【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告も感謝です。助かってます。
キャラのご応募の方もありがとうございます。やる気に繋がっています。
感想欄を見てちょっとビックリしたんですけど、まだ主人公の事をまともな奴だと思ってる人いたんですね。
◆追記◆
あらすじ加筆しました。
主人公は若干頭がおかしいですというところ。
前話の会話パートを加筆しました。
前世、覚えている限りにおいて、俺は一度もキレた事がなかったように思う。
イライラする事とか、ムカつく事なんてのは普通にあった。多少声を荒げたり、軽い口喧嘩程度ならした事もある。
けれども我を忘れて誰かを殴ったとか、怒りゲージがMAXになった記憶はなかった。
そんな俺が、まさか剣と魔法のファンタジー世界でブチキレ童貞を卒業するとは思っていなかった。
人それぞれで異なる性癖があるように、キレ方というのも人それぞれ個性があるものだ。
キレるとバーサーカーになる奴とか、ネチネチ嫌味を言うようになる奴とか、無言で殴りかかる奴とか、色々いただろう。
それで言うと、どうやら俺はキレると冷めるタイプだったらしい。最中、あぁ今俺キレてるんだな、というのが何となく分かったのである。
さて、これから寝るぞとニッコニコの夜、突如として知らされた悲報。輸送中だったロリが襲撃され、行方不明生死不明襲撃犯不明……。
そんな状況に、俺は居ても立っても居られなくなり、半ば無理矢理依頼をもぎ取って、ロリが逃げたかもしれないという隣領の森に向かったのである。
控えめに言ってストレスマッハである。
その時、俺の堪忍袋はかなり暖まっていた。テトリスでいうと六割ミノが積まれている状態だ。
そこにきて競争相手が登場し、お邪魔ミノがドン。合言葉言ったら攻撃してきて更にドン。この時点でもうギリギリ。
しかしだ、当時の俺にはまだ「話せば分かる」の平和精神が残っていた。だからロクに攻撃せず、いきなり敵認定してきたジジイだけを沈黙させた。こっちは殺す気はないよというのを、言葉より先に行動で示したかったのである。
すると、俺の平和精神に呼応するように赤毛の少女が声を上げてくれた。彼女は自身を領主の娘と名乗り、これは無駄な争いだと説いてとにかく話そうと言ってくれたのだ。
キレかけの俺である、当然上手い言葉を探すのに手間取っていたので、正直彼女の申し出は有難かった。斥候に投げを入れたり爺さんに蹴りを入れたりはしたが、それだけだ。これで何とかなると、そう思った。
まあ、無理だったんですけどね。
その時、俺は生まれて初めてキレたのだ。
まるでスイッチが切り替わったようだった。それまで積み重なっていたテトリミノが全壊し、新しく頭にフローチャートが生えてきたのだ。
ロリの保護。その為の捜索。それを邪魔する者の排除……。キレた脳が示した行動指針は、とてもシンプルだった。こいつらが襲撃犯か否かなど、どうでもよかった。邪魔だから排除する、それだけだ。
敵を排除する覚悟を決めた。けれども、殺しをするつもりはなかった。
どこまでいっても俺は現代日本人。いざ剣で攻撃しようとしたら、脳のどこかが「殺しはダメ!」と強く言うのである。躊躇はなかったが、リミッターがあった。
殺しでなく、無力化。結局、少し迂遠だがそうすべきだと納得し、決断した。
故に、手足を切り、顎を砕き、装備を奪って縛る事にしたのである。
初めて人を斬った感想は、「こんなもんか」だった。
ダンジョンで斬ったヒトガタモンスターと同じだと思った。
なに、冒険者は丈夫だ、これくらいじゃあ死なない。
なんたって、異世界には便利な回復魔法がある。コッチでは身体の欠損をワンクリックで治す事ができるのだ。
その為のエリーゼ、あとその為の魔法装填。彼女の装備には、王都最高の回復魔法専門魔工師による魔力消費度外視の最強回復魔法が装填されているのだ。
名を、“聖光の極大治癒”。
