【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。楽しく書かせてもらっています。
 誤字報告も感謝です。まぁ流石にないやろとか思ってた過去話にもあったあたり作者は筋金入りのアレですね。許して亭ゆるして。

 キャラ募集の方もありがとうございます。やる気に繋がっています。
 出る時はヌルッと出てきますし、割と性格とかも変わっています。ご了承ください。
 なんなら名前も弄ります。同じ文字から始まるキャラが多い時とかですね。

 今回は最後だけ三人称です。
 よろしくお願いします。


新たなるロリ奴隷、グーラ!(またよろしくお願いします)

 転移神殿は24時間営業である。

 何故かというと、迷宮に潜った冒険者が何時帰ってくるか分からないからだ。朝潜って当日帰ってくる場合もあれば、同じく朝潜って日を跨いだ夜中に帰ってくる事だってある。

 当然、その中には重傷で帰ってくる冒険者もいる訳で、神殿内の治療院は常に開いてないといけないし、何やらかすか分からない粗暴な冒険者を見張る職員も必要なのである。

 とはいえ、午前午後と人でごった返している日中と比べると、夜の神殿は静かなものだ。換金受付は一つだけになり、バーや飲食店、武器屋なども閉まっている。冒険者パーティも何組かいるくらいで、大体は帰る準備をしている。

 

 そんな夜の神殿に、俺の一党とクリシュトーさんはやってきた。

 依頼の為である。

 

「ちょっと行ってくる」

 

 依頼関係の事はクリシュトーさんにお任せし、俺は一人神殿内を歩く。

 歩きながら目当ての人を探す。クリシュトーさんから聞いた、優秀な斥候。その後ろ姿はすぐに見つかった。

 

「へへっ、こりゃイイ……これなら多少ふっかけても問題ねぇよなぁ……」

 

 例の掲示板を眺めている、小柄な人物。

 緑の髪に、片方しかない特徴的なイヌミミ。異世界冒険者にしては地味で見栄えのしない、多機能多収納な軽装。彼は、掲示板の依頼を眺めながら機嫌よさげに尻尾を振っていた。

 

「すみません、ウィードさんですよね?」

「え? そうだけど……イシグロォ!?」

 

 俺はそんな彼に声をかけた。目が合うと、ウィードさんはビクリと全身を震わせた。頬に入れ墨のあるその顔には、ありありと畏怖の感情が浮かんでいた。

 もうこういう反応は慣れたぜと思っていると、彼の顔を見て思い出した。この人、前に一度すれ違った人だ。

 

「いきなりすみません。ウィードさんに急ぎの依頼があるんです。力をお貸し頂けませんか?」

「えぇ……っ!?」

 

 まぁそんなのはどうでもいい。俺は今すぐ行かねばならないところがあるのだ。

 なので、細かい事は置いといてゴリ押しプレゼン開始である。

 

「依頼は王都外での人の捜索です。場所はカトリア領近郊の森、ウィードさんには森の中で対象を探し出してほしいのです」

「えっ? なに? なんで?」

「理由は後で。使用する道具は全部こちらが持ちます。戦闘も結構です。この依頼はストゥア商会のクリシュトーさんからの依頼となっています」

「ストゥア? え、クリシュトーさんのか!?」

「ええ。報酬はこれくらいです」

 

 チラリと報酬額を見せる。一瞬目を丸くしたウィードさんだったが、次いで訝しむような目を向けてきた。

 

「み、見つからねぇ時は、どうなンだよ……?」

「承知しています。ですので、こちら前金になります。お納めください」

 

 言って、有無を言わせず金貨の入った小袋を握らせる。

 ウィードさんは袋の重さを確認しては、ぶるりと身を震わせた。今度は俺への畏怖ではない。

 感触は悪くない、押せばいけるという感覚。故、畳みかける。

 

「他の冒険者から伺いました。ウィードさんは今、新しい武器が欲しいんですよね?」

「あ、あぁ……そうだが……」

「でもお金がない。お金がないから武器を買えないし、武器が弱いから良い迷宮に潜れない。そも、ウィードさんのスタイルはとかくお金がかかる……」

「まあ、そうだ……」

「もしこの依頼をお受け頂けたら、この金剛鉄(アダマンタイト)をお譲りしますよ」

「……え?」

 

 トンと、彼の残る手に希少鉱石を握らせる。

 右手に金、左手に金剛鉄という状況だ。

 

