【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 誤字報告もありがとうございます。本当に感謝しています。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
 いい感じのタイミングで出てきます。

 まだまだ募集してるので、よろしければどうぞ。


炉柱 石黒力隆

 この世界の飯は、それなりに美味い。

 

 転移直後に食べていたような安価なモノだと、なんかボソボソしてたりちょっとエグかったりでそんな美味しい訳でもないが、それでも想定していた異世界メシよりは断然いけた。

 対し、がっつり金払って食べる飯は現代日本基準でも普通に美味しいと思える。最近はずっとこれ。コスパで考えると微妙なんだろうが、それでも美食の魅力には抗いがたい。

 ここは異世界、日本じゃない。安い美味いはあり得ない。

 

 なにゆえ家電も無しにこうも美味いのか。料理技術が進んでる……というより、たぶん素材が良いのだろう。後、料理人の腕。これが料理漫画並みに絡んでるように思える。

 戦闘でも建築でも掃除でも鍛冶でも、こっちはあっちよりマンパワーが強い。異世界人は手先も器用だし、色んな技術の習熟が早い気がする。

 多分、スキルとかが関係してるんだと思う。数値化され、習熟度がある世界だ。全く0の状態から1になるだけで、ある程度できるようになるのだ。知らんけど。

 

 実際、スキルとか習熟度だけなら迷宮行かなくても伸びるのだ。素振り一回、スキル空撃ち一回でミリ程度伸びる。

 鍛錬場でやってる個人トレーニングはもっぱらこれだ。スキルが習熟すると消費MPも減るし威力や効果も高まるで最高である。努力が数字に表れると俺でもやる気になれるのだから素晴らしい。

 

 話が逸れた、異世界メシ事情だ。

 

 異世界の食材は質が高い。野菜ひとつ取っても、現代日本で品種改良されたような美味い野菜がポンとお出しされるのだ。魔法か何かでアレコレやった結果なのだろうが、それでも凄い。

 保存魔法のお陰で一部食材は保存性を無視した味重視の商品も作れる。淫魔ソーセージとか、あれめちゃくちゃ美味い。

 それを高スキルレベル、高習熟度の料理人が調理するのだ。人の力で飯が美味い。同じ素材、同じ工程でも、異世界最強料理人と近未来お料理アンドロイドじゃ前者が圧勝するだろう。そんな世界観だ。

 

 異世界に来てから、概ね俺は衣食住には困っていない。

 着るものは、まぁジャージがないのは悲しいが、それだけだ。ていうか、“清潔”のお陰で洗濯が楽である。

 食べ物も前述の通り、まぁまぁ美味いし満足だ。昨日食べた森人豆麺(エルフパスタ)も美味しかった。

 住む所も悪くない。一応水洗トイレもあるし、シャワーは無いけど風呂はある。お湯も簡単に出てくるから、魔法を使わずとも俺も俺以外の王都民も割と身綺麗である。

 

 けど、どうしようもない事、というのはございまして。

 

 大なり小なり、これは日本から別の国にステイする時にも起こる事なのだろうが、やっぱ日本にあって外にないものというのがあるのだ。

 それこそ俺の大好きなジャージとか、愛飲していた第三のビールとか、温水洗浄便座とか……。

 あと、和食だな。

 

 別に和食がねぇと死ぬぜ! というほど執着はしてないので、異世界来てまで再現しようとは思わない。できる気もしない。

 お米もお味噌もお醤油も、探せばあるのかもしれないが、それより他を優先したい。

 その程度の話だ。

 

 いや、うん……。

 そりゃ、あれば嬉しいけどさ。

 

 肉じゃが、豚汁、炊き込みご飯。

 おでん、納豆、いなり寿司……。

 

 この半年の間、俺は和食を食べていない。

 慣れたといえば慣れたのだが、それはそれ。

 また食べたいなと思うのは、仕方のない事だろう。

 

 

 

 休みを導入して以後、俺たちの生活には大きな変化があった。

 週休二日制、それが我が一党の労働環境である。

 行き当たりばったり、気分次第だったところを、やりやすいように調整したのだ。

 

