【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。励みになってます。結局ティアキンはそんなにやってないですね。
 誤字報告も感謝です。お陰で助かっています。

 キャラ・ボスのご応募の感謝です。
 驚く程やる気に繋がっています。びっくりですね。

 今回は三人称、エレークトラ(お姉ちゃん)視点。世界観を掘り下げる話です。
 新キャラが沢山出る回なので、少し長くなってしまいました。多分次も三人称回です。
 解説してない用語は次話に持ち越しです。未来の自分に丸投げします。


姉の一番長い日(前編)

 ラリス王国とは、約5000年の歴史を持つ人類最古の国家である。

 武威により存続し、知識によって統治される王の国。英雄の生まれる地であり、人類全てを守る世界の要である。

 この国が滅ぶ時、それ即ち人類の滅ぶ時なのだ。

 

 王都中央に聳えるラリス王城は、四方を堀と河川により守られた人類最大の砦である。

 力を貴ぶ国である。当然として、王の住まう城は煌びやかさは二の次で、何においても戦が前提。あくまで敵の攻勢を凌ぎ反撃の刻を待つ為の盾といった構造であった。

 頑健な迷宮産鉱石を使った城壁には各所に監視塔が屹立し、備え付けの防衛魔道具が渡河も登攀も空からの襲撃も許さない。

 王城に入るには南側にある大橋を渡る必要があり、第一と第二の城門には常に魔導弓兵が待機している。城門を抜けた後も曲がりくねった坂道を上る必要があり、容易には入城できない仕組みになっているのだ。

 

 まさに、戦う為の城。近年建てられる城とは設計思想がまるで違う、古の建築様式だ。

 これを、ラリス王国民は仰ぎ見て、明日の平和を確信するのだ。だからこそ、絶望せずに生きられる。

 

 ただ、困った事もある。

 デカい橋、長い坂道、要所を守る通過点……。

 そのせいで、入城に時間がかかるのだ。

 

 

 

 ラリス王国、王都中央区。

 ラリス王城内、照明魔道具に照らされた地下空間。

 その廊下を、王国貴族であるエレークトラ・ヴィンス・カトリアは歩いていた。

 

 今のエレークトラの服装は最低限王城のドレスコードを合格しているレベルであり、普段ならこんな格好で城に上がる事はない。だからといって、戦人の装備に身を包んでいる訳でもない。

 いつもは編み上げている赤の髪だが、今日は背中に流していた。その腰には護身用の剣があり、いつもの槍や盾は装備していない。なんともちぐはぐな格好だ。

 

 彼女の前には案内役もいない。彼女の後ろにも侍従の姿はない。

 王城と聞いて想像し難い薄暗い道を、彼女は迷う事なく進んでいた。

 名門貴族らしい、洗練された歩法。けれども、その足取りは重かった。

 

「はぁ……」

 

 誰もいないのを良いことに、エレークトラは重たい溜息を吐いた。ラリス人的に美しい少女の顔には、濃い疲労の色があった。

 対して、その瞳は不眠ポーションの効果でバッキバキに冴えており、身体の方も各種ポーションの服用で無駄に元気いっぱいだ。

 ならば何故疲れているのか? 睡眠不足である。

 

 例の暴走魔族の一件から、エレークトラはまとまった休養を取れていないのだ。

 件の依頼の後、ギルドの聴取を受け、キレた父にぶん殴られ、父と共にパース商会を襲撃し、残党を追っかけ回し、昼夜問わず動き回り、書類仕事に忙殺され、流石に限界とぶっ倒れた一時間後に王家からの呼び出しである。しかも至急の。

 王家の命令は絶対だ。エレークトラは単独、愛馬を駆って急ぎ王都入りした。それから王都中央区の宿泊施設で旅の汚れを落とし、クソ長い王城ロードを通っては促されるまま怪しい地下道にぶち込まれたのである。

 まさに、踏んだり蹴ったりであった。何もかんもモブノが悪い。まだ死んでないらしいが、今すぐ殺してやりたい気分である。

 

「ふぅ……よし」

 

 けれども、エレークトラはお姉ちゃんであった。

 目的の部屋の前まで来ると、お姉ちゃん魂を燃やしたエレークトラは優雅にノックした。

 すると、中から若い女性の声が聞こえた。一歩下がってしばらく待つと、がちゃりと扉が開いた。

 

「お待ちしておりました、エレークトラ様」

 

 扉を開けたのは、くすんだ緑の髪をした魔牛族の美女だった。

 種族柄、彼女は侍従らしいエプロンドレス――イシグロが見ればメイド服と思うだろう衣服だ――越しでも分かる豊満な胸をしており、おまけに尻といい足といい極めて肉付きが良い。そのくせお腹はキュッと引き締まっている。