「いや、でも……そいつぁ売っちゃダメな奴だろ?」

「ええ、なのでお譲りするんです。一時的とはいえ、一党の仲間なのですから」

「マジかよ……。んな、いやイケるのか? えぇ……? な、なんで……?」

「あと、その耳も治してさしあげますよ。無料で」

「あ? あぁ? いや、そんなのできる訳が……」

「できますよ。自分の一党には魔法に秀でた竜族がいるんです」

「うっ……」

 

 ひとつ呻いて、逡巡するウィードさん。

 しかしその内心はわかってる。損得勘定をしているのだ。得る物は多いが、俺という友人でも仕事仲間でもない奴の依頼を受けるべきか否か。リターンがデカすぎる、何か裏があるんじゃないのかとか。そういうのだろう。

 こっちからすると裏も表もないのだが。

 

 ぶっちゃけ、絶対彼である必要性はなかった。要するに、占い師が示した森に適した斥候がいれば誰でも良かった。

 しかし、今現在ホントに優秀な斥候は皆、王家からの依頼に夢中である。そんな中、残った斥候となると数が限られる。そこで選ばれたのが、ウィードさんだ。

 

 クリシュトーさん曰く、ウィードさんは生来の好色さ&巨乳好き&面食い&娼館狂いのせいで、迷宮に潜らない日はほとんど神殿付近の高級娼館に入り浸っているらしい。当然、いくら冒険者でもそんなのしてたらすぐ金が尽きる。

 加えて言うと彼は多彩な道具を使い潰して迷宮に挑むタイプの冒険者であるらしく、ジョブの都合上複数人じゃないと活躍できない。当然報酬は山分け。渡りの所為で経費は自分持ち。貯金はしたいが貯まらない。

 要するにこの人は、腕はいいけど金欠な冒険者なのだ。斥候不足が懸念される今後、神殿内での斥候需要は爆上がり間違いなし。故、ここぞとばかりに稼ごうとしているのだ、彼は。

 

「ま、マジで戦闘はしなくていいんだな……?」

「ご安心ください。魔術式の契約書があります」

「マジか……」

 

 やがて、彼は俺の札束アタックに敗北し、我がロリ救出隊に参加する事となった。

 

 ちなみに、何故クリシュトーさんが彼の事に詳しかったかというと、どうやら彼は時たま奴隷市場を物色しているらしいのだ。そうなるとクモの巣に掛かった虫である。クリシュトーさんの情報網にかかれば、いち冒険者のパーソナルデータなど障子戸同然なのだろう。

 ついさっき、「え、客の事しゃべっていいんですか?」と訊いたところ「まだお客様ではございませんので」というスマイルを頂いたものである。流石というか何というか。

 

「じゃあ、よろしくお願いしますね」

「ん、あぁ……。まぁやれるだけやるっすわ」

 

 そんなこんな、俺たちはさっそく王都の外に向かう事となった。

 目指すは、王都の隣領、カトリア領だ。

 

 初の王都外と観光気分じゃいられない。

 焦らず急げ。

 

 

 

 

 

 

 ラリス王国は、王国というだけあり王様がトップにいて、その下にいくつか貴族がいて、貴族一人につきひとつの領地を任されてるという体制であるようだ。

 領主は領内に出没する魔物――ダンジョンと同じ奴であるらしい――を討伐したり、賊が出たら討伐したり、その他色々をして自領を守るのが仕事だ。 

 感覚的に、俺がイメージしてた貴族よりもマッチョでバイオレンスな立場なんだな。これまたイメージだが、貴族というより極道といった方が近い気がする。それでいうと、今俺が向かってるのはカトリア伯爵が治めるカトリア領となるので、ラリス組傘下カトリア組という事になるか。

 

 ところで、この世界の主な交通手段は陸路である。徒歩も馬車も皆、街道を使うのだ。それも多くは土むき出しの、あまり舗装されてない街道をである。

 当然ながらこの世界に自動車はない。最も使われてるのが馬車で、当然の様に車やバイクほど速度は出ないし長く動く事もできない。バフをかけた高速馬車でも、せいぜい時速30㎞程度を維持できるくらいだ。

 加えて言うと、長距離を馬車で移動するには馬用のエサや水や休憩時間なども必須である。そこは魔法でも何ともならない。まぁ水は魔術師がいれば何とかなるのだが、飼葉を出す魔法なんてないのでやっぱエサは要る。

 

