【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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感想・評価など、ありがとうございます。皆様の反応が執筆の原動力でございます。
誤字報告もありがとうございます。感謝です。

今回は三人称、候補生達視点です。
なんとなく全体こんなノリの奴等なんだなって感じで、候補生一人一人覚えなくて大丈夫です、
よろしくお願いします。



サクラロリ(下)

 春夏秋冬、いつでも咲いているカムイバラの桜には、一定期間のみ満開になる時期が存在する。

 すなわち春だ。

 

 街の桜が膨らむように咲いた頃。年始と共に始まった英雄育成計画は、前期育成課程の只中にあった。

 前期育成過程とは、要するに基礎トレーニング期間である。育成方針が定まってから、候補生達はひたすらに心技体の鍛錬に励むのだ。

 また、基礎鍛錬と並行し、個々人の特性に最適化された応用訓練も課されていた。剣術の中でも刺突メインの剣術。陰陽術の中でも陰氣重視といったように。

 

 地味で退屈だった基礎トレと異なり、応用編は出来る事が増えてくるので基礎より楽しく感じるのが人情だろう。

 日に日に強くなっていく実感を得、来たるべき実習に備える候補生達の士気は非常に高いものであった。

 

「いいな? 迷宮はとにかく生存重視だ。習った通りご安全にだ。せーの、ご安全に!」

「「「ご安全に!」」」

 

 それぞれの戦闘スタイルが定まってきて暫く後、候補生達は草薙の引率と共に人生初の迷宮探索へ挑んでいった。

 銀細工級三~五人によるガチ贅沢引率育成だ。通常の新米冒険者ならありえない程の好待遇を受けた候補生はしかし、七人中七人が一切の容赦なく迷宮の洗礼を盛大に浴びる事となった。

 迷宮内の瘴気で正気が削られ、魔物の脅威に恐怖し、実力の半分も発揮できぬまま基礎鍛錬の成果で結果的に生き残った。引率がいなかったら間違いなく死んでいた。そう、心身で思い知らされたのである。

 

「っしゃあタマ取ったらぁあああああッ!」

「いいな! ちゃんとスキル発動してるぞ! 理想的な刺突モーションだ!」

「ほら集中切らさない。次いきますよ」

「おっす! お願いします!」

 

 けれども、それで終わるような者はオーディションの時点で落とされている。寧ろ、実習明けの候補生達はよりいっそう鍛錬に励むようになっていた。

 無意味だと思っていた基礎トレーニングの意味を思い知り、自身が持つ特殊能力を自主的に試行錯誤する。これまで課されるがままこなしてきた勉学を、能動的に学ぶ姿勢へ切り替わったのだ。

 

 やがて心を削る後期育成過程が始まり、英雄の卵は自ら少しずつ殻を割っていった。

 そんなこんなで鍛錬を続け、仲間と切磋琢磨し、一歩一歩成長しながら迷宮を踏破していると……。

 

「「「きゃー♡」」」

 

 なんかアイドルみたいな扱いを受けるようになった。

 転移神殿の前で出待ちされ、通りを歩けば声をかけられ、カムイバラ民から明らかに好意的な目で見られるようになったのだ。

 

「カゲロウ様♡ ユアン君♡ こっち向いてー♡」

「ユアカゲ尊い♡」

「カゲユアだろ訂正しろ殺すぞ♡」

 

 中には変なファン層もいたが……それはともかく。

 といっても、だ。候補生がモテているというより草薙の剣人気に引っ張られる形で声援を贈られるようになっただけ。

 例えるなら、某追放者(エグザイル)集団や四八系グループの新入り扱いに近いだろうか。あるいは大手V事務所の新人ライバーみたいなノリである。

 

「よう! 今日も迷宮かい! よくあの“迷宮狂い”についていけるねアンタら! 死ぬんじゃないよ~!」

「うっす、とんでもないっす恐縮っす」

 

 チヤホヤされ始めた候補生達だったが、意外にも増長する事はなかった。否、できなかった。

 何故なら、こうやって注目されると先達に恥じない振る舞いをせねばならないという感情が芽生えていたからだ。恥の文化および謙虚を美徳とするリンジュ特有の価値観が彼等に自制をかけていたのだ。いわゆる国民性というやつで。

 さらに、ひたむきに英雄を目指す草薙の新人達は同業者からも好意的に見られていた。選ばれなかった事に嫉妬するより、選ばれた人を応援する精神がリンジュ冒険者には存在したのである。これもまた国民性と言えるだろう。

 

「あぁぁあ疲れた~! 銭湯行こうぜ銭湯!」

「風呂上りは珈琲牛乳が飲みたいのぅ」

「まさか俺みたいなモンが気軽に珈琲牛乳なんか飲める日が来るとはって感じやわ」

「わたくし達も銭湯で裸の付き合いですわよ!」

「「「フルーツ牛乳ですわ~!」」」

 

 草薙の門の英雄候補生。

 毎日鍛錬し、迷宮に潜り、己もまた英雄たらんと奮起する。

 これは、そんな候補生達の日常の一幕と、やがて世界中を熱狂させる一大ムーブメントの序章である。

 

 

 

 カムイバラ東区。草薙の門、男子寮。

 風呂無し、トイレ有り、質の高い台所有り。元は蕎麦屋だった一軒家には、今は天群雲を含めた男性陣が住んでいた。

 

「あぁぁぁ可愛い女の子と付き合いてぇえええ……!」

 

 そんな男子寮の一階に、如何にも思春期男子らしい願望が響き渡る。

 男子寮は蕎麦屋時代の内装をそのまま使用しており、一階はキッチンと接客スペースで構成されている。かつて飲食用のテーブルが置かれていた土間には麻雀卓が設えてあり、若い男四人が麻雀を打っていた。先の発言はそのうちの一人が発したものである。

 他方、同じ階にある座敷スペースでは、天群雲のおじさんコンビが煙管を吸いながらだらだらと将棋を打っていた。完全に一般人お休みスタイルである。それで出たのが性欲に塗れた「可愛い女の子と付き合いたい」なあたり、如何に気が緩んでいるかが察せられる。普段は鍛錬に迷宮にとクソ忙しい上にクソ疲れる事をしているのだからさもありなん。

