【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。本当に助かっています。
今回は後半三人称です、よろしくお願いします。
王都までの道のりは、常のフィールド移動よりも過酷だった。
まず速度が遅い。空戦車隊の移動に合わせている都合上、どうしても一番遅い車の速度で進まざるを得ないのだ。ファストトラベルめいたラザニア移動に慣れている身からすると、天群雲のスピード感は欠伸が出る程スロウリィだった。
つってもコレは俺の感覚の方がおかしいのであって、本来空戦車はこんくらいが普通らしい。というか寧ろ速い方らしい。ラザニアが規格外なだけなのだ。休憩の度にラザニアが他召喚獣にマウント取ってるような顔してて草だった。
また、道中は様々な土地の領主に挨拶回りを行ったりもした。カムイバラで加入した新規メンバーを紹介する為だ。
リンジュを出てすぐゲパルト男爵に挨拶し、お料理大好きフライシュ公爵に挨拶し、魔法大好きランベール侯爵に挨拶し、最後に模範的ラリス貴族のカトリア伯爵にご挨拶。そのうちカトリア領は次のオーディション予定地だったので、災厄が来た今は出来なくなってお互い寂しい気持ちになった。
一度王都に行った事のあるラリス組と異なり、カムイバラ組は初めての外国との事でラリスの迷宮都市にいちいち感動していた。急いでる訳じゃないので軽い観光もさせてあげた。卒業旅行という事でひとつ。
そんなこんな。訓練がてらちょくちょく野営し、街に着いたら挨拶&トレーニング&観光で一週間ほど滞在し、時たまギルドの冒険者依頼で野生の魔物を討伐したり。最終的に、王都に着いたのは秋の始め頃になっていた。
勿論、遅刻などしていない。元々急ぎの呼び出しじゃあないのだ。貴族への挨拶の都度、第三王子の親衛隊メイドさんと連絡取っていたしな。
「王都よ! アタシは帰ってきたッスーっ!」
「もう、はしゃぎ過ぎよ」
そして王都である。
相変わらず、王都はフィレンツェとローマ市が合体したようなファンタジー・ナーロッパだった。見上げるほど高い建造物に、緻密な計算によって造られた噴水。各所を流れる水路は底が見えるくらい澄んでいて、メダカっぽい魚や宝石っぽい甲羅を背負う亀が泳いでいる。
異世界でも色んな街を見てきたから分かるのだが、やはり王都は格が違った。
格が違うのは確かなのだが……。
「「「ハッピーカラミティ! ウェエエエエエイ!」」」
渋谷ハロウィンかな?
って思っちゃうくらい、王都民がお祭り騒ぎしていたのだ。これが災厄フィーバーちゃんですか。何なら以前に体験した尖兵突破フィーバーより盛り上がっていた。
興味深いのが、この祭りには明確な戦意高揚の意図が見受けられるところだ。無軌道に遊び回ってるというより、サッカーなり野球なりのサポーターとしてチームを応援しているように見受けられる。無論、応援されているのはラリス王家および災厄ぶっ殺しメンバーである。そこかしこにグッズあるもん。
「これが噂に聞く王都か。すごい騒ぎっすねぇ」
「い、いえ、これが普段の王都って訳では……」
「ん、なんか斥候系の冒険者が少ないね」
「尖兵が来た時と同じかもしれないわ。王家が依頼を出して各地の情報を集めているのよ」
「へぇ、そういうのあるんですね」
「いやグーラあの時……あー、そいやぁまだ居なかったッスね」
「わしが加入してから五年以上経っとるんじゃよなぁ」
対災厄戦の主力メンバーが象られた銅像を眺め、しばらく祭の雰囲気を楽しんだ。
災厄祭もそこそこに、三十一人でギルドへ行った。ギルドの歓迎ムードに目を見開くカムイバラ組。そんな彼等をロビーに置いて、俺とヘルガは受付スペースで手続きを行った。
「え~っと、こうこうこう……これで合ってますか? 盟主」
「大丈夫だ、問題ない。ヘルガの字は読みやすくていいな」
ギルドの手続きには慣れたもの。ササッと紙に必要事項を記入して、草薙と天群雲はなおもウェイェイしてる噴水広場で解散した。
ヘルガ達は事前に決めていた宿を貸し切ってお泊りする予定だ。勿論、女子寮と男子寮は分けて。
「こちらが我が主からの親書でございます。開封はご帰宅の後、皆様以外の誰にも見られないようにお願い致します」
一方、俺達は先回りしていたエージェント・メイドさんと接触し、王子からのお手紙を拝借した。
その足で例の借家に帰宅。長く空けると伝えてあったので、借家はプロの手で定期メンテされていた。魔道具も新しいのに変わっている。
とはいえ人がいないと埃は溜まるので、大掃除&復旧作業を行った。中庭の噴水をデッキブラシでゴシゴシし、空になってた本棚に本を詰め込み、ヘカテのアトリエに錬金釜を再設置した。
「ふぅ~、お掃除終了~っと。で、王子様からのお手紙には何て書いてあったのかニャ?」
「悪い知らせでなければ良いのですが、ちょっぴり怖いですね……」
「ヤバかったらこんな悠長には待ってくれんじゃろ。大丈夫じゃって」
ピカピカになったリビングで休憩タイム。そこで、念の為に各種隠形魔術を多重発動してから例の手紙の封を解いた。
