【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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少女とロリの違いって、なに?

 遠い未来――屍王が君臨した世界は、国という概念が無くなっているそうだ。

 屍王の脅威から生き残った人々は、“ヘイブン”と呼ばれる地下シェルターに潜み、少数のコミュニティを成し、地上を跋扈する魔物から身を守って辛うじて生存していたらしい。

 要するに、この異世界がファンタジー・ポストアポカリプスになったのである。

 

 そんな中、それぞれのヘイブンは元銀細工持ち冒険者を筆頭とした強者によって庇護されるようになった。

 一握りの強者による弱者達の支配。あるいは保護者と被保護者間の共生関係。それはまさに、かつて魔王軍が掲げていた弱肉強食の理に則った社会構造であった。

 

 当然、私物化されたヘイブンは主たる強者の色に染まる。

 善なる主のヘイブンは平和的・理性的に統治され、悪なる主のヘイブンは好悪と快不快で管理される事となった。国家の法ではなく、主の意思決定こそが絶対の法になったのである。

 

 力があるだけの存在が、強いというだけで小さな王になったのだ。必然、暴走した。

 最も典型的だったのは、主を中心としたハーレムヘイブンである。

 その詳細について、俺はあえてクニュフに具体例を聞かなかった。どんな奴が何をして、結果どうなるか、想像に難くないからだ。

 

 そして、次はどうなったか。ヘイブン同士の抗争である。

 物資や食料の奪い合いもあった訳だが、もっと下世話に動物的に女の奪い合いが発生したのだ。

 有体に言って世紀末である。マジでどこぞのモヒカンみたいな連中が略奪を繰り返す世界になってたらしい。

 

 けれども、そのような情勢にあって尚、力無き人々を守る英雄は存在した。

 社会秩序が崩壊した後、いち早くヘイブン間の連絡網を形成し、相互補助組合を立ち上げた歴戦の戦士。“空階”のユア。

 物資の少ない中、卓越した魔術知識で数多くの魔道具を生み出した倫叡塔の賢者達。

 屍王の脅威から逃れた人々を救い続け、人類最大のヘイブンを統治していた魔獅子の女傑。“武血義理”のヘルガ。

 その他にも、終わった世界には名もなき英雄達が存在した。後世に託すべく、彼等の守護者の英雄譚は克明に記録されている。

 

 一方で、最大規模ヘイブンの守護者たるヘルガの過去については、その殆どが謎に包まれていた。

 ヘルガはフライシュ領出身の女魔獅子人である。詳しい家族構成は不明で、かつて弟がいたらしい事は分かっている。崩壊前からのヘルガの仲間も、彼女の過去に関しては口を噤んでいたそうだ。

 ただ一つ、ヘルガの英雄譚は、彼女の代名詞である深域武装――ディオニの手車を拾う事から始まる事だけはハッキリしていた。

 それは、恐らく絶望の只中の出来事だったのだろう。彼女と直に話したクニュフは、言外に察したそうだ。

 

「……って感じで、ヘルガは弟を守るっていう信念で戦い続けて、弟を守ってくれたヘイブンを残す為に戦ってたんだ。まぁこれは本人の発言と周りの話を混ぜた推測なんだけどね」

「義侠心があるんですね。クーシェンの武侠達にも見習わせたいところです」

 

 そんな感じで、件のヘルガ女史はクソ未来きっての英雄であり、その人格は大いに信頼できるとクニュフからお墨付きを戴いている訳だ。

 ヘルガの名前は俺がやろうとしている英雄育成計画のリストにも載っている。急上昇間違いなしの有望株なのだ。

 だが……。

 

「で、そのヘルガは今どこに?」

「さぁ? フライシュ領出身ってのは知ってるけど、今何処にいるのかは分かんない。そもそも生まれてるのかな? 年齢不詳だもん、ヘルガ。あっ、でも住んでるのはリントかミルヒクだと思う!」

「それはなんで?」

「止まり木の炊き出し食べてたって話してたもん」

「協会の炊き出しを食べるような状況ではあったんですね……」

 

 今現在、ヘルガが何処にいるか分かっていない。

 フライシュ在住で止まり木協会の炊き出しを食べてたエピソードから逆算するに、所在地はリントかミルヒクに絞られる。王都から規模を拡大した止まり木は、その二カ所に支部を作ったからだ。

 そもそも、今はまだ生まれてない説まであるらしい。ヘルガは魔族であり、詳しい年齢は誰も知らないのだ。

 

「見つけたとして、どうやってコレを渡そうか?」

 

