【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。貰えたら貰えるだけ力になります。
 誤字報告も感謝です。感謝の極みです。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
 出る時はほぼ別キャラと化すのでご注意を。

 今回は三人称、グレモリア視点です。
 前回の続きなんですが、これまた長くなったので投稿。
 よろしくお願いします。


サキュバスの戯れ

 どんな種族とまぐわおうが、淫魔は淫魔の子を授かるものである。

 母も子も、父が誰かなど分からない。淫魔の性質上、これまで吸精してきた雄の全てが父と言えるからだ。

 そして、多くの場合、淫魔の子は母と同等かそれよりも下の位階で生まれてくる。

 

 例外を除いて。

 

 数少ない精を集積して生まれてきた奇跡の子。

 小淫魔の母から生まれてきた中淫魔。

 名を、グレモリアと言った。

 

 生まれながらの中淫魔。条約以後の新生淫魔において、グレモリアは将来を約束された存在である。

 だからこそ、小淫魔のコミュニティにてグレモリアは蝶よ花よと愛されて育った。

 今日に至るグレモリアの人格を形成したのは、この頃である。

 

 食事、訓練、勉学。

 グレモリアは何においても優先された。

 彼女もまた、寄せられる期待に応え続けられるだけの度量があった。

 

「これくらい簡単ですわ~!」

「凄ぇ! もうあんな高いトコまで飛べるんだ!」

「ヒューッ! ついこの間まではよちよち歩きだったけど、今じゃ”未来の撃墜王”だよ、アッチの方も撃墜王か?」 

 

 文武共に、グレモリアには高い素養があった。

 同時に、下の心技体にも優れていた。

 実に理想的な淫魔であったのだ。

 

「卒業おめでとう、グレモリア! これで貴女は立派な淫魔よ!」

「ふふん、当然ですわ!」

 

 淫魔は一年で成長限界を迎える。また、淫魔の子はその間に処女を卒業するのが古い習わしであった。

 淫魔王国にやってくる商人、その護衛。あるいは観光客を、グレモリアは先達に教わった技巧で以て難なくゲットできたのだ。

 その成功率は極めて高く、まさに百発百中。当時のグレモリアのあだ名は「流し目のグッちゃん」であった。獲物に対し視線のレイザービームを撃つ時など、近くのモブが「で、出た! グッちゃんの流し目コンボだ!」と騒ぐくらいにはブイブイ言わせていた。

 

「さぁ、参りますわよ。わたくしについてきなさいな!」

「「「ウッス! 一生ついていきやす、グッちゃん!」」」

 

 そして、グレモリアは自身の戦利品を気前よく子分に分け与えていた。

 恵まれた自分が、恵まれない小淫魔たちに施しを与えるのは当然の事。そう思っていた。

 

「今日も失敗しましたのね、ルクスリリア。どうかしら? 昨日捕まえた男がいるのですけれど、貴女もご一緒しませんこと?」

 

 だからこそ、彼女は落ちこぼれの小淫魔にも声をかけた。

 ルクスリリアという、微塵も色気のないちんちくりんの小淫魔。同じ年に生まれ、誕生日の近い、同じく小淫魔の母から生まれた哀れな子。

 恵んでやらねばならないと思ったのだ。

 

「結構ッス! アタシだって淫魔ッス! 処女くらい、自力で卒業してやるッス!」

 

 そんな申し出を、当のルクスリリアは跳ねのけた。

 その様に、グレモリアは呆気に取られた。

 

 精を分けてやると言えば、喜んで受け取るのが弱い淫魔ではないのか。

 誰も彼もが男日照で喘げず喘いでいる中で、吸精の誘いを断る者がいようとは、全く以て想定していなかった。

 

 この時覚えた感情を、当時のグレモリアは正確に把握できなかった。

 今にして思うと、それは彼女が生まれて初めて覚えた“敗北感”だった。

 

 恵まれない弱者に、淫魔かくあるべしと見せつけられたような。

 彼女の小さな背中が、誇り高い淫魔に見えたのだ。

 

 ちなみに、グレモリアの知らぬ事だが、その後ルクスリリアは激しい後悔に苛まれていた。

 いけすかないエリートからの施しにカチンときて、つい言っちゃったのである。プライドを捨てて同行すれば、処女を卒業できたかもしれなかったのに。

 

 閑話休題。

 

 周囲の期待に押される形で、グレモリアはみるみるうちに強くなっていった。

 軍に入り、訓練をして、とんとん拍子で淫魔騎士にまで上り詰めたのだ。

 

 淫魔騎士とは女王の近衛。そうなると周囲も強者ぞろい。生まれながらの中淫魔とて、グレモリア程度などゴロゴロしていた。

 そんな中で、グレモリアは腐る事なくよりいっそう訓練に励んだ。期待を背負うグレモリアには、期待に応えるガッツがあったのだ。

 

