【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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おや? 後書きの様子が……?


あたしがママです!

 なんて事のない、ある夏の日。

 文字通り、世界中を震撼させる発表があった。

 

 ――ラリス王国大勝利! 希望の未来へ、レディ・ゴー!

 

 大本営もといラリス王家に曰く、勇敢なるラリス軍は解放軍を僭称する叛徒共との戦に大勝利したそうだ。

 宵鴉作戦をはじめとした旧魔王軍根絶やし作戦の結果は、大々的に報じられたのである。

 ラリス王家の発表についてだが、俺の知る限り殆ど本当の事だと思う。それくらいには俺以外のチームも大勝利を収めていたのであるからして。

 

 草薙の剣が担当した邪眼のファンリー討伐作戦――宵鴉作戦は、これ以上なき成功を収めた。

 邪仙の親玉であるファンリーは復活の余地を残さず完璧に討伐され、サブターゲット扱いだった猫又長女もついでにスレイ。

 何よりも大きな戦果と言えば、夜煌宮にあった旧魔王軍関連の資料や各種研究データ等々である。その他の細々とした旧魔王軍の情報も根こそぎスッパ抜かれたそうだ。

 それもこれも、旧魔王軍の情報管理がガバガバだったお陰? である。影空間の守りを過信して、夜煌宮を万能倉庫扱いしていたからこうなったのだ。

 いやまぁ、まさか遠い未来からピンポイントに影空間の脆弱性を突ける奴が来るとは思えんよな。

 

 一方、俺達以外はどうだったかというと、先述の通りこれも軒並み大成功。

 俺達がファンリーとバトッている間、第三王子派閥を中心としたラリス軍は入念に準備した電撃戦で以て呑気してた旧魔王軍をバチボコにシバき回したそうだ。

 特に凄かったのはゲスト枠のリアルイーザ様で、なんと彼女一人で旧魔王軍幹部を二人も倒しちゃったらしい。

 

「幹部とやらは確かに強かった! 以前までの予なら負けていたであろう! しかし! 霊格極装を手にし、真に相棒と一心同体となった予は奴等より強かった! それだけの話よ!」

「さすがリアルイーザ様です!」

「うむ! もっと褒めるがよい! なーっはっはっはっはっ!」

 

 とは、霊格極装を手にしたネオ・リアルイーザ様の談。

 当人の語るところによると、旧魔王軍幹部Aと戦ってる途中で幹部Bが救援に駆けつけてきて、AがBを吸収してパワーアップした後にプッツン来たネオ・リアルイーザ様が覚醒してA&Bをブチのめしたらしい。

 その武勇伝を、グーラは目を輝かせて聞いていた。天然でヨイショしまくって続きをせがむグーラに対し、気を良くしたリアルイーザ様は英雄譚には載っていない武勇伝の数々を気持ちよさそうに披露していた。

 

「義理は果たしたのでな! 予はラグニアのいる王都に戻らせてもらうとしよう! 金もたっぷり貰った故、ちょっくら賭場で倍にしてくる! 待ってろラリス! 国庫を開く覚悟の準備をしておけよー!」

 

 ホテルのホールを貸し切って三日三晩続いたリアルイーザ公演会の後、伝説の英雄は飲み会明けの深夜テンションで帰って行った。

 ともかく、ルクスリリア母とは仲良くやっているようで何より。

 

 閑話休題。

 

 例によって例の如く、戦いの後は超ドタバタしていた。

 前例と異なるのは、俺がドタバタしてたんじゃなくて世界中がドタバタしてたところだ。

 

 ラリス王直々の旧魔王軍の存在公表に加えて、ディング魔族国での残党狩り勝利宣言および旧魔王軍残党の各地でのやらかし&やらかしオンパレード。言うまでもなく、パニック起きたよね。

 これにはフェイクニュースだ魔族差別だと主張する人達もいた訳だが、彼等はアルヴの上森人王やクーシェンの代表等々各国の重鎮達が魔王軍残党の存在を認めた事で口を噤む事となった。

 またこれにより、ディング魔族国を含めた国々は身の潔白を証明する必要に駆られる運びとなっていった。

 

