【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
クニュフの性能検証の後、家に帰ると王子からお手紙が届いていた。
明後日、超頑張って時間作るからヨロシク……との事。
アポの迅速さもそうだが、手紙のやり取りに関しても凄まじきスピード感である。恐らく俺発の緊急事態宣言をガチで重く見てくれているものと思われる。有難い話だ。
王子との密会は明後日。空いた時間は有効活用せねばならんね。
「どうだ様子は?」
「まだ半分も読めてへんな。ウチとしてもすぐ四脚リヴクラフト解析したいんやけど、今は取説を読む為の解説書を読む為の知識を得とる感じや」
「アタイの方は原初のルーン文字を一個一個確かめてるところだ。これ先に知ってたらルーニアはもっと重宝されてただろうによ」
ちなみに、留守番をしていたシャロ&ヘカテは今しばらく未来知識の詰め込みに集中するそうだ。
以前ユノサキでクニュフから提供された未来知識は氷山の一角だったようで、今現在我が家の倉庫は二人宛ての書類で一杯になっていた。
また、ある程度本の山を崩し終えたらクニュフのリヴクラフトをバラす予定だ。気の遠くなる道程だが、二人は鬼気迫りつつも楽しそうだった。
「現代のアダムスおじさんと会うの楽しみだニャ~」
「ん、未来のドワルフは実際英雄。彼がいないと早々に詰んでた」
翌朝である。
俺とクニュフとレノの三人は、転移神殿付近のラグジュアリー・エリアにある武器工匠ドワルフの店にやってきた。
目的は一つ、クニュフからドワルフに未来の手紙を渡す為だ。レノも付いてきてるのには理由がある、らしい。
「お邪魔しまーす」
お留守だった昨日と違い、今朝の扉は普通に開いた。小気味よくベルが鳴り、やがて木と本の匂いが鼻孔を擽る。
「おぅ、イシグロの旦那じゃねぇですかい。なんだか久しぶりな感がありやすねぇ。へへへっ」
もはや聞き慣れた声がする。声の主の名はアダムス。ドワーフみたいなエルフことドワルフだ。
ドワルフは武器工匠である。工匠とは、異世界において何かしらのスペシャルな設計士の事で、武器工匠は武器全般のヤバイ級設計士の称号だ。
思えば、彼とは転移一年目からの仲である。初代愛剣・無銘を筆頭に、俺が使っている武器の殆どは彼の手による代物だ。彼と出会わなければ強敵に勝てなかっただろうし、彼の店を教えてくれた受付おじさんは間接的に大恩人である。
「おっと、また見ねぇ顔が増えてら。今度は猫又のお嬢ちゃんかい。あっしはアダムスってんだ。よろしくな」
「うん……はじめまして、アダムスさん。私はクニュフ、よろしくね」
いつものように挨拶すると、クニュフもぺこりと一礼した。
例のクソ未来において、二人は顔見知りだったらしい。クニュフ視点だと初対面ではないが、ドワルフ視点だと初見さんだ。未来から来た猫又娘の内心は推して知るべし。
「で、今日は何の依頼……って聞くまでもねぇよな! クニュフ嬢の武器だろ? 任せとけって!」
「それなんですけど……」
いつも通り受付前の椅子に座る。レノとクニュフもロリ用の椅子に腰を下ろした。
普段ならこのまま武器のオーダーメイドをする訳だが、今日はそうじゃないのだ。
「ちょっとコレを……」
「なんです? それ」
「アダムスさん宛てのお手紙だよ。これを読んでほしいんだ。できれば、真剣に」
と言う事で、店主の了解を得た俺は収納魔法から例のアタッシュケースを取り出し、机の上に置いてドワルフに見えるよう開いてみせた。
ケースの中には、如何にも手作りな本や紙束や小箱等々いろんな物が入っていた。その一番上には、シンプルな装丁の手紙が乗っかっている。
