【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 おや? 後書きの様子が……?


七年目・跛行する英雄、クニュフ編
猫ちゃんが降ってきた!


 おっけ~、じゃあもう一度説明するね~。

 あたしの名前はクニュフ。クニュフ・イシグロ。

 ママが死んで、“草薙の剣”に入ってから今までず~っと、この世にたった一人の邪仙だよ~。

 

 あとは説明したよね?

 色んな悪者をやっつけたよ~。

 ヘイブンも救った。救い過ぎるくらい救った。

 それでもパパは死んで、ママ達も死んで、お姉ちゃんやお兄ちゃん達も死んでった。

 復讐もしたよ。

 

 何度も何度も何度も何度も……。

 魔王軍の奴等を殺した。

 それだけじゃない。屍王の奴等も……いや、この話はまた今度ね~。

 あたしは英雄になり、黎明の後継者として祭り上げられた。

 

 まぁなんだかんだあってぇ……。

 ラリス王国は滅ぼされて、屍王が魔王を殺して、世界は第一大災厄前まで巻き戻った。

 負けちゃったんだよね、人類。

 

 生き残ったママ達と、世界を救う方法を……パパ達を助ける方法を考えたよ。

 過去に戻って、魔王の誕生を阻止し、屍王の侵略に備える。それしかない。

 時間干渉のルーンと、大規模転移に耐え得るリヴクラフト。レノママが、命を賭して使ってくれた天使権能。

 で、今に至るってワケ。

 

 いんや、全然ヘコんでないよ~。

 なんでって、そりゃあたしは黎明の後継者だし、イシグロ・リキタカの娘だもん。

 どんなに辛い事があっても、必ず立ち上がる。そういう風に出来てるんだ~。

 

 それに……この世界を救えるのは、あたしだけだからね。

 

 

 

 

 

 

 なんやかんや……。

 ヘカテーニャの故郷で年末を過ごし、エリーゼの祖父所縁の秘湯で初日の出を見に行った俺達は、空から降ってきた謎の猫耳少女と遭遇した。

 明らかに旧魔王軍と関係ありげな少女――クニュフは、自らをイシグロ・リキタカの娘であると名乗った。

 クニュフは悲惨な結末を迎えた未来を変える為、過去に戻って悲劇の元凶を止めようというのだ。

 

 なんとなくは分かったが、なんとなくしか分かっていない。

 だが、俺のやる事は一つだ。

 ロリの味方をする、それだけである。

 

「そっか。その未来の俺は皆を残して死んでるのか……」

「つか、それだとご主人と同じタイミングでアタシも死んでるって事なんスけど~」

「うん。最終的に生き残ったのはレノママとヘカテママと、シャロちゃんだけ。一番最初に死んじゃったのがユゥリンママで、そこからパパの様子が変になってった」

「サラッと言ってくれますね。まぁ今のワタシには関係ないんで別にいいですけど」

「なんでアタイだけちゃん付けなんでぇ」

 

 結論から言うと、このままだと遠くない未来で世界は滅びるらしい。なんだってー案件である。

 現在位置はユノサキで借りた離れの宿。薪の爆ぜる囲炉裏を囲み、都合十名となった俺達は未来から来た娘の話を聞いていた。

 ちなみに、彼女の落下による秘湯の被害はお着換え用の小屋だけで秘湯自体は大丈夫だった。ユノサキの案内人も落ちてきた隕石を目撃したらしく俺達は責められなかった。けど、なんとなく気まずかったので修繕費用を出しておいた。

 

「まぁでも、急にこんな事言われても信じられないって気持ちは分かるよ~、だから、まず試してほしい事があってね。確か今のレノママって熾天使になれるよね? それであたしの記憶を皆に見せてほしいんだ~。なんだっけ、ナントカキネシスって天使権能で」

「ん、【記憶転写(メモリアキネシス)】。他者の記憶を読み取り、映像として出力し、再生する。けど、似非熾天使のわたし一人じゃ読み取りくらいしか出来ないと思う。時間も足りないだろうし」

