【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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感想・評価など、ありがとうございます。いつもお世話になっております。
誤字報告もありがとうございます。

序盤三人称、以降一人称イシグロ視点。
よろしくお願いします。


喝采 の ■■

 薄暗い地下通路に、剣戟の音が反響していた。

 明滅する魔導照明。戦士達の影が小さな異形を塗り潰す。それは戦闘ではない、蹂躙だった。

 

 一閃、剣が振るわれた瞬間、肉が裂け、骨が砕かれ、血しぶきが噴き出た。さっきまで生きていたモノが剣の衝撃で無機質な壁を汚す。

 そんな光景を後目に、剣を振るう者――“剛剣鬼”のラフィは、次の獲物を一撃で以て叩き斬った。

 

「いけるか剛剣鬼!?」

「任せな! うぉらぁあああああ!」

 

 魔法で援護する騎士に応え。鬼人剣士ラフィは体当たりをぶちかますように剣を薙ぎ払った。

 ラフィの周囲には、彼が見た事のない生き物が群れを成していた。緑の肌に、幼児ほどの背丈。手に手に粗末な武器を持ち、ギャーギャーと威嚇らしき鳴き声を上げている。

 弱い。が、数が多い。狭い地下通路というのもあって、正面戦闘に秀でるラフィが先陣を切って薙ぎ倒し、騎士達は補佐に徹していた。

 

「【剛剣一閃】!」

 

 黎明の銀細工に教わった剣技を使い、道を拓くようにして押し込んでいく。強引に、敵の反撃も構わずに。今は時間がないのだ。

 緑色の餓鬼の動きからして、時間稼ぎ以上の意図は無い。空気で分かる。敵の首魁は逃げるつもりなのだ。

 

 事の発端は、犬人斥候ウィード未帰還の報だった。

 奴に限って心配いらないと高を括っていた本部だったが、流石に遅いとなって捜索を開始した。森の各所にある目印を追っていくと、隠された地下施設を発見して今に至るという訳だ。

 

「骨は拾ってやるって約束したもんな! 生きてたら奢らせっからな! 待ってろよなぁウィード!」

 

 ウィードはラフィの友である。冒険者依頼で敵対した事も、一党を組んで迷宮を探索した事もある。奴が消えて何日も過ぎた。生きているとは思えない。故にこそ、敵討ちを決意したのである。

 そうして入ってみた地下施設には、魔王軍残党と思しき意匠や技術が見て取れた。それでも、いやだからこそラフィの怒りに火がついた。

 冒険者として死んだのではない。あいつは狂った戦争屋のせいで死んだのだ。そんなの、許しておける訳がなかった。

 

 部屋を一つ一つ確認している時間はない。入り組んだ通路を走り、立ちはだかる敵を斬り飛ばしながら突き進む。

 冒険者、とりわけ銀細工は戦場の直感こそが生命線といっても過言ではない。己の勘しか信じないラフィに迷いはなかった。

 

「此処だよなァ!」

 

 やがて通路の先に鉄扉が見えた。風を感じる。思い切り蹴り飛ばす。そして、視界いっぱいに広がった光景にラフィは目を見開いた。

 広大な空間である。殺風景な地下湖に、ゴツゴツとした岩壁と無機質な石床。灯台のような建築物が辺りを煌々と照らしていた。まるでラリス大河の港のようだ。

 周囲を見渡す。捨て駒であろうゴーレムが数体。少しゴツめの緑餓鬼が数体。湖の方には、水面から沈んでいく白い影。直感した。アレが敵だ。

 

「誰か知らんが逃がすかァ!」

 

 考えるより早くラフィは突っ込んだ。捨て駒共を蹴散らし、湖の縁へ。しかし巨影は既に水中深く潜っていた。仮に【投剣】しても届きそうにない。

 

「ざけんな! 逃げてんじゃねぇよ! ああっ!?」

 

 銀細工の勘は、アレが黒幕だと確信している。秘密基地を見つけられて、尻尾を巻いて逃げたのだ。

 仇を取れなかった苛立ちをぶつけるように、ラフィは残っているゴーレムを蹴散らしていった。

 