 努力して、勝利して、成果を弱者に還元する。

 グレモリアは傲慢だが、利他的で善なる性質の持ち主だった。

 

「皆さん、見ていてくださいまし……!」

 

 そうしてグレモリアが騎士になり、数年の月日が流れた。

 

 訓練を熟し、仕事にも慣れてきた。

 この頃になると、彼女は淫魔王国の状況に思いを馳せるようになっていた。

 

 グレモリアは思う。

 上も下も、男が足りない。

 

 母に曰く、淫魔貴族はたびたび他種族の雄を招いて、下の淫魔の事を考えず贅沢な酒池肉林の宴を開いているのだと聞いていた。

 それは半分正解で、半分間違いだった。

 

 高位淫魔は燃費が悪い。一人の男を五等分して十分な精を得られる小淫魔と違い、貴族レベルの淫魔ともなるとその程度では全く足りない。

 なんだかんだ代用食で生きられる小淫魔と違い、高位淫魔たちにとって雄の精とは生命線なのだ。

 決して、贅沢な宴など開いてはいない。むしろ、限界まで節制しているとさえ言える。騎士にならねば、知らない事実であった。

 

 当代女王の示した方針により、淫魔王国は繁栄した。

 人口は増え、公共財も充実し、どんな生まれの淫魔でも他国民より豊かな生活ができている。

 繁栄している。治安も良い。とても平和な国だ。

 

 けれど、みんな男に飢えている。

 

 決して満たされない心を、他の何かで埋めようとしているかの様。

 本当に欲しいのはそれではないだろうに、貴族も庶民も皆がひもじい思いをしているのだ。

 

「ままならないものですわね……」

 

 そんな現状に、グレモリアは忸怩たる思いを抱えていた。

 何とかしたいのに、何ともできない。

 言葉にならない敗北感が、徐々に彼女の心根を削っていた。

 

 ある日、グレモリアは外交官の護衛でラリスの王都に向かう事になった。

 ラリス王国とは、世界で最も強大な国であり、人間族が治める他種族国家だ。

 近衛の教養として、紙面でなら知っている。けれど、これまで現地に行った事はなかった。

 

 そこで目にしたもの、それはまさに楽園だった。

 

「なん、ですの……? ここがラリス王国……?」

 

 右見ても左見ても雄雄雄……。

 常時発情中の人間男に、人の良さそうな天使男。如何にも絶倫そうな虎人男や、全身から生命力を漲らせている熊人男など。

 目に映るもの嗅ぐ匂い、ラリスの都はより取り見取りの楽園だった。

 

 グレモリアにとって、男とは淫魔王国にやってくる商人やその護衛などが大半で、時折賓客としてやってくる者が全てであった。

 そんな彼女の目には、王都の光景はあまりにも眩しく映ったのである。

 

 常々、淫魔の数に対して雄が少なすぎると思っていた。

 だが、淫魔王国以外には雄は沢山存在したのだ。

 

 こんなにいるのなら、淫魔全員が飢えずに過ごせるのではないか。

 そう思った。何とかなるとも、思った。

 

 無論、そう簡単に全ての課題が解決するなんてあり得ない。

 座学の時間に口すっぱく言われたのだ。吸精の危険性や、暴走した淫魔の扱いに、過去の戦争での淫魔族のやらかしについて。

 だが、それを知って尚、グレモリアは夢を見てしまった。

 

「此処なら……」

 

 努力して、勝利して、その成果を弱者に還元する。

 グレモリアの傲慢で善良な思考が、ここにきて暴走した。

 

 夢の一歩目を、まず自分が歩むのだ。

 続く者の為、茨の道を往こうというのである。

 

「多くの淫魔を救えるのではなくって……?」

 

 どんな形になるか分からない。どれだけの淫魔が救えるか分からない。

 それでも、挑戦せずにはいられなかった。

 

 帰国してすぐ、グレモリアは鋼の理性を証明し、見事他国への移住を認められた。

 上司は頭を抱えていた。どうせすぐ帰ってくるぞと。やらかす前に引き止めるべきだと。

 対し、淫魔女王は、

 

「まっ、あの子なら大丈夫でしょ。やりたい事させてあげればいいわ」

 

 という軽い返答をした。

 三代目淫魔女王、割と軽い御仁であった。

 

 グレモリアの夢。それは、王都アレクシストにいる雄の精を故郷の淫魔に分け与える事であった。

 明確なビジョンはまだないが、何をするにも準備がいる。

 

 必要なのは地位と名誉と金と、同志。

 その為に、グレモリアは冒険者になった。武具を揃え、仲間を集め、貯めた資金で夢に挑む。

 

 さあ、これからどんどん迷宮に潜り、冒険者として大成するぞ。

 そしてゆくゆくは、小淫魔と王都男性との懸け橋になる。

 

 グレモリアは上りはじめたばかりなのだ。

 この果てしなきドスケベ坂をよ……!