「とりあえずレノが証人になる訳か。やってみてくれ」

「ん、了解。【ひとときの昇天(リミテッド・オブ・アセンション)】」

「おっすお願いしますニャ~」

 

 とりあえず、レノの天使権能を使って未来語りの真偽を確かめてもらおう。

 レノは新規異能を使って翼を増やし、熱を測るようにして未来の娘と額同士を合わせた。

 

「うぅ~む」

 

 二人が記憶のやり取りをしている間に、俺は胡坐腕組み姿勢で考える。

 クニュフの見た悲惨な未来――仮称・クソ未来の流れをまとめると、こうである。

 

 クソ未来の俺は、この年から本格的に家族計画を開始するそうだ。

 一年かけて各地を巡り、地価を含めた諸々を勘案し、最終的にフライシュ領のとある町に住む事となる。

 それから暫くは平和だった。仕事は成功し、地域の人々とも馴染み、順風満帆な生活を営んでいた。

 なんと、子供まで生まれたそうだ。実にめでたいね。

 

 しかし、そこに突如として新魔王が出現し、三代目魔王を戴いたディング魔王国とラリス王国が戦争を開始したのである。

 この戦争に、俺達は裏方として参戦する事となる。後顧の憂いを断つ為、因縁ある猫又一味を討伐しようというのだ。結果、猫又一味は全滅。魔王軍に大きな損害を与える事に成功する。

 その際、俺は猫又一味の一人であるクニュフの母親を保護したそうだ。

 

 しかしながら、ラリス軍と魔王軍の戦況は一進一退だった。

 新魔王は強く、現ラリス王を含む多くの強者が敗れ、ラリス王国は徐々に押し込まれていった。

 だが、その時点ではまだまだ余裕があったらしい。なんだかんだ、誰もラリスが勝つ事を疑っていなかった。

 

 突如として第三勢力が現れ、ラリスを漁夫って国家存亡レベルの致命傷を与えるまでは。

 それこそが、件の謎の新キャラ――屍王である。

 

 屍王とは、当代の“災厄”と目されている存在らしい。

 というのも、屍王はかつての“笛吹き”のように魔物を操り、瘴気を振り撒いて人類生存圏を冒しまくっていたのである。ラリス王国も魔王国も、屍王にとっては等しく敵だった。

 そのようにして、人類軍VS魔王軍VS屍王軍の三つ巴が始まったのである。

 

 一時はラリスと魔王が手を組むみたいな展開もあったそうだが、両者の過激派が暴走して上手くいかず、最終的には屍王の一人勝ちだったという。

 まぁ、バッドエンドだよね。それも一番最悪なやつ。

 

 ちなみに、クニュフ母は戦時中に娘を産み、そのまま帰らぬ人となったそうだ。

 元から短い命だったらしく、最後に子を残したいという願いで以てクニュフは生まれてきたのである。

 

「ん……ちょこちょこ飛び飛びだったけど、クニュフの言ってる事に間違いはなかった」

「にゃあはこれでも濃ゆ~い人生送ってきましたからニャ~」

「大丈夫か? レノ。かなり顔色悪いぞ」

「ん、辛い記憶だった。ちょっと休ませて……」

 

 レノはクソ未来の記憶を見た事でかなりの精神的ショックを受けたようである。

 通常天使に戻った彼女を布団に寝かせ、熱を発している光輪を団扇で煽ってやった。

 

「にしても、屍王ねぇ?」

「魔王はいつか来るだろうと思ってましたけれど、なんか知らないのがひょっこり生えてきましたね。それもヴィーカ様が勝てない相手なんて信じられません」

「ヴィーカ様が勝てない相手でも、王子様達とワタシ達が囲んで棒で叩けば勝てるんじゃないですか?」

「ヴィーカ様の見立てだと、屍王は勇者一党が全員揃わないと勝てない相手らしいのニャ」

「逆に言うと、アレクシオス様達がおれば勝てる敵ではあるんやな。いやどんだけ強いねん勇者一党」

 

