【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。いつもお世話になっております。
太陽が沈むと、春の夜空に異形の月が上った。
落ちてきそうなほど巨大な炎の満月には、いつか見た災厄の鬼火が揺らめいている。
俺達は今、月に監視されていた。
理屈ではない、直感による確信があった。
災厄は続いている。
王都の迷宮現象が解け、太陽が沈んで暫く後、王都民の一部は重篤な瘴気病を発症した。
西の切れ目だけではなく、月からも高濃度の瘴気が漏れ出しているせいだ。
結果、襲撃があってなお健在だった治療院には瘴気病患者が搬送され、転移神殿の周囲には治療用の簡易テントが設けられるようになった。
街が半壊し、瘴気病の患者が出て、医療の現場が逼迫している。
それだけなら、まだマシだったのだろう。
同日、夜が深まった頃、死んだはずの王都民が家族の前にふらりと姿を現した。
言葉は話せない。意思の疎通もできない。目に光もない。それでも家族のところにやってきた。
彼等の親類縁者達は、奇跡が起こったのだと感動の涙を流していた。
結論から言うと、それは死霊魔術で蘇った
王都のあちこちで、動死体が動き出した。折れた足を引きずり、零した内臓を踏みつけ、黒ずんだ血を流しながら、縁のある場所、愛する家族の下へ向かっている。
動死体は人類を襲わない。しかし、殺さねばならなかった。蘇った死者は速やかに処分すべし。そう、人類平和条約に定められている。
助けられなかった命を、今度は自らの手で葬る必要があった。
「クソ! 無抵抗の市民を、俺はあと何人殺せばいい! 俺は、俺はこんな事する為に騎士団に入った訳じゃ……」
「黙って手を動かせ。お前が止まると民が死ぬんだぞ。勤めを果たすのだ」
蘇った死者達は、ラリス騎士の指揮で街の衛兵達が対処していた。
動死体は頭を壊せば活動を停止する。力いっぱい殴って、殺すつもりで殺さねばならない。
一方で、光力や聖属性魔法の効きは悪かった。要するに、動死体達は不浄の存在ではないのだ。
また、動死体は魔物のように粒子に還る事はなかった。
瘴気を宿してもいなかった。
ただ、外法によって甦らされただけの、文字通りに動く死体に過ぎなかった。
「まっ、待ってください騎士様! その娘は私の一人娘なんです! 避難の時にはぐれちゃって、その娘がいなくなったら、また一人に……」
「許せとは言わん。殺せ」
「いやぁあああああ! やめてぇえええええ!」
王都の衛兵達は、法に則って職分を全うした。
再会した親子を引き離し、心臓の止まった子供の頭を壊していた。崩れた家に帰ろうとする足の無い老婆を馬で踏みつけ、止まり木協会に屯っていた孤児達の動死体を一人一人潰していく。処理された動死体の残骸は、天使が生み出す浄化の火で灰に変えられていった。
仮面のような顔で仕事をこなす衛兵に、二度も親しい人を亡くした王都民達は悪罵の限りを尽くしていた。
「うす。盟主様、交代っす。そろそろ休んでください。いざって時は頼りにしてますんで、お願いします」
「ああ……そうだな。お言葉に甘えて休ませてもらうか。その前にヘカテの様子も見ておこう」
「ヘカテ様なら書庫にいらっしゃいます。レノ様達もそちらに」
衛兵達が動死体狩りに奔走する中、俺達草薙や天群雲は拠点の防衛と救助活動に終始していた。
災厄と戦ったばかりで気遣われているというのもあるだろうが、あくまで人民にとっての希望の象徴として遇されているような印象だ。
もっと早く助けてくれたらよかったのに、と。そう民衆に罵倒されるのを覚悟していたが、ついぞ罵られる事はなかった。
屍王が来た日の夜は、死者の呻きと、民の嘆きの声で一睡もできなかった。
朝日が昇る。
恐ろしい月が晴天に溶けると、上空からの視線は嘘のように消失した。
やっと深呼吸できるようになった。
動死体の焼ける匂いは、気にならなくなっていた。
「あ、あぁ……昨日のは、夢じゃなかったのか……」
「俺の店が無くなっちまって。もう何処に帰ればいんだよぉ……」
「あはは……住むとこなくなっちゃったね、パパ。これからどうしよっか……」
太陽によって暴かれた王都の街並みは、悲惨の一言に尽きた。
冒険者がいたエリアは比較的原型を保っているが、それ以外は殆ど廃墟同然になっていたのである。
転移直後に利用していた宿屋は瓦礫の山になっていた。グーラをお迎えした日に泊った宿も魔物の攻撃で黒い塊と化している。皆と行ったニカノル大浴場も、夜森人のレストランも、いつも通っていた商店街も滅茶苦茶だ。
水路から漏れた水で濁った水溜まりができていて、そこに誰かの飼い犬の死体が浮かんでいた。首輪には飼い主の名前が書いてあった。その人はもうこの世にいない。