 過ぎたるは及ばざるが如し。何事も中庸が肝要である。生きていくのにレベリングもトレーニングも必須だが、傾倒しては足りないのと同じである。

 好きなアニメ映画でも言っていた。「そんなに力むと続かないよ」と、その通りだ。長い目で見て、続けないといけない。継続するのに力はいるが、継続は力なりだ。

 

 故に、週休二日。

 

 幸い、異世界には七日で一週間という区切りがあった。

 休日平日という感覚は薄そうだが、それでも区切りがないと不便なのだろう。

 という訳で、冒険者のお休み事情は知らないが、ひとまず週休二日にしておいた。

 

 で、一週間のスケジュールはこんな感じ。

 

 月曜、トレーニング。午後は対人訓練。

 火曜、ダンジョンアタック。

 水曜、情報収集と準備。

 木曜、トレーニングと対人訓練。

 金曜、ダンジョンアタック。 

 土曜、休み。

 日曜、休み。 

 

 そのうち、月木の対人訓練は予約制にする事にした。

 どういう訳か、ニーナさんから始まったこの対人訓練依頼に、いつの間にか凄い人数が集まるようになったのだ。最近は一日に何人も相手してる。

 また、ギルドからは報酬は相手をする冒険者の位階相応にしてほしいと言われたので、銀細工未満への報酬はかなり安い。

 それでもいっぱい集まるので、おじさんに頼んで予約制にしてもらった。対戦相手も整理してもらっている。同じ人とばっかやっても仕方ないからね。

 

 先述の通り、我が一党は土日休みだ。

 これは俺の休みというより、鍛錬に迷宮に大運動会にとハードに肉体酷使をさせてしまっている一党員の休養が目的である。

 しかし、どういう訳か皆さんあんまりお休みしてもらってる気がしない。

 

「なら、一日まったり吸精してたいッス♡」

 

 とはルクスリリアの談。

 要望通り、休日は朝から晩まで事あるごとに吸精である。爛れた学生カップルの様だ。

 

「外に出るより、私はアナタと居られる方がいいわ」

 

 とはエリーゼの談。

 要望通り、休日もずっと一緒だ。膝枕したり、してもらったり。彼女は後ろ抱きがお気に入りみたいだ。

 

「ぼ、ボクは本が読みたいです。はい」

 

 とはグーラの談。

 要望通り、休日は図書館行ったり買った本読んだり。ソファに隣り合って読んでる事が多い。

 

 外出はOKだし、小遣い渡してるから好きに使ってもらっていいのだが、皆基本的に部屋に籠るのだ。たまに図書館とか行く程度で、けっこうずっと部屋にいる。すると、ルクスリリアの吸精に二人が混じるというパターンが多く……。

 いや、俺はいいのだ。元気100倍ロリコンマンである。けど、彼女等にとって本当に休養になってるのか、それが心配だ。

 

 下手に自主性に任せるより、こっちから言った方がいいのかな、とか思ったり。

 うーん、どうなんでしょう。

 

 まあ、俺たちの一週間はそんな感じだ。

 月朝から金夜までダンジョンとトレーニングの繰り返し。土日はそれぞれの要望を聞きつつ、基本は家か図書館でゆっくり。

 色んな異世界生活はあれど、俺的には最高の異世界生活である。ロリさえいればいい。

 

 さて、そんな生活を続けていくと、俺たちはとんとん拍子で強くなっていった。

 

 俺は弓を使い続けた関係で、下位の“弓兵”から上位の“ボウマスター”になる事ができた。

 途中、弓系中位職の“魔導弓兵”とか“重装弓兵”とかに浮気したりもしたが、ひとまず遠隔でも上位入りだ。

 弓ルートを通った事により、俺は“遠視”や“照準”といったロックオン系スキルを覚え、戦いの幅を広げる事ができた。また、魔導弓兵スキルの“矢生成”でいつでもどこでも魔法の矢を生み出す事ができるようにもなった。無手状態から手に矢を出せるって、結構不意打ちになる気がする。殴った方が早いと思うけど。

