【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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九年目・王達の黄昏編
炉進準備


 俺が転移したこの異世界には、“災厄”と呼ばれる人類全体にとっての外敵が存在する。

 災厄とは、千年に一度現れるレイドボスもしくは謎現象である。これのせいで人類文明は栄枯盛衰を繰り返してきた。

 そういうのもあって、ラリス王国を筆頭に異世界の国家は災厄への対処を前提に運営されている。

 

 具体的な災厄対策についてだが、基本は各種族の代表が一党を組んであたるらしい。人間族代表、ラリス王。獣人族代表、獣王といった具合に。

 強き王よ、どうか我々弱き民をお守りください。そんな弱き人々の声に応えるように、人類代表選手は災厄と戦うのである。

 

 日本にいた時の俺も、異世界にいる俺も、メンタルの根っこは一般庶民だ。

 何とか問題だの世界的ななんちゃら危機だの、知らぬ知らぬ鬱陶しい。そういうのは俺より頭が良くて偉い人がやっててくれ。今日の晩飯、明日の給料。明後日? そんな先の事は分からない。

 その結果が、クソ未来だったのだろう。

 

 クソ未来の俺は、何もかも他人任せにして脅威から逃亡した。

 災厄の尖兵にそうしたように、少し頑張れば助けられた命はあったはずだ。だが、家庭を持った俺はそうしなかった。今の俺には分からない葛藤があったのかもしれないが、結果的に全ての行動は遅きに失した。

 そんで俺は死んで、皆も死んで、クニュフが過去にやってきたのだ。

 

 過去を悔いても何にもならない。

 未来を憂うだけではどうにもならない。

 だから俺は、今度こそ絶対に皆を守ると決めた。

 

 災厄を殺す。

 災厄を殺す邪魔をする奴も殺す。

 災厄を殺す邪魔をする奴の仲間も全部殺す。

 

 強請るな、勝ち取れ、さすれば与えられん。

 異世界でロリハーレムを作り、皆とイチャラブハッピー生活をするんだ。

 かっとビングだぜ、俺!

 

 

 

 

 

 

 災厄が現れた日、カムイバラは大騒ぎに……ならなかった。

 いや全く騒ぎにならなかった訳ではないのだが、俺が想像してたよりは全然大人しかった。

 少なくとも、前世ネットニュースになってた海外の暴動よりは。

 

 懸念していた治安悪化は殆どなかった。

 大体のカムイバラ民は自然災害に対するようなノリで防災グッズを買うくらいに収まっていたのだ。喚いて暴れるような人はごく少数で、そういう人を大多数の人は冷ややかな目で見ていた。

 災厄襲来直後から守長組合と武行法院が警備を強化してたってのもあるだろう。一部ヨタモノが終末論じみた街頭演説をぶっていたが、そういう奴等はビックリするくらい速やかに鎮圧されていた。

 一方、クラウディア曰く現場の雰囲気はまぁまぁピリついてるらしく、武行のトップであるオイゲンさんも忙しくしているそうだ。

 

 中でも忙しそうだったのは、医療界隈だった。

 災厄を見た民の一部が急性災厄リアリティショックで倒れた結果、リンジュの医療機関がパンパンになったのである。

 ヘカテ曰く、瘴気耐性の低いパンピーがヘルガの弟君みたいな圏外病を発症したらしい。これについては治療法が確立されてるので無問題。そのうち何とかなる見込みだ。

 

 ちなみに、如何にも治安を悪くしそうな荒くれの冒険者はというと、民以上にいつも通りだった。

 冒険者に明日がないのはデフォである。相変わらず金遣いは荒いし、相変わらず喧嘩ばっかしている。災厄の瘴気も迷宮よりマシだったので、圏外病を発症する事もなかった。

 

 カムイバラの様子はそんな感じ。

 ペガサス郵便によると、王都は災厄襲来でお祭り騒ぎしているらしい。怯えるより踊ろうぜって精神なんだとか。すげぇな王都民。

 

 で、俺はというと、ついに現れた災厄に抗じる為に準備を進めていた。

 その準備というのが……。

 

「これより、空戦車による派遣支援訓練を行う。各員配置につけ!」

 

 夏真っ盛りの空の下、頭に緑色のベレー帽をかぶった猫又美少女が声を荒げる。

 彼女の前には、草薙の制服を纏う男女が整列していた。その佇まい、その表情は真剣そのもの。

 

「状況開始!」

「「「了解!」」」

 