「ん、皆下がって。ここからあそこまでの瓦礫持ち上げる。【念力】」
「おお……さすが【射貫く天眼】のレノ様、なんたる精妙な【念力】捌き。瓦礫が綿のようだ」
それでも、この荒れ果てた街を復旧せねばならない。絶望で立ち止まる前に、希望を持って身体を動かす他なかった。
何処かに、まだ生きて助けを求めている人がいるかもしれない。ラリス騎士の誘導に従い、俺達は瓦礫を撤去していった。
「ヒャッハー! 女だぁーっ! どうせ死ぬなら最後まで楽しんでから死んでひでぶっ!?」
「貴様等に明日を生きる資格はない! この街で乱暴狼藉を働く者は即刻処刑である! 殺した罪人の頭は念入りに潰しておけ!」
動き出したのは死者だけではない。絶望に屈した弱い輩共は、生者よりずっと元気に暴れていた。
彼等は容赦なく殺されていた。終末論者も同様だ。マイナスな感情を吐き出す者は、崩壊の萌芽として刈り取られていった。
それらの役割もまた、衛兵やラリス騎士が担っていた。
「どっ、アダムスさん! よくぞご無事で!」
「へへっ、あん時はちょうど格納庫に籠ってたんで、そこにいた奴等は全員無事でさぁ。インヴァやケインの奴も生きてますぜ。ほらあそこ」
「うぉおおお! おぉれぇのぉみぃせぇがぁあああ! まだ借金返済し終えてないのにぃいい!」
「ですが、ケッテンクラートや自転車は無事なようですよ。頑丈に造っておいてよかったですね」
気の滅入る中にも、俺にとっての希望はあった。知り合いの職人達が生きていたのだ。
ドワルフの店はぐちゃぐちゃになっていたが、保管していた資料や武器の試作品は無事だった。同じくケイン氏のゴールデン・ケッテンクラートも汚れていたが何食わぬ顔して普通に動いた。
壊れた王都に道らしい道が出来てくると、何かと小回りの利くケッテンクラートはジッド砦防衛戦の時のように大活躍し始めた。
「よかった、レノちゃん生きてたのね!」
「ん、会いたかった、ファリナ。他の皆は?」
「王都にいた子は全員大丈夫のはずよ。他は、ちょっと分からないけれど」
「チィ姉、無事でよかったです。無事じゃなかったら護衛官の奴を半殺しにするところでした」
「うん、まぁ元々安全なところにいたんだけどね。それでも危なかった時はこの子達が守ってくれたの。猫だったから皆の癒しにもなってくれて」
「ね~、めっちゃヤバかったよね~。あーしも一匹欲しい~」
レノの家族であるファリナさんと、ユゥリンの姉のチィレンさん。それから我が義母であるラグニアさんとも再会した。
チィレンさん達は安全地帯に避難していたのだが、そこにも魔物が襲ってきて、逃げる彼女等を護衛官とヘカテ謹製の召喚猫が守ってくれていたらしい。
本当、召喚獣適性のあったチィレンさんに戦闘力特化の召喚獣を渡しておいてよかったなって。迷宮毒を吸ってチィレンさんの猫好きが強化――悪化?――したのはコラテラルダメージである。
「次の方どうぞ~ってイシグロ様じゃないですか! 草薙の方々ならわざわざ並ばずとも……」
「俺達が範を示すのが手っ取り早いですから」
「あ、ボク大盛りじゃなくて大丈夫です。ありがとうございます」
「戦える人はいっぱい食べた方が合理的だと思うんですがねぇ。まぁ本人がいいってんなら別にいいですけど」
王都民への炊き出しには、保存食に欠けがちな調味料を供出した。
近郊の農耕地は無事らしいので、じきに支援物資が届く予定だ。それまでは保存食メインで耐えるしかない。一応、王都にもそういった備えはあるようだった。
夜が来ると、また例の月が現れた。
衛兵達の奮闘もあって、街中を歩き回る死者の数は減ったが、ゼロになった訳ではない。灯りのなくなった街では、遠くにいる動死体の呻きと、生者の嘆きがやけに響いて聞こえてくる。
二日目とあれば、少しは慣れる。慣れてしまった。
そうして、俺はやっと眠る事ができた。
場所は転移神殿の一番良い部屋だった。外界から閉ざされたところじゃないと安心して休めなかった。
十五分毎に目を覚まし、皆の無事を確認していた。
「そ、そんな、リンジュにも魔物が……! お、俺の家なんか下級魔物が突っ込んだだけで壊れちまうくれぇオンボロなのに……」
「大丈夫ですわ! カムイバラにはわたくしのお祖父様がいますもの! お家もお家族も無事に決まっていますわ!」
「遊郭に被害が出ていないといいのですが……」
目が覚めると、気の重くなるニュースが届いていた。
なんと、例の迷宮現象は王都以外の街にも発生したというのである。中には、ついさっき終息した迷宮もあったらしい。
迷宮になった街は王都を含めて六つだ。カムイバラ、クーシェン、聖輪郷、ネザーレ、レバンティン。人口が多い都市というより、人口密集地が意図的に狙われている印象だ。
