【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。分かりにくいのあって申し訳ない。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
登場の際はほとんど別人になります。悪しからず。
少し変更部分があるので、ご応募の際はレギュレーションの確認をお願いします。
アンケートのご協力、ありがとうございます。
驚きました、天狗人気ないんですね。確認して良かったと思います。
参考にさせて頂きます。
今回、以前のエピソードで登場したキャラクターが登場します。
ニーナです。巨乳メガネマゾサキュバスです。
よろしくお願いします。
ガッツリという程でもない気もするが、前世の俺はまぁまぁオタクだった。
アニメ・漫画・ゲーム等々、実写アイドルを除く大抵のオタクコンテンツをたしなみ、生きがいの一つとして摂取していたのだ。
守備範囲は広い方だと思う。古今東西、新旧ロリ非ロリに拘りはない。
今見ても未来少年コナンはワクワクする。りゅうおうの新刊も良かった。ブラック・ジャックは誰が読んでも面白いのだ。
サブカルに関して、偏食という訳ではなかったように思う。
そんな俺だが、アニメや漫画等において、凄く嫌いなストーリー展開というのがある。
ヒロインが攫われる展開だ。
ヒロインじゃなくてもいい。庇護の対象が攫われたり、奪われたりする展開が純粋に嫌いなのだ。
物語の導入なら気にならないが、主人公やそっちサイドの人等が「守る!」と決めた対象を攫われる展開に、幼少の頃からずっとモヤモヤとした感覚を覚えていたのである。
いや、守る言うてた主人公くん、守れてないやないかーいってな感じで。
いやいや、そうならんように対策しとけよーってな感じで。
構成の都合とか、色んな事情はあるのだろう。理由はどうあれ、結果だけ見るとなんか間抜けに感じちゃうのである。
無論、嫌いな展開があったからといって、その作品自体が嫌いになるなんて事はない。
が、それはそれとして、モヤ~っとした気持ちになるのである。
ヒーローアカデミアでも言っていたが、ヒーローは守らなきゃいけないモノが多くて大変なのである。庇護の対象が多いと、どうしても全てを守るのは難しい。明確な敵や悪党がいる世界観なら、尚の事。
そんな中で、誰も勝てない程に守護者が強いパターンならば、敵対者はより狙いやすい箇所を狙うのが道理だろう。
誰だってそうする。
俺だってそうする。
教訓、という程でもないが……。
異世界にて、明確に俺という個人に庇護の対象が存在している現在、俺は決意した。
ルクスリリアを、エリーゼを、グーラを、その生殺与奪権を絶対に誰にも奪わせない。
俺が守る、とカッコよく決めたいところだが、俺にその自信はない。
だからこそ、俺は庇護者を作らない。彼女らを俺の弱点にしない。最低限、自衛能力を身に付けてもらう。
故に武装、故に修行、故にダンジョンアタックなのである。
これはルクスリリア購入後からずっと考えていた事である。
当時は「女の子と迷宮探索したいなぁ」という欲望が七割だったが、今はその比率が逆転したのだ。
長男じゃないが、今なら紅蓮華の歌詞に共感できる。いや、それは立場に酔い過ぎか。
とにかく、である。
物騒なこの世界。迷宮・野生のモンスター以外にも、とても怖いものがあるだろう。人だ。
街角の酔っ払い。犯罪組織。頭のおかしい銀細工冒険者。
治安が良いらしい王都とて、いつ誰にどのようにして狙われるか等、分かったものではない。
実際、直近でストーカー被害を受けたのだ。憂いが無くなるよう、憂いを忘れないよう、緊急事態には十分以上に備えるべきだ。
対怪物でなく、対人戦闘力の向上。
レベルアップとは別に、クリアし続けるべき課題だろう。
