【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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炉り重なる剣(上)

 異世界で、俺のアクスタが売れている。

 つっても俺の見てくれをそのままアクスタ化しているのではなくて、パイモさんに描いてもらった俺のイラストがアクスタ化されている感じだ。

 写真だったら恥ずかしかっただろうが、絵なら全然恥ずかしくない。むしろパイモさんの彫刻技術とカムイバラの印刷技術に感心していたくらいだ。墨を使った白黒アクスタなのにめちゃくちゃ綺麗だったもんよ。

 

 そんな訳で販売された草薙アクスタは、先述の通り売れに売れた。

 死狂い的流れ星構えのイリハに、EW版ゼロみたいなポーズを取るレノ。パイモさんによって描かれた皆のアクスタは存在感と躍動感に満ち満ちて、草薙ファン以外にも芸術クラスタの注目も集めたそうである。

 

「う~ん……ルル君はアレだね、変に媚びたポーズやカッコいいポーズよりも自然体のままが良さげだね」

「それってもしかして……ルルがキュート過ぎるってこと?」

「まぁ間違ってはいないねぇ」

 

 売れ過ぎて我が一党の思考回路がショートしかけていた中、パイモさんの提案で天群雲の皆のアクスタも制作する流れとなり、これまためちゃんこ売れた。何なら第一弾より売れていた。

 冒険者らしい恰好でアクスタ化していた草薙の剣と異なり、天群雲は全員制服姿だった。だからこそ武器やポーズや種族的特徴で差異を出し、そこに制服の統一感で〆るというパイモ先生の業前が光って唸る。

 そのまま第三弾、第四弾と出しまくり刷りまくり。気づけば他の同盟も人気冒険者のアクスタを販売していたようだったが、パイモ・クオリティを超えるアクスタはついぞ現れる事はなかった。

 

「イシグロ完売しましたーっ!」

「こいついつも完売してんな」

「期間限定草薙団子! これも紋付き商品だよ! ご一緒に草薙ブレンドの抹茶はいかがですかー?」

 

 刀バージョンの俺のアクスタが出て、草薙制服姿の皆のアクスタが出て。

 特攻服ヘルガのアクスタが出て、浴衣姿のルルのアクスタが出て、魔法少女衣装のノエミ・アクスタが出たりして。

 そうして商売に夢中になって、ハッと気付いた頃には……。

 

「いやっほぉおおおう! 金! 金! 金ぇッス! 一生遊んで暮らせるッスー!」

「くふふふふふ、まさかダーリンの身体がこんなお金になるなんてな!」

「もう働く必要とかなくないですか? ないですよね? アクスタ屋になりましょうよ!」

 

 ちょっと信じられないくらい儲かった。

 アクスタの原材料費は低く抑え、その上で可能な限り安く販売した。職人さん等関係者への支払いやパイモさんの技術料に加え、カムイバラに納税したりギルドに手数料を支払ったりもした。にもかかわらず、俺の懐は異常なくらい膨らみまくったのだ。

 どれくらい儲かったかっていうと、これまで草薙の門に投資してた分が黒字になったくらい。元々金銭で回収しようとは思ってなかったのだが。カムイバラの段階でコレなので、ラリスで売ったらどうなるんだというところ。

 小市民の俺からすると、テキトーに始めた商売で超絶利益を上げてしまってちょっと恐怖を感じている。ハクスラの稼ぎはほら、如何にもファンタジーって感じで現実感ないし。

 それで困ったのが使い道である。金は天下の回り物。迷宮稼業で得た金は迷宮用武装に、テキトーに儲けた金はテキトーに使いたい気持ち。この感覚っておかしいのかな。

 

「パイモ先生、大喜びでしたね。これで新しいアトリエを建てられるぞって」

「いやでも、なんだろうな。イマイチ納得できない俺がいる。ただ絵のモデルになっただけでこんな儲けるのは申し訳ないというか……」

「あこぎな商売って訳じゃないんじゃし、別にええんでないかのぅ」

「まぁ群雲の子等の分は天群雲に渡しとけばいいんじゃないかニャ? カゲロウ君が几帳面に帳簿付けてくれてるし、あっちはあっちで適切に運用してくれるでしょ」

「ん、迷宮稼業は何があってもおかしくない。保険の貯金はしておくべき」

「それでも余るんだよなぁ」

「止まり木への寄付は止められてますし、フライシュ領の学校計画はリント・ソースの利益でまかなえてますもんね」

 

