【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。感謝です。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
火龍迷宮。
ランクは中位。だだっ広い荒野からスタートし、砦を守るドラゴンを倒して終わる複合型迷宮である。
出て来るエネミーはドラゴン系で固定であり、その名の通り翼が生えてて飛んでる奴が多いのが特徴だ。つまりは飛行対策必須で対龍特効がぶっ刺さるので、逆に言うとその二つさえしっかりしとけば驚くくらいヌルくなる。
また、稼ぎはショボいがザコでもボスでもドロップアイテムは武器素材として優秀だ。魔物のビジュや王道のシチュも相まって、割と人気な迷宮であるらしい。何より俺達的に素晴らしいのは、倒した時の経験値が美味いところだ。
クニュフメインの育成なら、尚の事。
「撃ち落とすよ~、はい、【
バンバンバン! 全長二メートルのクソデカ銃杖の銃口から螺旋回転する【魔力の礫】が三連射され、飛翔中のドラゴンの頭部に全弾命中。結果、飛行能力を失ったドラゴンは無惨に墜落した。
そのまま次々と華麗なヘッドショットを連発し、次々々々とボトボト龍を撃ち落とす。淡々とナイスショットを決める彼女は、さながらやり込みまくったシューティングゲームで先読みスーパープレイをしている廃人ゲーマーのようだった。
レノとは別種の射撃の上手さ。天使のソレが天性のセンスによるものだとしたら、猫又のソレは経験に裏打ちされた技術だった。
「ん、ナイス。大きいの入れる」
また、クニュフは戦況もよく見ていた。とにかく味方のアシストが上手いのだ。
必要なところに、必要なだけの火力を。アシストされた味方の動きが、次の瞬間にはクニュフへのアシストに繋がっている。まさしく一人は皆の為に、皆は一人のためにといった様相だ。
「クニュフ! ドラゴン突っ込んでくるぞ!」
その時だ。翼を失って四足移動になったドラゴンがクニュフ目掛けて突進してきた。
言うまでもなく、ヒトより大きなドラゴンの突進はかなりの威力だ。一発食らえば彼女の紙装甲などぐしゃぐしゃである。
「大丈夫だ、問題ないってね! 何故ならあたしは……」
が、対するクニュフは一切動じぬ。クソデカライフルを首飾りに戻した彼女は、瞬きの後に全鉄刀を引き抜き構え……。
「黎明の!」
ギィイイイン! 正面から【受け流し】でドラゴンを転倒させ、そして……。
「後継者だからね!」
バァン! 刀から再び銃へ。即座に生成したフィールドストックショットガンで、特大エフェクトを伴う【魔力の礫】をゼロ距離発射。会心の一撃を受けたドラゴンは、物理演算が狂ったようにゴロゴロ転がり、同時にスタンが入って行動不能に陥った。
いや、咄嗟の【受け流し】とか瞬時生成も超絶技巧なんだけどさ。
「え!? 射撃魔法に発勁を?」
「できらぁ! 人呼んで“マグナバンカー”! まぁ発勁射撃は射程短いし消耗激しいからここぞという時しか使えないけどね、けど至近距離なら生で斬るよりずっと強いよ!」
射撃魔法×発勁=マグナバンカー。ほう、至近距離用射撃魔法ですか。大したものですね。原理は分かるが再現はできそうにない。今度俺も練習しよう。
そうこうしていると、当のクニュフは一度怯んだドラゴンに至近距離から射撃魔法の散弾を浴びせまくってスタン復帰を遅らせていた。今の龍君、あまりにも隙だらけや。
「いい時間稼ぎだ! 強制感電ルーン、いくぜぇ!」
そこにシャロのルーン雷が突き刺さる。確定スタンサンダーだ。スタン復帰後すぐスタン。ドラゴン君は泣いていい。
「クニュフちゃん離れぇ! ブラッド・グレネード!」
そして泣く暇もなく試作リヴクラフトによる血液弾が解き放たれ、着弾と同時に爆発四散し赤と青の粒子に還った。
あまりにも鮮やかな連携である。実際、件の三人は戦闘における相性が良かった。
「ナイスルーン!」
「ナイスアシストだ!」
「ほんまクニュフちゃんは頼りになるなぁ」