「はあ。あっしに手紙ねぇ? まぁよく分かんねぇけど構わんぜ。あぁ旦那等は適当に暇ぁ潰しといてくれや。うちにゃ茶なんて気の利いたモン無ぇからよ」
促され、訝しげな顔のドワルフは手紙を手に取り、異世界人がスマホ感覚で携帯している短剣で封を切った。
そして、内容を確認するなり目を見開いた。
「おいおい、こりゃあ……」
美形の森人が猫又少女と手紙を交互に見やる。
彼が開いているのは、未来のドワルフから過去のドワルフに宛てた手紙らしい。クニュフ曰く、未来ドワルフに「中は絶対見るな」と念押しされたとかなんとか。
「イタズラって訳じゃあ、なさそうだな。え?」
「アダムスさんなら分かるでしょ?」
「だろうがよ……」
呆れるような声を漏らし、ドワーフみたいなエルフは真剣な面持ちで手紙に視線をやった。
俺達は彼が読み終えるのを黙って待った。ふと、紙の匂いに混じって煙っぽい匂いがするのに気が付いた。これ、煙草の匂いか。
「……クソが」
ややもあり、手紙を読み終えたらしいドワルフはソレをぐしゃりと握りつぶした。次いで近くのゴミ箱に投げ捨てた。彼の目は限界まで見開かれ、激しい動揺が見て取れる。
ドワルフらしくない。そう思ったのは、俺がまだ彼の事をよく知らないからだろうか。
「こっちも読んで。それから、注文依頼を出したいんだ。内容もアダムスさんなら分かるはず」
「あ、ああ……」
そんな彼の様子に気を遣っているのかいないのか。続いてクニュフはアタッシュケース内にあった紙束を手渡した。
応じるがままに一ページ目を開いた瞬間、ドワルフは先にも増して大きく目を見開き、全身を硬直させた。眼球だけがギョロギョロと激しく動いている。
一秒、二秒……やがて十秒程経過した後。
「ふざけっ……!」
椅子を蹴倒し、勢いよく立ち上がった。
彼の全身からは、蒸気のように怒りの魔力が噴出していた。憤怒に塗れた双眸が俺とクニュフを射貫いている。
暫し、視線を合わせる。俺にはドワルフが怒っている理由が分からない。
「……お嬢ちゃん、あっしがコレ読んで喜ぶタマじゃねぇ事くらい分かってんだよな。手紙がマジのガチならよ」
やがて怒りの魔力を抑えたドワルフは、クニュフの目を見て腹に響くような低声を発した。
「承知してる。けど、手紙は読んでない。パパに誓えるよ」
対するクニュフは背筋を伸ばして真っすぐ彼の目を見返している。
痛いくらいの沈黙が、決して広くない店舗に充満した。
「……悪い。旦那等相手にキレてもしょうがねぇわな」
沈黙の末、感情を制御した森人は倒れていた椅子を戻して座り直した。
見れば、ドワルフは少し気まずそうな顔をしていた。まるで怒った事自体を恥じているような。
あの手紙には、普段温厚なドワルフをああも怒らせる内容が書いてあったようだ。
「銃杖に最適化された魔術式と、新型光力銃の設計図。それが書いてあったんでぇ」
俺が内心抱いていた疑問に答えるように、彼は今一度紙束を手に取って言った。
何故それで怒るのか。またも浮かんだ疑問を察してか、彼は言葉を継ぐ。
「楽しくパズル解いてる最中に横から正解教えられたらムカつかねぇか?」
「あぁ……」
ネタバレを食らったらしい。そらキレるわな。
「でぇ……まぁこれを書いたのは間違いなくあっしでさぁ。アレやコレやと、他人に知られたくねぇ秘密をベラベラつらつら……。あっしが嫌がる事をこうも的確に突けるのはあっししか居ねぇ。その最たるもんがコレでさ」
言いながら、彼は机の上に件の紙束を広げ、俺達に見えるようページをめくってみせた。
そこには、何がなんだか分からない文字列や数式に加え、それらしいパーツの絵と解説が書いてあった。
これが未来のドワルフが過去の自分に送った未来知識らしい。