 ややもせず地下湖に騎士達がやってきて、周辺調査を開始した。

 灯台のような建築物に入ると、そこには大量のゴミが山積していた。それを見て、ラフィは感情を押し殺した低声で呟いた。

 悪運の強い奴だ、と。

 

 

 

 同時刻、ラリス辺境。

 凪いでいたツミヒ湖の水面が揺れ、次いで大きな水柱が上がった。

 水生魔龍が飛び立ったのではない。湖のヌシが跳ねた訳でもない。

 まるで、目には見えない途方もなく巨大な存在が浮かび上がったかのようであった。

 

 虹を描き、浮上するモノ。

 それは、水中を泳ぐようにして空を飛んだ。

 静かに、ゆっくりと。獲物を狙う獣が息をひそめるようにして。

 

「忌々しい迷宮潜りめ。獣でもあるまいに、よくも朕の計画を邪魔してくれたな……!」

 

 暗黒の深奥。静寂の落ちた玉座にて、王冠を戴く男が吐き捨てる。

 男は先の出来事を思い出し、苛立たしげに足を組み替えた。それから傍に控える者を見て、心を落ち着けた。

 

「……まぁよい。どのみち、死出の旅路よ。待っていておくれ、我が子よ。そして我が同胞よ」

 

 元より、男は勝利を欲してはいない。

 敗北者になる覚悟など、とうに決めているのだ。

 ならば、協力者の安否も、計画の成否もどうでもいいではないか。

 

「目標、淫魔王国。ケフィアム城……!」

 

 これから成すのは、いつの時代の何処にでもありふれた――ただの下らぬ復讐なのだから。

 

 

 

〇

 

 

 

 性欲を持て余す。

 

「おはようございます、盟主様。今朝はずいぶん遅かったですね」

「あれぇ? ところでリリィちゃん達はどうされたんですか?」

「起こさないでやってくれ。死ぬほど疲れてる」

「エリーゼ様達は私達とは比較にならないほど奮戦なされていたもの。仕方ないでしょう」

 

 朝勃ち鎮めて出撃して朝飯食って精乳飲ませて出撃して昼飯食って吸精させて出撃して夜飯食って仲良しして出撃してシャワー浴びて乱れて交わって寝る。

 妖精襲撃後の生活は大体そんな感じだった。長期禁欲の後とはいえ、流石にちょっとイキ過ぎだよジェームズ。結果的に敵襲が無かったとはいえ少々無防備だったかなと。

 

 無論、遊びでやってる訳ではない。

 というのも、ルクスリリアにとって吸精は栄養補給兼延命処置なのだ。【エンゲージリンク】で遠征組の皆を迎えに行くにもクールタイム終了まで待たなきゃいけないので、それまでは合間合間の充電が肝要なのである。

 あとグーラが発情期に入ったので、それを鎮める必要もあった。あったのだ。エリーゼもキス欲が高まってたらしいし、シャーロットもピンチを助けられて乙女回路が暴走したっぽい。そしたら此方も抜かねば無作法というもの。

 遊びじゃないが、楽しんでないとは言っていない。それだけの話。

 

「それよりお前達こそ大丈夫か? 体調悪いなら俺が代わるけど」

 

 お楽しみはともかく、砦の復旧や防衛については消耗の少ない俺が積極的に対処していた。

 件の妖精襲撃の際、どうやら他の砦も魔物の襲撃を受けていたそうだ。で、ちょうど俺が到着した時にその魔物軍がジッド砦に集まってきたらしく、今現在ジッド砦は散発的な魔物の襲撃を受けている。

 一方、妖精については落ち着いていた。あの戦いで特級の数が激減し、森も平原もザコばっかになったのだ。進化されても困るので見敵必殺を心がけている。

 

「いえ、問題ありません。むしろ動いとかないと、あいつらも落ち着かないようですので」

 

 あの襲撃以降、ヘルガ達天群雲にはステータスに載らない成長が見受けられた。

 やや浮足立っていたカムイバラ組もなんだかシュッとして見える。俺が言うのもアレだけど、喧嘩自慢が戦士になったような変化があったのだ。

 

「イシグロ様、デアンヌ様がお呼びです」

「了解しました。じゃあ頼んだぞ、ヘルガ」

 