「やめろー! 私はパンの党の長だぞ! 貴様等ラリスがこんな事をして、ただで済むと思っているのか! 手下共が黙っとらんぞ!」

「誰が手下か! 我々に黙って米を食していた裏切者が! 貴様にパンの党を率いる資格はない! という訳で次代党首は私という事で、私が当選したらピーナッツバターの無料支給を約束します! どうか私に清き一票を!」

「おいおい旧魔王軍ってマジかよ。俺の祖母ちゃんの時代だぜ」

「そいえばうちに旧魔王軍の勲章付きサーベル置いてあるわ! あれ今ならプレミア付いて高く売れるのでは?」

 

 が、当然として誰も「私が犯人です」と名乗り出る訳はなく、また当然として旧魔王軍の支援者達は事前に調査を完了していたラリス軍に捕らえられていった。

 これはクニュフの未来知識による決め打ち調査によるものであり、幸いにも多くは国政ではなく個人の腐敗から来るものであった。

 またまた当然として、ラリスの手はディング魔族国上層部にまで届き、旧魔王軍と繋がっていた政治家は一網打尽にされた。

 ちょっと面白かったのが、以前にディングの首都で街頭論争していたパンの党の党首が裏で旧魔王軍から資金提供されてたところだ。なんで旧魔王軍はその党を選んだんだよ。

 

「そんなウソでしょう! 我々はただ純粋に召喚獣の研究がしたかっただけの善良な市民ですよ!」

「それを何処の誰に売っていた!」

「え~っと、どなたでしたっけ?」

「全員漏れなくド級の犯罪者だ馬鹿!」

「ひぃ~! だって金払いが良かったんだもぉん!」

 

 人類平和条約に基づく検挙に次ぐ検挙の嵐。もはやタイーホされた残党関係者だけでドミノが出来そうな勢いだった。

 いくらラリス王国でも普通ここまで強引な手は取らないとの事だが、今回はマジで特別措置らしい。

 早め早めに対処せねば、後々もっと厄介な事態に陥る。そのように踏んで、ラリス王自ら斧を持って暴れたそうだ。友達だった先代上森人王の仇を討つべく暴れたがっていただけとの噂もあるが、恐らくこれは本当だろう。

 今はラリス王国の強権で何とかなっているが、この余波は遅れて市井にやってくるに違いない。事後処理こそ大変なのだ、ラリスの文官には頑張ってほしいところである。

 

「こちらがイシグロ様への報酬となります。どうぞ、お納めください」

「どどどどっひゃ~! さっすがラリスは太っ腹やな! お金やのうて現物ってのが最高やわ! 夢が広がる~!」

「世界を救った報酬にしては安いですよね。もっとふっかけてもいいんじゃないですか? それくらいはしたでしょう、ワタシ達」

「や、崩壊した世界じゃ金なんて何の意味もない」

「それとこれとは話は違ぇと思うがな。まぁアタイはこの王家クオリティのルーン彫刻具セットで満足だぜ。あと第二大災厄前の酒! くぁ~楽しみたぜぇ~」

「ふふっ、私なんてリンジュの“桜竜ころし”よ。一緒に吞みましょう?」

 

 国のアレコレは置いておいて、俺達の戦果をまとめると以下のようなものである。

 ファンリーを含め、旧魔王軍幹部が三名死亡。夜煌宮に保管されていた旧魔王軍の内部資料を押収。

 これらによって魔王軍残党は中枢を失い、数少ない生き残りも否応にも規模を縮小してコソコソと活動せざるを得なくなった。改めて敗軍の残党になったのである。

 また、クソ未来で猛威を振るっていた新魔王についても、計画の要だったファンリーがいなくなった事で誕生自体しなくなる可能性が高いらしい。仮に誕生してもクソ未来ほど無法な強さにはならないとの見通しだ。

 

「なんというか、今までの戦いで溜まっていたモノが一気に噴出した感じですね」

「今でもめちゃ荒れとるけど、これからもっと荒れるやろな。今回でラリスも大分強引な手ぇ使ってもうたし、どうなる事やら」

「大丈夫ですよ。一晩で政治体制が爆散したクーシェンも今は元気にやってますから」

「クーシェン民は氣が漲ってるからのぅ」

 

 戦後のゴタゴタについては、そんな感じ。

 それよりも俺達にとって重要なのは、クニュフについてである。

 故に、俺達は……。

 