 

「最近、街で話しかけられる事多いですよね。特に女の子から」

「なんじゃ、こーゆーん“モテ期”ゆぅんじゃったか。ワシぁ今まで女にゃ見向きもされんかったけぇ、うれしいんよ」

「アホ抜かせお前、単に自分等が草薙の仲間やで人気のおこぼれ貰っとるだけや」

「おこぼれでいいから可愛い娘抱きてぇよぉ~」

 

 草薙に選ばれた英雄候補といえど、制服を脱げば普通の男子。普段から謙虚を心がけていても、いやだからこそ迷宮の狂気で増幅された欲望は如何ともし難い。ひとたび迷宮を出れば飯・女・遊びで脳内が埋め尽くされる年頃であった。

 

「そんなに言うなら遊郭に行けばいいじゃないですか。カムイバラの遊女は愛想がいいと噂ですよ」

 

 慣れた手つきで牌を切りつつ、天群雲所属の角無し鹿人美少年が言う。

 なお、中性的鹿人美少年の彼は一部の男性と一部の女子からの人気がやたらと高かった。四人の中では一番モテる。

 

「遊郭なぁ……う~ん」

「初めては惚れた女がええんやろ? あほくさ……でも分かるで」

「そりゃそうじゃ。金で女買いよって何がおもろいんじゃ。ホンマにええ男じゃったら女の方から寄ってくるもんじゃけぇ」

 

 対するは現草薙の門の男子三人である。

 年若いというのもあり、彼等は恋愛と性欲がごっちゃになっていた。かといってキッチリ割り切れるほど純情さを失ってもいなかった。そもそも異性にがっつくのも何かこう……ダサい気がする。

 この年頃の男子は実に面倒くさいのだ。

 

「そのへんどないです? 実際問題。遊女でも何でも経験しとくべき思いますやろか」

「えぇ? それを僕等に聞くのかい?」

「困りやしたねぇ。私も私で、ガキの頃から鍛冶一筋で女性とは全く縁がなく」

「やっぱ何も行動しなかったら女って出来ねぇのか……!」

「酷いなぁ。まぁ僕も幼馴染とそのまま結婚しただけで恋愛らしい事は一つも……あっ、拙いダメだ鬱入りそう……」

「抹茶は今朝もキメたでしょう。もう暫くの辛抱です。代わりに酒でも呑みやしょう」

「お気の毒じゃ……」

 

 将棋を指していたおじ達に話を振るも、相手が悪かった。

 片や愛していた妻に逃げられた抹茶ガンギマリ筋肉おじさん、片や追放系ぬいぐるみ職人おじさん。二人共、良い反面教師であった。

 

「うおをん! でも初体験は惚れた女がいいよぉ! できれば背が高くて金髪で翡翠色の目ぇした上森人がいい! あぁ~恋してぇ……からの、チー!」

「恋ですか。初めてが失恋で終わってから全く経験ないですねぇ。あぁあの時角さえ生えていれば……」

「つっても自分等にそんな暇あるか? 休みはあるけど、ぶっちゃけそんな気力ないわ。あとそれポン」

「そもそも外部の女性には気をつけろって言われてますもんね。イシグロさんの足を引っ張りたくないので、引っかからないよう普段から気を付けています」

「つかカゲ先輩はどうなんだろーな。あの人、草薙関係なしにモテモテじゃん」

「ああ。カゲロウさんって女性嫌いなんですよ。全部スルーしてます」

「そうなのか。あれ? でも夜に遊女遊びしてるって言ってたよな?」

「女性嫌いの娼婦好きなんですよ」

「よう分からん人じゃのう。あ、ロンじゃ」

「どうしてだよぉおおおおお!」

 

 なお、この場にいない天群雲男子は草薙ブランド関係無しにモテていた。けれども迷宮潜りのサガで、モテ勢男子も色々拗れていた。

 ここにいる純情男子が考えるようなマトモな恋愛経験など、草薙の誰もした事ないのが現実だ。

 

「ガチめにさ……」

 

 第二局。麻雀牌をジャラジャラしながら、人間族の思春期男子が真剣な声音で言う。

 ちゃっちゃと牌をまとめ、注目を受け……一言。

 

「もし草薙ん中で付き合えるとしたら……誰よ?」

 

 その時、男子に電流走る。

 これまで意識しないようにしていた境界が、ついに破られたのである。

 言わずもがな、草薙は魅力的な女子――ルクスリリア達はアウトオブ眼中――が多い。恋愛したいかしたくないかで言ったら、したいのが本音だった。

 同盟内恋愛は禁止こそされていないが制約が多い。迷宮学でさんざん男女間のアレコレを聞かされたので尚の事リスキーに思われた。

 しかし、難攻不落の城こそ攻略したくなるのが男というものだ。実戦ではない、盤上戦。考えるくらいならいいだろう。

 

「そうだなぁ……僕はトゥイさんですかね。いつもぼーっとしてますけど、模擬戦してくれてる時のトゥイさんは凄く活き活きしてて……」

「わかる! めっちゃいいよな! 脚エロいし!」

 

 第一声は鹿人美少年だった。

 彼の言うトゥイとは、天群雲に所属する三本尻尾の猫又である。同じく武の道を志す者として、彼女は最も接する機会の多い異性だった。

 泰然自若とした佇まいに、ミステリアスな眼差し。過去に色々抱えてそうなところも燃える。男子三人はうんうんと頷いた。

 

「強いて言うならノエミさんやな。パッと見キツそうやけど、話してみたら割と気安いやん? あーゆーのめっちゃええわ」

「わかる! 黒髪最高だよな! あと尻エロいし!」

 

 続いて、クーシェンから来た黒豹少年が言う。

 ツンケンしてそうに見える半吸血人のノエミだが、実際のところ草薙の門に対してはめちゃくちゃ優しかったりする。戦闘センスも抜群なので、同じ戦士としては純粋に憧れるのだ。

 長く艶やかな黒髪はリンジュ人にもクーシェン人にもクッソ刺さる上、尻がデカいのがいい。併せて大腿もムチムチで素晴らしい。

 この異世界の二大性党は巨乳党と巨尻党なのである。若干巨乳党優勢だが、巨尻党だって負けていない。

 

