝一夕で身に着くものではないだろう」
「それもそうですね」
確かに、と思う。師匠の言う通り、今の俺に出来るのは粛々と鍛錬して地道に積み上げる事だけだ。残念ながら、俺に少年漫画的な超強化は訪れないのである。
今はただ、件の戦いのせいで精神が不安定になってるだけだ。馬鹿の考え休むに似たりと言うし、変に思い悩むより一回でも多く素振りした方が有意義だな。
「よし、次はユゥリンだな。本場クーシェンの発勁を見せてもらおうか」
「対よろで~す。自分、深域武装使っていいすか? それ前提で戦術組んでるんで」
そうして、俺達はゲルトラウデ師匠と師弟の旧交を温めたのであった。
ちなみに、師匠と模擬戦をしたユゥリンは俺より善戦していた。なんでだよ。
〇
リンジュ旅行開始から数日後。俺とエリーゼとヘカテーニャは各々リンジュ風な恰好でカムイバラの街を歩いていた。
ちなみに、他の面々は宿でゆっくりしている。例によってイリハとレノとシャーロットの温泉大好き勢は露天風呂で溶けていた。
「レギーナちゃんかぁ。話には聞いとるけど、どんな娘なんやろ。楽しみやわぁ」
「雛のような子だから、優しくしてあげなさい」
初対面のヘカテを連れて、今から俺達はレギーナに挨拶に会いに行くのだ。
レギーナは実質的なエリーゼの妹である。なんやかんや尖兵戦で敵対した後、彼女はゲルトラウデさんの下でカムイバラに住んでいる。師匠曰く、現在レギーナは師匠の下を離れ、友人とシェアハウスをしているらしい。後見人の支援無しで、立派に自立したというのだ。
「ここで、合ってるんだよな?」
そんなこんなで地図を辿ってやってきたのは、カムイバラらしい瓦屋根の店だった。
新築と思しき二階建てである。見たとこ一階が店舗で二階が住居スペースといった間取り。店の入口には看板が飾ってあり、“白虎屋”と書いてあった。
「すみませ~ん、失礼します~」
住所も店名も間違っていない。俺は声をかけつつ引き戸を開けた。
パッと見、茶屋というより喫茶店って印象だ。店の内装はリンジュとラリスの合いの子といった風で、バーカウンターに加え机と椅子のセットが三つ設えてある。決して広くはないが、だからこそ落ち着きと安心感のある店だった。
「ごめんなぁ。まだ営業時間やないで、また来てくれる~?」
音に反応し、カウンターで何か作業をしていた女性が振り返る。
白と黒の髪に、丸っこい虎の耳。そしてヘカテとは似て非なる異世界語イントネーション。俺はこの人の名を知っている。
「って、イシグロさんやないの! ほんま久しぶりやなぁ! あぁ式行けへんくてごめんな! 結婚おめでと~!」
ミアカさんである。
彼女はイリハ捜索を手伝ってくれた女性で、地味に凄い人脈の持ち主だったりする。あと尖兵戦にも来てくれてたな。
そんな彼女は今、シックな色の着物を纏っていた。そう、ミアカさんこそこの店の主なのである。そして、レギーナとシェアハウスしている件の友人だった。
「エリーゼちゃんもお久しぶり! そっちの子は新しいお嫁さん? てゆーかどうして此処に? はっ、もしかしてウチに会いに……!」
「それもありますが、レギーナの様子を見に。こちら淫魔王国土産のチーズケーキとなります。お二人で食べてください」
「やろな! ありがとありがと! 今レギーナちゃん上で色々やっとるで呼んでくるわ! レギーナちゃーん? イシグロさん来てくれたでー!」
ミアカさんが奥の階段から二階に声を掛けると、やがて小さな返事があった。
ややもせず、これまた着物姿の銀竜が階段を降りてきた。一般家庭からラスボスがエントリーしてきたかのような圧力である。
「久しぶりね、エリーゼ」
「ええ。壮健そうで安心したわ」
彼女こそ、かつて俺の一党が一斉に掛かっても勝てなかった剣士――銀竜レギーナである。
白銀の髪といい、彫像のような白い肌といい、彼女はマジでエリーゼをそのまま大きくしたような容姿をしていた。ソシャゲだったら周年ガチャ産の威容を放っている。
「そっちの……吸血鬼? は、新しい妻かしら。私の義姉という事になるのかしらね」
「ヘカテーニャ言います。リキタカさんの八人目の妻で、一応今は真祖やらせてもらってます。どうぞよろしゅう」