 呼び出されたので司令部へ。そこで丸二日寝ていたデアンヌさんに此度の遠征について報告すると、「お前は何を言っているんだ」みたいな顔をされた。事前に上げた報告書で知ってるだろうによ。海だよ、海。

 これはもう実際に見てもらう他ないだろう。レノなら見た風景を精緻にスケッチできるし、砂とか植物とか持って帰れれば証拠にもなるか。

 

「遠征班が帰る前に制空権を確保する。行くぞ!」

「「「はい!」」」

「私が端まで飛んで迎えに行くっていうのはダメなのかしら?」

「迷子になるだろ」

「……途方に暮れる自信があるわ」

 

 続いて、クニュフ達を迎える為に空の掃除を開始した。

 現在、ジッドの森は王者ガルーダがいなくなった事で妖精戦国時代に突入している。

 空の掃除で大活躍したのがレギーナである。彼女はガルーダ並みの速度――俺が反応しきれない――で飛べるのだ。特級なりかけの空妖精がいても瞬殺である。好物のおにぎりがあれば何処まででも飛べるのが彼女だ。

 

「飯よし水よし消毒液とかその他諸々全部よし! お腹もいっぱいッスし、ほんじゃ行ってくるッス! ふんぬぬぬぬ……【エンゲージリンク】!」

 

 なんてやっていると、ルクスリリアが【エンゲージリンク】を使用できるようになった。

 さっそく迎えに行かねばとなって、直前に限界まで精を貯蔵。リュックをパンパンにして出発だ。転移は一瞬。成功した時点で座標となる皆が生きてるのは確定。ひとまず安心だ。向こうで再使用可能になったら連絡届いて俺が召喚される手筈である。

 二日と少しして、呼び出し連絡がきた。パイモさん開発の通信魔道具だ。色々と改良されているらしいが、子機は未だに送信しかできない。

 連絡から一時間弱。俺は魔力的に引っ張られる感覚に逆らわず【エンゲージリンク】で転移した。

 

「パパ! 待ってたよ~!」

「クニュフ! 会いたかったぞ~! 皆も無事だったか!」

 

 そうして召喚された先には、無病息災健全無欠のイリハ&レノ&ユゥリン&クニュフがいた。

 召喚主のルクスリリア含め、レノの【聖水】シャワーを浴びたばかりなのか皆さん身綺麗である。玉のお肌もツヤツヤぷにぷにだ。

 とにかく再会できて嬉しい。俺は一人一人とハリウッド映画のようにハグし合い、互いが生きている喜びを分かち合った。

 

「って、ここ海か。ヒュドラと戦ったトコだな」

「うん、寝床は森に建てたけどね。今までずっと海で遊んでたよ~」

「すげぇッスよご主人! 岩場の方に襲ってこない貝の妖精いたッス! これも持ち帰るッスよ!」

 

 ロリに目が行っていて気付くのに遅れたが、俺が召喚されたエリアは例のヒュドラが出現した浜辺だった。

 空は青々と晴れていて、海は澄んでて陽光をキラキラと反射している。改めて見ると、一度行った事のある沖縄の海とは雰囲気が違う。こう、生命感がないというか。作り物めいた綺麗さなんだよな。

 

「遊びって言ってもちゃんと警戒してましたよ。流れてくるのザコしかいないので、下手に帰るよりリキタカさん待ってた方が楽かなと」

「ん、ついでに冒険してた。これ周辺地図とスケッチ。暇だったからずっと絵描いてた」

「砂で城も作ったのじゃ。おかげでちょっと日焼けしてしもうたのじゃ」

「次来る時は麦わら帽子持ってこようか」

 

 どうやら、皆さん待ち時間をエンジョイしていたらしい。

 俺が置いてった荷物には調理器具があり、これを使って飯を食べていたそうだ。BBQセットに使用痕跡がある。保存食はそこまで減っていなかった。

 

「ところで、ヒュドラはどうした? 死骸は」

「それなんだけど、これ見てもらっていいかな~?」

 