対人戦の練習。それは、俺たちがいつも鍛錬場でやっている事である。
が、いつも同じ相手じゃあ、手慣れこそすれ経験の幅は広がらない。
紅蓮華ばっか練習しても、歌が上手くなる訳じゃない。紅蓮華が上手くなるだけだ。しっかりと基礎を固めて、他の曲も歌わなくっちゃあいけないな。
身内以外との実戦経験。
必要だと思うのだ。
が、そんなの、何処で得れば良いのだろう。
西区にも異世界ファンタジーらしくオープンな闘技場こそあるが、練習には向くまい。
どうすっかなって感じである。
で、なんやかんやあって……。
「あの、イシグロさん、お久しぶりです」
「依頼掲示板、拝見させて頂きました」
「私でよろしければ、お相手務めさせて頂きます」
いたわ。
〇
足を止めると死ぬ。
これは、俺が異世界迷宮で文字通り身体で学んだ事だ。
痛くなければ覚えませんという通り、痛かったので心底思い知った訳である。
それ以外にもいくつか教訓はあるが、それらはあくまで怪物退治が前提だ。
駆け引きのある対人戦の場合、我流の戦闘術がどれだけ通用するか分かったものではない。
前にやった実戦では、かなりカッとなっていたから、ぶっちゃけよく分かっていないのだ。
チート任せに暴走していただけだ。これをまともな経験とすべきではないだろう。
練習は実戦の様に、実戦は練習の様に。
相手が魔族だと、思いっきり斬っていいから気が楽である。
「あ、ありがとうございました……!」
血だまりに沈むニーナさん。その身体には無数の傷があり、左右共に腕がない。顔面も全身も、原型が分からなくなる程ボコボコになっていた。おまけに角はへし折れ、眼鏡も割れている。
やり過ぎな感もないではないが、これは実戦を想定した練習である。本人の希望もあり、こうなった。
「こちらこそ、ありがとうございました。お陰で良い経験になりました」
やっぱ、異世界と地球じゃ戦いの根っこが違う。
間合いも、タイミングも、物理法則も、地球基準の感覚じゃあ痛い目見る。
今更だが、再確認する事ができてよかった。ニーナさんにも感謝だが、ウィードさんにも感謝である。
俺は水を飲みながら、少し前の出来事を思い出していた。
対人練習。今後の事を考え、俺はこれの実施を検討していた。
とはいえ、何処で誰とどうやって戦えばいいか分からなかった。まさか、ストリートファイトなんかある訳ないし。
こういう時、異世界初心者の俺が考えてもどうにもならない。なので、思い切ってウィードさんに相談してみたのである。
「なら、依頼でも出してみるってのはどうっすか?」
なるほど、その手があったか。
思い立ったが吉日。俺は受付おじさんの所に行って、「練習相手募集」の依頼を出した。
依頼内容はこうだ。俺の一党とタイマンで模擬戦しませんか? 武器は実戦用でお願いします。怪我をしてもこちらで回復させます。よろしく! みたいな感じ。
書類に必要事項を書き、いざ俺からの依頼が掲示板に張り出された時など、なかなかにドキドキした。
が、悲しい哉、誰も来なかった。
転移神殿に来て依頼掲示板を眺める冒険者は多いのに、彼らは俺の依頼を見た途端、逃げるようにしてその場を離れるのである。
報酬が悪いのかとも思ったが、おじさん曰く「破格だぞ」らしいのでそこじゃあるまい。危険性に関しても回復はこっちで持つのだからいいだろうに。なんなら双方殺しが起きないよう契約書の準備もしているのに。
うーん、怪しい依頼判定を食らっているのか……。
「ウィードさんが受けて頂けませんか?」
「あ、すいません! 俺斥候系の仕事が今からあるから、これで!」
誰も来ないので試しにウィードさんを誘ってみたが、彼はそそくさと去って行った。
まあ、斥候だしバトルは苦手なのだろう。
そうして誰もこないまま転移神殿でゴロゴロしていると、そこに見知った顔が現れたのである。
