【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。いつもありがとうございます。
とにかく新婚旅行は中止だ。世界平和に傷が付くからな。
そんな訳で、未来から来た娘と情報共有した俺達は、キーキャラである第三王子と情報共有すべく温泉郷ユノサキを一泊二日で出て行った。大目標はバッドエンドの回避で、目下の課題は王子への連絡だ。
とはいえ、急ぎ過ぎるとあまりに怪しい。壁に耳あり障子にメアリー。各方面に怪しまれないよう、俺達は自然な速さで王都に帰った。
「はぁ~、ここが王都! 凄い人だ~! それに種族もいっぱいで……あっ、猫又の人もいる~!」
「こらこら、他人様を指差すもんじゃないのじゃ」
「やっぱこんくらいの人の多さは初めてなのか? 手紙だと人自体相当減ってるみてぇだったからよ」
「うん。まだ大丈夫だった頃もここまで沢山の人は見た事なかったかな~。危なくなってからは皆ヘイブンって安全地帯に住むようになって、そこは多くても百人いなかったもん。それ以上になると喧嘩がねぇ……」
「大変だったんですね、本当に……」
そうして戻ってきた王都は、以前と同様に異常に賑やかで過剰に煌びやかだった。
案の定、クニュフは初めての王都だったようで、あちこち見渡してはキャーキャーと感動の声を上げていた。
「美味しそうな匂い……あれ何を焼いてるの?」
「ブラッド・パインやな。純血果の一種で、魔族ならみんな大好きなフルーツや。生でも全然いけるんやけど、焼くと果肉の甘さが引き立ってそらもう美味しいんやで」
「なんか食べてく?」
「いいの!? あっ、でも無駄にご飯を食べるのは……」
「未来は知らねぇッスけど今は豊食の時代ッスよ。食いたいもんは食いたい時に食えるだけ食うッス!」
帰り道の最中、屋台で食べ歩きなんかもした。完全にお上りさんムーブである。
ポストアポカリプスな未来から来たクニュフからすると過去の食事は美味し過ぎるらしく、王都の屋台飯を食べた彼女はあまりの美味に目を白黒させていた。
「イシグロじゃねぇか。お前、旅行に行ってたんじゃ?」
なんて考えながら歩いていると、突然声をかけられた。振り返るまでもない。この声の主は……。
「受付おじさん……?」
「おん? まぁ俺はギルド受付のおっさんだけども」
「あっ、ごめんなさい! その……王都の受付おじさんは界隈では有名で……」
「お、おう、そうかい? へへっ、よくわかんねぇが悪い気はしねぇな」
挨拶しようと思ったら、先にクニュフが反応した。彼女は受付おじさんの事を知っているらしい。
ん? いや待て。俺はおじさんにクニュフについてどう説明すべきなんだ。娘と紹介する訳にはいかんし、一番自然なのは旅行中に出会った猫耳美少女あたりか。
「今度は猫又族か。しかもディングには行かねぇって話だったよな。なるほどなるほど……へっ、そういう事かよ」
かと思ったら、当の受付おじさんは例によって例の如く例のしたり顔になって謎に納得していた。
今現在、クニュフは三本ある尻尾を一本隠して普通の猫又族に偽装している。まさかおじさんから旧魔王軍に繋がるとは考え難いが。
「長いこと単独やってた時代とは別人だな、イシグロ。今じゃ同盟築いて大所帯じゃねぇか。ちぃと変な同盟だが、お嬢ちゃんも頑張れよ」
「にゃはは、黎明の子分に恥じないよう精進しますニャ~」
ややもせず、受付おじさんは満足げに歩き去っていった。
いやまぁ俺が新しいロリ連れ歩いてたら自然にロリレベリングに行きつくか。ちょっと気を張り過ぎてたかも。
「おじさんと会った事あるんスか?」
「ううん、無いよ。けどパパから話は聞いてたから」
「そっか……」
クソ未来は相当にクソらしいし、その過程で受付おじさんも……ってのは察するに余りある。
王都も無くなるらしいし、そうなるとおじさん以外の俺の知り合いも被害を受ける。ルクスリリア達だけじゃない。皆の為にも頑張らないと。
「じゃ、エージェントに会いに行こうか」
決意を新たにしたところで、第三王子に連絡すべく同派閥のエージェントに接触しに向かう。
こういう時の備えとして、緊急事態用の連絡手段ってのはあるもんで、俺はいつぞやの第三王子派閥の衛兵に声をかけた。
