【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。感謝です。
今回は一人称です。
よろしくお願いします。
クニュフの深域武装を覚醒させ、第三王子からの連絡が来て、約一カ月の時が過ぎた頃。
王子から呼び出しを受けた俺達は、凡そ一ヵ月ほどかけて目的地たるディング魔族国に向かっていた。
ラリス王国からディング魔族国へは空戦車を使えばあっという間である。けれども俺達はあくまで旅行の体で移動している為、道中いろんな所を回って時間を調整していた。
その間、行った事ない街のお祭りを見に行ったり、偶然立ち寄った村で幻の魚を釣りに行ったりした。一世一代の戦場へ向かう旅路は、奇しくも以前に中止したハネムーンの続きのようだった。
最近は迷宮漬けだった面々も戦いを前にリフレッシュできたようでひと安心。覚醒の儀では思い詰めていたクニュフも楽しそうだった。
道中では都度エージェントと接触し、来たる旧魔王軍襲撃作戦――宵鴉作戦についての情報を共有していた。
宵鴉作戦は内緒も内緒な超秘密作戦だ。未だ詳細は知らされていないが、裏では俺達猫又討伐隊以外も動いているらしい。
「いよいよディング魔族国だね……」
「ああ。手癖で影を使うなよ」
「はぁい」
旅行を装いながらディングに近づいていくと、少しずつクニュフの表情が引き締まっていった。
思えば、クニュフと出会ってからかれこれもう半年が経っているのか。
突然空から降ってきて、突拍子もないクソ未来の話をされて、魔王軍を討滅すべくいつも以上に迷宮に潜りまくった。ある者は深域武装を覚醒させ、またある者は未来知識で愛機をアップグレードした。
人事は尽くした。あとは天命を待ち、勇気でなんとかする他ないだろう。
「……で、あそこがディングの首都か」
「なんだか街全体がお城みたいです」
「ここからでも魔力が渦巻いているのが分かるわ。風通しは良いようだけれど……」
そうして辿り着いたディング魔族国の首都は、広大な湖に浮かぶ灰色の人工島だった。
魔都レバンティン。城壁を築かず、天然の湖に守られた石の街。対岸から見える街並みは全て石造で、建築物は全体的に四角く高い。どことなく、異世界ファンタジーにシカゴ建築をぶち込んだような印象を受ける。
街と陸を繋ぐ大きな橋もまた灰色の石造りで、どことなく現代地球の海上橋のようだった。
「うぃ、通っていいぞ。あんたなら大丈夫だろうが、街中じゃスリには気を付けるんだな」
入都すべく検問を受けると、ロクに調べられる事もなく通された。国境もそうだったが、ディングはかなりザル警備だ。
空戦車に乗ったまま橋を渡る。この橋にスピード制限の類いはないようで、疾走する馬車や馬人等が歩行者の隣をビュンビュン通り過ぎていた。まるで轢かれる方が悪いとでも言いたげだ。
「古代から続くディング式建築は基本的に土魔術で積み木遊びする感じなんや。壊れやすいけど直しやすいよう出来とって、そんで現代式はわざと壊れやすい部分を作って全体が崩れ難くしとるらしいで。長く使えるネザーレ式とは起源は同じでも発展の仕方が変わっとるんオモロいよな」
「「「へぇ」」」
橋を渡る最中は、ヘカテ先生の講義である。
徐々に近づいていくレバンティンの街並みは、王都やネザーレと比べ地球的にモダンでありつつ無機質な印象を受けるものだった。
街中どこを見ても豆腐ハウスだらけで、差異と言えば大きさと装飾くらい。そうでなくとも石で出来た豆腐を重ねたようなデザインばかりなのだ。
で、なんか既視感があると思ったら、以前に幽界で見た古代ネザーレに似ているのだ。威厳や優美さを推し進めたのが現代ネザーレ建築だとしたら、古代路線のまま合理性を突き詰めたのがディングもといレバンティン建築なのだろう。実際、レバンティン以外のディングの町や村はラリスっぽかったし。
「うぇ~、すげぇ道ガタガタなんスけど~。これもう飛んじゃっていいスか?」