「依頼掲示板、拝見させて頂きました。私でよろしければ、お相手務めさせて頂きます」
それは、前に図書館で会った淫魔のニーナさんだった。
彼女は以前会った時と同じく眼鏡を装備し、フード付きのローブを身にまとっていた。
ニーナさんの位階は銀細工で、腕前の心配はいらない。それに、ニーナさんは頭のおかしい奴が多いらしい銀細工にしては大人しい気性だ。ルクスリリアと同じ女性なので、変な気を起こす事もないだろう。
「ええ、こちらこそ、よろしくお願いします」
ってな感じで、俺達とニーナさんは鍛錬場へと入っていくのであった。
そんなこんな。
依頼のメインはルクスリリア達との訓練だが、ひとまずはとニーナさんからの提案で俺との対戦と相成った。
まあ、俺も俺で対人の練習は必要だと思っていたので、彼女の提案は渡りに船であった。
結果、剣士スキルだけでなく武闘家スキルや魔法やサブ武器等をフルに使い、何とか勝つ事ができた。
「はぁ、はぁ……! さ、流石の腕ですね、イシグロさん……! 正直予想以上です……!」
「お褒め頂き光栄です」
迷宮探索の役割で言うと、彼女は技量・敏捷特化の回避盾になるのだろう。流れるような剣捌きは一朝一夕で習得できる技術とは思えない。熟練者特有の安定感があったのだ。おまけにルクスリリア同様に空を飛べるので、上下の機動力もある。
というか、俺との相性が悪かった。
俺はカウンター重視のSEKIROスタイル。ニーナさんは技量型の回避盾。そうなると、どうなるか? 泥試合である。
これじゃお互い埒が明かないと攻め合ってみるも、ニーナさんは慎重に立ち回ってきて上手くカウンターを入れられず。俺の攻撃は悉く防がれてしまったのだ。逆もまた然り。
俺は人間、相手は淫魔。このままだとジリ貧だった。仕方なく、その場は武闘家スキルとか魔法とかでゴリ押しし、最終的には逃げられないよう無銘を突き刺してパンチキック強襲。
反撃されないよう魔法で拘束してメイス殴打でKOだった。ニーナさんもニーナさんで、なかなか「参った」を言わないので止め時が難しかった。
洗練されていない、泥臭い戦いだった。華麗に決めたい訳でもないが、これでヨシとはしてはいけない。言っちゃアレだが、銀細工に足止めされる程度じゃダメなのである。
何とか勝つ事はできたが、お陰で俺は俺の弱点に気づく事ができた。
どうやら、俺は攻め手に欠けるらしい。相手が防御型の場合、カウンターを封じられた俺は途端に火力を失うのだ。
何とかしなきゃいけない課題である。
「よ、よろしくお願いします……!」
「はい、よろしくお願いします」
まあ、そんな感じで。
俺との模擬戦の後は、ニーナさんには契約通り皆と戦ってもらった。
現在はグーラと模擬戦中。グーラもニーナさんも、戦ってる様はとても絵になる。が、素人目線で見てもグーラが劣勢なのが分かる。
素早く力強いグーラの剣を、ニーナさんは薄皮一枚で回避していた。余裕そうだし、その表情は笑顔だ。
ちなみに、ニーナさんとの訓練は、今のところ俺以外誰も勝てていない。
ルクスリリア対ニーナ。
翼を生やした二人の戦いは、まるでロボットアニメの空中戦闘シーンの様だった。
斬り合って離れる。離れて魔法を撃ち合い、それから近づいて斬る。意外にも? ルクスリリアもニーナさんも結構楽しそうに戦っていた。あの二人、何故か仲がいいのだ。
結果、ルクスリリアがざっくり斬られて負けた。血が飛び散り、脱力した彼女が墜落してきたのだ。覚悟していた事だったが、それでも中々にショッキングだった。すぐ回復したよね。
「いやー! さすがシルヴィアナ様の娘さんッス! さすニナッス!」
と、当の本人はケロっとしていた。
喉元過ぎればって奴だろうか。
流石の淫魔メンタルである。
次、エリーゼ対ニーナ。