 清楚な印象の衣服に対し、その身体はまさにエロの化身だった。彼女が動く度、どこかしらから「ムチィ♡ ムチィ♡」と聞こえてくるかの様である。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

 彼女の名は、キルスティン。元金細工冒険者で、現在は王宮務めの侍女をしている。引退した今でも、間違いなくエレークトラより遥かに強い。

 幸い、彼女とエレークトラは顔見知りであった。彼女の美貌は見慣れている。だからこそ、安心できた。

 

「失礼します」

 

 そんな爆乳メイドに促され、エレークトラは地下部屋に入室した。

 室内は最高級の照明魔道具で照らされていて、窓もないのに昼間の様に明るかった。中心には大きな四角テーブルがあり、各座席の横には小さな丸テーブルがあった。

 椅子の数は六つ。空席は二つ。埋まった席には、先客の姿があった。皆、首に金細工が掛けられていた。

 

 翡翠の眼をした美の化身の如き上森人。

 興味なさげな目をした黒髪の魔女。

 鋭い眼光でこちらを睨んでいる鬣犬人族の女性。

 軽薄そうな薄ら笑いを浮かべる灰髪の魔族男。

 

 金細工。理を外れたヒトガタの怪物。冒険者においての最高位階。

 銀細工の中で比較的頭がおかしくないか、社会的に害のない者のみが昇格を許される、武力と良識を兼ね備えた猛者たち。

 まあ、マシなだけで普通に頭はおかしいのだが……。

 

「お初にお目にかかります。私、カトリア領を預からせて頂いておりますレックスの子。名をエレークトラと申します。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 左手を胸に、右手を腰に、それから腰を折って首を垂れる。エレークトラは強者に対する一礼を行った。

 四対の視線が、鋼鉄札のエレークトラを射抜く。強者の視線はそれだけで物理的圧力を伴っている気がしてならない。そんな中、これまで何度となくやってきた挨拶には自信が持てなかった。

 

「うむ、良いだろう。姿勢を戻せ」

「はい」

 

 澄んだ、美しい女の声。許しを得、エレークトラは姿勢を戻した。

 彼女の視界には、5人の男女がいた。侍女のキルスティンを除き、皆初対面である。けれども、金細工持ち冒険者の名を知らぬほどエレークトラは無学ではなかった。

 許しを出したのは、この部屋にて最も強い力を持つ上森人(ハイエルフ)の美女であった。

 

「大まかな話は聞いている。本来はそれだけで良かったのだが、事情がある。集まれるのは今日くらいでな、許せ」

「伯爵の務めと存じています」

「そうか。なら座れ」

 

 上森人からの口撃も華麗に躱し、エレークトラは用意された椅子に腰を下ろした。

 今のはエレークトラへの命令が誰によって下されたかを確認する儀式の様なものだ。当然、カトリア家は王家の子分なので、冒険者である貴女の命令で来た訳じゃないよと返したのである。

 上手くやったエレークトラを見て、上森人の怜悧な美貌がほころんだ。

 

「ふふっ……できているな」

 

 鈴を転がす様な笑声。噂通り、この美女は人族に甘い。

 金糸の様な長髪に、翡翠色の瞳。その面貌は見目の良い上森人にあってなお整っている。その身体はゾッとするほど均整が取れていて、まるで一流芸術家が生涯を賭けて仕上げた美術品の様である。先ほどの爆乳メイドが淫の化身ならば、この上森人は美の化身であった。

 彼女の名は、アリエル。上森人王の血を引く、尊き者。“止まり木協会”の創設者にして、“翡翠魔弓”の二つ名を持ち、誰もが認める遠隔最強の金細工持ち冒険者である。

 

「レックスの小僧も、君の様な娘がいて幸せだろうな」

「そう思って頂けるよう、精進しています」

 

 不老種族のからかいに、エレークトラは努めて生真面目に応対した。普段ならもう少しユーモアを交えて返せるのだが、今は心身ともに疲労困憊で仕方がないのだ。

 すると、隣席の魔人が茶化すような声音で言った。

 

「オイオ~イ、如何にも疲れてますって娘っ子相手に意地悪過ぎンじゃねぇの? アリエルさんよぉ」

 

 そう言って笑う口元には、上森人への糾弾というより状況をまぜっかえして楽しむ心の歪みが表れていた。

 彼もまた、エレークトラとは隔絶した実力の持ち主の金細工持ち冒険者だ。

 