 これまたちなむと、クソ未来においてヴィーカさんは屍王に敗れ、リアルイーザ様はネザーレと共に姿を消したという。

 クニュフの話が本当なら、新魔王より屍王の方が厄介そうな印象だ。実際、三つ巴の勝者は屍王だったらしいし。

 

「だから、生まれる前の魔王を潰して、来たる屍王に備えようって話か」

「そゆことニャ~」

 

 言って、囲炉裏で温めた甘酒を飲むクニュフ。

 クニュフ的には時間遡行に成功した時点でウイニングランって気分なのかもしれない。

 

「なんかご主人とレノはすっかり信じちゃってるっぽいッスけど、そもそも未来から来たってどーゆー事なんすか? 時間ってそんなホイホイ移動できるもんなんスか?」

「そのへんアタイもさっぱりだぜ」

「それ以前に、この子こそ旧魔王軍の手先なんじゃないの? 言う通りに動けば罠に嵌められるかもしれないわ」

「さすがエリーゼママ♡ パパの分まで警戒してあげてるんだ~」

「知った風な口を……」

「知ってるからね~」

 

 クニュフが時をかけてきた娘である事については、既に俺とレノは信じている。

 けれども、他の面々は未だ懐疑的だった。中でもエリーゼはハナから嘘だと断定している。どだいタイムスリップ自体を想像できないのだ。

 

「そう言うと思って、証拠になりそうな物とか一通り持ってきたんだよね~。はいこれ」

 

 というのはクニュフも予想していたらしく、やおら彼女は小さな暗黒空間を生み出し、中からヤクザが裏取引で使ってそうなアタッシュケースを取り出してみせた。

 次いでパカッと開かれたケースの中には、見覚えのない物や見覚えのある物が入っていた。

 

「これは……私の日記?」

「今持ってるやつの次になるね。ちょうど一ページ目に今朝の事を書く予定だったでしょ?」

「え、ええ……」

 

 手渡された日記を開くと、エリーゼの眉が僅か震えた。

 そう、彼女が開いたのは彼女自身がこまめにつけている日記である。エリーゼの日記は、遠い未来でも読み返せるようにしっかりした作りをしているのだ。

 

「この鞄ね、時間遡行の時に物が消失しないようヘカテママが作ってくれたの。他にも色々持って来たんだよ~。はい、これはルクスリリアママの。こっちはグーラママの」

「こ、これはアナルキッソス先生の新刊! ちょうど今読んでるシリーズの続きッス!」

「この字は……間違いなくボクの字ですね。なるほど未来のボクは歴史の勉強を……」

「こっちは陰陽術の指南書じゃ。うわ我ながらなんと分かりやすい図解と解説なのじゃ!」

「ヘカテーニャさんとの共著らしいですよ。殆どヘカ先生が書いたんじゃないですか? ちなみにワタシのは嵐極拳を超えた嵐極拳の奥義書みたいです。新しい拳法作るとか、ワタシらしからぬイキり行為ですね」

 

 エリーゼの日記に続き、クニュフはアタッシュケースの中から一人につき一つの証拠品を提示した。それらは当人しか知り得ない内容の本や書き物らしかった。ある意味、これ以上ない証拠だろう。

 

「で、ヘカテママとシャロちゃんは二つずつ。一生懸命書いたモノだから、真剣に読んであげて」

「未来のウチから過去のウチへの手紙っちゅー事か」

「うげっ、マジのガチでアタイの字ぃじゃあねぇか……」

 

 また、シャロとヘカテには手紙と本が渡された。まず手紙から読み始めた二人は、やがて物凄く深刻そうな顔になった。

 一体何が書いてあるんだ。ちょっと気になる。

 

「で、内容は?」

「ん~? あぁ~、なんつーか……どうするよセンセ?」

「ダーリンは……うん、読まん方がええと思うわ。多分病む」

「そっか。ならいいや」

「世の中ぁ知らない方がいい事ばっかですからねぇ」

「にゃはは♡ ユゥママ昔からこうだったんだ~」

「で、次はこっちやな。実はさっきからゴッツ気になっててん。未来の魔術が目の前に~」

「差し詰めこっちはルーン書か。クソ古そうなあたり、アタイが書いた訳じゃあなさそうだが……」

 

