【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。シンプル嬉しいです。
 誤字報告も感謝です。これマジ? ってなる誤字は作者が一番びっくりしています。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
 然るべき時にヌルッと出てきます。例によってめちゃくちゃアレンジするのでほぼ別キャラと化します。

 アンケのご協力、ありがとうございました。
 結果、グーラは「メイン戦士サブ武闘家」になりました。
 前衛戦士として戦いつつ、武闘家スキルを使い立ち回る感じですね。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=298021&uid=59551

 あと、ご要望があったのでキャラ表作っときました。気が向いた時に加筆します。


大図書館の淫魔回

 異世界において、本は“それなり”の高級品である。

 活版印刷のない世界である。本の写しは全部手作業。ページ一枚一枚、文字ひとつひとつに至るまで、全部人がやって写すのだ。

 想像するだけでも気の遠くなる作業である。挿絵付きの本など、何をかいわんや。

 

 本はそれなりの高級品だ。そう、あくまでそれなり。凄い高級品って程でもない。

 森人(エルフ)のお陰で紙は大量に作られているので、割と出回っている。実際、ギルドでは毎日湯水の様に使われているのだ。

 それと、異世界の本自体が丈夫というのもある。これは、保存魔法による恩恵だ。虫に食われたりしないし、経年劣化で文字が薄れてく心配もない。防火魔法もかけちゃえば、燃えてカスになるリスクも減る。

 

 コストはそこそこ、写すのに手間はかかるが、作ってしまえば長く使える。

 だから、それなりの高級品。それがこの世界の本である。

 

 さて、古今東西、地球も異世界も本は知識の継承手段としてとても優秀である。

 地球においては口伝に始まり粘土板やら竹札やらまぁ色々あるが、お勉強というとやっぱり本だろう。

 古くはアッシュール・バニパル宮廷図書館に、アレクサンドリア図書館。色んな手段のその先で、学びの置き場として地球では本が主流になったのだ。

 

 それは、このゲーム的異世界においてもそうである。

 詳しい異世界本事情は知らないが、しっかりした情報を知りたいなら本であり、行くのであれば図書館である。

 

 ラリス王国は力を貴び、知を重んじる。

 自然、本を集めた図書館は王都内にいくつもある。

 

 中でも有名なのが、各区に一つある“ゼノン王立図書館”だ。

 古の英雄の名を冠するそこは、まさに知の宝庫。千年以上古いモノからつい最近書かれた新しいモノまで、実に色んな本が置いてある。

 異世界の歴史を記した歴史書に、挿絵付きで種族ごとの特徴が書かれた図鑑。英雄の発言を集めた金言集や、色んな種族メシのレシピ集など……。この図書館、質を問わなきゃ何でもある。

 グーグル先生ならぬ、ゼノン先生である。

 

 ルクスリリア購入前、俺は度々この王立図書館を利用していた。

 良質なロリ奴隷を買う為、この世界の事を知ろうと柄にもなく熱心にお勉強していたものである。

 異世界のお勉強、全然苦じゃなかった。ぶっちゃけゲームの設定資料集みたいなもんである。自分でも驚く程すいすい学習できたよね。

 

 しかしだ。調べたとはいえ、知らない種族はまだまだある。

 デカい図書館である。大仰な名前相応に、蔵書の数は膨大。こと種族に関する本だけでも、未読の書籍はたくさんあるのだ。

 森人(エルフ)などメジャー種族についてはガッツリ調べたが、轟雷狼(らいじゅう)などマイナー種族については流した程度である。まして、混合魔族(キメラ)といった絶滅種は、脳みその隅に引っかかってる程度だ。

 

 じゃあ毎日通って籠ればいいじゃんとなるかもしれないが、当時の俺にゃあ無い発想だった。

 異世界図書館は、前世日本の公共図書館と違い有料なのである。前述の通り、本はそれなりの高級品。ドロボウされちゃあ困るってなもんで、入館にはまぁまぁの金を支払う必要があるのだ。

 初入館の時とか、けっこう入念に審査されたよね。

 

 ところで、凄いどうでもいい事なんだが……。

 図書館って響き、なんか凄い好きなんだよな。

 ていうか、図書館にいるロリが好き。手が届かない本とか取ってあげたい。本読んでるロリ眺めてたい。なんなんだろうねこの気持ち。

 