「そうか。お前にはできない事だ、難しく見えてしまったか」

「お生憎様、魔族なモンで」

「お前は魔族だが、魔族はお前ほど愚かではないぞ」

処女(おぼこ)が賢しい真似するなよ。なんなら俺様が抱いてやってもいいんだぜ?」

「結構。賢しいお陰で子には恵まれているのでな」

 

 彼の名は、ラジアード。約3000年前、第二大災厄時に絶滅したと思われていた毒魔蛇(ナーガ)族の生き残りだ。笑った拍子に、細長い毒牙が見えた。

 良くも悪くも、彼の名は広く知られている。この中で最も高齢な彼は、2000年前はラリス王国と敵対し、1000年前からは迷宮外を専門とする傭兵兼冒険者として人類を支えている。享楽的な、実に魔族らしい魔族なのだ。

 

「あ、あ、あの……エレークトラさん、ですよね?」

「はい」

 

 言い合いを始めた二人を見ていると、今度はもう片方の隣から声をかけられた。

 ボサッとした長い黒髪の、卑屈そうに背を丸めた人族女性である。肌は病的なほど白く、身体の線も細い。髪で隠れた右目から、得体の知れない魔力を感じる。“魔眼”持ちなのだ。当然、彼女も金細工を下げている。

 

「ももも、もし、お、お疲れなら……よ、よければ、元気になるお薬をお出ししま、しょうか?」

 

 彼女の名は、デアンヌ・フォレ・ランベール。エレークトラと同じ王国貴族であり、代々優秀な魔術師を輩出してきたランベール侯爵家の娘である。

 二つ名は“虹嵐”。全属性の魔法を使いこなし、魔力を見る眼で味方に当てる事なく大規模魔法をぶっ放しまくる、歩く魔法要塞だ。

 同時に、優秀なポーション職人でもある。しかし、その出来栄えは振れ幅が大きい事でも有名だ。

 

「お気遣い有難く、デアンヌ様。ですが、これは我が不徳の致すところです。どうか哀れんでやって下さい」

「え? えっと……そ、そっちのが、いいって、事ですか……?」

「はい」

「そうですか……」

 

 実際、彼女の新作ポーションを飲んだ者は例外なく何かしらの酷い副作用に見舞われると聞く。善意の申し出だが、今回は断っておくのがいいだろう。

 

「聞いてるぜぇ、エレークトラっつったか。初めて死にかけたんだってな! 惨めに負けて生かされた気分はどうだ? ええ!?」

 

 続いて、上森人と魔人の口喧嘩を眺めていた獣人女傑が話しかけて来た。

 彼女の物言いは失礼極まりないが、これはこの世界的には敗者に対する穏当な声かけである。怒るようなものではない。

 だが、ラリス貴族は舐められたら終わりである。これもまた、先人からの洗礼だ。

 

「お言葉ですが、私は14の頃から迷宮に挑み、日々研鑽を続けております。相応に修羅場は潜っている自負がございます」

「はっ! 圏内育ちが一丁前に!」

 

 教科書通りのエレークトラの返答に、歴戦の女戦士は機嫌を悪くした。

 寝不足のエレークトラは失念していた。この女傑は、結果の伴わない武威の誇示を許さない。

 

「情けで生かされた分際で吠えるんじゃねぇよ、小娘……!」

 

 ぶわりと、彼女の毛が怒気に呼応して逆立った。鋭い犬歯は今にもエレークトラの首を噛み千切らんとしていた。エレークトラは努めて顔に汗をかかぬよう心を強く保った。

 黒い斑が混じった茶の髪に、異世界基準でも高い背丈。大胆に晒された筋肉には戦いに順応したしなやかさが内包されていた。全身に施された入れ墨が、漲る魔力に反応して光を放っている。

 彼女の名は、ナターリア。鬣犬人族の部族長であり、獣人のみで構成された同盟の長でもある。その気質は弱肉強食。あえて人類生存圏の最前線を買って出る彼女は、気のない弱者を嫌うのだ。

 

 鬣犬の長は、強く言い返してくる事を望んでいる。それが古いラリス流であり、彼女の流儀だ。

 教科書通りではいけない。押しつぶされる様な緊張の中、エレークトラはあえて生意気そうな表情を作ってみせた。内心、冷や汗モノである。

 

「お陰で成長できます。あの程度で貴女に届くのであれば、何度でも」

「……へえ? 言うじゃねぇか」

 

 精一杯虚勢を張ってみせた返答は女傑のお気に召したと見え、ナターリアは犬歯を剥いて笑った。

 怒気が収まると、上森人と魔人の口喧嘩も終了していた。仕切り直す様に、金の麗人が口を開く。

 

