【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で続けられております。
 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
 アイデアに繋がってますし、やる気にもつながっています。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 選択肢が増えても狐は人気なんですね。把握しました。
 とはいえ、何をどうするかは作者が決定します。あくまでも調査なので悪しからず。

 今回、以前登場したキャラクターが出てきます。
 アリエルです。金細工で、王子たちと会議してたエルフです。
 よろしくお願いします。


いこうぜ、ろりこんストリート

 止まり木協会とは、王都に存在する孤児院的な組織だ。

 主な活動は、孤児や捨て子の保護。保護した子供の労働訓練と援助。それから貧困層の子供への食料提供などなど。

 俺のイメージと違い、宗教的なアレやコレやは関係ないらしい。何とは言わんが、教えを広めたりはしていないようだ。

 

 協会の本部は王都中央区にあり、支部が各区にひとつずつ。その他大中小の関連施設がいくつもある。

 それらは密に連携し、高度に組織化された体制を維持している様だ。

 

 協会の創設者は、金細工持ち冒険者である上森人のアリエルという女性だ。今なお存命であり、生ける抑止力となっている様だ。実際、アリエル女史の弱みを握る為、協会に手を出した人は王家公認で苛烈な報復を受けるとの噂。

 協会の運営費は彼女のポケットマネーの他、王家からの援助に加え、彼女が盟主を務める同盟や、善意の寄付により賄われている。

 

 そう、寄付だ。

 

 止まり木協会の理念は、子供の救済。

 ちょっとノイズは入ってくるが、長い目で見るとロリ美少女の救済といえるかもしれない。

 なら、まぁ寄付していいかと思える。

 

 俺はロリコンだが、何もこの世全ての子供を救おうなんざ考えていない。

 俺はショタには全く興味がない。TSしてから出直してほしい。ロリであっても美少女じゃないなら、ガチで何とかしようとは思わない。

 性癖を拡大解釈し、ロリ美少女のいるこの世界の為に頑張ろうとか、全財産を寄付に使おうとか、人生賭けて奉仕活動するとか、全く全然これっぽっちも考えない。普通に嫌である。

 

 けど、寄付くらいならしてもいい。

 そこまで多額のつもりはないけど……。

 そんな感じである。

 

 

 

 王都西区、繁華街から離れたエリア。

 大通りから外れた住宅街の真ん中に、なんかソレっぽい建物があった。

 高い塀に大きな門。建物はグレーの石造りで、美しさより頑丈さを感じるデザインだ。屋根の上には、歪んだT字の止まり木マークの彫刻看板があった。

 

 入口に向かって歩く。塀の向こうから沢山の人の話し声が聞こえてきた。門の方に行くと、何やら子供を連れた大人が往来しているのが見えた。

 門を通る彼らの身なりは、何というか普通だった。転移神殿近くで見る高級感もないし、繁華街で見かけるような派手さもない。地味な色合いの服を着た、普通の人たちだった。

 何かのイベントだろうかと覗いてみると、どうやら協会の庭で炊き出しをしている様だった。

 

 競馬場の様な芝が敷かれた庭では、簡易な天幕の下で複数人の子供が料理をしていて、出来上がったものを列に並んだ子供たちに手渡ししていた。

 彼らが作っているのは、何か大きな団子の様なものだった。葉で挟んだ団子を受け取った子供とその親らしき大人はお礼を言うと、少し離れたところで食べはじめた。

 他にも同じようにしているグループがあり、子供たちは子供同士で集まって団子を食べ、その間大人たちは同じく集まって話をしていた。また、大人たちに混じって協会マークの服を着た男性もいる。彼の腰にはメイスがあった。

 

 うん、如何にもな善行である。

 だいたい分かる。天幕にいる子供は保護されてる協会の子で、止まり木マークの彼は協会を守ってる人なんだろう。

 武装は王都の治安を考えて妥当だ。怪しいのがいたら、あの人が対処するのだろう。

 

 皆、朗らかに笑っている。実に平和な光景だ。賑々しい王都西区にあって、こんな柔らかな笑顔が溢れる場所があるなんて驚きである。

 寄付が目的とはいえ、あんな所に全身革鎧の俺が入っていいものだろうか。門を潜った瞬間、カチコミと判断されてしまいそうだ。

 逡巡した結果、俺は一旦退避する事にした。流石に防具はいかんか。

 