「色恋の好きとかとはちぃと違うんじゃけど、ワシぁヘルガの姐御じゃな。ああいう気風の良い女は人としてええなぁ思うわ」

「わかる! あの目つきがいいよな! 獅子系だから尽くしてくれそうでエロいし!」

「自分そればっかやな……」

 

 耳の垂れた強面犬人が言う。ここにいる全員、おじコンビ含めてヘルガの事は素直に尊敬していた。

 なお、男子勢は皆して「ヘルガの本当の良さを分かってるのは俺だけなんだよなぁ」とか考えていた。また、四人ともヘルガを自分より年上だと思っていた。

 

「そーゆー自分はどうなん?」

「そりゃもうオレはルルさん一筋よ! でかぁぁぁぁぁい! 説明不要!」

「はぁ? 自分それはアカンやろ」

「反則じゃ反則じゃ!」

「ルルさんは皆大好きですよ。あとツモです」

「「「ぐわぁあああああああ!」」」

 

 言い出しっぺ思春期少年の発言には、皆から大ブーイングが浴びせられた。禁止カード。試合終了である。

 ある意味、ルルは異世界男子の妄想を詰め込んだような存在だった。なにせ胸が大きいし、おっぱいが大きいし、乳が大きいのだ。熱心な巨尻党支持者でも、ルルを前にしては巨乳党に票を入れてしまうだろう。

 そして何より、ルルは誰に対しても愛嬌たっぷりに応対してくれるのだから堪らない。ここの男子共は皆、「ルルさんって俺の事好きだよな」とか内心で思っていた。

 

「あーでもメアリーさんもいいよなぁ。背ぇ高いし森人だし……くぅぅぅ選べねぇえええ!」

「選べる立場ちゃうやろ」

「それはそうとニアの姐御もええ女じゃけぇのぅ」

「ニアさんと付き合ったら弟ついてくんじゃん! デートん時三人とか普通に嫌だろ!」

「二人共愛せばいいじゃないですか」

「オレは女しか無理なの!」

「ならクラウディアさんはどうです?」

「あー、うん……いや凄い良いと思うけど……」

「綺麗で、性格もめっちゃええんやけどなぁ」

「ええじゃないの竜族。ワシは好きじゃけぇ」

「せやけどなぁ?」

「オイゲン様がね……」

 

 麻雀打ちつつジュースとお菓子爆食いで、ゲラゲラ笑って猥談混じりの恋バナもどき。

 ヘルガにはヘルガの青春があったように、彼等の青春は此処にあった。

 一部を除き、草薙の門の名優達は厳しい環境で生きてきたのだ。彼等にとっては今という時間が一番輝いているのである。

 

「若いねぇ」

「若ぇですねぇ」

 

 そんな少年達の青春を、汚れっちまったおじ二人は微笑ましそうに眺めていた。

 ちなみに、色事に関して二人は既に枯れてしまっていた。冒険者特有の狂気を発症しているにもかかわらず、三大欲求の一つが死滅しているあたり筋金入りである。

 

「あぁ皆さん、此処にいらっしゃいましたか」

 

 なんて和やかに過ごしていた、その時である。

 ガラガラと玄関の戸を開け、制服を着た天狐が男子寮に入ってきた。天群雲の一人、リンジュ旧家出身の没落令息天狐カゲロウである。

 おじ&男子が普段着なのに対し、カゲロウはピシッと草薙の制服を纏っていた。サブカル学園制服めいた女子の制服と異なり、男子の制服はネクタイ付きのビジネススーツ風である。

 

「あ、カゲ先輩。どしたんすかそんな困った顔して」

「ええ、少し。皆さん、コレ等を見ていただけますか?」

 

 ただならぬカゲロウの様子に、一同は各々遊戯を止めて彼の周囲に集まってきた。

 収納魔法を開くカゲロウ。そうして机の上に並べられたのは、市場でよく見かける草薙グッズだった。ユゥリンっぽい槍使いが描かれた掛け軸に、手のひらサイズの黎明剣レプリカ。中でも最も目に付いたのは、一冊の本だった。

 フルカラーによるイラスト付き書籍である。質感からして手書きだ。表紙には複数人の男性キャラが映っていて、中心にいる冴えない男を色とりどりのイケメン軍団が囲んでいる構図だ。

 精緻な絵に、質のいい紙。しかし、真に驚くべき点はそこではなかった。表紙に描かれた人物に、どことなく見覚えがあったのだ。

 

「あの、これって……?」

「まさか……ですよね」

「そのまさかだと思います。ついさっき市場で発見しまして。出回る前に全部買い取ってきました」

 

 表紙のキャラの内訳は、こうである。

 中心の男は灰髪の吸血鬼。その後ろに黒髪の優男がいて、隣に銀髪の竜族男。麒麟族の武侠がいたと思えば、赤毛の森人にワイルド系の褐色獣人。オッドアイの天使なんかもいた。

 男子の間に、ものすごく気まずい空気が流れる。ややもあり、鹿人美少年が口を開いた。

 

「これが盟主様で、こっちがエリーゼさん? で、この厳ついお兄さんはグーラさんでしょうか?」

「主人公はヘカテーニャさんモチーフかいな」

「原型留めてねぇのは確かですが……」

「けっこうマジに特徴捉えてるっすね。種族の内訳がさぁ、もう……」

 

 この本もまた。草薙の剣をモチーフにした商品の一つだろう。

 肖像権のない異世界において、本人の許可を取らずにグッズが出されるのは日常茶飯事だ。性転換本はともかく、他のグッズは本人そのままなあたり確信犯である。

 

「……これヤバいですよね?」

「はい、ヤバいです」

 

 通常、こういった商品は違法ではない。イシグロっぽいだけでイシグロではないし、先述の通り異世界に肖像権はないからだ。

 しかし、今回ばかりは大問題だった。中身がどうのではなく、それ以前にダメなのだ。本以外のファングッズも同様にアウトである。

 仮に許可を出していたとしても、普段から報連相の重要さを説いているイシグロなら事前に連絡があるだろう。

 十中八九、御禁制であった。

 