 

 ルクスリリアは淫魔姫騎士をレベリング中であり、最近は一個魔法を習得した。

 上位職の常か、レベルアップの速度はすごく遅い。一回上がった時のステータス上昇幅は相当なものだが、ポンポン上がる俺に比べると成長し難い気もする。DPSもそんなでもないし、獲得経験値も少ない気がする。

 けれど、対人訓練で最も勝率が高いのはルクスリリアだ。空中からの蛇腹鎌チクチク戦法はマジで強い。刺剣のチクチク戦法もマジで強い。あと逃げ足が驚くほど速い。逃げに徹したルクスリリアはそう簡単に捕まらない。

 

 エリーゼは、相談の結果上位職の“ドラゴンロード”になった。

 ドラゴンロードは竜戦士長からの派生選択肢にあった“竜将”よりも支援に偏ったジョブであり、使用可能武器種が減る代わりに習得スキルが多くバフ・デバフの効果も高い。名実ともに後方支援職だ。

 対人戦法に変わりはないが、上達はしてるはずだ。最近は訓練の成果が出てるのか魔法を当てるのが上手くなっている。まあ、エリーゼは一発当てられれば大抵ワンパンというクソゲー仕様な訳だが。なんかキャラランクの枠外にいるんだよなぁ。

 

 グーラはつい先日、剣士系上位職の“ソードエスカトス”になる事ができた。俺とオソロである。

 彼女の場合、DPSの高さもあって経験値の入りがエグいのだ。ザコを殲滅するのはエリーゼのが得意だが、ボスをぶっ殺すのはグーラの十八番である。やっぱ前衛物理アタッカーは華があるよ。近づいて斬る、相手は死ぬ。RTAで重宝されそう。

 対人戦の方も上達……というか、才能開花してる感じである。戦う度、負ける度に何かよく分からんモノを学習してるんだよな。ステとは無関係にグーラは戦闘が上手い。実際、彼女に同じ技は二度通用しないのだ。サイヤ人と聖闘士が超融合したようなロリである。

 

 個々の成長に比例して、パーティ戦の方も日に日に上手くなっている。グーラが攻め、ルクスリリアが牽制し、エリーゼがぶっ放す。俺は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応。けっこう様になってるんじゃないかな。

 俺がいない時の連携もトレーニング中である。司令塔はエリーゼで、ルクスリリアがナンバー2。グーラは「暴れろ」一択である。一回三人だけでダンジョンボス倒してもらった時も、ちょっと連携はぎこちなかったけどちゃんと倒せた。

 

「よし! お疲れー!」

 

 そんなこんなでハクスラ生活。

 緩急バランス塩梅よろしゅう、俺たちは上手い事やっていた。

 

 本日はキン〇マキラキラ金曜日。ちん〇んブラブラフライデーである。つまり、ダンジョンボスの命日だ。

 ステータスもPS(プレイヤースキル)も強くなった俺たちだ。たまにピンチになったりもするが、訓練の成果もありその都度リカバリーできるくらいには連携ができている。もはや中位ボスに負けるほどヤワではない。

 

「うえぇ~! 思いっきり泥かぶっちゃったッス~! ご主人~、綺麗にして~!」

「はいはい、“清潔”」

「汚くて臭い魔物だったわね……。グーラは平気?」

「はい、臭いの方は大丈夫です」

 

 そんな感じでいつものようにダンジョンを踏破し、いつものように帰還した。

 転移神殿に戻ると、俺はさっそく受付おじさんの下へ歩いた。

 

「あ、イシグロさん、うっす、今日もお疲れ様っす」

「ゲゲゲッ! イシグロ、ブジ、ヨカッタナ!」

「マジで今日も潜ってたんすか! マジパネェっす! あっ、グーラ先輩ちぃーっす!」

 

 受付に向かう間、俺に気づいた冒険者たちから声をかけられる。

 対人訓練で相手をした人たちは、あの後何だかんだ挨拶してくれるようになったのだ。

 