天群雲の中には、リンジュとクーシェンに実家を持つメンバーがいるので、向こうの家族と連絡が取れるよう上に計らってもらう事にした。
「やっぱ、妙にゲーム的というか、ダンジョン的だよな……」
「確かに、いつぞや潜った水晶守る迷宮みたいじゃな……」
その日のうちに、続報が入ってきた。
曰く、隠しボスを倒してクリアした王都とは異なり、カムイバラ・ダンジョンはタワーディフェンス式だったらしい。街の外縁から魔物が襲ってきて、国軍・組合・武行・冒険者の総出で迎撃していたそうだ。
襲撃中は花冠竜オイゲンさんが各地の街路樹を操って要塞化し、最後にデカいのが現れてそれを討伐して終わったという。王都と比べれば被害は軽微と聞いている。
他はまだ情報はないが、何処も何かしらの条件を達成する事でクリア扱いになったそうで、それこそゲームや迷宮のような“遊び”や“ルール”があったらしい。
「予はネザーレに帰還する事にした。約束を反故にするようですまぬが、ラグニアは任せたぞ。さらばだ」
ややもせず、俺達と再会したリアルイーザ様は故郷であるネザーレに帰っていった。
本心を言うとこのまま王都にいてほしかったが、故郷を想う彼女を引き留める事はできなかった。
「お祖父様、お身体の方は……」
「案ずるな。元より、我に翼などなかった。元に戻っただけだ」
一方、ヴィーカさんは、ボロボロの身体で素振りをしていた。
彼は屍王の攻撃により致死量の瘴気を浴びてしまったらしく、専門の癒者が言うには生きているのが不思議なくらいの状態らしい。
可能な限りの治療が施されたものの、失った角と翼は元に戻らなかった。飛行能力は無くなり、竜族権能の性能も半減しているそうだ。
そのような状況下で、彼は淡々と戦闘準備を整えていた。彼が振るう木刀には、不退転の覚悟が宿っている。
彼の中にある何が、彼の魂を燃やしているのだろう。何故、絶望せずにいられるのだろうか。
「約束したからな……」
俺の心を読んだのだろうか。そう一言呟いて、以降彼は黙って木刀を振るい続けた。
もし、真の英雄は誰かと問われた時、俺は銀竜剣豪ヴィーカと答えるだろう。
そう思うくらい、俺は彼の存り方に圧倒されていた。
「早いな。もう建ったのかあのマンション……」
「言うて簡易住宅ッスけどね。予め造っといた部屋を積み木みたいにして組んで終わりッス。魔法一発耐えれない、脆い家ッスよ」
「でも雨風は防げるよ。それだけでも夜の安心感は違うから」
支援物資が届き始めると、沈下していた王都の雰囲気も少し持ち直してきた。
ディング式の仮設住宅。ハリボテらしいが、雑魚寝よりは全然マシだ。各地に張られたテントで仮説浴場も設置され、衣食住が足りた者から希望の光が灯り始めていった。
「はぁ~い♪ 皆のアイドル♪ ルルちゃんが来ったよ~♪ みんな~♪ 今日も生きてて偉いね~♪」
「うぉおおおルルちゃんだぁあああ! どの角度から見てもかわいいいいい!」」
「目線くださぁあああああい! ほぁ! ほぁ! ほぁあああああ!」
「素直に写生です。サイン書いてほしい」
希望と言えば、いつの間にやら天群雲は西区のアイドルとして一際強い輝きを放っていた
人として当たり前の善性が、荒んだ心にしみこんでいるかのよう。あるいは、彼等の英雄指数はこういうところに出ているのかもしれない。
「よいしょっと。これで最後です。ご確認ください」
「ありがとうございます。本当に、西区にイシグロ様がいてよかった……」
他方、俺とルクスリリアはひたすら支援物資を運搬していた。
フライシュ領まで飛んで、王都に戻ってくる。物資置き場にあるモノをケッテンクラートに積んで各地に運んでいく。素晴らしい段取りだ。
その影響か、西区だけでなく王都全体の復旧は当初の予想よりも早く進んでいた。
子供の適応力は凄いもので、街のあちこちでは色んな種族の子供達が遊んでいた。
笑顔の子供がいるなら、まだ希望はあると信じられる。
世界は幼女で回っているのだ。
「イシグロ様、お時間よろしいでしょうか」
ふいに、変装中のエージェント・メイドさんに声をかけられた。
彼女も彼女であまり休めていないのか、その顔には変装越しにも分かるくらいの疲労の色があった。
「殿下がお呼びです」
そうして、俺達は呼び出された。
この王都で唯一、屍王に対抗し得る王子の下へ。
〇
いつぞやの秘密基地。薄暗い地下通路を、俺とヘカテとクニュフはエージェント・メイドさんの案内で歩いていた。
地上と違い、ここは全く壊れていない。下水道もそうだったが、王都の地下はかなり頑丈に造られているようだ。避難民を収容していたシェルターも地下にあったし、何処かの誰かから攻められるのは想定されているんだろう。