「別にええはずやで。ほら、飛べる系の魔族とかガンガン飛んどるやろ?」
「ん、凄い見られてる……」
「そういえば天使族の人がいませんね。吸血鬼ならちょこちょこ見かけますけど」
「天狐は仕方ないとして、森人もおらんの不思議じゃのぅ」
「そりゃあ魔力残滓がぐちゃぐちゃな石くれの街に住みたい森人は少数派だわな。エリーゼは大丈夫かよ?」
「あまり良い気はしないわね。魔力残滓で言うとフォレのが多かったけれど、あっちはもっと洗練されていたから……」
「アタシは平気ッスけどね。まぁ緑が無ぇのは違和感ッス」
「右に同じくです」
ヌルッと入都してすぐ、俺達は空戦車を降りて徒歩移動を開始した。
魔族国とあるように、ディングの首都を歩いている人達は魔人種が多めに見えた。王都における人間族がそのまま魔族に置換されているような感じだ。
また、同じ魔族でも猫又は猫又同士、魔牛は魔牛同士でグループ行動しているようだった。お一人様は少数派なのかもしれない。
「見てみ。あそこ建物直しとる最中やで。ああやって予め作っといたブロックを置いて現場で微調整して……ほら、もう終わった」
「重機要らず素材要らずなの凄いな。けっこう脆そうだけど」
「実際脆いよ~。魔王軍と敵対してたラリスも最終的にディング式採用してたあたり合理的ではあるんだろうニャ~」
ちなみに、国境からこっちクニュフは身を隠し続けていた。近くにいるのは分かるのに、よくよく見ないとクニュフと気づけない超ステルスだ。
魔法でも技能でもないこれは彼女の異能によるもので、ステータスにさえ作用する強力な隠蔽能力である。これによってクニュフは三本目の尻尾を隠すと同時に、他人にジロジロ見られても何処にでもいる猫又Aであると認識されるのだ。
影空間といい隠蔽能力といい、クニュフの能力はマジで工作員向きだ。その割に斥候ジョブのスキルは覚えてないっぽいんだよな。
「ん、わたし達は目立ってるのに、クニュフ全然見られてない」
「そーゆー異能だからね~」
何故そこまでして身を隠しているかというと、魔都レバンティンが旧魔王軍と繋がっていて、万が一にも感知されないようにする為だ。
厳密に言うと、上層部の一部が繋がっているというのだ。殆どの人は無関係で、残党の存在さえ知らないそうな。
「聞いてください! この国の朝食は今、過去例を見ないほどに乱れています! だから我々パンの党は伝統ある食生活を守る為に立ち上がったのです! 私がディング大統領になった暁には、一世帯につき一定量のジャムを支給する事を約束いたします!」
なんて考えながら石まみれの街を歩いていたら、相対する二つの集団が大通りを封鎖している光景に遭遇した。
一方の先頭で声を上げているのは蝙蝠系の魔族男性だった。彼は種族特性であろう拡声能力を使い、手に手に旗を掲げた群衆の前で何事か演説していた。
「皆さん聞きましたか? 伝統ある食生活ですって! なにが朝食パン法ですか下らない! 朝に誰が何を食おうが人の勝手でしょう! 食の乱れだの何だの言って貴方がパン好きってだけでしょうが! 禁蕎麦法時代の悲劇を忘れたのですか!」
もう一方の集団の先頭では、魔猫の女性が同じような声量で言い返していた。彼女の後ろにも旗が掲げられている。
通りの隅には衛兵がおり、如何にもやる気なさげに揚げパンらしき何かを食べていた。かと思えば衛兵以外の民間人もザ・野次馬といった様相で見物している。誰も彼も両者の主張を聞いていない。
「アレなに?」
「ディング名物、街頭論争や。今の大統領は親ラリス派やで、パン党はそれを批判しとるんやな。実際にはただ適当言ってスッキリしたいだけやろけど」
「民の中から王を決めるなんて、どうかしているわ。そんなのただの人気投票じゃない」
「いやそれ以前の問題だと思うんですけど、国民的にいーんすかアレ?」
群衆に交じり、俺達もヒートしていくディスバトルを眺める事にした。ラリスじゃ見られない光景である。