「はぁい、久しぶりね皆。いつぶりかしら? その子がクニュフちゃんね? 私は淫魔女王、この国のトップよ。安心して、私これでも世界一の治癒師なんだから」

 

 淫魔王国に来ていた。

 理由は二つ。荒れるディング魔族国からの避難と、淫魔女王に魂を統合したクニュフを検診してもらう為である。

 ちなみに、未来ヘカテによる魂関連のレポートは第三王子経由で一部研究者に共有され、同じく淫魔女王にも秘密裏に渡っている。ヘカテの検診では大丈夫だったが、呪い関連は陛下に診てもらった方が良いだろうとの判断だ。

 

「うん、どこをどう見ても極めて健康ね。もう赤ちゃん作れるわよ」

「やったニャ~!」

「このやり取りが許される淫魔王国ェ」

 

 結果、クニュフの予後は極めて良好だった。

 けれども、統合の以前と以後では、とある部分に大きな変化があった。

 

「まぁでも、めちゃくちゃ弱くなってるね、あたし。何でか影は強化されてるけど、いくつか異能無くなってるし」

 

 クニュフの自己申告通り、元々彼女が有していた異能の一部が消えて無くなっていたのである。

 具体的には、経口摂取によるコピー能力と、ステータスにさえ作用していた超絶隠蔽能力。その他、使いどころのなかった魔導人機適性等の細々としたオプションがキレイさっぱり消えたのだ。

 曰く、クニュフは魔王の器の習作として様々な実験を施されていたらしく、クソ未来でロールアウトされたクニュフの肉体には様々な継ぎ接ぎが施されていたそうだ。ある意味、レノと似た境遇なのである。影以外、全部外付けだったのだ。

 

「そうだな。使える魔法とか熟練度とかは据え置きだが、ステータスは前より下がってる。いや初期値でこれなら全然強いけど」

「鍛え直しですね、クニュフ! 鍛え直しですね!」

「なんで二回言うのよ……」

 

 隠蔽異能が消えたので試しにクニュフのステータスを見てみたところ、彼女は一部異能を失っている上に基礎ステータス自体も軒並みクッソ低下していた。

 とはいえだ。ざっくり見るに、弱くなっているばかりではなかった。魂統合の恩恵らしきモノも刻まれていたのだ。

 可能なら今すぐ各種検証をしたかったが、俺達にそんな時間は与えられなかった。

 何故なら……。

 

「やあ、久しぶりだねイシグロさん。いつも通り、僕が来たよ」

 

 王子が来たから。

 

 

 

 

 

 

 今現在、ラリス王家の第三王子・ジノヴィオス殿下は、クニュフが未来から持ってきた情報を駆使し、根回しに次ぐ根回しで急速に地盤を固めつつ勢力を拡大している真っ最中らしい。

 たった一回の戦いで旧魔王軍を半壊に追い込み、裏切者を次々と処断しまくった。功績抜群どころの話ではない。大戦へ至る根を刈り取り、犠牲もなく未来の平和を手にしてみせたのだ。

 まさに、真の大英雄である。

 

 世界中がゴタゴタしてて、ラリス中がご多忙の中、その中心にいるはずの第三王子ジノヴィオスが淫魔王国にやってきた。

 邪眼のファンリーを倒してみせた、ファンリーの遺児たるクニュフと会う為に。

 

「お察しだろうけれど、僕は細かい礼儀作法とか長ったらしい時候の挨拶とかが嫌いでね」

 

 淫魔王国・ケフィアム城。

 地下応接室のソファーに座る俺の前には、純白の美少女がいた。

 そう、美少女である。フリフリのドレスに、サラサラの白髪。白雪のような肌はきめ細かく、ただでさえ美しい顔には極々薄い化粧が施されている。まさに、深窓のご令嬢といった様相だ。

 完璧な姫ルックに加え、あまつさえ仕草や声までマジお嬢。どこからどう見ても、耳で聞いても、バチクソかわいい美少女なのである。

 

「報告であれ何であれ、簡便なのが望ましい。極論、確認と承認と否認の三つで完結するのが好みだね」

 