「お邪魔します&お届け物ですわ~! いやぁ今朝ご近所さんから大根をおすそ分けしてもらって! おすそ分けのおすそ分けを……っと、皆さんなにをしてらっしゃるの?」

 

 その時である。今度は蜜竜クラウディアがやってきた。彼女もまた草薙の制服を纏っている。「着物より動きやすいですわ!」とのこと。

 

「あぁクラウディアさん、ちょうどいいところに。クラウディアさんも、此方を見ていただけますか?」

「なになに? エッチなのはいけないんですのよ~? わたくし箱入りドラゴンですので」

 

 図らずも女子代表みたいになってるクラウディアにも情報共有しようと、カゲロウは机の上にあるブツを指し示した。

 台所に大根を置いたクラウディアが例の机の近くに寄ると……。

 

「ぬぁッ!?」

 

 と、急にギャグ漫画風のびっくり顔になった。

 ビシィッ! と、花竜一族のご令嬢が件の問題書籍を指差す。

 

「なななな! なんでムラシコ・エリザベス先生の草薙本がここにありますのぉおおお!?」

 

 のー、のー、のー。

 謎エコーが止んだ頃、男子は首を傾げたまま目を見合わせ、それから改めてクラウディアの方を見た。

 数秒後、彼女は慌てて両手で口を押えた。

 

「はっ!? ちちち違いますわ! コレはわたくしのモノではなくってよ? そもそもわたくしイシカプ原理主義派ですし! 何も知りませんし出所も知りませんし作者と会った事もございませんわ!」

 

 主義主張は知らないが、もうあからさまに何か知ってそうである。

 どうするよとなったところに、カゲロウが咳払いを一つ。

 

「ところで、私には仲間にも内緒にしていた希少魔眼がございまして」

「へ、へぇ~、そうなんですのね……」

「嘘を吐いてるかどうかが分かる魔眼なんですよね、これ」

「そ、そうなのですわねっ」

「なので、嘘吐きは髭ぼーぼーに見えます」

「お髭ですの!?」

 

 シュバッと口元を隠すクラウディア。そんな彼女に、じっとりした視線が突き刺さる。

 青ざめていた竜族の顔が羞恥の赤に染まっていく。一方、目は絶望色に曇っていた。

 

「嘘ですよ。ですが間抜けは見つかったようですね」

「うぅ、カゲロウさん貴方策士ですわ~」

 

 そんなこんな。

 男子寮一階の座敷に正座させられたクラウディアは、男子勢からの詰問を受ける運びとなった。

 

「で、この本と……あとこの物品は一体何なんです?」

「え~っと、どこから説明すべきでしょうか……」

 

 手に持つユゥリン掛け軸をヒラヒラしながらカゲロウが問うと、クラウディアは言葉を探すように目を泳がせた。

 ややもせず、花竜一族のご令嬢はごくりと唾を呑んでから口を開く。

 

「実はわたくし、草薙だいすき倶楽部の会員でして。しかも桜闘会前からの古参で……」

「「「草薙だいすき倶楽部……?」」」

 

 草薙だいすき倶楽部とは? 一同ぽかん、である。

 それから、クラウディアは件の倶楽部について語り始めた。

 

 草薙だいすき倶楽部とは、その名の通り草薙の剣のファンクラブである。クラウディアは会員番号一桁の古参らしい。

 そんな彼女が草薙の門のオーディションに合格した事で、倶楽部内はお祭り騒ぎ。当初は弱小組織だった草薙だいすき倶楽部は、現役候補生から提供される新鮮なネタで勢いを増していき、倶楽部は他のファンクラブを吸収・合併してドンドン勢力を大きくしていったという。

 

「別にリーダーって訳ではないのですけれど、オーディションに合格してから上の方に祭り上げられちゃいまして……」

「機密情報を流していた……とか?」

「そ、そんな事してませんわ! ただイシグロ様や皆様の背格好や口癖やふとした仕草などを倶楽部で共有してただけですわ!」

「う~ん、続けてください」

 

 ともかく、倶楽部の活動内容は健全そのものだった。草薙関連のグッズのやりとりをしたり、イシグロの英雄譚について語り会ったりしていたそうだ。

 そんな中で、草薙を題材に創作活動を始める会員が現れた。やがて倶楽部は創作色が強くなり、今では草薙ジャンルの一大サークルにまで成り上がったという。

 

「そのうち本職の方とも連携するようになって、創作が苦手な方も妄想を形にするといった活動が流行り始めましたの」

「妄想を形に? とは、具体的にどういう活動でしょうか」

「その……例えば、例えばですわよ? 一番人気のある類いの妄想は、自分がイシグロ様の奴隷として買われるお話であったり……」

「はあ」

「草薙の門の名もなき一人として皆様と仲良くなったり、仲良くしてるのを眺めるとか……」

「クラウディアさんと同じじゃないですか」

「ルクスリリア様達を全員性転換させて……ねぇ?」

「ねぇじゃないが」

「な、何でそんなことしとるん? 本職の人もおるって、そらお金も時間もかかるやろうに……」

「な、何でと言われても困りますわ。胸の奥でぐつぐつ煮える熱い想いが文字や絵として湧き出てくるのだから仕方ないのですわ……」

「まぁモノづくりってなぁ大なり小なりそういったところはありやすね」

「でしょう!? ですわよね? そうですのよ!」

 

 次第にクラウディアの語りが熱を帯びていく。

 が、その熱は男子勢にはイマイチ伝わらなかった。創作者のリビドーは得てして他者の共感を得られないのだ。元鍛冶師現ぬいぐるみ職人のドワーフおじは一定の理解を示していたが、他はさっぱりである。

 

「この本はうちの会員の一人と先の本職の方が組んで書かれたお話ですわ。けれど、草薙だいすき倶楽部ではこういったモノは表に出さないのが掟ですわ。草薙の剣でお金儲けなんてけしかりませんし、それに過激な内容も多いですし……」

「過激な内容?」

「ととととにかくイシグロ様にご迷惑をかけたくないのですわ!」

 

 一同、改めて表紙を見る。そこには著者と表紙担当の名前が書いてあった。表紙がプロで中身がアマらしい。

 代表し、速読ができるカゲロウが中身を確認する。内容は同性間の恋愛小説だったようで、主人公の吸血鬼男が超最強銀細工の奴隷として購入されて主人の血を呑んだり主人の仲間達の血を呑んだりしていた。とにかく終始吸血ばっかしていた。