「どうも、お疲れ様です」

 

 嫌われるよりは全然いい。俺は関係を維持できる程度に挨拶を返していった。

 

「クックックッ……これが我が伝説の幕開けか」

 

 中には妙にキャラの濃い人もいる。鼬人少年のトリクシィくんだ。

 鉄札を眺めている彼は、真新しい装備を着て満足そうに笑っていた。

 

「あっ、イシグロさん、本日もお疲れ様でございました」

「トリクシィさんこそ、昇格したんですね。おめでとうございます」

「はい、日々精進して参ります」

 

 トリクシィくんは冒険者登録初日に決闘を申し込んできた駆け出しさんである。

 あの時は依頼の予約も打ち切ってたので断ろうと思ったのだが、一度木札級の腕前を見るべきだと思って結局彼のいう“決闘”を受ける事にした。

 結果はまぁお察しだが、それでもお互い良い経験になったと思う。何度倒しても起き上がってくるガッツは先輩方超えてるんじゃないかな。少なくとも俺には真似できない。

 

「換金お願いします」

「おう、緑の1番な」

 

 そんな感じで必要分を除いたドロップアイテムを換金し、金貨銀貨をアイテムボックスに入れる。

 今回潜ったのは中位迷宮であり、且つ最も売価の高いボスドロップは除いてるから稼ぎは少ない。今日のは後に使いでがあるからいいのだ。

 

「今日は何食べよっか」

「辛くはないんスけどぉ、暑いんでなんか冷やっこいの食べたいッスね~」

「なら、上森滝魚(ハイフォレスト・サーモン)の冷燻などどうかしら? 白葡萄酒にも合うのよ」

「く、燻製……!」

 

 この、休日前の充足感よ。

 オンとオフ。無敵な気持ちは凄い。やっぱメリハリつけてよかったと思える。

 

「ん?」

 

 と、噴水広場に足を踏み入れた、その時だった。

 ルクスリリアたちとの会話に夢中で今さっき気づいたが、何か唐突に物凄い懐かしさを感じ取った。

 これは、匂い? なんだろう、凄く知ってるはずなのに出てこないこの感じ。これ、どっかで……。

 

「何スかね、あの屋台」

 

 ルクスリリアの指差す方、そこには一つの屋台があった。匂いの発生源はそこだ。お客も何人かいる。割と繁盛してるっぽい。

 屋台の構造は前世のお祭りでよく見るタイプで、「焼き団子」とかかれた暖簾がかけられていた。屋台の横には旗があり、力強く流麗な書体で「実際美味い」とか何とか書いてある。

 店主は眼帯の森人女性で、首から金細工が下げられていた。金は銀よりまともだから安心である。ていうか、なんで金が屋台を?

 

「不思議な香りね」

「ええ、とても香ばしいです。よく分かりませんが、良い匂いです……!」

「焼いてるのは森人豆の団子ッスかね?」

 

 店主は網の上の串団子をクルクル回し、時折刷毛で黒っぽい液体を塗っている。それはまるで、前世のお祭りで見た焼き鳥屋のおっちゃんの様な……。

 

「……醤油?」

「しょーゆ?」

 

 ハッとなった。それから、ビックリし過ぎて固まってしまった。歩みを止めた俺を、ルクスリリアが見上げている。

 匂いも、熱した時のアレだ。ちょっと甘い感じもする。それと、少し違う匂いも。こっちも嗅いだことある。

 嗅げば嗅ぐ程そうだと思える。煙に混じったこの香り、お醤油のソレだ。

 

「皆、アレ食べてみよう」

 

 もしかしたら、という期待。俺は皆の肯定の返事を聞いてから、列に並んだ。

 

「すみません。二つの味を四つずつください」

「承ったでござる! 少々お待ちを!」

 

 ござる口調のエルフさんの技前を眺めること暫し、「へいお待ち」と出された紙皿を受け取った。

 串は一本につき三つの団子が刺さっており、その表面には濃い茶色の焦げ目がついていた。

 それから、それぞれに配って、いざ実食。

 

「……醤油だ」

 