「すみませ~ん。実家の刀を脇差ごと失くしちゃって、どっかで見かけませんでした? 三角形が三つ並んだ……」
「あぁ、それなら三番地の露天で売られてたよ」
これで伝わるはずである。
あとは家で待機してれば向こうから来てくれる手筈なので、俺達は借りっぱなしの借家に帰宅した。
「す、凄い……! この家の魔道具、全部レア・アンティークだ! やっぱりこの時代のはどれも独特の趣があるねぇ~」
「そら未来からすりゃ骨董品やろけど、ウチ等からするとまぁまぁ新しめなんやで? いや実際ところどころ古い機構あるけども」
「枯れてるからこそ良いんだよ~。最終的にヘイブンじゃこの時期の魔道具が使われてたからね。なんたって頑丈だったからさ。あぁ~、この製氷魔道具にはお世話になったなぁ。拝んどこ~」
「やっぱし道具ってなぁ頑丈でねぇといけねぇやな」
借家に戻ると、いつになくクニュフがはしゃいでいた。
曰く、未来では魔道具技術の発展が著しく、それに伴って国の在り方も変わっていったらしい。
最も顕著だったのが奴隷市場で、これまで魔道具係として使われていた安価奴隷は需要が無くなって殆ど消滅したそうだ。それでも完全には需要が無くならないあたり、異世界の過酷さが分かるというもの。
「ん、エージェント来た」
「早いな。よし、パパが行こう」
そんなこんな家を案内していると、その日のうちに変装しているエージェント・メイドさんがやって来た。
気持ち緊張しているエージェント・メイドさんに可能な限りすぐ王子に会いたい旨を話し、クニュフから預かった「これを渡せば会ってくれる」という手紙を渡した。
こっちもすぐお会いできるよう暫くは王都で待機だ。まぁどのみち王子のスケジュールはパンパンを超えたパンパンなので、いくら緊急事態でも今日明日会える訳ではないのだが。時間との戦いである。焦燥感がないではない。
「もどかしいな。今すぐ会って話したいんだが……」
「仮にも王子様ですからねぇ。そりゃ忙しいでしょう。知りませんけど」
なので、その間にできる事をしよう。
そう思って真っ先にドワルフの店に行ったら普通に留守だった。なんだろう、ままならないね。
という訳で……。
「ハクスラの時間だ」
「その前にあたしの性能確認した方がいいんじゃない?」
「それもそうだ」
「も~パパしっかりして~」
そういう事になった。
〇
バトルフェイズに突入する前に、ユニットの性能は把握しておいて然るべき。
その日のうちにクニュフを冒険者登録し、同時に草薙の剣に加入させた。勿論、三本目の尻尾は隠したままで。
名前を書く際、クニュフはしれっと偽名を書いていた。
「わぁ、ここが鍛錬場~。ホントに異空間なんだね~」
「鍛錬場行った事ないんですね。未来の技術でも再現できなかったんですか?」
「再現以前に、もうその頃には使えなくされてたからね~」
ところ変わってコロッセオ型鍛錬場。メンバーはイリハとシャロとヘカテを除く草薙の剣である。
ここにいない面々はそれぞれ家でやる事があるのだ。シャロ&ヘカテは未来知識のお勉強だ。
二人は未来知識の学習に熱心で、その姿には鬼気迫るものがあった。
「早速だが、クニュフのステータスを確認させてもいいか?」
「おっけー。あ、でもあたしのステータスは今のパパでも見えないと思うよ?」
「なに? どういう事だ? 何が言いてぇ」
「にゃはは、初めて聞く構文だ~」
「実際どういう事よ」
と思ったら、急に梯子を外された。これには懐疑勢筆頭エリーゼも眉を顰める。
「え~っとぉ、あたしって生まれつき看破系能力が効かない異能を持ってるんだ。これ基本は隠密に役立つ異能なんだけど、それがステータスまで影響しちゃうみたいで、パパもあたしのジョブを変えられないって嘆いてたんだ~。とりま見てみてよ」
「ふむ……」
促されるまま、俺はコンソールを開いてクニュフのステータスを閲覧した。
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なんじゃこれ。
確かに、クニュフのステータスは殆ど確認できなかった。
以前、シャロのステータスを見た時より情報が少ない。隠されてるというより、バグッてるといった印象だ。