「そう。今からお茶を淹れてくるから、店で待ってて頂戴」
「あ、ほなウチ買い物行ってくるわ。イシグロさん留守番よろしく~。あぁ厄介な客来たら叩き出してもろてええよ」
言ってレギーナは二階に戻っていき、これまた店主も店を空けた。それでいいのかと思わんでもない。
二人を待っている間、俺達はカウンター席に座って大人しくしていた。カウンターの奥には酒瓶が陳列されており、大衆向けからプレミアムな酒まで色々取り揃えているようだ。恐らく内装とか諸々ミアカさんのセンスだろう。そんな雰囲気がある。
「二人共えらい美人さんやったなぁ。マジでひょえ~って感じ。しかもゴッツ強いんやろ? あんなん世の男がほっとかんて」
「ちなみにレギーナは俺等八人掛かりでも勝てなかったよ」
「バケモンやん! そんなん世の王族がほっとかんやろ……」
「確かに。まぁヴィーカさんの武威で守られてる感じだろうな」
「ひょえ~」
「見なさい、竜祭の大吟醸があるわ。いい趣味してるわね」
そんなこんな。
「お待たせ」
茶を用意するにしてはまぁまぁの時間が経過した後、盆を持ったレギーナが階段を降りてきた。
着物姿のレギーナはカウンターの奥に立ち、俺達の前にお茶を置いていった。緑茶の匂いが鼻孔を擽る。
それから、お茶請けとしておにぎりが置かれた。のりの巻かれた白米の握り飯である。三角形のやつだ。
二度見した。マジでおにぎりだった。しかも六個も。
「握ったわ。食べて」
唖然とする俺達を置いて、レギーナは彼女用と思しき別皿のおにぎりをもぐもぐ食べ始めた。一見無表情な顔に、どことなく幸せそうな表情が浮かんでいる。
いや、あの、おにぎりですか。出されたモノなので食べるべきってのは御尤もでその通りだが、予想外過ぎて固まってしまった。今ってご飯時だっけ?
「どうしたの? おにぎりは温かいうちに食べるものよ」
「あ、はい」
固まってる俺達を不思議そうに見るレギーナ。さっき宿で朝ご飯を食べたばかりだが、仕方ないので頂く事に。銀細工ボディに満腹の概念はあんまり無い。
うん、普通に美味しい。俺が食べたのは具無しの塩にぎりだった。見ればエリーゼとヘカテもおにぎりを手に取って食べている。銀髪の竜族美少女と灰髪の吸血姫が謎の握り飯タイムである。なんだこれ?
「に、にしてもええ店やな! あの白虎の姉ちゃんと同居しとるんやんな? お店も一緒にやっとんの?」
「店はミアカのよ。私は何もしていないわ」
「生活の方は大丈夫かしら? 何か困っている事はない?」
「特に問題ないわ。お金についてはアンゼルマに何度も言われたから、しっかりと出しているのよ。もぐもぐ……」
おにぎり一つ食べ切ったところで、コミュ力の高いヘカテから話が振られた。すると女子らしく会話コンボが繋がっていく。ちょっと安心。
実際、エリーゼは彼女を気にかけているのだ。エリーゼはレギーナを妹と認識しており、レギーナもそう自認している。見た目は妹の方が姉っぽいのだが、それはともかく。
話の合間に、レギーナはおにぎりをパクついていた。せんべい感覚でおにぎり食べる人初めて見た。
「そうよ。私も、今はちゃんと働いているのよ」
そう言って、彼女は懐から冒険者証を取り出してみせた。
リンジュの鋼鉄札である。どうやら、彼女は冒険者をやっているらしい。
「冒険者してるのか。ゲルトラウデ師匠はなんて?」
「最初は反対されたけど、説得して潜らせてもらったわ。それに、手っ取り早く稼ぐにはコレが一番だったのよ。私には、やりたい事があるから」
「やりたい事? へぇ、どんなんどんなん?」
自分用のおにぎりを食べ終えたレギーナは、指に付いた米粒を舐め取り、ドヤ顔で云った。
「お米よ」
お米? セカンド・コメ・ショックにより、俺達は白銀の竜族をまじまじ眺めてしまった。
対し、レギーナは陶然とした面持ちで続けた。