高位竜族と上位魔族――ニーナさんは生まれつき大淫魔であるらしい――の戦いは、ルクスリリア戦とは打って変わってゲームバランスがガバガバのクソゲーPVPみたいになっていた。
初手牽制に撃ったエリーゼの魔法に対し、ニーナさんは文字通り肉を斬らせて接近してきたのだ、そして相手に迎撃の隙を与えぬまま一発キツいのを入れたのである。これまたかなり動揺した俺と違い、当のエリーゼは顔色ひとつ変えず全身バリアを張ってから冷静に回復を使った。
そこからは、もう完全にぐだぐだだった。エリーゼは引きこもった状態で相手に呪詛付き指揮官デバフを与え続け、攻撃は魔導書くんにお任せ――νガンダムみたいにバリア内から魔法を撃つ事はできないのだ――していた、対するニーナさんもエリーゼのバリアを突破する事叶わず、最終的に引き分けとなった。
「初手を拘束魔法にすべきだったわね……」
試合後、珍しくエリーゼの戦闘種族らしい一面を見る事ができた。
ニーナさんは何故か不満げだった。なんか申し訳ない。
「はぁああああッ!」
「あははははっ! 殺す気でやらないと掠りもしませんよ!」
そして、現在。グーラ対ニーナ。
二人の戦いは佳境に入っていた。最初らへんは舞うように剣を振っていたグーラも、どんどん動きが荒々しくなって、且つ洗練されていっている様に見えた。
また、戦闘中グーラの炎雷には変質があった。時折、炎が金色に、雷が青色になる瞬間があるのだ。どういう理屈かは知らないが、色が変わった時のグーラは動きが鋭くなっていた。暴走状態は赤黒かったが、今はスーパーサイヤ人2みたいになっていたのである。
「ぬゥンッ!」
「おっと!?」
ガギン! とぶちぬき丸が円盾状の防御魔法を破壊し、すんでのところでニーナさんは大きく身を引いた。
距離が遠のき、間隙が生まれた。グーラは例のアバンストラッシュの構えを取った。黄金の炎と、青白い雷が彼女の全身を覆う。
対し、ニーナさんは外連味のあるポーズで迎え撃つ構えを見せた。その顔は満面の笑みである。
「オォォォォォォォッ!」
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
次の瞬間、稲妻の様に加速したグーラのアバンストラッシュがニーナさんの腹に直撃し、その胴体を真っ二つにした。赤い水風船が弾けるかの様、かなりグロい。
が、上半身だけになったニーナさんはすれ違い際にグーラのマントを掴むと、至近距離で魔法を発動した。
肉も骨も切らせて、相手に王手をかけたのだ。
「瞬時発動、“魔力強奪”……!」
ぶわりと、赤紫の光の腕がグーラの身体を撫でる。
しがみついてきたニーナさんを振り解こうとしたグーラだったが、その魔法を食らった瞬間、全身から力が抜けて倒れてしまった。
「試合終了! グーラ!」
俺は真っ二つになったニーナさんを無視して、うつ伏せになっているグーラを抱き起した。
目を覗き込むと、なんか凄い怠そうな表情になっていた。
「グーラ、大丈夫か?」
「は……はい。負けちゃいましたぁ……」
それはいいのだ。俺は展開しっぱなしだったコンソールを見た。グーラのMPはごっそり減っていて、何やら“魔力衰弱”という状態異常を食らっている様だった。
ルクスリリアとエリーゼは俺の様に動揺する事はなく、ゆったり近づいてきた。
「大丈夫ッスよご主人、それただの一時的な魔力欠乏症ッス。一気になくなっちゃったんで、気分が悪くなってるだけッスね。すぐ治るッスよ」
「ふぅん、魔力を奪ったのね。貴女の中にグーラの魔力が在るのが見えるわ……」
「ええ、はい。とはいえ至近距離じゃないと使えないので、それほど使い勝手の良い魔法ではないのですが……」
見ると、下半身を失ったはずのニーナさんは既に脚を生やしていた。ヘソから下が丸見えである。ついでに割れてた眼鏡も修復されていた。