「全く見えないしジョブも弄れない……」
「欺く為の切り札を隠してるんじゃない? シャーロットの時の万能ポーションを飲ませましょう」
「怪しいのは分かるけどさぁ、あれ苦いから嫌いなんだよねぇ」
「怪しいわね……」
「飲むよ~飲むからその目で見るの止めて~」
シャーロットのステータス隠蔽は状態異常解除の魔法薬で解除できた。なのでクニュフにも飲ませようという話。
てな訳で例の魔法薬を手渡すと、彼女は不承不承とばかりに一息に呑み干した。
「ぐえー、不味いもう一杯……」
「どう? 見えるようになったかしら?」
「変わらん。少なくとも状態異常の類いじゃないみたいだぞ」
「だから言ったじゃ~ん。レノママ聖水出して~」
「ん、好きなだけ飲むといい」
「ドライフルーツもあるッスよ」
「どうしましょうか? ジョブもステータスも確認できないのでは、どういった連携を取ればいいか」
「まぁここは原始的にいこう」
身体測定である。
細かい数値は確認出来ずとも、他のデータと比較すればクニュフの凡そのステータスは把握できる。
ざっくり得手不得手が分かるだけでも、最低限の連携はできるはずだ。
「魔力は……そこそこあるわね」
「ん、パワーはこの中で最弱。多分シャーロットより弱い」
「足はかなり速いようですね」
「技量ってどう計るんでしょう? 箸で豆撮む作業でもさせます?」
「ニーナ先輩がいれば魔法攻撃力計れたんスけどね~」
「何故そこでニーナが出てくるのじゃ?」
そんなこんな……。
色々とデータを取ってみた結果、クニュフのステータスはこんな感じだった。
「体力は不明。魔力はルクスリリア並みで、膂力はシャロ以下説濃厚。技量はかなり高く、イリハよりちょい下くらい。スピードはルクスリリア以上、魔攻は程々でルクスリリア以下」
「パパ風に言うと、あたしってスピード特化の技量魔法戦士らしいんだよね。弱点は脆さ。つまり紙~」
「アタシが基準になってんの何でなんスか?」
クニュフ自身の申告通り、彼女の能力タイプは紙装甲の高機動技量型魔法戦士だった。
とはいえ、これはあくまで基礎ステだ。重要なのはここからである。
「次は何が出来るかを調べよう。スキルの確認もできないから、これはクニュフを信じるしかないな」
「あたしに任せて&あたしを信じて~。特能ってやつだよね。最初に説明したけど、あたしは影の力を使えるんだ~。これは主に二つの使い方があって、一つ目はこれ!」
続いて、クニュフの特殊能力を調べさせてもらう。そうしてお出しされたのは、ユノサキでも見せてもらった謎の暗黒空間だった。
猫又一味の本拠地はこれを使って入れる空間に存在するらしい。あと、転移だけじゃなく収納魔法みたいにも使えるのだ。
「これはシンプルに影空間って呼んでる。入口と出口を出す事ができて、こうやって物を出し入れする事もできるし、自分を出し入れして簡単な転移なんかもできるんだ~」
説明しながら、クニュフは物を入れたり取り出したり、近くの入り口に飛び込んで遠くの出口から出たりしてみせた。
「で、こういう使い方もできちゃうんだよ~」
自身の近くに開けた入口に手を突っ込み、壁の近くに開けた出口から手で壁を殴る。シャロも似たような事ができるが、こっちの方が技の出が早い分実戦的だ。
あと、壁の向こうに出口を開ける事はできるそうだが、壁の中には出口も入口も開けられないらしい。ワープして石の中にいるってのは仕様上無理なのだ。
「転移のルーンとは何が違うのかしら?」
「似てるけど原理が違うかな~。シャロちゃんのは門と道で、影空間は能力者以外感知できない別世界……みたいな? ヘカテママが言うには始祖の転移とも違うらしいよ~」
「素人からすると全部同じッス」
「過程はともかく結果はね。あと、あたしの力じゃそこまで遠くに出口を作れないから、そのへんルーンのが上かな。移動させられる人数にも制限あるし」
「つまり、本拠地攻める時は少人数で行くしかないって事か」
次いで影を使ったナイフジャグリングや上昇技なんかも見せてもらい、やがてクニュフは影を閉じた。
影空間。見るだに聞くだに強能力である。空間使いはどんなジャンルでも強いのだ。我知らず、俺は口角を歪めていた。
なら、あの使い方をするとどうなるんだろう……?