 訓練開始の合図と共に、天群雲メンバーはテキパキと空戦車の準備を始めた。

 ルルを筆頭に召喚術適性のある魔術師が召喚獣を出し、それ以外のメンバーが召喚獣にハーネスを取り付けて空戦車と連結。規定の順番に従って荷台に物資を積載していった。

 一連の動きはF1レースのピットクルーさながら。極めて迅速かつ丁寧だった。

 

「全確認よし! 離陸準備完了! 許可願います!」

「離陸を許可する。ご安全に!」

「「「ご安全に!」」」

 

 ややもせず、天群雲を乗せた空戦車隊が発進していく。

 飛び立った三台の空戦車は空中で合流し、縦一列になって山の方へ飛んでいった。

 

「どうだ? 今のヘルガ達は」

「まぁまぁニャ。オーディション受かっただけあってみんな真面目でいいニャね」

 

 猫又美少女――クニュフに声をかけると、元の口調に戻った彼女は軍帽の位置を直しながら応えた。

 視線の先では、天群雲を乗せた戦車隊が飛行系レースゲームにあるような空中輪っかを潜りつつランダムで襲ってくるカラス眷属を撃ち落としていた。レノ&イリハ&ヘカテーニャによる圏外輸送任務の再現ギミックである。

 

「急ごしらえだけど、ヘカちゃんの作だけあって召喚獣の調子も良さそうニャ。空戦車も流石ケインさんっていうのもあるかな~」

「結局ケッテンクラートは使わなかったな」

「牽引車としては優秀なんだけどね~。精鋭の輸送なら、やっぱ召喚獣のが上ニャ」

 

 俺達がいるこの場所は、リンジュ共和国内のラリス基地である。

 基地の周辺は深い森で覆われ、見張り台からは連なった山々が見渡せる。軍事基地というより秘密基地といった様相。

 そんな場所で、俺達は天群雲の訓練を行っていた。いつもの戦闘訓練ではない。野外における各種訓練である。

 勿論、こういうの言い出しっぺが出来てないとカッコ悪いので、俺達は事前にクリア済みだ。戦闘はともかく、それ以外は素人だからね俺達は。

 

「にしても覚えが早いよね。これなら予定通りの期間で終われそうニャ」

「でも本当はもっと時間かけたかったよ。詰め込み教育はよくない」

 

 で、クニュフには天群雲のメイン教官をやってもらっていた。

 クソ未来のクニュフは元ラリスの特殊部隊流の訓練を受けた事もあるそうで、また現地でグリーンベレー的な教導をしていたらしいのだ。

 また、この基地にはお馴染みのエージェント・メイドさんもいらっしゃって、彼女にも天群雲の訓練を手伝ってもらっている。

 要するにガチなのだ。

 

 しかし、促成栽培感は否めなかった。

 本来はもっとじっくりやりたかったし、リンジュの他の街やネザーレでもオーディションをやってもっともっと戦力を拡充したかった。

 ルル達が使ってる召喚獣自体、ヘカテに間に合わせで作ってもらったものだ。完成度は高いが、本来の仕様からはかけ離れている。

 

「これで戦力の足しになればいいんだけどニャ……」

「なるさ。クニュフが教官なんだから」

「買い被りだって~」

 

 けれども、災厄が来ちゃったのだから仕方ない。

 クソ未来における災厄と思しき屍王は、時系列的に十年以上先の未来に現れるはずなのだ。

 だからこそ、自分が来たから未来が変わったのではと不安がるクニュフには教官の仕事をブチ込んだ。目の前の事に集中した方が気が楽だろうから。

 

 そもそも災厄は原則としてラリス王達が相手をするのに、こんな訓練に意味はあるのかと思うかもしれない。

 結論から言うと、俺はあると思う。何故なら、過去の災厄は王族だけで対処できるものではなかったからだ。

 

 太古の昔に現れた災厄、“炎の巨人”。こいつは大量の取り巻きを率いていて、貴族や金細工達は主力が本丸を叩くべく露払いをしていたそうだ。

 別の例として、二千年前の災厄“死の病”の正体は、虫を媒介にして感染する寄生虫だった。これに対して人類代表選手はそこまで貢献できず、一部天才魔導士が造った殺虫魔法を一般魔導士が使いまくって対処したそうだ。

 いずれにせよ、災厄戦に俺達パンピーの出番がない訳ではないのだ。だからこうして何時如何なる状況にも対応できるよう備えている訳で。

 いつもと同じだ。高度な柔軟性を維持し、臨機応変に対応できるようにしておくのである。

 