 また、俺はクニュフのお墨付きについても一つ懸念があった。

 人格は遺伝と境遇により形成される。ヘルガが未来の大英雄でも、それに至る過程がなければ義侠心のある性格にならないのではないか。

 育成計画と称して介入する時点で台頭するか凋落するか博打めいているのは承知の上だが、今回はヘルガ・プロローグのフラグをへし折ってしまった訳でして。故にこそ、こいつを渡すタイミングは慎重に考えるべきだと思う次第。

 

「ヘルガは警戒心強いからニャ~」

「いきなり渡すのはのぅ。ちょっと良くないじゃろうのぅ」

「私はイシグロ・リキタカ。単刀直入に言おう、この武器を手にして強くなってほしい。さぁ私の下で栄光を掴むんだ……って言っちゃえばいいんじゃないですか? 実績はありますし」

「そんなバカな誘い引っかかるのグレモリアくらいッスよ」

「いえ、存外釣れるかもしれませんよ? ラリスの人ってこういうの好きですから。選ばれし者の英雄譚は古今東西で大人気です」

「そもそもどう接触するんでぇ? クニュが言ってた英雄候補等は冒険者ん時に声をかけるって話だが、ヘルガん時もそーすんのか?」

「ん、そもそもヘルガって冒険者なの?」

「わ、わかんないニャ……」

「何も知らないじゃない」

 

 いつ渡すかも重要だが、どう渡すかこそ肝要だ。

 たとえナイスタイミングで渡しても、見知らぬ銀細工が「ヨーヨーあげる」と言って深域武装押し付けてくるのは普通に事案である。売るか捨てるかされそうで、そしたらヘルガの代名詞が闇に呑まれてしまうではないか。

 

「それ以前に、ヘルガちゃんが今どこで何しとるんかも知らへんのにアレコレ考えるん意味あらへんのちゃう? とにかく、まずは情報やろ」

 

 うんうん悩む一同に対し、フライシュ産りんごの皮を剥いていたヘカテが一言。ご尤もである。

 確かに、今はまだ考えても仕方ない段階だ。状況次第でアプローチの仕方も変わってくるだろう。大枠の段取りだけ決めて終わりかな。

 

「けどヘルガなんて名前の女どこにでもいるッスよ。魔族では人気の名前ッス」

「リントとミルヒクのどちらかに住んでる魔獅子人のヘルガ……まで絞ればなんとか」

 

 という訳で……。

 

「かくかくしかじか」

「承知いたしました。さっそく、件のヘルガさんを捜索いたします」

 

 偉い人にお願いする事にした。

 リント市にいたエージェント・メイドさんにヘルガ捜索を依頼するなり、彼女は待ってましたとばかりにフライシュ公爵と協力して捜索開始。あまりにも早い段取り、俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 何故にこれほど迅速だったかと言えば、要領の悪い俺と違って第三王子は裏で英雄育成計画の支援準備を整えていたらしいのだ。先んじて支援を申し出なかったのは、俺の自主性を重んじてくれたからか。それとも俺に貸しを作る為か。勘だが前者な気がする。知らんけど。

 

「ヘルガさん見つかりましたよ」

「早っ、もう終わりかいな……!」

 

 しばらくは待ちかなと宿に帰ると、翌日には発見報告が飛び込んできた。

 早過ぎにも程があり。無論、これには理由があった。なんとヘルガは今俺達が滞在しているリント市に住んでいたのである。

 で、さっそく当人の様子を見てみようとなり、俺とクニュフとエージェント・メイドさんの三人組はヘルガの実家に向かっていった。

 

「ヘルガさんはあちらにある宿屋、“耳と羽亭”にお住みのようです。家族構成は両親に加え、幼い弟が一人の四人家族。現時点で、ヘルガさんの年齢は九つとなります」

「幼女か……!」

「魔族だからもう大きいよ~」

 

 案内されたのは、住宅街から少し離れたところにある一軒の宿屋だった。

 ヘルガの実家である耳と羽亭は食堂もやっているようで、昼飯時の今はまぁまぁ繁盛していた。遠くから覗いてみるに、肉と卵が使われたスタミナ飯を食わせる店らしい。

 裏手に回ってみると、ちょっとした畑にプラスして家畜用の小屋がある。小屋の周りは柵で囲まれ、そこでは妙にモコモコした鳥らしき謎生物がウロウロしていた。

 シルエット的にはトサカのない鶏だが、羽はあるのに犬猫のような体毛を生やしている。異世界歴七年目にして初めてみる家畜だった。

 

「あのモフモフ鳥はリント兎鶏だね。毛も皮も肉も骨も卵も捨てるところのない優秀な家畜だよ~。育てやすい代わりに寂しいと死んじゃうんだ。あれは原種かな? あたしが知ってるのはもっと太ってたから」