 厳密に言うと、ちょっと違う。少しねっとりしてるし、ちょっぴり甘い。多分、醤油っぽい液体に砂糖なり何なりを混ぜているのだ。

 けれども、口に入れた時のしょっぱさや鼻から抜ける煙っぽさ、これは俺の知っている醤油に……みたらし団子によく似ていた。

 いや、団子部分は似てない。もちもちしていないのだ。米粉じゃない、普段から食べてる森人豆団子だ。

 

「こっちは味噌ダレ……」

 

 もう一方の団子を食べる。それは味噌だった。こっちは甘さはなく、味噌特有の辛さがある。醤油とは別ベクトルに、俺の思い出をプッシュしてきた。

 前世のお祭りの記憶が蘇る。遠い太鼓の音、焼きそばの匂い、雪洞に照らされたりんご飴の赤。

 

「美味い……」

 

 しみじみと、食べ終わった後の串を眺めてしまった。

 なにも、感動するほど美味かった訳じゃない。ただただ、思い出補正で美味しいと感じてるだけである。

 

「こっちのは美味しいッスね」

「そうね、私も同じ」

「ボクはどっちも好きです……!」

 

 そんな俺に対し、ルクスリリアとエリーゼはそれほどでもないっぽい反応。

 いやでもこれは、大発見だ。みたらし団子モドキはともかく、醤油(仮)と味噌(仮)の存在は大きい。焼き魚に、醤油をかけたくなって仕方がないな。

 

「すみません。このタレはどちらで売っていたか教えて頂けませんか?」

「おや? お客人は……?」

 

 思わず、声をかけてしまった。

 店主の森人女性は店を畳んでる最中だった。邪魔してごめんである。

 

「急に申し訳ありません。自分、西区で冒険者をしています。イシグロと申します」

「む、イシグロ? あぁいや失礼、拙者は“幽眼”のシュロメ。リンジュの冒険者でござる」

 

 シュロメと名乗った森人は、それこそ日本人の様にお辞儀をしてきた。

 俺もお辞儀をすると、それこそ日本人同士の様である。

 

「リンジュ共和国……このタレはリンジュの調味料ですか?」

「まあ、そうでござるな。これは最近、拙者が学者連中と協力して作った奴でな。まだそこまで出回っておらんのでござる。昨日許可証を貰って、今日はじめて売ったのでござるよ」

 

 シュロメさんの話を聞くに、どうやらこれはリンジュで新開発された調味料であるらしい。

 味噌っぽい奴も同じく彼女製であり、なんと醤油も味噌も百年かけて作ったのだとか。

 原材料は森人豆で、それをアレコレして出来上がった……という話を、シュロメ女史は嬉々として教えてくれた。

 

「へえ。ところで、それらの名前は何ていうんですか?」

鈴樹醤油(りんじゅしょうゆ)と名付けたでござる。こっちのは鈴樹味噌(りんじゅみそ)

「しょうゆ……」

 

 醤油と、味噌。

 異世界語翻訳でも、そうきた。

 そうか、そうか、あったのか、醤油……。

 

 リンジュ共和国。名前は知っている。

 ラリス王国に次ぐ人口第二位の国で、色んな種族が住んでいる。ラリスとは親分と子分の関係で、質の高い鉱物資源と木材が採れるらしい。

 そうか、リンジュが“東の国”だったのか……。

 

「醤油が気に入ったのなら、ぜひ買ってほしいでござる! 絶賛増産中でな! コケると赤字でござる!」

 

 はははと笑うシュロメさんだが、なかなかの豪胆さだ。まぁ、金細工だから金銭感覚が狂ってるのかもしれない。

 俺も人の事言えないし。

 

「わかりました。お売りになる際は店舗等の情報をギルドまでお伝え下さればと思います」

「了解でござる!」

 

 そうして、俺たちは広場を去った。

 久しぶりの買い食いだが、とても心が満たされる味だった。

 懐かしさと、この世界の広がりを感じたのだ。

 

「ご主人ご主人」

「ん?」

 