ディング魔族国は多党制による民主政治で運営されている。ディングの国家元首は数年に一度の選挙で選ばれる仕組みだ。また、党ごとに国軍とは別の独自の軍隊を持っているそうで、国内でバチバチに殴り合ってるのが日常茶飯事なんだとか。
「禁蕎麦法時代は悲劇ではない! ディング民たるもの麦を食うべきであり、パスタを食うべきなのだ! パンに蕎麦粉を混ぜるのも禁止だ禁止!」
「またパスタ戦争をしたいのですか貴様等は! そっちがその気なら、こっちもその気です!」
「やるのか!?」
「やってやろうじゃないの!」
「「全軍! 突撃ぃ!」」
そうこうしていると、やがて右と左が真正面から物理的に激突し始めた。どこかでゴングが鳴ったよね、今。
怒号に罵声。攻撃魔法が飛び交い、武器による斬り合い殺し合いがあちらこちらで大発生。ようやくやる気を出した衛兵が事態を収めるべく参戦し、観客は大盛り上がりで乱闘を囃し立てていた。
「芸術は爆発だ! つまり爆発とは芸術なのだ! 食らえ反体制グレネード! ボン!」
「「「グワーッ!」」」
「しゃあ今なら殴り放題! パンもパスタもくだらねぇ! 俺の拳を食らえ!」
「「「アバーッ!」」」
「へへっ、予告状通り“不死鳥の涙”はもらっていくぜぇ~! あ~ばよとっつぁ~ん!」
「待てぃ! 今度という今度は逃がさないぞ!」
かと思ったら、乱闘に交じって謎の錬金術師集団が近くの建築物を爆破しまくり、パン党にいたムキムキマッチョが敵味方関係なく近づく者皆殴っていた。
他方、通りの向こうでは猿顔の魔族とコインを投げまくる鼠人が追いかけっこ開始。着物姿のスリが縦横無尽に走り回り、どさくさに紛れて魔牛美女にパイタッチした際にカウンタービンタされて吹っ飛んでいた。
なんというか、自由だった。そしてカオスだった。共通しているのは、皆が皆心底楽しそうにしているところだ。
「え~、本国の魔族ってこんな感じなんスか? フツーにドン引きなんスけど」
「盗むのが好きな奴がおって、追いかけるのが好きな奴がおる。それで回っとるんがディング魔族国や。な? 新婚旅行には微妙やろ?」
「なんで崩壊してないんでしょう……?」
「魔族は死にづらいからかのぅ?」
「ん、あそこ見て。治癒術師が殴りながら【小治癒】使ってる。意味が分からない」
「しかも発情してますねあの人。怖っ、近づかんとこ」
そんな光景を、俺達は少し離れた場所で観察していた。
ディング魔族国首都、聞きしに勝る混沌都市である。誰も彼もが魔族らしさを解放し、ありのままの自分で振る舞っているように見える。
法はあっても秩序なく。力なくして自由なく。こんな国家、早晩崩壊しそうなものだが、国体の維持が好きな人が頑張って維持しているらしい。
アライメントが“混沌”の強者にとっては、ラリス以上に住みやすい街なのかもしれないね。知らんけど。
「へへっ、そこの銀細工の兄さんもパイ投げ合戦やってくかい? 楽しいぜ!」
「いえ、お構いなく……」
住むのはちょっとって感じやね。そんな訳で、俺達は王子から指定された宿に向かって行った。
ややもあり辿り着いた宿は、王都でもなかなか見ない高層建築だった。
「ようこそいらっしゃいました。草薙の剣のご高名はかねがね……」
ロビーに入ると、豪奢な内装が視界いっぱいに広がった。受付で手続きし、指定された部屋を借りる。
ってな具合で部屋に移動……なのだが、俺達の部屋は最上階である。エレベーターは無いようで階段移動かなと思ったら、奥の一角が吹き抜けになっていて「自由に飛んでください」との事。飛べない客はどうするんだ。
まぁうちの一党は飛べるので大ジャンプ一回で最上階に到着。部屋を開けると、そこはラグジュアリーな空間になっていた。
「そんな歩いてねぇのに、なんだか疲れちまったぜ。こーゆー時は冷えた米酒でキュッといきてぇもんだが」
「凄い街でしたね。乱闘で屋台も壊されてましたし、お腹が空きました」
