【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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感想・評価など、ありがとうございます。執筆の励みになっております。
誤字報告もありがとうございます。本当にありがとうございます。

三人称、ヘルガ視点です。
よろしくお願いします。



上京ライオン(5)

 両面冥狗の手を逃れたヘルガを待っていたのは、また地獄だった。

 迷宮の後に染み付いた瘴気と狂気。

 草薙の剣が見出した英雄の器。

 訓練と座学、反省文と改善案とを錬金釜にかけてぶちまけた、それは再教育プログラム。

 次回「サド」。

 来週も、ヘルガと訓練に付き合ってもらう。

 

「このクズどもめ! トロトロ動くんじゃあねぇッス! なんたるザマだ! 貴様らは最低の処女だ! ヴァージンだ! この世界で最も劣ったヒトもどきッス! そうじゃないと言うならケツ穴絞めて武器を振れ! エルフの処女みたいにひんひん鳴きおって! みっともないと思わねぇんスかヒヨッコども! 強くなりてぇなら戦え! 戦って証明しろ! 立ち上がってガッツ見せるッス!」

「「「ひぃん!」」」

 

 要約すると、初迷宮後のヘルガ達は以前とは比べ物にならないくらいシゴかれる事となったのである。

 今までのトレーニングがエリート校の学校教育だとしたら、今のトレーニングは特殊部隊の軍事教練。健やかに育まれた心と褒めて伸ばされた鼻っ柱が根からボキッとへし折られた様相だ。

 イシグロ曰く、これまで心技体のバランスを取って訓練していたところを、これからは心を軸に再教育するとの事。序盤にコレやられてたら潰れてただろうなと、ヘルガは考えるでもなく思った。

 

「はあ索敵特化の召喚獣かいな」

「そうなんです。探索中は何回も索敵魔術使うんで、それなら専用の召喚獣に任せちゃおうかなと。先生どこか良いお店知りませんか?」

「んなもんボッタクリばっかやでウチが作ったるよ。これでもウチ、召喚獣工匠の資格持ってんねんで?」

「本当ですか!? ありがとうございます~!」

 

 基礎的な鍛え直し以外に、迷宮探索で露呈した課題についても具体的に解決していった。

 ルルの課題は、万能過ぎるが故にあらゆる局面で魔力を消耗してしまうところだ。その為にこそルーン魔術と陰陽術でリソースを節約しているのだが、これにも限度がある。ルルはシャロやイリハのような各分野のプロではないのだ。

 そこで、一部の役割を召喚獣に任せればいいのではと考えた次第である。召喚獣は召喚時にこそ魔力を消費するが、一部例外的な行動を除き以降は自前の魔力で動くので、何度も索敵魔術を使うより結果的にはこっちのが安上がりなのでは、と。

 その旨を召喚獣のスペシャリストであるヘカテーニャに相談すると、当のヘカテが作ってくれるという話になった。あわせて必要な素材は双宍迷宮のザコを狩って集めてくるというお使いクエストが発生したのである。

 

「わぁ~! かわいぃ~! わぁ~!」

「せやろせやろ? ウチは倫叡塔の連中と違ぅてデザインも大事や思とるでな! 性能に関しても余計な要素ぶっこ抜いた信頼性・安定性重視! ウチほど現場主義な召喚獣工匠そうそうおらんで!」

「可愛いのかこれ……?」

「可愛いんじゃないかしら? 知らないけど」

 

 再度三人で双宍迷宮に潜り、浅層でザコを狩り、なかなか出てこないレア素材にやきもきし、なんとか集め終え……そうして出来上がったヘカテ謹製召喚獣は、“ニワトリに跨ったウサギ”という何とも言えない和み系召喚獣だった。

 こいつ等は完全索敵特化の性能をしており、ニワトリは目と魔力感覚で、ウサギは音と匂いで魔物を見つけてくれるのだ。召喚時には【波紋水月】三回分の魔力を消費するが、召喚中はルルの【波紋水月】と同等の索敵魔法を何度でも使用する事ができる。なお、戦闘力はヘルガの実家にいる兎鶏とどっこいのクソザコナメクジである。

 

「力任せに振り回しちゃいけませんよ。攻撃ではなく防御。ぶっ殺すんじゃなくてぶっ守る感じで振ってください。なんとなくわかりません?」

「そのつもりなんですけどぉ~!」

 

 ルルの課題はそれだけではない。近接戦における自衛能力の向上もまた急務だった。

 こっちについては前々からある程度の対策はされていたが、事ここに至ってはユゥリン流の嵐極拳長柄武器術のド指導ド鞭撻が入った。元々、ルルの斧槍杖はそれ前提ではあった訳で。

 氷の斧を振り回し、水流の槍で突き貫く。水の壁で魔法を逸らし、氷の盾で【弾き返し】。身体制御は得意なルルだが、近接戦のセンスは皆無である。そこを反復練習で補おうというのだ。地道な鍛錬を続けるルルは、以前までとは別人のように真剣だった。

 

「当たっても死なないけど当たると痛いのいくからニャ~。はいズドン! ズドン! ズドドドドドドド!」

「よし、これくらいなら凌げ……」

「ん、追加いくよ~。バァン!」

「グボェ!」

 

 他方、ノエミはノエミで拷問めいた回避技術向上トレーニングを課されていた。

 元々、ノエミは回避特化の前衛としては不足のない技術を持っていたが、両面冥狗の攻撃を完璧に凌ぎ切れなかった事から、こうして更なる技術向上に励んでいるのである。

 