「それだけじゃあねぇ。あっしが探求してる題材の要約をパンパンパンパン出してきやがる。ムカつくったらねぇぜ」
吐き捨てるように言って、ドワルフはおもむろに引き出しから葉巻を取り出した。
次いで手のひらサイズの着火魔道具を手にしたところで、こっちを見てピタリと停止した。
「あぁ……すまねぇ。ここにゃあお嬢ちゃん達がいるんだったな」
「あたしは別にいいよ。皆好きだよね、煙草。あっちじゃ葉っぱの取り合いで刃傷沙汰とか起こってたくらいだし」
「心が荒むと品が無くなるって訳か。ケッ、二度と吸わねぇ」
さっき手紙を入れたゴミ箱に葉巻を投げ捨てたドワルフは、一転切り替えるように相好を崩してみせた。
「へっへっへっ……胸糞ぁ悪ぃが、悪い事ばっかじゃあ無ぇぜ。その未来とやらじゃあ素材不足で試せなかった実験を今のあっしはオモクソ試せる。まぁあっしだけズルして一歩リードってのぁ格好悪くて仕方ねぇが、そうも言ってられなかったんだろうな。未来のあっしは」
ざまぁみろだ。そう言い、別の本にも手を伸ばす。それから中身をペラペラとめくり、アハ体験と小さなストレスがごちゃ混ぜになったかのような笑みを浮かべた。
ともかく、どうやらドワルフもクニュフのタイムスリップを信じてくれたらしい。なら話は早かった。
「その未来の知識で、今持ってる武器の強化をしたく考えております。お願いできますか?」
「旦那への協力を惜しむつもりはねぇぜ。けどなぁ、実際に意味あんのは旦那の杖と天使のお嬢ちゃんの銃だけだと思うぜ」
「ん、光力銃?」
パタンと本を閉じたドワルフは、改めて俺の方を向いてから口を開く。
「伸び代の話だよ。今の旦那が使ってる黎明のルーンソードは、そりゃもう凄まじい逸品なんだぜ。奇跡に奇跡をかけて仕上がった最上大業物だ。どんだけ進んだ知識があろうが、ちょっとやそっとじゃあ格は落ちねぇ。それに比べて、銃杖やら光力銃やらはまだまだ発展の余地があンだ。だから未来のあっしはコレ等に集中したんだな。厳密に言うと、射撃魔法に適した魔術式だがよ」
「なるほど……」
要するに、昔から使われてきた武器種の開発技術は今現在かなり枯れていて、未来においても然程進化しなかった。
対して、光力銃は生まれたばかりの技術故に伸び代があったので、射撃魔法に適した銃杖の研究共々こっち方面を伸ばそうと思ったって訳か。
「あっしに出来るのは光力銃と旦那の銃杖の強化だけだ。そんで未来じゃ試せなかった技術やら理論やらぶち込んで、今のあっしにしか作れねぇマジのガチを作ってやるよ」
ともかくドワルフとも協力を取り付けられた。とにかく今は力がいるのだ。
今更だけど俺ちゃんいつも力欲してるな。闇堕ちしたら「力が欲しいか?」系の契約とか普通に結んじゃいそうで怖いね。
「ところで、依頼料についてですが」
「あ? んなもん要らねぇよ」
情報を共有したところで新武器にかかるお金について話そうと思ったら、ドワルフはアタッシュケースの中身を別の箱に移し替えながら事もなげに言った。
「未来だろうが何だろうが、知識は知識。優れた知識には相応の対価を支払わねぇと工匠の魂が腐っちまう。分かるか?」
「さすがアダムスさん。全然変わってないね」
「あたぼーよ。世界がどんだけ荒れようが、あっしは死ぬまで工匠だぜ」
知識には相応の対価を。たとえ未来の自分が相手でも、彼は彼の流儀を貫くつもりらしい。
実に、ドワーフみたいなエルフだと思った。
だから信頼できる。
〇
俺達に暇はない。
ドワルフの店で新型光力銃と新銃杖を注文した後、俺達はシャロ&ヘカテを留守番に空戦車に乗り込んだ。
目的地は、王都を出てすぐの廃城――マキア城である。