 ちなみに、俺名義の慈善団体“草薙の救護団”から止まり木協会への寄付については、流石にもう充分過ぎると言われて少額寄付に収まっている。

 止まり木盟主のアリエルさんは、自身がコントロールでき得る範囲で孤児院を運営していく方針だ。金だけ渡してガンガン拡大してってねとはならないのである。いずれはもう少しデカくしていく予定らしいが。

 で、余った分は学校新設の為に積み立て中。これにはフライシュ公爵と協力して事にあたっているので、長い目で見て進めていく予定だ。

 

「冒険者らしく武具にお金を使いましょう。必要はなくても予備で持っておくのも大事でしょう?」

「予備はあるから作るとしても予備の予備なんだよなぁ」

 

 屍王との決戦に備えた武装については、別途考えてある。直近、エリーゼのビット杖が八個に増量されたところだ。

 俺の武器は正直もういいかなって気持ちがなくはない。単発火力重視の打撃武器が欲しいでもないが、パンチキックで事足りてるんだよなぁ。あぁでも王家保有の深域武装ならすっごく欲しい。今度、深域武装オークションとかいうのに行ってみるかぁ。

 

「ウチ的には技研への投資が有難いかな~って。今はそのへんフラフラしとるけど、ミルヒク市に住むんやったら良い感じの工房ほしいし。夢が広がりますなぁ、くふふ~」

「安心しな亭主殿。ルーンもそうだが、ガチで研究開発やろうってんなら金なんていくらあっても足りねぇぜ」

「結局、お金の使い道に困るなんて事は無かった訳ですねぇ」

「まぁでも、それもこれも屍王倒してからだよな……」

「そうだね。けど、あいつ何時何処で現れるか分からないからニャ~。こっちだと出てこない可能性あるし、備えるのはいいけど警戒し過ぎるだけの人生は勿体ないんじゃないかな?」

「どのみち災厄は来るじゃない。他人任せにせず、戦いましょう」

「にゃはは~、エリーゼちゃんは相変わらずだニャ~」

 

 屍王については、未だによく分かっていない。何なら本当に現れるかどうかも分からないのが現状だ。

 しかし、災厄はほぼほぼ確定で出現するらしいのでソレへの対策はせねばという話。屍王=災厄かもしれないのだ。国に任せられるところは任せるとして、自分の身は自分で守らねば。守勢に回った結果がクソ未来な訳だしね。

 たとえ明日世界が滅びるとしても、今日もリンゴの木を植えましょう。

 と、いう訳で……。

 

「やっぱり俺はこっち派だぜぇえええ! 労働イズ冒険! 冒険イズ労働! イェア!」

「空のを焼くわ、退避なさい。発射!」

「楽しそうですね、エリーゼもご主人様も」

「主様って初めからあんな感じじゃったんかのぅ?」

「ん~、昔は遊び十割だったから寧ろマシになってる? かもッス」

「ん、何であれ気晴らしは重要」

 

 素晴らしい明日を掴む為、今の俺はハクスラをやる事にした。

 弟子育成にかまけてばかりではいられない。自分も強くならなくちゃ。そのついでにカムイバラの最上位迷宮を潜ったゾ。深域武装覚醒分の星髄石欲しいからね。

 

「はい拘束からの鎌スラッシュ! いやぁ二刀流になって戦いの幅が広がったッス!」

「よう二刀流なんて器用な事できるのぅ。わしなんか刀一本でキツいのじゃ」

「陰陽術もたいがいだと思うッスけどね」

 

 ちなみに、最近のルクスリリアとイリハは全然レベル上がってなかったりする。

 戦闘での役割や神獣ラザニアの関係でそもそも経験値が入りづらいルクスリリアはともかく、状況次第で広範囲アタッカーやってるイリハのレベル上げが低調なのは少し変だ。つまるところ、そろそろレベルカンスト&ボーナス異能ゲットのチャンスに違いない。彼女等がどんな異能を購入できるか、今から楽しみである。