効果はHP全快と、欠損の修復。これは古い欠損部位まで治してくれる優れもので、実際ウィードさんの欠けた耳はこれで治した。
この世界は、マジで死ぬ事以外かすり傷なのだ。
そんなこんな……。
初の対人戦。俺は戦闘後に現れた黒幕含め、その場の敵対者の全員を無力化する事に成功したのである。
加減はしても、躊躇はなかった。
「深域武装か、これ」
黒幕との戦闘後……。
奴の身ぐるみを剥いでいる時、俺は初めてラザファムの大鎌以外の深域武装を握っていた。
それは今現在、手足を失って気絶しているモブノが持っていた槍だった。見た目は如何にも聖槍って感じなのに、コイツは典型的な悪党なのなんか草である。
「せっかくだし貰っとこう」
確か、ギルドの規定でもOKだったはずだし、俺は戦利品の槍を収納魔法に入れた。
そのうち使う機会もあるだろう。無かったら売って金に換えよう。
現在、黒幕含めさっき戦った冒険者たちは全員無力化させてもらった。手足を切り、術者は顎を砕かせて頂いたのである。
ついでに持ってる武器と防具も剥いだので、男はパンイチ、女は下着姿である。
男は俺が剥いで、女はエリーゼとルクスリリアにお願いした。何故かルクスリリアは「ひゃっはー!」とはしゃいでいた。楽しそうで何より。
ウィードさんには単独でターゲットの追跡を頼んでおいたので、今ここにいるのは俺の一党と裸の一党だけだ。
「へっへっへっ……いやぁ絶景かな絶景かな! 流石ご主人♡ やる事が派手ッスねぇ~♡」
「楽しそうね……」
無力化して、装備を剥いで、ついでに逃げられないようにした。ウィードさんに借りた紐で、彼らの首を繋いだのである。これまた何故かルクスリリアがやってくれた。とても楽しそうに。
こういう時、映画でもアニメでも紐ちぎって逃走と言うのがお約束だが、流石に手足のない状態で逃走は無理だろう。007でもこれは逃げられない。
いや、黒幕とジジイ以外は被害者なので別に良いのだが、面倒な事にならないように大人しくしてもらいたかったのである。後にフォローはするつもりだ。
「うっ……!」
さて、そろそろロリを追いかける準備をしようかと思ったところで、赤毛の貴族令嬢が目を覚ました。
彼女はまず自分の状態を確認した。無い手を見て、無い足を見て、鎧を剥がれた自身の身体を見た。
それから、震えた瞳で俺の目を見た。その目には恐怖があった。さもありなん。
「何故、私は生きているの……?」
そういえば、この子は顎を砕いていなかったから喋れるんだな。流石に、今になって彼女の顎を砕こうとは思わない。
それに後々の事を考えるとこの人にはある程度説明しておいた方が都合がいい気がした。
「エレークトラさん、先ほどはいきなり攻撃してすみませんでした。えっと、急いでいるので詳細は省きますが、貴女が受けたのはこの男が仕組んだ罠の依頼だった様です。逃げた魔族は存在しますが、それは王都に輸送中だったストゥア商会の奴隷で、この男が手引きした襲撃がなければ逃走する事はありませんでした。自分はその奴隷を保護する為にやってきました。こちら、ギルド発行の正式な依頼書となります。協力者とかそのへんは後にこの男から訊いて下さい、カトリア領のとある商会って言ってましたよ。あ、それと、そこの爺さんが内通者だった様です」
「なっ……?」
言うだけ言って切り上げた。雑な説明だったが、普通に面倒だったので俺からはもうこれでいいだろう。
それから、少女は一拍置いて口を開いた。
「な、るほど……。違和感は、ありました。これから、貴方は私たちをどうするおつもりですか……?」
「どうもしません。後の事はストゥア商会の人たちにお任せします。あと、諸々の事情を鑑みて貴女方の武装は全て自分の収納魔法に仕舞わせていただきました。事が終われば返却しますのでご安心を」
これまた一方的な話を、エレークトラ女史は真剣そうに聞いていた。
手足がない状態で裸かつ拘束状態だというのに、しっかり冷静さを保っているのは流石貴族といったところか。俺には真似できそうにない。