「前も来たねここ。でも守ってる人が少ないニャ」
「ラリス騎士は外で仕事してはるんやろ」
歩きながら思う。そういえば、このエージェント・メイドさんとも何気に長い付き合いだなと。
初めて会ったのはいつだったか。少なくともレノ救出作戦の時に一緒したのは覚えている。ケナズの里でも顔を合わせていたし、空飛ぶ槍を持ってきてくれたのも彼女だった。
純粋に、生きててよかった。そう思う。
「こちらに」
そうこうしていると、突き当りの扉に辿り着いた。
護衛の気配がない。この先には、第三王子だけがいるらしい。
「イシグロ様、殿下は……」
彼女がドアノブに手を掛ける寸前、振り返って口を開いた。
待っていると、彼女は憚るようにして続けた。
「殿下は、大変お疲れでいらっしゃいます。僭越ながら、お気にかけてくださればと存じます」
「承知いたしました」
彼女がそう言うのなら、本当にそうなのだろう。
俺は頷いてみせて、彼女が開けた扉を潜った。
扉の先は、シンプルな応接室だった。華美な装飾や仕掛けのない、最低限の用意しかされていない部屋。
そこに、ソファーに座った第三王子の姿があって、いつも彼の傍で控えていた爆乳侍女キルスティンさんはいなかった。
「やぁ、イシグロさん。クニュフさんとヘカテーニャ教授も久しぶり」
久しぶりに会った殿下は、不自然なくらいいつも通りの第三王子だった。
けど、女装はしてなかった。如何にも王族らしいお召し物を身に纏っている。似合っているのに、不似合いに思えた。
「さて、早速だが現状の情報共有をしようじゃないか。お茶はさっき侍女が淹れたやつを置いてるから、好きに注いで呑んでくれ」
挨拶もそこそこに、俺は彼と向かいのソファーに座った。
いつものメイドさんがいないので、ヘカテーニャにお茶の用意をしてもらう。芳醇な紅茶の薫りが応接室に広がる。初めて嗅ぐ匂いだった。
「それじゃあまずは屍王について話そうか。イシグロさん達も気になってるよね」
屍王の名が出た瞬間、隣に座っているクニュフは身を固くした。
そうして、彼は屍王と戦うまでの流れを時系列順に話してくれた。
始まりは、クニュフからもたらされた魔王軍残党の協力者リストだった。
そこに第二王子の名は載っていなかったが、慎重に調査を進めるとラリス王家に協力者がいる事が分かり、その最有力候補が後の屍王である第二王子ヴァシリゲスだったという。
だが、奴は魔王軍と協力しているだけではなく、近年では災厄に利する行動を取っていた。その時はまだ、災厄を利用してラリス王国を乗っ取るなり災厄に操られているなりであると思われていたそうだ。
それから時は進み、妖精が現れ、西に災厄の亀裂が生まれ、現ラリス王が抜けたところに罠を張って、のこのこ現れた第二王子を嵌めたのだという。パレードで見かけた王族は現ラリス王以外全員影武者だったらしい。
「間抜けを晒すようで恥ずかしい限りだが、あそこで災厄と対峙するのは想定外だった。兄上……元第二王子ヴァシリゲスが、まさか奴自身が当代の災厄そのものだったとは……」
屍王と化した第二王子は、規格外の強さを持っていたらしい。
とはいえ、王子も無策だった訳ではない。クソ未来の屍王の強さから逆算し、少なくとも未来屍王を殺せるだけの準備は整えていたそうだ。
実際、奴は何度も死んだらしい。だが殺される度に蘇り、蘇る度に強くなっていった。ヴィーカさんの霊格極装は問答無用で魂を斬る。奴は魂を微塵切りにされても蘇ったそうだ。
で、最終的に迷宮現象の解除と共に奴の復活は切れ、ヴィーカさんの一撃で討伐された……という流れだ。
「アレで死んだ訳ではないのでしょうか」
「だろうね。お察しの通り、屍王を名乗る災厄は本当の意味では死んでいない。事実、未だ災厄の瘴気は世界を覆っているし、西の切れ目にいるという屍王の分霊も消えていない。それに奴は、散り際にまた会おうと言った。必ずや、第二・第三の策を仕掛けてくる。動死体もその一つだろうね」
屍王は帰ってくる。あるいはあれは端末のようなもので、本体は別のところにいるのかもしれない。
現状だと、もう一度迷宮攻撃をやられたら、現存する人類は耐えられないと思う。
「例の迷宮現象だが、天文台の調査やヘカテーニャ教授のレポートから、既に対処法は判明している」
「……え?」
続く王子の発言に、俺は喜色の籠った声を上げてしまった。
見れば、隣に座っているクニュフとヘカテーニャはそんなに驚いていない。俺だけがビックリしていた。
「方法は単純だ。ラリス王家の権限で、この世界にある全ての転移石碑を閉鎖する。これによって、奴が仕掛けてくる迷宮現象を防げる。間違いないね? 教授」
「左様にございます」
言われ、ヘカテーニャは神妙な面持ちで頷いてみせた。