 

「神回避! 会心! もっと来いオラァ!」

 

 一方、俺は俺で未だにレベルキャップの予兆がない。

 昔に比べればジョブ関係なしにレベルが上がりにくくなってるような気もするが、それだけである。

 

「はいお疲れ~。今日もいい冒険だったぜ」

「おや、レアドロップみたいですよ。魔龍のお髭です」

「こんなのを何に使うのかしらね……」

 

 商売で金を稼ぎ、迷宮で経験値を稼ぎ、より良い未来の為に弟子と世界に投資する。

 全ては、皆とのイチャラブハッピー生活の為。クソ未来では一度失敗しているのだ。備え過ぎるに越した事はないはずである。

 けれども修羅にならぬよう気を付けて。小さな幸せを見逃さぬよう健やかに。

 

 

 

 で、そんなある日の事である。

 事件が起こった。

 

「なんじゃこりゃあ!?」

 

 休日の夜である。衛宮邸での入浴後、畳の部屋でゴロゴロしながらコンソールを眺めていたところ、驚くべき情報が目に入った。

 急な大声に皆の注目が集まる。読書中だったグーラも訝しげにこっちを見ていた。

 

「一体何がどしたんでぇ」

「新しいジョブが生えてたんだよ」

「はあ。そッスか」

「しかも二つ名ジョブ!」

「「「ほえ~」」」

「反応薄っ。まぁ俺にしか見えてないからな……」

 

 皆のジョブに、仮称・二つ名ジョブが生えてきたのだ。

 二つ名ジョブとは、最上位職の中でも一部高位冒険者しか持っていない強力なジョブである。ニーナさんの二つ名は“風舞”で、確認させてもらったジョブも風舞だった。その性能は汎用最上位職より遥かに強く、ジョブ保有者に最適化されている。それが皆にも生えてきたのだ。

 例えば、ルクスリリアの“愛鎌”。エリーゼの“月蝕光祈”。グーラの“炎雷”。イリハの“桜霞”。レノの“射貫く天眼”。すべて彼女等に付けられた二つ名と件の新規ジョブ名である。他方、シャロやユゥリンに二つ名ジョブは生えていなかった。

 

「あれ? でも、パパ今日迷宮行ってなかったよね? レベルアップしてなくない?」

「だから驚いてるのさ」

 

 一部例外を除き、新しいジョブはレベルアップと共に生えてくるのが基本だ。

 しかし、今回は一部例外枠である。何故そう言えるかというと、今日は誰もレベルアップしてないし、鍛錬も最低限だったし、何より今朝確認した時には存在しなかったからだ。

 勘案するに、朝から現在の間に何かしら条件を満たしたのだと思われる。この理由について、また皆に二つ名ジョブが生えた理由についてはある程度の見当がついていた。

 

「な~る。前々から推測しとった通り、二つ名ジョブは知名度が鍵になってそうやな。まぁダーリンより知名度の低い銀細工が先に二つ名ジョブやったあたり知名度だけって訳ではなさそうやけど」

「ん……もしかしてアクスタで知名度上がったから?」

 

 要するに、皆の知名度が上がったお陰で生えてきたんじゃないのという話。

 この世界には、アーカイオンなる魔法の図書館があるらしい。これは理論の確立と人の認識によって随時アップデートされているそうだ。例えば、クニュフの独自技術だった実弾魔法が彼女の魂統合を機に新規アーカイオンとして登録され、俺達にも使えるようになったみたいに。

 それと同じで、ジョブにもアーカイオン的な仕様があり、二つ名ジョブ・アーカイオンが存在するのではというのがヘカテの推測だ。実際、実弾魔法の実装と同時に実弾魔法特化のジョブ生えてきたしな。

 

「で、アタシの愛鎌ちゃんはどんなジョブなんスか? 強いッスか?」

「今見てみる。う~ん、まぁ殆ど上位互換だな。固有スキルあるし。あ~でもバフ消えてるの寂しいな~」

 