「ずいぶん勉強したな。まるで鳥博士だ」

「にゃはは、でもただの鳥博士じゃあないよ」

「仲良しなのは結構ですが、お二人とも少し静かに……」

 

 回り込んで観察していたら、さっきまで角度的に見えなかったところに人影を発見した。柵の中にあるベンチで、何者かが寝そべっている。

 獅子人? いや、魔獅子人の女の子だ。年の頃は俺視点JK一年生くらいに見える。ダークブロンドのボサボサ髪に真っ赤なメッシュ。ライオンのような丸い耳。ベンチからはみ出ている尻尾は、蠍のように硬質で先端は太い針になっていた。魔獅子人の特徴だ。

 

「彼女がヘルガさんです。種族と名前、身体的特徴の全てが一致しておりましたので、恐らく本人かと」

「うん、間違いない。あの子がヘルガだよ。けど……」

「けど、何だ?」

「……弱そう。てゆーか隙だらけ。あたしの知ってるヘルガはもっと覇気があって抜け目ない人だった。あんな無防備な姿を見せるはずは……」

 

 クニュフが見つめる先、当のヘルガは大口開けて爆睡中だ。兎鶏にベンチからはみ出た尻尾を突っつかれても起きる気配は一切ない。

 話に聞いていた女傑ぶりとは全然違っていた。平均よりちょっぴりガサツというか、男勝りな町娘って印象の女の子である。少なくとも、気持ちよさそうに眠っているリアルヘルガと“武血義理”なる二つ名は不似合いに思えた。

 

「ちょっとヘルー! アンタいつまでエサやってんの! さっさと小屋に戻してこっち手伝いなさい!」

「だぁあああああ! うっせぇババア! いまやってるトコだっての!」

 

 その時だ。裏手の木窓が開かれて、獅子人女性が声を荒げた。バサバサと飛び立つ兎鳥。跳ね起きたヘルガが即座に言い返す。

 次いで、「だりぃ~」と立ち上がったヘルガは眠そうな顔で適当にエサを撒いていき、途中からエサ箱をひっくり返していた。大欠伸一つ、餌を食べ終えたモフモフ鳥を小屋に投げ込んでいく。

 その間もちょくちょく母親と言い合いしてたりで、さながら反抗期な娘とその家族といった様相である。

 

「うぃ~、肉焼きセットお待ちっしたぁ。あとこれ水っす」

 

 その後も監視を続けると、家に戻ったヘルガは食堂でウェイトレスをやっていた。客に対する態度は不愛想で適当で、まぁそれでも常連からは看板娘として可愛がられているっぽい。まぁ異世界の食堂の店員なんて半分以上不愛想なんだけどね。

 客が引いていくと、今度は家の夕食タイム。食堂のテーブルには両親とヘルガ、それから幼児の男の子がいた。彼が噂の弟だろう。弟の口を拭いてやってるヘルガは、不真面目だった先ほどとは打って変わってあまりにもお姉ちゃんであった。

 食事中も両親と口喧嘩まがいの言い合いをしていたが、家族仲は悪くなさそう。

 

「ヘルガにもあんな時期あったんだ。なんか不思議な気分……」

「反抗期っぽい感じですけど、まぁアレくらいは普通だよな。こっち基準でも、多分」

「いえ、少し非行少女寄りです。夜になれば分かるかと」

 

 もっと壮絶な境遇かと思っていたが、現時点ではごく一般的な家庭環境に思える。むしろ恵まれている方だ。

 と思ったら、ざっくり調査でもヘルガには裏の姿が見つかったらしい。その秘密を探る為、我々は暗殺者のようにその時を待った。

 

「あ、いつものヘルガに近い感じニャ。てかなにあのイキリコート? 兎鶏の皮の継ぎ接ぎだね」

「いくらリントでも夜に出歩くのは危ないだろ」

 

 市民の多くが寝静まる夜、窓からヘルガが飛び出てきた。明らかに両親の許可は得ていないご様子。

 夜のヘルガはザ・町娘だった昼の姿とは異なる恰好をしていた。手作りと思しき裾の長い外套。どことなく特攻服っぽい。あからさまに不良少女なのだ。

 深夜に何処へ行くのかと思って追いかけると、裏路地の奥にある空地に入り、そこで屯ってる集団と合流していた。

 男女混合の若者達である。彼等は空地中央の火を囲み、何をするでもなく駄弁っていた。ヘルガが彼等に向ける笑みは家族の誰にも見せない晴れやかなものだった。

 