「にゃは~、本物のマキア城だ~! すっご~い! 今あたし、全身で歴史を感じてるよ~!」
「分かりますよクニュフ! いいですよね、マキア城!」
「歴史もいいけれど、目的を忘れないように」
「そうだね、エリーゼママの言う通りだ。じゃあさっそく、深域武装の覚醒について説明するね~」
マキア城は以前ヴィーカさんと模擬戦をした場所だ。何故こんな所に来たのかというと、深域武装を覚醒させる為である。
曰く、深域武装覚醒の儀は迷宮や鍛錬場では不可能らしい。借家の中庭でも可能だが、出来れば人気がなくて広い場所が望ましいと。故に、マキア城にやってきた次第である。
「え~、まず深域武装とは何でしょう? はいパパ!」
「え? あぁ……確か、迷宮で死んだ冒険者の魂が固まった物……だったはず。嘘か本当かは知らんけど」
「半分正解~。厳密には、異界に在る複数の魂の結晶だね。まぁそのへんは覚醒にはあんまり関係ないから、詳細はまた今度ね~」
決闘にも使えるマキア城の広場に降り立ってすぐ、未来人の講義が始まった。
深域武装=戦死者の魂説というのは、俺も一応知ってはいる。しかし、実際はそういう説があるってだけだ。誰も確認できてないので、深域武装はそういうものとして受け取られている。
「で、そんな深域武装は使い手と共に成長するんだ。ルクスリリアママの鎌とか超分かりやすいよね?」
「ラザニアの事ッスか? まぁ五年前より明らかにデカくはなってるッスね」
それについては、俺にも思い当たる節はあった。
ちょうど今現在、出しっぱなしになっている守護獣ラザニアは、初めて召喚した時よりも明らかにデカくなっている。全高もそうだが、何より筋肉がね。
まるで長期連載で絵柄が変わった漫画キャラくらい別獣なのだ、今のラザニアは。
「つってもラザニアはともかく鎌の性能は変わってねぇと思うッス。ッスよねご主人?」
「肯定だ。攻撃力も耐久度も全く変化なし」
「成長って言い方が悪かったかな。深域武装はね、使っていくうちに持ち主と深域武装の同調率が上がってくんだ。強くなるんじゃなくて、馴染んでいくの」
「同調率?」
その話を聞いたイリハ達は、各々自分の深域武装を確かめていた。
ルクスリリアは大鎌を、エリーゼは祖父から譲り受けた小剣を、グーラは左手首に装備している超短剣を、イリハは腰の太刀を、レノは水晶を、ユゥリンは純白の槍を。
「確かに鎌を伸ばしたり動かしたりするのは楽になってるッスね。レベルが上がったからだと思ってたッスけど、馴染むって言われたら……まあ?」
「思えばわしの魔力に馴染んどる感じあるのぅ。氣も注ぎやすくなったのじゃ」
「馴染む、ねぇ?」
「ボクは全然ですが……」
「ん、わたしも全然」
「元々槍には慣れてたんで、違い分かんないですね」
「俺も同じく」
「そもそもパパはあんまり使ってないからニャー。ヘーファの首飾りも未覚醒だったし。現代ではそんなに使ってなかったんだね」
深域武装持ってる組は、シンクロ率上昇を実感している組と実感してない組に分かれていた。
ちなみに、俺も二つほど深域武装を使っているが、どちらもシンクロ率が上がった感じはない。
「深域武装の覚醒には、その同調率が最大まで高まってないとダメなんだ。現時点で確実に覚醒できるのは、ルクスリリアママとイリハママだけじゃないかな?」
「アタシと?」
「わしか?」
どうやら、ワクワク覚醒イベントに参加できるのはシンクロ実感組筆頭の二人だけらしかった。
二人の共通点は、どちらも自前の深域武装をメイン武装にして魔物を倒しているところか。一方、グーラとレノの深域武装は補助用で、エリーゼは必殺技要員。ユゥリンは単なる経験値不足とか?