そうして開かれた羊皮紙には……。
「待機だってさ」
「ほらの?」
待機命令である。
まぁ前々から聞いてはいたのだ。今王子様ものすごい忙しいから、どうせすぐには会えないよと。
で、手紙にはその理由が書いてあった。
「要するにヴィーカさん待ちらしい。あとリアルイーザ様とかそのへん。全員集まってから話すって」
「そう、お祖父様にもご助力頂けるのね……」
「ヴィーカ様手伝ってくれんスか! 勝ったな風呂入ってくるッス!」
「や、油断は禁物。未来のヴィーカ様は屍王とタイマン張って負けた」
「そうだね。もしあの亀裂から見下ろしてきた奴が屍王だったら、ヴィーカ様一人には頼れないかな~」
「他には何も書いてねぇのか? 亭主殿」
「まぁ細かいのをちょこちょこと。これ読んだ後に燃やす手筈だから、皆も見てくれ」
その他、細かな報告もあったりしたが、別に大した内容ではない。とにかく待機との事。
この待機というのは、すぐ呼び出せるよう王都にいてねという意味だ。王都にいる限りは自由時間である。だからリンジュから出た後も貴族に挨拶回りしてる余裕があったんですね。
「まぁアタイは王都着いて早々ルーニアの会合あるんだけどな。しばらくはその準備だ。あぁ~机仕事イヤだぁ~」
「ならワタシはその護衛ですね。シャロさんってば鍛えても鍛えてもクソザコエルフなんですもん。世話が焼けます」
「なら護衛中に寝ないでくれよ……」
「半分起きてるんで大丈夫で~す」
自由時間中、シャロにはルーン関係のお仕事があるそうだ。
曰く、災厄が来た日からルーン魔術に謎の違和感があるらしい。シャロだけなら気のせいって可能性もあったが、ルルを含めたルーン使い全員がそう言ってるのでさぁ大変。王都に集まったルーン使いが情報共有をするのだ。
「ほなウチはウチで本格的に新型エメスアルマの開発進めさせてもらうわ。あとチィちゃんの召喚獣の改良と符操霊の魔改造と魔法薬の調合と……」
「にゃはは、ヘカテちゃん忙しすぎ~。せっかく王都来たんだし、王都で休もうよ」
他方、ヘカテは新型リヴクラフトの開発だ。もっと言うと彼女の愛機であるデュラハンロボ――エメスアルマの開発である。
現在乗っているエメスアルマ・ネクサスは、クニュフ由来の未来知識が突貫工事的にぶち込まれたものだ。でもって今度作ろうとしているのはネクサスに組み込んだ未来知識を発展・成熟させたモデルである。理論的には既に完成しているとの事で、王都工業エリアにある例の貸し倉庫で組み立てる予定だ。名前はまだ無い。
ともあれ、新しい機体の登場にはワクワクを禁じ得ないね。
「で、待機中のアタシ等は何すんスか?」
「決まってんだろ」
ルクスリリアの問いに、俺はニヤリと返した。
王都、草薙、自由時間……何も起きないはずがなく。
「ハクスラだ」
「ッスよね~」
レベリングの時間だ。
〇
西区ギルドは変わった。
新人こそ集まりやすいがベテランが定着しづらいのが迷宮稼業であり、王都の転移神殿である。けれども少し前までは数多くの銀細工持ち冒険者が西区の迷宮ギルドを拠点としていたのだ。
それも、大したトラブルを起こさない冒険者らしくない優良健康冒険者達が。
「おうおうおう。おみゃー等今日も迷宮行っとったんけ? もちろんボスへの上納金も一緒に払ったっちゃねぇ?」
「ははははい、もちろん支払い済みですゥ! ですがその、以前より上納金の額が上がっているような……」
「あぁん? おみゃー、うちが決めた金額に文句があるってゆーのかぁ?」
「めっそうないでぇえええす……!」
故にこそ、平穏な西区ギルドを知っているギルド職員は思うのだ。あの頃は良かったなぁ、と。
現在、西区の迷宮潜りは“九鼠会”なる巨大同盟に半ば支配されていた。別にガチで九鼠会がギルドを仕切っているのではなく、とにかく数が多くて質が悪いから荒れてるのだ。
九鼠会とは、一言で言うとダメ冒険者の煮凝りのような同盟だ。粗暴で喧嘩っ早く、他人に迷惑をかける事を何とも思わず、かといって衛兵に捕まるような犯罪はやらず、やらかしても何やかんやと免罪を得る……ギルドからすると極めて厄介な存在だ。
あまつさえ、九鼠会は強引な勧誘活動を積極的に行っており、噂では弱みを握られた冒険者が何人も加入させられているらしい。
新人はこの雰囲気を嫌い、別の区に移るか王都を出る。すると九鼠会は相対的に勢力を増し続けるという負の循環が起こるのだ。それにより、西区ギルドの治安は以前よりも悪化していた。
「あぁん? んなもんスルーだスルー。そのうち消えてなくなるさ」
他方、そんな状況をベテラン職員の受付おじさんは笑って受け流していた。
ベテランである彼は、現状は全然最悪ではない事を熟知しているのだ。事実として、西区の三悪が粋に暴れ回っていた時代はもっと酷かった訳で。
それに、もうすぐ奴が帰って来るとも確信していたし、そうしたら今の西区ギルドも元に戻る事もまた確信していた。
そんな、ある夏の日の事である。
