【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もマジ感謝です。本当の本当に感謝しています。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
シンプル嬉しいです。原型はなくなります。
今回も三人称、リンジュ冒険者視点。
よろしくお願いします。
後書き読んでくれると嬉しいです。
鋭い刃は、鍛冶師だけでは作れない。
それは刀鍛冶の本場であるリンジュ共和国でもそうだし、世界の中心であるラリス王国でもそうだ。
迷宮でも通用するような強い武器は、それぞれの専門家たちが集まって作る。
剣一つ作るにも、鉄を打つ鍛冶師に、補助効果を付与する魔工師、魔法を装填したいなら専門の魔術師の助けもいる。研ぎ専門の研師に、品質に見合った鞘が欲しいなら鞘職人。その他にも本当に沢山の人が関わるのだ。
自然、多くの人が関わる武器作成には、プロジェクト全体をマネージメントしてくれる人が必要不可欠である。
それが、工匠だ。
注文を聞き、交渉して、設計をして、人材を集め、作業を管理し、完成したものを客に渡す。
これが大まかな工匠の仕事である。
武器の設計には膨大な知識と経験が必要である。
使用する素材を選定する為の知識。籠める魔法体系の知識。現場での経験も必要だし、目利きの良さも大切だ。
その上で、何度も経験して、実績を残し。王から授かる国家資格が工匠なのである。
ただし、工匠といっても一人一人に得手不得手があり、ピンからキリまで存在するものだ。
武具の技術は日進月歩。努力して工匠になれたからといって、怠けてるような奴はすぐに時代に置いて行かれる。
本当に優秀な工匠には、常に前のめりな姿勢と、勉強を継続する情熱が必要なのだ。
工匠は皆、天才なのである。
馬鹿と天才は紙一重。ある意味、冒険者と似た感じで、工匠にも一癖二癖あるものだ。
腕がいい分、拘りが強いというべきか。
そんな中、ラリス王国には一等腕の良い武器工匠がいた。
その者に認められたら超一流を名乗っていいというレベルの、界隈では伝説の男。
名を、武器工匠のアダムス。ドワーフみたいな性格の、歴としたエルフである。
武器工匠のアダムス。古今東西の知識と、膨大な経験を持つ、本物の中の本物。
しかし、彼はこと仕事となると物凄く頑固な性質でお馴染みであり、気に入った相手じゃないと一緒に仕事をしてくれないし、果ては客まで選ぶのだ。
金持っただけの奴が「武器作ってくださーい」と言っても、「帰れ」と言われるのがオチという、もはや古典レベルの職人気質ドワーフみたいなエルフなのである。
武器工匠は、良い武器には必要不可欠。鍛冶師と工匠は切っても切れない縁がある。
アダムス氏に認められるという事は、職人としては最高の誉れなのである。
例え、ボロカスに言われようと、職人たるもの一度はモノ持って挨拶に行くべき相手。
つまり、そういう事である。
「ふぅ~む」
王都西区、転移神殿エリア。
閑静な区画の端っこにある小さくて狭い店の中、武器工匠のアダムスは抜き身の刀を見分していた。
切先の出来、身幅に刃文。角度を変え、重さを確認し、時折唸りながら隅から隅まで検める。
刀を矯めつ眇めつするアダムスの眼差しに常の軽薄さはなく、それこそ抜き身の刃の様だった。
今のアダムスにちょっかいかけでもしたら、間違いなく持ってる刀で斬られると確信できる程、
受付机で見分を続けるアダムスの前には、大きな身体を小さくして座す少女の姿があった。
一緒に王都入りした二人は、現在別行動中である。単独行動中のボッチちゃんは、戦々恐々と見分が終わるのを待っていた。