「ぐぬぬぬぬ……あっ、また崩してしまいましたぁ……!」

「相変わらず魔力制御が下手ね。一か百は話にならないけれど、せめて一か十くらいには御せるようにはなりなさいな。貴女、魔力に感情乗り過ぎよ」

「子供ん時の教育がモノ言うみたいなとこあるもんなぁこーゆーの。アタイの家なんかはそりゃもう厳しく躾けられたもんだぜ」

「地道にやっていくしかありませんね。安心してください、ノエミさん。ボクも大人になってから魔力制御の鍛錬を始めましたけど、今ではこうやってちゃんと操れるようになりましたから」

 

 具体的には純血魔術の習熟で、もっと具体的には魔血の翼で空を飛ぶのが目標だ。

 唯一できるのが魔血の放出のみ。剣術の才能に秀でる一方、ノエミは純血魔術の方はさっぱりだった。これは異能のデメリットではなく、単に魔力操作技術が致命的に下手なだけである。魔力制御だけならヘルガのが上手いまであった。

 これまでは剣術一本でやってたところ、いい加減に克服しようとなって必死こいて練習しているのである。

 水魔術の異才を持つルルも、剣の天才であるノエミも、地道で過酷な努力によって短所を潰していた。

 

「で、なんであーしだけ迷宮なんすかぁ!」

「いいからレベリングだ! レベルを上げて物理で殴ればいい! レベリングは全てを解決する! ゴーゴーゴーッ!」

「魔物来たっすよ群れっすよ群れ正気っすかぁああああ!」

「イグゾォオオオオオ! オエ!」

 

 一方、ヘルガは黎明もとい迷宮狂い流のスペシャルメニューを課されていた。即ちイシグロとのマンツーマン迷宮探索である。

 一に迷宮、二に迷宮。三・四が鍛錬で五に迷宮。曰く、「ヘルガは充分基礎やれてるから後は慣れるだけ」との事で、イシグロに連れられて色んな迷宮に潜っていた。

 そうやって迷宮探索を続けていると、いつの間にかヘルガは指揮スキルなんてのを習得していた。魔力を籠めて咆哮したら、味方を鼓舞しつつ敵を威嚇できるようになったのだ。どういう理屈で出来るようになったのだろう。全く分からないが、考えても仕方ないので考えない事にするヘルガだった。

 

「んぅ~? なんっか違和感あるな~」

「どしたのヘルちゃん。ヨーヨー壊れた?」

「いやむしろ妙に糸の伸びがいいというか、思い通りに戻ってくるというか……」

「盟主様に相談しましょう。病気かもしれないわ」

 

 そんなある日の事である。寝て起きてディオニの手車を握ったら、ヘルガは昨日までには無かった違和感を覚えたのだ。

 これまで以上に手に馴染むというか、共に分かちがたく繋がっているというか。ヨーヨー相手に変な話だが、なんだか親友のような自分自身のような一心同体感があったのである。

 で、その事について相談してみたら……。

 

「まさか、同調率がカンストしたのか? にしたって早過ぎる。いやでも霊格極装についてはまだまだ分からない事が多いって言うし……」

「どーちょーりつ? れいかく……え~、なんすか?」

「流石ヘルガ! すっごーい!」

 

 めっちゃ驚かれた後、喜ばれた。特にクニュフが大喜びで、謎に抱き着かれて頭を撫でられた。

 まだ公にはされていないが、深域武装はもう一段階強くなるらしい。ヘルガはその条件を満たした可能性が高いのだという。

 

「はい、じゃあこれをヨーヨーで壊してくれ。そしたら神域迷宮の入口が開くから」

「う、うっす。えい!」

 

 翌日、プレゼントされた石を砕くよう言われたのでその通りにしたら、ディオニの手車が勝手に動きだし、ぼわっと異境の門を開いた。門の先にある神域迷宮の試練をクリアすれば、晴れてヘルガの半身は強化されるそうだ。

 ちなみに、砕いたあの石は何かと訊いてみたら、「知らない方がいいわ」と返された。イシグロは稀に……いや頻繁に定型文のような喋り方をする。

 

「うわキモ! ヨーヨーん中こんなんなってたのかよ!」

 

 いざ潜ってみた深域迷宮は、なんか物凄く陰惨な一本道になっていた。

 見渡す限り屍山血河。見上げた空は赤黒く染まり、時折禍々しい稲妻が迸っている。まるでアレクシオスの英雄譚で語られる旧世界のようだった。

 仕方ないので陰惨一本道を歩いてみると、地面の中から無数の屍が這い出てきて、ヘルガの身体にしがみついて物理的に足を引っ張ってきた。何故か攻撃はしてこない。

 振り払っても振り払っても掴みかかってくるので、そのうち面倒臭くなって文字通り死体を引きずって歩いた。一歩歩く度、ヘルガに纏わりつく屍は数を増していった。不思議な事に、その屍はヘルガの膂力では引っ張れない量になっても単に重たく感じるだけで、一歩も動けなくなる訳ではなかった。

 要は気合である。気合なら一党最強を自認するヘルガは、ひたすら気合で以てこの辛気臭い道を歩き続けた。

 

「はぁ、はぁ……で、あそこがゴールか。ったく、重いったらありゃしねぇぜ……!」

 

 どれだけ歩いたか分からなくなった頃、見上げる程に長く高い階段に辿り着いた。

 上っていくと、彼女の身にしがみついていた屍が一体また一体とずり落ちていった。頂上近くになった時には、小さい屍が一体だけヘルガの背中に乗っていた。

 上り切ったところで、目の前に大きな門があった。それはひとりでに開門し、眩い光がヘルガを照らす。なんとなく背中の屍を落とさないよう門を潜ると、視界いっぱいに光が広がった。

 最後、誰かに背中を押された気がした。

 