 少し戻って公衆トイレ――少し金を払う――に行き、奥の方にある大用個室に入った。

 靴を履き替えてから、コンソールを操作し装備を外す。裸ネクタイならぬ裸銀細工だ。着替えの邪魔なので、銀細工も一旦外そう。

 アイテムボックスに手を突っ込み、異世界におけるスーツポジションの服を取り出し着衣する。これは奴隷商館に着ていく奴ではなく、もう少しカジュアルな奴だ。

 

 それから、今度は努めて堂々と門を潜った。これなら即攻撃なんてされまい。

 話を通す為、関係者を探す。けど、さっきまでいたはずのメイスの彼は見当たらない。天幕では今も子供たちが団子を作っていて、列に並んだ子供がお礼を言って受け取っている。俺はどうすればいいのだ。

 と、思っていると……。

 

「なぁ頼むよ! オレぁ昨日から何も食ってねぇんだ! 恵んでくれよ!」

 

 奥の天幕の方で、何やら料理係の子供に詰め寄る男性がいた。

 男は身なりこそ薄汚れていたが、背が高くガタイが良かった。対する子供はケモミミのショタだった。その耳は垂れ、尻尾がしなびている。自分よりも大きい男に怯えているのだ。

 

「え、えっと……これは、協会のモノなので……知らない人にはあげちゃダメって……」

「まだまだあるじゃねぇか! それに全部よこせなんて言ってないだろ? な? 頼むぜ!」

 

 最初は弱々しい声音を出していた男だったが、ビビるショタに気を大きくしたか徐々に態度をデカくしていった。

 それから男はチラチラと周囲を見ると、作りかけの団子を強引に奪って行った。

 

「あ……!」

 

 という間に、男は駆け出した。割と元気である。

 炊き出し泥棒? どう言えばいいのか分からないが、子供用の炊き出しを奪った男が、門の近くにいる俺に近づいてくる。

 視線が合う。男は目を丸くし、すると猛然と突進してきた。何でだよ。

 

「退けぇ!」

「おう……?」

 

 見た感じ、相手は一般人だ。走ってくる速さも地球人と大差がない。脅威ではない。例えこのまま悪質タックルを食らっても、頑強ステータスの関係で俺ではなく相手がひっくり返る事となる。

 一応、今の俺は非武装だが、武闘家中位職の“ストライカー”にしてある。この程度なら、迎撃は容易だ。回し蹴りをしてもいいし、サッと避けて足を引っかけてもいい。

 できる、できるが……どうなんだろう。

 

 此処は止まり木協会の私有地、そんな場所で何の関係も無い銀細工冒険者が、悪漢とはいえ暴力を行使していいものだろうか。

 しかし、ここは異世界だ。関係はなくとも、可能であるにも関わらず悪漢を見逃すのは非常識のクズ野郎と見なされるかもしれない。勇を失ったなと追い出されるとか、そういう可能性はないか?

 

 そうこうしている間にも、炊き出し泥棒が近づいてくる。異世界基準で俺をヒョロ男と見てか、避ける素振りが一切ない。

 事態に気づいた大人や、子供たちが見ている。子供の中にロリ美少女はいない。

 さて、どうするのが丸いか。

 

 そこで問題だ。このような状況、どう対処するのが正解か?

 三択一、ひとつだけ選びなさい。

 

 答え1、ロリコンのイシグロは突如激昂して悪漢をぶちのめす。悪人に人権はない。

 答え2、足をひっかけて速やかに制圧。クール・クーラー・クーレスト。

 答え3、無関係なので見逃す。普通に回避。現実は非情である。

 

 とか脳内でポルナレフしちゃうあたり、割と余裕であった。動体視力も異世界ナイズドされてる身としては、炊き出し泥棒の動きはあまりにもスローリーだ。どうにでもできる。

 改めて、周囲の反応を見た。ビックリして尻もちをついた料理役のショタ。呆気に取られてるファミリー。おっとり刀で駆け付けた協会の人。それと、屋根の上に金髪の女性。

 

 ……ん? 屋根の上に、金髪の女性?