クニュフが隙を作り、シャロが足止めし、ヘカテが大技で仕留める。いい連携だ。
ルーンによるサポートを行っているシャロは、今現在イルカ符操霊に跨って空中飛行していた。なお、件のイルカちゃんは未来知識を得たヘカテにより魔改造され、原型を留めていないくらい飛行特化にされていた。さながらメガイルカZといったところ。
当のヘカテーニャ教授は、未来知識をブチ込んだ新型試作リヴクラフトを乗り回していた。アレは完成品ではなく、技術試験機らしい。
「まだまだ来るぞユゥリン!」
「横から殺るんで盾お願いします!」
「ん、牽制して動き鈍らせる」
火龍迷宮に来たメンバーは、俺、レノ、ユゥリン、シャロ、ヘカテ、クニュフの六人である。
そんな中、俺は愛用の空飛ぶ槍に跨って、可能な限りコレを使って敵を倒していた。何故なら、俺も霊格極装が欲しいからだ。羨ましいのである。
クソ未来の俺は一時ヘーファの首飾りを相棒にしていたそうだが、それをクニュフに譲った後は直剣型の深域武装を使っていたらしい。けれども現在その直剣は持ってないので、じゃあ今あるモノを覚醒させようってな具合である。
幸い、こいつは普通に優秀なので覚醒させるに吝かではない。
「にゃはは! ハクスラたっのし~! パパが夢中になる訳ニャ!」
「分かってくれるか!」
「はっきり言ってそれ病気だから。クニュフさんそのうち死にますよ」
そんなこんなでひと狩りもふた狩りもしていると、砦を守るボス龍とご対面。攻撃力1400守備力1200っぽいそいつが咆哮して、対戦よろしくお願いしますである。
「おぉ~、魔物にしては正統派にカッコいい見た目してるね~。名前なんてゆーんだっけ?」
「お勉強は後や。パターンは覚えとるな?」
「ヘカのセンセもいつの間にか染まってやがる。まともなのはアタイだけか」
「ん、シャロももう手遅れ。イルカちゃんもそう言ってる」
ボスドラゴン戦は小細工無しの真っ向勝負である。
取り巻きもいない――試合開始と同時にドラゴン君が吸収するのだ――し、ギミックもない。第二形態も理不尽技も一切なし。ただただ強い魔龍と戦うだけ。
なんて潔い魔物だろう。だから愛されているのだ、このボスドラゴンは。
「突っ込むんで援護してください! 誤射したら恨みますよ!」
「大丈夫だって~。あたしは戦闘のプロだよ」
ボス戦の編成は王道でいく。俺とユゥリンが前に出て、シャロとレノがサポートし、ヘカテの火力でアタックする。
他方、クニュフは俺を含む全ての味方の穴を埋めていた。前衛には的確な援護を。後衛には理想的な盾役を。さながらそれは、一党内にもう一人の俺がいるかのような立ち回り。
そして、俺に出来ない事もやってのけるのが彼女である。
「シャロちゃん危ない! こっちきて!」
「おわっと!? おっ、サンキューな!」
「あれだけ大技禁止って言ったじゃないですかこの酒カス森人!」
ルーン描くのに必死で攻撃を受けそうになったシャロを、クニュフは影空間を使って強制退避させていた。
要するに、好きなタイミングで自分を含む味方の位置替えができるのだ、クニュフは。これはもうハチャメチャに強いと言わざるを得ない。なんたって彼女がいるだけで味方の生存力が爆上がりするのだから。
「今だレノ! 覚醒技ブッパ!」
「了解、
その分、攻めに回せるのである。いいタイミングでレノに時限強化を指示すると、彼女は六枚翼の熾天使となって真新しい二挺拳銃を連射し始めた。
ドワルフ印の新型光力銃“リベリオン&メイトリクス”の火力は、以前のそれとは別物だ。リロード間隔が空いた事による継戦能力もそうだが、何より火力が上がったのだ。何故なら圧縮できる光力の量が増えたからである。要するにマグナム化したのだ、新型光力銃の弾が。
「弱点出た! アレを使う、頼むぞクニュフ!」
「おっけ~! 初めての共同作業だねパパ♡」
レノの猛攻で鱗が剥がれ、ボス龍の弱点部位が露出。しかし即座に再生が始まって、再度弱点が鱗に隠れていく。
俺はクニュフが生成した影空間に槍に跨ったまま飛び込んで、奴の弱点部位の前に【影跳び】加速移動。同時、収納魔法から引き抜いた大太刀ムラサメブレードを振りかぶる。