「イシグロ! イシグロじゃねーか! それにお前、後ろの奴等はもしかして……?」
「お久しぶりです。それについては追々」
王都西区の転移神殿に、とある冒険者が帰ってきた。
先頭を歩くのは黒髪黒目の男だ。その隣を色とりどりの幼女めいた少女団が歩き、両者の背後から見知らぬ冒険者の一団が続いた。
揃いの衣装に、不揃いな種族。胸には突き立つ剣に月桂冠の記章。その数、二十一名。草薙の剣の下部同盟、天群雲である。
「ヘルガだ! ヘルガがついに王都にやってきたぞ!」
「うぉおおおお! ルルちゃん可愛いいいいいい!」
「生メアリーでっっっけぇぇぇへぇえええ……」
実物の天群雲を目にした結果、ギルドはイシグロ到来の報より明らか派手に盛り上がった。
かつてないほど好意的な視線に、天群雲の各々なんとも言えない表情である。ヘルガは恥ずかしそうにして、ノエミはつーんとお澄まし顔。一方、玉兎のルルはニコニコでアイドル的応対をしていた。
天群雲の噂は王都にも轟いている。オーディションを受ける為にわざわざ故郷のランベール領まで行った冒険者までいるくらいだ。
「どうもお久しぶりです。リンジュから色々巡って戻ってきました。帰還報告の書類を頂けますか?」
「おう、ちょっと待ってな。そんでお嬢ちゃんが“武血義理”のヘルガか」
「はい、ヘルガっす! よろしくお願いします!」
にわかにざわつく界隈の中、イシグロと魔獅子女子が受付おじさんのところへやってきた。
対する受付おじさんは、手続きの書類を出しながらイシグロが連れてきた一団を観察していた。
天群雲は二十一名の大所帯である。その全てが銀細工級の圧を放っており、またその全てがラリス騎士団並みの規律と統制が取られているようだった。
イシグロ手ずから鍛えあげた、精鋭中の精鋭。その結成目的は、受付おじさんからはあまりにもあからさまだった。
「へっ、そういう事かよ……」
イシグロは、災厄に対峙するつもりなのだ。
黎明が迷宮狂いになる前からイシグロと付き合いのある受付おじさんは、奴の本質が守護者である事を熟知している。どうやっても逃げられない災厄に対し、諦めて託すのではなく自ら立ち向かう道を選んだのだ、この男は。
天群雲の育成には、トリクシィやフィーランの指導等で得たノウハウを活用しているのだろう。つまり、イシグロはあの時から腹を決めていたのだ。その事を感得した瞬間、受付おじさんは背筋に電流が走るような感覚を味わった。
草薙の歴史に、また一ページ。
「酒場に行くのは自由だが、王都では最低でも二人一組で行動するように」
「「「はい! わかりました!」」」
ややもせず、手続きを終えたイシグロ達は転移神殿を出ていった。
既に天群雲ファンが出来上がっていたようで、天群雲に魅入られた冒険者は立ち去っていく面々に手を振っていた。
「いやぁイシグロさんようやく戻ってきてくれましたね。これで九鼠の奴等も終わりでしょう」
「終わりっつーか逃げてくんじゃねぇかな? 派手に喧嘩売って派手に負けてよ」
「それより天群雲だろ! 前にアクスタ見せてもらったけどほぼほぼ本人だったじゃねーか! ルルちゃん可愛かったなぁ……」
彼等が去った迷宮ギルドは、イシグロと愉快な仲間達の話題で持ち切りだった。
淀んでいた転移神殿に、新しい風が吹いていた。
後日のこと。
案の定というか何というか、イシグロは新しい風ではなくお馴染の嵐を伴って再来した。
「という訳でリカルトさん、思う存分うちの子達シゴいてやってください」
「いやタイマンだとおじさんの方がシゴかれそうだけど……まぁやれるだけやってやらぁ」
「みんな、リカルトさんの言う事聞くんだよ。あーでもセクハラしてきたらボコボコにしていいから」
「しねぇって! 怖ぇなオイ……!」
そこからは、いつもの草薙節が炸裂した。
まず始めたのは鍛錬場での訓練である。天群雲が一斉に鍛錬場に行ったかと思えば、イシグロは淫魔銀竜魔獣天狐天使のいつメンで迷宮に潜っていった。
しかも、いつぞや枯渇した巨像迷宮に代わって出現した上位迷宮に、である。下位でも中位でもなく上位だ。刻むだろ普通、もっと段階を。
「あまり楽しくなかったわ……」
「巨像迷宮君が死んでコレが生まれたのか。はぁ、まったく嫌になるね。あのどっすん巨像君が恋しいぜ」
「経験値メインのアタシ等からするとめちゃ良い迷宮だったッスもんね~」
結果、何事もなく戻ってきた。
その手には、当然のように迷宮の主が吐き出す聖遺物があった。これを求めて幾人もの冒険者が未帰還者となった、未だ高価買取キャンペーンの続いているレア聖遺物である。
「換金お願いします」
「おう、緑の一番な」
そして、いつも通り受付おじさんのところへ持ってきた。
イシグロは主の聖遺物だけではなく通常の聖遺物も余さず持ち帰ってくるので、全てを宝秤に運ぶだけでも重労働だ。そんな雑用を、受付おじさんは気持ちよさそうな顔でやっていた。何なら他のギルド職員も羨ましそうにしている。
「どうでした? うちの天群雲は」
「いや普通にやべーだろ。このレベルを? 一年や二年そこらで? マジでどうかしてるぜ……」