 

 瞬間、チート由来ではない危機察知が働き、俺の生存本能をプッシュした。

 視覚アシストも、危機察知も、軌道予測も問題ないと言っている。が、半年に及ぶ冒険者としての勘が今すぐ退けと緊急事態を知らせてきた。

 

 反射的に、集中力が最大化した。時間感覚が延長され、周囲の景色が鈍化して見える。

 そんな世界の中で、なおも高速の動きをする者がいた。金髪の女性……エルフだ。

 彼女はアイテムボックスに手を突っ込み、取り出した矢を手首のスナップだけで投擲した。狙いは、炊き出し泥棒だ。

 寸前に、俺は僅かに動いて射線を外れた。それくらいしか動けなかった。

 

 すとん、と。

 

 時間感覚が戻る。男の膝裏に投げ矢が刺さると、泥棒は俺の目の前で派手に転倒した。

 そして、遠い屋根上の森人が絶死の魔法を詠唱した。

 

「範囲制限……“浄花散華”」

「待っ――」

 

 刹那、炊き出し泥棒は花と成って散った。

 文字通り、散ったのだ。

 その一部始終を、俺はしっかりと見ていた。

 

 ほんの一瞬だった。

 膝裏に刺さった矢が緑色に光り、魔力が男の身体全体に浸食。すると身体の中心から徐々に植物の茎が生えて全身を覆い、次の瞬間には身体の至るところに蕾が出てきて開花した。

 そして、全ての花が開ききった時、男は花弁を残して消滅したのである。

 

 流血はなかった。グロテスクな感じもなかった。それから、悪漢に対する慈悲も容赦も感じなかった。

 何気に、異世界で初めて人が死ぬのを見た。グーラが殺った死体は見たが、あれは跡だ。グロかったが、それだけだ。

 死というより消滅。炊き出し泥棒は、死体さえ残さず存在を抹消された。

 

 控えめな桜吹雪の様に、花びらが舞い上がる。甘い花の匂いが俺の鼻孔を擽った。

 すると、俺の動揺が沈静化したのが分かった。状態異常を回復されたのだと、俺の中の冒険者部分が冷静に分析した。

 一部始終を見ていなければ、メルヘンで綺麗な魔法だと感心したかもしれない。それくらい鮮やかな妙技だった。

 

 そう、妙技だったのだ。

 俺は消えた男よりも、それを放った森人女性の方に意識をやった。

 冷静になれた現状、見知らぬ男の死など、どうでもいい。動揺はしたが継続するショックはない。それよりも、強者の存在のが重要だ。

 

「此処は止まり木協会だ。王家の法が在るとでも思ったか……」

 

 澄んだ声だった。屋根から飛び降りたエルフは、音もなく着地して云った。ヒラリと、ドレスの様なローブが翻った。

 森人女性は尻もちついたショタを助け起こすと、何事か言って作業に戻らせた。協会の人が女性に頭を下げ、女性は鷹揚に応えていた。周囲の人たちも流石の王都メンタルで、すぐに話し声が再開した。その声音には、隠し切れていない森人女性への尊敬が感じられた。

 

「流石アリエル様だ……」

 

 陶然とした声で、誰かがそう言った。

 アリエル、アリエル? とは、止まり木協会の創設者の名前ではなかったか。金細工持ちで、2000歳超えで、現冒険者で遠隔最強という、上森人の……。

 と思っていると、件のアリエル様が近づいてきた。

 

「君もすまないね。目の前で惨いものを見せてしまった。謝罪しよう」

「いえ、滅相も無いです」

 

 やがて目の前まで来た彼女は、初対面の俺に保護者の様な眼を向けてきた。

 その瞳は翡翠色で、髪は透明感のある金。白雪の様な肌には、慈悲深そうな笑みが浮かんでいた。

 その胸元には、煌めく金細工が下げられていた。

 

「見たところ、炊き出しを貰いに来た訳ではあるまい? 用件があるなら、中で話を聞こう」

 

 多分だが、好みは置いておいて、アリエルさんは今まで俺が見てきた女性の中で一番の美人なんだと思う。

 なんというか、綺麗過ぎて現実感がない。よく言うと神秘的で、悪く言うと作り物めいている。小さい頃は、さぞ可愛かっただろう顔立ちだ。

 

「おっと、名乗り忘れたな。私はアリエルだ。この国からは“翡翠魔弓”という二つ名を授かっている。ここの創設者だよ」

 

 おっと、その前に挨拶である。

 俺はエリーゼ先生のマナー教室で教えてもらった、対エルフ用挨拶の構えを取った。

 

「丁寧なご挨拶、痛み入ります。お初にお目にかかります」

 

 腰を引き、右手を前に、左手を後ろに。矢も短剣も抜けない無防備な姿勢を取る。

 相手の目を見ながら、けれど睨みつけないよう意識する。

 少し違うが、まるで任侠映画の極道の挨拶みたいなポーズである。

 

「アリエル様におかれましては聞きしに勝る技の冴え、誠に鮮やかでございました」

「ん……?」

 