「その同調率って計れないのか? あと何パーセントってのが分かれば便利なんだが」
「分かんないかな。目安としては、こいつは自分の半身だ~! って言えるくらい。ぶっちゃけ体感ベースなんだよね~」
「半身ですか。それなら無理ですね」
「具体的に何をするのじゃ?」
「それなんだけどぉ、レベル上限の突破と同じで星髄石を使うんだ。パパなら持ってるでしょ?」
「まぁ一応」
ここにきてレアアイテム消費制とな。
星髄石とは、ざっくり言うとレベル上限突破用の激レアアイテムだ。最上位迷宮の踏破で確実に入手でき、その売価は並みのボスドロップを凌駕する。
当然、いつレベル上限に達してもいいように、俺は人数分の星髄石をストックしている。促され、収納魔法から件の石を二つ取り出した。
「これをどうする?」
「簡単だよ~。覚醒条件を満たしている使い手が、同調率最大の深域武装で星髄石を砕くの」
「武器版の限界突破か。シンプルでいいね」
「いんや、まだあるよ。星髄石を砕いたら武器が迷宮化するから、そこを使い手一人で踏破して覚醒が完了するんだ~」
「武器が迷宮化……ですか。ちょっと何言ってるか分かんないっすね」
「そう、迷宮化。星髄石を砕くと武器自体が異境の門になるんだ。まぁ見れば分かるよ」
ちょっと予想外なのが来たな。同時に分かりやすいとも思った。
他方、俺とクニュフ以外は訝しそうに自分の深域武装と星髄石を見比べていた。
「深域迷宮に入ったら、使い手は試練的なのを受けるんだ~。試練の内容は人によって違くて、確かルクスリリアママはラザニアと戦ったって言ってた気がする。召喚系はそうなのかな?」
「げっ、普通に嫌なんスけど~」
「ん、深域武装が魂の結晶だとして、ソレの精神世界に入って試練を受ける感じかな。なんでわざわざ試練を? 普通に星髄石を砕くだけで覚醒完了でいいのに。よく分からない……」
「にゃあも理由までは知らないニャー」
さらに訝しむ一同だったが、俺的には素直に納得できる仕様だった。
武器との対話。あるいは武器からの試練。マンガ的にもゲーム的にも馴染みのある展開だ。
未来の俺は首飾りを覚醒させてたらしいし、当然として件の試練は受けたんだろう。どんな内容の試練だったんだろうか。ワクワクすっぞ。
「ちなみに、これ未来で偶然見つかったらしいからね。現代じゃあラリスもまだ知らないはずだよ」
「研究者じゃ絶対無理だもんな」
「とりあえず試してみては如何でしょう? その為に来たのですし」
「闇雲に戦うのは危険じゃないですか? もっと情報を集めてからでも……」
「あー、どっちみち其処には深域武装と装備中の防具しか持っていけないから準備もへったくれもないよ~」
「厳しいルールだぜ……」
「あと何度でもリトライできるから安心してね。中には瘴気とかないし、負けても死なないよ~」
「優しいルールだぜ……」
というわけで、深域武装覚醒の儀開始である。
まずはルクスリリアだ。使い慣れた鎌で、星髄石を壊せば試練の門が開かれるらしい。
「これを鎌で壊せばいいんスよね? でも売値がパネーもん壊すのってなんか緊張するッス……!」
「また取りに行けばいいんだから、思い切ってやっちまえ」
「そんな事言えるのご主人だけッスよ。ええい淫魔は度胸! 下腹に力入れて……あっ!」
「「「あっ……」」」
ゴルフボールを打つように大鎌を振りかぶるルクスリリア。が、出しっぱなしにしていたラザニアが主人を無視して先に星髄石を踏み砕いた。