「ほら、戻ってきたよ。パパ旗振って」

「サー・イエッサー!」

 

 ややもあり、輪っか潜りコースをクリアした空戦車隊が基地に戻ってきた。

 俺は手に持っていた旗で信号を送り、向こうの様子を確認する。それからヘルガ達はこっちの指示通りの手順で基地内滑走路に着陸した。

 

「天群雲第一から第三騎団、帰還しました! 損害ありません!」

「了解した。野営訓練に移行せよ!」

 

 帰還後も訓練は続いている。基地に戻った天群雲は野営と炊き出しの準備を始めた。天群雲だけでなく、基地にいる全員分の食事を作るのだ。

 

「スピードより工程だ。一つ一つ丁寧にやってけ~」

「いくぞ。せ~の!」

「「「【水行・雪解け】」」」

 

 声をかけながら空戦車を移動させ、流れ作業で積荷を下ろしていく。天幕を組み立て、陰陽術で飲料水を出し、やがてラリス謹製野外炊具がその本領を発揮した。訓練当初のモタモタはどこへやら、今の彼等は非常にテキパキしていた。

 ちなみに、戦闘や飛行訓練の成績は良かった天群雲だが、一部を除き炊事だけは妙に覚えが悪かった。特に男子勢が壊滅的で、急遽スケジュールを変更して調理訓練多めにしたからね。とかくサバイバル能力を上げなくては。

 

「早いねクラウディアちゃん。終わったらこっちお願いしていい?」

「お任せあれですわ。箱入りには箱入りの矜持ってもんがありますのよ」

 

 そんな中、蜜竜クラウディアの包丁捌きは大したものだった。

 本来、クラウディアは花竜一族で色々やってから天群雲に加入する予定だったのだが、卒業式の日に災厄が来て一族がゴタついて全部パスする事になったのだ。

 天群雲は災厄と戦う為に結成された同盟である。はぐれとはいえドラゴンは基本武断という訳で、花竜一族の長たるオイゲンさんは孫娘を送り出してくれたのだ。

 

「次! 第一・第二騎団連携訓練、開始! 第三騎団は教導官の指示に従うように!」

 

 後輩が作ってくれた昼食を食べ、休憩の後は戦闘訓練である。

 具体的には、以前までのような一党単位の戦闘力の底上げではない同盟単位での連携訓練だ。

 迷宮内では六人連携が重要だが、迷宮外では六人以上での連携が重要なのだ。

 

「前も教えた通り、【前蹴り】は足をこの形にして蹴るんだ。そんで相手を壁にして体重を乗せるように……こう!」

「押忍! はぁッ!」

 

 そんな中、俺は武闘家系鹿人男の娘に“空手家”の能動スキルを伝授していた。ていうかその子のジョブツリーにも俺と同じく空手家ジョブが生えていた。

 この空手系ジョブは、武闘家にしては珍しくやや防御寄りの性能をしている。また、能動スキルは少ないが補助スキルが豊富だった。防御系異能を持っている彼にピッタリなジョブと言えよう。

 

「おいッス~、戻ってきたッスよご主人~」

「ボクがいても襲ってきました。やっぱり変になっていますよね、獣たち」

 

 そうこうしていると、ルクスリリアとグーラが基地の外から帰ってきた。二人は近くの森で狩りをしていたのだ。

 見れば、グーラは冗談みたいに長い棒に熊や鹿や猪などを吊るしていた。TS美少女ヘラクレス、そんな言葉が俺の頭に過る。

 

「お疲れ様です。検体はこちらの箱にお収めください」

「うぅむ、やはり瘴気に冒されているが……これまでにない症例ですな。視ろ、拳部分が肥大化している」

「まるで鉄拳大熊のようですね! 未知がいっぱいで最高です!」

 

 すると、研究者っぽい人たちがグーラが持っていた獲物を回収していった。

 彼等は“天文台”と呼ばれる組織の人である。曰く、例の災厄襲来事件以降、各地で魔力保有生物が活発になっているそうで、彼等はその調査と研究をしているらしい。

 また、魔物の発生率も上昇しているとかで、天群雲はこれの討伐もやっていた。迷宮外の魔物は無駄に賢いので、良い戦闘経験になるのだコレが。

 災厄は早期発見早期討伐が望ましい。空の亀裂で存在は確認されたのだ、こういう調査は重要なのである。

 

「明日は山地機動訓練を行う。飯はビリになった班にやってもらうからな。訓練終了、以後は自由時間とする!」

「「「「ありがとうございました!」」」

 