「過程はどうあれ、生き延びた。これに勝る事はないだろう、ナターリア」

「ふん……!」

 

 格上の強者であるアリエルの言葉に、ナターリアは腕組みして座り直した。力は絶対であり、運もまた力である事を、大自然に生きる獣人は身に染みて知っていた。

 先人の洗礼、敗者は殴って蹴って叩き直す。これにて、エレークトラがこの場にいる事を許された訳だ。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 内心で一息ついていると、サイドテーブルに湯気の立つお茶が乗せられた。侍女のキルスティンだ。

 見ると、彼女は他の参加者にもお茶を配っていた。配られた茶は、心の疲労を癒やす目的で呑まれる伝統的な薬草茶であった。ポーションほどではないが、これにもしっかりとした薬効がある。なによりとても美味しいし、良い香りなのだ。

 また、この茶の意味に気づかないエレークトラではなかった。

 

「ふぅ……」

 

 現金細工4人に、元金細工1人。そこに鋼鉄札のエレークトラ。それだけで疲れるというのに、プラスでラリス貴族式挨拶。

 薬草茶が染みる心地であった。

 

「さて、本題は彼奴が来てから始めるが、その前におさらいをしておこう。キルスティン、構わないか?」

「ええ」

 

 やがて薬草茶から湯気が消えた頃、上森人の麗人が仕切り直し、侍女に声をかけた。

 爆乳侍女は収納魔法の空間――何故か胸だった――に手を突っ込むと、中から大きな巻物を取り出し、それを中央の四角テーブルに置いた。それから丁寧な手つきで紐を解き、ゆっくりと開いていった。

 それは、ラリス王国を中心とした世界地図だった。地図の端には人類生存圏外の地理も描かれていた。その精巧さに、エレークトラは感嘆の息を吐いた。これぞ、ラリス王国が人類最強国家たる所以であると感じ入ったのだ。

 

「エレークトラさんは、これを見るのは初めてでしたよね?」

「ええ、まさかこれほどとは……」

 

 これは王家のみが有する極秘の地図で、この世界で最も精巧である。カトリア家が持っているのは、もっとアバウトな奴だ。それでも途方もなく価値の高い代物なのだが、これと比べると見劣りする。

 それから、キルスティンは収納魔法から次々とアイテムを出していった。それは人類に広く普及している駒である。駒は三角の青や丸い赤など様々な色形があり、この場にそれらの意味が分からない者はいなかった。

 

「レックス……君の父から聞いているだろうが、間違いなく100年以内に次の“災厄”が訪れると予言されている」

「はい、幼少の頃から聞かされています」

「よろしい」

 

 言いながら、アリエルは青い丸駒を主要な防衛砦に、白い三角駒を主要都市に配していった。

 青い駒はラリス貴族。白い駒は動員可能な銀細工持ち冒険者だ。それらの詳細を形で表現しているのである。

 

「災厄の訪れはラリス王家だけでなく、条約を結んだ種族の全てが読んでいる事だ。占い師、学者、錬金術師。辺境の貴族から、“未来視”の竜族まで……」

 

 やがて、大きな赤駒を持った上森人は、ラリス王国西方の圏外に、それを置いた。

 大きな赤は、迷宮の主クラスの敵性存在の意である。エレークトラは我知らず息を呑んだ。

 

「尖兵として、圏外から魔物の大群が攻めてくる。恐らく、三年以内に」

 

 赤い大駒が配置されていく。それは二つ三つと数を増し、事情を知っている黒髪令嬢も手伝って、やがて地図の四方が真っ赤になった。

 それから、遠隔最強の冒険者は地図の南西部分を指し示した。

 

「南西だけでも、“特異個体”が7体……。これを我々だけで何とかせねばならん」

「特異個体ですか……?」

 

 まだ続く。黒い駒を持った指が、容赦なく状況を悪化させた。

 黒は迷宮外で強化された超主級の魔物を意味し、特異個体とは複数の一党で倒すべき魔物の事だ。その強さは最低でも上位迷宮の主レベルで、最悪の場合銀細工の上位一党が徒党(アライアンス)を組んで勝てるかどうかだ。

 それが、7体。通常の主級魔物1体でも街一つ滅ぼすのに過剰だというのに、特異個体ともなれば何をかいわんや。断じて、エレークトラが太刀打ちできる相手ではない。

 

「これを、父は……?」

「知っている。エレークトラ、君を呼んだのはこの事を伝える為ではない。カトリア家の配置は既に決まっているからな」

 