普段、ローブを着こんでいるから分かり難いが、ニーナさんの脚はライザリン・シュタウトの様な凄い肉付きをしていた。太ももフェチの江藤くんが見たら即勃起しそうな足である。
「そうでしたか。失礼しました。エリーゼ、ニーナさんに回復魔法を……」
「いえ、ご心配なく。それより、グーラさんにコーンスープを飲ませてあげて下さい。多少はよくなると思いますので」
言われた通り、椅子に座らせたグーラに水筒のスープを飲ませると、少しずつ顔色を戻していった。
「いや~、にしても強いッスねニーナ先輩は。全然相手にならないッスわ」
「いえ、私は幼少の頃からずっと母から指導されていましたので。皆様こそ、その戦闘術はどちらで身に付けたものなのでしょうか? イシグロ様から教導を受けたのですか?」
「アタシはちょっとだけ軍にいたんで。鎌は……我流ッスかね?」
「私も、我流になるのかしら? 少なくともお父様に教わった事は実践していないから。銀竜剣術も、少ししかやっていないし……」
「ボクは習ってはいないんですけど、父の剣術を真似して……」
「そ、そうでしたか……」
引いているニーナさん。しっかりと剣術を習った身からすると、俺達のモーションアシスト戦法は異様に映るのかもしれない。
それはそれとして、いつまで下半身を露出しているのだろうか。見ると何か言われそうなので、早く防具を付け直してほしい。
そんな感じで、ニーナさんとの戦闘訓練は過ぎていった。
銀細工でも、ニーナさんはまともな人でよかった。
〇
「本日はありがとうございました。それでは、次の機会があれば気軽にお声かけください」
結局、あの後ニーナさんとはもう一周戦ってもらった。
魔族特性なのか、ニーナさんが特別なのか、どういう訳だか消耗していくにつれ、彼女の動きはパワフルになっていったのだ。一度も回復を受ける事もなく、というか促しても断っていた。
「痛みがあると忘れませんから」
とはニーナさんの談。虎眼流門下生の如き精神性である。俺とは違い、心底お美事メンタルだ。
しかも、戦ってる最中、彼女は終始常時スマイルだった。所謂バトルジャンキーという奴だろうか。清楚巨乳戦闘狂とは、人気が出そうな属性である。
「今日~。アタシ結局一発も当てらんなかったッスわ~」
「私もよ。学びの多い戦いだったわね」
「け、怪我をしても平然としてるの、ルクスリリアもニーナさんも何か怖かったです……」
「グーラも同じ魔族ッスし、そのうち慣れるッスよ~」
帰り道、各々が訓練の感想を述べていた。
俺にとっても、良い経験だった。決め手の弱さ、絡め手の少なさ。チートでカバーできないところを沢山知れた。
やっぱ、身内以外との対人戦はやって良かったと思う。今後も続けよう。
「あー、そういやー、ご主人?」
「なに?」
などと考えていると、ルクスリリアが声をかけてきた。
が、彼女は何やら言いづらそうにしていた。割と言いたい事をズバッと言うルクスリリアにしては珍しい。
「ニーナ先輩の事なんスけど……」
「うん」
言うと、グーラたちの方を見た。
それから、肩をすくめた。
「やっぱ止めとくッス。言うと混乱させちゃいそうッスし」
「そう? まあ、いいけど」
ルクスリリアはメスガキだが、他人の心の機微には敏い。彼女が言わない方がいいと言うのなら、そうなのだろう。
それから、他愛のない事を話しつつ、俺たちはスポーティな倦怠感と共に家路につくのであった。
なんか、プール行った後みたいで気分が良い。
夏だし、市民プールが恋しくなるね。
〇
その日の夜、西区のとある宿屋。
荷ほどきの済んでいない荷物が置かれた部屋にて……。
「はぁ~! 満足したぁ~!」
息苦しい装備を投げ捨て、豊満な肢体を晒した淫魔がふかふかのベッドにダイブした。ぼふん、と柔らかな寝具の上で柔らかな身体が跳ねた。