 丁寧な所作で手紙を閉じた二人は、続いて分厚い本を手に取った。

 強いて気分を切り替えるようにハイテンションでページをめくった生き残り組はしかし、殆ど同時に目を剥いた。

 一秒、二秒と沈黙し……。

 

「うぉおおおすげぇえええ!? 初代様すげぇええ! これさえあればルーン彫刻の未来は明るいぜぇえええ!」

「なななななんやこれミッチミチのバチクソに宝の山やんけ! やっぱウチ天才やん! なるほどなるほどマグナスフィア・アーカイオンとは、魔力とは、詠唱とは……! ん? いやウチだけやないんやな。パイモはんにミッちゃんにパー君に倫叡塔の賢者の名前まで……あぁ、そういう事ね。マジで世界が終わるから今まで隠しとったもん出した訳か」

 

 かと思えば、クニュフそっちのけで没頭し始めた。

 一応、俺達の未来に関わるかなり重要な話の最中なのだが、職人&技術者は本に夢中みたいだ。暫くは帰ってこないだろう。

 

「まぁあの中にはガッツリ禁術知識も書いてあるんだけど、二人なら上手くやるよね。そうそう、ドワルフに渡すのもあるんだよ」

「マジか」

 

 どうやら、ドワルフ用の未来知識もあるらしい。未来の武器知識か、胸が熱くなるな。

 

「ふぅ……確かに、一字一句違わず書こうと思っていた内容と同じだったわ」

 

 ややもあり、エリーゼは日記を読み終えた。

 シャロとヘカテは未だ未来知識に脳を焼かれているが、他の面々もエリーゼ同様認めざるを得ないといった様相である。

 

「で……訊いてもいいか?」

「いいよ~」

 

 そうして皆の信用度が上がったところで、俺が代表して口を開く。ここからが重要なのだ。

 対するクニュフはニコニコしている。余程、生きている皆に会えたのが嬉しいらしい。

 

「まず、俺達は何をすればいい」

「おぉ、てっきり新魔王の誕生時期とか屍王の情報とか訊かれると思ってたよ」

「気にはなる。けど。知らない方がいい事もあるだろ。知ったところでどうにもならない事とかも」

「賢明だと思う。魔王の事はともかく、屍王の事は今はまだ知らない方がいいからね~」

 

 新魔王についてとか、屍王についてとか、興味がない訳ではない。実際、然る後に訊くつもりだ。

 その上で、まずは何をすべきかを知るべきだと思った。今は時間との勝負なのだ。

 残念だが、新婚旅行は中止だ。これを放置したまま旅行は楽しめない。俺は宿題を終わらせてから夏休みを謳歌したいのである。

 

「ごほん。真っ先にすべきなのは、ジノヴィオス陛下と会って情報を共有する事だね。あっ、今はまだ第三王子なんだっけ。とにかく、あの人なら上手くやってくれるはず。ぶっちゃけ基本的には陛下にお任せが一番いいと思う。それに、ヴィーカ様に連絡できるのは陛下だけだから」

 

 大目標は屍王と魔王の討伐である。その為にやるべき事をしようというのだ。

 一つ目は、第三王子と情報を共有する事。先んじて情報を渡しておけば、何事も先手を打てるのである。

 

「でも、信じてもらえるッスかね?」

「それは大丈夫。にゃあに秘策ありニャ」

 

 そう言って微笑むクニュフには、ジノヴィオス殿下に突拍子もない未来を信じさせる自信があるらしい。

 

「二つ目。魔王軍の幹部、邪仙の討伐……要するに猫又一味の壊滅。主にあたし等が頑張るのはこっちかな」

 

 二つ目の課題は猫又一味の討伐だった。

 猫又一味が旧魔王軍の関係者なのは既知の情報である。一つ目と違い、こっちは王子ではなく俺達が出張る必要があるらしい。

 

「猫又も王子に任せられないのか?」

「少なくとも、あたしだけは直接出向く必要があるんじゃないかな」

「というと?」

 

 問うと、彼女は例の暗黒空間にアタッシュケースを戻した。

 収納魔法とは違う雰囲気である。まるで影を操っているような?