 とにかく、使えるならば使うべき。早速ルクスリリアに生えてきた二つ名ジョブである“愛鎌”を見てみたところ、“淫魔妖妃”の上位互換のようだった。

 既存ジョブとの違いを言うなら、使用可能武器が鎌オンリーになっているところだ。これに切り替えると護身用に持っていた短剣を使えなくなる。あと、強力なバフ技が移動系固有スキルに切り替わっていた。

 ルクスリリアもそうだったが、他の面々の二つ名ジョブも各々に最適化された性能をしていた。

 

「ドラゴンルーラー、変えるべきかしら。【竜の裁定】は強いけれど、迷宮だと使い道がないのよね」

「多人数対人戦でしか使えない死に技抱えるのバカらしくないですか? そのへんどうなんです?」

「エリーゼのジョブは……あぁ【竜の裁定】は使えなくなってるな。カタログスペックだと“月蝕光祈”が圧倒してるし、やっぱりエリーゼに最適化されてるな……」

「てゆーか肝腎の亭主殿のジョブはどーなってんでぇ?」

「あ、そうだな。一応見てみよう。“迷宮狂い”消えてませんように……」

 

 不本意ながら、“迷宮狂い”なる最上位職が俺の二つ名ジョブなんだよね。仮に新しいの生えてたとして、消えてたら嫌だなって。

 俺のジョブはいっぱいあるからスクロールするだけで面倒だ。絞り込み機能とかほしいな~っと、あったあった新規ジョブ。案の定、二つ名だ。

 

「“黎明”だな。う~ん、なんか剣特化ジョブっぽい?」

「アクスタのダーリンが剣持っとったから剣特化ジョブになったんかなぁ?」

「ボクのジョブの場合、短剣も使えるあたり認知に引っ張られるばかりではないのでしょうが」

 

 どうやら、迷宮狂いや武装優位者と違い、黎明は剣特化ジョブのようだった。あと一応格闘にも補正が入るっぽい。

 一方、迷宮狂いには存在した杖の補正はなくなっていた。けれども魔法の発動自体は可能らしい。要するに、剣一本で戦えって構成なんだな。

 興味深いのが、黎明でも【煉獄送り】が使えるところだ。黎明は迷宮狂いから派生したジョブらしい。剣士に対するソドマス的な? 二つ名ジョブにもそういうのあるんだ。

 

「で、黎明ちゃんは他に何ができるかなっと……」

 

 最上位職には、そのジョブに就いている時しか使用できない固有スキルなるモノが存在したりしなかったりする。先述の【煉獄送り】がこれに該当する。

 その固有スキルちゃんが黎明にもあったらいいんだけども……。

 

「え~っと、固有スキルは……【涅槃巡り】?」

「ねはん……変な響きッスね」

「涅槃とは何でしょう?」

 

 煉獄の次は涅槃と来た。煩悩塗れの俺氏、悟りとか開いちゃうんだろうか。

 それはともかく、【涅槃巡り】の効果は? 彼氏は? 年収は? 調べてみました。

 

「おぉ、こっちは広範囲攻撃もできるのか。でも魂を斬るって何だよ……」

 

 気になる【涅槃巡り】の効果は、悟ってそうな名称とは裏腹にバリバリ最強攻撃技だった。

 なんか黎明の光で魂を斬るとか何とか……まぁそうよく分かんなかったです。相変わらず要領を得ない説明によると、俺の心を燃やして放つ技らしい。

 なんとなく、煉獄が単体技で涅槃が全体技って印象。黎明バージョンの俺はイベント周回に向いた性能をしているようだ。

 

「よし、明日から色々調べてみようか」

「検証やな? ごっつ楽しみやわ」

 

 という訳で、翌日から二つ名ジョブについて色々検証してみる事に。

 そんで翌日、一日かけてなるだけ検証。

 結論、やっぱり二つ名ジョブは強かった。

 

 

 

 

 

 

 妖紙(あやかし)迷宮。

 タイプは屋外スタートの複合型で、なんとなくポストアポカリプス江戸って感じの上位迷宮である。

 出現エネミーはボスザコ含めて全員紙で出来た何かしら。ご多分に漏れず弱点属性は火と水だ。また、この紙モンスは廃江戸でペーパー生活をしているらしく、観察していると箱庭ゲーNPCのような挙動をしているのが見て取れる。