「人混みも凄かったッス。前にいた奴がいきなりキレて物理的に道開けてたのめちゃビビッたッス」
「でも人混み見ると全員殴り飛ばしたくなる気持ちは分かりますよ。やりませんけど、やっていいならやっちゃうかもしれません」
「アレが犯罪にならんの国としてどうなの? って感じじゃが」
宿まで歩いただけなのに、銀細工一党の俺等は全員お疲れモードになっていた。
窓から見下ろしたレバンティンは夕陽の赤に染まっている。傍から見たら美しい都市だ。
まぁでも、もう今日は宿から出たくないな。
「しばらく待機やんな? どう? 例の件の前にレバンティン旅行する?」
「時間があればな。クニュフはどうする?」
「あたしはいいかな~。隠れてるとはいえ、目立つのはよくないし」
「ん、レバンティン旅行は全部終わったあと」
「そうだね~」
そんなこんな。
クニュフと同じ部屋でルクスリリアと暇潰し(意味深)をする訳にもいかないので皆と健全な暇潰しをしていると、夕陽も落ちきらぬ頃にドアがノックされた。
想定よりずっと早い到着である。
「お待たせしました~。私ぃ、“ボインちゃんパラダイス”から派遣されました、ジェニファーで~す。イシグロ様でお間違いございませんか~?」
扉を開くと、そこには薄いナイトドレスを身にまとった美女の姿があった。
如何にもな娼婦姿である。当然として、既婚者である俺が娼婦を呼ぶ訳がない。けど、彼女は予定通りの来客であった。
「なんです、その恰好?」
「潜入するのに娼婦は何かと便利なんです」
誰あろう、彼女は王子との連絡役でお馴染みのエージェント・メイドさんである。
さっき到着したばかりだというのに、もう来てくれたのだ。いつもの事ながら仕事が早いね。
「お寛ぎのところ失礼します。早速ですが、宵鴉作戦についてお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか」
これにて、お仕事前の旅行タイムは終了だ。
ここから先は戦いの時間。その準備。ブリーフィング・タイムである。
〇
異世界転移、七年目。
これまで、俺は何人もの旧魔王軍残党の猫又――邪仙の姉妹と戦ってきた。
一体目は陰陽術師の猫又だった。こいつは一度倒した後にどういう仕組みか復活なり何なりしてきて再戦し、二度目の戦いで捕縛した。
二体目は白衣の猫又。こいつはレノ救出作戦の際にサクッと処理した。何やかんや一度逃げられたが、無事に捕縛できたそうだ。
三体目・四体目は、上森神樹防衛戦で対峙した武闘家の猫又と指揮官っぽい猫又だ。前者は正面から戦って捕縛し、後者はアリエルさんの協力でとっ捕まえる事に成功した。
五体目は呪術師の猫又である。こいつはエリーゼに不胎の呪いをかけやがったクソッタレで、先兵戦で苦しめに苦しめて捕縛成功。
六体目の武芸者風猫又は、去年の冬にヘカテとリアルイーザ様の合体必殺技で爆散させた。こいつは捕縛こそできなかったが、リアルイーザ様曰く魂ごと砕け散ったそうで復活はまず無理らしい。
こう見ると、俺ってばマジで猫又とバトりまくってるんだな。何度も出てきて恥ずかしくないんですか? って話である。
ともかくとして、第三王子は捕縛した猫又から旧魔王軍の情報を抜き取る事に成功していたそうだ。
その中には解析できない情報もあったり何の事だかサッパリ分からない内容もあったらしい。
例えば、行き方の分からない何処かも分からない場所の地理情報とか、である。
「調査の結果、旧魔王軍残党のものと思しき影空間の存在が確認されました。件の影はディング国内を周回する天津島を覆っており、定期的に此処レバンティン上空を通過しているようです」
俺達の部屋に入ってきたエージェント・メイドさんは、いつものメイド服に着替えてすぐ部屋中に隠形系魔法をばら撒いて、テーブルの上に謎の地図を広げてみせた。
猫又の本拠地――宮城の地図である。クニュフ曰く、この宮城は影空間じゃないと入れないようで、それは異世界の空を漂う天津島内に存在するらしい。