すると、大きく振りかぶられた大鎌がキラキラ光り、使用者の手を離れてズボッと地面に突き立った。これに触れると迷宮に転移できるらしい。当のラザニアは「お先に失礼」と言わんばかりにキラキラ大鎌へと潜っていった。
「な、なんか締まらねぇッスけど、とりま行ってくるッス」
「行ってらっしゃ~い」
守護獣に続いて持ち主が大鎌に触れると、彼女もまた試練に挑んで行った。
残されたのは大鎌だけ。何度もリトライできるらしいが、心配だ。
「ぬわぁあああん疲れたッスもぉおおおん!」
なんて考えていたら、ルクスリリアが戻ってきた。
時間にして一秒弱である。漫画で例えると消えた次のコマで戻ってきた感じ。
「は、早かったのぅ」
「撤退した感じ?」
「いやいやいや! ギリで勝ったしめっちゃ死闘だったんスよ? マジで危うく負けそうになったッスけど、そこはベテラン冒険者としての勘で上手~く立ち回ってッスね!」
「実際、試練の時間って外からは一瞬なんだよね。中の人の体感は長いらしいけど……って、あれ? ラザニアと連携? 妙だな……」
「ッス! ラザニアと一緒にデカくて黒いラザニアと戦ったッス!」
「え~、あたしの知ってる試練じゃないんだけど~」
「覚醒の時期が違うから変わったんじゃないか?」
「クニュフに試練の内容訊いても意味なさそうじゃな。よし、いっちょ行ってくるのじゃ」
次はイリハの番である。緊張しながら石を攻撃すると、さっきと同様に太刀が光って鞘ごと地面に突き立った。
「ええい、ままよ!」
そんな感じで試練に挑み……。
「ぬわぁあああん疲れたのじゃもぉおおん!」
一秒後に戻ってきた。先のリリィ同様、疲労困憊なご様子である。
「何だか知らんがとにかくお疲れ」
「イリハママの試練は何だったの? ちなみに、未来のイリハママは謎の影みたいなのと戦う試練で、何度も挑んでなんとか勝ったらしいよ~」
「なんかシュリ様っぽい人と陰陽術だけで戦ったのじゃ。普通に負けたけど認められたのじゃ」
「おぉ、優しいパターンだ。ラッキーだったね」
「とにかく、これで二人の覚醒が済んだ訳だ。おめでとう!」
「おめでとう、二人共」
「おめでとうございます!」
「ん、おめでとう」
「オメデトゴザイマース」
「あ、ありがとうッス?」
「どうもなのじゃ?」
ミッション・コンプリートである。今は二人が先に覚醒させたが、出来れば残る深域武装も覚醒させたいな。
その為には、また最上位迷宮に潜って星髄石をゲットする必要がある訳だが、まぁ大丈夫だろう。レベリングにもなって一石二鳥だ。
「おぉ、マジで持ち運び楽になったッス! 異能選ぶ時は収納魔法じゃなくていいッスねこりゃ!」
「椅子に座る時とか地味に邪魔だったんじゃよな~」
ふと淫魔狐コンビの方を見ると、覚醒させた深域武装を出したり消したりしていた。
あれ? 二人はまだ追加異能を獲得してないし、収納魔法も持ってないはずだが。
「ごほん。覚醒した深域武装は“霊格極装”って言って、使い手の魂に収納する事ができるんだ~。ちなみに、絶対に壊れなくなった代わりに使い手が死ぬとぶっ壊れちゃうから、そこんとこヨロシク~」
「霊格極装……いい響きですね。なんだか英雄的です」
「見てくれは変わってませんね。どうせならド派手に豪華な装いになればよかったのに。もっと柄にシルバー巻くとかさ」