 

 

 

「あぁ~、ムラムラしてきましたわぁ~」

 

 結論から言うと、グレモリアの挑戦は失敗した。

 それどころか、当のグレモリアが男不足でカピカピに乾いていた。

 

「はあ~……おかしいですわ、こんなはずじゃなかったですわ……」

 

 最初は上手くいっていたのだ。

 冒険者になり、良い武器を買って迷宮に挑み、踏破した。運だけでなく、実力を示す事ができた。

 この後はもう仲間も金もジャンジャン集まってきて、時々男を食いながら夢に向かって勇往邁進……するはずだったのだ。

 躓いたのは、それからだ。

 

 まず、グレモリアは一党を組む事ができなかった。

 ごめんあそばせと既存の一党に声をかけたら「一党クラッシャーになる」という理由で断られ、ならばと自分が頭目の一党員を募集しても誰一人として集まらなかったのである。

 

「ていうか、一党クラッシャーって何ですの?」

 

 どうやら、他種族女は一人の男をシェアしたり、仲間の男が淫魔と性交する事に抵抗があるようだった。それが原因で喧嘩になったり面倒事になったり、最悪刃傷沙汰に発展する事なんかもあるらしい。

 なにそれ? 淫魔的にかなりのカルチャーショックであった。

 

「あっ、淫魔? あぁ、淫魔かぁ……う~ん、ごめんやっぱ無理」

「なんですと!?」

 

 第二に、グレモリアの精不足。

 故郷ではブイブイ言わせてたグレモリアだったが、いざ王都で狩りをしてみると悉く失敗してしまったのである。 

 運よく男をゲットできたとしても、二度目はなかった。何故と訊いてもイマイチ理由が分からない。なんか、妻がどうだの生命の危険だの色々言われた。

 

 まさに、ホームとアウェーの差。

 淫魔王国に来るような男というのは、最初からその気なのだ。そりゃ、成功率も高いだろう。

 対し、王都民からしたらわざわざ淫魔に精を吸わせる危険な性交を選ぶ理由がない。一度味わった男も、生命力を奪われる恐怖で二度目はNGなのが大半だった。

 

「うむ、同意のない性交ではないのだな?」

「当然でしてよ」

 

 そんでもって、王都の衛兵が淫魔に対して常に視線ビンビンだったのがキツかった。

 彼らの視線には警戒こそあれ欲情の気配がなかった。意味不明である。一度誘ったらそれは犯罪だと言われてしまって愕然となった。

 分かってはいる、分かってはいるのだ。誰も淫魔をいじめている訳でもなく、問題を起こさないよう気を配っているのは分かる。だが、とかく王都は生きにくかった。

 

「魔力が、魔力が足りませんわ……」

 

 ソロ探索、慢性的な精不足、漠然とした生き辛さ……。

 そうなると悪循環で、グレモリアは日に日にやつれていった。

 

 淫魔は男娼を買う事ができない。法で定められているからだ。

 グレモリアは性奴隷を買う事ができない。誇りがそれを拒否するからだ。

 結果、彼女は故郷の小淫魔よりひもじい思いをして過ごしていた。

 

「淫魔料理……」

 

 そんなある日、グレモリアは王都東区で故郷の飯を食べさせる料理屋を見つけた。

 そこで出会ったのが、同じく淫魔のニーナであった。

 

「王都の淫魔はこうやって魔力を回復してるんですよ」

「うぅ、ありがてぇ……ありがてぇですわ……!」

 

 ニーナの勧めで王都にある淫魔組合に加入し、細々と精を分け与えられ、飢えない程度に腹を満たす。

 そんな自分に、かつての輝きはなかった。

 

 それから、それなりの時が流れ……。

 

「ありがとうございます、グレモリアさん! 私達、幸せになります!」

「グレモリアさん、僕からもお礼を言わせてくれ。貴女がいなければ、僕は妻とすれ違っていたままだっただろう。本当にありがとう」

 

 幾多の死線を超え、銀細工持ち冒険者となったグレモリアは……。

 

「おーっほっほっほっ! なぁに構いませんわ! 困った事があれば何でも相談してくださいまし!」

 

 喪女を拗らせていた。

 拗らせに拗らせ、どういう訳だか他所の男女をくっつける恋の取り持ち役になっていた。

 

 生まれも育ちも勝者サイドのグレモリア。

 元の傲慢さと善良さが迷宮の狂気と化学反応を起こし、得意分野で他人に施す事で自己実現する気質になっていたのである。

 

