【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。
今回は一人称、イシグロ視点です。
よろしくお願いします。
王都に帰還してから、大体一ヵ月が経過した。
秋である。鬱陶しい暑さは過ぎていったが、災厄フィーバーはまだ続いている。
王都は今日も平和だ。
今現在、俺達は災厄に対抗すべく第三王子の指揮下で行動している。そこで俺達に出されているのは、王都での待機命令だった。
待機は王都にいればいいので、その間に出来る事をやっている。レベリングはそのうちの一つであり、最重要課題であった。
まず、レベリングの進捗について。
俺は、新たに生えてきた二つ名最上位職“黎明”を上げている最中だ。我が好奇心は“空手家”の方に向いているが、今はステ上げ重視なので我慢である。空手バカになるのは災厄を越えた後の楽しみに取っておこう。俺、この戦いが終わったら空手やるんだ。
スタメンのレベリングについてだが、意識してルクスリリアとイリハに経験値を吸わせている。この世界の経験値配分は貢献度制なので、そこまであからさまなパワーレベリングはできないが、二人にはなるべく早いうちにレベル上限を解放してほしいところ。
勿論、エリーゼ、グーラ、レノの覚醒三人娘も育成中。特にエリーゼは二つ名ジョブで装填魔法の威力が上がるので積極的に迷宮に潜っている。彼女の場合は単に戦いが好きってのもあるが。
シャロ、ユゥリン、ヘカテは別の仕事で忙しいのでまた今度。控えのクニュフは天群雲の監督をやってもらいつつ、スタメンの休養日に俺と潜っている。
次、レベリング以外の準備について。
戦いは力だけで決まるモノではない。弘法筆を選ばずとは言うが、一流は一流の道具を使った方がいいのは明白である。
なので、ルクスリリア達の装備を更新する予定だ。専門家が言うには現状でもハイエンドなので性能の上昇はごく僅からしいが、耐久限界が来る前に新しいのに替えとこうとの判断だ。戦ってる最中に壊れるの嫌だからね。
ちなみに、この新装備は結構前から発注してたのだが、なんか災厄関連で納期が遅れているそうだ。進捗如何ですか? と訊いたところ、馴染みの防具工匠セオドロス氏からは青ざめた顔で「もうそろそろでございます」と返答された。
「これが初代エメスアルマで、こっちがエメスアルマ・リライズ。これがエメスアルマ・ネクサスで、そんでこれが最新モデルのエメスアルマ・ヴァーテクスや!」
「全部同じじゃないッスか」
「かーっ! これやから素人はアカン! もっとよう見てみぃ!」
もう一つの装備更新で言うと、ヘカテーニャの新乗機である。完成したんだよ、究極のゴーレムが。
その名も、“エメスアルマ・ヴァーテクス”。
例によって見た目は初代エメスアルマと殆ど変わってない。装甲の素材が輝銀魔石メインの合金になったので、装甲のカラーリングがマットシルバーっぽくなっているのが唯一の変化か。
見てくれはともかく、例の如く中身は大きく変わっている。その前に、リヴクラフトの仕様について再確認してみよう。
リヴクラフトとは、ゴーレムの始祖たるオリジン・ゴーレムに近い先祖返りのゴーレムである。それは主に三つのパーツ群で構成される。
動作学習AIの智核。ボディパーツ全般を指す義体。エンジン兼タンクの炉心。
件のヴァーテクス君は、義体と炉心に更なる未来知識をぶち込み、発展・改良したモデルなのである。
「はっ、ほっ、よっと! どや? ウチの華麗なダンス! ウチでもエメスアルマ乗ればこれくらい踊れるんやで~」
「その踊り、いつぞやフライシュ領の村で踊ったやつですね。何年前でしたっけ」
「えっ、なにそれなにそれ? 気になるニャ~」
結論から言うと、エメスアルマ・ヴァーテクスは凄く人間っぽい動きができるようになった。
曰く、義体内部のフレームおよび動力パイプを撤廃し、未来知識にあった魔力障壁式に変更したらしい。ちょっとイメージし辛いが、物理的な鉄パーツの殆どを管状の魔力障壁に置換したのだ。
これにより、今までよりも多くの人工筋肉――これも新開発で従来比の三割増しの性能――を多く搭載する事が可能になり、また滑らかな操作ができるようにもなったのである。例えるなら、機動戦士から汎用人型決戦兵器になったような感じだ。流石の動きだ、シンクロ率が違いますよ。