「リカルト先生には冒険者として大切な事を教えていただきました。娼館の割引情報とか、ダルい同業者のあしらい方とか、女性冒険者との近づき方とか……」
「リカルトさん……」
「いや違う! いやいや違わねぇけど! 実際問題、冒険者やってくなら必要だろ? そーゆーギルドが教えてくれねぇ情報ってさ!」
そんなこんなで無事に換金し、天群雲と合流して帰って行った。
そのまた翌日である。
「こんな感じでどうでしょうか? あーし的には結構いいと思うんすけど」
「うん、いいね。じゃあ弁当買って早速潜ろうか。忘れ物チェックも忘れないように」
「「「は~い」」」
草薙御一行である。昨日と同じくゾロゾロと転移神殿に来たかと思えば、ギルドが所蔵している迷宮録を広げ、その日のうちに五組に分かれて迷宮探索を始めていた。
しかも全員同じ迷宮である。同じ転移石板に触れ、一組一組潜っていくのだ。最後にイシグロのいる組が潜っていくと、転移神殿に謎の静寂が過った。
昨日の今日でもう潜るの? とか。なんで同じ迷宮に潜るの? とか。群雲も群雲でなんでそんなにあっさり潜ってくの? とか。ともかく、イシグロを知ってる冒険者も知らない冒険者も、イシグロの奇行に呆然としてしまった。
「「「換金お願いします!」」」
「お、おう。緑の……一番から五番な。なんだよこの量……」
そして、どっさりと聖遺物を持って帰還してきた。
イシグロがどっさり持ってくるのはいつもの事だが、イシグロがいない組も袋いっぱいに聖遺物を詰め込んで持ってきた。これだけで並みの同盟一年分の稼ぎに匹敵する金額である。
「西区名物・イシグロ道場だーっ! 命知らずな奴! 出てこいや!」
「つっても相手は天群雲とかいう腰巾着だろ? 余裕だぜ」
「ちょうどいいくらいの激マブなスケがいるじゃねぇか。あれくらいの剣士なら、俺のが強いぜ」
またまた明くる日、イシグロは両同盟名義で模擬戦依頼を出し始めた。対人戦訓練を目的とした模擬戦依頼である。適当に戦うだけで金が貰える神クエだ。
当然、威勢のいい金欠冒険者は依頼を受注し……。
「「「すみませんでしたーっ!」」」
案の定、別人になって帰ってきた。顔だけ作画崩壊したのである。
依頼を受けた冒険者曰く、天群雲はマジで全員銀細工級の強さを持っていて、その二十一人全員の相手をさせられた上にイシグロ達とも戦う羽目になったという。
最早道場ではない、迷宮だ。以降、この模擬戦依頼はイシグロ迷宮と呼ばれる事となった。
「あらヘルガちゃん! 今日もトレーニング? 偉いわねぇ」
「うっす、一日サボるとすぐ鈍るんで、あ、荷物持つっすよ」
「ありがとうねぇ。これ中身全部鉄のインゴットなんだけど持てるのかい?」
「オッッッ……もいけど! 大丈夫っす! グーラさんの剣のが明らか重いんで!」
いつも通り異常なイシグロの一方、天群雲の面々は冒険者にしてはかなり控えめで邪悪ではなかった。
まず喧嘩をしないし、ギルド職員への態度も礼儀正しいし、街での様子も一般庶民と変わらない。でもって愛想も良いのだから、彼等彼女等はあっという間に西区に馴染んでいた。
「イシグロさん♡ また模擬戦依頼を出したと伺ったのですが本当ですか♡ ぜひ参加させてください♡ 天群雲全員でかかってきてくださっても私は一向に構いません♡」
「おーほっほっほっ! 久しぶりに王都に来てみればこれまた久しぶりの顔があるじゃありませんの! しかも童貞ボーイまでいるじゃありませんのーッ!」
「ようイシグロ! 西区でお前の弟子と戦えるって聞いて戻ってきてやったぜー!」
「ククク……改めまして“流星刃”のトリクシィです。今後ともよろしく」
「ゲゲゲッ! オデ、マエヨリ、ツヨクナッタ! コンドコソ、カツ!」
そんなある日の事、西区転移神殿を離れていた冒険者がイシグロ再来の報せを聞いて戻ってきた。
ニーナにクリシャナ、グレモリア。ラフィにトリクシィ、一人称がオデの冒険者など。皆してイシグロ迷宮に潜り、ケロッとした顔で戻ってきた。面構えが違う。
いつの間にか、イシグロがいた頃の西区ギルドに戻っていたのだ。
「けっ、なんだい。どいつもこいつもイシグロイシグロ。同じ銀細工でもボスのがアットー的に凄いっちゃ」
「んだんだ。違いねぇっちゃ」
「気に入らねぇっちゃ~……!」
けれども、そんな現状を面白く思わない連中がいた。
誰あろう、九鼠会である。
九鼠会とは、ディング魔族国は魔都レバンティンの迷宮ギルドで結成された冒険者同盟である。
盟主は“
その活動内容はギルド視点かなり厄介で、法に反しないギリギリの反社行為を攻めていくアンチストロングスタイル。具体的には買い占め転売やら冒険者依頼の談合などセコくてズルいクソ行為だ。そんな方針のまま各地を転々とし、どんどん数を増していき、やがて九鼠会は王都に根を下ろしたのである。
九鼠会というだけで同業者から席を譲られ、街を歩けば自動で値引きされる。今や王都西区において九鼠会は一大勢力を築いていた。