「にゃはは♡ 次にパパは、それ通ってる最中に閉じたらどうなるの? と言う!」
「それ通ってる最中に閉じたらどうなるの? ハッ!」
「考えること未来と同じなのウケる~。まぁ結論から言うとパパの考えてるようにはなんないよ。ほら」
言って、クニュフは影空間の入口に棒を突っ込んだまま閉じてみせた。
すると、棒は反発するようにして影空間から弾き出された。熱湯に指突っ込んだ時みたいに。
「入口だけだとこーゆー風に戻ってくる。そんで出口も使うと……」
次、出口有りの影空間に棒を突っ込んでから閉じる。すると棒は出口の方に押し出されて飛んでいった。棒手放さなかったらどうなってたんだ?
なるほど、空間切断による捻じ切りは出来ない訳か。で、僅かでも出口から物がはみ出してたら出口方向へ排出される、と。
しかも凄い勢いで……。
「で、次にパパはこう考える。その強制排出で加速する事はできないの? って。結論から言うと出来るよ」
言うなり影空間に飛び込んだクニュフは、出口から身体が露出したと同時に影空間を閉じ、先の棒同様に凄い勢いで出口から射出された。
おお、という感嘆の声。見るに、単に出口から強制排出されるよりも勢いつけながら強制排出される方が排出時の加速は強くなるっぽいな。
これはこれは、実に実に……。
「あっ、今ピーンと来たッス! 次にご主人は、実に面白い……と言う!」
「実に面白い……ハッ!」
「今のは回避できたでしょう……」
「にゃはは、取られちゃった~。そもそも、この使い方を考えてくれたのパパなんだよね。ついでに“
それから、上機嫌なクニュフは影跳びの応用を披露してくれた。
投げナイフを多重影跳びで超加速させたり、上手いこと足に使い続けて疑似飛行してみたり、好きなタイミングで好きな方向に加速してみたり……。
「いいねぇ……」
「いいでしょ~?」
クニュフは楽しそうだ。俺も楽しくなってきた。
なんにせよ、グレートですよこいつは。
「で、二つ目はなんなのじゃ?」
「二つ目? まぁこっちは地味かな。こんな感じ」
言って、暗黒空間を作ったクニュフは、その中に全身すっぽり潜り込んで門を閉じた。
暗黒塊となった影は地面を這いずり、やがてクニュフがヒョッコリ顔を出した。
「こうやって影に潜る事ができるんだ。ずっと入れるのは使用者のあたしだけなんだけどね。これで敵地に潜入して内部からボコボコにしたり、機密情報盗んでたんだよ~」
「エグいですねぇ」
「物騒なのじゃ~」
「ちなみに、話によると猫又長女の影空間はもっと凄かったらしいよ~。超長距離転移とか影を鎧にしたりとか、影空間を千切って簡易転移装置として他の人に使わせたりできたんだって」
「ん、わたしはそれ使われた事ある」
「その長女はどれくらい強いんだ?」
「分かんない。でもそこまで強くないと思うよ。所詮はファンリーの分霊だからね。確か長女を倒したのは……ニコレッタだっけ?」
「ニコレッタ……あぁジノヴィオス殿下のお姉ちゃんか。王女様じゃん」
「あの女に敬称なんか要らないよ。あの人ホント馬鹿でさ~。強くて優しくて無邪気な善人なんだけど、それはそれとしてガチめに戦犯なんだよね。挙句に魔王軍の罠に嵌って死んじゃうし、どうせ死ぬなら子供産んでから死んでほしかったな~」
「こらこら、汚い言葉を使うでない」
「おっと失礼。つい本音が出ちゃった。今のは忘れて?」