なお、ヌルヌル化に伴い、劣悪だった燃費や操作性は据え置きどころか悪化しており、良くも悪くも真祖レベルじゃないと扱えないヘカテーニャ専用機になってしまったようだ。兵器としては落第だが、半身としては完成したと言えよう。
「あと想定外にパンチの打撃力上がってん。例えば最近ダーリンがようやっとる……正拳突きぃ!」
「おぉ。このゴーレム、ゴーレムのくせに功夫がありますよ。流石に指一本で止めるのは難しそうですね」
「殆どユグドライザーじゃあねぇか? これよぉ」
また、副次効果としてエメスアルマの格闘攻撃に人類と同格のモーション補正が乗るようになった。
これまでのエメスアルマは、殴って物は壊せても殴って俺とかの高い頑強ステの人類にはダメージを与えられなかったのだ。リヴクラフトのパンチが打撃技として判定されてなかったのだと思われる。ようやく素殴りに攻撃力が乗ったのだろう。
理由については、まぁそうよく分かんなかったです。仮説は立てられるが、あんまり重要じゃないので割愛。細けぇ事ぁいいんだよ。
そこでふとした思い付き。もしかしたら、今の機体なら上手くいくかもという予感がキュピーンときた。
「よし、じゃあヘカテにも武闘家スキル覚えてもらうか。エメスアルマで適用できるか検証してみよう」
「いい機会なので嵐極拳もやりましょうか。アトリエに引きこもり過ぎてて運動不足ですよ最近」
「なん……やと……」
という訳で、以降ヘカテーニャには武闘家ジョブを育成し、各種武闘家スキルを覚えてもらった。
したらエメスアルマでも一部スキルを使う事ができた。シンプルなパンチ・キックなどの能動スキルは可能なのだが、【剛掌底】等特殊技や嵐極拳の発勁等は流石に無理だった。でもエメスアルマで【軽功】ができるのは大きいぞ。
まぁ運動音痴な当人は辛そうだったが。
「あぁそうそう、休憩中にこれ終わらせとったんやった。じゃじゃ~ん、ヘカテーニャ式符操霊~」
「ん、ヘカテ働き過ぎ」
「半分趣味みたいなもんやし」
リヴクラフトの他にも、ヘカテは符操霊の研究も並行して行っていた。こっちは別に頼んでいない、ただの彼女の趣味である。
符操霊とは、カードで呼び出す召喚獣と使い魔の合いの子のような存在だ。概要だけ聞くとハイブリッド感があって良さげだが、実際には色々と欠点だらけでクソ未来では全く発展も普及もしなかったらしい。
けれども、そんなクソ未来でも符操者は諦めなかった。いつぞやフォレ市で会ったホビアニ店長――プネウマスター・ジョー氏が研究データを過去に託してくれたのである。
で、符操霊に関しては、かなり面白い事になってたので、早速導入してみる事にした。
「リリース! 往けぇフレードン、【業火熱線】だ!」
いつもの鍛錬場。天群雲の一人が腰のホルダーからカードを引き抜いて魔力を流すと、彼の傍らに立つようにして一体のミニドラゴンが召喚された。
召喚された符操霊は、召喚酔い等もせずすぐさま【業火熱線】を噴いて、吹き終えたと同時にカードに還った。まだダメージを受けてないのにリチャージ状態になったのである。
「リリース! カメナッス、【鋼の忍耐】!」
別の天群雲メンバーが自前のカードに魔力を流すと、さっきと同じように半分寝ているデフォルメ・リクガメが召喚された。亀は欠伸しながら召喚主に頑強強化の支援魔術をかけ、欠伸と共にカードに還った。
一連の流れで分かるだろう。要するに、ゲームでいうアシストキャラとかの扱い方ができるようになったのだ。あるいは簡易な魔法装填と言えなくもないか。問題は魔力消費がバカ高い上にクールタイムも長いところだ。でも武器や装飾品の補助効果枠を削らずに使えると考えれば、充分に使いでがあるだろう。
「壊れたわ……」
「弾け飛んじゃいましたわー!」
「おっかしいなぁ。理論的にはちゃんと誰でも使えるようになっとるはずなんやけど……」
現在、天群雲ではカードバトルが大流行。皆で自分に合うデッキを組んで、自分だけのオリジナル戦法を編み出して楽しんでいる。
けれども、エリーゼを筆頭に我が妻達の半数は符操霊を召喚できなかった。ヘカテが改造して尚、グーラやレノはダメだったのだ。あとクラウディアやルルもダメだったあたり、なんか法則性がありそうだ。
