【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告も大変助かっています。重ねて感謝。
推敲よりも投稿を重視しました。
変なトコは後々修正します。
今回やっとヒロインが出てきます。
まだ性格の大部分は分からないままかと思われますが、まぁキャラクターの方向性は分かるかと。
この世界には、実に色んな種族の“人”がいる。
ファンタジーお馴染みのエルフやドワーフ。獣人や鬼人。天使や吸血鬼なんてのもいるらしい。
中でも最も数が多いのは人間族だ。平均としては貧弱なものの繁殖力に優れ、ほぼ全ての異種族と子を成す事ができるのだ。また、全種族の中で最も戦闘力の上限が高く、最も戦闘力の下限が低い種族であると。個体差が激しいんだな。
これら異世界の種族を大別すると、人間族とそのハーフはそのまま人間種。エルフやドワーフ等は亜人種。吸血鬼族や魔族は魔人種になる。ちなみに、天使族や竜族はちょっと別枠らしい。
文献によると、それら全ての種族は共通して同じ言語を話し、皆二本足で歩くそうな。これまたちなみに、獣人相手に料理だけ出して食器を出さないという行為は、獣人を獣扱いしているとみなされ殺害も許されるレベルの侮蔑に当たるようだ。異種族コミュニケーションには気を付けよう。
会話ができて、二本足で歩く事ができる。それができる種族は皆、トモダチなのだ。
つまりこの世界、ケンタウロスやアラクネといった複脚種族はいないらしいのだ。まぁロリコン的にはあんまり関係のない話だな。一応、獣人の中に馬人族というのがあるらしいが、彼ら彼女らも二本足だ。ウマ息子とウマ娘だな、ルビー実装前に転移した我が身の不幸よ。
で、俺が今から購入する予定なのが、魔族のサキュバスである。
魔族、それは生命の根源を魔力に由来する種族である。曰く、魔族は例え手足が千切れても魔力さえあれば修復されるらしい。逆に魔力が無くなると五体満足でも死んでしまうとか。頑丈だが、儚い。いずれにせよ殆どの人間種よりも強いのだが、その生態の多くは他種族に依存している傾向にあるようだ。吸血鬼とかね。
さて、サキュバスについてだ。
サキュバス――淫魔は魔族に当たるので、魔人種だ。つまり魔人種の魔族の淫魔さんである。
淫魔は他種族のオスから精を吸って生きる。これを吸精という。吸精手段は主に性交であり、そうして集めた精を取り込んで魔力を回復し、力をつけ、やがて溜め込んだ精を任意使用して同族の子を産むのだ。あと、生存とか繁殖とか関係なしにエッチな事が好きらしい。
つまり淫魔にとっては、エッチな事=食事兼筋トレ兼繁殖行為兼趣味なのだ。すごい種族である。
「彼女の名はルクスリリア。種族は先ほど申しました通り、魔人種の小淫魔となっています。出身は淫魔王国。前職は高位貴族の召使いをしていたようです」
サキュバスちゃんが来るまでの間、俺は奴隷商人の奴隷紹介を聞いていた。
こうやって商品の情報がスラスラ出てくるあたり、このおじさんが如何に優秀かが分かるね。カンペもなしにようやる。
数分前、奴隷商人のサキュバスいるぜ発言に飛びついた俺は、前向きに購入を検討したい旨を伝えた。
するとおじさんは一度ベルを鳴らして従業員に件のサキュバスをここに連れて来るよう命じた。事前に顔見せしてくれるらしい。
この世界にパネマジはない……ないと信じたいが、「君写真と違うね?」とはなりたくないものである。俺はおじさんの語りを聞きながら、マリアナ海溝の深奥まで沈んだ心を物凄い勢いで浮上させていた。
「彼女は母国……淫魔王国内で罪を犯し、女王の裁きによって我が商会に売られました。勿論、正式な手続きの上の売買契約です。その際、淫魔女王手ずからいくつかの呪いを施されたとの事で、現在淫魔としての特性をいくつか封印されている状態です」
どうやら、ルクスリリアちゃんは罪人であるらしい。罪状は知らないが。ついさっき落ちこぼれと言っていたあたり、落ちこぼれ犯罪者という事になる。ロリはモテないらしいし、扱い悪そうな。
ここまでの話を聞くと、何故店主がロリコンの俺にすぐルクスリリアをオススメしなかった理由がわかる。ロリといえばロリだが犯罪者で、多分もともと性奴隷としての見込みは薄かったのだろう。恐らく、魔族の強靭な肉体を使った労働用の奴隷として売るつもりだったのではないだろうか。サキュバス的に性奴隷制度が罰になるとは思えないし。