ドワルフの鑑定が終わるまで、少し昔の話をしよう。
ボッチちゃんことアシュリカは、リンジュにある田舎生まれの大羅山人だった。
生後一年で平均身長2メートルになるという大羅山人だ。成人も早いし、種族柄物理にはとことん強い。皆、戦士向きな種族だが、戦いを好まない温厚な性格の種族である。肉体は強いが、戦いが下手なのだ。
穏やかな人に囲まれ、静かな村で過ごし、ボッチちゃんは健やかに育った。いつか、強くて優しい人のお嫁さんになりたいなぁとぼんやり考えてたりもした。
そんなある日、ボッチちゃんの村が自然発生した魔物に襲われてしまった。
大抵の魔物ならワンパンできる大羅山人だが、不幸にも相手は物理無効の
そして、あわや全滅かというところに、通りすがりの旅人が現れた。義を見てせざるは勇なきなり、リンジュの国是に忠実な旅人は単騎、魔物に向かって行った。
その時、ボッチちゃんは運命と出会った。
旅人の振るう刀は、あまりにも美しかった。
青白い魔の燐光を纏い、弧を描く線は流麗にして苛烈。ひと振りで強大な魔物を切り倒す様。疾風迅雷の体裁き。
トゥンクときた。旅人でなく、刀に。以降、アシュリカは刀の魅力に惹かれていった。
それから、紆余曲折あって都に行ったボッチちゃんは、刀鍛冶になるべく奔走した。
冒険者になったのも、弟子入りに必要な支度金を集める為だった。そこで大成しちゃったあたり、何とも言えないが。
迷宮探索で手に入れた金で素材を買い、師匠の指導の下で鍛冶の練習をする日々。
迷宮でも鍛刀場でも一心不乱に槌を振るった。赤熱した鉄を打つ度、ボッチちゃんの心は強く跳ねた。要するに、熱中した。鍛冶の師匠から「流石にちょっと休めば?」と言われるくらいに。
指導は厳しく、辛い事も沢山あったが、濃密な経験の果て、アシュリカは弟子入りから僅か十年で免許皆伝を受けた。
リンジュにおいて、刀は重要な代物である。
折れず、曲がらず、よく斬れる。単なる斬撃武器に留まらない、神聖な武器。刀は国家の象徴になり、リンジュの戦人の魂であった。
そんな代物だからこそ、刀鍛冶は数多ある業種の中でも特別な立ち位置にある。
当然、その基準は厳格だ。他所で良品とされる刀でも、本場リンジュでは鉄クズ扱いされたりもする。
だからこそ、出来上がった刀は美しいのだ。少なくとも、ボッチちゃんはそう思う。
「……お嬢ちゃん、これ作れるようになったの、どんくらいかかった?」
「あ、はい……! えっと、10年です」
「するってーと、六つの頃に弟子入りか……」
「はい」
閑話休題。白鞘の小刀を眺めながら、アダムスは声色低く口を開いた。
いきなりの事に動揺してしまったが、ボッチちゃんはしっかり返事ができた。えらい。
「師匠はなんて?」
「はい。どこに出しても恥ずかしくないと言って頂きました」
「ふぅ~ん」
アシュリカが持ってきた刀は、一振りだけではない。見てもらったのはアシュリカ作の中でも上等品ばかりだ。
刀とセットで運用される事の多い脇差や、騎馬に適した太刀。柄の長い長巻に、反りのない忍者刀。それから、免許皆伝の際に打った、
それら全てを吟味したアダムスは、見分した刀を丁寧に鞘に戻した後、何も言わず瞑目してしまった。
「あの……」
そのまま三分ほど黙ってしまったアダムスに、ボッチちゃんは恐る恐る声をかけた。
すると、アダムスは今さっき朝起きたみたいにハッとなって元の「映画の中盤で死にそうな商人キャラ」みたいな表情になった。
「へへっ、すまねぇな。年取った森人は考え事が長くなっていけねぇ。ああはなりたくねぇと思ってたが、いざ自分がなっちまうと、まぁ……」
言いながら、ドワルフモードのアダムスはにっこり笑って刀を返してきた。