 

「つってもじゃ、イシグロの兄貴が今更こんなんで怒るもんかのぅ?」

「盟主は寛容ですからね。無関心というのもあるでしょうが」

「……いや、今回ばかりはキレるかもしれませんよ」

「「「え?」」」

 

 外はヤバいが中身に問題はないだろう。そう思う一同に対し、真剣な目をしたカゲロウが呟く。

 

「イシグロさんは銀細工とは思えないほど寛容なお方ですが、ルクスリリアさん達……彼の妻達への侮辱に対してだけは例外です。話によると、以前ランベール領で妻を愚弄されたイシグロさんは即座に剣を抜いたそうです。性転換の上、かなり調整されているとはいえ誰を参考にしているかは明白。もしこれが彼の目に入って、もしも侮辱と判断されれば……」

「されれ、ば……?」

 

 サーッと、クラウディアを含めたカゲロウ以外の顔から血の気が引いた。

 

「最悪、血の雨が降るかもしれません」

「いやいやいや、流石にそれは無い……っすよね?」

「ど、どうでしょうか。我々はまだ盟主様の為人を把握しきれてはいないので……」

「ヘルガさんあたりなら分かりそうだが……」

 

 普段のイシグロは知っていても、キレた時のイシグロは誰も知らない。

 一方で、迷宮狂いの逸話は有名である。どう考えても自分達以上の狂気を蓄積しているだろう。普段温厚なイシグロには、キレたら何をするか分からない凄みがあった。

 忘れてはいけない、イシグロは銀細工なのである。概して銀細工は常人とは異なる物差しで生きているのだ。普通しないだろという行動を取るし、普通では考えられないところに逆鱗があったりする。

 

「い、イシグロ様に知られる前に何とかしませんと! 市場のブツ回収して作者引っ張り出しますわ!」

「二手に分かれましょう。回収班は僕と市場へ。特攻班はクラウディアさんと共に! ご安全に!」

「「「ご安全に……!」」」

 

 各々武器を持った一同は、急いで草薙戦闘服を纏い二手に分かれて行動を開始した。

 クラウディアを先頭に、草薙だいすき倶楽部に特攻する班はカムイバラの道を往く。総回診というより、カチコミに向かう極道の様相である。

 

「お邪魔しますわよ竜族キック!」

「のぉぉぉ何事ぉぉぉ!?」

 

 だいすき倶楽部のアジトに到着したと同時、クラウディアは玄関扉にヤクザキックをぶちかました。

 アジト内はラリス風の談話室になっていて、そこにいた倶楽部会員はティータイムの真っ最中だった。全員女子である。

 

「クラウディアお姉さま一体何ですのぉお!? くくく草薙の方々ぁ!」

「クラウディアお姉さま! 草薙の方にこの倶楽部の事は話さないという掟をお忘れですの?」

「先に掟を破ったのはそちらでしょう!」

 

 バシーンと、ティータイム中の卓上に件の本をメンコのように叩きつける。騒然としていた会員達の視線は、自然とお出しされた本に集まった。

 

「こ、これはドーミャック先生とムラシコ・エリザベス先生の作品!? 何故それが此処に?」

「おかしいですわ! 共有本棚にしまってあるはずですわ! わたくし昨夜読ませていただきましたもの!」

「相変わらずムラシコ先生の描く鎖骨は最高ですわ♡」

「うるせぇですわ! この本の著者! いやドーミャックお姉さま! 出てこいやですわぁ!」

 

 ざわつく倶楽部会員を無視し、クラウディアが彼女なりにドスを利かせた声で叫んだ。

 すると、奥の扉が開かれて、一人の女が現れた。

 

「何よ、私は今新作商品の制作に忙しいのだけれど……」

 

 長い黒髪に紅い瞳。そして、あまりにもムッッッチリした尻、その優美なシルエットは、間違いなくヤツさ。

 

「……ノエミさんっすよね?」

「ノエミの姐御じゃ」

「ノエミさんですねぇ」

 

 ノエミである。

 肩を怒らせているクラウディアとその背後の草薙メンバーを見て取って、どてら&ハチマキ装備のノエミは優雅にファサッと髪をかき上げてみせた。

 

「ごきげんよう。もしかして皆も入会に来たのかしら。でも残念、この倶楽部は男子禁制なのよ」

「それどころではありませんわ! ちょ~っとよろしくてドーミャックお姉さま? いいえノエミさん!」

「それどころって。私なにか悪い事した?」

「普通に問題アリな上に同盟破滅一歩手前の緊急事態ですわー!」

「なんですって?」

 

 頭上にハテナマークを浮かべるノエミに、加湿器のように蜜の蒸気を噴出するクラウディアが相対する。

 本の中身は置いておいて、もうそれ以前にダメなのである。その理由を分かっていないのはこの場ではノエミだけだった。

 

「あぁこの作品? 私が何を書こうが私の勝手でしょう? 表現の自由よ」

「限度がありますわ! そもそも掟に反していますの!」

「別に倶楽部の掟には反していないわよ。倶楽部のマークは付けていないし、作中に盟主様の名前も出していないわ」

「いいえ、もっと根本的に法を犯していましてよ!」

「法?」

 

 キョトンとするノエミの前、クラウディアは表紙の一部分を指差した。

 そこには、でかでかと違法の証拠が描かれていたのである。

 

「草薙の剣の同盟紋! これ勝手に使っちゃダメなんですのよ!」

 

 突き立つ直剣に月桂冠。

 それは、草薙の剣の同盟紋であった。

 肖像権はなくとも、同盟紋の管理はしっかりされている冒険者界隈。無許可の同盟紋使用は普通に犯罪であった。

 

「え? ダメなの? 私、草薙傘下の天群雲所属なんだけど」

「イシグロ様の許可は取りましたの?」

「必要なの? 私、天群雲の副盟主よ?」

「要るでしょう! 常識的に考えて! はい違法確定現行犯! 余罪ないかチェックしますわ! 突撃ぃ!」

「ちょっ! 待ちなさい次回作はまだ書きかけで……!」

 