「霊格極装は主の死と共に壊れる? それだとクニュフに首飾りを受け継がせるなんて出来ないんじゃないかしら? 怪しいわね……」
「時系列が違うよ。その時にはもうパパと首飾りの紐付けは破棄されてたから。パパに分かりやすく言うと機種変? みたいな。要らなくなった霊格極装との繋がりは別の深域武装で上書きできるんだ~」
「別の深域武装に乗り換えた訳か。リリィ、とりま性能見せてくれ」
「あいッス! アタシの半身なんスから大事に扱うッスよ!」
霊格極装になり、収納面で便利になった大鎌を貸してもらう。
矯めつ眇めつ。見た目の変化はない。重量も変わってない気がする。帯びてる魔力も変化なし、と。
では、お楽しみ。見せてもらおうか、霊格極装となった大鎌の性能とやらを。
◆ラザファムの大鎌◆
・物理攻撃力:450
・属性攻撃力:450(魔)
・異層権能:召喚(神獣)
・補助効果1:魔力収奪(大)
・補助効果2:形状変化(伸縮)
・補助効果3:不壊
・補助効果4:形状変化(分裂)
・補助効果5:魔法会心促進(中)
・補助効果6:魔力回復(中)
・補助効果7:魔力消費軽減(小)
「基礎性能が上がってる……のもあるけど、性能が変わってる? 魔法装填が無くなって有能補助効果に置き換わってるぞ。あと新しい形状変化も付いてるな」
「え!? 魔法装填無くなっちゃったんスか? 割と便利だったんスけどね~」
「霊格極装は強くなった深域武装というより使い手に最適化された武装なんだ~」
深域武装を卒業したラザファムの大鎌は、覚醒を経てバチクソに性能が上がった訳ではなかった。
進化とか強化というより、実戦データを基にルクスリリア用にアップデート&チューニングされたという印象である。
で、中でも気になる変化が……。
「分裂ってのがあるんだけど、一回試してみてくれ」
「何をどう分裂させるんスか? ん~っと、え~っと?」
変化した補助効果の中に、形状変化(分裂)というのがあった。これは今までに無かったものだ。そもそも刃を伸ばす時も分裂してただろうに、今さら何を分裂させるんだい?
覚醒大鎌を使用者たるルクスリリアに返す。すると彼女は「むむむ」と唸って鎌をブンブンしていた。
「あ、こうッスね!」
ややもせず、ピンときたらしいルクスリリアは大鎌の柄を上下三分の一あたりで分裂させた。刃のある長い方と、石突のある短い方で。
と思ったら、短い方の突起物が僅かに伸長・肥大化し、なんか大鎌っぽい刃を形成した。大鎌と柄ではない。要するに、大鎌と小鎌の二刀流になったのだ。
その姿を見た瞬間、俺の中にある男の子ハートが爆発した。
「大小鎌二刀流! めちゃくちゃかっけぇ! やば! ちょっ! かっけぇ!」
「あの~、試練だけじゃなくて大鎌まであたしの知ってるのと違うんだけど~。二刀流ナンデ?」
「戻すと普通の大鎌に戻って。分けるとまた小さい鎌になるんスね。え~、鎌二刀流とかどう考えても使いにくいじゃないッスかぁ~」
「使いこなしなさい。それが貴女の半身なのよ」
ガションガションと、柄同士を連結させたり分裂させたり大鎌モードと二鎌モードを連続で切り替えながらブーたれるルクスリリア。
とにかく使い心地を試してもらう。すると、二鎌モードでも俺のモーションチートは作用しているようで普通に使いこなせていた。
はて、ルクスリリアのジョブに二刀流適性はないはずだが。そも大鎌二つ持ちなんてニッチ適性自体存在するんだろうか? 元が一つだから大鎌一本判定です、みたいな?