「良いぜ。インヴァんトコに紹介状書いてやるよ」
「ほっ……」
その言葉を聞くと、我知らずボッチちゃんは安堵の息を漏らした。
一流の工匠に認められた充足感と、自分の決断が一歩進んだ成功体験を感じたのだ。
「ついでにストゥアの石商人にも書いてやるよ。玉鋼も陽緋色金もこっちじゃ採れねぇからな。言っとくが、ラリスで買うとめっちゃ高ぇぞ。鉄の持ち合わせはあんのかい?」
「あ、ありがとうございます! えと、旅の前に全財産叩いて買っちゃって、今は同行してきた人の収納魔法に入ってます。た、たくさん……!」
「そいつぁ重畳」
緊張の時間はおしまい。それから、二人は和やかな会話を始めた。仕事をするなら、仲が良いに越したことはない。
上と下、ベテランと駆け出し。立場はあれど同じ武器好きだ。話が合うというものである。
「ええ。現代の鍛冶でも、どういう訳だか、特定の素材を使わないとただの劣化曲剣になってしまって……」
「だよな。前に来た奴は代用になる素材探してたぜ。そっちの研究は進んでねぇのかい?」
「は、はい……。上の人も色々試してはみている様ですけれど、比率が下がるとその分実用性が落ちていく始末で……」
やっぱりというか何というか、二人の会話は刀が中心だった。
アダムスは超一流の工匠だが、それでも得意不得意はある。刀の造詣は深いが、それでもリンジュの専門家には劣る。けれど負けるつもりはないので、真新しい情報には貪欲になるというものだ。
「森人製法はどうだい? 上手くいきそうな感じはあったけどよ」
「はい。それはリンジュでも実用化されています。ですが、製作費の方に問題があるんです。なにせ素材が……」
森人と大羅山人、年齢も何も違うが、同じ話題で盛り上がる。
それはさながら、世代も好みも違うのにガンダムシリーズの会話で盛り上がるオタクの様だった。
両者、好きな事になるとねっとり暑苦しくなっていた。
「あっしも前に陽緋色金で色々やってみたんだがよ、どうにも上手くいかなかったんだよな。やっぱリンジュ式じゃないとダメなのかねぇって」
「そこはリンジュでも諦めてしまっている状態です。これはもう、そういうものなのだろうと。今は合金の方に注力していて……」
突然だが、この世界の刀事情についてお話しよう。
結論から言うと、この世界の「刀」は強い。けど、マイナーだ。
何故か? 色々あるが、一言でいうと素人向けじゃないからだ。
地球も異世界も、新規に厳しい業界は廃れていくものである。
先述の通り、刀は強い。
曲剣よりも切れ味が良く、刺剣よりも貫通力がある。基礎攻撃力も高く、技量補正もピカイチだ。達人が使えば、斬れぬものなどあんまり無い。
今日日、脆さに関しては補助効果で何とでもできるし、使いにくさも練習すれば何とかなる。
けど、マイナーだ。とかく、刀は作り難いし使い難い。そうなると財布も腕もすっからかんな初心者は他武器を買い、使い、慣れる。メイン武器が決まると特化しがちなのが異世界人だ。長じた後にわざわざ刀は使わない。
使用者が少ないと発展しないのは道理である。いくら良い刀を打ったところで、使い手がいないんじゃあ始まらない。
本場であるリンジュなら、安価で良質な刀が買えるから使用者が多いものの、遠いラリスじゃそうはいかない。
高級指向で上位冒険者に売るといっても、ベテランほど慣れない武器に命は預けないものだ。
せいぜい、好事家に売れる程度で、飾り扱いだ。それじゃ刀が可哀想だ。少なくとも武器馬鹿二人はそう思う。刀は魔物を斬ってこそだろう。
結果、ラリスで刀は流行らない。
不遇な強武器、それがこの世界での刀である。
閑話休題。
「そういやぁ、奴さんが欲しがってたな……」