 午前午後の訓練が終わり、自由時間になった。

 汗だくの皆は基地内にあるサウナへ入っていった。圏外でやった禊兼入浴である。

 俺達も後で入ろう。つっても男女で別れてるので俺は単独サウナなのだが。

 

「とほほ~、明日は山歩きだってのに歩哨だよ。いいよなぁ魔術使える奴は自由に寝れて」

「魔術師の魔力回復せんと困るんは自分等やぞ。文句言うとらんで行くで」

 

 自由時間っつっても、夜が深まったら歩哨訓練が残っている。

 トボトボと歩いている男子勢。彼等に挨拶しつつ、俺は制服を脱いだ最古参に声をかける事にした。

 

「どうだ様子は」

「うっす、だいじょ……あっ、異常ありません!」

「訓練は終わってる。元の口調でいいぞ」

 

 蠍の尻尾をピーンと立てて敬礼してくるヘルガ。地味に染まりやすい子だった。

 俺がいない間の天群雲はヘルガに任せるのだ。多分今一番詰め込み教育を受けているのは彼女である。地味にメンタルが心配だ。

 

「ヘルガから見て皆の様子はどうだ?」

「大丈夫っす、皆やる気っす。今までフワフワしてたのが、急に明確になったというか……その、災厄ってホントにある事なんすね」

 

 災厄が来た日の事を思い出しているのか、そう言うヘルガの手は震えていた。

 あの後、俺と卒業生達は改めて話し合いを行った。リアル災厄を見て、それでも天群雲に居続けるかを。

 結局、誰一人として離脱しなかった。寧ろやる気に満ちていた。オーディションを受けた動機は人それぞれだったが、今は他者を守る事に前向きになっているようだった。

 

「大丈夫っすよ盟主……イシグロさん。あーしの気持ちは群雲入るって決めた時と変わってねぇっす。スヴェンの為にも、ダチの為にも、あと親父とおふくろも……あーしに何が出来るか分かんねぇっすけど、精一杯役に立ってみせるっす」

 

 言って、“武血義理”のヘルガは頼もしい笑みを浮かべてみせた。ギュッと握られた拳は、もう震えていない。

 ナターリアさんが言ってた通り、彼女には群れの長たる資質があるのだろう。

 そう確信できるような、そんな眼差しだった。

 

 こうして、災厄を前にした俺達は、脅威に備え続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 クニュフ&エージェント・メイドさんからの合格をいただき、天群雲のラリス式ブートキャンプは終了した。

 それもこれも、天群雲の皆が優秀で意欲的だったからだ。キツい訓練をやり遂げた天群雲の顔つきは気持ち引き締まって見受けられる。料理の方は並み以下の成績らしかったが。

 

「くれぐれも羽目を外し過ぎないように。それでは、解散!」

「よっっっしゃ飲むぞ飲むぞ飲むぞ~!」

「浴びるくらい焼酎呑むけぇのぅ!」

「ところでカゲ先輩はどうするんです?」

「まずは花鳥楼の皆さんに挨拶して、その次はもふもふパライソのミャーコちゃんのサービスを受けたいですね。あぁ早めに予約しませんと。その後は軽く森人系を巡りながら途中で薬膳屋で精をつけ……どうです? せっかくですし、一緒に」

「や、やめときます……」

「若いねぇ」

「若いとかそういう次元じゃあねぇと思いやすぜ」

「お茶しばきに行く人この指とまれですわ~!」

「「「しばき散らかしますわ~!」」」

「あーし等は先にギルドで手続きだ。行くぞ二人共」

「面倒臭いわね……」

「あ~ん、その前にお風呂行かせて~」

 

 カムイバラ帰還後、我々は二日間の休養である。

 ある者は家族と会い、ある者は思う存分遊郭をハシゴ。やり方は何でもいい、とにかくリフレッシュしてほしいと思う。

 俺達も俺達で、この間にやるべき事をやろう。

 

「むっ、これが巷で噂のアシュリカの作か。得物に頓着しない私だが、これは一度手にしてみたかったのだ……」

「大丈夫イシグロさん? 高かったでしょ? お母さんの事だから、どうせすぐ蔵に放置しちゃうよ?」

「補償でもありますから。お気になさらず」

 

 まず最初に、俺はゲルトラウデ師匠に新しい刀をプレゼントした。ついさっき届いたのを持ってきたのだ。

 この刀は王都にいる優秀な刀鍛冶に打ってもらった逸品である。性能はとにかく切れ味重視。武器にこだわりのない師匠だが、いざとなったら使ってくれると有難い。

 