「お米はね、素晴らしいのよ。初めて銀シャリを食べた時、私の奥底にある銀竜の魂が震えたわ。それから、私はお米と共に生きていくと決めたわ。寿司に丼、お粥に釜めし。フライシュ発祥のカレーとの相性は言うまでもないわ。どれも素晴らしいけれど、やっぱりおにぎりが一番ね。中身が違うだけで別物になるのよ。あと、玄米の良さを知っているかしら? リンジュでは綺麗に精米した銀シャリが好まれているけれど、玄米だって良いものよ。最近はぬか漬けにも興味があって少しずつ勉強中。出来たら収納魔法便で送ってあげるわ。それにお米様は酒にもなるのよ。米の酒は凄いわね。同じお米から出来ているのに、甘かったり辛かったり。同じ甘さでも果実のような甘さや滑らかな甘さといった違いがあるのよ。同じようにお米様自体も種類があって、それぞれに特徴があるの。それで今最もアツい米産地は……」
「「お、おう……」」
これ、迷宮の狂気なんだろうか。あるいは天然って可能性もある。ともかくとして、お米について語るレギーナは気持ち早口で、どことなく浮ついていた。
そういえば、エリーゼも大概酒好きだし、ヴィーカさんも良い刀剣には目が無いらしい。それと同じように、レギーナはお米が大好きなのだろう。
もしかして、竜族って実はオタク気質なんじゃないっスか? 忌憚のない意見ってやつっス。
「そうねぇ、将来は何をしようかしら。自分でお米を作るのもいいし、酒蔵で修行するのもいい。竜族の命は永遠なのだし、やりたいようにやるつもり」
尖兵戦の後、道場で無月流を学んだレギーナは、ミアカさんと組んで迷宮稼業をしていたそうだ。で、先輩から迷宮探索のイロハを教えてもらって、当のミアカさんはこの店を始める為に冒険者を引退。レギーナは趣味でお米を食べる為に今も迷宮に潜り続けているという。
好物も見つかって、趣味も謳歌してて、充実しているように見える。
なんにせよ、やりたい事が出来て良かったと思う。稲作ドラゴンも酒蔵ドラゴンも、いいんじゃないかな。
「ただいま~。いやぁ昨日ちょうどお味噌切らしとったで助かったわ~。あっ、もしかしてレギーナちゃんま~たお茶請けにおにぎり出した?」
「そうよ。見なさい、この三角形を。コンテストに出したら入賞間違いなしの芸術性じゃない?」
「茶請けにげーじつもクソもあるかいな。ほら、お客さん用のあったやろ、あれ出し……あぁやっぱウチが用意するからレギーナちゃん座っといて」
「ミアカはいつも元気ね」
そうこうしていると、買い物袋を提げたミアカさんが戻ってきた。
それからレギーナと交代するようにしてカウンターに立ち、俺達に酒とつまみを振る舞ってくれた。
「へぇ、新婚旅行! ええなぁ~、凄いなぁ~。何処巡っとったん?」
「そうですね。まずはフライシュ祭を見にリント市に……」
聞き上手のミアカさんに促されるようにして、俺達は尖兵戦後の事を話していった。
ヘカテの事についてはちょくちょく端折って話し、ハネムーンの最中に起こった事も少々。エリーゼの隣に座ったレギーナは、僅かに口角を上げて話を聞いていた。
「カムイバラでゆっくりした後はユノサキに向かう予定です」
「あら、ユノサキに行くのね」
「レギーナちゃんユノサキ知っとったんやな。実はそこ、ウチの故郷なんやで」
「そうだったのね。私はゲルトラウデの書いたヴィーカ様の本で知ったわ」
次の旅行先について答えると、静かにしていたレギーナが反応した。
ユノサキはヘカテの生まれ故郷である。昔から温泉地として有名で、大昔にヴィーカさんの入った秘湯なんかもあるらしい。リンジュにおける通な観光地なのだ。
「そうそう。まぁたま~に厄介な客来るけど、そのへんはレギーナちゃんおるで安心や。ええもんやで、自分の店ぇ持つんは」
「今のミアカは弱い銀くらいはあるのだし、自分で戦えばいいと思うのだけれど。実戦経験にもなってお得じゃない」
「ウチは戦いたくないの」
そんなこんなで、俺達は義妹とその友人と楽しい時を過ごしましたとさ。
にしても、ミアカさんは飲食店の経営を冒険者後のセカンドライフにしているのか。
カフェのマスターとか憧れなくもないのだが、俺に飲食店の経営が出来るとは思えないんだよな。色々と凄い難しそう。
ともかく、後々の参考になるね。俺はミアカさんが出してくれた酒を呑み、皆との未来に想いを馳せるのであった。
〇
その日の夜のことである。