 ユニちゃんのガチャ演出、あれは良いものだ……。

 

 

 

 宿屋から出て東に進み、橋を渡った西区の隅。

 そこは転移神殿付近とは違う印象の、ちょっとおしゃれで静かな空間だった。

 繁華街が歌舞伎町なら、そこは高級住宅街といった雰囲気である。そんな静かな一角の真ん中に、ひときわ目立つ建物があった。

 

 でっかい塀にでっかい門。門の前には槍を持った警備兵。兵士の間のその向こう、入り口の手前には噴水があった。

 スケールのデカい石造り。カラフルな西区にあって、色合いは落ち着いたモノトーン。全体的に四角い印象の建物で、窓の配置から一見二階建てに見えるが周囲の三階建て住宅よりも遥かに背が高い。

 此処こそ、ゼノン王立第二図書館である。

 

「いいですか?」

「どうぞ」

 

 門番に身分証明書を見せ、先に進む。俺の後には三人のロリの姿。この図書館、奴隷の立ち入りは主人同伴じゃないとダメなのだ。

 ルクスリリアはほえ~っと周囲を眺めていて、エリーゼは相変わらず優雅に歩いていた。村生まれのグーラは口を半開きにして呆けていた。

 それから、大きな入口に入って受付に行き、人数分のお金を払って入館記名をする。前までは代筆だったが、今は自力だ。

 

「承りました。イシグロ・リキタカ様ですね。お帰りの際は受付までお越しください」

「はい」

 

 この受付さんとは俺が初入館の時から顔見知りである。銀細工に怯えられる事もなく、俺たちは図書館に足を踏み入れた。

 

「わぁ~……!」

 

 中に入ると、そこは高くて広い吹き抜け構造になっていた。

 四角い建物らしく、内部の配置も四角であった。真ん中には等間隔に並んだ机と椅子があり、その四方を背の高い本棚の列が囲っている。見上げると二階にも本棚ゾーンがあり、遠く真上には図書館全体を照らす照明魔道具と採光クリスタルが吊るされていた。

 まさに、大図書館といった見てくれである。前世の俺はせいぜい近所の図書館程度しか行った事がなかったので、こういうクソデカ図書館なんてのはそれこそファンタジーだった。実際、こっちはファンタジー世界である。

 

「図書館では静かにな」

「は、はい、すみません……」

 

 地球でも異世界でも、図書館は独特な静寂に満ちていて、お静かにするのがマナーであった。

 時刻は朝であるが、俺たち以外にも利用者がいて、その多くは良い服を着た良い身分そうな人たちであった。その中に転移神殿にいるような粗野な冒険者の姿はない。

 

「まあ、グーラが興奮するのも分かるわ。前に私が居たところも、これほどではなかったもの……」

「で、でも……すごいです。この本……これ、ホントにボクみたいな奴隷が読んでいいんですか?」

「いいんだよ。主人がいれば奴隷も入れるし、奴隷が読書しちゃダメってルールもない。ほら、あそこの人は奴隷に本運ばせてるし、あっちの人は奴隷みたいだけど本持って子供に勉強教えてるよ」

「ふーん、淫魔王国のとは結構違うッスね」

「へえ、例えば何処が違うのかしら?」

「自慰用のスペースが無ぇッス」

「淫魔王国って……」

「アクメ漱石の本とか置いてそう」

「あくめ……?」

 

 一応、TPOに合わせて、俺たちも少し上等な服を着てきた。奴隷商館に着ていった華美な服ではなく、もうちょいスッキリした奴である。

 ルクスリリアにも今日ばかりはメスガキファッションではなく、夏用清楚コーデをしてもらった。エリーゼもシンプルなスタイルで、グーラも文学少女チックな服を着てもらった。控えめに言って最高である。

 

「好きな本取ってきていいよ。読みたいの選んだら、あそこにある読書机に集合な」

「はい……!」

「わかったわ」

 

 主人らしく、というより保護者めいて指示すると、グーラとエリーゼは足取り軽やかに離れていった。

 

「新しい本ばかりね、古典はどこかしら……」

「獣拳記、ここなら原典があるかも……!」

 