 だが男だ。

 王子様の姫様姿は何度か拝見させてもらっているが、今回の女装は以前より明らかにクオリティのギアを一つ上げてきている。もし俺がチンチン付いてる方がお得教の信者だったら間違いなく崇めていただろう。それくらい、ロリコン性癖とは関係なしに純粋に可愛いのだ。

 あれ? てゆーか、殿下ってもう十代後半だよね? なのに、なんでこんな姫々しい女装が出来てるんだ? これがラリス驚異の化粧技術ってやつ? いやいや化粧一つでこうも化ける訳……。

 

「キルスティン、少しの間下がっててくれ」

「承知いたしました。では、ごゆっくり」

 

 なんて考えていたら、第三王女もとい第三王子はお付きの爆乳メイドを退室させた。

 いつぞやと同じく、部屋には姫王子と俺とクニュフの三人だけになった。

 

「さて……」

 

 姫がお茶を一口。ソーサーにカップがおかれた頃には、俺の眼前に冷徹な聖王子の姿があった。

 

「単刀直入に言おうか。イシグロさん、我々にそこの邪仙を引き渡してほしい」

「お断りします」

「だろうね」

 

 到底容認できない。なので、きっぱり断った。

 お互い、そう来ると思っていた。だから誰も動揺してない。

 平行線。その上で、話をしようというのである。

 

「確認させてもらうよ。クニュフさんはファンリーが生み出した邪仙の生き残りだ。その身には魔王に繋がる証拠が刻まれている。隠せなくなった三つの尾、見る人が見ればファンリーの係累と分かるだろう。クニュフさんは善からも悪からも狙われる。それでも、君は彼女を庇護するというんだね?」

「はい。たとえ貴方が敵に回っても、私は彼女を愛し、守り続けます」

「それで不利益を被るとしても?」

「それが愛というものでしょう」

「再確認だ。平行線だね?」

「間違いなく」

 

 ラリス的に、クニュフの存在は火種であると同時に金を産むかもしれない鶏だ。

 彼女の肉体には、まだラリスが把握してない神秘が宿っているかもしれない。彼女の頭には、まだ表に出されていない有用な未来知識があるかもしれない。あまつさえクニュフは王家の秘密を知っているのだ。閉じ込め、拷問し、然るべきタイミングで始末するのが丸いのではないか。ラリス視点、そうなるだろう事は理解できる。

 だが、どんな不利益を被ったとしても、俺はクニュフの生殺与奪権をラリスに握らせるつもりはなかった。

 そこが俺の引いた境界線であり、踏み込んだら殺し合いになる線だった。やろうと思えば、ラリスは俺を捻り潰せる。けれどもお互い無傷では終われない。その気になったエリーゼはフライシュ領を焼く。その気になったヘカテはアルヴの森を枯らせる。ただでさえ世界中がゴタゴタしてる現状、ラリス王国がそんな事に割ける余裕などないはずだ。

 

「まっ、ぶっちゃけ僕的には構わないんだけどね。イシグロさんが僕の下にいる限り、僕は君の後ろ盾であり続ける。検査結果は見せてもらう訳だし」

 

 なので、お互い喧嘩しないよう譲歩できるところは譲歩し合おうという話。

 ぶっちゃけ、俺達はクニュフの心身が無事なら何でもいいのだ。欲しいデータはあげるから、あとはそっとしておいてくれ。

 愛する家族の為ならば、俺はどんな犠牲を払っても構わないのだ。未来の俺もそうだったに違いない。いや、戦争中だったらしい当時のクソ未来では、今よりも色々と厳しかったはずだ。その上で、未来の俺はクニュフを守り抜いた。こればっかりは自分自身を褒めてあげよう。やるね、俺。

 

「が、僕の守護にも限界はある。君は既に覚悟しているようだけれど、クニュフさんを庇護すれば家族みんなを危険に晒す事になる。この事を、君の家族は分かっているのかな?」

「承認を得ております」

 

 続く王子の忠告に、俺は力強く頷いてみせた。

 魂を分けた家族から見放され、人としての尊厳を剥奪され、希望を背負い絶望を抱えて未来を託しにやってきた。こんな境遇の少女を守らずして何がロリコンか。

 可哀想なのは、いけないのである。

 

「よし。じゃあそういう事で、この話はおしまいかな」

 