なのだが……。
「どうしてこうアチシの周りにはバカしか集まってこねぇんだぁあああああ!」
当の同盟の盟主――魔鼠人のメイヴは、あまりの激務に頭を抱えていた。
メイヴは九人姉妹の長女である。レバンティン生まれストリート育ち、悪そうな奴等大体友達。どん底から這い上がり、銀細工にまでなり上がった女傑である。
「やれと言った事はやらない! やるなと言った事はやる! 指示を曲解して訳の分からん結論出して、そのくせ行動力だけは人一倍!」
そんな彼女は、妹達や子分達の愚行に頭を悩ませていた。
実際のところ、九鼠会は法に反しないギリギリを攻めているのではなく、暴走した盟友がそのまま突っ切りそうになって都度メイヴがフォローして、結果として儲かったり仲間が集まったりしているだけに過ぎないのである。
ある意味、メイヴはスローライフしたい系勘違い成り上がり主人公みたいな特質を持っていた。
「なぁんで考えるより先に身体が動くんだよ! 王都は迷宮じゃないんだぞ! この馬鹿野郎!」
メイヴは冒険者のバカさ加減を甘く見ていた。
バカな妹達はメイヴの教え以外を覚えられないし、そんな妹が連れてくる冒険者は妹並みにバカばっか。九鼠会に入らなかったら即お縄で奴隷堕ちしてただろうなってくらいの。そんなバカは放置する方が恐ろしいので、結局メイヴが面倒を見るのだ。
結果、バカはバカな事をしまくった。バカが問題を起こす度にメイヴが出ていき、口八丁手八丁でルールの抜け穴を突いてギリ犯罪にしないよう必死に立ち回っていた。そうやって火消しに成功すると、バカからバカほどリスペクトされるのである。
「はぁ、はぁ……草薙についてはアレだけ言い聞かせたんだ。いくらあいつ等でも迷宮狂いに喧嘩売る事はないはず。うちの子は待てができるんだからな……できるよな?」
そして、メイヴの最新の悩みといえば、最近王都に帰還したイシグロ関連であった。
情報は宝だ。ディングを出る前から、メイヴはイシグロについて調べ上げていた。
曰く、連続迷宮踏破の記録を持つ迷宮狂い。
曰く、毎日のように同業者を分からせている戦闘狂。
曰く、身内を愚弄されたら即座に剣を抜く狂戦士。
これだけでもう、関わってはいけない類いの冒険者だという事がハッキリわかる。
メイヴ当人ならともかく、ナチュラルにデリカシーのない妹はイシグロ相手に何を言うか分からない。その他のバカも同様だ。絶対に接触させるべきではないだろう。ちょっとした事で花火がドカンだ。
「さて……これからどうすっかねぇ。ちまちま築いてきた王都のコネももうすぐ使えなくなりそうだし、とりまリンジュあたり行ってみっかなぁ」
ハチミツ入りワインを呑みつつ、疲れた目を押さえながら考える。
いっそ何か起こる前に王都を出るのも手だ。あるいは迷宮のある田舎に引っ込むのもいいだろう。貴族が治める場所に連れていくと問題を起こしそうだが、かといって迷宮都市でなければロクな稼ぎを得られない。
「はぁ~あ、盟主の仕事も楽じゃねぇや……」
我知らず、溜息が出た。
元々、迷宮稼業は皆で生き残る為に始めた仕事だ。それが数は力だとか言って無駄に仲間を増やしまくり、増やし過ぎた現在はその管理に四苦八苦している。
誰でもいいから、この苦しさを分かってほしい。そう柄でもない事を考えるでもなく思うメイヴだった。
「ボス! 大変です! 緊急事態です!」
「なんだい騒々しい……」
うだうだと一人酒をやって、もうこのまま横になろうかなと思った頃である。ノックも無しに盟友の一人が執務室――色んな書類や本でいっぱい――に入ってきた。
様子からしてガチめの緊急事態なのだろうが、今はもう怠くて後にしてほしかった。どうせ妹がバカやったって話だろう。
「噴水広場で妹様達が天群雲とガチ喧嘩してます!」
「ぶーっ!」
呑んでた酒を吹いてしまった。対する部下は「うわっ!」と酒しぶきを回避していた。例によってコイツもバカなのだが、回避能力だけはバカ高いのだ。
「げほっげほっ! おぇッ……! ま、前にイシグロには絶対手ぇ出すなってアレほど……あっ、天群雲はイシグロじゃねぇって思ったのか! なるほどなぁ……じゃねぇわ! 分かるだろ! いくらなんでも!」
「ボスお早く!」
「あぁぁぁもぉおおお!」
急かされ、急いで準備を整える。最悪のケースも想定し、フル武装&逃走セットを着こんでいった。
「うわぁ……思ったよりマジでやり合ってらぁ」
噴水広場に辿り着くと、メイヴの妹達と天群雲はメイヴの想像以上にガチで戦っていた。
天群雲は三人で、九鼠会は十二人。十二人中、八人が実妹だった事実に実姉のメイヴは眩暈がした。
もっと言うと、十二対三で互角な事にもクラッときた。バカだが強いのが妹なのに、これはもう勝ち目無しである。加えて自信も全ロストだ。
「見ろ! ボスが助けに来てくれたっちゃ!」
「これで勝つる!」
「かっこいいなぁ! 憧れちゃうなぁ!」
なんて思っていると、八人妹+αがメイヴの到着に気が付いた。天群雲の三人はストップし、集合して此方を警戒している。