 クラウディアの号令で、草薙だいすき倶楽部の強制家宅捜索が始まった。

 したらノエミの創作スペースから出るわ出るわ違法な証拠。書きかけの作品はともかく、その他の草薙グッズにはがっつり同盟紋が使われていた。イエローカードどころかレッドカードでTCGできるレベルである。

 

「ノエミお姉さま……」

「ドン引きですわ……」

「いかんでしょですわ……」

 

 ややもあり、現行犯ノエミは草薙&会員達の前で正座させられる事となった。彼女の後ろには大量の証拠品。

 同盟紋の使用については倶楽部会員達も知らなかったようで、ノエミを見下ろす目は絶対零度の如く冷たかった。この業界、掟を破った者が一人でもいれば容易く撲滅させられちゃうのだ。故にこそ血の掟がある訳で。

 

「とにかく盟主様に見つかる前に没収ですわ! しゃあっ、ネクター・スプラァアアアッシュ!」

「いやぁあああああ! 止めてぇえええええ!」

 

 集めた違法グッズに必殺技をぶちかまそうとしたクラウディアの前に、半泣きのノエミが割って入る。その光景は、さながら傷ついた親虎が子虎を守っているかのよう。

 

「許してぇ! もう外に出さないわ! 同盟紋も使わないから! 個人で楽しむだけにするから処分だけは止めてぇえええ!」

 

 ラリス噴水のように涙を流すノエミ。

 普段クール美少女で通っているノエミの号泣っぷりに、ヒートしてた草薙男子勢も一気に冷静になってきた。

 半吸血人美少女の嗚咽が響く中、角のない鹿人美少年が代表して口を開く。

 

「そもそも、何でこんな事したんですか? 創作活動をしたいだけなのか、草薙の名を広めたいのか、ノエミさんの目的がよく分かりません。まさかお金儲けって訳じゃないでしょう?」

「うぅ、それは……」

 

 対し、ノエミは喉を詰まらせ、俯き、やがて再度ブワッと涙を噴出した。

 

「草薙印の商品が欲しかったのぉおおお!」

 

 魂の叫びだった。

 静まり返る草薙御一行。草薙印の商品が欲しいとは、いったい何がどうしてこうなった?

 他方、倶楽部会員はこの主張に心を打たれたようで、彼女達もノエミ同様に涙を流し始めた。

 

「そ、そうなんですのよ! 他の同盟は色々手広くやっているのに、草薙の剣は何も出していませんの! 公式商品欲しいですわ!」

「いくら良いモノでも全部パチモンなんですわ! 買っても買ってもグーラ様の食費にはなりませんの!」

「パチモンのイシグロ様はハンサム過ぎて解釈違いなんですわー!」

 

 涙を流す倶楽部会員は、一人また一人とノエミに寄り添い始めた。掟破りは良くないけど、犯行動機には同情&共感できるよと。

 いや共感できねぇし意味不明だしなんだよこの光景……と、男子達は宇宙猫になっていた。

 

「クラウディア! 貴方だってそうでしょう? 前もイシグロ様の等身大立像が欲しいですわ~って言ってたじゃない! 本物が欲しいっていう私の気持ち、わかるでしょう?」

「うぐ、全く分からなくもないですわ……」

「分からなくもないのか……」

「わ、わたくしだってこんな事したくありませんわ! でも蜜竜クラウディアは誇り高き花竜一族! 法を犯した者に容赦はできませんの!」

 

 ノエミの説得(?)に一瞬心を揺さぶられたクラウディアだったが、すぐに気を取り直した。

 男勢はもうどうすればいいか分からなくなってきた。あまりにも気まずい。なんだか男子が一方的に女子をいじめているみたいじゃないか。

 そうやってグダグダとした時間が流れ……。

 

「おいおい、こりゃあ一体どうなってんだ」

「あっ! ノエちゃん泣いてんじゃ~ん! 泣~かせた泣~かせた! 盟主様に言ってやろ~!」

「ヘルガ! ルル! 貴女達、どうしてここに!」

 

 そこに、天群雲盟主・ヘルガともう一人の副盟主・ルルが現れた。

 イシグロ家に次ぐリーダーの出現に、一同は騎士を前にした平民のように背筋を正した。

 

「街ブラついてたらカゲロウと会ってな。で、これどういう状況?」

「それが……」

 

 そうして、ノエミは現在に至るまでの経緯を話していった。

 ちょくちょくクラウディアが補足を入れ、男子勢からも話をする。その全てを、ヘルガはラリス裁判官のような表情で聞いていた。

 

「……あぁ~、あーしにはよく分かんねぇんだが、ノエミは盟主様に断り入れずに勝手に草薙の名を使って商売したんだな?」

「うっ、はい……」

「理由は三つ。草薙の同盟紋が入った商品が欲しかったから。同盟に金を入れたかったから。あと性癖を発散したかったから」

「はい。間違いありません……」

「バカじゃねぇの?」

「バカでした。申し訳ございませんでした」

「あーしに謝られてもなぁ……」

 

 頭をガシガシするヘルガの前、ノエミはリンジュ式土下座姿勢で反省の意を示した。

 気まずい沈黙が落ちる。共感こそできないが、今のノエミの落ち込みようは異常だった。これ以上詰めるのは憚られる。

 

「んぁ~」

 

 そんな中、ヘルガは腕組み姿勢で熟考の構え。

 ぽく、ぽく、ぽく……チ-ン! そして、ヘルガは何か閃いたような顔になった。

 

「要するに、草薙の剣が出すモンが欲しいんだよな?」

「え、ええ……それはそうだけど」

「なら、頼んでみりゃいいじゃねぇか。盟主様によ」

「頼むって、なにを?」

「だから、草薙の剣の公式グッズだよ」

 

 その時、ファンクラブ会員に電流走る。

 その手があったかという驚愕と、この人天才かという尊敬である。

 

「ヘルガ……お姉さま! いえ、お姉さまを超えたお母さま!」

「ヘルガお母さま流石ですわ!」

「イシグロ様相手にそれ言っちゃうのメッサ豪胆ですわヘルガお母さま!」

「あぁもう! そのノリやめろ! あとノエミ!」

「はい!」

「素直に謝れるよな? イシグロさんにさ」

「……はい」

「きゃはは♪ 大丈夫だって~♪ 盟主様、こんな事じゃ怒らないから♪ も~、みんなビビリ過ぎ~♪」

 