 文学少女のグーラは見るからにわくわくしていて、珍しい事にエリーゼもはしゃいでいた。まるでテーマパークに来たみたいなテンションである。

 対し、ルクスリリアは大人しかった。エロ本にしか興味がないと言ってた通り、こういう場所にはわくわくしないんだろう。

 ちょっと申し訳ないなと思いつつ、彼女には重要な任務を命じる事にした。

 

「ルクスリリア、二人が迷子にならないよう見ててくれる?」

「あいッス~。ご主人はどうするんスか?」

「魔族コーナー行ってくる。探すの手間取るかもだから、先に席決めちゃっていいよ」

 

 そう、今日ここには、グーラの種族について調べる為に来たのである。

 グーラの種族は謎が多い。検証では分からなかった炎雷についてや、その他色々を知る必要があると思ったのだ。

 獄炎犬(ヘルハウンド)も轟雷狼も混合魔族も、図鑑1ページぶんくらいしか情報がないのである。流石にもうちょっと知っておきたい。

 

「わかったッス。じゃ、行ってくるッスね」

「頼んだ」

 

 それから、ロリコンとロリ組で分かれて行動である。

 ルクスリリアは二人の下へ向かって行った。三人だと最も身長が低いが、何気に一番しっかりしてるのは彼女である。

 

「さて……」

 

 勝手知ったる王立図書館である。

 俺は種族についてまとめられてる棚へと向かった。

 

 

 

 この広い図書館には、三つの棟がある。入口から入る中央棟。そこから右に行く北棟と、左に行く南棟だ。

 俺が探してるのは魔族について書かれた書籍だ。場所は覚えている。南棟の一階、奥の方。そこに色んな種族についてまとめられた棚があり、中には魔族専門の棚があるのだ。

 

「お、あったあった。さて……?」

 

 探しているのは、グーラの種族に関して書かれた本である。

 魔族は獣人並みに種類が多いので、魔族だけで図鑑が作れてしまう。特定の魔族について調べる場合、普通の図鑑じゃ意味がない。

 それに、マイナー種族ともなると載ってるかどうかさえ怪しい。なので、それっぽいのを虱潰しにするしかないのだ。

 

「とりあえず、絶滅種と、獣系と……」

 

 しかも、古い本の場合は題名がそんな親切じゃない。

 並びも割と適当で、年代別ソートとかもしてくれてないのだ。まあ、それは求め過ぎか。

 なので、それも何となくの勘だったり、ちょっと開いて読むとかして探さないといけない。読みたいの見つけるだけで時間がかかるのだ。

 

 本棚と睨めっこしながら、カニ歩きで目当てのブツを探す。

 時折中身を開いて、無さそうなら戻す。

 そんな事を繰り返していると……。

 

「あ……」

「あ……」

 

 指先に感触。瞬間、俺は本を抱えながら反射的に小さくバックステップした。

 危機察知に引っかからなかったとはいえ、近くに人がいる事に全く気付かなかった。今のが暗殺者の類だったら致命的である。

 見ると、相手はポカンとしていた。女性だった。完全に過剰反応である。なんか恥ずかしい。

 

「すみません。不注意でした」

「い、いえ、こちらこそ……」

 

 先んじて謝罪すると、相手も落ち着いて返してくれた。

 その女性は、パッと見で分かるほど胸のデカい少女だった。上質そうなローブを着ていて、フードを深くかぶっている。そして、何より目についたのはその顔に眼鏡が装着されていたところだ。

 何気に、異世界でメガネを見たのは初めてだった。あるんだ、メガネ……。

 

「あの、すみません。どうぞお取りください」

 

 おっと、メガネの珍しさに目が行ってしまった。

 単に取りたい本がバッティングしただけである。こんな漫画みたいな事ある? と思わんでもないが、起こってしまったのだから仕方ない。

 どうせならロリとバッティングしたかったものだが、残念ながら相手は胸の大きな女性だ。興味がない。ついでに顔もいいので地球でも異世界でもモテそうである。当然興味はない。

 

「いえいえ、自分は既に何冊か取っているので、そちらがどうぞ」

「いえいえいえ、私こそ興味本位で、そう大したものでは……」

「それで言うなら、こちらとしても必ず読みたい本という訳でもないので……」

「いえ、先に本に触れたのはそちらですし、私のは本当にただ目についたからというだけで……。どうか、お取りください」

「そうですか? では、ありがたく」

「どうぞどうぞ」

 