止まってくれたという事は、まだ話し合いの予知はあるのだろう。そう判断したメイヴは、両手を挙げて無防備を装いながら声を発した。
「よう! うちの若いのが失礼したな! ちょっと話を聞いちゃあくれねぇか!」
「あんたがこいつ等のボス……確か、九鼠会のメイヴだな」
「そういうお前はヘルガか。アチシに戦いの意図はねぇ。ちょっとお前さんから事の経緯を聞かせちゃあくれねぇか?」
「分かった。それが、あーしが見てない間にそこのノエミと口論になってな……」
「あいつが悪いのよ」
「先に剣抜いたのはソッチだっちゃ!」
「「二人とも黙れ!」」
「「はい……」」
どうやらヘルガ側も穏便に解決したがっているようだ。メイヴは感動した。なんて文化的な会話だろうか。歩み寄りの姿勢もそうだが、今のヘルガにはちょっぴり親近感を覚えてしまった。
ともかく、この場は頭を下げて終わらせて、後日菓子折り持って挨拶行けばいいだろう。そう思ったメイヴはヘルガと交渉を……。
「なんかノエミがまた喧嘩してるって聞いたんだけど、一体何がどうなってんの?」
「げぇっ、イシグロ!?」
そこにイシグロが現れた。
突然現れた迷宮狂いに、メイヴは一目で圧倒されてしまった。何故なら、メイヴには
そんなメイヴをして、イシグロの身体に漲る情念は並みの銀細工を優に超えていた。一体どんな感情なのかは分からないが、とにかくヤバい事だけは理解させられた。
「ふむ。なら、これは宣戦布告と判断すべきか?」
「あ、いや待ってくれ。アチシに敵対の意思はない。こいつらにはよ~く言い聞かせとくからさ! 頼むよ!」
狂気に染まった瞳が、損得勘定で以て向けられる。「お? やんのか?」とやる気になるバカ共。他方、件の半吸血人も刀の鯉口を切っていた。
「んぅ~? 九鼠? 魔鼠? メイヴ……?」
ふと、イシグロの隣にいた猫又少女が首を傾げていた。一瞬、謎の既視感を覚えたが気のせいだろう。
「メイヴと、ヘルガ……あっ!」
「どうしたクニュフ」
すると、何かを思い出したような猫又少女はイシグロに何事か耳打ちしていた。
やがてイシグロと猫又は目を見合わせ、うんと頷き合う。
「あーっ! はいはい、ねぇ、うん! メイヴさんでしたね! レバンティンの九鼠のお噂はかねがね、一度お会いしたいと思ってたんですよ!」
「……へ?」
かと思えば、急に声音を変えたイシグロにそんな事を言われてしまった。
メイヴを筆頭にヘルガ達まで呆気に取られる中、イシグロは夜明けの太陽のような笑顔を浮かべながら続けた。
「ディング出身の魔鼠族の九人姉妹。冒険者歴は長く、レバンティンで銀細工を授与された後は正式に九鼠会を結成。盟主を含めメンバー全員が斥候職という構成でありながら、数多くの迷宮を見事に踏破したとか。特に長女であるメイヴさんの我流の短剣捌きは凄まじく、レバンティンの裏闘技場ではナイフサバイバルマッチの初代優勝者と伺っております。我流の身でそこまで練り上げるには眠れない夜もあったでしょう。感服いたします」
「お、おう……?」
「こいつ分かってるっちゃ? ボスの良さを分かるとは見る目あるっちゃ!」
「いい奴だっちゃ!」
めっちゃ褒められた。ちょっと恥ずかしい。妹達がうんうん頷いている。
その後もイシグロのメイヴ褒めは続き、いつの間にか喧嘩をする空気ではなくなっていた。
「どうでしょう? ここはお互い水に流して食事でも。奢りますよ」
「「「やったー!」」」
「バカお前ら! さっき盟友殺そうとしてただろうが……!」
「構わないわよ。盟主様が言うなら私も水に流してあげるわ」
そうこうしていると、妹達&九鼠の盟友はイシグロ一行についていった。タダ酒に弱いのだうちのバカは。
店に着くと、やたら美人な麒麟族の女が酒や料理を運んで来た。机いっぱいが酒池肉林だ。
「でよぉ、そん時のボスがよぉ……」
「なるほど」
「バーッとやってササッだったっちゃ!」
「すごいですね」
「でもその後のギルドの沙汰がさぁ」
「悪いのはメイヴさんではありません」
気付けば妹達は懐柔されていた。元々、妹達は食べ物を恵んでくれる奴に弱いのだが、イシグロの場合それだけではなかった。
リスペクトを持って、対等な立場で話を聞いて、国が認める英雄が褒めてくれるのだ。上か下かの人間関係しか知らないメイヴ達にとって、ソレは酒よりも甘美な体験であった。
これまた、気付けば九鼠の盟友達もノエミという半吸血人と意気投合していた。こいつもこいつでチョロかった。
「どうでしょう、合同訓練など。うちは天群雲だけで二十一人いるので、お互い良い経験になるかと」
で、またまた気付けば後日合同で訓練をやる流れに。酔っていたメイヴもこれを受諾した。
訓練では、天群雲と模擬戦などをやった。面白いもので、タイマンだと勝てないのに集団戦だとかなり良い戦いになった。
「どうでしょう、皆さんに合う能動技能をお教えしますよ」
その中で、メイヴ達は武術の奥義みたいなのを教わった。