 また、ネットもテレビもない異世界、連絡手段といえばもっぱら手紙である。当然、その手紙には運び手が必要なのだ。運び手の多くは、大体馬車である。

 他は伝書バトでも使うのかな? と思っていたら、それは無理らしい。曰く、「そんなの飛ばしたら即捕食されるッスよ!」との事。何に喰われるかというと、空中の魔物である。

 しかしながら、クリシュトーさんの下に連絡が来たのは、ついさっきの事だという。手紙によると、事態を確認したのは本日の午前中の出来事であったらしい。被害状況から推測するに、少なくとも数時間は経っていると……。

 

 車もバイクもない異世界だが、馬車もハトも使わずに午前の出来事をその日の夜に伝えられる技術があるのだ、ストゥア商会には。

 それは、異世界にしかいない存在、高速配達人である。クリシュトーさんお抱えの元冒険者の天馬族(ペガサス)さんの仕事だった。

 天馬族とは、要するに馬人と翼人を合体させた種族の事だ。分類は魔族で、空でも陸でも速いスピード特化種族である。ハトほど弱くないので空中の魔物も何とかできるし、ヤバくなったら地上で走れる。

 天馬族の配達人とは、この世界で最も速く荷物を届ける事のできる手段なのである。

 

「じゃ、準備はいい?」

「大丈夫ッス!」

「問題ないわ」

「う、うっす……。うぅ、これも金の為金の為……」

 

 そんな訳で、俺もその配達人にあやかる事にした。

 あっちがペガサスなら、こっちはヘラジカである。ちゃんとギルドの許可を得たラザニア宅急便だ。

 

「ノンストップで行く! 振り落とされるなよ!」

 

 王都を出た俺たちは、ラザニアの背にまたがった。列は前からルクスリリア、エリーゼ、俺、ウィードさんの順である。

 そんな訳で、クリシュトーさんのお見送りを背に我々は空の旅を始めた。

 

 タンと駆け出しバサっと舞い上がる。そして、グングン空へと昇っていく。

 今が昼だったら空からの景色に感動してただろうが、夜だし急いでるしでそんな心の余裕はない。暗視ポーションのお陰で夜でも良く見えるが、それでも異世界の夜は暗かった。

 

「ウィードさんはカトリア領の森に行った事は?」

「え? あぁ、入った事あるぜ、よほど奥にいない限り大丈夫っすわ」

 

 道中、俺たちは打ち合わせをしていた。

 商会お抱えの占い師曰く、現在件のロリは森を移動しているらしく、恐らく今も森の中だろうとの事だった。

 そも、街道を馬車移動していたはずのロリ奴隷が何故森にいるのかは分からない。現場では馬車が横転していて、馬や護衛が殺されていたらしい。その中から、ロリの入った檻だけ無くなっていたのだ。

 加えて言うと、馬車を護衛していたのは鋼鉄札持ちの冒険者である。恐らく奇襲だったとはいえ、そいつを殺せるとなると十把一絡げの賊じゃまずできない芸当だろう。

 

「二人もごめんね、こんな夜遅くに」

「大丈夫ッス! 夜は淫魔の時間ッスからね!」

「問題ないわ。その気になれば、竜族は三日三晩寝なくても戦えるのよ」

 

 今回のロリ探索には、二人にも同行してもらった。

 最初は俺一人で行こうと思ったのだが、やっぱり足は欲しかったのでルクスリリアにも同行を願い、そうなるとエリーゼを一人にさせる訳にはいかないので結局いつものパーティとなったのだ。

 

「お、見えてきたな。イシグロさん、あの丸いトコで降ろしてくれ」

「わかりました」

 

 ノンストップで飛んで二時間程度だろうか。道も信号もないラザニア移動は、迅速に俺たちを例の森へと運んでくれた。

 言われた通り森の開けた所に降りる。冒険者の身体スペック故だろうか、前世でバイクを降りた時の様な疲れはなかった。見るに、リリィもエリーゼもウィードさんも疲れてはないようだ。

 

「ウィードさん」

「おう、任せな」

 

 俺はアイテムボックスから、ロリ奴隷が乗せられていた馬車の破片を手渡した。ロリの似顔絵は確認したしウィードさんにも見せたが、今捜索の手がかりになるのはこれだけである。

 両耳をピクつかせたウィードさんは破片に鼻を近づけ、匂いを嗅いだ。猟犬族の彼からすると、このレベルの手がかりでも人探しができるのだ。

 