「安心して、いざとなったら私も戦うから。田んぼを汚す災厄を許してはおけないわ」

 

 同じく、レギーナにも一番良い刀をプレゼント。こっちは頑丈さ重視の同田貫風ブレードだ。彼女が今持ってる刀は数打ち品らしいので。

 クソ未来において、師匠を殺された彼女は闇堕ちしてしまったそうだ。今度はそうならぬよう、身内だけでも守ってもらいたい。俺の都合で申し訳ないが、エリーゼの為にもレギーナには幸せになってほしいしな。

 

「よく分からないが、まぁ今の貴殿なら大丈夫だろう」

「そうでしょうか」

「何でそう自信がないのだ。私を倒したのだぞ、貴殿は」

 

 と、別れ際に呆れ顔で言われてしまった。

 全く以てその通りである。虚勢でも何でも、自信を持たなきゃ失礼だよな。

 そう思って、俺は次の目的地へ向かった。やるべき事はまだまだあるのだ。

 

「おやぁ? そこにいるのはイシグロ君じゃあないか! 天群雲の子達をバチクソにシゴき回すと言っていたが、帰ってきたんだねぇ」

「おはようございます、イシグロ様」

 

 なんて思いながら歩いていると、天才淫魔画家パイモさんと美大生ロレッタさんに遭遇した。

 災厄が来た時、彼女達も同じ場所で空を見上げていたのだ。あれから一月、パッと見は瘴気にやられているようには見えないが、大丈夫だろうか。

 

「そうそう、ぼくってばあの日以降インスピレーションがバリバリになってねぇ。どうしてもリビドーが抑えられないから、例の絵については少し待ってくれたまえ。衝動は止められないんだ」

「私も先にリンジュの絵を勉強したいので、申し訳ございません」

 

 大丈夫らしい。

 二人共、災厄を乗り越えた後の明日を疑っていなかった。あの災厄の眼光を、魂を握られるような恐怖を忘れた訳ではないだろうに。

 

「じゃあね、また会おう!」

 

 少し、羨ましいと思った。

 能天気さとは違う、魂そのものの強さ。やはり異世界人は強かった。

 

「どしたん? ダーリン。なんか訓練終わってから元気ないやん」

「そうかな……」

 

 我知らず、ほんの僅かにおセンチになっちゃってたらしい。師匠にああ言われたばっかなのに情けないね。

 呼気一つ、俺は皆と一緒に街の光景に目をやった。守るべき異世界の街を。

 

「何にしましょうか? ミアカにイスラにレギーナに、うちは何でも揃ってるよ~」

「ミアカだ、四つくれ。俺は遊女時代からのファンなんだ」

「二つで十分ですよ」

「いや四つだ。冒険者時代二つ遊女姿二つで四つくれ」

「二つで十分ですよ」

「レギーナもくれ」

「分かってくださいよ」

 

 カムイバラはいつも通りだった。

 見回り中のマッポの数こそ増えたが、それ以外は本当に災厄前と同じ光景だ。帯刀女子が友達と一緒に歩いてて、ガテン系の大猿人が屋台の蕎麦を食べている。杖をついた老天使の前を、笑顔の子供達が走っていた。

 皆さん、災厄を目にしても元気いっぱいだった。

 

 俺は、不安だから頑張れる。不安がないと頑張れない。頑張った後も、不安でいっぱいだった。

 けど、いつも通りの異世界エセジパングを視たら、何故だかちょっと元気が湧いてきた。

 王都みたいなナーロッパ・ファンタジーもいいけど、カムイバラみたいな和風ファンタジーもいいよな。つくづく俺は古いタイプのオタクだった。

 

「さて……じゃあ俺等も遊ぶか」

 

 パンと両頬を張り、強いて気を取り直す。

 訓練漬けで疲れているのだ。疲れたままじゃあ、人生なにも楽しめない。

 

「ッスね! あたし的にはソッコー吸精したいんスけど、それは夜のお楽しみって事にしとくッス!」

「本屋行きましょう本屋! 以前、店主が銀竜系の本を仕入れると仰っていたので!」

「とりあえず休みたいのじゃ~」

「そろそろ繊細なリンジュの魚が食べたいですね。刺身(レア)でね」

「ん、夏はスイカ」

 