やがて彼女は、ふぅとひと息吐いた。
「この度はイシグロ様に多大なご迷惑をおかけしました。敗者の身ですが、カトリアの名において謝罪申し上げます」
それから、ゆっくりと首を垂れた。
「お詫びには及びません。実際、先に攻撃してきたのは内通者ですから、エレークトラさんに非はありません。自分も冷静ではありませんでした。重ねて謝罪します」
「いえ、そんな……! 臨時の一党とはいえ頭目は私、例え内通者であっても仲間の責任は私の責任です……! どうか、私の謝罪をお受け取りください……!」
この世界の貴族事情は本で読んだ範囲の事しか知らない。情報によると、一般ラリス貴族的には在野の冒険者に敗北するなど恥以外の何物でもないはずだ。それでもこの状況で感情を抑えて謝罪ができるのは立派だと思った。
俺も俺で、今になって思うと登場の時怪し過ぎたかなって気もするし。まぁお互い不幸な事故って事にしておくのが、異世界倫理観的には妥当か。
「この件につきましては、改めて謝罪の場を設けさせて頂きます。我がカトリア家の……」
「わぁあああああッ!? ちょっと何よコレぇええええ!?」
唐突な大声。見ると、同じく裸の金髪の少女が騒いでいた。異世界にてトンファーを振り回していた、前衛の冒険者である。
「ファリン、落ち着いて。この人は敵ではなかったの」
「敵じゃなくてもコレはどういう事よぉおおおおおお! こらぁああああ! あたしのトンファー返せぇえええええええ!」
それから少女はトンファートンファーと騒ぎ始めた。うるせぇなと思っていると、声に反応したか他の冒険者も起きはじめた。
鬼人は欠伸などしながら、斥候の男――スキンヘッドの鼠人族だった――はむっつり黙り込んで、顎を砕かれた翁は絶望顔で。
最後に、†白銀の狂犬†も目を覚ました様だった。彼も翁同様顎を砕いておいたので何もしゃべれない。念のため、彼は手足と顎以外の色んなところも破壊させてもらった。腹いせに生殖器も潰した。
「うわぁああああ! あたしの武器返してぇええええ! わぁああああああ! あぁぁんまりよぉぉぉぉぉぉぉ! トンファアアアアアアア!」
「ルクスリリア、お願い」
「うッス。むむむ、対象指定、魔力過剰充填んんん……オラッ“淫魔妖姫誘眠”!」
「はっ……!?」
ルクスリリアの大鎌――驚くべき事に、最近これが魔法触媒である事を知った――から放たれた霧が少女の顔に纏わりつき、まもなく深い眠りへと誘った。
この“淫魔妖姫誘眠”は、淫魔姫騎士になって生えてきた魔法で、相手を睡眠状態にする事のできる魔法だ。効果は極めて強力で、このように抵抗力の強いはずの冒険者を一方的に眠らせる事ができる。まあ、戦いで当たるものではないのだが。
「喧しかったので眠らせました。ご安心ください。皆さんの事はしっかり護衛するので、それまで大人しくしておいてください。そこの二人以外は手足も復活させますので、決して逃げたり暴れたりしないようにお願いします」
「おっ! マジで? ラッキー!」
言うと、さっきまで剣戟をしていた鬼人の少年は屈託なく笑った。まるで買ったたこ焼きを一個おまけしてもらった子供の様な反応である。
これが異世界人のメンタルか、見習いたい。
「いえ、それには及びません。これは私の失敗による不名誉な負傷……なので、皆さんの治療費は我が家がお支払いします」
「えー! でもそれじゃあ回復すんのいつになるか分かんねぇじゃん! イシグロが良いって言ってんだからそれでいいじゃんかよー!」
「こ、これ以上、私に恥をかかせないでくださいな……。はぁ……帰ったら家族に何て言われるかしら……」
なんか揉め始めた。俺としてはどうでもいい事である。
「あーっと、ラフィ?」
「えっ、ウィードじゃん! 久しぶり! お前そっち側だったか! ていうかお前、耳治せたんか! よかったな!」
「お、おう……まぁな」