なんてお喋りをしながら、影跳びでポンッと排出されるクニュフ。気を抜くとクソ未来の闇歴史が漏れてきて大変である。
「で、貴女は戦えるのよね?」
「もっちろん! あたしって無駄に戦闘経験だけはあるから対人戦は特に強いよ。まぁ火力はそんなでもないから、そのへんはエリーゼママに一歩譲るかな」
実際、クニュフは俺が死んだあとのクソ未来では長く長~く戦い続けてきたらしい。
どうやら、どこぞのニンジャ絶対殺すニンジャのように各地の魔王軍関係者や屍王軍関係者をスレイしまくっていたそうだ。
恐らく、この中では最も実戦経験が豊富なのだろう。痛ましい限りである。
「具体的には何をどうやって戦うんだ? 得意武器とかは?」
「にゃは! よくぞ訊いてくれましたニャ! 今からあたし自慢の武器を披露したいんだけど、ここで出しちゃってもいい?」
「あぁ今まで警戒されないよう武装してなかったのか。いいぞ」
「許可が出たところで……はい!」
影空間から、先の日記等を入れていたのより一回り小さなアタッシュケースを取り出すクニュフ。
そして、ロックを外し、俺達に見せるように……。
「じゃじゃーん! にゃあはコレを使って戦うのニャー!」
パカッと開かれたアタッシュケースには、何も入っていなかった。
よく見る。やっぱり何も入っていない。
「なんも入ってないけど?」
「よく見て~。武器っぽくないけど、あたしはコレ使って戦うんだ~」
「いや、武器とかそれ以前にホントに何も入ってないんだ。概念的な話?」
「いやいやそうじゃなくってぇ……アイエエエ!?」
なんて言いつつ覗き込むなり、クニュフはマッポー世界の市民のような情けない叫び声を上げた。
「ま、マジでない! 無いじゃん! どどどどうしようどうしよう! よりにもよってアレを失くしちゃったの!? ウソでしょ? 予備はあるけど戦闘力ガタ落ちどころの騒ぎじゃ、それに……!」
何度もケースを開け閉めしたり、手を突っ込んでガサゴソしたり、ひっくり返してバサバサしても出てこない。
次いで影空間の中に手を突っ込んで劇場版の猫型ロボットのようにポイポイとアイテムを放り捨てていく。ケースに入ってない荷物は殆ど着替えやナイフとかの消耗品だった。
「な、失くした……無くなっちゃった。他は大丈夫だったのに、どうして……」
やがて、クニュフはマジの絶望顔で膝をついた。
エリーゼと顔を見合わせる。ホントのホントに絶望してるっぽい。武器一つでこんなヘコむもんかね?
「その鞄に入れとったら平気って言うてなかったかのぅ?」
「そのはずなんだけど、実際はよく分からないってヘカテママが言ってた。だから、思い出の物を失くすのも覚悟しときなさいって……」
「まぁまぁ武器くらいなんスか。形あるもんはいつか壊れるッス」
「違うの! アレがないと、アレじゃないとダメなの!」
彼女の受けたショックは尋常ではないようで、未来から来た猫又少女はぽろぽろと涙を流し始めた。これには一同困り顔である。
「大丈夫だ。どれだけ高いやつでも、代わりになるの買ってあげるから……」
「そうじゃないの。パパの、形見だったんだ……」
「……あぁ」
それは、そうか。
メイン武器を失くしたショックより、俺の形見を失ったのが悲しかったのか。逆の立場だったら俺も泣く。
ふと、思いつく。俺の形見というなら、ワンチャン今持ってるんじゃないか?