「おかえり。さっきも言ったが、こっちじゃ殆ど時間経ってないけど、大丈夫だったか?」

「あーはい。すごい長い間歩いてたっすけど、まぁそこまででもなかったっす」

「なら良かった。とはいえ休憩しよう。迷宮内の様子も後で詳しく聞かせてくれ。検証はその後だ」

 

 気づけば、ヘルガはイシグロ達のいる世界に戻っていた。

 精神的には物凄く疲れたが、今は不思議とスッキリしている。ともかくとして、これでディオニの手車は強化される筈だ。辛い想いをした分、期待もひとしおといったところ。

 

「な、なんじゃこりゃあ! めちゃくちゃ強くなってる! 運営は迷宮エアプか? ちょっと武器調整ミスってんよ~」

「よく分かんねぇすけど、強いんならそれでいいんじゃないすか?」

 

 結論から言うと、ディオニの手車は超強化された。

 具体的には、コレを装備している間は常時仲間の状態が目に見えるようになったのだ。残り生命力や残り魔力も分かるし、状態異常や現在位置まで把握できる。

 また、攻撃面においては雷属性に加えて氷属性も付与されていた。それに伴い、“凍結”の状態異常まで付与できるようになったのだ。まとめると、新生ヘルガヨーヨーは敵に当てると気絶と感電と凍結の三つをぶち込めるトンデモヨーヨーになったのである。

 あまつさえ、仲間に対してのみ投擲によるダメージが入らなくなっていた。イシグロが言うには「フレンドリーファイア無効」らしい。ともかくとして、これで遠くの仲間を引き寄せやすくなったわけである。

 

「あぁぁぁもう疲れたぁあああ! 今日はもう一歩も歩きたくな~い! ヘルちゃんお風呂入れさせて~!」

「自分で入れ。年上だろ、それより明日はどうする?」

「市に向かうわ。草薙関連の何かを買うつもりだけど、ヘルガも来る?」

「おう。あーしも欲しいモンあるし付き合うぜ」

「あぁ~除け者よくな~い! ルルも行く~!」

「市の事を教えてくれたのは貴女でしょう? 当たり前じゃない」

 

 厳しい訓練の間も休日は存在し、ヘルガは弟に会ったりルルは買い物三昧したりノエミは草薙関連の書籍を読んだりと、各々英気を養っていた。

 

 そんな、ある休みの日の事である。

 ヘルガは――運命と出会った。

 

「お疲れ様ですイシグひゃーっ! かかか、カッケェーッ! なぁんすかそれぇえええ!?」

「ああ、ヘルガは見るの初めてか。マグナバイクって言ってな。ヘカテの乗ってるゴーレムの派生で、移動用のリヴクラフトだ」

 

 お見舞いの帰路、ヘルガは偶然イシグロと遭遇した。彼は謎の鉄の馬に跨り、同じく鉄の手綱を握っていた。瞬間、ヘルガは心を奪われた。

 太鼓のような、胸を打つ駆動音。煙のような魔力残滓を吐き出す管。そして何より、あまりにも純粋にカッコいい車体。一目惚れだったのかもしれない。イシグロではなく、その乗り物に。

 

「跨ってみるか?」

「いいんすかぁ!? ぜひ!」

 

 イシグロの許可を得。跨らせてもらう。これまた次の瞬間、全身に電流が走った。

 ケツから感じる鼓動感。唸る炉心に高鳴る胸。控えめに言って最高だった。馬なんて農耕用のを一回しか乗った事ないヘルガだったが、実馬より鉄馬のが断然良かった。

 恍惚とするヘルガを見てか、イシグロも嬉しそうだった。

 

「こ、これ何処で売ってるんすか? やっぱ王都すか? あぁあーし絶対これ買うっす! 決めたっす!」

「今んとこヘカテしか作れないし、売り物でもないんだよなぁ。まぁでも頼めば作ってくれると思うぞ、時間かかるけど。あと流石に無料でって言えるほど安くもないから」

「い、いくらすか……?」

「素材だけの値段で、ざっくり……」

 

 欲しいとなって値段を訊くと、ヘルガは限界まで口を開けて、ついでに両手を挙げて驚愕した。半ばギャグ漫画のビックリ表現である。

 というのも、マグナバイクの製作費は材料だけでも迷宮用……いや銀細工用の武装レベルだったのである。加えて、現在これを作成できるのはヘカテーニャだけで、整備についてもヘカテ以外には王都にいるケインなる凄腕整備士くらいしか出来ないらしい。

 仮に、長距離移動を目的として考えるなら、これを買うより馬一頭を買う方が合理的だ。そうでなくとも相乗り馬車に乗って移動する方が圧倒的に安上がりだ。はっきり言って、買ったところで使い道は殆ど無い。

 だが、どうしても欲しかった。何故なら、めちゃくちゃカッコよかったからだ。

 

「絶対! いつか絶対買うっす! そん時はよろしくお願いするっす!」

「そかそか。まぁそこまで気に入ってくれたんなら開発者冥利に尽きるわな」

 

 その後、ヘルガはヘカテーニャと話し合い、その時が来たら格安でオーダーメイドのマグナバイクを組み立ててくれるとの約束を交わした。

 今まで、ヘルガは弟を守る力を得る為に鍛錬をし、迷宮に潜ってきた。けれど今は、明確に自分の物欲の為に冒険者を続けようと思っていた。

 最近、寝床につく前に妄想するのだ。バイクに跨り、街道を疾走する自分の姿を。そんな彼女のにやけ顔を指摘しない優しさはルル達にも存在した。

 

「今回は素材目当てじゃなくて、はっきり踏破を狙いに行くぞ。けど両面冥狗が出たらスタコラサッサだ。分かったな? ご安全に!」

「「ご安全に!」」

 