 言葉の応酬の結果、促されるまま手に取ると、彼女は安心したように息を吐いた。

 その時、チャラリと鎖の音が鳴った。豊満な胸に、キラリと光る銀細工があった。マジか、銀細工である。もしかしたら、このメガネ女性もあの鬼人少年並みに強いのかもしれない。

 銀細工は頭がおかしい。俺は彼女の一挙手一投足を見逃さぬよう、警戒を維持して本を取った。

 

「あっ、銀細工……?」

 

 触らぬ神に祟りなし。軽くお礼言って立ち去ろうとしたら、彼女も彼女で俺の銀細工を見て呟いた。

 動きかけた足が止まる。緊張して身構えた俺とは違い、彼女は柔らかく姿勢を正してみせた。

 

「ご同業でしたか。私、東区にて冒険者をしております、“風舞(ふうぶ)”のニーナと申します。現在は単独(ソロ)で活動しています。迷宮探索にて、前衛をお探しの際はぜひお声かけください」

「あっ、これはご丁寧にどうも、自分はイシグロ・リキタカと申します。西区のギルドから銀細工を頂いています。どうぞよろしくお願いします」

 

 銀細工と見て取ってビビッた俺と違い、ニーナさんはとても丁寧に挨拶してくれた。多分、戦意はない。

 釣られて名乗ると、彼女はこれまたポカンとした顔になった。

 

「イシグロ、さん?」

 

 彼女は目をパチパチさせ、俺の顔と銀細工に交互に視線をやっていた。

 疑われているのかもしれない。銀細工の裏側には俺の名前が彫られているのだが、あちらからは見えていないのだ。

 

「あの、め……“黒剣”のイシグロさんですか?」

「はい、そのイシグロです」

 

 二つ名を当てられてしまった。これまた何か恥ずい。

 そのまま、何故かぼーっと見られる。俺としてはパパッと去りたいところなのだが。銀細工の眼力からは逃れられない。敵意や戦意こそ感じられないが、あまり相手の気に障るような行動は取りたくないものだ。

 なんとか穏便にこの場を離れる事はできないかと考え始めたところで、敵味方レーダーに味方が近づいてくる反応があった

 

「あっ、いたいた。ご主人~、二人もう読書タイム入っちゃったッスよ~っ……と?」

 

 背後から声、ルクスリリアだ。

 本棚の隙間から現れた彼女は、俺の前にいるニーナさんに目を向けた。ニーナさんもまたルクスリリアを見た。

 

「淫魔の、奴隷……?」

 

 ニーナさんは目を丸くして、ルクスリリアの角と奴隷証を見ていた。

 この世界において、奴隷は合法である。冒険者が奴隷を買うのは普通との事なので、エレークトラさん達やおじさんには堂々とお見せできた。

 けど、何だろう。同じ冒険者とはいえ、こういった場で女性相手に同性の奴隷をお出しするのは何だか気まずい気分になってしまった。

 

「淫魔?」

 

 強引にでも去ろうと思ったら、今度はルクスリリアが呟いた。

 淫魔? とは、ニーナさんの事を言っているのだろうか。そういえば、俺は魔族図鑑とルクスリリアでしか淫魔を見た事がない。俺には分からなくても、同じ淫魔なら一目で分かるものなのかもしれない。

 

「あ、はい。私は淫魔です。王都で生まれまして、もちろん滞在許可は下りています」

 

 ルクスリリアに応じるように、ニーナさんは被っていたフードを取った。

 すると中からルクスリリアとは少し違う形の羊っぽい角が姿を現した。角だけで分かる訳でもないが、そうとお出しされれば淫魔である事に違和感はなかった。

 

「うちのご主人に何か用ッスか?」

 

 対し、ルクスリリアは一段声音を低くして問うた。いつもとは異なる音域である。驚いて振り向くと、彼女の目はやや鋭さを増していた。

 初対面の冒険者相手に、何故か喧嘩腰の態度である。それに相手にその気はないっぽいのに、それは失礼な気がせんでもない。俺とて警戒心バリバリ出してしまったが、流石に今は隠しているのだ。ちょっと控えてほしい。今は剣をしまっているのだ。素手じゃ守れる自信がない。

 

「いえ、ここで同胞に会えるなんて珍しいなと」

 