「目標は邪眼のファンリーの討伐。情報によると、ファンリー自身は中心にある居城から動けないそうです。ファンリーを倒しても長女の猫又は生き続けると予想されていますが、母体を倒せば邪仙が有する多くの力が失われる見込みです。故に、最優先はファンリーとなります」
で、確定で本拠地に居座っているのが邪仙の親玉である邪眼のファンリーだ。今回、俺達のターゲットはこいつである。
本当は影能力を持つという長女も倒したいところだが、実際に会敵できるかどうかは運次第なのでこっちはサブクエスト扱いだ。
「この地図……まるで陰陽術式のようじゃな」
「どっちかっつーとディング式魔術や。だいぶ古い構造やで、これ」
地図として見る邪仙の宮城は、五角形の街のようだった。
五角形の中心にはファンリーが住まう城があり、周りに複数の宮殿が建っている。それらを囲むように、都合五つの柱が屹立していた。
ゲーマーとしての勘だが、多分この柱はバリア発生装置的なアレなんじゃないかなって。
「また、この五つの柱はファンリーの居城を守る結界の起点となっており、その全てを破壊する事で城への侵入が可能になるようです。第一の目標は、この柱の破壊となりますね」
「あー、やっぱり……」
「加えて、これらの柱は結界だけでなく天津島を覆う影の起点も兼ねているそうです。ですので、柱を破壊した直後に控えている部隊が島へと侵入いたします」
「てゆーか、それこそシャロのルーンとか影空間で結界ん中に入れないんスか? わざわざ柱壊す事ないッスよ」
「それが出来たらいいんだが、まぁ対策されてるだろうなぁ」
「結界は影を通さない仕組みになっているとの情報が上がっております」
「隠れている上に結界に引きこもっているなんて、とんだ臆病者ね」
「用心深い相手です。何か手を打たれる前に超暴力で殺っちゃいましょう」
案の定、例の五柱を壊さないと城および宮殿には入れない仕組みになっているそうだ。
ついでに天津島を覆う影の発生装置でもあったらしい。分かりやすくていいとは思うが、どうあってもノーアラート潜入からの暗殺コースは出来そうにないな。
「要するに、この柱は全部一気に壊さないとって話ですよね」
「左様にございます、イシグロ様。一つでも柱を壊せば我々の侵入に気付かれるでしょうから、草薙の先行部隊を五つに分け、可能な限り同時に破壊します。メンバーは……」
「その前に、あたしってば迷宮探索で強くなっちゃったから、想定より沢山連れていけるようになったんだよね。その話、伝わってる?」
「伺っております。大変素晴らしい事かと」
元々、本拠地にはクニュフを含めた草薙六人だけで突入するつもりだったが、ハクスラによってクニュフの影空間が強化されて輸送可能人数が増えたのである。
「では、余剰分は後詰部隊からお借りして……」
「いいえ、それには及びません。空いた枠にはワタシ達が入りますので」
「アタイもついていくぜ」
「まぁドンパチできるメンバーの方がええやろって話で」
なので、そこに草薙の剣フルメンバーを投入する。
控えとはいえ、シャロ達も銀細工級の強さを持っているのだ。彼女等を遊ばせておく理由はない。
特にシャロには来てほしいところ。いざという時、ルーンゲートで逃げる為だ。
「それでは合計十名となりますが、可能でしょうか?」
「うん。あー、あと一人くらいなら入れるよ」
「では、そこには私が加わりましょう。足手まといにはなりません」
というわけで、本拠地に突入するメンバーが決定した。草薙の剣フルメンバーに加え、エージェント・メイドさんの十一人編成である。
先述の通り、柱破壊後は後詰部隊も来てくれる予定なので、実際の戦力はもっと多い。勝ったなガハハといきたいところだが、戦場じゃ何が起こるか分からないので油断せずにいこう。
「で、このチームをどのように分けるかですね。他に情報はありますか?」