「チェストォオオオオ!」
ズッバァアアアアン! ヴァルゼアの突撃槍による最高速移動。【影跳び】による更なる加速。それらが加わったムラサメブレードの刃がボス龍の弱点に直撃し、ボスドラゴンの身体を見事に一刀両断した。
HP全損、我が軍の勝利である。討伐したという確信。重賞レースに勝ったジョッキーのように減速させていき、ぐるっと旋回して皆の下に帰還する。その時には既にボス龍の躯は青白い粒子に還っていた。
「ふぅ……はいお疲れー」
「ん、お疲れ」
「お疲れで~す。すっごい達成感!」
「お疲れ様です。戦上手なクニュフさんと一緒だとシャロさんのヘッポコ加減が目立ちますね。まぁチィ姉よりはマシですけど」
「根本的に向いてねぇ自覚はあるぜ」
「まぁそのへんどうにでも出来るんがステータスってやつやし、今は堪忍したって。ウチかて真祖じゃなかったらクソザコちゃんやし」
帰還水晶の出現を確認。これにてクエストクリアである。
慣れてなお健在な達成感が胸に染みる。身体に入り込む経験値がズルズルして気持ちがいい。
「あ、今あたしレベルアップしたかも~」
「早いな。ウチなんか真祖になって以降一気にレベルアップせんなったのに」
「ジョブ分からんし何のステが上がったかも分からんな」
「ワタシもレベルアップしたっぽいですねぇ。なんかスキル生えてます?」
王都に帰ってすぐ再開した俺達のレベリングは、今のところ極めて順調である。
詳細な数値こそ隠れているがクニュフのステータスは成長著しく、ユゥリン達スキル集め勢の進捗もまた順調である。
「ところで、クニュフさん全然本気出してないですね。なんでです?」
「マジで? アタイからしちゃマジのガチで戦ってるもんだと思ってたぜ」
「本気で戦ってるけど、本気出せない感じかな~。ほら、まだ覚醒させてないからさ」
で、唯一順調じゃないのが深域武装の覚醒だ。
まぁぶっちゃけこれは出来たら良いな系のタスクなので、あくまでメインはレベリング。俺も俺で同調率ってのは未だによく分かってない。
打って変わってクニュフの深域武装は覚醒間近らしい。彼女の場合、さすが元所持者といったところ。
「そんでこれがドラゴンの聖遺物か……」
お楽しみのドロップアイテムはというと、俺も初めて見る謎の岩塊――レアドロ枠の火龍の心臓だった。
この迷宮のドロップは基本的には牙や爪などの素材アイテムである。これらは武器の素材としては優秀らしいが、他の聖遺物と比べて売価が安い。けれどもこのレア心臓は特別で、逆に素材としてはカスだが売価が高い。なんとも不思議なドロップアイテムである。
「どうした? クニュフ」
「ううん、なんでもないよ~」
なんて思いながら岩のような心臓を矯めつ眇めつしていると、クニュフもまた心臓を見つめているのに気が付いた。
なんとなく、彼女はドロップ関連の秘密を知っているのかもしれないと思った。何も言わないあたり、俺は知らない方がいいのだろう。知ったら王子に消されるかもね。
「ふぅ~、転移神殿に戻ったらひと安心って感じだね~」
「そういえば今夜はおでんにするからって、昨日から仕込んでくれてましたね」
「ん、おでん楽しみ。こんにゃくのむにゅむにゅ感が待ち遠しい」
「いやいや、味の染みた大根をアテに酒ぇ呑むのがいいんだぜ」
「通は餅巾着なんやで~」
そんなこんなで迷宮から転移神殿に戻り、全部売っ払って真っすぐ帰る。
王都の喧噪はいつも通りで、誰も明日が来る事を疑っていないようだった。クニュフが来なかったら、俺も今頃ハネムーンを楽しんでいただろう。
「ただいまー」
「おかえりなのじゃ~」
家に帰って手洗いうがい。台所からは、おでんの煮える良い匂いが香ってきた。
リビングではエリーゼとグーラの姿があり、お二人共ゆったり本を読んでいた。暖炉で暖かい部屋で読書、至高である。
「見て分かる事だけれど、迷宮探索は大丈夫だったのかしら?」
「エリーゼさんは既にクニュフさんの腕前知っているでしょ? てゆーかエリーゼさんとクニュフさんって普通に相性いいですしね」