かと思えば、ロリの追跡をしてもらっていたウィードさんが戻って来て、鬼人に話しかけた。顔見知りらしい。
「えーっとな、カトリアのお嬢さん? 悪い事は言わねぇから、大人しくイシグロさんの治療受けときな? 俺にしちゃ珍しい善意の助言だぜ?」
「しかし……」
ウィードさんがいないと追跡ができないので、俺は仕方なく奴隷ともう一度打ち合わせしておく事にした。
「確認な。エリーゼ」
「ええ。あの男が逃げたら焼けばいいのでしょう?」
「ああ。けど、何かあったらまず魔法打ち上げてくれ。内容は覚えてるな?」
「ええ、覚えているわ、慎重ね、アナタも……」
「よろしく。ルクスリリア、もうラザニア呼んでいいよ。ヤバくなったらエリーゼ連れて逃げてね」
「あいあいさーッス!」
軽く打ち合わせてから、ウィードさんの下へ行く。
「そろそろいいですか? ウィードさん」
「ん? あぁ。じゃ、俺は言ったからな」
そうして、俺とウィードさんはロリの追跡に戻った。
優秀な斥候であるウィードさんは、さっきの探索で対象を発見した様だった。
まだ生きてるというので、ひとまず安心である。
俺は、今後の事を考えて無銘をアイテムボックスに入れた。
ここからは、剣はいらない。
〇
森の奥の、開けた場所。
白い花が咲き誇る、自然の花畑。
少し走ったところで、彼女はあっさりと見つかった。
木の洞に隠れるでもなく、洞窟に身を潜めるでもなく、彼女は花々の中心でぐったりと座り込んでいた。
意識を失っているのか、眠っているのか。彼女は空に首を垂れるように、俯いていた。
ゆっくりと、月明かりが差す。雲が晴れていく。満月が彼女の存在を照らした。
純白の花に囲まれた彼女は傷だらけで、血や泥に汚れ、けれどもその後ろ姿には静謐な美しさがあった。
情報通り、彼女こそグーラその人だった。
怪我はしているが、しっかり息がある。生きていると確信して、俺はここまで張っていた緊張の糸を緩めた。安堵した事で、今一度彼女の容姿を見る事ができた。
聞いていた通り、グーラは黒髪であった。髪型は、前世でいうところのミディアムウルフヘアという奴だろうか。ルクスリリアより長く、エリーゼよりはずっと短い。また、頭には種族を示す獣の三角耳が屹立していた。
肌の色は褐色で、月光を纏う背中にはここまで逃げ切るのに負ったであろう傷が生々しく残っていた。
そして、特徴的な二股の尻尾。彼女は、少し特別な娘なのである。
後ろ姿だけで分かる、めちゃくちゃ可愛い。
そして、要望通り、ロリだ。座っているので正確な身長は分からないが、恐らくエリーゼより少し大きいくらいだろう。
にしても、ホントに無事でよかったと思う。
この子が死ぬなんてのは世界の損失だ。
安心して一歩近づくと、彼女はビクンと身体を震わせた。
それから、それこそ獣めいた身軽さでこちらに振り向き、今にも襲い掛からんとする四つ足の戦闘態勢を取った。
剣呑極まる黄金の双眸が、俺の目を射抜いた。
「グルルルルルル……!」
彼女の唸り声は、威嚇する獣そのものだった。情報にあった、暴走状態だ。
当然として、俺は警戒されているのだ。こいつを殺すべきだと、そう本能が叫んでいるのだろう。
俺がもう一歩踏み出そうとした、その時である。
ぼう、と。
戦闘意思に呼応するように、彼女の全身から赤黒い炎が吹き上がった。種族特性の、炎熱能力だ。
次いで、バチバチと身体全体に漆黒の雷が迸る。これもまた、彼女の種族特性であり、特異性だ。
「ウゥゥゥゥゥゥ……!」
彼女の名は、グーラ。
炎と雷の仔獣。
極めて希少な、二つの異なる種族特性を宿した異端児。
炎を宿す犬系魔人、
雷を宿す狼系魔人、
伝説の古魔人、
獣人族の夫婦の間に生まれた、魔族の娘である。
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▲火雷大神とは全く似ていません▲
炎雷はノリです。特に深い意味はありません。遊戯王とも無関係。
えんらい、でもカッコいいんですけどね。何となくです。