「未来の俺はクニュフに何を渡したんだ? 黎明のルーンソード?」
「黎明は折れちゃったから、パパ新しいの使ってた……」
「折れたのか黎明」
「あたしが受け継いだのは、ヘーファの首飾りっていう深域武装で……」
「ん? あぁこれ?」
「……え?」
なんだ、俺の形見ってコレの事だったのか。
懐に入れてたヘーファの首飾りを見せると、クニュフは涙を流しながら硬直した。
「そ、それ! もう持ってたの? いつのタイミングで……いやそうじゃなくて!」
「あげるよ」
「えぇ!? でも、これは今のパパが使ってるから、あたしに譲ったらパパの戦闘力が……」
「ぶっちゃけお守りなんだ。それに、多分これはクニュフにあげる為に手に入れたモノなんだと思うから」
「あ、あぁ……ありがとう。パパ、本当に……」
半ば強引に握らせると、首飾りを受け取ったクニュフは大事な宝物を抱くようにして胸に抱き寄せた。
「ありがとう、パパ♡ 大好き♡」
そして、今まで見たことないくらいの邪気のない笑顔を見せてくれた。
やっぱり、守護らねばならんね。この笑顔は。
「それを使うの? 大した深域武装じゃないって話だけれど」
「う、うん! これがあれば、私は黎明の後継者になれるんだ!」
気を取り直して、涙を拭ったクニュフはヘーファの首飾りを装備した。
クニュフはオーバーサイズのパーカーを着こなすオシャレ女子だ。前開きの胸に銀の首飾りを下げると、これがなかなかバランスが整って見えた。
そういえば、このパーカーも未来装備なんだよな。雰囲気的に防具っぽいが。
「悪いけど、その装備品もリバース・エンジニアリングさせてくれないか? 今に活かせる技術があるかもしれない」
「え? いいけど、でも防具としては全然大した事ないよ?」
「そうなの? てっきり未来技術満載の最強防具なのかと」
「確かに未来の防具なんだけど、物資不足の中で作った物だからこの時代の防具よりずっと弱いんだ。補助効果も“自動修復”しか付いてないくらいだし」
「そっか。なら、新しいの作ろうか」
「えっ、いいの? あたしはこれで充分だから、お金は皆の為に使った方が……」
「パパがクニュフにプレゼントしたいんだ。ダメかな?」
「も、もう♡ パパは娘に甘いんだから~♡」
武器はそれでいいとして、防具は新調しよう。
なんて思っていたら……。
「あれ? この首飾り、まだ
「覚醒?」
なんかいきなり新ワード出てきたゾ。
覚醒について詳しく知りたい。今すぐ説明してほしいのだが。
「ん~、詳しくはまた今度話すとして、ざっくり言うと深域武装ってもう一段階強化できるんだよね。もしかして、この時代だとラザファムの大鎌とかリギウの偽宝剣とかもまだバニラ状態な感じ?」
「バニラが何かは知らねぇッスけど、覚醒ってのはしてねぇッスね」
「この宝剣に、まだ先があるということ?」
「うん。じゃあ今度覚醒のやり方も教えてあげるね。危ない危ない、気付かなかったらヤバかったねコレ……」
レア武器の覚醒……なんていい響きなんでしょう。大変に気になるが、ともかく今はクニュフの戦力確認である。
「ごほん。じゃあ、あたしがどんな風に戦うか見てて~。得意技は、ズバリこれ!」
気を取り直して、ヘーファの首飾りを握ったクニュフは慣れ切った動作のように魔力を流し込んだ。すると首飾りは瞬時に形状を変化させ、瞬きの後に長大な鉄の棒を形成した。
いや、棒ではない。俺はこの形を知っている。それも、かなり好きだったアニメの主人公が持っていた物だった。
それは、まさに……。
「デグチャレフ……対戦車ライフル型の銃杖か」
「その通り! なんたって、クニュフちゃんはイシグロの後継者だもん。だから、こういう魔法だってできちゃうの」
クソデカライフルを腰溜めに構えたクニュフは、その銃口を壁に向け、グリップからバレルへ魔力を流し……。
「【
略式詠唱と同時、特大銃杖の先端から俺の十八番たる射撃魔法が放たれた。
今のは威力重視の単発射撃だ。魔法の精度も凄まじいが、よく見れば件の銃杖はフル
「どう? 凄いでしょ?」
「凄いな。魔法の練度も凄いけど、何より銃杖の完成度がヤバい」
「これは狙撃用の銃杖だよ~。やろうと思えばこの銃杖でも連射とかできるけど、あたしは射撃魔法の性質に合わせて銃杖の形状を切り替えてるんだ~」
ヘーファの首飾りの扱いに自信があるのは事実だったようで、対物ライフルだった銃杖は瞬時に次々と形を変えていった。
面制圧用連射重視のマシンガン型銃杖。俺の長銃杖に似たレバーアクション式。それから爆破魔法用らしいロケットランチャー型。本当に色々あるな。ロマンが溢れる……。