 マジで箱庭ゲーで街にいるNPCくらい数がいるのだ。多くは戦闘力の低いクソザコペーパーだが、そいつらに見つかると戦闘力の高い紙兵を呼ばれたりするのが特徴的だ。

 王道の攻略法としては一党単位の隠密行動でボスを暗殺する方針らしいが……。

 

「暴いてやる! はい先制ショータイム! 行け行け行けぇ!」

「大技前の高速どーんッス!」

「派手にいくわよ……!」

 

 そんなの関係ねぇ。俺達は街のド真ん中でド派手に戦っていた。

 ボスは廃江戸城っぽいところに確定で住んでいるので、スタート地点から隠密何それ知らんのノリでガンガンいこうぜ。戦闘力のない一般通過紙NPCも容赦なく殲滅だ。

 まぁ一応この戦術にも合理的な理由があって、変にステルスで進めるとボス戦中にNPCが加勢してくる事があるので、殲滅力の高い一党ならこうして先にザコ散らしをしておいた方がいい……と俺は思う。ヘルガ達にオススメはしないけどね。

 

「じゃあ、早速一番強いの使っちゃおうかのぅ!」

 

 突撃早々、十尾のイリハが大地に太刀を突き立てた。

 彼女の背後に巨大な陰陽陣が展開される。それは瞬きの度に数を増し、回転し、重なり、収束していく。

 それは、陰陽術の究極奥義【天意流転領域】特有のエフェクトだった。けれども常のソレとは異なっていた。なんだかいつもより陰陽陣が太く、大きく、輝いて見える。そうしてよくよく見れば気付くだろう。彼女の陰陽陣が、全て二重になっている事に。

 

「陰陽互根、五行相生……!」

 

 詠唱に呼応し、二重陰陽陣が一つに収束されていく。

 式が合わさり術と成す。氣の光が天狐の指先に集い、やがて指鉄砲の構えを取った。

 彼女の差す指の先には、人ならぬ紙の群れ。

 

「【天意流転法・灼核】!」

 

 一瞬の静寂。天地を乱す陰陽領域が、砲弾と化して解き放たれた。

 放たれた領域砲は虚空を食らうように膨張し、膨張し、膨張し……地を抉りながら只管真っすぐ飛んで行き、その輪郭に触れた魔物は一瞬にして灰になった。

 予め規定した世界法則を砲弾として打ち出すイリハ・オリジナル陰陽術、【天意流転法】。それは接触と同時に問答無用の死をもたらす防御・耐久・再生不能の文字通りの必殺技だった。

 

 また、それを成すに肝要だったのが、“桜霞”固有スキル【木霊帰り】である。

 こいつの効果は、ざっくり言うとオートで陰陽術式を反転コピーしてくれるというものだった。

 例えるなら、今までぷよっとしたゲームでチマチマ連鎖の山を積んでいたところに、2P画面が出てきて同時ぷよ積みできるようになった感じ。

 結果、【木霊帰り】を使ったイリハの陰陽術は効果据え置きで術式構築コスト半減と、コスト据え置き効果二倍を選択できるようになったのである。

 

「グーラ! 今何キロォ!?」

「何キロかは知りませんが何時でもいけます!」

 

 イリハの殲滅陰陽術に反応し、続いて紙の巨人兵がエントリーしてきた。

 対するは大剣を構える褐色黒髪ケモミミ美少女。魔力を滾らせ、ぶちぬき丸の剣身に神聖な蒼炎が宿り、雷が迸り……やがてグーラの雷は純白の輝きを放つに至った。

 白雷。それがグーラの新たなる力である。

 

「やぁあああああああああッ!」

 

 断ッ! 斬ッ! 脳天から股下へ。稲妻の如く振り下ろされた剣は焔の弧を描いて巨大紙兵を両断し、一瞬遅れた雷の炸裂によって爆発四散した。

 

「打ち返します! ふん!」

「紙相撲取り吹っ飛んだーっ!」

 