 

「パパに分かりやすく言うと、あたしって空間使いなんだよね。これは猫又の長女の能力と同じなんだ。見た事あるでしょ? ラリスが今一番警戒してる影の転移。猫又の本拠地は、この能力がないと行けない場所にあるの」

「つまり、クニュフが入口を開けるってことか」

「ご明察~。あたしが入口を開けて、奇襲をかけて、親玉を潰す事になるんじゃないかな。これはベストな時期があるから、陛下と調整してカチコミかける感じだと思う」

 

 影の転移能力。以前、十三番時代のレノを強制転移させていた謎技術だ。

 どうやら、アレは猫又一味の長女の能力だったらしい。クニュフはそれと同じ能力を持っていて、猫又討伐作戦ではこれを使って本拠地に乗り込むのだ。

 影の転移。物凄い強能力なのは確かだが、問答無用のワープ能力ではないって事は把握している。実際、アルヴの森の結界はすり抜けられないし、王都やリント市に張ってある結界も通れないのだ。

 

「三つ目、これはシンプルだよ。パパ達には、今よりもっとも~っと強くなってほしいんだ~」

「へえ? つまり、此度の敵はそれだけ強大という事ね」

「そゆこと~。屍王は言うに及ばず、今のままじゃ未完成の魔王も倒せないかなぁ。本当ならどっちも現れる前に潰したいところだけど、今まで計画通り進んだ事とかないし、保険かけときたいニャ~って」

「具体的には?」

「パパが言うとこのハック&スラッシュだね」

 

 三つ目は得意分野である。猫又討伐作戦と屍王の出現に備え、レベリングをしようというのだ。

 ようやく俺達らしくなってきた心地である。やはり暴力、暴力は全てを解決する。

 

「なるほどな……」

 

 屍王および新魔王討伐RTAのチャートをまとめると、こうである。

 まず、何はなくとも第三王子に連絡し、屍王と魔王について情報共有する。

 然る後に猫又一味の本拠地に奇襲をかけ、これを討伐する。

 待ち時間の間は迷宮でレベルアップだ。いくら第三王子が上手くやってくれても、イレギュラーは発生するのである。

 

「それで未来は変えられるか?」

「分かんない。けど、マシにはなるはず」

 

 が、当のクニュフに世界を救える確証はないらしい。

 第三王子が下手をこくかもしれない。俺達が猫又一味に負けるかもしれない。もしかしたら、過去に戻っても屍王には勝てないかもしれない。

 かもしれない事ばかりだ。けれど、クソ未来のシャロ達は過去に未来を賭けるしかなかったのだろう。

 

「私のいた未来は、本当に酷かった。それをなんとかするには、今しかないんだ。だから力を貸して欲しい。私に、皆を助けさせてほしい」

 

 その上で、未来から来た娘――クニュフは神妙に頭を下げてきた。

 しかも土下座だ。本当の本当に、伏してお願い申し上げているのである。

 俺達は目を見合わせて、頷き合った。

 

「まぁこんな事言われて無視はできねぇッスよね~」

「右に同じくです」

「けれど、肝に銘じておくことね。もし貴女が私達を裏切るようなら、私が貴女を消し飛ばすわ」

「にゃはは、ありがとニャ~」

 

 皆の言葉に、クニュフは頭を上げて微笑んだ。

 何か尊いものでも見るような、そんな目で。

 

「無論のこと俺も賛成だが、一つ気になる事がある」

 

 と、まぁクニュフに手を貸すのは確定でいいのだが、その前に訊いておきたい事があった。

 

「なに? あたしのママのこと?」

「正解。現時点でクソ未来の通りには進まない以上、クニュフの母親はどうなるんだ? って話。それにクニュフ自身も……」

「ん~、それニャ~」

 