他人の得手が分かるというイシグロは、八人もいる妹一人一人の得意を見て技を授けてくれた。妹だけじゃない。メイヴや訓練に参加した九鼠の盟友にも親身になって稽古をつけてくれた。
「どうでしょう、迷宮探索など。もちろん儲けは折半で。うちって実は斥候不足なんですよね」
「「「流石だっちゃ兄貴!」」」
後日、一緒に迷宮に行って、普通に踏破して帰ってきた。
実際、クッソ楽に踏破できたのだ。迷宮狂いと綽名されるイシグロの能力は凄まじく、迷宮での奴はめちゃくちゃ頼りになる男だった。指揮を任せられた分、思う存分戦う事ができた。
「流石イシグロの兄貴だっちゃ!」
「いやぁイシグロの兄貴がボスと結婚してくれたらいいんだけどなぁ」
「バカお前兄貴には嫁が九人もいるっちゃ。愛妻家なんだっちゃ」
「それにボスは正妻じゃないとダメだっちゃ」
なんやかんやで、妹達はすっかりイシグロに懐いてしまった。
笑顔の妹を見てメイヴもハッピー。盟友が強くなって同盟的にもハッピー。とにかくイシグロを怒らせずに済んでハッピー。
「……って、思いっきり懐柔されてんじゃねぇかぁああああ!」
なんという事でしょう。いつの間にか、草薙の剣と九鼠会は仲良し同盟みたいになっていた。
しかも、盟友の一部はヘルガの人柄に心酔しているではないか。このままでは同盟を乗っ取られてしまうだろう。
「でもよぉボス~、イシグロの兄貴もルクスリリア達も、みんな良い奴だっちゃ」
「食べ物くれるっちゃ」
「騙そうとしてこないっちゃ」
「うち等をバカにしてこないっちゃ」
「それもこれもお前等を絆そうって魂胆なんだよ! 騙されんな!」
「ん? イシグロの兄貴がうち等みたいなバカを囲い込む理由なんかないぞ」
「……あぁ~」
確かに、それもそうだ。
搾取され続けた過去の経験のせいで、優しい相手はまず警戒するのがクセになっていた。
思えば、イシグロに対してはとにかく警戒するばかりで、彼の人柄や心根を知ろうとしていなかったように思う。
「腹ぁ割って話してみるしかねぇな」
今一度、見定めるしかないと思った。
迷宮狂い……否、黎明のイシグロを。
「悪いな、こんな夜遅くに呼び出しちまってよ」
「いえ。私もメイヴさんとは一度じっくり話しておきたかったので」
という訳で、馴染みのバーにイシグロを呼び出した。
そうして話しているうち、イシグロの癖が見えてきた。武術の型のように、イシグロの会話には一定の型が見受けられるのだ。まるで、メイヴの機嫌を取る……いや少し違う、メイヴを労わるような話し方だ。
かといって別に口説いている雰囲気はない。分かったのは、イシグロがメイヴをリスペクトしているのは本心であるという事だ。
そこもまた、分からなかった。メイヴは、悪名高い九鼠会の盟主なのである。
「はっきり訊くぜ。お前は何を目的に九鼠会に接近してきた? ギルドに頼まれたか? 個人的な怨恨か? それとも妹達を利用するつもりか?」
もう色々面倒くさい。そう思ったメイヴは、正面から問いを放った。
沈黙。酒器を置いたイシグロは、試案するような顔をした。
やがて、小さく首を振った後にぽつりと口を開く。
「メイヴさんがお疲れのようでしたので」
「なに……?」
ちょっとどころではないくらい、予想外な返答だった。
訝しむメイヴに対し、イシグロは自身の考えを整理するような声音で続けた。
「ご存じの通り、我々草薙の剣はやがて来る災厄に備えている最中です。有力な冒険者には事前に目星を付けておりました。メイヴさんもその一人でした。そのメイヴさんがお困りのようでしたので、自分に何か手伝える事はないかと思った次第です。疑わしい真似をして申し訳ございませんでした」
「え? 目星? それは一体、どういう……」
「勧誘するつもりだったんです、草薙の門に。ですがメイヴさんは九鼠会をとても大事になさっているようでしたので、勧誘するのは止めておこうと仲間達と相談して決めました。ならせめてご助力を、と」
「えぇ~っと……つまり、アレかい? 勧誘するつもりだったアチシが疲れてそうだったから、休ませる為に訓練なり探索なり手伝ってたって訳かい?」
「はい」
「はあ」
全く、訳の分からない話だった。
前々からイシグロはメイヴを勧誘しようとしていて、けどメイヴは妹達と一緒なのが良さそうで、それでも疲れてたっぽいから助けてやろうとしたというのだ。
一つ目はまだ分かる。メイヴの腕を買ってるってだけの話だろう。二つ目もまぁ分かる。無理に引き入れようとは思わなかった訳だ。だが、三つ目は分からなかった。何故そこまでして、メイヴを気にかけていたのだろうか。
利己的なのか利他的なのか、分からない男だった。
「アンタねぇ……損するよ、その生き方」
「そうでしょうか」
心を落ち着け、改めてイシグロの目を見る。相変わらず、その身には異常な量の情念が渦巻いていた。
迷宮狂いというフィルターを外してみれば、前よりずっとよく見える。
その奥にある、決して折れない信念が。
「……疲れちゃいるが、好きでやってる事だ。まぁスッキリはしたよ」
イシグロも、メイヴと同じだった。
守りたいものを守る。それだけなのである。