ミアカバー兼レギーナ宅を後にした俺達は、宿泊中の上玉館に帰ってきた。
露天風呂でゆったりして、風呂上りにイリハの指圧を受けてまったり。冬の旅館でイチャイチャして暫く後、上玉館自慢の夜ご飯が運ばれてきた。
「「「美味しそ~!」」」
お鍋である。
畳の部屋の机の上には、ぐつぐつと煮える土鍋が二つ鎮座していた。
一つはお肉メインの味濃いめ鍋。もう一つは魚介メインのあっさり鍋だ。鍋の周囲には追加する用の食材が並んでいる。
その他、寿司やら刺身やら逸品モノが沢山。例によって量は全て冒険者仕様だ。
「うんめぇ~ッス! この肉マジで美味ぇッス! これどこ産? 淫魔王国じゃないッスよね」
「フライシュ牛とも違いますね。柔らかくて、でも脂っこ過ぎなくて美味しいです!」
「肉もいいけどよぉ、アタイはこの蟹が堪んねぇと思うワケよ。かぁ~! 熱々のリンジュ酒とよく合うじゃねぇの!」
「はぁ~、良い出汁じゃ。五臓に染みるのじゃ~」
寒い冬に露天風呂、でもってロリ按摩からの鍋料理とくれば、そりゃもう最高を超えた最高である。
一口目、熱々のお豆腐が腹の奥に沁みる。お出汁をいただき、野菜と共に魚の切り身を食べる。続いて肉を食べ、熱燗を一口。あぁ~、身体が温まる。
「ありがとう、イリハ」
「あぁこれこれ、鍋よそうのに【念力】を使うでない。今よそってやるからのぅ」
「や、でもこっちのが効率的。一滴も零さずよそえる自信がある」
「寿司! 美味さの上限がないんですか! あまりにも美味い! 反省しろ!」
「アタシもそろそろ寿司を……ハッ、無くなってるッス!」
「追加注文だな。まとめて注文するから、なんか食べたいもんある人~」
「あ、ならウチはネギとろ肝一つお願いします~。いやぁ真祖になってもご飯の好みは変わらんもんで」
お鍋タイムは性格と好みが出るものらしく、各々が各々の楽しみ方をしていた。
イリハとヘカテが皆に鍋をよそってやって、ルクスリリアがたんぱく質をパクパクしている。酒を呑まず鍋に集中しているグーラの傍ら、エリーゼとシャーロットは終始酒のアテとして飯を食べていた。他方、レノは魚介鍋オンリーで、ユゥリンは一品モノばかり食べていた。
「いい顔ね、アナタ。ほら、酌をしてあげるわ」
勿論、鍋以外も最高だ。リンジュ名物・滝鮪の大トロ刺身にわさび醤油を付け、食べる。鼻にツンとくる刺激に、滝鮪の上品な脂が実にマッチ。それを熱燗で流すと、ほうと満足の息が漏れた。
女三人いれば姦しいと言うが、ロリ八人もいれば姦々々しい。どことなく深夜枠の日常系アニメな光景である。部活モノかな? アイドルモノかな? いや、ハーレムモノである。俺はエリーゼに酌をしてもらい、心の底からロリ宴を楽しんだ。
「ユノサキの後はどこ行くんでしたっけ?」
「クーシェンですよ、グーラさん。噂によるとクーシェン城の探索が完了して少しずつ解体していっているそうで」
「そういえばウチまだクーシェン城見た事ないんよな。無くなる前に見ときたいわ」
「ん、凄い城だった……」
「外も凄かったッスけど、中の奥がめちゃヤバだったんスよね。なんたって新種の生物が住み着いてて……」
「探索中は魔法を撃てなかったから鬱憤が溜まったわ……」
「罠塗れの通路もあったのぅ」
「一回撤退して、シャロのルーンで全部解除してもらったんだよな」
「あん時はマジで忙しかったぜ……」
「なんで城ん中で大冒険しとんねん」
やがて話題は新婚旅行にシフトして、それについても姦しく話していた。
次はユノサキに向かう予定だが、旅行の予定はまだまだある。一年かけて旅をするのだ。それくらい頑張ったし、それくらい稼いでいる。
「まだまだ、行ってないトコいっぱいあるんだよな~」
実際、ラリスひとつ取っても全体で見ると未だ半分も回れていない。フライシュ領はのんのんしてたし、ランベール領は魔法特化だった。他はどんなだろう、普通に楽しみである。
獣人国家らしいグウィネス部族連合も、クーシェンに入る時に通っただけでどんなところか全然知らない。ディング魔族国はハネムーンで行く予定はないが、一度は行ってみたい気持ちがある。