「はい。柱の守りですが、それぞれに強力な人工魔物が配置されているようです。宮城内の警備についても、同様に」
詳細こそ不明だが、件の柱には守護者的な魔物が配置されているそうだ。そうでなくとも警備兵的な魔物まで巡回しているらしい。
ただ、長期運用されているのを鑑みるに、恐らくガーゴイル系かゴーレム系もしくはアンデッド系だろうという予想がされている。大丈夫だ、全部対処できる。そもそも草薙は基本バランス型だしな。
「はいはい意見具申意見具申~。影空間で宮城に入れても何処に出るかわからないから、実際に動く時は機動力が高い順に編成すればいいと思うよ~」
「それは……そうですね」
クニュフの提案に、エージェント・メイドさんは警戒心も露わに首肯してみせた。
実際、柱を破壊するまではスニークかつスピーディに動く必要があるので、クニュフの案は妥当である。
この中で最も足が速いのはクニュフだ。そこから各々の特性と能力を勘案し、最適なツーマンセルを編成すべきだろう。
「全員が柱の近くに移動した後、レノの合図で一斉に破壊。これが王道だな」
「そだね~」
最終的に、柱破壊フェーズの編成はこんな感じになった。
最も遠くの柱に移動する、クニュフ&レノのネコさんチーム。
その次に遠い柱まで移動する、俺&グーラのイヌさんチーム。
ルクスリリア&イリハのキツネさんチームと、エリーゼ&ユゥリンのドラゴンさんチーム。
最後に、シャロ&ヘカテ&メイドさんの監督さんチーム。
また、柱のガーディアンがあまりにも強そうだったら、腹を括って全員で攻める方針に切り替える予定だ。
「イシグロ様には無用な心配かと存じますが、戦場では何が起きてもおかしくありません。最終的には、個人で判断して動く事を前提にして頂ければと」
とはいえ、どのみちトラブルの一つや二つは起こり得る。そういう心構えで挑むべきではあるだろう。
場合によっては、ファンリーを倒せず失敗するかもしれない。その時は避難優先だな。
「クニュフ?」
「ん? なに~?」
続いて、チームごとの具体的な動き方について話していると、クニュフが地図に描かれた一点を睨みつけているのに気が付いた。
声をかけると、何事もなかったように見返してくる。霊格極装を手にした日から、彼女は弱みを見せなくなった。
「それでは、私はこれで失礼いたします。決行日時については追って連絡いたしますので」
そんな感じで会議は進み、娼婦ドレスに着替え直したエージェント・メイドさんは夜と共に部屋を出て行った。パパッと全身に水気を纏い、事後を演出するのも忘れない。
宵鴉作戦の開始はもう少し先である。それまで我々はレバンティンで待機だ。何があってもいいように、可能な限り宿にいよう。
「何だかんだユゥリンママは来ると思ってたけど、シャロちゃん達は留守番だと思ってたな~」
「そりゃ行かなくていいなら行きませんけど、シャロさんが行くなら守ってあげないといけないじゃないですか」
「なに言ってんだ、一緒に迷宮潜りまくったじゃねぇか。いくらアタイでもそれなりには強くなってるはずだぜ」
「新型エメスアルマの火力を遊ばせるのは勿体ないしな」
「うん、心強いよ」
少しずつ、着実に、邪仙を潰す用意が整っていく。
クソ未来を変えるには、魔王と屍王のどちらも倒さなくてはならない。宵鴉作戦は、その始まりの狼煙となるのだ。
「マスター……」
「ああ、大丈夫だ」
物憂げなレノと視線を合わせ、俺は決意を漲らせた。
かわいそうなのは、いけない。
〇
俺がレバンティンに到着してから、次々と宵鴉作戦の仲間が集まってきた。
邪仙討伐以外にも同時多発的に色んな問題を解決し、旧魔王軍の連中を一網打尽にしようというのだ。
ここでイカれた仲間を紹介するぜ。
「お久しぶりでございます、イシグロ様。本作戦の総指揮を担当させていただきます、キルスティンでございます」
第三王子の専属メイド、キルスティンさん。
おっぱいがデカァアアアアアいッ説明不要ッ!