「あれ? リリちゃんは? お出かけ?」
「寝室で高尚な一人遊びをすると言っていました」
「そうか。ちょっくら突入してくる」
「あたしも~」
「や、クニュフはダメ」
「すっきりすっきりしゃっきりぽんッス! あ、おかえりッスご主人!」
「清々しい顔しとるのじゃ。ほいお茶」
「あんがとな。あぁ、この熱さが胸に染みるぜ」
なんやかんやで全員集合。リビングはロリとロリコンだけの空間になった。私は壁になりたい。
「草薙の剣の迷宮探索に付き合ってみた感想はどうかしら?」
「ん~、危惧してた事は全然起こってないから、そのへんはひと安心ってトコかな~」
「危惧とな?」
「うん、迷宮の狂気ってやつ。あたしもチィ姉さんみたく何かしらに異常な執着をしちゃうかもって」
「我が姉ながらお恥ずかしい……」
「何も変化はなさそうですね。過敏症だったら早期に症状は出ているでしょうし」
「や、分かりにくいだけかもしれない」
「実際それが怖いニャね~」
ロリ九人いれば姦しい。話題は主に迷宮に関するアレコレだ。
未来では諸事情で迷宮に潜れなかったらしいクニュフだったが、特にこれといった狂気を発症しているようには見えなかった。
というか、うちの面々はそれらしい銀細工性ないんだよね。いやまぁ俺の精力は既に人間卒業試験を合格して久しいが。
「そもそも屍王が勝ってからは世界中瘴気塗れだったし、もしかしたら慣れちゃってるのかもしれないニャ~」
「瘴気塗れ……圏外のような感じかしら?」
「うん、そんな感じ~」
軽い口調で言うクニュフ。彼女の語るクソ未来は聞くだにクソで実にクソッタレ。
特に、その“屍王”とかいう新キャラである。主にこいつのせいで世界滅んだらしいし、なんやねんって話だ。
「結局、その屍王ってなんなんだ」
「さぁ?」
「さぁって……まぁ言えないんだろうけどさ」
「知ってる事の半分以上は言えないけど、知らない事のが多いのも確かなんだよね~。人語を喋って、死霊魔術を使う災厄の魔物? みたいな」
それは前に聞いた。屍王は当代の災厄と目されている存在らしい。
災厄とは、千年に一度発生するアニバーサリーイベントの総称であり、人類殲滅RTAの走者である。
で、何故いまいち確定してないかと言うと、屍王が災厄らしからぬ知性を持っているからだという。魔物だけでなく、自ら召喚した死霊軍を指揮してラリス&魔王と三つ巴やって勝利したのだ。人並み以上の知性の持ち主なのは確かである。
「こいつを殺さない限り、人類に未来はないね」
そう語るクニュフは、常より鋭い目をしていた。
英雄の目ではない、殺戮者の目だ。
表とか裏ではないのだろう。
「は~い、おでん出来たのじゃ~」
「やった~! あたしおでん大好き~!」
暗い話もそこそこに、我が家のダイニングに出汁の香りが広がった。
テーブルの上には湯気を立てるおでん。無論、これは俺発レシピだ。中の具材は質を問えるし何でもある。
あまつさえ、この鍋は第一弾で、第二弾以降は厨房の大鍋でその時を待っていた。
「おいおい、ソーセージ取りすぎだぞリリの字よ」
「自分、淫魔ッスから」
「ん、独り占めはよくない。平和的に均等に分けるべき」
「ソーセージってリンジュ風の味付けにも合うんやなぁ。噛むとパキッて口ん中にお出汁が広がるんがたまらんわ」
「何故か不人気な牛すじに悲しき現在……ユゥリン動きます!」
「おでんの主役は大根だって、それ一番言われてるから」
「え~、白滝だよパパ。白滝が一番おいしいってそれ一」
「はむっ、もぐもぐもぐもぐ……」
「グーラはよくおでんで白米を食べられるわね……」
わいわいがやがや。
ロリと一緒に鍋を囲み、食べながらお話しする。今の気分はまさに上々。
確かに、今頑張らないと未来はクソ化するかもしれない。だからこそ最大限英気は養うべきと考える次第。ずっと気張ってちゃ続かないからね。でもって継続は力なのであるからして。
「ふぅ……美味い」
その為の鍋。あとその為のお酒。俺はちくわを食べた口に熱々の米酒を流し込んだ。うん、OC!