それだけじゃない。この世界には聖輪郷以外の巨大天津島もあったりして、各々独自の文化を持っているらしい。テオファノ大浴場の元になったテオ島行くのが今から楽しみだ。
「カムイバラで鍛えて、ユノサキで休んで、クーシェンでまた鍛えましょう。ご主人様」
「真面目ッスね~、グーラは。同じ魔族とは思えねぇッス」
「ボクは現代の古魔族ですからね」
とはいえ遊んでばかりでは腕が鈍るので、時折迷宮に潜ったり鍛錬したりする訳で。それで言うとカムイバラにいる間はトレーニング期間だな。
そういえば次の桜闘会ってもうすぐなんだっけ。無月流から一人、剣術部門で出るらしい。無月流で言うと、前に会ったシズクちゃんは今は武行法院で働いているそうだ。まだ下っ端も下っ端らしいが、頑張っていると聞いた。その関係で武行志望の入門者が増えたとかなんとか。
「行くぞ、行くぞ行くぞ……はいドーン!」
「やっぱ〆はうどんじゃよな~」
「おっと、それ以上はクーシェン民が黙ってませんよ。鍋には米を入れるのが常識です」
「や、どっちもどっちも」
「どっちもどっちも頂きます!」
「ご主人、卵出してほしいッス。ここに卵落とすッスよ~」
そうこうしていると、追加の食材もそのまた追加注文した食材も食べ切って、〆の時間である。
肉鍋にはうどんを入れ、魚介鍋は雑炊にした。肉鍋うどんは脂が絡んでマジで美味く、魚介鍋の雑炊は各々よそってから卵を落として此方も優しいお味で実に美味し。
ちなみに、雑炊に使ったこの卵はフライシュ領で買った高級鶏卵である。収納魔法があればこういう事もできるのだ。
「はぁ~、食った食った」
「食べましたね~」
流石にお腹いっぱいだ。全身がほかほかで、満腹感&満足感ハンパない。
従業員さんを呼んで片付けてもらい、しばらく畳の上でまったりした。行燈型の暖房魔道具が良い仕事をしている。
「よし、ちょっくらアタイは食後の風呂としゃれ込んでくるぜ。ついでに酒も失敬して……」
「風呂か、いつ出発する? 俺も行こう」
「ん、月光浴タイム」
で、食後の風呂である。温泉旅館の醍醐味はいつでも何度でも温泉に入れるところだろう。
俺は温泉好きロリを伴い、夜の露天に繰り出した。したら雪が降ってきたので、風情たっぷりの露天風呂で食後の運動を楽しんだ。
気持ち良かった。
次の目的地は、温泉郷ユノサキである。
ヘカテの故郷で、古から続く温泉地。かつてヴィーカさんが浸かったという秘湯があるらしい。こっちも今から楽しみである。
俺達の新婚旅行は、これからだ!
しゃあっ、300話&300万字突破!
来るとこまで来たなって感じですね。それもこれも、ここまでお読みいただき、いつも感想を下さる読者様のお陰です。謝射茄子!
【挿絵表示】
レギーナの見た目は、書籍版エリーゼをそのまま大きくして巨乳化した感じでイメージして下されば。ちな今のレギーナは尖兵戦当時より強くなっているので、成長した今のイシグロでも勝てません。
ヴィーカが近接特化マンなのに対し、レギーナは刀と魔法の魔法剣士ジョブです。弱攻撃感覚で【魔導極砲】を撃ってきて、速度特化の翼で飛んで近接攻撃を仕掛けてきます。逃げても魔眼で見つけてくる上、あらゆる数値をゼロにする“虚無”の権能を持っています。弱点はメンタルの脆さですが、最近お米パワーで克服しました。
はい。というわけで、電子版の予約が開始しました!
やったぜ。
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ここで一つ、大事なお話を。
実は本作って、物理書籍版と電子書籍版で一部挿絵の内容が異なってたりします。
ざっくり言うと、物理版の挿絵はギリギリまで露出しており、逆に電子版の挿絵は物理版の挿絵に比べ露出が控えめです。PC版とコンシューマ版みたいな感じで。
大人の事情です。お察しください。
編集部内の会議にて「エロ過ぎね?」「大丈夫だって!」みたいなやり取りがあり、最終的にしおこんぶ先生に差分を描いていただく運びとなりました。
先生ならびに関係者各位におかれましては、この場をお借りして謹んで御礼申し上げます。
発売日は今月25日! あと15日! よろしくお願いします!