 ややもせず、厳しい目の第三王子は相好を崩した。

 パッチリとした瞳。艶やかな唇。声も少年から少女に切り替わって、彼は一瞬にして姫になったのである。

 だが男だ。大事な事なので二度言いました。いやはや、極まった女装は魔法と区別がつかないね。

 

「ところで、クニュフさんとの結婚式はするのかい?」

「以前程ではありませんが、ある程度大きい式を催す予定です。彼女を迎えた事を示す必要がありますから」

「そうか、なら僕も出よう。連絡役を向かわせるから、詳細は彼女と詰めてくれ」

 

 確認と承認を終えた後は、ゆったりした会話になった。

 結婚式の話とか、レバンティン特有の文化の事とか、昨今のファッションの流行とか。

 王子曰く、彼は今めちゃくちゃに忙しくてマジで死ぬかもしれないらしく、「宵鴉作戦の立役者であるイシグロとの会談」を名目に半ば無理やり休みをもぎ取ってきたそうだ。だからこういう世間話が実質休息だとか何とかで。

 

「いやぁ無駄に活躍しちゃったから、このままだとマジで僕が王様になっちゃいそうで困ったよ。全く以て嫌だねぇ」

「へ……いえ、殿下は王になられたくないのでしょうか? わ、私の知る限り、殿下は比類なき名君でいらして……」

「その方が楽だったろうし、そういうフリはしてたんじゃない? 得意だけど好きじゃないんだよね。人の上に立つのって」

「あ、え……はい……」

 

 会話中、マジで言っていいのかソレってくらいぶっちゃけられたりもした。

 ラリスの王位継承権は実力を軸に人格とその他諸々で決まるらしく、クソ未来では殿下は素晴らしい王様をやっていたそうである。

 で、当の本人はきっぱりと「王になりたくない」とか言っちゃった。あるいは、王子からすると「英雄になりたくない」と言っていた俺にシンパシーを抱いているのかもしれない。無礼なので言わないけどね。

 

「これから、イシグロさんはどうするんだい? 何かやりたい事とかさ」

 

 その後も話題は二転三転し、やがて俺の今後についての話になった。

 クニュフに会う前、俺は引退を考えていた。迷宮稼業は程々に控え、堅実な事業で家族を養おうかと。実際、クソ未来の俺はそうしていたらしいし。

 けど、今の俺は未来の俺がやらなかった事をするつもりだった。

 

「次代を担う英雄を探し、育てようと思います」

「ほう、興味深いね。詳しく聞かせてもらっても?」

 

 俺のやろうとしている事。それは、英雄育成計画である。

 何故に英雄育成などやろうと思ったかというと、やがて来たる屍王対策だ。人類側の戦力が整えば整うだけ、いい未来につながる訳でして。そしたら今度こそイチャラブハッピー生活できるじゃん、と。

 あと、純粋に才能マンのステータス見るのとかビルド構築を考えるのとか楽しいんだよね。以前、ワシが育てた百合森人・フェイレンさんが、隠れた異能を覚醒させてキャプテン・アルヴになった時は素直に感動したもん。

 言わば趣味と実益を兼ねた英雄専門の育て屋さんになろうって訳だ。

 

「なるほど……」

 

 その旨をお話しすると、姫王子は興味深そうな表情で顎に手を添えていた。

 この英雄探しは、徹頭徹尾俺の為に行う未来への投資である。覚悟もしている。覚悟とは、育てた人を失い傷つく心構えの事である。

 

 前世、俺の親戚にバイク整備を生業にしているおじさんがいた。

 俺がバイク好きというのもあって、普通に仲の良かった彼には俺の愛車を整備してもらっていたものだ。

 そんな彼と仕事について話している時、彼は「自分が整備したバイクで事故が起きる事」が整備屋をやっていて最もヘコむ事だと言っていた。

 バイクではないが、それを覚悟しようというのだ。誰あろう、俺と皆との将来の為に。

 あともう一つ、覚悟すべき事があった。

 

「つきましては、一つお伝えしなければならない事がありまして……」

「ん? なんだい? ここには僕とクニュフさんしかいない。好きに発言するといいよ」

 