 言うと、ニーナさんは俺に目を向けてきた。その視線の意味は分かる。

 仕方なく、俺はルクスリリアを紹介した。

 

「ルクスリリア、見ての通り自分の所有奴隷です」

「うッス、ルクスリリアです」

 

 促されて挨拶するルクスリリアだったが、何故か依然として警戒を解かなかった。

 対し、ニーナさんはルクスリリアにも丁寧にお辞儀をした。俺相手の時とは違う、胸の前で手を組んだ謎ポーズだ。

 

「祖たるねじれ角。私、王都に住まいを構えます。名はニーナ、母はシルヴィアナ。同胞に会えてうれしいです」

「あ、ご丁寧にどうも……ん? シルヴィアナ?」

 

 存外しっかりした挨拶に、無礼な態度を取っていたルクスリリアも釣られて腰を折った。

 が、何かに引っかかったようで、お辞儀の最中に動きを止めた。

 

 はて、シルヴィアナ……聞いた名である。いつどこでだったか。

 覚えているような覚えてないような、喉奥まで出ているのに上手く出せないこの感じ。アハれない。

 

「シルヴィアナって、“淫魔剣聖”のッスか?」

「え? は、はい。淫魔剣聖は母の二つ名ですが。ご存じなのですか?」

「勿論ッス! アタシ、故郷でシルヴィアナさんの自伝読んだッス! あ、今アタシ迷宮ではシルヴィアナ様の防具を使わせてもらっていて!」

「えっ!? なんて偶然! 母の防具って、あの作らせるだけ作らせて着なかった奴をですか!?」

「うッス! ご主人に買ってもらったんスよ~!」

 

 さっきの剣呑さはどこへやら、ルクスリリアはキャイキャイと歓声を上げた。ニーナさんもニーナさんで、ルクスリリアには早速胸襟を開いた様である。

 そのまま、二人はシルヴィアナトークに花を咲かせ始めた。そうか、シルヴィアナさんとはルクスリリアのあのスク水めいた防具を作らせた人だったか。

 ていうか、一応異世界でも図書館は静かにするもんなんだけど……。

 

「あの、そろそろ、静かに……」

 

 徐々に声のボリュームが大きくなりはじめた。放っとくと際限なく盛り上がりそうな雰囲気だった。

 それから、二人は二言三言話をすると、別れの挨拶をした。

 

「よろしければ、実家のお店までいらしてください。母も喜ぶと思います」

「うッス!」

 

 そんなこんな、俺たちはその場を後にした。

 銀細工は頭がおかしいが、彼女は例外だった様だ。

 そう警戒するものでもなかったか。

 

「いや~、申し訳ねぇッス。つい、故郷から来た奴なのかと……」

「ん? よく分からん」

「分からんなら良いッスよ~」

 

 ちょっとモヤっとしたりもしたが、まぁ良い。

 チートがあるからと少し無防備過ぎたかもしれない。学びを得たとしておこう。

 

 

 

 中央棟。集合場所の読書スペースに戻ると、エリーゼとグーラの二人は隣り合って黙々と本を読んでいた。

 エリーゼは静謐な様子でページをめくっていて、グーラは瞬きを忘れたように夢中で文字を追っていた。どちらも凄く集中しているのか、俺たちが近づいても無反応だった。

 

 持ってきた本を机に置き、向かいの席に座る。するとエリーゼが顔を上げた。

 目が合った少女にそのままどうぞと視線を送ると、エリーゼは読書に戻っていった。

 

「よいしょっと……」

 

 俺が持ってきたのは、けっこう分厚い本の山である。

 速読スキルのない俺である。しっかり読んでたら一日使ってしまいそうな量だ。

 なので、俺は暇そうにしているルクスリリアに、またまた主人らしく命令をする事にした。

 

「ルクスリリア君、この本の中からグーラの種族について書かれた部分を見つけてくれたまえ」

「かしこまッス」

 

 自分の種族の事なのでホントはグーラにも手伝ってほしかったが、それこそ当の本人はご本に夢中である。読んでるのは、あれは“獣拳記”か。それも装丁からしてかなり古いの……。

 まぁいい。主人の務めを果たそう。ルクスリリアに手伝ってもらいつつ、俺は分厚い本の山を崩しにかかるのであった。

 