 パターンBだ。目上の人に先に挨拶された場合は、名乗る前に相手を褒める。

 それから、自分の氏素性を伝えるのだ。

 

「縁持ちましてラリス王国は、王都アレクシスト、西区にて迷宮探索を生業としています。同じく西区に住まいを構えます。私、姓はイシグロ、名はリキタカでございます。身も心も粗忽者故、以後ざっくばらんにお頼み申します」

 

 最後に、膝を折って頭を下げる。これは格下が格上にやる動作だ。今回はこれでいい……はずだ。

 多分成功である。俺はエリーゼ先生の熱血指導の成果を発揮できたと思う。

 

「なっ、イシグロ……?」

 

 視線は下げたままなので、今相手がどんな反応をしてるのか分からない。

 

「……とりあえず、頭を上げてくれ」

 

 許しが出たので、目線を戻す。けど姿勢は変えない。これも許しが出ないと解除してはいけないのだ。

 

「姿勢も戻してくれ」

 

 許しが出たので、直立した。

 目の前には、柳眉を下げた美女エルフさんがいた。

 

「イシグロ・リキタカ殿か。すまないが、冒険者証を確認させてもらっても構わないか?」

「……あれ?」

 

 してると思っていたが、俺の首には銀細工がなかった。そういえば、トイレで外したっきり付けるのを忘れていたようだ。

 俺は慌ててアイテムボックスから銀細工を取り出すと、急いで首に通した。

 

「これは失礼しました」

「いや、まぁ構わないが……」

 

 それから、アリエルさんは感心半分呆れ半分といった声音で云った。

 

「イシグロ殿は、その……ずいぶんと森人文化に詳しいのだな」

 

 なんか、間違えた気がしてきた。

 

 

 

 

 

 

「そういやー、ご主人は止まり木協会ってのに行くんスよね? なんか失礼な事してなきゃいいッスけど」

「大丈夫よ。各種族の礼儀作法はみっちり教えたもの」

「はあ、でも古式なんスよね? 今でも使えるんスか?」

「むしろ、知らない方が無教養なのよ。貴女たちも覚えておきなさい……」

「つ、伝わらなければ意味がないような……」

 

 

 

 

 

 

「はい、こちらでございます」

 

 なんやかんやありつつ。

 

 あの後、創設者自ら客間に通され、俺はアリエルさんと面談する事になった。

 改めて挨拶し、ギルドのおじさんに書いてもらった紹介状を渡し、それから用件を言うと、アリエルさんは感謝を述べつつ寄付の理由を問うてきた。

 俺はそれに、「理念に共感したから、微力ながら援助したく思った」という類の事だけ答えた。実際、嘘は言っていない。マジだがガチではないだけだ。

 

「聖樹の陰の者として、貴殿に最上の感謝を」

 

 で、さっさとお金を寄付した。

 すると、一度立ち上がったアリエルさんが腰と膝を折って一礼をしてきた。ダクソの開戦礼みたいである。とても優雅だ。

 なんか、中にはこれされたいが為に寄付しまくる人とかいそうだな……。

 

「それでは、自分はこれで……」

「む、少し待ってほしい。今、協会の子供達が茶菓子を作ってくれているのだ」

 

 帰ろうとしたら、アリエルさんから引き止められてしまった。

 わざわざ作ってくれているというのであれば、待つしかない。俺はしばらくの間、美女エルフと対面でお話する羽目になった。

 

「なるほど、ヴィンスではそのような事が……」

「ええ、ほうれんそうの大切さが身に染みました」

「ほうれんそう? とは、何だろうか」

「あ、すみません。報告・連絡・相談の事で……」

 

 茶菓子が運ばれた後も、クッキーもどきを食べながらアレコレ話す。ちなみに、お菓子を持ってきたのは例のケモミミショタであった。ロリが良かった。

 

 それにしても……。

 椅子に座って、美女と話してる現状。

 これ、なんか……。

 

「なるほど、イシグロ殿は博識なのだな」

 

 なんか、キャバクラみたいである。

 リアルでキャバクラに行った事はないが、如くシリーズで知識はある。プレイしている最中思っていたが、アレの何が面白いのか俺にはさっぱり分からなかった。

 ……いや、キャバ嬢が全員ルクスリリアやグーラみたいなロリだったらハマッてたな、うん。今度そういう遊びをやってみよう。

 

「いえ、この国の事は目下勉強中でして、知らない事や驚かされる事ばかりです。極力失礼のないよう気を付けてはいるのですが……」

 