 続いて、ぶちぬき丸を構えたグーラは黒炎黒雷を纏い、迫りくる魔法弾をホームラン。凄まじいパワーと剣圧により、彼女の周囲の地面が剣の軌道に沿ってえぐり取られる。

 青い炎は不死殺し。白い雷は追加ダメージ。ブラック形態は暴走状態。彼女の二つ名ジョブの固有スキルは、【獄炎轟雷】なる種族特性強化スキルだった。

 要するに、彼女が生まれ持った種族特性を使いこなせるようになったのである。神聖炎雷が特殊効果形態だとしたら、暴走炎雷はフィジカル強化形態だ。なお、どっちも燃費がクッソ悪いので状況に応じて通常炎雷と使い分けるのが肝要である。

 

「大群来たぞ! レノ!」

「ん、了解。【ひとときの昇天(リミテッド・オブ・アセンション)】」

 

 紙の援軍はまだまだ続く。現れた紙烏帽子集団が破魔的な矢をグーラとイリハに撃ってきた。

 熾天使化したレノが前に出る。驟雨のような矢を前に、小さな熾天使は唇を震わせた。

 

「対象指定……【神愛の守り(アガフィラキア)】」

 

 次の瞬間、レノを中心に円形の結界が生成され、迫る矢の群れが殺到。しかしシールドに触れると同時、鎧を貫く紙の矢は傘に当たる雨粒のように弾かれていた。

 レノの二つ名ジョブ“射貫く天眼”、固有スキル【神愛の守り】。物理・魔法を含めた飛び道具への絶対守護である。

 二つ名パワーを手に入れたスーパーレノは無敵だ。そのうち騎士系スキルの【陽動】とか覚えてもらおう。ハイパーな無敵タイムでタンクをやってもらう為に。

 

「ターゲット、ロックオン。殲滅する」

 

 熾天使&無敵障壁形態で、光力大砲レーゼンヴィーを構えるレノ。発射、轟音。紙烏帽子集団は死んだ。

 例によって、レノは【神愛の守り】の中から一方的に攻撃できる。いいよね、こういうの。ゲームだったら脳汁出る類いの運用法だと思う。

 

「ん、大砲がオーバーヒートした。残り時間分、エリーゼにあげるね」

「あとは任せなさい」

 

 しかも他者に付与できる。テレポート逃亡するレノに代わって、【神愛の守り】を纏ったエリーゼが躍り出た。

 銀髪の竜は、既に都合八つのビット杖を展開し、左右の手には二挺の【魔導極砲】特化杖を構えていた。魔力の高まりに呼応して、形のない月光翼が広がっていく。

 狙いは、マップ西側全体。

 

滅びよ(・・・)……」

 

 音は遅れて聞こえてくる。絶対守護障壁の中から、圧倒的魔力密度の殲滅魔法が合計十発発射された。

 敵側からの迎撃魔法を吹き飛ばし、防御障壁をも障子戸の如く破壊する。力押しによる問答無用の破壊光線。扇状に放たれたソレは、一瞬にしてポストアポカリプス江戸西部を焼け野原に変えた。

 

「あぁ良いわ。私はこういう戦いがしたかったのよ。ふふふ……」

 

 多大なる魔力消費を誇る【魔導極砲】はしかし、エリーゼの底なしの魔力をほんの少ししか削らなかった。

 エリーゼはビット杖によるガトリング弾を撃ちまくり、左右の杖から交互に【魔導極砲】を乱射する。その全てが対魔力の防御障壁を侵食・破壊・貫通し、迎撃の弾幕を一方的に食い破っていた。

 

 エリーゼの二つ名ジョブ“月蝕光祈”、固有スキル【明星】。効果は単純、彼女の竜族権能――呪詛と祝福の重ね掛けである。

 呪詛と祝福は水と油の関係で、同時に使うと武器ないし魔法を壊してしまう。だが今は違う。【明星】のお陰で自分の攻撃にバフをかけ、当たった相手にデバフをかける事が可能になったのだ。

 加えて、“月蝕光祈”には固有ではない通常スキルとして、装填魔法の威力を底上げするという補助スキルが存在した。このままレベルを上げていけば、純粋に火力が上がっていくという事。う~ん、これはバカアプデ。

 