 動機も新たに、三人は改めて双宍迷宮へと潜った。ザコ狩りではなく、踏破を目標に。

 道中では、ルルの召喚獣が大いに役立った。索敵特化の乗鳥兎だ。お陰でルルも積極的に戦闘に参加できるようになり、併せてヘルガ達の負担も減っていた。

 迷宮探索は順調に進んだ。一党の状態は常時ヘルガが見ているし、ノエミの回避盾も完全完璧。以前のような超強力主級魔物に遭遇する事もなく、新種の魔物が現れる事もなく、やがて主の座す空間に辿り着き……。

 

「やったのかしら……」

「再生は無ぇ。経験値も入ってきた。聖遺物もあるし、帰還水晶も……今出た。つー事は……!」

「踏破成功~! やった~!」

「ええ、そのようね。けど、呆気ないというか、なんというか……」

「いいから喜んどけ! よっしゃあ!」

 

 何事も無く、討伐した。

 ルルは魔力切れを起こさず。ノエミも終始ノーガード・ノーダメージで、ヘルガの指示と三重デバフが上手く決まり、やがて主は終始何もできずに倒されたのだ。

 圧倒的な勝利である。

 

「「「換金お願いします!」」」

 

 とはいえ所詮は下位迷宮。ヘルガ達の腕前なら踏破できて当然と言える。しかし、それでも、ヘルガの中では忘れられない最高の思い出になった。

 ちなみに、手に入れた聖遺物の換金額は両面冥狗のソレのが高かった。なんか笑ってしまう一同である。

 

「本日はスペシャルゲストぉ! 止まり木同盟のアリエルさんと、盟友のイスラさん&ネフリティスさんが来てくれました! はい拍手~!」

「止まり木のアリエルだ。ラリスからは金細工を頂戴しているが、今の私は一介の冒険者だ。あまり気負わずに接してくれると嬉しい」

「「どっひゃー!?」」

「誰? 止まり木? ふぅん、まぁまぁ綺麗な魔力じゃない。でもエリーゼ様の魔力のが美し……」

「スタァーップ! ノエちゃんはもう喋らないで!」

 

 以降も草薙によるトレーニングは続き、時折有名人がやってきて、都度ヘルガ達を驚かせた。

 彼等彼女等はヘルガ達をイシグロの教え子として見てくるので、面映ゆいやら申し訳ないやらといったところ。

 特に、アリエルなんてヘルガの両親でも知ってるレベルの超大物である。噂通り、いや噂以上の美貌だった。そんな彼女はイシグロと楽しそうに話していて、そんな彼女相手でもイシグロはいつものイシグロだった。あんなん対面したら普通じゃいられないだろうに、イシグロは凄いなぁと思うヘルガだった。

 

「マジで止まり木に寄付してたんすね、イシグロさん。てっきりガセだと思ってたっす」

「公然とやると嘘っぽく感じるのはしゃーない。ちなみに、ヨーヨーの儲けも大体寄付してるぞ」

「それは……何でっすか? ソースもっすけど、もう冒険者とかやる意味ないっすよね? 一生楽して暮らせるのに」

 

 ふと、ヘルガはイシグロ当人に寄付の理由を訊いてみた。

 まさか、アリエルに媚びる為という訳ではあるまい。そう思えるくらいには、ヘルガはイシグロの人柄を知り得ていた。

 

「たとえどんな事情があっても、子供は健やかに希望を持って生きるべきなんだよ。けどそれは俺には難しいから、アリエルさんに丸投げしてるんだ。本当に凄いのはああいう人だよ」

 

 そう言うイシグロの瞳は、ヘルガには推し測れない程の優しさに満ち。ほんの僅かな憂いを湛えていた。

 ラリス王国において、黎明のイシグロは尖兵戦を駆け抜けた比類なき英雄と称えられている。しかし、普段の彼を見ていると本当にそうなのか疑わしい。けれど、その時ヘルガは心底で感得した。

 イシグロの中にあるのは、一握りの傑物が持つ英雄性ではなく、多くの人民が当たり前に持ち合わせている人間性なのである。

 

 だから、好きになれなかったのだ。

 今は尊敬しているが。

 

 

 

 トレーニングしたり、迷宮探索をしたり、たまに皆で遊んだり。

 そんな、ある日の事だった。

 

「卒業式、すか……?」

「ああ。お前達はもう、充分成長したからな」

 

 草薙の門の卒業――即ち、養成期間の終了が宣言された。

 英雄候補生ではなく、一人の冒険者として独立する時がきたのである。 

 その区切りとして、卒業証書の授与式を行おうというのだ。

 

「第一回オーディション、草薙の門一期生、ルル。貴方は草薙の門における養成課程を完了した事を、ここに認める」

 

 証書授与の際、イシグロは各卒業生との思い出を語ってくれた。

 時に朴訥と、時に抒情的に。その一つ一つの小さなエピソードは過去と現在を繋ぐもので、未熟だった卒業生達の確かな成長を感じさせた。

 最後に「卒業おめでとう」と証書を渡された時、ルルもノエミも感極まって涙を流していた。彼女等だけではない。イシグロの後ろで式を見守っていたグーラやイリハ等も、誇らしそうに目に涙を湛えていた。

 

「よく頑張ったな、ヘルガ。卒業おめでとう」

「はい……! ありがとうございました……! 本当に、最初からずっと迷惑かけっぱなしで……!」

 

 人前で泣くなんて情けない。そう思っていたヘルガも、気付けば泣いていた。

思えば、オーディションの日から本当に色々あった。弟の異能の事、ルル達と過ごした宿での事、迷宮探索で失敗した時の事。

 何者でもなかったヘルガは、気付けば草薙の門の盟主をやっている。そして、今この時を以て候補生を卒業するのだ。

 