 南西の砦に配された青い駒を指し示す。名門貴族であるカトリア家も、赤い群れを前にはあまりに小さく見えた。

 それは、承知している。エレークトラは精神を整え、今の自分に出来る事に集中した。

 

「そうですか……」

 

 彼女の瞳に決意の色が宿ったのを見て、美貌の上森人は頷いた。

 

「ゆえ……モブノを倒した男の話が聞きたい」

 

 イシグロ・リキタカ。鋼鉄札の一党を単騎で無力化し、傷ひとつ負わず銀細工持ち冒険者を下し、あの白銀の狂犬を捕獲した、無血の暴君。

 噂は誇張されるものだ。エレークトラとて、彼の伝説には尾ひれがついていると決めつけていた。必ず迷宮を踏破するとか、連日迷宮に潜るとか、牛人族女からの愛の告白を断ったとか……。

 だが、今にして思うと、それらの殆どは事実なのだという確信があった。王家からすると、人類からすると、是非とも確保したい英雄候補なのだろう。

 こと、災厄を前にした今ならば……。

 

 コツコツと、白く長い指が四角い白の駒を叩く。

 それから、場を和ませるように、上森人は肩をすくめた。

 

「見ての通り、英雄が足らんのでな。口説き文句が欲しい」

 

 エレークトラは、自分の役割を正確に自覚した。

 役に立てるかは分からないが、少しでも力になれるのならと。一度負けた自分だからこそ、許される役目なのだ。

 

「わかりました」

 

 そして、皆の視線が集まったところで、エレークトラは口を開いた。

 

 その時である。

 

 

 

「その話、少し待ってくれるかい?」

 

 

 

 バァンと、背後の扉が勢いよく開かれた。

 驚いて振り返るエレークトラだったが、他の人らは反応が薄かった。気づいていたのだ、そこに彼がいる事に。

 これも、歴戦の証明であり、若輩の証左であった。

 

 そこに居たのは、純白の髪をした美少年だった。

 年の頃は10歳ほど。細くしなやかな身体に、柔らかそうな頬。血色の良い玉の肌は幼い活気に満ちていた。

 それでいて、紫紺の大きな瞳は理知の光を湛えており、薄く笑んだ口元には蠱惑的な魅力が滲んでいた。

 何よりも、その身に纏われた強大な力。絶対的な王気。

 

 その顔を、知らない貴族はいない。忘れられる者などいようか。

 

 反射的に、王国貴族であるエレークトラとデアンヌは跪いた。

 上森人は微笑ましげに、獣人女傑は凄絶に笑み、魔人は口笛を吹き、爆乳侍女は母乳を滲ませ、彼の到来を歓迎した。

 

「いいよ、頭を上げて」

 

 天上から、許しを得た。

 見上げると、彼は年相応の笑顔で金細工の強者たちを睥睨していた。

 

「久しぶり、皆」

 

 ラリス王国、第三王子。

 名を、ジノヴィオス・アレクシスト・ラリステトラ。

 

「楽しそうな話じゃあないか、僕なしで始めるなんて言わないだろうね?」

 

 紛れもなく、王国最強の少年である。




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◆新キャラ◆

・アリエル
 2000歳超えのハイエルフ。金髪美女。
 遠隔最強の金細工持ち冒険者。止まり木協会の創設者。子供絶対守るウーマン。

・ラジアード
 約3000歳の毒魔蛇族男。灰髪のイケおじ。
 迷宮外を主戦場とする傭兵兼金細工持ち冒険者。報酬次第で誰の味方でもする。環境利用の達人で、仲間を率いての戦いを得意とする。

・デアンヌ
 20歳の人族魔女。黒髪長髪メカクレ猫背陰キャ魔法オタク。
 ランベール家の秘蔵っ子で。天才的な魔術師。魔力を見る“魔眼”の持ち主で、多対多を得意とする戦術級の個人。

・ナターリア
 500歳の鬣犬人族女性。エルフと鬣犬人のハーフ。ケモミミマッチョ全身入れ墨人妻。
 自ら立ち上げた獣人限定の同盟長であり、鬣犬人族の部族長。生存圏の防衛を請け負う生粋の戦士。個人戦、団体戦なんでもできる。

・キルスティン
 700歳の魔牛族。緑髪爆乳デカ尻むちむち未亡人メイド。
 元金細工持ち冒険者で、引退した現在は王宮務めの侍女。主に第三王子の世話をしている。亡き夫と子を成せなかった反動で、重度のショタコンになった。健全である。

・ジノヴィオス
 10歳の人間。ラリス王国第三王子で、白髪紫目の紅顔の美少年。
 色々と設定が盛られたイケショタ。童貞だが、殺しは卒業済み。
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