「イヤッホォオオウ! 前までのイルカよりずっと速いぜぇーっ!」
他方、同じくプロフェッサー・ヘカテの趣味で再改造されたシャロの符操霊は、全く別の方向に進化していた。
以前よりも更に更にめちゃくそに空を飛ぶ要員としての役割に特化させたのだ。前まで空でサーフィンしてたのが、今は空で水上オートバイに乗っている感じだ。こっちは出てすぐ帰るヘカテ式符操霊と異なり、シャロの魔力と連動して稼働する長期使用型だ。やろうと思えば俺の空飛ぶ槍と同じように使う事が出来る。
また、シャロと言えばルーンである。これについても一応進展があった。
王都に帰ってすぐ、シャロはルーン使い代表の会合に行っていた。そこで情報共有をしたのだ。
「ん、シャーロットおかえり。会合どうだった?」
「いやぁそれがなんか何処も似たような感じでよ。違和感だけあるって言ってんだよな。具体的には百二十八行目のルーン・コードを……」
どうやら、一部の条件下で特定のルーン文字にバグ的な謎挙動が出るようになったらしい。
何がバグッたのかは説明されても分からなかったが、とにかく一部ルーンが変になってる事だけは確定したそうだ。
ルーン魔術がナーフされた訳ではない……と思いたいが。
「ようイシグロ、今日もこいつらの面倒よろしく頼むわ。ほら挨拶しな」
「「「おはようございますだっちゃ!」」」
他の準備で言うと、単に鍛えたり作ったりしていたばかりではない。仲間を増やしたりもした。
縁あって外部協力者を得たのだ。誰あろう、九鼠会のメイヴである。
クニュフ曰く、メイヴはクソ未来でヘルガと共に戦った英雄らしい。そんで彼女に投資した結果、九鼠会なる優秀な斥候集団を協力者にする事ができた。戦力拡充ができて、未来でのクニュフの恩を返せた。彼女達にもプラスでウィンウィンウィンである。未来英雄なんてナンボおってもええのだ。
あと、なんかギルドからお礼を言われた。受付おじさんが言うには、レイオフ前の九鼠会は結構な悪さをしていたそうで。今はやんちゃする盟友がいなくなって単なる一般冒険者集団程度に収まっているとか。
「おはようございま~す♡ 天群雲コース百二十分オプション全部入りで予約していたニーナです♡ 今日はよろしくお願いしますね♡」
「うわぁ今日ニーナさんの日かぁ。苦手なんだよなぁオレ。倒したと思っても普通に起き上がってくるんだもん……でも美人だからオッケーです!」
ウィンウィンと言えば、転移一年目からお世話になってるニーナさん達とも再会した。
ニーナさん以外にも、グーラ救出作戦の時に戦ったラフィさんや異種族交流会でお世話になったグレモリアさんとも再会した。異常クロスボウ愛者のウィードさんはどうしたんだろうと思ったら、彼は王家の依頼を受けて探索に出かけているらしい。
再会した彼等彼女等とも九鼠会と同等の協力関係を構築できた。仲間内だけでなく色んな人と対戦した方が強くなれるのだ。
「あ、あの~、お久しぶりですイシグロさん。自分フェイレンです。アルヴの森で助けていただいた……」
「ええ、覚えていますよ。メフィスティアさんもお元気そうで何よりです」
その他にも、いつぞやアルヴの森で百合結婚したガン盾森人フェイレンさんとメフィスティアさんとも再会した。話によると、二人は羊人少女もとい羊人美女カリッセさんの一党に加わっているそうだ。
ちなみに、クニュフに曰くフェイレンも未来英雄だったらしい。メフィスティアさんを失って俺同様闇堕ちしているそうだ。百合の間に挟まる奴は許せないが、百合の間を引き裂く奴はもっと許せないね。
「いいですね! ぜひお願いします!」
「俺達もクーシェン行ったりアルヴ行ったりで修行してきたからな! 今度こそイシグロさんに一太刀浴びせてやるぜ!」
「一対一はともかく、一党でかかれば何とか……!」
「むほほ♡ 見てくださいメフィスティアさん♡ あの二人、結構良いと思いませんか♡」
「わかります♡ 天狐の彼がタチでしょうか♡ あぁでも鹿の子の攻めも捨てがたい♡」
お話の流れで、彼女達にも合同訓練に参加してもらう事に。にしても草薙+天群雲+九鼠会+羊人美女一党+αか、なかなかの大所帯だ。