「彼等は? 犯罪組織でしょうか?」

「いえ、彼等はゴロツキ未満の若者集団です。まだ誰にも犯罪歴はございません。ヘルガさんも同様です」

「まだ……って事は、後々なんかやらかすかもとは思われてるんだニャ~」

「正確なデータはありませんが、ああいった集団の半分は冒険者か犯罪者になりがちです。リントだと前者の確率のが高い傾向にはありますね」

 

 見れば、不良グループらしき若者は剣一つ持っていなかった。いや、農具や武器っぽいものを身に着けてはいる。俺視点、ただのオモチャである。しかし彼等にとっては聖剣なのだろう。

 ぶっちゃけアレでは護身にならない。彼等自体は無害でも、性質の悪い連中に絡まれたら抵抗一つできないだろう。いくら治安のいいリント市でもアレは危うい。

 

「来ました。気づかれるかもしれません。気配を抑えてください」

 

 ややもあり、そこに大人がやってきた。男二人女一人の鋼鉄札冒険者である。

 彼等に対し、ヘルガを含めた若者達は一斉にお辞儀していた。冒険者を兄貴姉御と呼んでいて、皆さん一様に笑顔である。純粋に慕われているのだろう。

 

「彼等は?」

「地元の冒険者です。迷宮歴は程々で、ギルドの査定では人格・素行共に問題なしとされています。単に若者に飯を食べさせるのが好きなだけの陽気な人達ですね」

「王都ではそうそう見ないタイプの人種。フライシュ人らしいニャ~」

 

 やがて彼等は冒険者が持ってきた酒で酒盛りを始めた。コップ一杯で酔っぱらった若者が謎ダンスを始め、それを見たヘルガ達はゲラゲラ笑っている。

 酒が回ってきたヘルガは女冒険者が持っていた煙草を一本譲ってもらって、ひと吸いしただけでゲホゲホむせていた。意地で吸い続けようとするヘルガの煙草を頭目らしきおじさん冒険者が取り上げる。煙草をカッコいいと思うお年頃……いや異世界だと高級品らしいからステータス性に憧れてるのかな。姉御に窘められてる彼女は不満そうだ。

 その後も、的に斧を投げたり冒険者の武勇伝を聞いたりと終始賑やかにしていた。

 治安のよくない異世界で普通に危険な夜の火遊び。けれどそこには、疑いようもない青春があった。

 

「楽しそうだね、ヘルガ……」

 

 祭の終わりを眺めるような声音で、終末世界の英雄が呟く。

 彼女の瞳には、無邪気に笑う未来の英雄が映っていた。今はまだ、どこにでもいる女の子だ。

 

「魔王戦争はもう起きない。あたし達が歴史を変えたんだ。このまま、下手に干渉せず、何かあった時に助けるだけでいい気がする。英雄になんて、なるもんじゃないよ……」

「……かもな」

 

 クニュフの知るヘルガは、清濁併せ呑む女傑だったらしい。

 一方、その瞳には深淵によって覆い隠された深い絶望が沈殿して見えたという。

 この後、ヘルガの身に何が起こるかは分からない。けれど、クソ未来のような世界にならない――させない以上、ヘルガがヘイブンの守護者になる未来は来ないはずだ。

 なら、このまま町娘として過ごさせるべきではないか。そう言うクニュフに、俺は深く共感した。俺等の都合で、平和に暮らす娘を戦場に送っていい訳はないのだ。

 

「帰ろうか、クニュフ」

「うん……」

 

 一日中監視したので、精神的にかなり疲れた。もういいだろうとなり、俺達は解散する事に。

 俺とクニュフは、もうヘルガを将来有望な英雄として見れなくなっていた。

 

「……という事があって」

「あたしとパパはそう考えたんだけど……」

 

 帰還後、調査して得た内容と見解を皆に話した。

 ヘルガは普通の女の子だった事。クニュフは彼女を英雄にしたくないと思った事。可能なら、今後彼女に起こるかもしれない不幸を取り除いてあげたい事。

 それから、皆はどう思うかを訊いた。報告・連絡・相談だ。

 

「つまり、ご主人様とクニュフはヘルガさんを英雄にすべきでないとお考えなのでしょうか?」

「うん、あたしの我儘だけどね。ヘルガはもう充分過ぎるくらい戦ったから、もう戦いから離れて安全に暮らしてほしいんだ。何か危ない事があったら、その時に助けてあげたいかなって」

「ん~、まぁ二人の言いたい事はわかりますけどぉ……」

 

 言って、首を傾げるグーラとユゥリン。皆、ん~? とばかりに目を見合わせている。なんだ、ちょっと分からんアイコンタクトだ。

 やがて、この中で最年長のシャーロットが小さく手を挙げた。

 