 ステータス関連のチート能力について、知られる覚悟だ。

 視ようと思った対象の得手不得手が分かる事。持っているなら異能の概略が分かる事。一部の人には言っちゃってたが、今まで隠してきた。何故なら、これを知られるとラリスに監禁されて心を失くした全自動異能見抜きマシーンに改造されるのを危惧していたからだ。

 後に詮索されるのもアレなので、疑われる前に目的と使い道を言ってしまおうとの判断だ。

 

「え、知ってたよ? あーいや、恐らくそういう類いの異能持ちなんだなってのを、だけどね」

「あ、そうなんですね」

「それはそうさ。なんたって、君に指導された冒険者は悉く大成しているじゃあないか。“遠き刃”のトリクシィに、“逸脱者”ユア。最近だと、“絶えぬ蹄跡”のカリッセの一党に加わった大盾使いのフェイレンも、早々に頭角を現しているみたいだよ。まさか気付かれてないとでも思っていたのかい?」

「そ、そうでしたか……」

 

 が、知られていたらしい。なんか恥ずかしいね。

 

「その行いもまた、君を導きの英雄たらしめるだろう。勿論、承知しているよね?」

「はい。承知の上で、覚悟しております。それに……」

 

 王子の言いたい事は分かる。

 その上で、俺には他の思惑もあった。

 

「いざとなった時、友達が多い方がいいですから」

「間違いないね」

 

 今までと同じようで、少し違う自己防衛のアプローチ。

 敵を作らない為に、頼れる友達を作ろうと思うのだ。

 

「一つアドバイスをするなら、くれぐれも担がれないよう気を付けるんだね。英雄の道は善意によって舗装されている。いくら言葉を尽くしても、馬鹿は人の話を聞かないから」

「そんな馬鹿はぶん殴って止めますよ。暴力は全てを解決するんです」

「ははっ、いいじゃないか。らしくなってきた」

 

 なんて話をしつつ。

 俺達と第三王子の密談は穏やかに過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 王子とのお話を終えた後、俺達は淫魔王国で穏やかな日常を過ごしていた。

 毎日のクニュフの検査こそあれ、それら全てに俺が立ち会っているので変な事は起こらない。怪しい実験なんてさせないよ。

 何度目かの検診の結果、もう充分と解放された。これにてクニュフは正式に俺預かりとなり、イシグロ家は全員自由にしてヨシとなった。

 

「わぁ~凄い! マゾメスのエサやり体験コーナーだ~! あそこで挿入用の張形売ってるよ! 記念に一本挿れてきていい?」

「しょうがないッスね~。一本だけッスよ? あとエサを挿れる時にはコツがあってッスね……」

「なぁ亭主殿、誰がクニュフをあんな風に育てたんでぇ?」

「こんな酷い体験コーナー初めて見たのじゃ……!」

「ふへへ、あのマゾ淫魔めっちゃ喜んでますよ。首輪付けた散歩体験とかもあるらしいですね。オモロ~」

 

 という訳で、俺達はクニュフの希望で淫魔王国を観光していた。

 スケベを抜けば、すけべを抜けば、淫魔王国はとても平和である。世間では旧魔王軍の存在にビビり散らかしているというのに、ここの住民はいつも通りだった。本当にいつも通りだったのだ。

 魔族は楽しまないと生きていけない。杞憂しない。故に、精一杯現在を生きているのだ。その点、淫魔の精神性には見習うべきところがあると思った。

 

「ねぇパパ♡ あたしが淫敬飴舐めるの見てて♡ れろぉ~♡」

 

 それはそうと、魂を統合してからというものクニュフが積極的だ。何くれと誘惑し、からかってくるのである。

 けれども、今のクニュフに以前のような焦燥感は見受けられなかった。

 現状、俺はまだクニュフには手を出してはいない。彼女もまた、それを了承している。お互い、改めて関係性を築き直している最中なのだ。

 無論のこと、いずれ責任は取るつもりだ。

 

「それはそうと、クニュフの冒険者証はどうなるのでしょうか?」

「別人として登録し直しやろな。死んだ判定になっとるし」

「そっか~。まっ、今度はクニュフ・イシグロとして正式に認めてもらえる訳だから、むしろ取り消されてラッキーだったよね。クーニャは死んだもういないって感じで、あたしは双子の妹ニャ」

 