 すると、クニュフは荷物のところに置いてあった手作りと思しき木の籠を持ってきた。

 籠の中には妖しい色のクリスタルが入っていた。大きさはバスケットボール程で、形はオーバルカットの宝石みたい。いや、よく見たらただのクリスタルではない。その中心には蛍のような光があり、鼓動するように明滅している。

 その時、俺のゲーマーセンスが囁いてきた。

 

「もしかしてこれ、ヒュドラの心臓……とか?」

「心臓かどうかは分からないけどね。倒したら魔物みたいに消えてコレが残ったの。触ったらダメなやつかも~って、こうやって保管してたんだ」

「ザコ妖精がコレ狙って襲ってきたんで良い釣り餌になりましたよ」

「ん、マスターの鑑定で一回調べてみて」

 

 原則、妖精はアイテムをドロップしない。死骸が残るだけだ。にもかかわらず、ヒュドラはこのクリスタルを残したらしい。

 言われた通り、調べてみるが……。

 

「え~っと、“古竜の宝珠”……?」

 

 な、なんだ? このモンスターをハントした後に低確率で剥ぎ取れそうなアイテム名は?

 それで言うとヒュドラは古竜になるんですがソレは。妖精なのか魔物なのか、これもうわかんねぇな。

 

「名前しか分からないな。例によって説明もないし」

「妖精の素材というより迷宮の聖遺物みたいですよね。星髄石とか、そのへん」

「どっちかというと角結晶っぽくないッスか? ほら竜族の」

「や、見た事ないから分からない」

 

 古竜の宝珠……見るからにキーアイテム然としている。武器素材というより、大事な物の欄に入りそうな印象だ。

 まぁ考えたって仕方ない。詳しい事は専門家に丸投げしよう。

 

「とりま帰ろうか。ミスター・フライシュがご馳走作って待ってるぞ」

「楽しみじゃ。シャロじゃないけどお酒飲みたいのじゃ~」

「ビール! ビール! 冷えてるッスか~?」

「ビールいっぱい呑むぞ~」

「や、クニュフはダメ」

「そろそろ鮮魚が食べたいですね、寿司でね」

「ああ、しっかり食え。おかわりもいいぞ」

 

 報告もそこそこに、俺達は空戦車を組み立てて帰還する事にした。

 例のクリスタルや周辺の砂等々は天文台謹製の保管ボックスに入れて運搬。砂は収納魔法に入ったが、宝珠は入らなかった。こーゆーとこは妖精素材の仕様なんだよなぁ。

 空の旅は快適だった。道中でレギーナと合流し、何事も無く帰還。砦に戻るとめちゃくちゃに歓迎され、今宵はパーティである。当事者は先にお風呂だ。

 

「まさか世界の果てにはこんな景色が広がって……」

「これが予言の大妖精……なんと禍々しい。特級になりたてでこの強さとは、並みの魔龍を超えているではないか」

「そういえば魔龍に近い妖精は初めてですな。イシグロ殿はヒュドラと名付けたと」

 

 入浴後に報告すると、司令部の皆さんはそれはもう驚いていらっしゃった。

 レノによる超絶スケッチや地図も大公開である。鉱物専門家は浜辺の砂を食い入るように見つめ、植物専門家は持ってきた草を矯めつ眇めつ。さっそく調べてみようとなって、学者の先生は全員大興奮だった。

 すぐ分かった事だが、汲んできた海水に塩は含まれてなかったそうだ。でも未知の毒が検出されたとかで、飲料水には適さないらしい。うーん、この。

 

「素晴らしい! おお、なんたる輝き! なんたる力! まさにドラゴンのエネルギーそのもののようではないか! 今すぐ調べ尽くして解明したい!」

 

 中でも興奮していたのは、宝珠を前にした天文台の主任だった。彼はまさに人生の絶頂期とばかりに研究棟へダッシュしていた。

 ついでに妖精を生み出す泥も渡しておいた。浜辺で少量拾ってきたのだ。この泥は一定量集まらないと何にもならないらしい。

 地球でもそうだったが、どの研究が何の未来に繋がるかは誰にも分からない。研究者の方々には頑張ってほしいですね。

 