 そうして歩いてると、ルクスリリアが袖を引っ張ってきた。

 

「ご主人、あの串焼き食べてからなんか変だったッスけど、何かあったんスか?」

「あぁ……」

 

 まあ、正気は保ってるつもりだったが、端から見るとそうだったかもしれない。

 実際、テンションは上がっていた。ドキドキ、ワクワク、それからほんの少しの不安も。

 

「あれな、俺の故郷の調味料とよく似てるんだよ。名前も同じだった」

 

 俺の言葉に、最も強く反応したのはエリーゼだった。

 

「日本、だったかしら……」

「まあね、それで懐かしくなっちゃって」

 

 久しぶりに思い出してしまった。

 和食が一番美味いとは思ってない。味覚なんて九割個人差だろうと思ってる。

 けど、やっぱ食べ慣れたものは特別だ。離れると食べたくなる。

 

「アナタは……日本に帰りたいと思うのかしら?」

「いや全然」

 

 エリーゼの問いに、俺は即答した。

 これは全く嘘じゃない。色々悔いもあるし、やり残した事もある。寂しい思いがないではないが、それはそれ。

 色々あるが、今現在の俺はあっちよりこっちのが良いと思ってる。異世界ハクスラ生活最高である。

 

「そう……」

「まあ、リンジュには行ってみたいかなぁ」

 

 リンジュ共和国、まさかそこがファンタジーお馴染みの“東の国”ポジションだったとは……。

 

 東の国。もしくは、和の国とか何とか色々。

 ファンタジーな世界では、なんか日本っぽい国が何故かあるのである。

 

 なるほど、東の国があるなら刀や侍が存在してるのも納得だ。

 鉄とか木が名産ってのはそういう意味でもあったのか。

 

「リンジュ、それは何処なのでしょうか?」

「知らねッス。淫魔王国とはコッコーしてなかったと思うッス」

「ラリス王国に次ぐ多種族国家よ。そこには私とは別種の竜族がいるわ。変わり者連中よ」

「へぇ~。色々あるんスね~」

 

 東の国、俄然興味アリである。

 どんな所だろうか。和風ファンタジーの舞台みたいな感じだろうか、アジアをごっちゃにしたような洋ゲー風ジャパンだろうか。

 お米はあるのだろうか。畳は? お城の構造は? フグとか食べるのかな。毒入りフグは死ぬほど美味かったりするのかな?

 うーん、夢が広がる。

 

「いいなぁ」

 

 リンジュ旅行、行ってみたいな。

 旅行と言えば温泉だろう。伊香保、登別、道後、白骨、和倉、薬研、有馬、湯野浜、別府、草津……。

 

 温泉、混浴、ロリ三人娘……。

 布団の上のルクスリリア。温泉でおちょこを傾けるエリーゼ。旅館のご飯をお腹いっぱい食べるグーラ。

 

 めっちゃええやん。

 めっちゃええやん。

 

 あっ、忘れてた。ラリスの銭湯も気になってたんだった。

 ローマ風のお風呂、テルマエモドキである。混浴らしいし、皆と公然と入れるな。

 

 あと、刀だ。東の国といえばKATANAだろう。

 アニメ版の刀鍛冶編を見れなかった俺は今、刀に飢えている。せっかくの侍ジョブだ。刀があるなら使ってみたい。

 前にドワルフさんに注文したら色々あって拒否られたが、本場に行けば作ってもらえるかもしれないじゃん。

 

 うん、いいな。

 

 いつか行こうぜ、リンジュ共和国。

 

 

 

 翌日……。

 

「おや、こんな所で奇遇ですね。イシグロの旦那ぁ」

「へっへっへっ、ぶちぬき丸はどうですかい? そいつぁ結構。存分に使ってやってくだせぇ」

「あっ、そうだ。旦那、ちょっと良い情報がありましてね、へへっ」

「腕の良い刀鍛冶が来たんでさ。刀、作れる用意ができましたぜぇ」

 

 まあ、うん……。

 

 王都滞在、もうちょっとだけ続くんじゃ、である。




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