 あと、前向きになった。葛藤を乗り越え、成長したのだ。

 間違いなく、未来の俺にとってはクニュフの成長こそが夢だったに違いない。その気持ちはよく分かる。

 けれど、今の俺にとっては違うだろう。そうであってはならない。何故なら、今ここにいる俺とクニュフは、親子ではなく恋人同士なのだから。

 

「ところでクニュフ、私達に隠してる事はもう無いわよね?」

「ん~? あるよ~」

「あるんかい!」

「にゃはは、言っちゃダメな事とかめっちゃ多いからね~。中には知ってるだけで死刑確定って情報とかあるし」

「知らないままの方がよさそうですね……」

 

 けらけら笑うクニュフ。家族同士でも隠し事はあるのだ。言うべきでないなら、言わなくてもいいだろう。

 

「あーでも、あたしから話したい事はあるかも」

「ん、具体的に何?」

「あたし自身の事。今まで、皆には嘘ばっかり吐いてたからさ~。特にレノ……ちゃんには、悪いことしちゃったから」

「や、アレは合理的虚偽だった。だから問題ない」

 

 これまで、クニュフは俺達とは目的ありきで接していた。

 未来ヘカテの催眠で過去を偽造し、レノの力を使って信頼させた。エリーゼの前では魔力に感情が乗らないよう気を付け、真の目的を果たすべく俺達との関係に心の距離を置いていた。

 未来を変える為、ファンリーを殺す為、俺達を騙していたのだ。家族思いの彼女にとって、それはもう辛かっただろう。

 

「隙あらば自分語りって感じだけどさ。あたしの事。皆の事。これまで私が受け継いできた事、皆にも知っててほしいから……」

 

 やがて、クニュフは俺達家族を見た。

 未来では欠けてしまった家族を。

 そして恐らく、今はまだいない兄弟を。

 

「だからさ……お話、聞いてもらってもいい?」

「ああ」

 

 当たり前だが、俺達の返答は決まっていた。

 今だけじゃない。これからも、色んな話をしよう。

 これからは、家族と過ごす時間なんていくらでもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 おっけ~。じゃあ、改めて自己紹介するね~。

 今度こそ、マジで本当の自己紹介。

 

 あたしはクニュフ。クニュフ・イシグロ。

 この苗字、前とは少し意味が変わっちゃったね。

 

 わる~い猫又の魂を分けられて、目を覚ましてから、色々あって今現在。

 世界で唯一の、邪仙の生き残りだよ。

 

 此処に来る前、本当に色んな戦いを経験してきたよ~。

 辛かった事もあったけど、良い思い出だっていっぱいある。

 黎明の後継者って、言われてたよ。

 

 あとは知ってるでしょ?

 こっちの私と一緒になって~。

 大好きだったパパに告白して~。

 ついに婚約までしてもらっちゃった。

 

 前の事も、お別れした皆の事も、まだ吹っ切れた訳じゃない。

 だから、どうしても寂しくなった時は、懺悔や後悔なんかじゃなくって、思い出として振り返ってる。

 大好きな家族に、幸せを願われて送り出されたんだから。

 

 まさか、あたしがこんなハッピーエンドを迎えられるなんてね~。

 いや、むしろここからかな。

 

 どれだけ酷い過去があっても、消えたいくらい生きるのが申し訳なくっても。

 幸せになっていい。なろうとしていいんだ。

 大好きな家族に、そう教わった。

 

 いつか、あたしも伝えたいな~。

 え? 誰にって?

 もちろん、あたしとパパの子供にだよ~。

 

 あたしはもう、黎明の後継者じゃない。

 この世でたった一人の邪仙。唯一無二の存在。愛した人に愛される為に生まれた、魔王の器の成り損ない。

 

 世界で一番幸せな、イシグロ・リキタカのお嫁さんなんだから。




担当編集様から許可が下りましたので、
続刊企画進行中発表ドラゴンが続刊の企画が進行中である事を発表します。

しゃあっ、続刊企画進行中!
褐色金眼黒髪ケモミミ炎雷属性近距離パワー型大剣使い腹ペコ系ロリ文学少女・グーラ編です!