「もう一度いくわよ。ほら、消し飛べ(・・・・)……」

「もうエリーゼ一人でいいんじゃないかのぅ?」

「でもタイマンならボクが勝ちますよ。この世に弱点のない人なんていません」

「ん、だから守ってあげないといけない。ほらバリア解けた」

 

 なんてやっていると、紙鳥の群れがエリーゼ弾幕を縫って殺到してきた

 広範囲技の出番だ。ここは俺に任せてもらおうか。

 

「イシグロ、涅槃いきまーす。なんかカッコいい詠唱欲しいけど無いんだなぁこれが」

 

 宙の台座に足を着け、俺はルーンソードを大上段に構えた。そして、固有スキルを発動する。

 次の瞬間、俺の身体から蛍のような光が浮かび上がり、剣の根から切っ先にかけて凝集していった。

 それは、あの冬の雪山で見た夜明けの光。黎明の空の色。やがて剣の光は臨界を迎え、太陽のように眩く輝いた。

 俺は、それを……。

 

「【涅槃巡り】!」

 

 振り下ろし、奔流として開放した。

 黎明の輝きが紙の魔物を飲み込んでいく。直撃と同時、魂を斬ったという手応え。存在核を両断された魔物は悉く粒子に還っていった。

 

 俺の二つ名ジョブ“黎明”、固有スキル【涅槃巡り】。

 スキルの説明文を要約すると、これは魂を斬る光……らしい。剣士がビームを撃つなんて、我々の業界では常識なのでそこに驚きはなかったが、魂を斬るって具体的にどういう事なのだよ。何属性の何攻撃なんだ。

 それはともかく、今はまだ広範囲攻撃として運用せざるを得ないが、熟練度を上げて加減を覚えれば単体技としても使える感じがある。鍛えなきゃいけない項目がまた一つ。弱いって事は強くなれるって事やん。

 

「ぐっ、やっぱ反動キツいな……!」

 

 大仰なエフェクト相応に、涅槃の威力は中々だった。そして反動もそこそこあった。ざっくり全身全霊の【魂魄昇竜】を使った時くらい疲れるのだ。

 その隙を見逃さず、残る魔物が突っ込んできた。エリーゼ達は地上の魔物に専念している。万事休すか。

 

「もう、世話の焼けるご主人ッスね~」

「サンキューリリィ、もうダメかと思ったよ」

 

 んな訳ない。瞬きの後、俺は空を飛ぶルクスリリアによってクレーンゲームの商品みたいに後ろ抱きされていた。

 見れば、さっきまで俺がいた場所からかなりの距離が離れていた。転移させられたのだ。彼女のスキルで、彼女の近くに。

 

 ルクスリリアの二つ名ジョブ“愛鎌”、固有スキル【エンゲージリンク】。

 これの効果は、物理法則を無視して自分と対象の距離を縮めるというものだった。ルクスリリアが向こうに行ったり、向こうがルクスリリアの方に来させたりできる。移動に際しては、障害物のすり抜けも可能だった。

 移動距離を検証してみた結果、カムイバラ西門からカムイバラ東門まで瞬間移動できた。リリィの感覚的にもっといけるっぽいが、代わりに対象との距離が遠いと魔力消費がキツくなるようだ。戦闘中の移動手段としてはクニュフの影能力のが優秀だが、【エンゲージリンク】はルクスリリアが対象を目視してなくても使える点で優越している。

 

「イリハの援護よろしく」

「あい! そんじゃ行ってくるッス!」

 

 また、【エンゲージリンク】が距離を縮められるのはルクスリリアと俺だけではなく、エリーゼ達一党全員との距離を縮められる。俺の一党員増加スキルと組み合わせ、その気になれば王都にいるチィレンさんをカムイバラに転移させたりもできるのだ。

 ついでに神獣ラザニアも転移できるし、これによってルクスリリアは遊撃手として完成した感ある。

 

「え~っと、ボスは……天守閣にいるな。イリハ、もっかい領域弾よろしく」

「これ魔力消費エグいから疲れるんじゃけど。ぬぬぬぬぬ……【天意流転法・滅界核】!」

「やりましたか?」

「いや避けたな。エリーゼ、レノ」

「分かっているわよ。くたばれ(・・・・)……!」

「ん、いい誘導。当てるね。あれ? 外れた……」

「避けたッス!」

 