「ご主人、ここからここまで、轟雷狼の記述ッスよ」

「ありがとう。そこ置いといて」

「もう探す本がないんスけど」

「あ、なら何か適当に読んでてもいいよ」

「ここエロ本置いてねぇッスからねー。じゃ、読み終わったの返してくるッス」

「大丈夫? 後でもいいよ?」

「問題ねーッスよ。アタシの事何だと思ってんスか」

「そう? まあ助かるけど」

 

 そんな感じで、俺はグーラの種族について色々と知る事ができた。

 多くは既知の情報だったが、中には知らない情報もあったりした。

 

 例えば、獄炎犬(ヘルハウンド)は水属性の攻撃や魔法に極めて脆弱であるとか。

 例えば、轟雷狼(らいじゅう)の“昇雷”は使い過ぎるとガス欠になるが、何故かトウモロコシを食べると回復するらしいとか。

 例えば、混合魔族(キメラ)は二つ以上の種族の特性を有する代償に、魔力の燃費が悪く長期戦に不向きであるとか。

 

 その他、大発見とまでは言わずとも、調べておいてよかったと思う情報がいくつか。

 特に水弱点とトウモロコシのくだりは知っててよかったと思う。ていうか、こっちにもあったのねトウモロコシ……。

 トウモロコシをやろうモルジアナ……あれ? これの元ネタ何だっけ……? こういう時、異世界だとググれないのでモヤモヤしっ放しである。

 

 モヤモヤは置いといて、調べ物の続きである。

 異世界ナイズドされた俺の身体は、肩も腰も痛くならないのだ。休まずいける。

 

 

 

 ……と、最後の本を読み終えると、窓の向こうに変化があった。空の感じ的に、もうお昼だ。

 腹時計もそう言っている。それこそ燃費が悪いらしいグーラはお腹ペコペコなんじゃなかろうか。

 

「はぁ~……」

 

 パタンと、本の閉じる音がした方を見ると、グーラが獣拳記を抱えて凄く満足そうな表情をしていた。一目で分かる、全身で読後感を味わっているのだ。

 わかる、わかるよグーラ。良い作品読んだら、なんか脳から胸からぽわぁ~って感じがするんだよな。幼少の時、初めて読んだラノベのキノの旅で俺もそうなったよ。

 

「あ、ご主人様……! 申し訳ありません、読むのに夢中になってしまい……」

「いいよ、喜んでくれて何より」

「この子には暇させちゃったわね……」

 

 同じく本を閉じたエリーゼは机に突っ伏して寝ているルクスリリアを見て云った。

 ルクスリリアの前には淫魔王国の歴史書が置かれていた。多分、読んでる最中に飽きて寝ちゃったんだろう。

 

「昼ご飯はリリィの要望を聞こうか」

「そうね。もう良い時間だし、そろそろお昼にしましょうか。何を食べたがるかしら」

「あっ、じゃあこれ返してきますね……!」

 

 言うと、グーラは俺の前に置かれた本の束を抱えて北棟へ向かっていった。

 残念、そっちじゃない。俺は立ち上がってグーラの後を追う事にした。

 

「よかったわね、分かりやすい好みが知れて?」

 

 留守番を任せようと振り返ると、エリーゼはからかうような声音で言ってきた。

 彼女との付き合いは、長くはないが密である。俺はご令嬢の欲しい言葉を返す事にした。

 

「午後は古書店でも行ってみようか」

「あら……」

 

 ことさらゆっくり嫣然と、エリーゼは頬杖ついて微笑んだ。

 ハーレムってのもバランスが難しい。さて、お昼以降のルクスリリアのご機嫌はどう取ろうか。

 そうやって悩まされるのは、全然イヤじゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 イシグロが去った後、図書館南棟には一人の淫魔の姿があった。ニーナである。

 彼女は分厚い古書を開きながらも、どこか上の空の様子で虚空を眺めていた。

 

「淫魔の奴隷、かぁ……。あの噂、本当だったんだ……」

 

 思い出すのは、先ほど会った人間族の男性。迷宮狂いとあだ名される、英雄候補筆頭。

 少し話して分かったが、彼は噂の様な狂人ではなかった。

 なかったのだが……。

 

「……すごい、濃い精だったなぁ」

 

