【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で頑張れています。
 誤字報告もマジ感謝です。本当に助かっています。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
 何度も書きますが、出て来る時はヌルッと、且つ原型留めてないです。ほぼ別キャラになる事をご了承ください。

 今回も三人称、別の国の冒険者視点。
 お約束です。


日本からきたあいつ!ちょっとヘン!!(中)

 名実ともに、世界の中心はラリス王国である。

 最も人口が多く、最も戦いが強く、最も歴史の長い国。

 それが、ラリス王国。人類生存圏の半分を守護する、人類の要である。

 

 しかし、ラリスはあくまで中心点。真ん中であっても全てではない。

 当然として、この世界にもラリス王国以外の国が存在するのである。

 

 獣人のみが住まう国、グウィネス部族連合。

 天使族の単一国家、聖輪郷。

 数多の魔族を束ねる国、ディング魔族国。

 

 その他、亜人で集まった国や、ディングから独立した淫魔王国など、大小様々沢山ある。

 多くは生殖可能な種族同士で集まるか、同一種族で固まって共同体を築くのだが、中には近似した種族でも馴染めないはぐれ者がいるものだ。

 

 リンジュ共和国。

 

 豊かな水源と、清廉な自然。上質な鋼と良質な木材が採れる多種族国家。

 種族の外れ者たちが集まって興した、辺境にして精強な国。

 ラリス王国に次ぐ、世界人口二位の国家である。

 

 所謂、東の国だ。

 

 

 

 ラリス王国北方。王都に続く街道の、とある森の中。 

 領地を繋ぐ森の街道、逞しい牛が豪奢な車を引いていた。

 

 移動の際、ラリス王国で広く用いられるのは馬車である。しかし、森往く車を引いているのは牛だった。車体自体もラリス式ではなく、より無骨で質実剛健といった雰囲気があった。

 加えて言うと、その牛車はビッグサイズが基本の異世界基準でもとても大きかった。中に何が入っているのか想像できないほどに。

 

「うぅ、なんか怖いなぁ~」

 

 そんな特大牛車を操っているのは、一人の森人御者であった。

 彼は御者歴100年になるベテランだ。けれども、その顔にはベテランらしからぬ不安の色があった。否、ベテランだからこそ怯えているのだ。

 

 右に木々、左に木々、しばらく行っても森森森……。

 こういう、見晴らしが悪く人気のない街道というのは盗賊や山賊が根城にしている事が多いのだと、彼は経験則で知っていた。

 ホントに、異世界の森は荒くれ者の襲撃率が高いのである。

 

「安心せい、誰が来ようとも拙者等が守るでござる」

 

 ぱかりと、牛車の木窓が開いて、乗っている者の顔の上半分が出てきた。

 目元でわかる、森人娘だ。その左目は血の様に赤く、右目には厳つい眼帯が付けられていた。

 故郷を同じくし、種族を同じくしている御者だ。戦人でもないが、彼女の強さは分かっている。が、そう軽い声色で言われると余計不安が増す心地であった。

 

「ほんと、頼んますよぉ。こういう時、まず牛か御者が狙われるんですから。前も膝に矢を受けてしまって……」

「そんなに不安なら拙者が代わってもよいでござるよ。なに、拙者はお馬の達者にござる。牛も馬も変わるまい」

「牛車ごと強化できるんなら任せますがね。それより、外出てくれませんか? 上乗ってもらっていいんで」

「安心せい、視えてるでござるよ」

 

 言うと、くすりと笑った眼帯森人は引っ込んでいった。

 ずいぶんな自信である。力が強いとああなれるのかね。

 とにかく、さっさとこの森を抜けちまおうと、森人御者は強化魔法に集中した。

 

 一方、牛車の中では……。

 

「確かに、今にも襲撃されそうな道でござるな」

 

 フルサイズバンよりも広い車内で、ござる口調の眼帯森人はそう言って席に座り直した。

 森人の例に漏れず、この娘も怜悧な印象の美人であった。濡れ鴉の様な黒髪に、真紅の左目。白く透き通った肌に、笹の葉の様な尖った耳。

 そして、彼女の首からは大樹が彫刻された金細工が下げられていた。

 