話の途中、アダムスは顎を撫でて呟いた。
気に入っている客の事だ。世間話で、店に無かったと嘆いていたなと。何故欲しがってたかは知らないが……。
「奴さん、ですか?」
「ん? あぁ、うちのお得意さんがね。前に刀欲しいって言ってたんだよなぁ」
ドワルフが言っているのは、皆さんご存じ迷宮狂い氏の事である。
イシグロが初めてのオダメ剣を購入した後の事だった。鬼滅ブレードを夢見て来店してきた迷宮狂いに対し、注文を聞いたドワルフは「うちじゃ扱えない」と突っぱねたのである。
イシグロはしょんぼりしていた。そんなに欲しかったのかと、ドワルフはちょっと悪い気持ちになった。だが、心情は曲げられない。扱えないんだから扱えない。
ドワルフの「扱えない」という言葉。実際そうだが、これは半分嘘だ。
かなり高額の注文になるが、刀鍛冶自体はラリスにもいる。頼めば作ってもらえるし、向こうも喜ぶ事だろう。
しかし、このアダムスのお眼鏡に適う刀鍛冶はいないのだ。だからお得意さんに無理と言った訳で。モノホンにはモノホンの刀を持たせるべきなのだ。
「そ、そうなんですか……!」
「ああ。流石に客の情報流すなんざできねぇが、今度来た時に教えてやるよ」
言って、一拍置いたドワルフは、ティーンの女子を狙い撃ちするようなイケメンスマイルを浮かべてみせた。
「優秀な刀鍛冶が来たってな」
キラーン! と星が飛びそうな笑顔。
ボッチちゃんはトゥンクと……来なかった。
「よ、よ、よろしくお願いします……!」
テンパっていたので。
〇
一方その頃、同じく西区の止まり木協会に行った、牛鬼女侍のイスラは……。
「お控え下すって、誠に有難う御座います。手前、鈴の樹の陰の者、名はイスラと発します。この度は、“翡翠魔弓”のアリエル様にご挨拶叶います事、光栄に存じます。礼儀にも作法にも欠けた手前に御座いますが、どうかお見知りおき下さい」
「よろしい。異邦の枝、招き入れる。以後、万事よろしく頼む」
「有難う御座います。どうか、お手を上げてください」
「いや、其方から上げられよ」
「滅相もございません」
「ならば共に」
「痛み入ります」
止まり木協会、西区支部の一室で、牛鬼美女と上森人の美女が中腰になって掌を上にした構えを取り合っていた。
古式の森人流挨拶が終わると、二人は同時に謎ポーズを解いた。
「うむ、座るといい」
「失礼します」
それから、二人は向かい合ってソファに座った。
ラリス式の正装をしたイスラの前には、森色のドレスを身に纏ったアリエルの姿があった。
リンジュの武人らしくビシッと座すイスラに対し、アリエルはエレガント且つ隙のない座り方をしていた。
「改めまして、本日は急な訪問に応えて頂き、ありがとうございます」
「構わぬさ。こういう時はさっさと動くようにしている」
本日、イスラは西区にとった宿最寄りの協会支部に行き、寄付がてらアリエル女史のアポを取りに来たのだ。
が、ちょうどその時アリエルがいたので早速ご対面となった訳である。流石金細工、フットワークが軽いと感心したものだ。
そこで、イスラは上森人流の古式挨拶――シュロメに教えてもらったのだ――をしたのである。
対するアリエルも流石の上森人ぶりで、恐ろしいほど美しい返礼をしてくれた。まるで毎日練習してるみたいに完璧だった。
「して、用向きは何かな?」
「はい」
そう問うてくる森人に、イスラは武人らしく実直に答えた。
旅の理由。自分も協会に寄付をしたい事。また、自分を同盟に加えてほしい事。
そして……。
「リンジュにも支部を、か」
「はい。リンジュは国の規模の割に治安は良い方ですが、それでも親無しの子は依然として多く……」