冗談はさておき、彼女は宵鴉作戦を含めた旧魔王軍ぶっ壊し作戦全体の総司令である。元金細工らしいし、いざとなったら前線に駆けつけてくれるとの事。
第三王子は来てくれないのかなと思っていたら、無言で微笑まれた。うっす、黙っときまっす。
「お久しぶりでござるよイシグロ殿! ややっ、其方にいるのは噂の猫又ちゃんでござるか! 双子というより普通の姉妹って感じの似っぷりにござるな! 拙者シュロメと申す! よろしくでござる! あ、おせんべい食べるでござるか?」
次、お久しぶりの森人忍者シュロメさん。
彼女はリンジュの金細工で、第三王子派閥の人に家ごと仕えているらしく今こうして参加しに来てくれたのだ。
シュロメさんは俺が本拠地を覆う影を解いた後に突入してくれる部隊のリーダーだ。シュロメさんの腕前は知っているので、実に頼もしい。
そして、今回一番のゲストは……。
「ふはははははっ! 予、見参である!」
「リアルイーザ様!?」
リアルイーザ様だ。
彼女は勇者一行の一人にして、世界に冠たる大英雄である。ていうかネザーレでの戦いからもう一年以上経ってるのか。早い、早くない?
ともかく、リアルイーザ様は俺達とは別行動で、なんか凄いヤバい奴を倒す係に任命されているらしい。詳細についてはキルスティンさんによって止められてしまった。
「うむ! 夜の街でラグニアと飲み歩いてたら急に声をかけられてな! なんかヤベー奴がまたネザーレを狙ってるらしいので手を貸そうと思ったのよ! 予の相棒を覚醒させてもらったお礼もしなきゃだからな! そう、霊格極装を手に入れた予はただのリアルイーザではない! ネオ・リアルイーザと呼ぶがよい!」
「は、はあ」
「あールクスリリアちゃんよ、案ずるな。ラグニアは王都の高級スウィートで男漁りをしておるよ。進捗は微妙そうだがな! なははははっ!」
「そ、そうなんスね。うちのオカンがお世話になってるッス」
どうやら彼女と行動を共にしているはずのルクスリリア母は、今現在王都で匿われているそうでひと安心だ。
その他、今回の作戦には俺の知らない金細工の人が沢山参加してくれている。中には街で見かけた人もいらっしゃって、全員キャラが濃かった。金細工になるにはラノベキャラ並みにエキセントリックじゃないといけないのか。
「なんか凄い事になってますね……」
「決戦って感じでいいじゃない。心が躍るわ」
旧魔王軍ぶっ壊し隊の情報をまとめると、こうだ。
邪仙討伐隊、草薙の剣&エージェント・メイドさん。
邪仙討伐後詰部隊、シュロメさん率いるリンジュ忍者達&第三王子配下のメイド部隊。
旧魔王軍襲撃作戦総司令官、キルスティン。
ヤバいのとタイマンする枠、リアルイーザ様。
その他いろいろ枠、金細工達。
「これで旧魔王軍はかなり弱体化すると思う。ひとまず安心かな……」
豪華な仲間達を前に、クニュフは心底嬉しそうな顔をしていた。
遠い未来からクニュフが来て、今こうして目的を同じくする仲間が集まったのだ。俺としても実に感慨深い。
慢心でも何でもなく、これは勝てるという確信があった。
それから、また幾日が過ぎた頃。
とうとう、宵鴉作戦の当日になった。
「皆、忘れ物はないな?」
「大丈夫ッス! 精もパンパンに溜まってるんで、いつでも超淫魔化できるッスよ!」
「血ぃもいっぱい吸わせてもろたし、輸血瓶も持ってきとる。万事抜かりなしや」
「お腹もいっぱいです!」
雨が降っている。
魔都レバンティンのとある高層建築の屋上で、俺達はフル装備で待機していた。