 金細工持ち冒険者、“幽眼”のシュロメ。

 本名をシュロメ・イワヌマ。リンジュの都に住まいを構える森人一族のご令嬢である。

 

「来るなら来てもいい。このままだと肩だけでなく尻まで凝りそうだ」

 

 そこに、凛とした女性の声が響いた。

 シュロメの隣、そこには褐色肌の牛鬼人の女性が腕組みして座席の上に胡坐をかいていた。その胸は豊満であった。

 また、彼女の豊満な胸の前には、二振りの刀が彫刻されたリンジュ式銀細工が下げられていた。

 

 銀細工持ち冒険者、“黒鉄”のイスラ。

 リンジュ共和国は首都を拠点とする冒険者であり、歩けば即武道のガチ武人であった。

 

「イスラちゃんは旅は初めてでござったな」

「うむ、生まれてこの方リンジュから出た事がない。荷物もお主に任せっきりであるし……いっそのこと徒歩か馬で走った方が速かったのではないか?」

 

 イスラと呼ばれた牛鬼女は、武人然とした顔に退屈そうな表情を浮かべていた。

 道中、街に着けば休養は取るが、かれこれ何日も牛車の旅をしているのである。最初の方は見るもの全てに心を躍らせていたが、異国であっても流石に景色オンリーは飽きてきた。

 

「ただの冒険者であれば、何の問題もなかったでござるな。しかし、拙者等の旅は一応国交も兼ねているでござる。馬一頭と気楽な旅とはいかぬでござる」

「そんなものか」

「そんなものでござる」

 

 生粋の武人であるイスラでも、彼女の言う事は分かる。要するに、面子の話だ。

 急いでいたら瀕していると思われる。要するに、舐められるのだ。確かに、それはよくない。リンジュ内だったら腕っぷしで黙らせればいいが、他国だとそうはいかないのだ。

 が、それはそれとして、退屈は退屈であった。そろそろ何か斬らないと全身が石になってしまいそうである。

 

「それに、ボッチちゃんを置いてけぼりにするのは惨いでござろう」

「まぁな」

 

 二人の視線は、対面の席にいる少女に注がれた。

 ボッチちゃんと呼ばれた彼女は、身体を丸くしてスヤスヤと眠っていた。いざ戦いとなれば頼もしいのに、寝顔はあどけない。

 事情があって、この娘は馬に乗れないのだ。それを言われたら黙るしかない。

 

「はぁ……シュロメ、たばこ出してくれ」

「窓開けて吸うでござるよ」

 

 分かったし、納得したし、承知した。けど暇だ。

 イスラは眼帯の森人にタバコを要求した。しょうがないにゃあといった表情になったシュロメは、アイテムボックスから出した煙管と煙草を手渡した。

 受け取ったイスラは慣れた手つきで煙草を丸め、魔法で着火して火皿に入れた。チューっと吸い口に吸い付く牛鬼美女を見て、シュロメは呆れ半分の声を出した。

 

「皆、よくそんなの吸えるでござるな」

「子供には分からぬさ」

「拙者、年上にござる」

 

 ふぅと、煙いひと息。ぷかぷかと煙が浮かび、開けた窓の外に消えていく。

 しばらくの間、平和な時間が流れた。聞いた事のない鳥の鳴き声。煙草に混じる緑の匂い。実に長閑な風景である。

 

 浮かぶ白煙をぼーっと眺めていると、首筋にヒヤリと嫌な汗。

 イスラは、慣れない森に違和感と、慣れた予感を覚えた。

 

「シュロメ」

「お主もか」

 

 同じ感覚を、シュロメも感じ取ったらしい。

 二人は立てかけてあった武器に手を伸ばした。

 

 シュロメは二振りの小太刀を。

 イスラは大振りな刀を。

 そして、二人は同時に扉を開け、飛び出した。

 

「おわ!? 何です!?」

「曲者が来るぞ。1、2、3……ほら来た!」

 

 イスラの勘通り、腕程もある太矢が御者目掛けて飛んできた。

 ギイン! 抜刀からの飛ぶ斬撃で迎撃。太矢は二分割されて明後日の方向に飛んでいった。

 