身体的にも精神的にも満たされた一日だった。やっぱ、痛いのは人相手のが上質であると、ニーナは痛感した。
「気持ち良かったなぁ~」
思い出すのは、午後の出来事。
図書館の帰り道、潜る気はなかったが一応掲示板を覗いてみると、そこに見慣れない依頼があったのだ。
それは件の迷宮狂い氏からの訓練依頼だった。
共同訓練、まったくない訳ではない類の依頼である。
だが、そういうのは敵対関係にない同盟や一党がお互い信頼できる相手と行うもので、こうして初対面の相手同士でやろうとなる訳がないのである。
何というか、迷宮狂いさんの狂いっぷりがよく出た依頼だと思った。
が、それはそれ。前々から興味のあったイシグロからの依頼である。ニーナは一も二もなく依頼を受諾すると、さっそく鍛錬場へと向かった。
結果、想像以上に楽しいお仕事だった。
「んっ……♡」
思い出すと、ニーナの身体に甘い痺れが迸った。
向けられる切っ先。無機質な魔法に、淡々とした暴力。
イシグロ・リキタカは、異世界基準かなりの美少女であるニーナに、全くもって容赦なく暴力を振るってくれた。
戦場だとそうでもないが、平時でニーナを相手にすると大抵の男は日和った攻撃しかしてこない。模擬戦において、人間の感覚と魔族の感覚は違うのだ。
例え生粋のSを自称する者であっても、そこには無意識に手加減や遠慮というものが発生するのだ。盛り上がるとしっかりしてくれるが、意識しないとフルスロットルになってくれないのである。
だが、イシグロは違った。
「私は魔族なので、どこを斬られても大丈夫です。全力で来てください」
「はい、わかりました」
ホントにその通りだった。
迫る剣は常時急所狙い。パンチキックも加減なし。半ば無理やり腹を突き刺された時など、一瞬意識が飛びかけるほど気持ち良かった。
「はぁ……はぁ……♡ うっ……♡」
なにより良かったのは、最後にされたメイスでの連続殴打だった。
動けないよう剣で固定された上、ダメ押しに魔法で拘束され、清浄の炎が灯るメイスで何度も何度も殴られたのだ。彼の奴隷が止めなければ、本当に死んでしまっていたかもしれない。気持ち良すぎて「参った」が言えなかった。
そして、血だまりに沈むニーナに、イシグロは言ったのだ。
――ありがとうございました。お陰で良い経験になりました。
爽やかな笑顔だった。自分の成長を知れて喜ぶ、若いエネルギーに満ちた健やかな表情だった。
ぐちゃぐちゃになった自分を見下ろす視線に、ニーナという個人は映っていなかったのである。
「ふぅ……♡ あぁ、良いなぁルクスリリアちゃん達……」
その後も、淫魔の自分に目もくれず、イシグロは所有奴隷に夢中だった。思い切って下半身を露出してみても、イシグロの黒剣は鞘に入ったままだった。
ちんちくりんの淫魔。ちんまい竜族。細っこい獣系魔族。言っちゃアレだが、誰も相手にしないような女たちである。
そんな彼女達に、淫魔剣聖の娘が、銀細工の剣士が、むちむちデカケツ激マブ淫魔の“風舞”のニーナが、女として完全敗北したのである。
「くぅ~♡ 悔しい♡ 悔しい♡ でも気持ちいい♡」
びくんびくん。
だが、それでいい。むしろそれが良い。
ニーナは戦士として敗れ、女としても敗れた。故に、身体的にも精神的にも大満足だった。
寝た訳でもないのに、寝取られた気分である。ニーナ視点、新しい快感だった。
「……も、もう一回♡」
その夜、ニーナは一睡もできなかった。
敗北無様自慰は、最高に気持ち良かったのである。
しばらくの間、おかずに困る事はなさそうだ。
めでたしめでたし。
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作者のやる気に繋がります。
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