イスラの故郷、リンジュ共和国への止まり木協会支部の設置であった。
イスラはアリエルと似た性癖の持ち主である。可哀想な子を見ると救いたくなって仕方がないのだ。
現状をどうにかしたい。しかしイスラは根っから武人。刀を振るしか能がない。そこで、結局最も多くの子供を救える手段は止まり木協会の設置であると確信したのである。
「ふむ……」
彼女の話を聞いて、アリエルは顎に手を添えて思案した。
止まり木協会も歴史の長い組織だ。当然、王都以外にも支部を持っていた時期がある。
しかし、それらは全て失敗したのだ。
第一に、アリエルの手が届く範囲外で、孤児が犯罪に巻き込まれた。
第二に、職員が腐敗し、犯罪組織と繋がってしまった。
第三に、土地の所有者の面子の問題もある。支部の設置は、責任者や似たような事をやってる人にも喧嘩を売る行為なのだ。ゴタゴタして仕方がなかった。
故に、アリエルは王都でのみ止まり木協会を運営している。
他所で半端にやるより、王都で万全にやる方が良いと思い至っての事だ。
「独断ではあるまいね?」
「はい、こちらに……」
言って、イスラは懐からリンジュ式の巻物を取り出した。
イスラが手渡した巻物――リンジュで作られる紙はラリスのものより品質が高い――には、リンジュの有力者たちの署名や、近似組織との兼ね合いについてや運営の詳細が書かれていた。リンジュのトップの名も。
読んでいくと、それらは中々よく出来ていると思えた。
「後日、同じものを持った使者が王都に入る予定です」
「ふむ」
悪い話じゃない。体制がしっかりしているというならば、いいと思える。本当にこの通りなら、同じ轍を踏むのは考え難い。
要するに、リンジュ側はアリエル印が欲しいのだ。アリエルの名は大きい。例え異邦の森人でも、彼女の名を出せば無碍には出来ない。
「それで、君は同盟に入って何が欲しいのかな?」
まあ、それは分かった。自分の判断だけではどうにもできない。しっかり確認し、多くの同胞と話し合ってから決めるべきだろう。
とりあえず、もう一つの希望について尋ねる事にした。同盟の参加についてだ。
ただ支部を設置するだけなら、彼女が同盟に参加する必要はないはずだ。奉公というのなら、それは別の話になってくる。
「経験です」
「ほう」
淀みの無い即答に、アリエルは感心した声を出した。
下手に口数が多いより、そうハッキリ言われた方が分かりやすくて良い。
「協会での経験を、故郷で活かそうと考えています。無論、道程を疎かにするつもりはございません」
実直で、分かりやすい返しだった。
そこにはアリエル個人の信頼を得るという目的もあるのだろうが、そうでなくても後に繋げるのだという強い意思が感じられた。
アリエル的に、そういう姿勢は大いにアリだ。
「よろしい。実力を見せてもらった後、同盟への参加を認めよう。当然、やれるのだろう?」
「ありがとうございます。先達に恥じぬ技を披露させて頂きます」
「ふふっ、頼もしい」
アリエルはこの牛鬼族の女を気に入った。
彼女は良くも悪くも裏表がない。やると言ったらやるし、やらないと言ったらやらない。そういう女だ。
ならば、名を預けてもいいかと思える。
それから、二人は他愛もない話をした。
実力だけでなく、会話からも彼女を見る必要があるのだ。
気づいてはいるのだろうが、イスラは武人らしく真っすぐとモノを言った。
「ところで、初めての王都はどう思う? ああ、気遣わなくていい」
「そうですね……」
イスラの故郷であるリンジュ共和国と、アリエルが住んでいるラリス王国では本当に違うところが多い。
衣食住に水に火に木に色々だ。異世界らしくリンジュも人の血の気は多いのだが、ラリスはそれに輪をかけて多い。戦士がそうなのは同じだが、こっちは一般人までそうなのだ。