 キャバ嬢姿の三人を思い浮かべていると、一度振り払った心配性がぶり返してきた。

 今、三人はどうしているだろうか。絡まれてはいないか。危ない目には遭っていないか。誘拐などされてはいないか。

 格上の強者の前だというのに、俺は上の空になってしまっていた。危ない危ない……。

 

「む、そろそろ鐘が鳴る頃か。この後、イシグロ殿は如何に」

「お時間もお時間ですし、そろそろお暇しようかと存じます」

 

 上の空のまま会話をしていると、時刻はお昼になっていた。こっちにきて高精度になった腹時計も昼飯時だと言っている。

 雰囲気で昼食に誘われている気はしたが、俺は帰る事にした。

 

「先も言ったが、我が同盟はいつでも君を歓迎するぞ」

「考えておきます」

 

 お見送り際、そんな事を言われた。

 面談中、アリエルさんは自身が盟主を務める同盟に俺を勧誘してきたのだ。無論、断った。

 いざという時の協定的なものを意識しないではないが、王家と繋がりがあるっぽい止まり木同盟とは距離を置きたいんだよな。

 

 

 

 それから、やる事もないので俺は転移神殿の方へ歩いて行った。

 暇なので、途中適当なアクセサリーショップに行き、三人に似合いそうな角飾りと耳飾りを購入した。

 何の補助効果もない、本当にただの飾りだ。一応、売価の高い奴にしておいた。

 

 合流場所に着くも、三人はいなかった。当然だ、まだまだその時間じゃない。

 仕方ないので転移神殿に行き、バーで軽食を食べた。

 

「おっ、イシグロじゃねぇか」

 

 そこで、前のストーカー事件の時に少しだけ話した“猟斧”のリカルトさんに会った。

 彼は俺が許可を出す前に相席してくると、構わず酒を注文した。

 

「一党の方々はどうされたんですか?」

「ん? あぁ、一旦解散だな。ソルトは北区で新しい商売やってる。アルバートの奴はほとぼりが冷めるまで別んトコにいるってよ」

 

 そんな感じで話していると、リカルトさんは見かけた冒険者に片っ端からウザ絡みを始め、どんどんバーに人が集まってきた。

 

「あ、イシグロさん、どうもっす」

「どうも、ウィードさんもお変わりなく」

「こんにちは、イシグロさん。この時間にいるのは珍しいですね」

「どうもニーナさん、この前はお世話になりました」

 

 最中、顔見知りの冒険者とも会った。

 正直なところ一人でいたかった身としては、結構困る状況である。困るが、まぁ嫌ではない。

 騒がしいのは嫌いだが、賑やかなのは嫌いじゃない。

 

「リカルトさん、自分そろそろ」

「お? そうか。また呑もうぜ」

「はい」

 

 けど、ルクスリリア達がいない。

 どれだけ人がいても、寂しさはまぎれなかった。

 

 集合時間にはまだ早いが、俺は転移神殿前の広場に向かった。

 道中も、無意識に小さな影を目で追ってしまった。

 

「いやだから~、造りは現代ラリス式が一番いいッスよ~」

「いいえ、古代竜族式が一番よ。堅牢だし、それでいて豪奢なのよ。グーラもそっちのが良いわよね?」

「よ、よく分かりませんが、皆が納得するのが一番だと思います……」

 

 するとそこには、いつもの様に黒い装備をつけた三人娘の姿があった。

 彼女らは噴水の縁に並んで座り、あれこれと話していた。

 無事に再会できた。怪我もしていない。汚れてもいない。元気そうだ。

 

 三人を見た瞬間、さっきまで感じていた空虚な感覚がすっと消えていった。

 俺という奴は、もう本当にどうしようもない。

 

 足取り軽く、俺は彼女達の方へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 満月の夜。

 王都中央区、止まり木協会本部。

 併設された屋敷の一室で、一人の上森人が一冊の本を黙読していた。

 

 月明かりの下、開け放しの窓から、静かな夜風が過る。金糸の様な髪がサラリとなびく。翡翠の瞳が瞬くと、驚く程長いまつ毛が上下に揺れた。誰あろう、翡翠魔弓のアリエルである。

 瀟洒な木の椅子に座し、優雅に足を組んで文字の世界に没頭する様は、それだけで一枚の絵画の様だった。

 だが、その本の題名が全てを台無しにしていた。

 

 ――子供でも分かる森人のマナー。

 