 クニュフの母親についてである。

 それから、タイムパラドックス的な懸念についても共有しておきたい。

 

「まず、皆が言う魔王軍の猫又について説明するね。アレ等は邪仙って言って、旧魔王軍の幹部だった邪眼のファンリーが生み出した分身的な存在なんだ。邪眼のファンリーについては?」

「死んでるって話だが」

 

 邪眼のファンリー。少し記憶を遡って、思い出す。

 確か、旧魔王軍の幹部の一人で、既に処刑されているはずだ。

 あと、これまで襲ってきた魔王軍の猫又とは魂レベルで酷似しているらしい。

 

「半分正解だね。身体は滅びたけど、魂は生き延びてるんだ。で、魂だけのファンリーは死霊魔術やら何やらで自分の魂を九分割して、色々ごちゃごちゃ弄りまくって、そんで生まれたのが八人の猫又姉妹ってワケ。で、あたしのママはその末っ子で、ぶっちゃけ失敗作って言われてたんだって~」

「失敗作って……物みたいな言い方だな」

「実際そうだったらしいよ~。八体目で一番出来が悪かったから、ママは体よく実験体として使われてたんだ。まぁ今現在のママは無害だから気にしなくていいよ。今生き残ってるのは影の長女とファンリーだけ。こいつらを倒せば無事クエストクリアだね」

「なんで無害だと言えるのかしら?」

「今現在のママは実験の影響で自我のないお人形さんらしいから。で、未来の本拠地で皆と戦った時のママはカリッカリに改造されてたの」

「そうか……ん? いや待て、さっきクニュフがいないと本拠地入れないって言ってなかったか?」

「その時はもう長女がいなくなってたからね~。ママが最後の猫又としてパパ達と戦って絆されて協力してボス倒したって流れニャ」

「「「ありそ~」」」

「ありそうだけども……」

 

 なんとなく、クニュフ母の事情は把握できた。

 把握はできたが、クニュフ自身についての話はまだだ。

 

「王子に連絡して、ファンリーを倒して、クニュフの母親を助けたとして……その後、クニュフはどうなる」

 

 そこだ。屍王と魔王を対処できたとしても、クニュフ自身が救われるかどうかは不明なままである。

 本来の未来が変わったら身体が薄くなる……みたいな展開は今の彼女が健在なあたり大丈夫だろう。しかし他の展開はどうだ。何がトリガーで何がどうなるか、分かるものではない。

 

「さぁ? ぶっちゃけ分かんないんだよね~。消えるかもしれないし、このまま過去に居続けるかもしれない。どのみちやらない訳にはいかないからさ、あんま気にしてもしょうがないよ。でも……」

 

 そう答えたクニュフの声音は、ボーカロイドのように平坦だった。

 声は平坦でも、その瞳には覚悟の火が灯っていた。

 消えかけの蝋燭のような、強い火が。

 

「もし私が消えて、パパとママの間に娘が出来たら、その時は、思いっきり甘やかしてほしいなぁ……な~んてニャ」

 

 そう言うクニュフは、紛れもなく戦士だった。

 曰く、クソ未来の彼女は俺が死んだ後もずっと戦い続けていたらしい。

 身内を失い、友を失い、それでもここまで足掻いてきたのだ。

 戦士に、英雄にならざるを得なかったのだろう。

 

「……わかった」

 

 そんな娘の覚悟を、俺は蔑ろにはできない。

 ロリの意思は、すべからく尊重されるべきなのだ。

 

「はぁ~良かった良かった。これでもう任務完了って感じ。勝ったな風呂入ってくる~」

「ん、それ負けフラグ」

「にゃはは、変な知識まで流れ込んでる~」

 

 けらけらと笑うクニュフ。他方、ルクスリリアとレノは複雑そうな目で彼女を見ていた。

 

「あぁ~っと。ところで、その……」

 

 かと思ったら、桃色の目の猫又は僅かに赤面しながらもじもじし始めた。

 さっきまで戦士だった目は、素直じゃない野良猫のようにちらちらとイリハを見ていた。

 