 そういう事になった。

 そういう事になったので、その場の男女は皆してゾロゾロとイシグロのいる借家に向かって行った。

 報告、連絡、相談の為である。あと謝罪。

 

「はあ。草薙のグッズを……?」

「ですの! どうか、伏してお願い申し上げますわー!」

「本物が欲しいんですの!」

「お布施したいんですの!」

「グーラ様の食費の足しにしてほしいんですの!」

 

 案の定、イシグロはノエミによる性転換本についても同盟紋無断使用についても怒る事はなかった。それより困惑のが大きかったようである。

 

「草薙発の生産品といやぁリント・ソースがあるじゃあねぇか。あとヨーヨー」

「それとこれとは別ですわ。あとヨーヨーはまだリンジュに来てないですわ!」

「とは言いますけど、他の同盟はどんな商品を出しているんでしょうか? 生憎ボクはそういうのに疎いので」

「確か、止まり木協会は子供達の作った物が同盟紋付きで売られてるらしいのじゃ。あと荒野の牙は何もやってないのじゃ。ただ勝手に紋使った奴はフルボッコにされるって噂じゃのぅ」

「ブランドイメージっちゅーもんあるからなぁ。それで言うと、この本はちょ~っとアカンかったね」

「申し訳ございません! 赦してください何でもしますから!」

「ん? 今なんでもするって言ったッスか?」

「や、エッチなのはダメ」

「何でもする=エッチな事っていう思考回路がスケベですよレノさん」

 

 その後、ノエミを含めた倶楽部会員達は推しに合えた嬉しさとグッズ展開のワクワクでわちゃわちゃし始めた。

 アレが欲しいとかコレが欲しいとか。どれも欲望丸出しで、コストとか諸々の関係で実現不可能な案ばかりだった。

 

「まぁグッズについてはこっちで考えとくよ。あと、同人活動は同盟紋使わなかったら自由にしていいから」

「ごめんなさい&ありがとうですわ!」

「あ、今度ノエミの作品読ませてもらっていい? 普通に内容気になるんだよね」

「ぎゃああああ! 恥ずかしいけど何でもしますって言ったから断れないぃいいい!」

 

 ともかく、その場は解散となり、候補生&倶楽部会員達は去っていった。

 そのようにして、草薙のグッズ展開計画が始まったのである。

 

 

 

 草薙公式グッズ展開プロジェクト。

 まず始めに取り掛かったのは、開発部の結成である。といっても結局イシグロ家は全員参加する事となったのだが。

 市場調査は倶楽部会員のお陰で完了しているし、あとはコスト問題である。これで金儲けしようとは思っていないイシグロだったが、下手な物を出してファンもとい顔見知りのノエミ達をガッカリさせたくはなかった。

 イシグロが異世界に来る前、好きな作品から「それは無いわ」というグッズが出た時のガッカリ感たるや筆舌に尽くし難い。意外にもリーダーはやる気だった。

 

「人気の画家を呼んで肖像画を描いてもらうなんてどうかしら? 誇張されていない黎明の英雄を見せるのよ」

「皆さんが欲しがっているのは金持ち用の凄い絵じゃなくて、もっと安くて家に置けるやつだと思うんですよね。既存の商品真似したものに同盟紋付けて終わりが安パイでしょう」

「オーディションの時に売ってた草薙団子あんだろ。アレまた出せばよくねぇか?」

「ん、多分あれはお祭だったから売れただけ。あと中身普通のお団子だし草薙感がない」

「草薙感って何ニャ? いや何となく分かるけど」

「ご主人様ご主人様、自伝など如何でしょうか! ボク代わりに書きますよ!」

「自伝かぁ。俺のじゃなくて草薙全体のだったら、まぁ……」

「もぉ~皆わかってないッスねぇ~。いースか? あいつ等が欲しいのはもっと脳に直で来るモンなんス! つまりシコリティの高い絵ッスよ!」

「ん、しこりてぃ……ってなに?」

「アタイが知る訳ねぇだろ……」

「まぁでも絵はアリやろな。画家に描いてもらうやつやのうて、活版印刷で大量生産できる感じの。元々リンジュそーゆー技術あったやろ?」

「瓦版の事かのぅ?」

「割と職人芸なところあるよね~、ああいうの。職人さんに依頼して作ってもらおうよ~」

「印刷で大量生産の絵か。でもちょっとインパクトに欠けるなぁ……」

 

 なのだが、開発部会議は一歩進んで二歩下がるを繰り返していた。

 普通に出すなら今売られている商品を真似すればいいだけなのだが、イシグロ的にもうひと捻り欲しい感じがあったのだ。

 皆が欲しがっている物で、そんなに高くなくて、大量生産できるもの。何かないかと、イシグロは前世で嬉しかった推し活グッズを思い浮かべた。

 

「と、ここでパイモ画伯が登場ってね! そう、何を隠そうノエミくんと組んでたムラシコ・エリザベスとはぼくの事だったのさ!」

「チンイラ・ゴンザレス先生もといパイモ先生! 絵柄に見覚えあると思ったらやっぱ先生だったんスか!」

「如何にも。いやぁノエミ君とは酒場でばったり会って意気投合してね。吸血鬼族の吸血には前々から特有のサキュバシズム的な魅力と可能性を感じていてねぇ」

 

 するとそこに、淫魔芸術家パイモが参戦。ノエミの作品のイラストを担当していたのは彼女だったのだ。

 開発部に発明家パイモが加わり、そんで開発部会議は進み、そうして出来上がったのが……。

 

「アクリルじゃないけどアクスタだこれ!」

「おぉ~! ご主人ご主人、小さくて可愛いッスね~!」

「特徴は捉えているし、悪くないんじゃない?」

「立像はコストがかかる。精緻な絵は量産できない。けど台座に板を立たせるこのアクスタなら、像と絵の中間として良い感じになるって寸法さ」

 