 連れていた奴隷。子供の様な見てくれの異端の淫魔。彼女からは、とてつもなく濃厚な精の香りがしたのである。

 基本、昨今の淫魔など誰もが慢性的な精不足であり、まともな食事にありつけるのはごく少数の勝ち組だけである。にも関わらず、奴隷身分である彼女からは母シルヴィアナよりも濃く男の匂いが漂ってきたのである。間違いなく、イシグロの精だ。

 子供の様な淫魔が、である。感覚からして、それもほぼ毎日。極上の精を食べさせてもらっているに違いない。何よりも……。

 

「イシグロさん、凄い欲情してた……」

 

 狂人ではないが、変わった人なのは確かであった。彼は、ルクスリリアと名乗った奴隷に、ものすごく強い感情を向けていたのである。

 淫魔であるニーナにはまるで珍品でも見たかの様な視線を送り、ちんちくりんである彼女にはまるで最愛の人にでも向けるような視線を送っていた。男好きのする身体を自認しているニーナである。こんな経験、初めてであった。

 あの視線は、単なる欲情のソレではない。それこそ、父が母に向けるような……。

 

「いいなぁ……」

 

 ため息のように、願望が漏れ出た。

 性癖を自覚し幾星霜、理想の相手は見つからず。これまで絞ってきた男は「いやーきついっす」とたった一度で去って行く。

 

「いいなぁ、私も素敵なご主人様の性奴隷になりたいなぁ……」

 

 銀細工冒険者は、頭がおかしい。それは、淫魔の彼女も同じである。

 風舞(ふうぶ)のニーナは、常軌を逸したドMであった。身も心も、魔族特性ゴリ押しで(へき)に浸かる程度にはマゾだった。

 だからこそ、ニーナは強い。風を纏い舞う彼女は、死の境界線でタップダンスして生と性を実感するのである。

 

「イシグロさん、イシグロさん、いいなぁ……いいなぁ……♡」

 

 それはそれとして、淫魔故にやっぱ精が欲しい。

 あの、全くもってこちらに欲情しない黒い眼。敵かもしれないと警戒している剣呑な目。欲情の対象でなく、剣を交えるかもしれない相手として見てきた冷たい瞳……。

 

「んっ……はぁ~……♡」

 

 儚い願いである。十中八九、自分では無理だろう。

 彼は、あの小さな淫魔に夢中だった。どれだけ誘惑しても、あの人は自分の誘いには絶対に応じない。ニーナとて淫魔の端くれ、それくらいは分かる。

 だが、それでいい。手に入らないからこそイイという感覚を、この時ニーナは知ったのだ。

 

「奴隷、かぁ……♡」

 

 銀の淫魔は妄想に耽る。

 叶わぬと知りながら、もしもの世界を広げていく。

 いつか、もしも、そうしたら……と。

 

 図書館ではお静かに。

 迷惑をかけちゃいけません。

 

 なので、ここでニーナは静かに二度達した。

 

 当然、誰かに見られるなどという愚は犯さない。

 銀細工持ちの面目躍如であった。




 感想投げてくれると喜びます。



 王の一党、募集中です。よろしければどうぞ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=297777&uid=59551

 現在、本作に登場するキャラやボスを募集しています。
 興味のある方はお気軽にどうぞ。
 詳しくは活動報告にて。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=296177&uid=59551

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=297167&uid=59551

 こっちも投げてくれると喜びます。



 今回出てきたキャラはヒロインではありません。
 今後、主人公が見てないところでちょこちょこ活動します。

 アンケの武器は全部膂力補正のある武器です。
 仕様はぶっちゃけエルデンとかその辺と同じです。



◆本作世界における武器とジョブについて◆

・武器にはそれぞれ個別に能力補正があります。補正値により、攻撃力が上がります。膂力補正Aみたいな感じです。
・ジョブにより、マッチする武器しない武器があります。また、適性値にもジョブによって差があります。例えば、侍は刀のみにボーナスが乗る分、適性値が高いです。刀Aみたいな感じです。対して、剣士は刀含む多くの刀剣類にボーナスが乗る分、ボーナス値は低いです。刀C直剣Cみたいな感じです。これにより、同じレベルの侍と剣士がタイマン張った場合、武器適性の高い侍が有利です。要するに、多くの武器が使えるジョブの人は、その分弱くなってしまう訳です。スペシャリストには勝てません。
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