思えば、フェイレンさんは草薙の門以上の促成栽培なんだよな。まだまだ覚えてもらいたいスキルがいっぱいある。彼女も未来英雄なんだし、メイヴさんのように投資させてもらえないだろうか。
そこで一つ思いついた。
そうだ、スキル屋になろう。
別に金で売買しようってんじゃない。無料で恩を売っているのだ。
なに、未来の為なら安いもんだ。
「はい、じゃあね。このカタログの中から欲しいスキル選んでね。おすすめは俺へのお任せコースで、あなたにあったスキルを伝授できますよ」
「え~なにこれ面白~い! この発勁ってクーシェンのやつだよね? 私にもできるかな?」
「あの盟主様? それって僕達も選ばせてくれたりしますか?」
「今練習してるのを習得できたら良いよ」
そんな訳で、カタログを作って仲間内に配布した。分かりやすいようスキルの説明や応用法も添えて。
そしたらこれが大盛り上がり。カタログ眺めてるだけで楽しいとか何とかで、最も注文が多かったのは俺へのお任せセットだった。
大盾使いのフェイレンさんには俺の持ってる厳選盾技セットを教え、大剣使いのディエゴ君には【剛剣一閃】を伝授。その他の面々にもどんどんスキルを伝授した。
これまで俺がジョブを寄り道していたのは全部無駄じゃなかった。皆も頑張ってるし、俺も頑張らないと。
「なんか淫魔の人口密度が凄い事になってるッス! いつから此処は淫魔王国になったんスか!」
「あはは、まぁ淫魔って基本的に国から出られないからね~」
「んぁ~」
続いて、尖兵戦前に色々教えた槍使いユア君にも再会したので、他の皆さんと同じく合同訓練に参加してもらって模擬戦&スキル伝授を行った。
相変わらず、ユア君の動きは滅茶苦茶に気持ち悪かった(誉め言葉)。一速から六速の敏捷強化で緩急をつけつつ常時移動スキルでドゥエドゥエ動くので捉えにくいし、空中戦においても【魔力飛行】は使わず宙を走ったり棒高跳びしたり急降下したりジグザグ移動したりでもう大変。中には俺の知らない【空階】なる能動スキルもあったりして実に興味深かった。
模擬戦中も動きの割にローリスク・ハイリターンな立ち回りを徹底するのでやりにくいったらなかった。素晴らしいと言わざるを得ないので、感謝のフルボッコを進呈した。若いモンには負けんよ。
めでたい事に、双子淫魔のアビー&ラバーさんを含め五人同時に純淫魔契約を行ったらしい。重複できたんだとか五人同時にあの部屋で儀式したんだとか言いたい事は色々あるがとにかくめでたい、当然、彼女達にもピッタリなスキルをお教えした。
「今日はこのメンバーで迷宮に潜る。何度も言っているように命を大事に、だ。あとちゃんと頭目の指示には従うように」
「行くわよ、ついてきなさい」
「張り切っていますね、エリーゼ」
で、だ。スキル伝授代として、合同訓練メンバーには迷宮に同行してもらう運びとなった。
主な編成は草薙から二人、天群雲から三人、伝授組から一人である。色んな人と連携できた方がいいから、色んな編成を試したのだ。俺も俺で、仲間達以外の教導は実にうま味があった。
「きゃはは♪ なにこれなにこれ♪ 災厄パンだって、ウケる~♪」
「まったく不謹慎ですわね~。これが許される王都マジすげぇですわ」
「淫魔王国も大概ですよ、グレモリアさん……」
「中身はイチゴジャムだっちゃ。一つずつ買って皆で食べるっちゃ」
天群雲の皆も、同業の友達の輪が広がっているようで何より。
災厄あるいは屍王を倒した後も人生は続いていくのだ。その為にも人の縁は大事にしておきたい。
俺達は生きる為に戦っているのだから。
待機中の準備については大体そんな感じ。
新しい武装、新しい技術、新しい仲間。うん、いい感じだと思う。
あぁそうそう、チィレンさんの召喚獣も強化して、新規に虎サイズのメインクーンも追加したんだよな。クソ未来みたいにならぬよう、いざとなったらこれ乗って逃げてほしいとの願いを込めて。
「よし、今日も皆さんご安全に」
「「「ご安全に」」」
かくして、俺達は災厄に対する備えを続けるのであった。
〇
天群雲+αとは別に、俺達は俺達でレベリング目的のハクスラを行っていた。
またの名を、実証実験である。
「リリース! 水浸しになりやがれ! からの絶対零度ルーン・ニードルだ!」