「おめでとうございます、ヘルガさん。卒業しても鍛錬は続けてくださいね」

「一日サボッたら戻すのに三日かかるんですから。楽する為にもサボっちゃダメですよ」

「はい! ありがとうございました! 師匠……!」

 

 やる意味など無いと思っていた卒業式で、ヘルガの胸は感謝でいっぱいになった。

 イシグロ達だけではない。ここまで育ててくれた両親への感謝。一緒にいてくれた友達への感謝。こうやって大人になるのだと、ヘルガは心の底から納得した。

 そのようにして、草薙の卒業式は感謝の涙と共に終了した。

 

 

 

 式の後の、夜である。

 

「卒業おめでとう、姉ちゃん!」

「美味ぇ! マジで美味ぇ! リントが美食の街って言われてたの今日思い知ったわ!」

「ほら食べてないでお祝いする! 卒業おめでとうヘルっち! はいもう一回乾杯~!」

「おめでとうヘルガ。まさか騎士家出身でもない君が成し遂げるなんてね。あぁいや、今のは君の出自を嘲っている訳ではなくて……!」

 

 草薙の剣とのお別れ会は、リント市にある酒場を貸し切って催された。

 酒場には草薙関係者だけではなく、ヘルガの家族や路地裏集会の仲間の姿もあった。イシグロに呼ばれてきたらしい。

 

「なんじゃこれ美味ぇ~! カツにこんな美味い食い方があるなんて!」

「美味しいですよねカツ丼! 麺とも相性いいですよ! すみません、カツ丼とうどんのセットください!」

「宴会にカツ丼出るの違和感なんだよなぁ」

 

 フライシュ的には当然として、出された料理はどれも美味しかった。

 中でもヘルガが特に気に入ったのは、油で揚げた肉を出汁と卵で煮たカツ丼という料理で、いくらでも食えるくらい美味しかった。そんなヘルガを見たルルは「これが若さか~……」と呟いていた。

 食べていたのはカツ丼だけではない。ラリスビールを飲みながら、初めて食べる色んな料理を口にした。冒険者になってから、明らかに多く食べるようになった。

 食べてばっかだったが、とても楽しい宴会だった。

 

「ふぅ~、食った食った。イシグロさん、ゴチっした~!」

「もう、最後に盟主様に見せる顔がそんなのじゃ……そんなのじゃ、うぇえええええ!」

「泣いちゃった!」

「別に最後ってワケじゃあないんじゃよな~」

 

 帰り道。酔っているヘルガ達を草薙の剣は送ってくれた。

 酔い潰れたルルはレノの【念力】で運搬されており、別れを寂しがっているノエミはルクスリリアに泣きついている。

 友達と遊んだ後の、全てを置き去りにする虚しさが胸に満ちる。けれど、ヘルガの心には同じくらいの希望が溢れていた。

 

「ところでぇ、あーしの異能って何なんすかぁ?」

 

 道中、酔っていたヘルガは、何となくイシグロに自身の異能について訊いてみた。

 ルルとノエミにはあるのだ。なら、あのオーディションで異能の有無を見ていたのは確実。期待半分諦観半分で自分にもあるんじゃねと、そう思っていたのだが……。

 

「無いよ」

「……え?」

「ヘルガに、異能は、無いよ」

「えぇ~?」

 

 無かったらしい。

 ヘルガとて、少なからず草薙の門としての自負があった。以前、ユゥリンにははぐらかされたが、ルルやノエミ程とは言わずとも何だかんだ何かしら持ってるだろうと思っていたのだ。

 悲しみはないが、ショックは受けた。

 

「強いていうなら、ヘルガは瘴気耐性体質って言って迷宮の狂気を発症し辛い身体してるんだよな。けどルルやノエミが持ってるような特殊な能力は無いよ」

 

 どうやら、ヘルガは迷宮の瘴気に強い耐性があるらしい。

 そうなんだと納得しつつ聞いていると、イシグロは「まぁでも」と続けた。

 

「オーディションの審査官やフライシュ公爵は、候補生の中でヘルガを一番高く評価してたよ。ナターリアさんも、アリエルさんも。あとうちだとクニュフがめっちゃ推してる」

「そ、そうなんすか……」

 

 ヘルガの知らぬところで、ヘルガは色んな人から評価されていたらしい。

 そうは言われても自覚のない一般魔獅子人である。ふにゃりと垂れた尻尾を見て取ってか、黎明のイシグロはしっかりと目と目を合わせて言った。

 

「勿論、俺も」

「え?」

「信頼してるんだ。ヘルガになら、あの二人を任せられる。そう思ったから頭目をやってもらったし、これからも彼女達を引っ張っていってほしいと思う」

 

 それは、信頼の目だった。

 ルルやノエミのような異能も無いし、エリーゼやイリハのような才能も無いし、グーラやレノのような英雄性も持ち合わせていない。

 そんなヘルガを、ラリスが誇る大英雄は信頼の眼差して見据えていた。

 

「は、はい! やれるだけ、やってみるっす!」

 

 その信頼には……いや、少し違う。尊敬している人の想いには、なるべく応えたい。そう思える事こそが、ヘルガという少女の根幹であった。

 やれるだけの事は、精一杯やれるだけやろう。魔獅子の尻尾が、ピンと立った。

 

 翌日、ヘルガ達は草薙の門を脱退した。

 英雄候補生を卒業したのである。

 

 

 

 

 

 