「ひ、ひぃ!? どうしましょう突っ込みますか!?」

「いや、止まるでござる。走ったら牛さんが射られてしまうでござるよ」

「はい!」

 

 シュロメの命令に従い、御者は牛車を止めた。ぶもーという牛の不満げな鳴き声が森に響く。

 すると、隠れる意味なしと見てか、前の茂みから複数の襲撃者が姿を現した。

 

「へっへっへっ! 金目のモン出しなー!」

「げっげっげっ! 男は殺せ! 女は犯せ!」

「かっかっかっ! 牛鬼女たまんねー!」

 

 ぞろぞろと、同じ顔同じ声同じ体躯、それから皆違う武器を持った男たちが牛車を囲んできた。

 彼らは各々の欲望を垂れ流しつつゲス笑いをしていた。

 

「俺の名はマジス!」

「ベーワ!」

「メンナ!」

「パーネ!」

「スゾー!」

「ヤノカ!」

 

 彼らの首には半壊した鋼鉄札。強者ならば目で見て分かる、並々ならぬ強者ばかり。要するに、位階詐欺だ。

 六人一党六兄弟、名乗りを上げて武器を構えた。

 

「我ら六人、個々の力は鋼鉄なれど、併せて当たれば金をも砕く!」

「さぁさぁさぁ! 命が惜しけりゃオベベを脱いで土下座しな!」

「田舎育ちの金銀など、怖くも何ともないんだよ!」

 

 バーンと外連味たっぷり決めポーズ。

 妙にキャラの濃い盗賊だった。

 

 どうやら、シュロメたちが乗っていた牛車が特大サイズだったので、中に多くの荷物が載っていると思って襲ってきたらしい。

 金細工に怯まない辺り、ホンモノなのか実績があるのか。あるいはガチの馬鹿なのか。

 

「ふん、退屈していたところだ。相手になってやろう!」

 

 イスラはやる気だ。シュロメとて、さっさと片付けようとは思う。が、牛さんの前だと思うと凄惨な殺戮は躊躇われた。

 相手はアホっぽいが実力は相当に見える。自分は守りに専念すべきか。イスラはどうせ飛び出るだろうし、鬼も囲めば棒で殺せる。できれば彼女の援護がほしいところだが……。

 

 そう、シュロメが思った。

 その時だ。

 

「えっ、な、なんですかなんですかぁ……?」

 

 牛車の中から、丸く間延びした声が聞こえてきた。寝ていた子が起きたのだ。

 注目の中、件の少女が牛車の外に出てきた。

 

「わっ、わっ……お、襲われてるんですか?」

 

 ニヤついていた盗賊団の表情が強張る。視線は上に、目と目を合わせてこんにちwar。

 少女らしい柔らかな声。少女らしいあどけない顔立ち。少女らしい健康的な身体つき。

 それから、お山の如き高い背丈。

 

「あ、ありゃ、何だぁ……?」

 

 グングンと、少女はさらに身長を伸ばしていった。さっきまでは背の高い男程度だったのが、今では大きく規格の外れた身長へ。

 この女、さっきまで魔力で背丈を小さくしていたのだ。適正身長、八尺ちょい! その気になればまだ伸びる!

 

「あ、あれは……まさか……!?」

「知っているのか兄ちゃん!」

 

 状況に気づいてか、少女も牛車の中から己の武器を取り出した。それはまるで、玩具箱からおもちゃを取り出す幼女の様。ただし出したのは鉄塊の如き大槌である。

 図体のせいで目立たないが、彼女の首には鋼鉄の札がかけられていた。

 

「だ、大羅山人(ダイダラボッチ)……!?」

 

 鋼鉄札冒険者、アシュリカ。

 通称、大羅山人(ダイダラボッチ)のボッチちゃんだ。

 生業は冒険者。夢は刀鍛冶。趣味はぬいぐるみの作成。

 ピッチピチの16歳である。

 

「巨人族か? 絶滅したはずじゃ!?」

「いや、位階は鋼鉄だ。大した事ねぇよ!」

 

 ボッチちゃんの威容に慄く盗賊たちだったが、すぐに息を吹き返した。

 なにせ、自分たちは六人、あっちは三人。一人につき二人で当たって、弱い順から殺れば問題ない。

 