「出た! シャーロットさんのルーン・コンボだ!」
とある迷宮にて。シャロがホルダーの中から符操霊カードを取り出し、魔力を流してサメ型符操霊を召喚した。
デフォルメ・サメは【大流水】を発動し、そこにルーンを合わせ氷の針に変化させて射出。これに当たった魔物は一切抵抗できず氷漬けになった。
色々あってシャロはカードファイターになっていた。今までは足りない火力をラリス式魔術で補っていたところ、その一部工程を符操霊に任せて空いた隙間にルーンを描くというシャロ・オリジナルの戦法を編み出したのである。
ついでに空中戦ではイルカに乗るので、シャロはライディングなデュエリストでもある。ルーニアのバトルはエンターテイメントでなければならないのだ、知らんけど。
「近接格闘実証実験! 前は任せてもらうでぇ! しゃあっ、ブラッディ・フィスト!」
他方、ヘカテーニャが駆るエメスアルマ・ヴァーテクスが【先の先】でスケルトン魔物に接近し、その顔面に全力ストレートを食らわせていた。
続いて無月流の手刀を応用したブラッド・ブレード連撃を行い魔物を一刀両断。後ろから突っ込んできた敵を【魔力の盾】で【弾き返し】、ゼロ距離ブラッド・ブラスターで会心の一撃を入れていた。
いいね。何だかんだ動きの鈍かったエメスアルマが、今ではAAAクオリティのヌルヌル作画で動いている。
「リリース! やっちまいなァ! センセぇ!」
「ブラッディイイイ・フィストォオオオ!」
また、エメスアルマで武闘家スキルが使えたように、武闘家ジョブに就けばエメスアルマにも格闘補正を付与する事が出来た。
いくら運動音痴なヘカテと言えど、モーションアシストがあればチートでズルしてオリンピック選手ばりの動き出来るしな。なので。今ヘカテは武闘家+純血魔術師ビルドを鍛えている。ラドゥ侯爵と同じ育成方針だ。
「まぁアタシ等はいつも通りッス。符操霊も使えないッスし~」
「じゃな~」
「にゃあは二枚作ってもらったけど、なかなか使う機会ないからニャ~っと」
そんな二人を置いて、メスガキ&ロリババア&義娘兼嫁の三人組は地道にレベル上げをしていた。
今回のハクスラも順調だ。ルクスリリアが攪乱し、ヘカテが暴れ、ルーン弾で魔物を怯ませ、シャロのルーンが足止めし、イリハが殲滅する。今回の俺は回復役に専念していた。即死以外なら治せるくらい治癒系も鍛えてあるのだ。
ザコを倒してドロップアイテムを拾い、強いザコも倒してレアドロップを拾う。鎧袖一触とはこの事か。
「あ、今なんか来たッス! 腹ン中がパンパンになってるッス! ご主人ご主人これってついにアタシにも来たんじゃないッスか?」
「わしもじゃ! レベルアップの時の感覚がいつもと違うのじゃ!」
そんなこんなでボスを倒した時である。
おや? ルクスリリアとイリハの様子がといった具合に、ついにその時がやってきた。
「おめでとう! 二人共、限界突破できるぞ!」
「こりゃめでてぇな! 今夜は宴だぜ!」
「にゃはは、シャロちゃんはお酒呑む口実が欲しいだけだもんね~」
「どんなんあるんか楽しみやわぁ」
これはめでたい。換金もそこそこにさっさと帰宅し、全員中庭に集合した。
異能ショッピングのお時間である。
「じゃあまずアタシから! うぉおおお収納魔法出ろ収納魔法出ろ収納魔法出ろ……!」
「振るんじゃなくて握って砕くのよ」
「っとそうだったッスね。ふんぬ!」
ルクスリリアの小さな手が牛の乳を搾るように星髄石を握りつぶす。
瞬間、ピンク色の光の粒子が拡散し、淫紋っぽい魔法陣が展開された。淫紋陣は数を増し、回転し、やがて全てが噛み合ったように収束する。
なんか個々人でレベルキャップ解放演出が違うのは何なんですかね。あるいは種族別? そのへんはまだ分からんな。
「どッスか? ご主人。いいのあるッスか?」
そうこうしてると、俺のコンソールに異能ショッピング画面が出てきた。
早速確認してみると、まぁ実に興味深いじゃないの。ルクスリリアは、我が一党の歴代最高のポイントを保有していたのだ。
あ~、けど選択可能な異能の数自体は少なかった。数だけならエリーゼのが多い。いやSSRの種類はルクスリリアのが上か? なんかどれもサキュバナイズされてるけど。なんやこれチートやんけって異能は無さそうか?