情報が右から左へ流れてる俺を見てか、ヘカテが口を開く。
「要するに、こっちとあっちを繋げる扉に鍵を掛けようって話や。いや鍵を潰すって言うた方が近いかな。ウチ等が前みたいに迷宮に潜れやんくなる代わりに、向こうからもこっちに侵入できへんくするっていう。ここらへんの迷宮関連の情報は天文台の資料読んで分かったねんけど。クニュちゃん知っとったんやんな?」
「うん、それが言っちゃいけない事の一つだったんだ。そこまで詳しくないけどね」
「まだまだありそうだが……ん? 確か未来の屍王って迷宮使えなくしてたんじゃなかったっけ?」
「それも、うん。理由は知らないけどね。私が知ってるのは迷宮には潜れなくなってるって事だけだったから、そのへんもあんまり詳しくないんだ」
「その情報があったからこそ、最初から王族の関与を疑う事ができたんだよ」
まだ理解しきれてないし、まだまだ気になる事はあるし、モヤッとはしてるけど、なんとか把握はした。
とにかく、迷宮に行けなくなる代わりに、もう迷宮現象に怯える必要はないって話だな。レベリングできなくなるのは結構なデメリットではあるが、仕方ない。
「閉鎖する時に迷宮に潜っている人は帰還できなくなるんだけど、こればっかりはどうしようもない。屍王については、これくらいかな」
言って、王子はカップの紅茶を一口飲んで、僅かに眉を顰めてソーサーに置いた。
「次だ。今後の為に、アスモデウス号を調べさせてほしいんだけど、構わないかな?」
「ええ、それについては是非」
アスモデウス号は、夢魔王が残した異世界版ノアの方舟だ。これを使えば、世界の狭間的な場所に潜航して遠い未来へと逃げる事ができる。
艦の中身はぶっちゃけブラックボックスの塊で、本格的な調査は第三王子との打ち合わせ後という話だった。その前に屍王が来てしまって後回しになっていた訳だ。
「夢魔王が語ったという、人類避難計画。実行するかどうかは置いておくにしても、選択肢の一つとしては全然アリだ。もしもの事を考えて、いつでも動かせるようにしたいんだよね。その為に、ヘカテーニャ先生を貸してほしい。もちろん害するつもりはないけれど、心配なら護衛をつけてもらっても構わないよ」
「承知しました。ヘカテはどうだ」
「ウチは問題あらへんよ。せやけど、もしもの時の為にクニュちゃん護衛お願いできる?」
「がってん承知の助~」
という訳で、後回しにしていたアスモデウス調査計画を再会する。
現在は猫の手も借りたい状況だが、故にこそいざとなった時の用意は必要不可欠である。ヘカテとクニュフが抜けるのは痛いが、これも未来の為。
「何なら殿下に艦長権限をお譲りしますよ、今すぐ」
「そうかい? しかし、アスモデウス号は君が夢魔王から勝ち取った物だろう。そう易々と手放すのは……」
「ぶっちゃけ荷が重いですから。逃げる時は一緒に逃げましょうよ」
言いつつ、アスモデウス用のコンソールを呼び出して操作する。ステータス画面と違って、こっちは皆にも見えるのが不思議ポイントだ。
慣れた操作で顕現委譲をタップし、第三王子に設定。確認ウィンドゥにオッケーして……。
「あれ? おかしいな……」
が、譲れなかった。
エラーじゃないな。艦長権限を渡そうとしたら、艦長はイシグロ・リキタカに固定されています的なメッセージが出てきたんだけど。
権限移譲ボタンを十六連打するも、結局俺は艦長席を下りる事はできなかった。
「……申し訳ございません。どういう訳か、権限の移譲は禁止されているようです」
「ふむ。察するに、夢魔王は君以外を艦長として認めないって事なのかな。王というよりは、正しく艦の長だったんだね」
ともかく、乗船許可の権限はヘカテとクニュフも持っている。後は研究者が上手くやってくれるだろう。
と、ここで思い出す。アスモデウス号の現在位置はフボール地方のルーゴウン大河だ。ルクスリリアならともかく、ヘカテ達が研究者を連れて向かうのは無駄に時間がかかってしまう。出来る事ならアスモデウス号をこっちに呼び寄せたいところだが、したら屍王に察知されそうで怖いんだよな。
ああも殺意満々に登場した屍王が、今さらアスモデウス号を放置するとは思えない。見つかり次第、壊される気がする。今までは運が良かったか、見逃されていただけなんじゃないか。
「遠隔で操作できるんだろう? アスモデウス号は日中のうちに移動させてくれればいいよ。天文台の方々が言うには、屍王は夜にしかこの世界に干渉できないようだから、行動するなら朝から夕方の間がいいね。こっそりいこう」
「あ、そうなんですね。畏まりました」
どうやら、太陽が出ているうちは見つからないっぽい。俺はアスモデウス・コンソールを弄って日中のうちに移動できる距離と隠れられるポイントを繋いでルートを作成した。にしてもマジで使いやすいなこのユーザーインターフェイス。