「いた……!?」

 

 その時、ボッチちゃんの頭に太矢がヒット。が、矢の方が粉々になって砕け散った。

 不意打ちで射てみたヤノカは、「あれ?」みたいな顔になっていた。

 ヘッドショット、ノーダメージである。

 

「はっはぁ! 開戦って事でいいなぁ!?」

「ぬおっと!?」

 

 同時、正面から斬りかかってきた牛鬼の刀を、パーネの大剣が防いだ。

 すぐに他がフォローにあたり、そこにボッチも参戦した。場は一気に大乱戦になった。

 牛車サイド、戦っているのはイスラとボッチだ。シュロメは車の上で戦場を睥睨している。御者はシュロメの後ろで震えていた。

 

「ていうか、こいつがいたって事ぁ……荷物入ってねぇんじゃ?」

 

 そんな中、兄弟で最も勘のいい長男が気づいてしまった。

 牛車のデカさ的に、中には貴人か高級品が入ってると思っていた。だが、そう予想していたスペースにデカ女が入ってたという事は……。

 

 あの三人の中にアイテムボックス持ちがいるのでは?

 だとしたら、全くうまみが無いぞ?

 

「おいお前ら! 逃げろ!」

 

 だったら早い。儲からないなら逃げるが勝ちだ。頭目の号令に、兄弟は一斉に背を向けた。

 

「ヒィハァーッ!」

 

 追撃戦と見たか。逃げる男の背中に、イスラの刀が襲い掛かる。

 

「ぐえ!?」

「安心しろ! 峰打ちだ!」

 

 ぶっとい刀で首をトン。普通に死ねるが峰打ちじゃ死なないのが異世界だ。

 思うところがあり、イスラは盗賊を殺さない事に決めた。

 

「えーっと、どうしましょう?」

「イスラちゃんに任せるでござるよ。退屈しておった故な」

「はあ」

 

 やる気のない二人に、イスラは振り向いて言い放った。

 

「盗賊狩りは誉れだぞ! ラリスの覚えもめでたいかもな!」

「むむっ、確かにそれもそうでござるなぁ」

「え? 戦うんですか?」

「左様。ボッチちゃんは牛さんを守ってやってほしいでござる。では、参る」

 

 スタッと、眼帯の森人は瞬きの間に風になった。

 残されたのは、牛車よりも大きいボッチちゃんと、牛車の屋根に乗った御者と牛。

 

「あの、牛だけじゃなくて俺も守ってくれると嬉しいんですが……」

 

 残された御者の言葉は、牛しか聞いていなかった。牛はぶもーと退屈そうに鳴いた。

 

 

 

「はぁ、はぁ……! くそ! 貴族か商人かと思ったが、とんだハズレだったぜ!」

 

 事前に決めて置いた逃走ルートを走りながら、盗賊の頭領は毒づいた。

 恐らく、一人二人は死んでるだろう。集まれば強いが個々は弱いのが自分たちだ。戦って分かったが、一人殺る前に眼帯が入ってきただろう。銀なら殺れるが、堅い大女は無理だった。

 

「はぁ、ふぅ……俺が最初か」

 

 そうして集合場所に辿りつくと、一息ついた。

 周囲に兄弟の気配はない。争った形跡も、つけられている感覚もしない。

 しばらく待って、生き残った奴だけでまた逃走だ。次はどこに行こうかと、長男は長男らしく皆の未来を考えた。

 

「いや、お主が最後でござる」

 

 背後に声。振り返ると、目の前に森人の女がいた。

 さっきまであった眼帯がない。隠れていた右目は、星空を切り取ったかの様な光を湛えていた。魔眼だ。しかも、かなり高位の。

 

「いくらバラけて動いても、拙者には視えているでござるよ。幼少の時分、この目にはたいそう悩まされたが、お陰で拙者は――」

「死ねぇ!」

「おっと」

 

 言葉の途中で斬りかかると、森人は左右の小太刀でガードした。

 じりじりと、力と技の鍔競り合い。受け流しができないよう、緻密な体重移動で釘付けにする。本来ならば、必勝パターンだ。

 長男のマジスは、これだけがめちゃくちゃ上手いのだ。だからこそ銀も金も狩れたのである。

 