「収納魔法は……なさそうやな」
「ん、“手淫強化”? これはなに?」
「如何にも淫魔って異能がいっぱいありますねぇ。“飲精高速化”ってこれホントに異能なんですかね?」
「チィッ、なんだってこんな異能なんかがあるんだよ」
で、ルクスリリアの全異能を書いた紙を皆に見せる。選べる異能は多くないが、使えるポイントは沢山あるのが面白い。皆さん買い物感覚でキャイキャイはしゃいでいた。
「あっ、これ! アタシこれにするっす! 絶対これッス!」
なんて思ってたら、当の本人は即決していた。
彼女が指差した異能を視る。それは……。
「“
「そうッスよ絶対! 言い伝えにあるんすよ底なし淫魔伝説ってのが! その淫魔はきっとこの異能の持ち主だったんス!」
「そんなに欲しいの? これ。他にも良さそうなのあるじゃない。ほら、“超魔力感覚”なんかどうかしら?」
「いいッス! アタシはもう決めたんス! だってこれにしたら今まで溢れて捨てなきゃいけなかった精を貯めとけるようになるんスよ? 迷う理由ないッス!」
「つ、常になく真剣な目をしておる……」
「分かった。じゃあとりまコレ取っとくな」
「うッス! ポイントも全ツッパでお願いするッス!」
もう少し考えるべきではと思わんでもないが、迷いがないのは良い事だ。ご所望の異能にチェックを入れ、言われた通り追加ポイントを支払って件の異能を最大強化する。
結果、膨大だったポイントは残り少なくなってしまった。最大の手前にすればもっと余るのだが、ルクスリリアは最大強化がいいらしい。仰せのままにカンストだ。
「ほい最大。まぁ安いのならもう一個くらい取れるぞ」
「それでも色々選べますね。“シチューの心得”に、“乳絞りの極意”……なんだか面白いです」
「“媚薬体液分泌促進”って、おいおい、すげぇな淫魔族……」
「ん~、じゃあこの“安産体質”にするッス」
「それ、私も欲しかったわ……」
「わしにあったら取ろうかのぅ」
「にゃはは、ママ達のそーゆーところ大好きニャ」
これまた即決し、ルクスリリアはノーマルランクのプチ異能の中から、“安産体質”を取った。嘘みたいだろ、異能なんだぜこれ。
「どう? なんか変わった?」
「変わった感じはないッスね。お尻は……デカくなってないッス」
購入確定ボタンを押して、異能シュッピング終了。これで彼女の吸精タンクは拡張され、安産体質にもなったはず。
「次はわしじゃな! とうとうわしじゃな! 便利なのあるとええのぅ!」
続いて、イリハが星髄石を握りつぶした。
すると、陰陽太極図みたいな魔法陣が展開され、次いで五行相生相克図みたいなのが折り重なった。この時点で演出種族別説はなくなったと見ていいだろう。
ややもせず、出てきた異能購入画面の内容を書き写し、皆に見せた。
「イリハの異能候補も沢山ありますね。安産体質は無いようですが……」
「ん、でも“
「ホントじゃ。とりまソレ貰っとこうかのぅ」
「りょ。それでも全然余ってるからよ」
アンバランスだったルクスリリアと異なり、イリハは異能の数とポイントがバランスよく多かった。
淫魔っぽい異能が多かったルクスリリアのように、イリハには陰陽術系の異能が存在していた。“陰氣転化”とか“小宇宙”とか気になりますねぇ。
中でも目立っていたのは、“魔眼強化”なる異能だった。恐らく仙氣眼を持っているから出てきたものだろう。けどレノの時はなかったあたり、先天性か後天性かで決まるんだろうか。う~ん、興味深い。
「んぅ~、悩ましいのぅ。どれも強そうじゃし、便利そうじゃ」
即決したルクスリリアとは対照的に、イリハはあれやこれやと迷っているようだった。皆と相談し、楽しそうに悩んでいる。
ふと、彼女は嬉しそうな目で此方を眺めているクニュフの方を見た。
「クニュフよ。ときに、未来のわしはどんな異能使っとったのじゃ?」
「ん~? 言っていいの?」
「参考にさせてほしいのじゃ」
「回復系だったよ~。自分の氣を他人に分け与えるやつ」
「“栄氣恵与”ってやつっぽいですね。イリハさんの按摩も似たような事できそうですが」
「ええよなぁイリハの鍼灸按摩。机仕事で疲れた腰とか肩が軽くなるんでぇ」
どうやら、未来のイリハはサポートタイプになっていたようだ。そういえばクソ未来の霊格極装も回復守護霊が出てきたらしいし。
「決めたのじゃ。主様、わしの異能は“魔眼強化”で頼む」
「既存の魔眼の強化か。仙氣をもっと強くするんだな。どうなるか分からんけど、いいか?」
「まぁ閉じたり開いたりできるし大丈夫じゃろ」
暫く後、決心ついたらしいイリハは自前の仙氣眼を強化する事にしたようだ。