「次に、ヴィーカ様の病状についてだけど……」
それから、俺達は思いつく範囲の全ての情報を共有した。
ヴィーカさんの治療について。街の復旧状況について。新生魔王との和平協定や、各国の情勢についてなど。
屍王の打倒方法については、目下調査中とのことだった。詳しく聞きたいが、答えてはくれなかった。
「ふぅ……まぁ、ざっとこんなところかな」
一息吐き、殿下は話を締め括った。見れば、彼のカップにある紅茶は減っていなかった。
それはそうと、俺にはまだ訊いておきたい事があった。
「僭越ながら、“未来視”の竜族様に未来を視ていただく事は難しいのでしょうか?」
ジッド砦では、俺達は未来視様なる竜族の予言に従って動いていた。オタク的に、そういう能力者の予知に従っておけば安心できるのだが。
伺ってみると、彼は眉根を下げて言った。
「残念ながら、彼は今眠りについているらしい。初めて災厄が現れた時から、何度も連続で未来を視ていらっしゃるから」
「そう、でしたか」
未来視様の力は借りられないらしい。未来予知がなくなると、一気に足元が覚束ない気持ちになる。
いやいや、何を弱気になっている。普通なら未来なんて分からなくて当然なのだ。未来は自分で創り出すモノってそれ一番言われてるから。気合入れていこう。
「さて……そろそろ、本題に入ろうか」
「本題ですか」
「ああ……」
本題と聞いて、緩んでいた姿勢を正す。
さぁ何が飛び出てくる……と身構えていたが、当の殿下はなかなか口を開かなかった。
まるで、それを切り出す事自体を躊躇っているような、
「これは命令ではなくお願いなんだが……ここから先はイシグロさんと二人で話したい。クニュフさんと教授には、別室で控えていてもらいたいんだ」
「かしこまりました」
それだけ重要という話だろうか。真祖と猫又の二人は立ち上がり、一礼した後に部屋を出た。
「範囲指定、魔力過剰充填……【絶対なる静寂】」
扉が閉まったと同時、殿下は隠密系魔法【静寂】の上位版を発動した。
「これで僕達の会話は誰にも聞かれない。本題に入ろうか」
そう言う殿下だが、またもその口は固く閉ざされてしまった。
無意識だろうか。その手はカップを取り、ことさらゆっくりと傾ける。そして、またも顔をしかめて元の位置に戻した。
「ああ。そうだね……本題に、本題に入ろう」
再び、沈黙が過る。
そんな中、俺は挙動不審になった王子を辛抱強く待っていた。急かすべきではないと直感したからだ。
そういえば、殿下と初めて会った時は彼はまだまだ声変わりも済んでいない少年で、以降も女装姿を見る機会が多かったっけ。
彼も今では青年だ。もう二十歳くらいか。ゴリマッチョが多い異世界人にしては華奢な身体つきで、見た目的にはまだまだ少年といったところ。直近に見た女装も普通に似合ってたな。
「少し……」
蚊の鳴くような声。一瞬、誰の口から出たのか分からなかった。
殿下だ。彼はいつも通りの仮面のような王族顔のまま、壊れたアンドロイドのような挙動で次の言葉を探しているようだった。
「……話を聞いて、ほしかったんだ」
やがて、不安定な王子の口から、そのような言葉が零れ出た。
「あぁ……なんだろうね。生産性のない世間話……いや違うな、相談も少し違う。慰めてほしい気持ちは、全くない。うぅん……」
俺が返事をする前に、王子は前髪を弄りながら続ける。
ふと、さっきのエージェント・メイドさんの発言を思い出す。いつも通りに見える第三王子だが、実際にはとても疲弊しているらしい。恐らく、限界まで。
そうでなくとも、専属侍女を失ったばかりなのである。彼らしくない振舞いは、ある意味で彼らしさの表れなのかもしれなかった。
今、俺が彼にしてやれる事は、そう多くはない。なので迷う事はなかった。
「世間話でも相談でも、いくらでも伺いますよ」
言うと、彼は喉の奥で言葉を止め、細い息を吐いて僅かに瞼を下げた。
安堵したようにも見え、後悔しているようにも見えた。
「キルスティンがね……僕の専属侍女が、死んだんだ」
やがて、言葉を零す。
声音はさっきと変わらない。けれど、そこには俺が今まで彼から感じた事のない感情が渦巻いているように思われた。
一拍後、彼は息を呑んでから続けた。
「物心が付く頃から、キルスティンは僕専属の侍女をしていた。城にいる間はずっと一緒だった。戦場から帰る度に、顔を合わせていた。だから、そうだな……彼女は、僕にとっての日常の象徴だったのかもしれない。あるいは母か。僕は母上とお会いした事がないから、本物の母親がどういうものなのか分からないのだけれど。死産だったらしくてね。継母は僕にも優しく……いや、これはいい」