「むむっ、お主意外と強いのでござるな」

「言ったろ! 集まれば金細工も殺せる!」

「左様か。では、拙者も本気を出すでござるよ」

 

 手も足も塞いだ。今の状態で出来る事などないはずだ。

 頭領のマジスは更に力を籠めた。

 

「忍法……!」

 

 シュロメの頬が膨らむ。何か嫌な予感がして、頭領は集中して刮目した。

 火吹きか、矢吐きか、はたまたブラフか。戦士ではなく曲芸師なら、絡め手の一つや二つ持ってるはずだ。

 

森人豆油霧(エルフまめ・スプラッシュ)!」

「グワーッ!」

 

 ブーッ! と、シュロメの口から黒々とした液体が噴射された。

 避けるに避けれなかったマジスの目に、僅かに飛沫が入ってしまった。片目は守れたが、入った右目が超痛い。痛みは気合で何とかなるが、こういう痛みは慣れていない。

 

「隙あり!」

「ぎゃっ!」

 

 そこにシュロメの攻撃。首の後ろに小太刀の峰をトンとやって、長男マジスを気絶させた。

 ちなみに、今のは忍法ではない。ポーション早飲みスキルを応用した、ただの毒霧攻撃だ。もっと言うと、噴射したのは毒ではない。

 

「ふむ、やってみたはいいものの、普通に他の道具でやった方がいいでござるな。実に勿体ない……」

 

 言いつつ、先んじて倒しておいた盗賊の残りを引きずり、牛車の下へと戻っていく。

 謎液体濡れのマジス。事前に倒されてたベーワの顔には茶色いペースト状のものがこびりついていた。

 

 もし、この場にイシグロがいれば、それら付着物の正体に気づいたかもしれない。

 嗅ぎ慣れた、けれども当たり前過ぎて意識できない匂いのソレ。

 それは、醤油と味噌であった。

 

「さて、先に進むでござるよ」

「しかしな、こいつらをどう運ぶ?」

「わ、私が引きずります……」

 

 そうして、三人は北区へ向かって行った。

 各々の目的の為に。

 

 ボッチちゃんは刀鍛冶になって、ラリス王家に刀ブームを起こす為。

 イスラは止まり木協会に入り、いつか故郷に支部を築く為。

 シュロメは、自身が開発した醤油と味噌を布教する為。

 

 いざ、王都へ。

 

 

 

 

 

 

 王都北区。

 西区が新宿だとしたら、世田谷区といった感じのところ。

 人で賑わう門周辺の商業エリアに、リンジュの三人の姿があった。

 

「う~ん、王都って感じでござるなぁ~」

「これはまた、うちの都とはまた違う雰囲気だ」

「なな、なんか怖いです……」

 

 例の襲撃の後、最寄りの街で盗賊を引き渡し、軽く休憩などして丸二日。やってきましたラリス王家のお膝元。

 一応大国の都育ちの三人娘ではあったが、世界の中心の都には圧倒されてしまった。

 人の多さもそうだが、雰囲気が違う。勢いがあり、活気があり、不可視のエネルギーが四方八方に飛び散っているかの様である。

 

「ふむふむ、実に華やかでござるな~。前と全然変わってないでござる」

 

 煌びやかな建物の造りやお洒落で派手な人の往来。店で売られてる商品。通りを歩く馬車やら鳥車やら、あっちこっちで動く商人と奴隷。

 故郷の都こそ至高だと今でも思うが、それでもこっちにはこっちの良さがある。シュロメは初めてではないが、残る二人は初王都だ。

 

「さて、まずは迷宮ギルドに挨拶でござるな。呆けてないで行くでござるよ、二人とも」

「うむ」

「あ、はい……」

 

 そんな感じで、三人は揃って北区の転移神殿に向かった。

 勝手知ったるラリスの都といった風に、シュロメはすいすい歩いていく。その後ろを歩くイスラは気になったものがあると立ち止まってしまい、ボッチはどちらにつけばいいか分からなくなり、遠くなるとシュロメが戻って連れて行く。

 そんな事を何度も繰り返していると、歩いてるだけで日が暮れそうだった。

 