 そーゆー訳で、やるべき事は一旦後回しにして俺達も遊び回る事にした。

 久しぶりのデートである。この日を最後のカムイバラデートにはしない。何度も何度も、飽きるくらい此処に来ようと思う。

 いつか、子供達も一緒にな。

 

「寿司! 美味すぎるでしょう! 反省しろ!」

「新鮮なお野菜いっぱいニャ~」

「今日の為に予約しておいたんだよ。ほら酒もあるぞ~」

「うひょ~! キンキンに冷えてるじゃねぇか! ありがてぇ!」

「麦酒は温い方が好きだけれど……まぁリンジュの夏にはこっちのが合うわね」

 

 夕食時、いつも泊ってる上玉館では、皆の好物をたらふく食べた。欠けてた魂に活力が沸いてくる心地だ。

 最近はサウナばっかりだったので、食前・食後の温泉も魂に染みるくらい気持ちよかった。

 そんで畳の部屋でゴロゴロし、布団の上でイチャイチャした。

 イチャイチャはやがてぬちゃぬちゃになり、何度も布団に【清潔】をかける事となった。

 ブートキャンプ中は我慢していたからな。それはそれは濃いのが出た。

 

「きひひ♡ 舐めただけなのにもう立ってるッスよここ♡ なっさけな~♡」

「尻尾で大きくするとか♡ どんだけワタシ達の事好きなんですか♡」

「我慢のし過ぎでパパそーろーさんになっちゃってるニャ~♡」

 

 ルクスリリアとユゥリンに乳首舐め尻尾コーギーされつつ、クニュフに先っちょをチロチロしてもらったり……。

 

「ご主人様♡ いいです♡ 素敵です♡ くぅん♡ ふぐぅうううう♡」

「ん♡ わたしの【聖水】もっと飲んで♡ あぁそこ♡ 気持ちいい♡」

「んぅ~♡ んっ♡ ちゅぅ……ぱぁ♡ ダーリンの血♡ ホンマ美味しいわぁ♡ ぢゅるるるる♡」

 

 グーラに覆いかぶさりながら、レノの【聖水】を飲みつつヘカテに吸血をさせたり……。

 

「おご♡ あぁっ♡ すげぇぜ亭主殿♡ 腰だけで全身支配されてるみてぇだ♡」

「ん……もう♡ キスの最中はキスに集中なさい♡ はむ……ちゅぅ♡」

「そろそろわしの口も吸うてくれんと寂しいのぅ♡ んっ♡ ちゅっ……ちゅぱ♡ んふ♡ ちゅっ、れろ♡」

 

 シャーロットを突き上げながら、エリーゼ&イリハと交互にキスしたり……。

 とにかく、満足いくまで仲良し(・・・)した。

 

 事後、皆は俺より先に眠っていた。

 皆の寝顔を眺めながら思う。これだ、俺はこの為に生きているのだ。

 皆が俺の生きがいなのだ。

 

 災厄が来てからというもの、妙に血気盛んになったり急に弱気になったりと情緒がおかしくなっていた。これは恐らく空気中に含まれる瘴気のせいに違いない。

 俺はもう迷わない。皆との繋がりこそが俺の人生そのものなのだ。

 

 そう、俺はロリコンだ。

 オールハッピー至上主義のロリコンなのである。

 最善を望み、最悪に備えよう。

 

 

 

 そして、休暇明けの朝。

 カムイバラの郊外に、俺達は集まっていた。

 

「天群雲第一から第三騎団、欠員ありません」

「あ、ああ。今は別に普段のままでいいんだぞ」

 

 まだブートキャンプ生活が抜けきっていないヘルガの後ろで、空戦車の準備を終えた天群雲メンバーが整列している。

 英気を養った天群雲は以前より覇気に満ちていた。

 

「それじゃあ出発するぞ。関所まで先導するから、ついてこい」

 

 出発である。俺達の空戦車を先頭に、都合四台の空戦車が滑走路を飛び立っていった。

 空飛ぶヘラジカの空戦車、御者はルクスリリア。後に続いているのは、ルルが操るサメ&白ウサギ戦車の第一騎団。カゲロウ操る朱雀戦車の第二騎団。女天狗三姉妹が操る三犬戦車の第三騎団。

 都合三十一名、全員もれなく訓練済みの銀細工級冒険者だ。

 

「目標、王都アレクシスト!」

 

 明日を手にする為、俺達は王都アレクシストへ向かうのであった。




 しゃあっ、更新!
 書籍版一巻が発売され、続刊企画も進行中です!
 よろしくお願いします!


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