今現在、俺には見えないがレバンティン上空に影空間に隠れた天津島が飛んでいるらしい。これから其処に侵入し、居城で呑気してるファンリーをぶっ殺すのだ。
「作戦開始の合図を確認しました。クニュフさん、予定通り影空間を繋げてください」
「了解……!」
エージェント・メイドさんの指示で、フードを被ったクニュフは両手を広げて影空間の入口を生成した
小さな点が球体となり、やがて人一人分の門と成る。
「よし! 捉えた……!」
門が開ききり、クニュフは手を下ろした。ここを通れば、邪仙の本拠地に入れるのだ。
影を邪仙に感知される前に行こう。そう、身構えた時だ。
「クニュフさん、こちらを」
「わかってるよ。んっ……」
「ちょ待っ! クニュフ?」
ふと見れば、クニュフはエージェント・メイドさんから手渡された魔法薬を一気飲みしていた。その薬を見て、ヘカテが目を丸くする。
「魔族殺しの魔法薬やと!? あんた、クニュフちゃんになに飲ませてくれとんねん……!」
「いいよヘカテママ、事前に言ってなくてごめんね。でも大丈夫だよ、帰ったら解毒薬を貰う契約だから。それより急ごう」
「あ、ああ……」
何も気にしていないように空き瓶を投げ捨てるクニュフ。既にその目は戦士のソレに切り替わっていた。
理屈は分かる。この期に及んで尚、いやだからこそクニュフは疑われているのだ。その枷として、毒薬を飲ませたのだろう。思うところはあれど、今考えるべき事じゃない。要はさっさとクリアして解毒すればいいのだ。そうする他ない。
「クニュフ……」
「なに? パパ」
強いて思考を冷静にし、皆を見渡す。
それから、クニュフの方を見て、口を開いた。
「ご安全に」
異口同音。草薙の合言葉が静かに響く。
他方、クニュフはきょとんとした後に、小さく笑った。
「にゃはは、そうだね。ご安全に、だね……」
そうして、俺達は猫又の本拠地に乗り込むのであった。
俺達の幸せの為、子供達の安全の為、そしてクニュフの未来の為、旧魔王軍残党には歴史の表舞台に立つ前に退場して頂こう。
ここから先は、ガチでいく。
しゃあっ、更新!
書籍版一巻が発売されました!
よろしくお願いします!
【挿絵表示】
というわけで店舗特典情報!
ゲーマーズ様は、書き下ろしSSとルクスリリアとエリーゼのアクリルスタンドになります。
→ゲーマーズ様はこちら
とらのあな様は、書き下ろしSSとタペストリーになります。
→とらのあな様はこちら
メロンブックス様は、書き下ろしSSとタペストリーになります。
また、メロンブックスノベル祭りには本作の特典もございます。ポイントを使って、本作のSS付きクリアファイルと交換できます。
→メロンブックス様はこちら
→メロンブックスノベル祭り公式ページはこちら
物理版をお求めの際は、ぜひぜひ特典付きをどうぞ!
・電子版
BOOK☆WALKER様はこちら
Amazon Kindleストア様はこちら
その他、各電子書籍販売サイト様でも配信されます。
KADOKAWAたのハク公式ページはこちら
あっ、三周年。
三周年!?
いつの間にか凄い時間が経ってますね。
先月には書籍版が発売され、とってもハッピーなんだッピ。それもこれも、本作を応援してくださる読者の皆様のお陰でございます。ありがとうございます。
ソレしか言えんのか猿ゥ! って感じかもしれませんが、本当にそうなんですよマジで。皆様の応援が作者の力になっております。改めて謝謝茄子!