実際、おでんとお酒はよく合うのだ。飲酒してるのは俺だけではなく、例によってエリーゼとシャロもお猪口でチビチビやっていた。
なお、他のロリーズはお酒はイケるが、おでんにお酒はなんかな~って感じらしい。
「ところで、クニュフ貴女お酒は呑まないのね」
「そういやぁそうだな。酒場行った時も果実水ばっかでよ。あんま好きじゃねぇのか?」
「呑んだ事ないからニャ~」
「それは何故? やっぱり、未来では酒が貴重だったのかしら」
エリーゼの問いに、未来から来た猫又美少女は白滝をちゅるちゅる啜ってから口を開いた。
「んぐっ……いやだって、お酒呑むと判断力鈍るんでしょ。もしその時に襲撃されたら対処できないじゃん。それで死んだ人結構いたらしいよ~?」
あぁ~、という「それはそうだけど」みたいな反応。戦闘慣れしてる異世界人からしても、クニュフの常在戦場っぷりは普通にガチ過ぎだった模様。
「ここには皆がいるわ。耐性を付けるつもりで、少し呑んでおきなさい」
「酒は人生の親友だぜ。呑まねぇのは自由だが呑まず嫌いは良くねぇなぁ」
「そうかな? そうかも?」
「おっ、来るッスか酒呑みお得意の酒呑め攻撃……!」
「言い方が悪いですよ、ルクスリリア」
酒を飲んだ事がないと言うクニュフに、酒好きコンビから酒が勧められる。
まぁ別にアルでハラってる感はない。クニュフ自身も興味はあるのか、チラチラと酒に視線をやっていた。
「うん、分かった。もしお酒呑んでる時に襲われたら、パパが守ってね?」
「大丈夫だろうが、分かった」
「ありがと。じゃあ、おでんに合うお酒は何かな? それ呑んでみるよ~」
「なら、これとかどうかのぅ? わしが初めて呑んだのと同じ銘柄じゃ」
「イリハママといっしょ! それがいい!」
という訳で、徳利に入ったリンジュ米酒をお猪口に注ぐ。
透明な酒の水面に映る自分を見つめた後、クニュフは舐めるようにして初めての酒を呑んだ。
「んっ、ふぅ……」
「どうかしら、初めての酒の味は?」
結果、人生初飲酒を経験したクニュフはぼーっとしていた。
ぼ~っと、空になったお猪口を見つめている。ぼ~っと、ぼ~っと……。
「クニュフ? 大丈夫か?」
異様である。声をかけると、彼女は極めて深刻そうな顔で……。
「どうしよう。あたし、今まで酒呑んでバカ騒ぎする人とか前後不覚になるまで酔っぱらう人とか全員バカだと思ってた。でも、これは確かに……わかる。美味しいもん」
「でしょう?」
美味しかったらしい。
そして、ハマッたらしい。
「んっ、んぁあああ……なんだろ~! とにかく美味しい! 脳が溶けるぅ~! 喉焼けるのが気持ちいい~!」
それから、クニュフはおでんをアテに次々と杯を干していった。
大根を食べ、キュッと米酒。牛すじを食べ、グイッとビール。勧められるまま呑みたいまま、彼女は今まで見たことないくらいの上機嫌で酒を飲んでいた。
「にゃははは! こっちは甘くておいしい米のお酒で、こっちは苦くて美味しい麦のお酒~。トウモロコシにリンゴにブドウ! 全部美味しくて最高ニャ~」
「あれ? そんな量呑んでたっけ?」
「単純に弱いのではないでしょうか。猫ですし」
「獣系の人等が酒に弱い傾向にあるのは確かや。無論、例外はあるけど」
「酒はいくら呑んでも呑まれる事は無いですね、はい」