「で、近接はこれ使うの。ピュア・ヒヒイロカネ・カタナ~」
「サカナ~みたいな言い方」
「無月流剣術ですね。それも素晴らしい腕前……」
銃杖を鉄刀に変えたクニュフは、そのまま無月流の型を披露した。
その動きは極めて基本に忠実で、如何に練習を繰り返してきたかが分かるほど流麗だった。
「無月流剣術はこんな感じ。剣もいけるでしょ?」
「素直に凄いのじゃ」
「てゆーか普通に才能アリアリですね。ざっくりシャロさん百人分くらい」
「ん、百シャロ……」
「嵐極拳もできるよ~。こうやって籠手作って……ほら」
「うお、急に凄い発勁! 天才かな? 正体見たりって感じですねぇ」
「ついでに真血術も使えるから、魔力の燃費もいいんだよね。さっきからガンガン異層権能使えてるのはコレのお陰」
「バチクソに英才教育じゃないッスか。いいんスかこれ?」
「まぁ芸は身を助けるって言うし」
籠手を生成し、嵐極拳の型をしてみせ、発勁を使ってみせ、真血術も使ってみせて魔力回復をしてみせる。
その他、短剣を生成して投擲してみたり、普通の現代ラリス式魔術を使ってみたりと、彼女の手札は実に多彩だった。
「……っと、こんな感じかな。ありがとうございました。ねね、凄いでしょ? 褒めて褒めて~」
「ああ。一生懸命努力してきたんだな。凄いな、クニュフは」
「にゃは~♡ 褒められちゃった♡ うれし~♡」
ドヤッとかまちょしてくるクニュフ。頭を撫でてやると、僅かに赤面していた。
遠隔は銃杖による射撃魔法で戦い、近接は刀と拳で斬・突・打の物理属性をカバー。魔法属性に関しては射撃魔法以外にも普通の現代ラリス式を使えるようだし、序盤中盤終盤隙が無いと思うよ。
「なるほど、だから黎明の後継者なのね……」
「看板に偽りなしでしょ? で、どう? あたしの実力を確かめる為に手合わせとかしてみる?」
「じゃあ、まずは未来で一番最初に死んだらしいワタシがやりましょう。今のでクニュフの癖は分かったので、一回わからせてやりますよそりゃ」
「にゃはは♡ ユゥリンママとの手合わせ、久しぶりニャ~♡」
そうして、ある程度の確認を終えたクニュフはユゥリンと模擬戦を始めた。
影空間を巧みに使い、距離に合った武器へと瞬時に切り替え、見事な足捌きで立ち回っている。ユゥリン同様、彼女は戦いが巧かった。
何より、対人戦に慣れているのだ。
「う~む」
しかし、違和感があった。
ユゥリン相手に互角なのは普通に凄いのだが、まだ本気を出していないように見えるのだ。
完全に勘だが、俺が直剣縛りしたらあんな感じの動きになるんじゃないかって印象である。
「ぐえー負けたンゴ」
「はぁ、はぁ……二度と歯向かうんじゃねぇですよ。だがその功夫誉れ高い。認めましょう。今この瞬間から、クニュフは嵐極拳士です」
「やっぱりタイマンのユゥリン師匠は強いなぁ」
なんか分かり合っている。戦って分かり合う展開、異世界女子同士にもあったらしい。
続いてグーラとも戦い始める。鉄塊のような大剣を小枝のように振り回す彼女を相手にしても、未来の英雄は笑顔を崩さなかった。
「楽しそうね……」
どこからどう見ても、大好きな飼い主に遊んでもらっている猫そのものだった。
とても幸せそうだ。
「明日は装備の注文をしましょう。流石に、もっと身を守れる補助効果の付いた防具を着るべきね。良い戦士には良い武具が必要よ」
「認めてあげた感じ?」
「アナタが認めてるもの。けれど、こういう役は必要でしょ?」
ともかく、やる事はいっぱい。やりたい事もいっぱいだ。
そうして暫く、俺達は楽しそうに家族とじゃれ合う猫娘を見守るのであった。
しゃあっ、更新!
発売日は今月25日!
次の水曜日です! よろしくお願いします!
【挿絵表示】
というわけで店舗特典情報!
ゲーマーズ様は、書き下ろしSSとルクスリリアとエリーゼのアクリルスタンドになります。
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とらのあな様は、書き下ろしSSとタペストリーになります。
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メロンブックス様は、書き下ろしSSとタペストリーになります。
また、メロンブックスノベル祭りには本作の特典もございます。ポイントを使って、本作のSS付きクリアファイルと交換できます。
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