チェックを入れ、追加画面に入ったら既に中くらいまで強化されていた。その事を伝えると、それでも倍プッシュというので魔眼強化をカンストさせた。したら一気にポイントが減った。効率を考えるならカンスト一歩手前で止めるのが良いと思うのだが。
ともかく、イリハのポイントはまだ残っていた。購入は一括なのでもう一つ決めなければ。
「まだ余ってるし、もう一個入るぞ」
「そうじゃな~。なんか日常が便利になる異能とかないかのぅ?」
「“切裁高速化”ってのどうッスか? 野菜切るの早くなるっぽいッスよ」
「既にかなり速いと思いますけど」
「鍛錬でどうにかなる異能取ってもしょうがないですよ。いや楽になるのかもしれませんが」
悩んだ結果、料理にバフが入る異能を選んだ。結局サポート系である。イリハの心根が出ていると言えよう。
仙氣眼の最大強化と、管理領域と、料理バフ異能の三つできっちり残高ゼロだ。後悔しませんねと訊いたところで購入確定っと。
「ぬお!?」
「大丈夫かイリハ!?」
決定ボタンを押した次の瞬間、イリハは太陽を直視した時のように目を覆った。オンオフ可能な魔眼を開きっぱなしにしていたらしい。
目にシャンプーが入ったような反応である。目から手を離したイリハは両眼をパチパチして、やがて眼の焦点が合った。
そして、その顔は呆けたように固まった。
「なんと、なんと……美しい」
よりいっそう輝きを増した眼で、イリハはぽつりと呟いた。
ゆっくりと。イリハが中庭を見渡す。噴水の水しぶき、空が見える透明な天井、ヘカテが育てている薬草。それら一つ一つを見て、全員の顔を見て、最後に俺の目を見て、イリハはパッと弾けるような笑みを浮かべた。
「い、今までとは見え方が全然違うのじゃ! これがシュリ様が見ていた世界なんじゃな! おぉ、皆の氣も前よりよく見えるぞ!」
良かった。とりあえず無事らしい。
曰く、彼女の祖先である九尾英雄シュリの伝記には、仙氣眼で見える世界についてアレコレ書かれていたらしい。
が、実際に仙氣眼を持ってるイリハからすると、「いやそれは言い過ぎ」ってなる描写が多かったそうだ。そこで魔眼を最大強化した事により、見える世界が描写通りの世界になってビックリしたんだとか。
「管理領域もちゃんと使えるみたいだな」
「のじゃ。さっそくお料理異能試してみるのじゃ!」
今日の夜ごはんはユゥリン&パーティ用のテイクアウト飯なのだが、異能の検証の為にイリハに一品作ってもらった。
出来上がったのは肉魚野菜たっぷりのソース焼きそばである。
「「「うんまぁあああああい!」」」
「ん、身体が羽みたいに軽い」
「あぁ~、疲れ目が治ってくぜぇ~」
「むぅ、これはワタシも料理系異能を得るべきでしょうか。寿司異能とかあるといいですねぇ」
結果、めちゃ美味かった。異能の効果は明らかである。
なんというか食材そのものの味? みたいな。野菜は瑞々しく、肉も魚もフルポテンシャルというか。適当な表現か分からないが、日本人好みの味だと思った。
「異能も無事取れたところで乾杯しようぜ~! 今日は宴なんだからよ!」
という訳で、検証もそこそこにパーティ開始。
最近は鍛錬訓練研究開発と何時にも増して忙しかったので、目標の一つが達成されて実にハッピーである。
俺達は大いに飲み、歌い、笑った。異世界生活、こういうのでいいんだよこういうので。
「そろそろリギウの偽宝剣も覚醒しないものかしらね」
「そうですね。二つ名ジョブに、レベルキャップに、あと深域武装の覚醒が残ってますもんね」
「ワタシはそれ全部体験してないですけどね。まぁでも確かにそろそろ一段階強くなりたいところですね、ガチでね」
「ん、ユゥリンはそのままでも強いけど……ね」
宴が終わって入浴後、エリーゼ達は深域武装の覚醒について話していた。
今のところ、エリーゼとグーラとユゥリンのマイ深域武装は進化していない。二人のレベルキャップ解放を見て、何か思うところがあるのかもしれなかった。
なお、レノも深域武装を持っているのだが、今のところ装備する予定はないそうだ。あくまで照明弾扱いである。
「未来の私は覚醒させていたのでしょう?」
「そうだね~。けど前も言ったけど、どれだけ使いまくってる人でも出来ない人はずっと出来なかったから、焦っても仕方ないと思うよ」
他方、未来のエリーゼはリギウの偽宝剣を覚醒させていたらしい。
覚醒のメカニズムについては第三王子の方でも研究をしているようだが、まだ方法は確立されていない。ヘルガのように即覚醒した例もあれば、一生覚醒しなかった人もいる。クニュフの言う通り、焦っても仕方ないだろう。そもそもエリーゼもグーラもレベルキャップ解放は済んでるしな。