が、初めてというのもあってかクニュフはすぐに酔っぱらってしまった。カワイイお顔が真っ赤に染まり、三本の尻尾が不規則にゆらゆらしておる。
こりゃ明日は迷宮行かん方がええね。
「ねぇ~♡ パパ~抱っこして~♡ ぎゅ~♡」
「はいはい」
かと思えば、俺の膝に乗って抱き着いてきた。割と遠慮なく身体を擦りつけてきている。父と娘の距離感ではない。
「頭撫でて~♡」
「はいはい」
言われた通り頭を撫でると、猫又少女は心地良さげにゴロゴロと喉を鳴らした。
「チューして~♡ むぐっ? ちゅぅううう……」
そのままキス顔で迫ってきたので、大好きらしい白滝を突っ込んで啜らせてやる。
それでも笑顔なあたり、今は何でも面白くなってる状態なのだろう。俺も酔うとそうなる。
「にゃはは、お酒って最高~! なんでこんな美味しいもの今まで呑んでこなかったんだろ~! にゃはははは~!」
ともかく、人生初めての酒は楽しい思い出になったようで。
そして、夜が明けて……。
「何なの何なのマジ何なの! なんであたしはあんなバカみたいな事! うがぁああああ! あんなのあたしじゃなぁい!」
「しょーがねーッスよ。酒のせい酒のせい」
慙愧に堪えぬとばかりに、クニュフは昨夜とは別種の赤い顔で頭を抱えていた。
「好きだけど弱いタイプだったのね……」
「自分の器ってなぁ呑んで計るしかねぇからなぁ」
他方、皆さんからは生温かい視線が注がれている。
これまで隙を見せてそうで隙を見せなかったクニュフが、飲酒中は完全に無防備になっていたのだ。そうもなろう。
「まぁ過度な緊張は緩んだんじゃないか?」
「うぐ……」
そう、クニュフはずっと気を張り詰めていたのである。
過剰な緊張はパフォーマンスを鈍らせる。ずっと気張っていると消耗する。つまりストレスになるのだ。
酒によるものとはいえ、一時でも気を緩められたのなら、それで良かったと思う。
「まぁ……うん。そういえば、パパも息抜きは大事って言ってたっけ……」
ピンと張っていた緊張の糸が緩み、気持ちも尻尾もふにゃふにゃになっている。
何度かの深呼吸の後、クニュフは耳をへにゃっとさせて言葉を継いだ。
「黎明の後継者になってから、休むってどうすればいいか分からなかったけど……確かに大切だね。お酒は強制的に気を緩めてくれるんだ。パパが殿下に言ってた事と一緒だ……」
「今日はもうゆっくりするのじゃ。お主は頑張ってきたからのぅ」
「うん、そうするよイリハちゃん……」
締める時は締め、緩める時は緩める。それでこそハクスラが捗るというものだ。
そうして、俺達の楽しいハクスラ生活は過ぎていくのであったとさ。
お酒は程々に楽しむのが一番である。
しゃあっ、更新!
先週水曜、書籍版一巻が発売されました!
よろしくお願いします!
【挿絵表示】
というわけで店舗特典情報!
ゲーマーズ様は、書き下ろしSSとルクスリリアとエリーゼのアクリルスタンドになります。
→ゲーマーズ様はこちら
とらのあな様は、書き下ろしSSとタペストリーになります。
→とらのあな様はこちら
メロンブックス様は、書き下ろしSSとタペストリーになります。
また、メロンブックスノベル祭りには本作の特典もございます。ポイントを使って、本作のSS付きクリアファイルと交換できます。
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