 この女、自分の種族のマナー本を読んでいた。

 今日、20年生きてるかどうかという人間族にされた森人流の古式挨拶に上手く返せなかった事を、結構気にしているのである。

 

「ふぅ……」

 

 ぱたんと、本を閉じる。

 それから、持っていた本を元の位置に戻した。サイドテーブルには新旧の同ジャンルの書籍が積まれていた。

 当然だが、子供用の教養書にそんなものが載っている訳はなかった。古いものにはそれらしい記述があったが、イシグロがやっていたのは災厄前後で使われていたらしい最古式であった。

 

 そも、ラリス王国が台頭して以後、こういった礼儀礼節というのは大半がラリス式か、そこから派生したものに統一されているのである。王国の傲慢、というよりは合理性であった。

 今どき、種族ごとのアレコレで揉めるのなんてナンセンスだ。なら一つにまとめちゃったらお互い楽でいいよねという話である。

 

「イシグロ・リキタカ、か……」

 

 にも関わらず、彼は自分に対してあえて上森人の、且つ古式の挨拶をしてきた。何処で身に付けたというのか、知っていないとできない事だ。強者に対し、腕でなく礼を尽くすあたり、冒険者にしては血の気が少ない。

 迷宮狂い。黒剣、西区で一番やべーやつ。会って分かった事も多かったが、それと同じくらい謎が増えてしまった。

 

「話せない奴、という訳でもなかったな」

 

 それが分かっただけでも、まぁヨシとしよう。

 調査通りの情報もあれば、事前の情報と食い違うところもあった。いずれにせよ、確度は上がった。

 意図せず王子よりも先に接触してしまったが、結果だけ見ると僥倖である。

 

 まあ、いい。

 それは、それとしてだ……。

 

 あの男、自分に全く興味持ってなかったなと。

 アリエルは、ちょっとモニョってしまった。

 

 鏡を見る。ゾッとするほどの美人がそこに居た。

 アリエルは自他ともに認める超級の美女である。キルスティンの様な男好きする見てくれというよりも、芸術品とかそういう類の美しさがあるのだ。

 男でも女でも、アリエルを見ると大なり小なり注目してしまうものだ。そこに種族や身分は関係なかった。それが普通で、2000年間変わらぬ事実だった。

 

 だが、イシグロは違った。

 全く高揚していなかったし、全く意識していなかった。アリエルという“美女”に一切の関心がなかった。

 何より、アリエルを見るあの底なし沼の様な双眸は、何なのか。

 

 善意の寄付、これは事実なのだろう。当然として見返りを要求してくる事はなかったし、協会やアリエルと繋がりを持とうともしてこなかった。いやらしさも、卑しさも感じられなかった。下心もまた同様に。

 善意はあるが、好意はない。意思も希薄で、“その気”もない。とても近いような感じもしたが、根本的にズレている。

 

 まるで、俗人の器に英雄の力を注いだような、歪な男。

 そんな風に見えた。

 

「もう少し、近づいてみるか……」

 

 これまでは極力接近せずに調査を行ってきた。

 だが、向こうから接近してきたのだ。協会を通せば、違和感なく探る事ができるだろう。

 できれば、自分が行きたいところだが……。

 

「はあ……」

 

 明日以降の予定を思い出し、アリエルは重たいため息を吐いた。

 どこぞの直情的な獣人や、どこぞの享楽主義な魔人と違い、上森人は真面目な性格な者が多いのだ。それはアリエルも例外ではなかった。

 とても、責任感の強い女性なのだ。

 

 上森人のアリエル。約2000歳。

 その美しさは間違いなく森人一位。男女共に憧れる、美の権化であり美の基準。

 真面目でストイックで、強くて気高くて、厳しいけど優しくて、頭が良くて人望があって、料理が出来て裁縫も得意。上森人王の血を引いていて、おまけに凄い良い匂いがする。

 なのに、処女であった。

 

 1000歳を過ぎたあたりから、誰も言い寄ってこなくなったのである。ゲスい欲望をぶつけられたい訳でもないが、いざそういう目で見られないのは、それはそれでショックだった。

 少し自信を失いそうである。

 

「寝よう……」

 

 たまの休みに、協会に行って子供達と過ごす。

 それが唯一の癒やしであった。

 

 弱い生き物は、可愛い。

 

 この女、ロリコンでもショタコンでもないが、子供を庇護する事で自己実現をするタイプであった。

 なお、愚かな大人は平気で殺す模様。慈悲はない。




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 前と似たような終わり方したのは仕様です。
 便利ですね。
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