「無事のご帰還おめでとうございます! ささ、一献どうぞ!」

「ジッドの森の中で一週間以上生き残るとは……やはり天才か。大した生存術だ」

「リンジュから運ばれてきた滝鮪である! 存分に味わうがよい!」

 

 夜になった。皆が揃ったところで宴の始まりだ。

 宴の主役は遠征班である。料理はイリハ達の好物を揃えてもらった。我が一党は和食好きが多いので、リンジュから取り寄せた食材や酒がいっぱいある。

 料理の数々はケッテンクラートに繋いだ野外調理具で振舞われてるので、立食パーティというより縁日みたいな雰囲気だった。これにはイリハ達だけではなくヘルガ達や駐在兵も大満足。あの襲撃から、やっと気を緩める事ができたのだ。

 縁日会場では、淫魔ハーレムの主たるユア君が淫魔五人の「あ~ん♡」で飯を食べていたり、酔ったナターリアさんが飲み比べをしたりしていた。俺も俺で、やっと平穏が戻った気分になれた。

 

「ねぇパパ~♡ にゃあ、帰ってきたら発情期来ちゃったかもしれないニャ~♡ いっぱい虐めて慰めて~♡」

「わしにも来たのじゃ♡ 何日も主様の房中術を受けてなくて寂しかったのじゃ♡」

「右に同じくです♡ ふしだらな麒麟と笑ってください♡」

「天使に発情期はないけど安心感で性欲がむくむくしてきた♡」

 

 勿論、飲み会には二次会が必須である。俺はイリハ達を加えて九人をお持ち帰りした。

 俺もうこの九人がいないと満足できないよ。元気いっぱい胸いっぱいで、今まで溜まっていたストレスが解消された心地だ。

 

 それはそうと、ここ数日は特に夜の宴にハマッている。ドハマリしていると言っても過言ではない。

 例の襲撃頃からだ。執着だろうか。とにかくルクスリリア達を手放したくないという気持ちが溢れているのだ。

 これに関しては、思い当たる節があった。俺がジッド砦に到着した時だ。シャーロットが殺されそうになった瞬間、魂の奥がビリッとしたのだ。これまでにも皆がピンチになった時とかはあったのだが、あの時みたく雷に打たれて魂のギアが上がったような感覚は初めてだった。クニュフの時とも微妙に違うんだよなぁ。

 

「あれ? なんかダーリン目ぇ赤くない?」

「マ?」

 

 なんて思ってたら、俺の内的変化は外面にも表れたようだ。

 ドクター・ヘカテーニャの診察によると、徹夜で目が赤いとかではなくて、両目の虹彩の色が変わってるらしい。俺は黒髪黒目の平均日本人だったはずだが、鏡を見てビックリである。おまけに魔力籠めると光るし、なにそれ知らん怖っ。

 ここにきて赤目化か。身体の一部にバーコード型の紋章とか増えてないだろうな。爆裂魔法とか使えるようになってる? そう思うと胸が熱くなるな。

 

「見え方が変わっているとかは無いんですよね? 心配です……」

「私達の検診の時に淫魔女王に診てもらいましょう。何かあっては事よ」

「俺、この戦いが終わったら陛下に診てもらうんだ。新手の呪いかもしれないし」

「呪いっつー感じはしねぇけどな。むしろ前より健康になってねぇか? 勘だがよ」

「目の氣にも異常無しじゃ」

「実際魔力増えとるんよなぁ。未来のダーリンも目ぇ赤かったん?」

「ううん。未来のパパは魔眼移植してたから、金と紺のオッドアイだったよ」

「ん、オッドアイ同士」

「光と闇が合わさり最強に見えますねぇ、ふへへ」

「すみませ~ん。イシグロさん、こっち来てもらっていいですか~?」

「ちょっと待ってください。そんじゃ行ってくるわ」

 

 なんとなく悪い変化な感じしないし、気にし過ぎても仕方ない。本格的な検査はまた今度って事にしよう。今は忙しいしな。

 こうして、俺はジッド砦の防衛に努めるのであった。

 

 

 

〇

 

 

 

 ジッド砦に雪が降った。

 冬の到来である。

 