 アクリルスタンドである。

 厳密には木材で作ったなんちゃってアクスタだ。絵が印刷された板を台座のスリットに差し込むと絵が立ち上がる構造である。

 プロトタイプとして造られたのはルクスリリアとエリーゼのアクスタだった。コストの関係で絵の色彩は白黒なれど、天才芸術家パイモの技術で存在感と躍動感のある良い商品に仕上がった。

 

「ルクスリリアとエリーゼのアクスタはともかく、俺のアクスタなんか要るかぁ?」

「要るわ」

「要るのじゃ」

「要りますニャ~」

 

 プロトタイプに続き、顧客が欲しがっているイシグロアクスタも作られた。

 しかも、無銘を持った迷宮狂いバージョンと黎明剣を持った草薙バージョンの二種展開である。

 反応を見るべく、それ等を倶楽部会員+αに見せてみたところ……。

 

「ほわぁああああ~!」

「くぅぅぅぅコレコレ! こういうのが欲しかったんですの!」

「これさえあれば何時でも儀式ができますわぁ!」

 

 大好評だった。

 特に、一人のキャラに異なるバージョンがあるのがファン心理を突いていると好評だった。追加としてスーツ姿のイシグロも作られる流れに。

 この段になると、草薙の手だけでは捌けないとなって花竜一族にも強力してもらう事となった。主に売り子とかそこらへん。

 

「イシグロ完売しましたー!」

「マジか……」

 

 早速発売した結果、普通に黒だった。

 ハリウッド・イシグロに慣れたライトユーザーはともかく、ヘビィユーザーからは大好評の大人気。草薙アクスタを求めて早朝から列ができ、追加生産が追い付かないくらい売れまくった。

 三種のイシグロに加え、ルクスリリア達草薙の剣アクスタはカムイバラで今一番熱いグッズになっていた。知名度の関係か、クニュフだけ売れ残って悲しい想いをする盟主だった。

 

「え? あーしもっすか? まぁいいっすけど、誰が買うんだよって感じっすね」

「きゃは♪ ルルのアクスタが最高売り上げ叩き出しちゃうかも♪」

「エリーゼ様達の別衣装も欲しいわ……♡」

 

 第二段として、天群雲アクスタも販売された

 女性しか買わなかった第一弾と異なり、こちらは男性人気も高くて前回より売れに売れた。

 なお、一番人気は森人八尺様ことメアリーのアクスタだった。本人は誇らしいやら恥ずかしいやらといった風に赤面していた。二位はカゲロウで、三位がルルである。トゥイ・アクスタは諸事情により販売されなかった。

 

「ひゃっはー! これであと百年は戦えますわー!」

 

 公式グッズが世に出た事により、かつて闇に紛れていた草薙だいすき倶楽部のアジトはキラキラした公式の輝きを放つようになっていた。

 これには倶楽部会員もニッコニコで、一時はどうなるかと思っていたが災い転じて福となすといったところ。

 

「ところで、クラウディアお姉さまのアクスタはいつ出るんですの?」

「わたくしが公式に混ざるのは解釈違いですわ!」

「そ、そうですのね。でも私はお姉さまあっての草薙の門だと解釈していますわ……」

「けどお祖父様に言われて今度出す事になっちゃいましたわー!」

「「「やったーですわー!」」」

 

 そんなこんな……。

 念願の草薙公式グッズが売られるようになり、盟主直々に二次創作を許され、草薙だいすき倶楽部は今日も今日とて推し活をエンジョイしていた。

 騒動にもならない草薙紋騒動は、こうして幕を閉じたのである。

 

「うひひひひ♡ あぁリキタカ君は今日も可愛いなぁ♡ いつまでも見てられるぞ♡ ほわぁ尊い♡」

 

 なお、草薙グッズの噂を聞きつけたとある大同盟の盟主――王都中央区在住の上森人女――は、早々にイシグロ・アクスタをフルコンプして部屋に飾って妄想の世界にダイブしていた。

 だらしない顔でアクスタを眺める彼女の後ろでは、付き人エルフがやれやれと肩をすくめていた。

 

 さらなる余談だが、この日以降アクスタは異世界全体で大流行し、アリエルやグレイソンなど多くの人気冒険者がアクスタ化する事になるのだが……。

 それはまた、別のお話。




 しゃあっ、更新!
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◆カムイバラ組の候補生◆

・クラウディア
 蜜竜。魔力を蜜に変換し、操る竜族権能と、竜族特性を弱体化させる血の異能を持っている。
 生まれて百年弱、竜族権能はおろか翼などを発現できないまま暮らしてきた。けれども祖父や一族の愛情により、健やかな精神を醸成するに至る。クラスの男女みんなに好かれる善なる陽キャタイプ。
 草薙だいすき倶楽部の一桁番会員。エリーゼ推し。

・三つ子の女天狗
 陰陽術師。三人の間で術式と氣および魔力を循環させる異能を持つ。
 いつの間にかクラウディアの取り巻きABCになっていた女天狗。
 草薙だいすき倶楽部の新入り。全員百合豚。

・モテたい思春期男子
 槍使い。人間族。槍による攻撃を任意の物理属性に変更する異能。(刺突攻撃を打撃属性にしたり、斬撃攻撃を刺突属性にしたり)
 船大工一家の三男。家業の手伝いがダルく、運動がほどほどに好きで、興味ないジャンルの勉強が嫌い。
 迷宮の狂気により、三大欲求がまんべんなく増大中。瘴気耐性体質のお陰で暴走の予兆はない。

・関西弁の少年
 クーシェン組。豹族で糸目の男子。
 体内で氣を練る事ができず、体外での氣操作が極めて得意な体質。発勁によるライトセーバー使い。発勁ゲロビマスター。人間ウイングゼロ。
 実家がめちゃくちゃ貧乏だった経験もあり、金銭欲が増大中。稼いだ金の殆どは実家に仕送りしている。

・広島弁の犬人
 カムイバラ組。土佐犬っぽい犬人。
 未来勢。極道の下っ端からなし崩し的に組を継ぎ、終末世界の大侠客としてヘイブンを支配していた。
 刺突攻撃での会心時に限り、状態異常耐性を下げる異能を持つ。未来では短ドスを使っていたが、現在は通常の打刀(凍結・感電など足止めドカ盛り)と脇差(毒ハッピーセット)を使っている。
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