「う~ん……よし、ワタシちょっと本気出してみますね。とりま今夜この槍との同調率ってのを上げてみようと思います」
「具体的にはどうするんや?」
「さぁ? やってりゃ何か分かるでしょう」
どうやら、今夜のユゥリンは俺ではなく槍と一夜を過ごすつもりのようだ。俺は寂しくて死にそうになった。
よほど顔色が悪かったのか、寝室前で別れる時に情熱的なベロチューをしてくれた。ユゥリンは星髄石を持って客用の寝室に消えた。
「じゃあ♡ 今度はアタシの異能を試す番ッスね♡ 底なしの吸精の力、見せてやるッス♡」
気を取り直して、ルクスリリアの異能検証である。
これまでルクスリリアは吸収した精の上澄みだけをプールし、溢れた分は破棄していたらしい。だが今は吸精枠が増えた事でもう捨てなくていいよとなったのである。
見せてもらおうか、最大まで拡張したサキュバストレージの性能とやらを。
「んほぉおおおおおおおおおおおお♡」
勝負有りッッッ!
俺が開幕十割の無限絶頂を極めて勝利した。
いや皆も面白がってたからね、これ。俺も俺で房中術と内勁繋ぎを純淫魔契約者の力で行使してたし、しょうがないよ。
「あ、気をやりましたね」
「主様も主様で新記録達成じゃ」
「底なしはアナタの方だったって訳ね。ふふっ……」
最終的に、与えられる快感に耐えきれなかったルクスリリアはびくんびくんとダウンした。器の底は無限でも、器自体は無敵じゃなかったという話。
とはいえ、これ以上続けても仕方ない。抜いて、お掃除してもらって、皆と再開した。
まだまだ夜は長いのだ。
翌日である。
二日酔いみたいになってるルクスリリアをケアし、諸々やって皆で朝食を食べていた時のこと。
焼きたてのパンにハーブ入りチーズを塗り広げながら、「そういえば……」とユゥリンが口を開いた。
「昨夜、あの槍霊格極装にさせましたよ。方法も紙にまとめといたんで後で読んでください」
「「「……えっ?」」」
衝撃発言をされた。
びっくらポンだぜ。
いや、びっくらポンどころじゃないんですがそれは。
しゃあっ、更新!
書籍版一巻が発売され、続刊企画も進行中です!
よろしくお願いします!
【挿絵表示】
というわけで店舗特典情報!
ゲーマーズ様は、書き下ろしSSとルクスリリアとエリーゼのアクリルスタンドになります。
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とらのあな様は、書き下ろしSSとタペストリーになります。
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メロンブックス様は、書き下ろしSSとタペストリーになります。
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物理版をお求めの際は、ぜひぜひ特典付きをどうぞ!
・電子版
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その他、各電子書籍販売サイト様でも配信されます。
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◆エメスアルマ・ヴァーテクス◆
・骨格パーツと血管パーツを魔力障壁の管に置換。より自分で動く要領で動かせるようになった。
・・装甲の素材は輝銀魔石に変更。以前よりも耐久力は減少してしまうが、ヴァーテクスは装甲表面に常時魔力障壁を張っているので瞬間的な防御力は向上している。また、これにより大幅な軽量化に成功した。
・代償として、起動時および稼働時に以前より多くの魔力・魔血の供給を必要とする。
・汎用性を一切考慮しない決戦兵器として完成した。
◆ヘカテーニャ式符操霊◆
・召喚後、技を使ってすぐ引っ込む。その分、強力な技を使える。
・ただし符操霊の例に漏れず魔力消費は激しいので、初心者救済アイテムにはならない。
・加えて製造コストもバカ高いので、初心者では全く手が届かない。
・立ち位置としては、魔法装填と召喚獣の合いの子。
・召喚ワードは「リリース」
・竜族や獄炎犬など、特定の種族は通常符操霊同様使用不可。
・エクバシリーズのアシスト技。お祭り格ゲーでコマンド技で仲間読んで攻撃するやつ。もしくはペルソナみたいな感じ。
◆イリハの仙氣眼◆
・最大強化で先祖と同じレベルになった。
・ブラウン管テレビが4Kモニターになったような違い。