その点、俺のような冒険者に宛がわれるのは罰になるのだろう。なにせ、此処で最上位の契約魔術を施された奴隷は主人が死ぬと連鎖して死ぬ事になるのだ。常時鉄火場にいる冒険者の奴隷となれば、ほとんど処刑みたいなもんである。無論、俺に死ぬ気はないが。
「ご存じかもしれませんが、淫魔は誘惑と淫奔の魔法に長け、他種族の男の精を吸い取ります。ですから、サキュバス奴隷の扱いには慎重に慎重を重ねる必要があるのです。これは条約により定められたもので、何の処置もなく商品化する事は許されないのです。仮に一切の枷もない飢餓状態の淫魔を街に解き放ってしまうと、その街が機能を停止してしまう恐れがあるのです」
これじゃあサキュバスが生物兵器みたいな言い方である。
まぁ確かに、話に聞くサキュバスの魔法を遠慮なしにぶっ放してしまえば一般ピーポーは暴走してしまうのだろう。むべなるかなであった。
「ですので、サキュバスを奴隷化する場合、呪いとは別に高度な契約魔術を施す必要があるのです。本来、彼女はうちの傘下の労役用奴隷店に任せる予定でしたが、イシグロ様がお望みとあれば……」
そう言って、再度値踏みするような目を向けてくる店主。その口元はほんの僅かに笑みを作っていた。
客を試す失礼な態度というより、「わかってますぜ?」というような雰囲気があった。こういう親しさを見せる事で俺の心を解くつもりなのか。
その企みは分かっている。俺に心を開かせ、財布のヒモを緩めたいんだろう。
「いくらですか?」
「王国金貨で150枚となっています」
「買った」
うん、余裕でノッちゃう。
ちなみに、奴隷の値段は前世でいう車に近い感覚だと思う。
多くの場合、客が欲しがるのは燃費と性能に優れた軽自動車や乗用車だろう、実用性重視、コスパが良い奴が売れる訳だな。デザインが良いと嬉しいよねって感じ。
対し、高級奴隷はフェラーリとかアストンマーチンみたいな趣味性の高い車扱いになるんだと思う。デザインやブランド性重視で、実用性はそこまで重要視されない感じ。それでも高値で売れるのだから、売り手も買い手もハッピースマイルだ。高い奴はホント意味わからんくらい高い。
それで言うと、ルクスリリアちゃんは燃費も性能も良いけどデザイン悪くてブランド性ゼロで悪目立ちしちゃうチグハグ高級車になるんだと思う。金持ちは欲しがらないし、コスパ重視勢からすると微妙と。やめよう、この言い方は悲しくなる。
「ありがとうございます。ですが、実際にご覧になってからお決めになられた方がよろしいかと」
店主は小さく微笑むと、先ほどまでの雰囲気を霧散させた。
さっきの掛け合いは冗談。そう顔に書いてあった。
「あ、そうですね。つい……」
まあ、ここまでの流れは読めていたんだろう。今のですぐ契約を迫るような余裕のない店じゃありませんよというポーズだ。
その甲斐あって、俺から店主への心の硬度は柔らかくなってる訳だし。こっちだとこういう商談方法がメジャーなんだろうか。
それから、俺と店主はこの世界のロリコン事情について話した。
敵と己のお尻だ。ロリについて知ってもらえば、今後もサキュバス以外の顔の良いロリを仕入れてくれるかもしれない。
「そうですね、こちらでは未成熟な少女を愛でる習慣は聞きません。やはりあくまでも子供として、ですね。イシグロ様の故郷ではそういった嗜好の方が多かったのですか?」
「どうでしょう、法で禁止されていたので大っぴらに喧伝する人はそういませんでした。私もです。ですが、母国の男性の多くには大なり小なり琴線に触れるモノがあったのではと思います。言わないだけで、皆少女が好きだったのだと」
そうこうしていると、扉の先に気配――アクセシビリティの敵味方レーダー機能である――を感知した。
控えめなノックの後、「連れて来ました」という男の声。さきほどルクスリリアを迎えに行った従業員である。
「入ってください」
店主の許可を得て、扉が開かれた。
ゆっくりと、木製のドアが開いていく。心臓の音がうるさい。来た、来た、来た。ついにロリの奴隷をこの目にできるのだ。
緊張の瞬間。ファーストコンタクト。運命の出会いである。