「んぁ~、お二人さん色々考えてるみてぇだけどよぉ。そーゆーの全部、本人に選ばせてやるべきじゃあねぇか? チャンスがあるなら成りたいかもしれねぇだろ、“武血義理”のヘルガにさ」

「「……え?」」

 

 キョトンとした。やがて、それはそうだと思った。

 もしかしたら、冒険者として成り上がりたがっているかもしれない。もしかしたら、チャンスを掴んでも手放すかもしれない。もしかしたら、何も興味を示さないかもしれない。

 育成するにしろしないにしろ、彼女の意思一つ聞いてないのに何を言ってるって話だ。まだ話してもいない。事情も知らない。何が好きで、何が幸せか。俺達はまだヘルガという少女を知らないのだから。

 なんか俺達、最初からボタンを掛け違えてた気がする。

 

「主様とクニュフは勘違いしとるようじゃけど、世間の者達の殆どは英雄になりたがっておるんじゃよ。人に褒められたい、認められたい、讃えられたいっていう気持ちは、ごくありふれた感情じゃろ」

「ん、所謂名誉欲。往々にして。人はこれを求める。マスター達は自分の尺度だけでモノを言ってて、ヘルガの意思を聞いてない。無視以前の問題。未来を知っている側の傲慢さが出てる。今のマスターとクニュフはかなり良くない思考パターンに陥っていると考えられる」

「半分は当たっている、耳が痛い……」

「名誉欲は怖いでー? それで身ぃ崩した人いっぱい見てきたもんウチ。まっ、裏を返せばそんだけ強い原動力になるって話でもあるし、個人差激しいけどな」

「そもそも、真の英雄は当人の意思に関わらず英雄になってしまう運命なのよ。アナタが介入しても、きっかけを退けても、ヘルガはきっと立ち上がってしまうでしょう」

 

 ロリ、口々に。それら全部、ご尤もでぐうの音も出ない。

 なまじ未来を知っているだけに、干渉すれば救済なり操作なりできると驕っていたのだろう。以前にも、似たような失敗をしたはずだというのに。

 そもそも、英雄育成計画は過程の諸々を覚悟した上で推し進める予定なのである。ヘルガだけじゃない。それぞれにそれぞれの事情があり、意思があるのだ。

 

「チャンスあげれるならチャンスくらいあげちゃっていいと思うッス。決めるのはヘルガで、アタシ等がどうするかはそっからでいいと思うッスよ」

「それは本当にそうだね。英雄リスト作る段階で気付く事だったニャ~……」

 

 ルクスリリアの総括に、心底から腑に落ちる感覚がした。それはクニュフも同じだったようで、彼女は猫耳を伏せて反省していた。

 俺達から、英雄になるかもしれない逸材にチャンスを与える事はできる。それを掴むかどうかはその人次第。英雄になりたいなら支えるし、そうじゃないならそれでいい。で、助けたい人は助ければいいのだ。未来の恩返しとして、銀細工のエゴで。

 そのように纏まっていくと、このヨーヨーを如何に渡すべきかも見えてきた。

 

「よし。じゃあ、プロジェクト再始動だ。どうせなら派手にやろう」

 

 報連相、終了。草薙の意思は決定された。

 英雄育成計画、本格始動である。

 

 それから、俺達は第三王子派のエージェントに計画の内容を相談し、その一部を手伝ってもらう事にした。

 チャンスを与えるのはヘルガだけに絞らない。当初考えていたような台頭確定の有望株だけを青田買いしようってのは一旦ストップ。誰もが英雄になれるような、そんなヒロイック・ドリームの登竜門。

 そう、それこそは……。

 

「アイドルオーディションだ……!」

 

 選び抜いた候補生にレッスンを施し、誰もが認める究極の英雄にまで鍛えあげる。

 そして、新世代の英雄を創るのだ。

 英雄もアイドルも、似たようなもんである。肝要なのはキュート・クール・パッションで、ヘルガは可愛らしいしクールだろうしパッションもありそうだった。優勝間違いなしである。

 

「今日から俺達は草薙プロダクションだ。プロデューサーは俺。レッスンは任せたぞ、皆」

「武術も魔術も教えれるし、ウチ等って実は教導向きやったんやなぁ」

「ふふっ、新たな英雄譚の始まりね……」

 

 どうせなら、身長百四十九センチ以下のジュニアアイドルを育成したかったけどね。そのへんはまぁ仕方ない。

 ともかく。石黒Pとお呼び下さい。




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 ヘルガの性格等は後々。
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