 草薙の剣と別れた後も、ヘルガ達は以前までと同様に冒険者として活動していた。

 自主的に鍛錬し、自分達の手で迷宮録を参照し、一党だけで迷宮を探索する。

 イシグロ達がいないだけで、変わったような変わってないような日が続いていたのである。

 ちょっとした変化はあったが。

 

「あぁルルちゃんありがとねぇ。ルルちゃんいるとホント助かるわぁ~」

「いえいえ、困った事があったらルルに何でも言ってください!」

 

 今現在、ルルとノエミの二人はヘルガの実家の宿に住んでいる。客兼居候として。

 せっかくだからと、一党全員の稼ぎで実家に置いてあった魔道具を最新式に買い替えた。大した親孝行ではないが、両親にはめちゃくちゃ喜ばれた。

 

「行ってきます、姉ちゃん! ルルさんとノエミさんもお気をつけて!」

 

 一方で、ヘルガの弟には大きな変化があった。異能によって発症した瘴気病が快癒し、退院して実家に戻ったのである。

 現在は家を手伝いつつ私塾に通い、近いうち行儀見習いとして公爵家へ奉公に上がる予定だった。最終的に大学を目指すのだ、と。

 また大学を卒業した後はリント市に戻り、フライシュ公爵ひいてはヘルガ達に恩返しをするつもりらしい。

 なんというか、弟はアレコレ悩んでた姉と違って器用に人生設計をしていた。

 

「おぉ~。これが鋼鉄札か。鉄札よりキラキラしてんじゃん」

 

 そうこうしていると、ヘルガの冒険者位階は鋼鉄札へと昇格した。

 加えて、気が付いた頃にはヘルガ達に対する冒険者達の態度にも変化があった。何故かというと、ヘルガ達が迷宮に潜りまくってるせいで第二の迷宮狂いと見做されかけていたから……らしい。感覚が麻痺していたが、普通冒険者は週に二回も三回も潜らないのだ。

 また、路地裏集会でお世話になったベテラン冒険者がヘルガ達を擁護してくれてたのもある。本当に優しい人達だった。

 

「まぁルル的には遅かったくらいなんだけどね~。どうせすぐ銀細工貰えるだろうし、今だけのレアモノかな~!」

 

 ヘルガと同じく、ルルも鋼鉄札に昇格した。

 彼女は水属性に特化した魔術師で、治癒や索敵に加え嵐極拳の長柄武器術による近距離戦にも対応できる超万能魔術師に仕上がった。

 当初は不特定多数の人にチヤホヤされる事を目標にしていたルルだったが、今ではそんな素振りは殆どない。興味がなくなったのか承認欲求が薄くなったのかは、ヘルガの知るところではなかった。

 一方、理由は定かではないが、最近のルルはファッションや美容だけでなく育児系の道具を買っているようだった。当人が熱弁するところによると、「哺乳瓶で淫魔牛乳飲むのが至福」らしい。わざわざ言わなくてもいいのに。

 

「まだまだ、こんな程度じゃ足りないわ。早く銀細工になって、盟主様のお役に立たなくちゃ……」

 

 ノエミも鋼鉄札になった。

 冒険者証を渡される時にギルド職員から聞いたところ、この中ではノエミが最も銀細工に近いらしい。だが、彼女には協調性に欠けるところがあり、今のところ見送られているようだ。

 ヘルガ視点では、当初に比べれば最近のノエミは社交性が身に付いているように見受けられる。初対面の時のようなトゲトゲしさが無くなったのだ。その事はギルドも承知しているそうで、ヘルガに対し「くれぐれもよろしく」と言ってきた。なんか保護者みたいな扱いをされていた。

 ちなみに、卒業後のノエミは草薙の剣関連のグッズや書籍を収集している。英雄画で有名な画家・ロレッタの作品が展示されると聞いて、一緒に美術館にも足を運んだりした。絵になったイシグロは実際のソレよりイケメンで笑ってしまった。

 

「今日の迷宮は屋外タイプだ。召喚獣の用意はいいな?」

「大丈夫! って言いたいとこだけど、やっぱヘカちゃんのやつのが具合いいんだよね~。次会った時に頼もうかなぁ?」

「頼ってばかりじゃいけないわ。それにその仔も悪くはないでしょう。足にはなってくれているのだし」

 

 ルルも、ノエミも、ヘルガも、それぞれ願望や目標は異なっている。けれども同じ方向を向いて、強い絆で繋がっていた。

 たとえ、いつか別れる時が来たとしても、三人の友情は絶える事はない。家族や、路地裏集会も同じだ。友達との絆は、愛は決して消えはしないのだから。

 

「行くぞ、ご安全に!」

「「ご安全に!」」

 

 かくして、ヘルガは英雄の道を歩み出したのである。

 誰あろう、ヘルガ自身の意思によって。

 確かな一歩を。

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、ヘルガ達の冒険者歴が一年を過ぎた頃。

 ヘルガを頭目とする一党は、ラリス王国は王都アレクシストにやってきた。

 召喚を受け、報連相をし、満場一致で。

 

「う~ん、この新しい服の匂い! 制服着るのも久しぶり~!」

「戦闘服はいつも着ているでしょう。そう変わるものではないわ」

「お前等、聞こえるかもしんねぇだろ。もうちょっと静かに歩け。舐められたら終わりなんだからな」

 

 王都一等地にある、高級ホテル。制服を身に纏った三人は絨毯の敷かれた廊下を歩いていた。

 その胸に、真新しい銀細工を下げながら。

 

「此処か……」

 

 やがて、豪奢な扉の前に辿り着く。

 銀細工としての勘である。向こう側から、多くの強者の気配が漂っていた。

 

「頑張れ、盟主様♪ 舐められてもイシグロさんが選んだのはヘルちゃんなんだから、自信持って♪」

「いざとなったら私が斬るわ」

「頼もしい限りだよ」

 