 その折、俺とルクスリリアは一度王都へ戻った。ロリの宅急便である

 王都の様子は相変わらずだった。違いとしては少し物価が高くなっているくらいか。そのせいで前の買い物より金がかかった。

 

 現在、東西南北の砦では妖精との戦いが勃発し、同時にラリス軍は新生魔王軍と戦争中である。

 エージェント・メイドさん曰く、魔王軍との戦いは膠着状態らしい。向こうは魔王城っぽい天津島に立てこもっているとかで、なかなか攻めきれないという。

 魔王と戦っている第一王子と第三王子のご両名も頑張ってくれてるんだろうが、出来たら早め早めに倒していただければと思わずにはいられない。

 他力本願極まりないが、頼んますぜプリンス。

 

 あと、ヒュドラについても報告した。他にも未来視氏の予言がいっているようだが、大妖精と遭遇したのは俺達が一番乗りだったそうである。

 こうなると、他の方角からもヒュドラ級の妖精が出てくる可能性を考慮すべきだろう。併せて妖精襲撃の防衛レポートをお渡しした。ぜひ役立ててほしい。

 

 王都からフボール地方へ戻り、ジッド砦で年末を過ごした。

 雪の中、熱い酒を呑んで年越しを祝った。けどバカ騒ぎはしなかった。明日に響くとよくないから。

 

 翌朝からはまた妖精狩りだ。

 マジでヤバかった時期ほどではないが、妖精共がまた活発になり始めたのである。

 

 雪が積もるようになってから、ジッド砦を含めフボール地方には雪系妖精が現れるようになっていた。

 サスカッチにウェンディゴに……あとジャック・フロストは雪だるまみたいで可愛かった。奴の妖精領域はクソ寒かったので焼却処分してやったが。最低限、火炎無効つけてから来なよ。

 でもまぁ雪系妖精はこっちが氷耐性を付けてれば比較的楽に狩れるのがイイネ。あと何もしなくても一部の貧弱妖精は寒さで凍死してくれている。そういえばトゥレントも元気ないな。

 

 以前の妖精大発生との違いとしては、妖精の出現がフボール地方全体に広がっている点である。

 今のところ特級個体は出てきてないが、とにかく数が多い。俺達はあっちこっちに移動して、あっちこっちで狩りまくっていた。異世界ケッテンクラートは雪道でも大活躍だ。

 魔物の発生も相変わらずだ。アリエルさんが守ってる小神樹周辺の森も妖精と魔物の対処に追われているらしい。

 

「他に予言はないのですか? またヒュドラみたいなのが攻めてくるなら、今のうちに撃滅して他地方の援軍に行きたいところですが」

「なにぶん未来視の方はお忙しく、権能もそう連発できるものではないとの事です。今回も極めて危険度の高い未来に絞っているとかで」

 

 他地方の戦況だが、案の定予言通りに大妖精が出現したらしい。

 まだ詳細は伝わってこないが、特級なりたてのヒュドラでも並みの特級を超えていたのだ。厳しいならば援助したい。

 まぁ、ジッド砦にそんな余裕はないのだが。

 

 

 

 それからも、俺達の砦生活に大きな変化はなかった。

 冬のフボール地方を飛び回り、妖精を狩り、魔物を殺し、森を探索する。ジッド砦もアップデートされて、前より頑丈になった。

 砦生活も長くなって、固有の文化のようなものが生まれてきた。自分のケッテンクラートを自分色に染めたり、エンブレムを作ったり。ケッテンクラートお絵かきコンテストを開催したりもした。絵心のあるクラウディアが優勝していた。

 

 今のところ、綻びは見えない。

 一時はカツカツになっていたが、例の襲撃でむしろ砦の結束力は強くなったように思う。

 毎日のように戦闘が起こり、毎日のように怪我人が出る。それでもジッド砦は回っていた。

 

 そんなある日の事である。

 

「ご主人ご主人、あれ何ッスか?」

「ん?」

 

 妖精狩りから帰っている最中だ。ルクスリリアの指さす方を見ると、ジッド砦の上空で何かが飛んでいるのが見えた。

 射手スキルで確認する。めちゃくちゃ高い位置に妖精がいた。両の翼に女性っぽい身体つき。ハーピーである。ジッドの森では見た事ないが、他の地方にはいるらしい。

 

「迎撃するッスか?」

「いや少し待て。アレは……」

 

 よく見る。ハーピーの鷹みたいな足に、何かが吊り下げられている。

 まんま猛禽類が獲物を捕らえているような……人だ、人が捕まってる!