「なんじゃ?」

「ま、また昔みたいに、膝枕してほしいニャ~……なんて」

 

 未来を語る真剣な顔はどこへやら。

 クニュフからすると、イリハは大好きな家族の一人だ。しかし、イリハからすると初対面の他人である。それも旧魔王軍と関係のある猫又だ。

 かつてよく似た顔の猫又に目を抉られそうになったイリハの内心は察するに余りある。だからこそ、クニュフも素直には甘えられないのだろう。

 ふぅとひと息。姿勢を整えて正座になったイリハは、ぽんぽんと膝を叩いてみせた。

 

「しょうがない娘じゃのぅ。ほれ、こっち来るのじゃ」

「やったー!」

 

 言うが早いか、イリハに接近したクニュフはすぐさまコロンと丸くなった。

 ロリがロリに膝枕している。素晴らしい……これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう。俺はイリハの包容力に感嘆していた。

 

「王都に戻ったらさ~。イリハママのご飯、また食べさせてもらってもいい?」

「ああ、いくらでも作ってやるとも」

「にゃはは♡ もう思い残す事はないニャ~」

 

 くそったれな未来を変える為、覚悟を持ってやってきた猫又の少女。

 そんな彼女は、未来で失ってしまった愛情を享受していた。

 なんかもう、守護らねばという気持ちでいっぱいだ。

 

『ねぇ、ちょっといい?』

 

 ややもせずわちゃわちゃし始めた一同の中、ふいにレノが【念話】を送ってきた。

 誰にも聞かれない一方通行の思念は、辺りを憚るような声色をしていた。

 

『クニュフは嘘を吐いてない。けど、何か大事な事を隠している……気がする。だからマスターも警戒しておいて』

 

 黙って頷く。まぁ隠し事の一つや二つくらいあるだろうさ。

 それに、そのうちの一つには既に気付いている。クニュフが隠したがってるんだ。隠してあげるべきだろう。

 

「暗い話ばっかしてたんで腹減ったッス! とりまタンポ餅食べるッスよ!」

「あ、それユノサキの郷土料理だよね。あたしも食べてみたかったんだぁ」

 

 それはそうと、これまで辛い想いをし続けてきた娘には、たとえ一時であっても幸せになってもらいたいと思う。

 なので、さっそく俺達はユノサキの美味しいご飯を食べる事にした。

 

 

 

 皆とご飯を食べながら、俺は荒れる内心を強いて御していた。

 今、俺の心には激情が渦巻いている。

 憤怒だ。

 

 これまで、俺達は旧魔王軍に散々煮え湯を飲まされてきた。

 旅行先でイリハを誘拐され、レノの身体をめちゃくちゃに改造され、シャロの故郷を焼いてヘカテを暗殺しようとしてきた。

 今までは後手に回らざるを得なかった。次は先手を取れるのだ。

 

 ――めちゃくちゃにしてやる。

 

 旧魔王軍だけじゃない。屍王とかいう、ポッと出のチート級チープボスもクソ食らえだ。

 クソ未来ではよくもやってくれたな。いきなり出てきて、インフレを加速させるんじゃないよ。

 新生魔王も、邪眼のファンリーも、屍王とかいうゴミカス野郎も、絶対に殲滅してやる。

 そうじゃないと、安眠できない。

 

 何より、俺達のイチャラブハッピー生活の為に。

 俺達の邪魔する奴は、死ねばいいのだ。




 しゃあっ、店舗特典情報!
 発売日は今月25日!
 一週間後です! よろしくお願いします!


【挿絵表示】


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 また、メロンブックスノベル祭りには本作の特典もございます。ポイントを使って、本作のSS付きクリアファイルと交換できます。
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 公式ページには約5万字の新章とありますが、ページ数とか校正とかの諸事情で実際に反映されるのは4.5万字前後だと思われます。
 まぁ新章以外の新規書き下ろしを含めれば5万字いく気はしますが。新章はルビや傍点を含めての約5万字という事でひとつ。
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