メイヴにとっての妹は、イシグロにとっての妻達であり仲間であり、皆が生きるこの世界なのだろう。
確かに、妹が生きる世界が滅んじまったら守るとか以前にどうしようもない。あまりのスケールのデカさに、メイヴは少し笑ってしまった。
「乾杯だ。もう一回、今度はお前等に」
「ええ。喜んで」
そうして、メイヴは改めて乾杯した。
不器用でお人好しな英雄様に。
イシグロもまた、仮面を外して杯を干した。
翌日である。
「という訳で、お前等クビな! お前もお前もお前も! アチシ等の為にクビ!」
「そんな! そんな! ほんの十人ぽっち治療院送りにしたくれぇで!」
「酒場で生意気こいてた野郎をシバいたくれぇで!」
「ちょいと馴染の店から小遣い貰ったくれぇで!」
「「「血も涙もねぇ!」」」
九鼠会を集合させたメイヴは、本当にマジでダメな盟友達を一斉解雇した。
こいつらは妹にゴマを擦って九鼠入りしたクズである。足引っ張る事しかしてないし、何ならメイヴの悩みの種の半分はこいつ等なのである。これ以上、守ってやる義理はなかった。
「あとお前等には今度のギルドの法令遵守研修受けてもらうからな! そんで試験合格するまで酒抜きだ!」
「「「血も涙もねぇ!」」」
あと、残った盟友も今後はキッチリ教育する事にした。これを機に、九鼠会はクリーンな同盟に生まれ変わるのだ。
それは草薙と付き合っていく為でもあったし、妹達の将来の為でもあった。いつまでも姉頼りでは困る場面もあるだろう。
姉は妹離れを、妹は姉離れをしなくちゃいけないのだ。
「今日もよろしくな、ヘルガ!」
「あぁ、頼りにしてるぜメイヴ。なんか知り合ったばっかとは思えねぇよ」
そんなこんな、九鼠会は生まれ変わる覚悟を決め、心機一転迷宮稼業を再開するのであった。
王都西区の活気と治安は、このようにして改善されていったのである。
一方……。
王都西区、とある借家のリビングにて。
「いやぁここで愛羅武勇のメイヴに会えるなんてラッキーだったニャ~」
「それに八人も妹がいて、しかも未来ヘルガの仲間だったとは」
イシグロとクニュフは、作戦成功の喜びに浸っていた。
何故、イシグロがメイヴ達に気を配り、あまつさえ指導等して面倒を見ていたのか? それはメイヴが未来英雄だったからだ。
クニュフ曰く、メイヴはクソ未来におけるヘルガの仲間で、二人合わせて“
そこで、当初の計画通り英雄確定の彼女に投資したのである。良い関係を作る為に妹達を懐柔し、メンタルの不調を改善すべく休息時間を与え、最後に本心を明かして信用を得る。
いわばこれは、攻略サイト見てヒロインを最速攻略したようなノリであった。
「よかったな、クニュフ」
「うん! また一つ恩返しができたよ! ありがとね、パパ!」
直接的にメリットがあった訳ではないが、全くの無意味ではないはずだ。少なくともクニュフの心は軽くなった。
こうして、クソ未来で妹を守れなかった姉は、妹を守れる力を得たのである。
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ゲーマーズ様は、書き下ろしSSとルクスリリアとエリーゼのアクリルスタンドになります。
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とらのあな様は、書き下ろしSSとタペストリーになります。
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◆九鼠会◆
・メイヴ
魔鼠人。鼠系種族にしては大柄な方。ディング魔族国の銀細工で、卓越したナイフ使い。やや戦士寄りの斥候職。
レバンティンの貧民街出身で、後に姉妹全員で浮浪児となる。以降、バカな妹を養う為にストリートで生き抜き、やがて冒険者になる。
迷宮稼業をはじめてからは外れ者を集めて同盟を組織し、聖遺物に頼らない稼ぎをいくつか手に入れる。しかし魔王軍発表の折にビジネスの一部が破綻。レバンティンに見切りをつけ、ラリスを転々として王都へ。
クソ未来ではヘルガの仲間の一人だった。妹は全員死んでいる。
裏設定というか初期設定として、メイヴ含めた九鼠会はロリヒロインの予定だった。各地の情報を集めてくる情報屋ポジ兼ファミリーには入らない外部協力者ポジというか。その時のメイヴの種族は化狸族で、コテコテ大阪弁を喋る商人キャラでもあった。「まいど!」って言って色々商品とか情報とか仕入れてくる感じの。名前もメイヴじゃなかった。原型がねぇ……。
・メイヴの妹達
総勢八名の妹。魔鼠族。異世界人にしては小柄。闇討ち寄り斥候ナイフ使い。
八人とも見た目は殆ど同じだが、実は一人一人適性が違う。イシグロによって得意分野が明確になり、連携力に磨きがかかった。
アライメントは混沌・悪だが、それら特性は両方とも幼児レベルのそれであり、要するにクソガキのそれ。あくタイプの冒険者にしては控えめで邪悪ではない方。
初期設定では情報屋のロリ従業員だった。こっちは原型残ってる。