 

「って、おいおいおいおい……!」

 

 と思ったら、ハーピーはフンでもするように掴んでいた人を投下した。

 落下位置はジッド砦だ。あのままではジッド砦の魔力障壁でぺしゃんこになってしまう。

 

「レギーナ……は、今別んトコか。とにかく助けるぞ! ルクスリリア! ハーピー頼んだ!」

「了解! ラザニアぁ!」

 

 ハーピーはルクスリリアに任せ、俺は落下中の人を受け止めるべく飛び出した。

 急行し、慣性を殺しつつふんわりキャッチ。見れば、キャッチしたのは犬人の女性だった。ゴールデンレトリバーみたいな垂れ耳で、全体的にムチムチと肉付きがいい。

 ハーピーによる人間投下。一瞬、罠かと思ったが、頭の中にダイナマイトが仕掛けられてるとかはなさそうだ。さすがに神経過敏か? どのみち助けない訳にもいかんしな、と。

 

「人が落ちてきました。すみません、今すぐ医療棟に」

「は、はい!」

 

 そのままジッド砦に入り、医療棟の前に着地する。担架が運ばれてくるまでの間、俺は彼女に各種治癒魔法をかけていった。

 と思ったが、HPは満タンっぽいぞ、毒とかの状態異常もない。戦って攫われた訳ではないのか?

 

「う、ぁ……」

「目を覚ましましたね。意識はありますか? 返事は可能ですか?」

 

 ややもせず、女性が目を覚ました。

 彼女はゆっくりと上体を起こし、周囲を見渡した。

 その目は茫洋として、光がない。まだ意識がはっきりしてないようだ。

 

 そして、声をかけた俺と目を合わせ……。

 にやりと笑った。

 

「死ねやクソ野郎!」

 

 次の瞬間、俺は彼女が抜いた短剣をアサシンナイフで受け止めた。

 甲高い金属音。二人の間で火花が散っている。中途半端な姿勢での鍔迫り合い。この女、かなりパワーがある。

 犬女の顔が近い。その虹彩は白く染まっていた。この女に見覚えはないはずだが、その目には既視感があった。

 

「よぉう、久しぶりだなぁ……イシグロぉ」

 

 ねっとりとした声音。此方を舐め腐った眼差し。ヒトの持つ悪意と幼稚性を体現するような表情。

 記憶が蘇る。初めて淫魔王国に行った時、ある種族の傀儡にされた淫魔はこんな目をしていたのだ。

 女の目に映る俺の目は、真紅に染まっていた。

 

「あの時の夢魔か!」

「ご名答! いやぁ首無し生活が長くて死にてぇ死にてぇと思ってたが、父上がお救い下さってねぇ! 今は晴れて自由の身ってワケ!」

 

 短剣を弾くと、犬人女――夢魔の傀儡は、大きくバックステップして外連味のある構えを取った。

 が、奴は既に囲まれていた。ルクスリリア、ヘルガ、ニーナさん……その場の戦士全員に。

 それでも尚、夢魔はヘラヘラと嗤っていた。

 

「そう怒んなって。今日は正々堂々と決闘を申し込みにきたんだよ~。勿論受けてくれるよなぁ? 応えてくれなきゃ英雄様じゃないもんなぁ?」

「なにを……」

「聞け! 淫魔王国は夢魔軍が占拠したぁ! 女王の身体もこっちで預かってる! クソメス共の命が惜しけりゃあ、我等の空母“アスモデウス号”まで来てもらおうか!」

 

 息が止まる。淫魔王国が、占拠された?

 混乱する俺達の視線を受け、夢魔は面白くて仕方ないというように口の端を歪めた。

 

「その前にちょっと遊ぼうか! めちゃくちゃにさせてもらうぜ! お前の仲間ぁ!」

 

 瞬間、女を操る夢魔の瞳が輝きを増した。




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