 用件は把握している。何をすべきか、何を話すべきかも頭に入っている。それでもヘルガは緊張していた。

 本当に自分でいいのか、そう思わない日はなかった。それでもやると決めたのだから、やり切る他ないだろう。

 息を呑む。改めて、ヘルガは覚悟を決めた。

 

「開くぞ……」

 

 目を見合わせ、両開きの扉を開ける。

 一瞬の眩しさ。やがて目が慣れる。扉の先は、同盟単位で使用する事を前提とした大広間になっていた。

 大きくて長いソファーの他、会議用の円卓やバーカウンターなどまで設えてある。

 そこに、ヘルガ達と同じ制服を着た冒険者達の姿があった。

 種族は色々。年齢も様々。そして、何よりも。

 全員、キャラが濃かった。

 

「ずずずずず……んはぁ♡ おぉ入ってくる♡ 擦り減った心と身体に染み込んで……あぁ早い♡ おっ♡ おっ♡ ほぁぁぁぁ……♡ やっぱり抹茶はリンジュ産~♡ いくぅうううう♡」

 

 広間の一角、何故か敷かれている四畳半の畳の上で、人間族の中年男性が半裸で抹茶を呑んでキマッていた。

 そう、キマッていたのである。限界までカッ開かれた双眸は焦点が合っておらず、口元は恍惚と緩み、時折ビクビクと全身を痙攣させていた。

 かと思えば剥き出しの上体の筋肉がみるみるうちに膨張し、どこにでもいるおじさんはラリス彫刻の如きバキバキのマッチョマンに仕上がっていた。そして、彼はあからさまに達していた。めっちゃ気持ちよさそう。

 

「歩き通しで足が疲れたわ。何をしているの? さっさと椅子になりなさいこのマゾ奴隷!」

「はっ! ただいまご用意いたしますんほぉ~♡ 一切容赦のない腰掛け具合♡ あぁぁぁりがとうございまひゅぅうううう♡」

「椅子がヒトの言葉を喋るなんておかしいわよねぇ? どうせなら猫らしく可愛く鳴きなさいな」

「んにゃあ♡ んごろにゃ~♡」

 

 また別の一角では、四つん這いになった虎人美青年の背に豚鬼美女が腰を下ろしていた。すぐ近くにソファーがあるにも関わらず。

 先の抹茶ガンギマリ筋肉おじさん同様、椅子にされた虎人美青年はこの世全てを手に入れた男のように恍惚の笑みを浮かべており、虎に座す豚鬼は当然とばかりに傲然とふんぞり返っていた。虎人ってもっとこうプライドの高い種族だったような。

 

「はっ! よっ! そいっ! まだまだスピードアップしますよトゥイさん! しゃあっ!」

「任せて。翻獅流は手捌きも流麗」

 

 そして最も目立っていたのが、高級ホテルの大広間で何故かリズムよく餅を搗いている二人組だった。

 杵を上下している桜色の髪をした天狐少年と、そこに合いの手を入れているゴツい首輪を嵌められた三本尻尾の裸足の猫又。二人のコンビネーションにより、みるみるうちに餅は黒青赤黄白と色を変え、やがて虹色に光るゲーミング餅が出来上がった。

 出来上がったソレを、皆に配っていく二人組。こちらにも気づいているようで、呆然とするヘルガ達にも餅が配られた。

 が、誰も何も気にしていない。ヘルガが来た事にも、ホテルで餅を搗いて出来立てのソレを配っている事にも。此処にいる全員が全員、自分の世界を構築していた。

 

「どうぞ。抹茶には餅も合いますよ」

「あぁありがとうカゲロウ君♡ うん、美味しい♡ いやぁリンジュの抹茶に君の五行餅はよくキマるなぁ♡」

「抹茶は一日一回までですよ~。ククルさんもどうぞ」

 

 また、そこにいて餅を食べているのは先の五人だけではなかった。

 餅をおかずに生の鮭を頬張っている熊人少女。壮麗な円卓でぬいぐるみを縫っているドワーフ男。身長がエメスアルマと同じくらいある楚々とした半森人美女に、それぞれ長短の銃杖を握る半竜人の双子男女。型稽古を繰り返す鹿人美少女……いや角のない鹿人美少年。

 全員、ヘルガ達の仲間で――盟友だった。

 

「ごほん! はい、注目!」

 

 呆気に取られたのも束の間、気を取り直したヘルガが号令を発した。

 すると、さっきまで自分の世界に入っていた人達からようやっと注目が集まった。

 こちらを値踏みするような目。慈しむような目。期待するような目。興味ありげな目。好戦的な目。

 その全てを受け止めて、ヘルガは腹に力を籠めた。

 

「あーしは第一期の卒業生で、草薙の門の盟主をやってたヘルガだ。お前等とは初めて会う訳だが、剣の盟主からはこっちの面倒を見るよう言われてる。くれぐれもってな」

 

 この場に集められたのは、全員イシグロの教え子である。

 ヘルガ達が呼び出されたのは、ここにいる者達の長として立つ為だ。

 そして、了承したのは、他でもないヘルガである。

 

「文句ある奴もいるだろう。あーしより強ぇ奴もいるだろう。だが、ここは場末の酒場でも、そのへんの冒険者集団でもねぇ。規律には従ってもらうぜ。だが、気に入らねぇなら直接言え。納得するまで話してやんよ。だから……」

 

 オーディションを勝ち抜き、トレーニングを耐え切り、草薙の門を卒業した者達。そうして集い、結成された同盟とその盟友。

 草薙の門改め、“天群雲(あめのむらくも)”。

 候補生ではない、紛れもない英雄の雛である。

 