さてさてご対面……と思って凝視していると、そこには全身を真っ黒なマントで覆った小さな邪教徒みたいなのが立っていた。多分、ルクスリリアちゃんなのだろう。実際ちんまい。
それは首から足首までを黒いマントで覆っていた。ご尊顔はパペットマペット氏の如き黒い袋で隠され、色気もクソもない。一歩彼女が歩み出ると、むき出しの足元からじゃらりと鎖の音が聞こえた。
「これは……?」
「万一の事があってはいけませんので、現在彼女からは聴覚を除く感覚を封印しています。イシグロ様ならば平気かもしれませんが、私のような者には淫奔魔術の耐性がありませんので。契約魔術もまだなので、もしもの時は即座に無力化します」
どうやら、サキュバスは俺が思っていたよりも危険な種族として見られているようだ。
俺なら大丈夫というが、どうなんだろう。そういうデバフ系は薬で無理やり治してきたからどれだけの耐性があるのか分からないんだよな。
「クリシュトーさん」
「ええ。封印を解除してください」
ともかく、俺は早く顔が見たい。その気持ちを視線に込めて店主を見ると、店主は従業員に許可を出した。
まず、頭を覆っていた袋が取られた。そこから現れたのは、俺の想像を優に超える美少女の顔であった。
パッと見で分かった。クソかわロリ美少女だ。肌は艶やかできめ細かく、荒れた部分が全くない。そして、ミルクを溶かし込んだように白く、透明感があった。
顔立ちといい体型といいロリそのものだが、ロリコン目線じゃなくても肌艶だけでかなりの色気がある。前世のジュニアアイドルと100人組手しても絶対勝てる。
「おぉ……!」
髪は輝くような黄金だった。ヘアスタイルは前世でいうとミディアムヘアになるんだと思う。毛先が外側にぴょこっとウェーブしていて、大人の女性というよりも少女といった印象が強い髪型だ。
ぼんやり開かれた瞳はじっと見ていると吸い込まれそうなほど大きい。虹彩は濃いワインの色をしていて、髪と同色のまつ毛は驚くほど長かった。
真ん丸で大きな双眸の割に、鼻と唇は小ぶりだ。よく聞く表現だが、ルクスリリアはまるで人形の様な顔立ちをしていた。ゴスロリ衣裳でも着れば前世のオタク君を一発KOできそうである。無論、俺の心は既に奪われていた。
そして何より目につくのが、ヒト耳の上――側頭部にある左右一対の漆黒の角の存在だ。それは鬼や牛王を連想させるような厳つい形状ではなく、羊の様な丸っこい形をしていた。
彼女の美貌に見とれていると、背後に立った従業員が何事か呟いた。わずかな魔力感覚、魔法の詠唱だ。封印とやらを解いているらしい。
すると、ルクスリリアは寝起きの様に数度瞬きをした。どうやら今の今まで目が見えてなかったらしい。ぼんやりと開いてたさっきと違い、今はパッチリとした瞳が全開だ。
彼女はロリロリしい顔立ちに対して、その目は蠱惑的に吊り上がっていた。メスガキの目で伝わると思う、あのツリ目だ、大好物である。
「ルクスリリア、こちらは銀細工持ち冒険者の“黒剣”のイシグロ様です。貴方のご主人様になるかもしれない方です、失礼のないように」
そしてキョロキョロと辺りを見渡すと、最初に奴隷商人と目を合わせた。
それから視線をスライドして、俺と目が合った。その瞬間、俺の心臓が跳ねたのが分かった。ロリと目が合った。もうそれだけでドキがムネムネである。
「うぁ……ぉぇあ……」
ルクスリリアが何事か云っている様だが、言語になっていない。そういうのも封印されているようで、従業員さんはさらに詠唱を続けた。
封印解除の詠唱が響く中、俺と彼女はずっと視線を交わし続けていた。
「あぅえ……ぉあぁぁ……、ぉうぁい……ぃあぁぁ……!」
繋がれる視線と視線。
メスガキめいて吊り上がった瞳からは、彼女の感情が伝わってきた。
ロリコンじゃなくても、分かる。彼女は、助けを求めていた。その眼には恐怖があった。涙は流していない。身体も震えていない。けれど、奴隷となった落ちこぼれサキュバスは、俺という個人に助けを乞うていた。
これまでのロリコン人生、これほどまでにロリから何かを求められた事があったろうか。いやあったにはあったが、それはお年玉だった。勿論喜んで課金した。「おじさんありがとう」というボディブロウを食らった思い出が蘇る。21歳はおじさんではない。
ともかく、彼女は俺を救世主でも見るような、縋る様な目で見ていたのだ。理由は分からない。俺を、善人だとでも思っているのか。