「おっ? なんか小さいのは魔力の締まりが良いッスね! むむむ、【魔力の礫】!」
見ていると、ルクスリリアは小鎌で魔法を撃ってみせた。小鎌から放たれた魔法は、以前までのソレより明らかに威力が高かった。
「あ~、鎌型の杖なのか」
そして気づいた。小さいのは魔法用なのだ。
元々、ラザファムの大鎌は近接武器兼魔法触媒だったところ、分裂によって鎌と魔法触媒で分かれたのか。
鎌と鎌ではなく、鎌と杖。それなら彼女のジョブでも扱えるはず……うん、実際にそうだった。
「あたしの時はリアルイーザ様の鎌みたいに大きくなる機能が付いてたんだけどね。なんだろう、精神性の違いかな。あの時は少しでも火力が必要だったから? う~む……」
「ひゃっふー! 実際使ってみたらめちゃくちゃ良い感じッスー!」
小鎌で魔法を撃ち、伸ばした蛇腹大鎌を振り回す。物凄いテクい動きである。ゲームだったら絶対使ってて楽しいやつじゃん。
今のルクスリリアのステータスなら大鎌くらい片手ブンブンできるしな。一年目とは大違いだ。
「じゃ、次は……」
「わしじゃよ」
お次はイリハだ。綾景之太刀を貸してもらい、さっきと同じように性能を確かめさせてもらう。
そうしてお出しされたのは……。
◆
・物理攻撃力:600
・属性攻撃力:250(魔)
・異層権能:憑依(神霊)
・補助効果1=不壊
・補助効果2=魔力収奪(大)
・補助効果3=魔力蓄積(大)
・補助効果4=魔力回復(中)
・補助効果5=魔力消費軽減(中)
・補助効果6=魔法会心促進(大)
「おお。立派な太刀になっとる!」
「どういうことじゃ?」
これまで、綾景之太刀には物理会心が出なくなるとかいうウンコ・オブ・ウンコなマイナス補助効果があったのだが、それが綺麗さっぱり無くなっているのだ。
要するに、刀型の魔法触媒が、魔法触媒にもなる刀になったのである。小さな変化でも大きな進化だぞ、これは。
「翼が使いやすくなっておる! 小回りも利いて最高じゃー!」
進化した守護霊もとい神霊を使ってみたところ、イリハの飛行法に変化があった。
これまでは翼型のブースターで空を飛んでいた感じだったのだが、現在はフェニックスみたいな翼になって上下左右自由自在。ブーストダッシュは据え置きで、旋回も滑空もホバリングも思うがままである。飛行の燃費も良くなったらしく、実質無限飛行ができるようにもなったようだ。
「しかも陰陽術が使いやすくなっておる! 名実ともに陰陽術専用の触媒って感じじゃ!」
陰陽式を編む速度も上がったらしい。
ヘカテ曰く、同じ魔術師でも合う杖合わない杖でその能力は別人レベルで変わるそうだ。覚醒により、汎用魔法触媒だった綾景之太刀はイリハに合った陰陽術触媒になってくれたのだ。
「これも未来のイリハの太刀とは違うんですか?」
「そうだね。未来だと、回復特化の新しい守護霊が出てきたから……」
「そんなもん増えとらんのじゃ」
「あ、そうッス! ラザニアはどんな感じになったッスかね。てな訳で出ろー! ラザニアー! うおっ!?」
「デカ過ぎますねコレは。いいガタイだ。馬力が違いますよ」
「バルクアップというよりスケールアップだな」
それから、俺達は続けて二人の霊格極装の性能を検証していった。
ルクスリリアとイリハは、本人よりも先に武器が覚醒した。可能であれば、二人も上限突破させたいところ。
「で……私達のはいつ頃覚醒させられるのかしら?」
「う~ん、どうだろう。実は深域武装の覚醒って個人差があって、めちゃくちゃ使ってたのに最後まで覚醒させられなかった人とかいたからなぁ……」
「個人差ですか……」
「個人差もそうですけど、そもそも上げやすいのと上げにくいのがあるじゃないですか。その武器で倒すと効率良いとか? もしそうだったら、グーラさんとかレノさんとかは厳しそうですね」
「ん、イリハが陰陽術で大丈夫なあたり、間接的な攻撃でも通るはず。その点グーラはわたしよりマシ。ぶちぬき丸に繋げて使えばイケると思うから」
「レノママはどのみち、だよ。だって装備してないんだもん」
「や、これ装備すると耐性面のバランスが崩れる。やっぱり覚醒はしなくていい。今後も道具として運用していく所存」
「そうだね、それでいいと思う。あ~、あたしの首飾りも育てなきゃな~。間に合うかな~」
なんて話をしながら、その日はマキア城で検証と鍛錬をするのであった。
理由はどうあれ、強くなってくのは楽しいもんで。
今くらい、素直に喜んだっていいだろう。
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