「お主等、童でもあるまいにキョロキョロするんじゃあないでござるよ」

「ははっ、すまぬすまぬ。ほら、旅の間は暇だったろう? その反動だ」

「わ、私ってばそんなに目立ってないですね……。さ、さすが王都……」

「まぁ、ボッチちゃんくらい大きい人も、たまにいるでござるからなぁ」

 

 西区もそうだが、北区も少し歩けば雰囲気が変わる。

 外壁付近は商業エリアで職人や商人や奴隷や客やで騒がしく、真ん中に行くとキラキラした繁華街になり、神殿の近くは高級嗜好のエリアになる。

 ころころ変わる王都の表情を眺めつつ、身長2メートル半あるボッチちゃんでも悠々通れる門を潜って、三人は王都の転移神殿に入っていった。

 

「ほう……!」

「天井が遠いですね……」

 

 そこもまた、故郷のソレとは趣が違った。

 リンジュの神殿は木材メインの構造なのに対し、王都の神殿は床以外基本石造りだ。ギルド主導の店舗も雰囲気が違い、あっちにあってこっちにない店や、こっちにあってあっちにない店など色々と違っていた。

 

「はあ、やっぱり刀は売っていないのだな」

 

 何より違うのが、ギルド併設の武器屋で売られてる武器種だ。

 チラと見た武器屋では剣やハンマーといった武器がメインであり、そこに刀は一振りもなかったのである。

 

「不思議でござるよなぁ、我らからすると」

「であるな」

「み、み、認めてもらえるよう頑張りましょう……!」

 

 お上りさん全開で歩きつつ、ギルド受付へ向かう。

 それから一番空いているところに行き、故郷のギルドから出された紹介状を提出。それからカード型の冒険者証を提示した。

 

「リンジュから参った一党にござる。よろしく頼むでござる」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 番号札を渡され、言われた通り待っていると、周囲の話し声がエルフ耳に入ってきた。

 やれどこそこの商会が潰れかけてるとか、どこそこの犯罪者が捕まったとか、ついさっきめっちゃエロい淫魔見かけたとか。

 例によってお下品な話題が多かったが、そこは故郷と変わりがなくてシュロメはつい笑ってしまった。

 

「よう、どうだった?」

「いや~、テンで駄目だったぜ。もうボッコボコのズッタズタ。一人も倒せなかったわ」

「マジかよ。で、報酬は?」

「もらえたよ。こんくらい」

「ひえ~、今度俺も行ってみっかな~。イシグロ道場」

 

 なんと無しに耳を傾けていると、気になるワードが聞こえてきた。

 道場、道場とな?

 

「失礼、イシグロ道場とは何でござるか? どんな流派でござるか? どこにあるでござるか?」

「あー、それはですね。冒険者たちの造語です。実際はそんな施設はありませんよ」

「ん?」

 

 照会が終わったところで受付に訊いてみると、よくわからない返答がきた。

 道場というと、剣術なり槍術なりの戦闘術を教えてくれるところではないのか。少なくともリンジュではそうだ。

 シュロメの顔を見て、受付はしっかり教えてあげる事にした。

 

「何か、西区の銀細工持ち冒険者が訓練相手を募集してるらしくて、それの報酬がかなりのものなんですよ。それで、力試しに挑む冒険者が増えてるみたいです」

「なるほど! 西区にはそのような催しがあるのでござるか!」

「いえ、催しという訳では……」

 

 話しつつ、トントンと書類をまとめ、職員はそれをシュロメに手渡した。

 

「どうぞ。王都を出る際は最寄りのギルドにお声かけください」

「うむ」

 

 シュロメは書類をアイテムボックスにしまうと、皆を呼び寄せた。

 

「ところで、皆さんは何処に向かわれるのですか?」

「ふむ、そうでござるな」

 

 職員の問いに、しばらく思案して、シュロメは口を開いた。

 

「ちょうどいい、西区で宿を探すでござる。あそこにはアダムス殿のお店もあるでござるからな」

 

 森人(エルフ)と牛鬼と大羅山人(ダイダラボッチ)

 異国の冒険者は西区へと向かう事になった。

 

 味噌と醤油と、刀を持って。




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