自分の感情を分析するような声音だった。
矛盾なく、それは壊れかけの古いハードディスクが出す悲鳴のようでもあり、俺の耳には子供の嗚咽のようにも聞こえた。
「ご冥福をお祈りします」
「ありがとう。でも違うんだ、そうじゃあない」
ゆっくりと首を振る殿下。
沈黙。喉から言葉が出る寸前、彼はそれを一度飲み込んだ。
そして、心を吐き出すようにして、僅かに唇を震わせた。
「悲しくないんだ……」
これが、彼の言う“本題”だったのだろう。
確かに、世間話ではない。相談でもない。
強いて当てはめるのであれば、今の彼は懺悔か、あるいは悔悟しているかのようだった。
俺の目には、認知疲労で燃え尽きているように見えた。
「彼女が最期に浮かべていた表情を覚えている。今際の際、僕の名を呼んだ事も。あの時、キルスティンは屍王の攻撃から僕を庇って……死んだ。王族として、僕は合理的に判断し、彼女が作った隙を突いて屍王に痛撃を加えた。何の躊躇いもなく感情が次に向かった。得られた成果は微々たるものだったが、奴を撃退するには必要な犠牲だった」
淡々と、彼の心の吐露は続く。
「戦いが終わった後、崩れた王城に戻ってから、改めてキルスティンの死を認識した。その時も、僕は冷静だった。だから……壊れた茶器でも替えるように、次の手駒をどうするか考えていた。涙は出なかった。いつも通り、僕の感情は次に向かっていた。母のような人を失ったばかりだというのに」
口元を覆う。瞼が痙攣している。
虚無を湛えた大きな瞳は、俺を見ながら何も映していなかった。
「生まれが生まれだからかな。どうやら、僕の心には欠陥があるらしい。思い返せば、戦場で一党の仲間が死んだ時も、悼みこそすれ人らしい情動は湧いてこなかった。当時は子供で、何も気にしていなかった。それこそが王族としての資質だと捉えていた。けど今は、今になって……大切だった人の死を悼む事ができないと思い知った。その事実が、彼女が死んだという現実よりも、悲しかった。あぁ……醜悪だ、悍ましい。人間どころか、畜生にも劣る。これじゃあ人間失格だ……」
その時、殿下の身体に白い雷光が迸り、テーブルにあるカップに罅が入った。
一滴、茶器の中身が零れ落ちる。
「……いつか僕は、イシグロさんやアリエル師匠が死んでしまった時も、キルスティンの時と同じように涙を流さないのだろうか。また、彼女のように過去にしてしまうのか。いやそうなるだろうね、確信がある。それが……とても恐ろしいんだ」
全ての感情を吐き出し終えた殿下は、やがて自身の醜さを隠すようにして顔を覆った。
静寂が、部屋を覆っていた。
彼に対して、俺はある程度上手な返しができる自信があった。
年長の男として、彼の精神状態を類推し、改善に向かわせる事はできるだろう。自身を醜悪だと思う気持ちとの向き合い方も知っている。
しかし、だ。恐らくだが、それはもう彼の頭脳の奥に答えがあり、既に解決済みであるような気がした。事実、慰めてほしい気持ちは全くないと言っていたし、その言葉に嘘はないのだと思う。
彼は優しさを求めていない。導きを求めていない。及ぶべくもない絶対的な孤独に、俺は寄り添う事ができない。すべきでないとも、思う。
孤独は哀れまれるものではない。孤独は、人によっては癒しなのだから。
「殿下は、感情の分別が上手すぎるのだと思います。だからこそ、大切な人の死を合理的に受け入れてしまった。それが心の欠陥であるとか、醜悪であるとは俺には思えません」
故に、俺は、一定の距離感を保って話す事にした。
べったりし過ぎない。変に気を遣って慰めたりしない。共感という名の棘を持って、相手の心に土足で踏み込まない。
今の彼に必要なのは、恐らく――男友達だ。
「むしろ、そうやって思い悩む殿下には、人として好感が持てます」
「……は?」
唖然としていた。
割と本心だったが、まだ若い殿下には分からないのかもしれない。いや困惑してるのか。
「人も兵器も、弱みがないと可愛くないじゃないか。そうでしょう?」
「なんだい、それは。意味が分からないね。それに、人間同士のコミュニケーションにおいて、先のイシグロさんの返答は……うん、ちょっとおかしいよ。僕が学んだものとは大分……」
「分からないなら、いいです。そのうち分かりますよ」
「はあ。そんなもの、なのかな」
「ええ、そんなもんです。憐れで醜くて、可愛らしいのが人間なんですよ」
気が抜けたような顔をする殿下。そんな表情もできるらしい。
彼の中で、既にこの問題は完結している。その処理を、俺というフィルターを通して行いたかったに過ぎない。仕事終わりに焼き鳥頬張ってビール飲みながら愚痴るのと本質的には同じである。