「んあ~、少なくとも近くにこの匂いは無ぇっすわ。足で探さねぇと……」

「わかりました」

 

 覚悟していた通り、ここからは森の探索である。ラザニアとお別れし、皆に専用の武装を渡す。俺も腰に無銘を佩いた。

 焦る心を抑えつつ、俺はそのまま夜の森へと足を進めた。先頭はウィードさんで、その後ろに俺、そのまた後ろにエリーゼとルクスリリアである。

 初の森探索だ。情報は入ってるが、油断はできない。

 

 

 

 カトリア領の森は、なんだか神秘的な雰囲気に満ちていた。

 まさに鬱蒼とした森という表現がぴったりで、そこには自然の息吹とでもいうべき大きな生命達が渦巻いているように感じられた。鼻で息をすると草と土と、それから僅かに生き物の匂いがした。

 もっと砕けた言い方をすると、なんかもののけ姫みたいな森だった。今にも白い山犬が襲ってきそうである。

 

「はあッ!」

 

 しかし、襲ってくるのは美しき森の守護獣でなく、クッソ汚い夜行性の魔物であった。俺は剣を一閃し、襲ってきたクソデカフクロウを真っ二つにした。奇襲はカウンターに弱いのだ。

 地球の自然も大概危険だったが、こっちの場合そこに魔物がプラスされるのだから難易度アップである。

 ちなみに、迷宮外の魔物もまた、迷宮内と同じように粒子に還り経験値になる仕様だ。何故かドロップはしないようだが。

 

「行きましょう、ウィードさん」

「お、おう……」

 

 前世、何度か森に入った事はあるが、その時は木の根や滑る地面に足を取られてロクに動けたものではなかった。舗装された道でそうなのだから、未開拓の森など何をかいわんやである。

 しかし、異世界ナイズドされた俺はズンズン進む事ができた。それどころか、エリーゼをおんぶして走る余裕さえあった。こういう所に異世界のステの凄さを感じる。

 ちなみに、リリィは飛んで俺についてきて、ウィードさんは獣人の特性でスイスイ移動している。俺もウィードさんも、プロアスリートよりも速く森を進んでいた。

 

「ほんの少し匂いがする……。こっちっすわ」

「はい。よっと……」

 

 足場が酷いところは、“柔拳士”スキルの“軽功”でぴょんぴょん移動する。

 熟練したスキルの場合、ジョブに関わらず使用可能な状態であればこのように使う事ができるのだ。軽功は足さえフリーなら使えるので、とても使い勝手がいい。

 逆に言うと、いくら熟練しても“切り抜け”等は剣がないと使えないが、本来切り抜けを覚えられない聖騎士や魔法剣士でも剣さえ持ってりゃ使えるのである。

 その点、武闘家スキルは便利だ。手足のどれかがフリーなら使えるモノが多いので、剣士やりつつ武闘家の動きができる。中でも足技は立ち回りに便利なので、普段から愛用している。

 

「止まってくれ、イシグロさん」

 

 しばらく走ると、茂みの先に開けたところがあった。

 ウィードさんの後ろから伺うと、そこには何人かの死体と、荒れた地面や折れた木などがあった。開けた所と思っていたのは、戦いで荒れた所だったのだ。

 

 先行したウィードさんが周囲を探り始める。俺も警戒を強くして後に続いた。

 斥候の彼はあっちこっち移動しては、死体や地面の状況を確認していた。時に四つん這いになってまじまじ観察したり、落ちてる何かの破片を矯めつ眇めつしていた。

 

「イシグロさん、見て分かる通り此処でその奴隷が暴れたんっすわ。アッチから走ってきて、ちょうどこの位置でやり始めた。それから、ソッチに逃げてったと……」

「無事なんですね?」

「多分な。逃げた方向も分かる。けど……」

 

 言って、ウィードさんは死体の胸元を指差した。

 

「こいつはある程度炎に耐えてる、現役冒険者っすわ。けど冒険者証がねぇ……。これ、先に誰かが見分して証取ってった可能性高いっすわ……。イシグロさん以外にも、この匂いを探してる人等がいるって事だな」

「襲撃犯ですか?」

「どうだろうな……」

「にしても凄いッスね。冒険者でもないのに、冒険者の追手を返り討ちにできるなんて……」

「魔力は残っているけれど、魔法の炎じゃないわね、これは……」

 