「はっ……!?」
やがて詠唱が終了すると、行動を制限する封印は解かれたようで、彼女は一度ビクンと身体を震わせた。
身体の自由を得たルクスリリアは、まず自身の手を見てグッパグッパしていた。マントの隙間から出た両手には、ゴツい手錠がついていた。
それからもう一度俺と目を合わせると、その大きな赤い瞳を潤ませ始めた。
「ルクスリリア、挨拶を」
店主の命令が聞こえていないのか、彼女はなおも俺を見つめ続けていた。滲むような涙はすぐに大粒の涙となり、それは彼女の頬を伝っていった。
対する俺は、唖然となって彼女の涙を凝視していた。すがる目の理由は分からないが、涙の意味には気づいたからだ。
当たり前の事だった。
これは、枯れる前の奴隷の涙だった。
分かっていたつもりだった。覚悟していたつもりだった。奴隷を買うという事は、ひとつの命を踏みにじるという事を。一人のロリを泣かせるという事を。
罪人とはいえ、性行為が罰にならないとはいえ、誰が好き好んで個人所有の奴隷になるというのか。当然、哀しいはずだ。悲劇で然るべきだ。俺はそれを、ロリ奴隷ハーレムなどと嘯いて欲望を満たそうとしている。浅ましく、醜悪だ。自覚のある事を、今こうしてその結果を見せつけられたのだ。
強者は奴隷の上で嗤い、奴隷は強者の下で泣く。それがこの世界だ。日本じゃない、ここは異世界なのだ。俺が欲望を叶えるには、その事実を飲み下さないといけないのだ。
かわいそうなのでぬく決意を抱かないといけない。
俺にとって、俺の夢がホントの夢であるならば。
悪徳に漬かる覚悟がいるのだ。
「ルクスリリア、挨拶を」
温和な店主の冷たい声。
命令された奴隷は、涙を流しながら俺を見ていた。
ルクスリリアが口を開く。身体が震えている。ジャラリと鎖が鳴ると、背後の従業員が身構えていた。
「あ、あぁ……た、たっ……!」
そうして、彼女は……。
「アタシを買って下さいッスゥゥゥーッ!」
叫ぶと同時、俺に向かってジャンピング土下座をぶちかました。
唐突な土下座に、俺の葛藤は完全にフリーズしてしまった。店主は額に手をやって「あちゃー」ってなってて、身構えていた従業員も固まっていた。
俺視点、金色の毛玉が足元にすがりついてるような構図だ。忠誠のポーズというより、命乞いのポーズに見えた。
「お願いッス! アタシを買ってください! 料理できます掃除できます家畜の世話もできるッス! ご飯もほんの少しでいいッス! サキュバスは低燃費ッスから大丈夫なんス! 迷宮にも喜んで同行させて頂くッス! 女王陛下の呪いで簡単に死ねない身体なんで! 盾も囮もできるはずッス! 冒険者様ぁぁぁッ!」
最初はただの大声だったのが、台詞の途中から涙&鼻水混じりのダミ声に変化していた。
彼女は見た目に似合うかわいらしい美声の持ち主であった。しかし、その鈴のような声は、台詞の中盤から先代ドラえもんの如きドラ声になっていた。かわいいのベクトルが変わったのだ。
「おぉぉぉ願いしますッスゥゥゥ! 100年無休で坑道掘るのは嫌なんスゥゥゥ! つるはしなんて一度も持った事ないんスゥ! いやぁああああ! 周りに男いるのに一切誘惑できない環境なんて生き地獄ッスゥゥゥ! 冒険者様ぁ! 助けてほしいッスゥゥゥ!」
なんというか、哀れを通り越してギャグだった。
高級そうな絨毯には、現在進行形でロリの涙と唾液と鼻汁が流れ落ちて水たまりを形成していた。
「えぇっと……」
正直、困った。こういう時、どういう顔すればいいか分からない。
俺は店主を見た。店主は硬度ましましのポーカーフェイスになっていた。
「買って下さい! 何でもしますからぁあああ!」
「強制発動、“沈黙”」
「ぐェっ!?」
どうやら店主は魔法を使ったらしく、哀れロリは絞め殺されたニワトリみたいな鳴き声をあげて沈黙した。びっくりして上げられたルクスリリアの顔は、せっかくの美貌が台無しになるレベルでぐちょぐちょだった。
「……連れて行って下さい。別室で待機を」
店主の命令は、疲れていた。
なるほど、真っ先にオススメしない理由のひとつはコレかと、納得した。
感想ありがとうございます。
本作、割と解説というか説明というか、隙あらば異世界語りをする訳ですが、「ここ分からねぇぜ!」ってトコがあれば気軽に聞いてやってください。
割と喜んで答えます。