だったら、俺は否定も肯定も共感も助言もしない。ただ受け止め、返す。それだけでいい。それ以上は、お互い苦痛になる。
少なくとも、俺と殿下はそういうやり取りをこそ楽に感じる類いの人間だろうから。
「イシグロさんは、恐ろしくはないのかい?」
「何がでしょうか」
ふいに話題が切り替わる。王子は言った後に顎に手を添え、もう一度口を開いた。
「君は魔神人に、半ば夢魔になっているんだろう? 夢魔の衝動に心が蝕まれる事に、いずれ自分が前までの自分じゃなくなる事に、恐怖は感じないのかい?」
「全然怖くないですね」
即答だった。実際、全く気にしていない。
強いて目を逸らしているとかではない。少し悩みもしたが、レメス王との戦いで吹っ切れたのだ。
「だって、何があっても俺は俺ですから。皆を想う限り、それは俺です。心に愛があるなら、それは俺です。人間だろうと、魔神人になろうと変わりません。夢魔に近い種族特性を持つ者として現実と折り合いをつける必要はあるでしょうが、だからといって俺が俺以外の何になる訳ではありませんから」
なんか、思ったよりスラッと言葉が出た。
どうやら、異世界に来て俺はアイデンティティーを確立したらしい。
「そう、か。強いな、イシグロさんは」
背もたれに身を預け、ぼんやりと殿下が言う。
その口角は、ほんの少しだけ緩んでいた。
「そういえば……」
遠く、何かを思い出すような声音。
天井を眺めながら、つぶやく。
「キルスティンは、僕に立派な王になれとは言ってなかったな……」
恐らく、その瞬間だったのだろう。
王子ではない、戦士でもない、誰でもないジノヴィオスが、大切な人を失った事実を受け入れられたのは。
俺はその証左を見ないよう、静かに紅茶に口をつけた。
落ち着くような、優しい味がした。
〇
異世界の迷宮は、その日のうちに閉鎖された。
表向き、これは転移神殿に施された魔術式の維持コスト削減の為の措置であると発表された。
それとは別に、例の迷宮現象は対策済みで、もう二度と起こらないとも発表していた。
ひとまず、王都の民は安堵しているようだった。
ややもあり、世界中に魔物が大量発生し始めた。
これまでも出る時には出ていたが、今回は主級の魔物までうじゃうじゃだ。
併せて、転移石碑が閉鎖された影響で迷宮に潜れなくなった冒険者達は、神殿を出て外の魔物を狩るようになった。
情報によると、圏外からは未だにアンデッド化した妖精が攻めてきているらしい。
ただ、アンデッド化して繁殖できなくなった為か、日に日にその数は減じているという。
ルーゴウン大河に沈めていたアスモデウス号だが、王子の言う通り昼間に移動させて王都近くの湖に潜伏させておいた。
さっそくとばかりに、アスモデウス研究チームは王都を出た。主任のヘカテーニャと、護衛のクニュフも一緒だ。
時は進み、事態が進展する。
第三王子ジノヴィオスは、新生魔王と正式に和平協定を結んだ事を発表した。以後、魔王はディング魔族国とは無関係な組織として見做される。新生魔王は対災厄にも協力してくれるとか何とか。
続いて、迷宮現象に関して各国と連絡を取り、まぁなんか色々やったらしい。殿下はラリス王家としての務めを立派に果たしていた。
夜になると、燃える月が昇り、人類を見下ろしてくる。
まだ街の復旧の目途は立っていない。ヴィーカさんや第一王子の治療も難航している。アスモデウス号の調査も始まったばかりだ。
災厄征伐へ向かった現ラリス王の一党はどうしているだろうか。陽動とはいえ相手は災厄の分霊。倒さない訳にもいくまいが、そんなモンさっさと殺っちまって本物災厄に集中してほしい気持ちがある。
ままならない。
ともかくとして、例の迷宮現象から、人類は何とか立ち直り始めたと言ってもいいだろう。
先の通り、課題は山ほどあるが。
それでも、だ。
まだまだ、俺達人類は負けていない。
必ず、災厄を退けて明日を掴み取ってみせる。
俺は、改めてそう心に留め置いた。
何時からか、世界中にとある噂が流れ始めた。
大切な人を失った者の前に救世主が現れて、死んだはずの人を生き返らせてくれるらしい。動死体ではない、疑いようもない本人を。
失った恋人と再会できる。離れ離れになった子供を再び抱きしめる事ができるのだ、と。
そんな噂が。
噂は真実だった。
悲しみに暮れる者に、救世主は手を差し伸べ、死者の蘇生という奇跡を成してみせる。
取返しのつかない、契約の下に。
次にくるライトノベル大賞が始まっているようです。
https://tsugirano.jp/
10月1日~10月14日がエントリー受付期間で、
11月16日~12月3日が投票受付期間みたいな感じらしいです。
という訳で、たのハクに清き一票を!
よろしくお願いします!