 ウィードさんとエリーゼの言葉通り、転がってる死体はどれも何かしらの方法で燃やされていた。焼死体である。

 腕がない焼死体があれば、頭が取れてる焼死体もある。けれど、全部どこかが焼かれていて、モノによっては全身黒こげのもあった。進撃の焦げミンを思い出す。とてもグロい。

 

「……情報通り、ではある」

 

 驚くべき事に、間近で死体を見たというのにも関わらず、俺の心は存外平静を保っていた。

 前世、俺は医者でも警察でもなかった。亡骸など、葬式で見た祖父の遺体しかない一般人だ。焼死体がショッキングなのは確かだが、それはそれとして不思議と一線を引いている感覚があった。何故かは分からないが、祖父とお別れをした時や交通事故の現場を見た時の様な衝撃は受けなかったのである。

 

 もしかしたら、俺の心は身体同様に異世界ナイズドされたのかもしれない。

 あるいはアドレナリンか何かの影響で、死や痛みに鈍感になってるのか。

 分からないが、それこそ後でいい。深く考えないのが一番だ。

 

「手がかりっつーと、これかぁ……?」

 

 周囲を見分していたウィードさんが、ひしゃげた鉄の何かを拾い上げた。形は変わっているが、元何だったのかは分かる。

 

「……見覚えのある魔力ね」

 

 奴隷用の拘束鎖だ。それも、とても強力な奴隷を縛る為の、特別製。

 エリーゼのような、超級の奴隷を縛る為の鎖である。

 

「焼けちまってるんでソイツの匂いは分からねぇが、この鎖の匂いなら追いやすい……こっちっすわ」

 

 駆けだしたウィードさんを追い、俺も後に続いた。

 ロリ奴隷が強いのは分かっていた。ひとまず追手らしき集団を返り討ちにしてたというのも、安心材料になってくれた。

 彼女が人を殺したのには、ショックはあっても忌避する感覚はなかった。ヤバい時に殺しなど、誰だってそうする、俺だってそうする。

 

 今回、俺がクリシュトーさんから紹介される予定だった奴隷は、特殊な出自の魔族の娘であった。

 名を“グーラ”と言い、とても強い力を持っているらしいのだ。

 その一つが、奴隷鎖を焼き溶かす程の炎熱能力。元は戦闘用として売られた、可愛いロリ奴隷だ。

 

 グーラは強い。グーラはエリーゼの様な観賞用竜族奴隷と違い、がっつり実戦用魔族奴隷としての需要があるのだ。

 裸で迷宮探索に同行させるとか、闘技場で戦わせるなんてのはマシな方で、最悪何かしらの鉄砲玉として使われる可能性もあるのだ。その価値は、戦闘力相応に高い。

 そうなると、多少アホな事して奪おうとする闇奴隷商会や、前述の通り鉄砲玉として使いたい賊連中からも狙われる可能性があるのだ。クリシュトーさんによると、正直誰が襲撃犯なのかさっぱりだという。候補が多すぎるのだ。

 

「うわ……! 止まれイシグロさん……!」

 

 急停止したウィードさんに従って、俺も停止する。背のエリーゼが「うっ……!」と呻いた。

 

「強者の匂いがする……! マジやべーっすわ、この先如何にもな冒険者がいるっすわ……!」

「冒険者……? 山賊とか盗賊とかではなく……?」

「ああ、武装の匂いが上質なんで恐らく……」

 

 それは、一体全体どうしてナンデという気持ちである。

 第三勢力? 奴隷を追ってるのは襲撃犯だけじゃないって事? いや、襲撃犯が冒険者を雇ったとかそういう線もあるのか? あるいは何の関係もない可能性もあるか……。

 ストゥア商会――クリシュトーさんの奴隷商会の名前だ――の関係者である事を示す合言葉はある。これが通じれば問題ないが、もしダメだったら即敵対である。会話ロールで何とかしたいが、そもそも話の通じる相手なのか?

 いやいや、もし相手も同じ子を捜索中というのなら、わざわざ姿を晒す意味はない気がする。ここはスルーして、匂いを追うべきか……?