「こっちでも頭張ってくんで、ヨロシク!」

 

 気合の入った挨拶に、威勢のいい返事が響く。

 対し、門の三人は笑い返した。自負と、自信と、見栄と、威勢と、責任と、覚悟と、決意と……その他いっぱいの色んな感情を籠めて。

 英雄達を率いる者として、誇り高く。

 

 こうして、“武血義理”のヘルガの英雄譚と、新たな青春が始まったのである。




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◆天群雲メンバー◆


・ヘルガ
 盟主。魔獅子人。10歳。フライシュ組。
 カポエラっぽい武術とヨーヨーの投擲術で前衛と中距離支援ができる指揮官。
 マグナバイクを作ってもらう為に貯金中。

・ルル
 副盟主。玉兎人。35歳。フライシュ組。
 水属性への高い適性を持ち、魔力切れになっても一時的な精神年齢の低下を代償に魔力を生成する事が可能。実質的な魔力無限異能。
 幼児服や哺乳瓶で遊ぶのが趣味。

・ノエミ
 半吸血人。フライシュ組。
 一撃目の攻撃が必ずクリティカルになる。代償として、ガード値に常時凄まじいマイナス補正と逆確定会心を受ける。
 草薙の剣の強火オタク。草薙の事を悪く言うと訂正しろ殺すぞ案件なので派手にトラブルメーカー。結局三人の中で最後に銀細工を授与された。

・抹茶ガンギマリ筋肉おじさん
 人間族。39歳。
 ランベール組。妻が浮気し、子どもを連れていなくなった事から絶望していたところ、酔った勢いでオーディションを受け合格。
 抹茶を呑む事で一時的な無敵状態になる事ができる。代償としてキマる。
 棍棒使い。

・サド豚鬼女王様とマゾ虎人美青年
 ランベール組。豚鬼の女と虎人の男。
 女は場末の娼婦で、逃げるようにオーディションを受け合格。男は兄弟と一緒にオーディションを受け合格。二人とも、迷宮の狂気でサドマゾ覚醒した。
 サドはヒトを殴る事でバフを与える異能、マゾはヒトに殴られてパワーアップする異能を持つ。それぞれ後衛バッファーと前衛バーサーカー。

・餅つき天狐少年カゲロウ
 天狐。シラノイの妻の不貞によって生まれた血縁のない息子。
 第三王子の推薦で草薙の門に入った後に天群雲に参加した。
 魔眼持ち。陰陽術の天才。料理にバフを与える異能持ち。
 血のつながりのない父親のシラノイとは割と仲がいい。実家と実母と実父を嫌悪している。

・首輪を嵌められた三本尻尾の猫又トゥイ
 猫又。ファンリーの分霊の一人で、裸足の猫又。
 圏外で戦った後、奴隷契約を交わした上で一定の自由を勝ち取る。第三王子の推薦で会うだけ会った。ファンリー関係者の割に邪気がなく、シャーロットが許したので参加を認めた。アリエルや新上森人王の許可も得ている。
 地味に最も多くの旧魔王軍の内情をゲロりまくっていた。夜煌宮の地図もこいつが描いた。

・鮭を食べていた熊人少女
 熊人。14歳。ロリ巨乳。
 ゲパルト組。山生まれ山育ちの狩人。紆余曲折あって天涯孤独となり、なんとなくオーディションを受け合格。
 自身が持つあらゆるリソースを消費し、膂力に変換する異能を持つ。主に食事によるカロリーを使っている。異能を工夫し、一時的な魔力不全や一定時間の不動を代償に膂力を引き上げたりも可能。
 隠密大弓使い。

・ぬいぐるみを編んでいたドワーフ男
 岩人。
 ゲパルト組。才能なしと職人組合から追い出され、絶望していたところオーディションを受け合格。
 ぬいぐるみを贄に召喚獣を呼び出し使役する異能を持つ。ぬいぐるみの出来により性能が変動する。
 召喚獣使い。

・ハーフエルフ八尺様
 半森人。
 ゲパルト組。友達が勝手にオーディションに応募し、合格した。
 純粋に強い。
 青龍偃月刀を使う。

・半竜族の双子男女
 短銃杖の姉と長銃杖の弟。
 止まり木協会所属。アリエルの推薦でオーディションを受け、合格。
 コピーした攻撃魔法に限り、魔力消費無しで使える姉。代償としてコピー状態では他の魔法は使えず、コピーできるのは一つのみ。
 コピーした能動スキルに限り、リソース消費無しで使える弟。代償としてコピー状態では他の能動スキルは使えず、コピーできるのは四つのみ。
 姉はコピーした【魔導極砲】をぶっぱする斥候。弟は四つの肉体強化系能動スキルを使いこなす魔術師。

・空手鹿人男の娘
 鹿人。牡鹿だが角がない。
 ナターリアの推薦でオーディションを受け、合格した。
 素手でのガード時のみ、両前腕に極めて強固なガード値を発揮する異能を持つ。代償として武器による攻撃時に武器が手からすっぽ抜ける(武器攻撃時に両腕最強ガード値が悪さをして、手に持っている物を武器ではなくオブジェクト判定してしまう事によるバグ挙動)。
 イシグロによってフルコンタクト空手を叩きこまれたタンク型武闘家。



 長い……長くない? 長かったね。
 最初はヘルガだけをプロデュースする予定で、最後の天群雲のところにルルとノエミが出てくる感じにしようと思っていました。
 けど、考えた結果ルルも出しちゃえ♡ ノエミも出しちゃえ♡ してたらこんな長くなりました。
 わしは足し算で小説書いとるんや。

 次からイシグロ視点に戻ります。
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