 二つ名ジョブを得た結果、皆は凄まじく強化された。

 レノはタンクができるようになったし、イリハはただでさえ強かった陰陽術が倍強くなったし、グーラは持て余してた種族特性を使いこなせるようになったし、エリーゼは竜族権能を重ね掛けできるようになったし、ルクスリリアは最高峰の遊撃手になった。

 一応、俺も俺で異世界チート転移者に相応しい超絶カッコいい必殺技を手に入れた。剣ビームは皆の憧れである。

 

「もっと近くでよくよく狙って……【天意流転法・灼核】!」

「やりましたかっ?」

「うわぁああ第二形態! こんなの聞いてないッスぅううう!」

「一撃死できなくなってるのか。新しい発見だな」

「ん、分裂した。どれから狙う?」

「殺しやすいのから。最終的に全部殺せばいいのよ」

 

 だが、まだまだだ。まだ力が足りない。

 現状でも、俺はまだ第三王子に勝てる気がしないのだ。ヴィーカさんにもボロ負けする。今でもファンリーを一人では倒せないだろう。

 クニュフが言うには、クソ未来の闇堕ちイシグロは今の二つ名イシグロより強かったらしい。それでも皆を守れないまま死んでしまったという。

 

「はいお疲れ~。近くの聖遺物回収してから帰ろうか」

「ん、【念力】で回収する。雑に集めるから仕分けて」

「面倒ね。こんなの要るかしら?」

「ヘカテーニャが召喚獣の素材に使うから欲しいって言ってましたよ」

「我ながら今日のわしメッチャ頑張ったのじゃ~。レベル上がっとらん?」

「なさそうッスね~」

 

 だから、もっと強くなる。

 もっともっと強くなる。

 俺だけじゃない、皆と一緒に。

 皆と幸せになる為に。

 

 とりあえず、ゲルトラウデ師匠に恩返しをしようと思う。

 師匠が生きているうちに。




 しゃあっ、更新!
 書籍版一巻が発売され、続刊企画も進行中です!
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 というわけで店舗特典情報!
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◆最上位職について◆

・イシグロ
 迷宮狂い→黎明。剣+格闘ジョブ(魔法可だが杖は不可)
 固有スキルは「涅槃巡り」。朱色、藤色など夜明けの色を凝縮したような光の奔流で魂を斬る。ただし総合火力と汎用性は煉獄送りのが強い。

・ルクスリリア
 愛鎌。鎌+魔法ジョブ。
 固有スキルは「エンゲージリンク」。自分と対象の距離を縮める。自分が移動したり、対象を引き寄せたりする。壁をすり抜ける事も可能。
 また、固有ではない補助スキルに騎乗する獣の強化がある。

・エリーゼ
 月蝕光祈、杖のみ。装填魔法+竜族権能特化ジョブ。
 固有スキルは「明星」。呪詛と祝福の同時使用が可能。
 また、補助スキルにより装填魔法の威力向上。

・グーラ
 炎雷、剣士・格闘ジョブ。
 固有スキル「獄炎轟雷」。種族特性スキルの全解放および強化。
 蒼炎・白雷は能力補正なしの追加効果メイン。赤目アルティメット
 金炎・青雷は燃費悪いバランス強化。ライジング
 赤炎・金雷は低燃費バランス。マイティ
 黒炎・黒雷は燃費悪い膂力敏捷強化重視。黒目アルティメット

・イリハ
 桜霞、刀・陰陽術ジョブ。
 固有スキルは「木霊帰り」。陰陽術式をオートで二つ同時に使える。自力で二つ組めばオート含めて合計四つ組める。あくまで術式を追加コピーしてくれるだけなので魔力消費は倍。
 また、イリハの純粋強化およびファンリーとの戦いで領域を弾として飛ばす事ができるようになった。【灼核】は焼却確定領域弾。【滅界核】は破壊領域弾。

・レノ
 射貫く天眼、光力特化ジョブ。
 固有スキル「神愛の守り」。飛び道具への絶対耐性。効果時間は一分。クールタイムはまぁまぁ長い。
 また、このシールドは他者に付与する事ができる。ハイペリオン&シールドビット
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