待て、しかして希望せよ。



◆クニュフの銃◆

 マテバオートリボルバー(拳銃)
 デグチャレフPTRD1941(対戦車ライフル)
 グロスフスMG42(マシンガン)
 ウィンチェスターM1897(ショットガン)
 グネルMGL-140(グレネードランチャー)


◆イシグロの新能力◆

・チート外し
 名称未設定。いつか決める。
 身体に染み付いたチート能力をオフにすると同時に、過剰集中状態になって同等以上の感覚を発揮する時限強化技。
 危機察知チートより先に“なんとなく”勘で危機を察知し、鍛錬によって磨き上げた“勝つ為に最適”な動きができるようになる。
 発動時はめちゃくちゃに集中力を消耗するので平時は封印安定。
 SEED覚醒みたいなもん。

・魂魄昇竜
 オーバードライブ。
 ステータスの引き上げ、もとい割合強化。原理は火事場の馬鹿力と殆ど同じ。意識的な脳のリミッター解除。あるいはオーバークロック。ぶっちゃけ界王拳。
 イシグロはステータスの存在を認識している事で各能力値ごとに細かく使用可能となった。また、発動には普通にデメリットがあるので頻繁に使うべきものではない。
ちなみに、異世界トップランカーの多くは意識的か無意識か一部ステータスをリミッター解除してたりする。グーラは初陣時から膂力のみ無意識でリミッター解除でき、アヴァリは五歳時点で魔力・知力・魔攻・魔防のリミッターを意識的に外せた。その他、トリクシィは技量のみ無意識で可。リアルイーザは魔力・膂力のみ何となく可。
ウマ娘で言う固有スキルみたいな、ネームドだけが持ってる本気モード。努力より才能の比重が大きい。



◆ディング魔族国あれこれ◆

 多党制による民主主義国家。
 国民の多くは魔族で、その他種族はマイノリティ。
 ディング民は魔族らしく自由を重んじる国民性を持つが、個々人にとっての心地よい事由を基に好き放題しているので、国内での争いが絶えない。
 首都はレバンティン。

・魔都レバンティン
 湖に浮かぶ石の人工島。
 道路から建物から、その殆どは魔術によって造られたモノ。壊れやすい代わりに直しやすいのが特徴。
 ロスサントスくらいの治安と倫理観。アライアンスが混沌の強者にとっては楽園。



◆ファンリー関連◆

・邪眼のファンリー
 猫又族に生まれた先祖返りの猫又・仙狸。
 魅了の魔眼などで権力者を篭絡し、猫又族を庇護していた。
 その後、初代魔王と恋に落ち、共にラリス王国と戦争。戦後は戦犯として処刑されるはずだったが、同胞の助けもあり死を偽装。地下に潜る。
 以降はラリスへの復讐の為に行動開始。勢力を拡大し、研究の為に分霊を作り、新しい魔王を産むべく暗躍。この頃には完全に精神を病んでおり、薬物中毒者になっていた。なお、その麻薬を開発したのはミヅチである。
 一応、淫魔女王やアリエルに並ぶ異世界トップクラスの美女。

・長女
 影能力を持つ猫又長女。初めに魂を分けられた存在で、最もファンリーの性質を強く受け継いでいる。
 その影の性能はクニュフを圧倒している。

・夜煌宮
 ファンリー個人所有の天津島内部にある異境に築かれた宮城。
 中央に居城があり、その周囲に多数の宮殿。それらを囲む五つの柱と、魔力・氣循環用の城下街で構成されている。
 宮殿の中には、これまでファンリーが蓄えてきた研究資料と、解放軍に関する様々な資料が保管されている。三代目魔王はここで産まれる予定だった。
 全体的にサイバーパンク勘違い日本みたいな見た目。アジアごちゃ混ぜ。

・柱の守護者
 最初はこれら一匹一匹倒すパートがあったのだが、「ここいる?」って思って全カット。守護者は犠牲になったのだ。犠牲の犠牲、その犠牲にな。

・ファンリーの召喚獣
 三代目魔王にプレゼントする為にしこしこ育てていた召喚獣。
 人類平和条約に反するバリバリの違法てんこ盛りモンスター。場に出すだけで戦況を有利にする。本来なら多数の護衛を引き連れて運用すべき戦術級兵器。ファンリーはラリッていたので細かい事考えずにブッパした。
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