故郷を一番だと思うのは自然な流れだ。その上で、イスラは王都に対して思った事や驚いた事、気づいた事などを隠さずに話した。
「あと気になったのは、イシグロ道場でしょうか」
「ぶっ……」
アリエルさん、飲んでるお茶を僅かに吹いてしまった。口元は隠していたし、表情も変えてない。大丈夫、気づかれていない。
「その、イシグロ道場とは?」
何事もなかったように、澄まし顔のアリエルは先を促した。
「何やら、西区のイシグロ某という冒険者が対人訓練の相手を募集しているとの事で。勝ち負けに関わらず、戦えば報酬が手に入るとか。王都の銀細工が如何程か、一度この目で見て見たいと思いました」
「ふむ、なるほど……」
お茶を置き、アリエルは暫し思案した。
イシグロが対人訓練をしているというのは知っていた。それが道場と呼ばれているのには驚いたが、まぁそれはいい。
……上手くやれば、測れるかもしれない。
「よし、さっそく君の力を見せてもらおう」
「それはっ、何と光栄な!」
アリエルは、森人らしからぬ果断さで彼女の試験を執り行う事にした。
応じるイスラも、茶菓子を食べて元気いっぱいに笑んでいた。
「せっかくだ。今回は特別に、私が相手をしようか」
森人の気は長いが、他はそうでない。決めたならば、すぐやるべきだ。
アリエルの宣言に、イスラの笑みが深くなった。
そうでなくては。
〇
それからまたまた別の場所。
王都西区の噴水広場。屋台が集まる一角に、見慣れない黒髪森人の姿があった。
「よし、よし、よし……!」
濡れ鴉の如き黒髪。白磁めいて白い肌。彼女はアイテムボックスから取り出した屋台を組み上げて、外に出した道具をひとつひとつ指差し確認をしていた。
タレよし、魔道具よし、のれんよし。許可証よし、場所よし、問題なし。
あとは、上手く焼くだけだ。
「さて、はじめるでござるよ……!」
それから、“幽眼”のシュロメは、ねじり鉢巻きを装備し、気合を入れた。
屋台の暖簾には、「焼き団子」と書かれていた。ついでに屋台にかけられた旗には「本場」「実際美味い」「新感覚の味!」と流麗な
まず、故郷で普及している串焼き用魔道具を起動し、炭に着火して風を送る。
網が温まったら、用意していた串団子を乗せる。それから、並んだ団子に刷毛でシュロメの開発した黒い液体をぬ~りぬり。焦げかけの香ばしい匂いが広場に漂いはじめた。
嗅ぎ慣れない香り。けど、嫌いじゃない。ていうか美味しそう。食欲をそそる。
匂いに釣られて、王都の民が見慣れない屋台を見た。
「さぁさ! 本日開店リンジュ式焼き団子! お昼にお菓子にもってこい! 新開発のタレは森人絶賛の美味しさでござるよ!」
注目の中、黒髪の森人は愛嬌たっぷりのスマイルを放射した。
その手には、醤油タレの付いた焼き団子。修行の成果を見せる時だ。
金細工持ち冒険者、“幽眼”のシュロメ。
故郷にて、最強の忍者の名を欲しいままにする彼女は、今。
「はい三本お買い上げ! ありがとうでござる!」
屋台で団子を売っていた。
味噌と醤油を布教する為に。
基本、金細工は怖がられないのである。
感想投げてくれると喜びます。
はい、新しい企画やります。
とはいっても、前と同じようなもんです。
今回応募するのは、「リンジュ共和国」の冒険者です。
なんか和っぽい感じです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=299548&uid=59551
よろしくお願いします。
Q.結局、今回の話は何だったんですか?
A.追加DLCのトレーラーみたいなもんです。