 

「ウィードさん、匂いの方向は……?」

「その冒険者の歩く先っすわ……。あと、冒険者等も同じ匂い持ってる……」

 

 ファックである。これで全くの無関係って線は消えたわけだ。

 なら、せめて襲撃犯サイドでない事を願うばかりだが……。

 

「クソが、死ねよ……」

「ご主人……?」

 

 その時、我知らず俺は悪態をついていた。

 ただでさえロリの安否で精神が荒んでいるというのに、ここにきて競争相手のエントリーである。さっきまでギリで保たれていた冷静さが、件の冒険者パーティの出現で崩れはじめた。

 どうすりゃいい、何が一番良い選択肢だ? 残念ながら、異世界にステはあってもポーズはない。一時停止して考えるなど、できはしない。

 

「イライラする……!」

 

 あぁ……もう面倒臭くなってきたな。

 

「ふぅ……ルクスリリア、伏兵作戦だ。もし戦闘になったら、タイミング良く奇襲してくれ」

「は、はいッス」

「エリーゼ、降ろすよ。エリーゼはできるだけ魔力を抑えてて、気づかれるといけない」

「わかったわ……」

「ウィードさんは隠れててください」

「あぁ、わかった」

「あっ……これも一応かけとくか」

 

 俺はジョブを“ハイウィザード”に変更し、杖を取り出して俺を含めた全員に“静寂”と“隠形”と“無臭”をかけた。

 それからまたジョブを“ソードエスカトス”に戻し、腰の無銘を確かめた。

 

「じゃ、行ってくる」

 

 それから、さっきとは比べ物にならない速度で駆けだした。

 

 少し進み、冒険者たちの姿を捕捉した。

 彼らは俺の隠密には気づいていないようで、斥候の男を先頭に警戒しながら進んでいた。

 静かに尾行しつつ、俺は冒険者たちを観察した。

 

 前を歩いているのはフードを被った痩せ男だ。彼は足元を確かめながら、堂に入った斥候ぶりで後続を先導していた。

 その後ろに、円盾を持った赤毛の少女。大剣を背負った鬼人の少年。トンファーを持つ金髪の少女。最後尾に如何にも魔術師っぽい翁さんというパーティ構成。

 彼らのランクは知らないが、パッと見だと鬼族の大剣使いが一番強そうだった。

 

 多勢に無勢である。見つかりたくないし、戦いたくない……。

 

 しかしだ、彼らの足取りはこういう状況に慣れた風で、迷いなく獲物に近づいているのが素人の俺にも分かった。このままだと、追いついてしまう可能性がある。

 やっぱ、出るべきだろう。

 

 俺は覚悟を決め、跳躍した。

 

 

 

 

 

 

「どうも、こんばんは」

 

 闇夜の森、突如。その男は冒険者一党の前に姿を現した。

 いきなりの事だったが、流石は“迷宮帰り”の冒険者たちで。即座に警戒態勢を取った。

 斥候はカミソリを、赤毛の少女は槍を、金髪の少女は旋棍を、翁は杖を構え、鬼人の少年は楽しそうに笑んだ。

 

「自分は王都の西区で冒険者をさせてもらっている、イシグロ・リキタカと申します。イシグロが苗字で、リキタカが名前です。どうぞよろしくお願いします」

 

 武器を向けられた男は、自身をイシグロと名乗った。

 その名を聞いて、戦慄しない冒険者はいなかった。

 

 イシグロ・リキタカ。登録から僅か2ヵ月で銀細工の所持を許された、銀細工授与史上最速記録保持者。

 二つ名を“黒剣”。彼は、恐らくその由来となったであろう黒い柄の剣を佩いていた。

 

 そして、彼にはもう一つ、関係者しか知らない二つ名がある。

 黒剣のリキタカ、またの名を“迷宮狂い”。狂ったように迷宮に挑む、得体の知れない男。

 頭のおかしい銀細工持ちの中で、一等頭のおかしい輩である。噂が正しいのであればの話だが。

 

「ところで、えーっと……あぁ……」

 

 黒剣のリキタカは、先ほどまでの流暢な挨拶とは打って変わって、何故だか言葉に詰まっていた。その手は、無造作に剣の柄を弄っていた。

 やがて、意を決したように五人の冒険者を見て。云った。

 

「……今日は、()が良く見えますよね」

 

 その言葉を聞いた瞬間、後方にいた魔術師の翁が魔法の発動準備に入った。

 

「そいつは敵じゃ!」

 

 刹那、駆けだす鬼族とトンファー少女。鬼は凶笑と共に大剣を引き抜き、少女は気炎と共にトンファーを構えた。

 二人がかりの攻撃を前に、銀細工の狂人は……、

 

「クソがよ……」

 

 心底不愉快げに、腰の剣を抜いた。




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