「くそぅ! くそぅ! あの雄はわたくしが先に目をつけていたのにぃ! 一発くらいくれても良いでしょうにぃ!」

 

 それはそれとして、仲良さげな男女カップリングなんかを見ていると上の口も下の口も正直に悔しさを漏らしてしまうのはご愛敬。

 敗北感を心の奥に押し隠し、負けてないもんね施してやったんだもんねという言い訳で虚無感の穴を埋めているのだ。

 なお、本人の知らぬ事だが、これのお陰で淫魔全体の好感度アップができているのは幸いであった。

 

「あぁ~、こんなクッソ寒い日は筋肉質な雄が食いたくなりますわぁ~」

「そうですね~。私としては、思いっきり顔を殴ってくれる男性が良いのですが……」

 

 と、こんな風にもなっていた。

 ニーナと二人、楽しくも虚しい淫魔トーク。

 

 幾数年もの都在住、「主」にも成れず何も得ず、終いにゃ終いにゃ哀れ喪女。己と言う名の哀れ喪女。

 実に空虚じゃありゃせんか? 淫生空虚じゃありゃせんか?

 

「はぁ~、若いヒトオスの奴隷になって毎晩めちゃくちゃにされてぇですわぁ~」

「あれ? グレモリアさん、そういうの無理って言ってませんでしたか?」

「はっ!? い、今のは違いますわ! 気の迷いです、ええ! この誇り高き“夢胡蝶”のグレモリアが、そんな処女丸出しの発想する訳ありませんわ!」

「はあ」

 

 王都に夢を見て故郷を発ち、こうして腐る淫魔の何と多い事か。

 グレモリアもその一人。誇りを胸に大望を抱き、夢破れた挙げ句プライド故に今さら弱者の様に振る舞えない。

 

 地位も名誉も金も得た。けれど同志が集まらなかった。

 というか、発起人であるグレモリアがやる気をなくしていた。

 人助けというのは余裕があって初めてできる事なのだ。

 

 ある時、ふと思い立って、王都を出てみた事もある。

 それでも、淫魔の扱いなんて何処も似たようなものだった。

 

 リンジュ共和国は法こそ緩かったが淫魔式ボーイハントが通じず、獣人の国では他者の発情期を眺める事しかできなかった。天使族の住まう聖輪郷など、淫魔さんお断りで入国禁止であった。

 結局、ラリス王国が一番マシという有り様。いや、むしろ故郷のが色々と生きやすかったように思える。

 

 しかし、グレモリアに故郷に帰るという選択肢はなかった。

 大見得切って出て行って、何もできませんでしたと戻るのは彼女のプライドが許さなかったのだ。

 

「精が欲しいだけなら、適当な奴隷を買えばいいじゃないですか」

「それは嫌ですわ! そんな味気ない精、吸いたくありませんの!」

「でも組合から貰うのはいいんですね……」

「たまにしか使ってませんしー!」

 

 自分は恵まれている。

 恵まれているのだから、勝って敗者に施すのが道理だ。

 だというのに、自分は卑しく組合のお世話になって、会員費と引き換えにチマチマと僅かな精を啜って生きる始末。

 

 身体は敗北していた。

 だが、心は頑なに負けを認めていなかった。

 

 

 

 そんな中、ニーナの口から覚えのある淫魔の近況を聞かされた。

 なんと、幼馴染の淫魔が若くて強い人間族の男の奴隷になったという話だ。

 

「ぐぎ……!」

 

 ルクスリリア。ちんちくりんで、力がなくて、いじめられっ子だったあの小淫魔が。

 あの、誇りだけは高かった淫魔が。

 

「ぐぎぎぎ……!」

 

 若くて強い人間族の男に、心底溺愛されてて、深域武装を託されて、あまつさえ位階を上げられるくらいの吸精をさせて貰っているなんて……。

 

「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけききくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきくきこきかかか……!」

「どどど、どうしましたグレモリアさん!?」

 

 激情が溢れる。脳が振動している。全身がヒリヒリして、胸が疼いて爆発しそうだった。

 

 おかしい、道理が合わない。

 こちとら日々の魔力回復にさえ苦心してるというのに、昔から文武両道で頑張ってきたというのに。

 何でどうして淫魔がヒトオスの個人所有奴隷になんてなれているのだ。

 

 そんなのご褒美じゃ……そんなの淫魔の沽券にかかわるではないか。

 誇りはどうしたんだ、誇りは。

 

 それに、だ。

 

 これじゃあ、エリートの自分が、かつて施しを与えてやろうとした淫魔に、敗北したかの様ではないか。

 悔しいし、憎いし、妬ましい。逆恨みなのは分かっているが、逆恨みの何が悪いというのだ。

 

「ルクスリリアは! 今何処にいますの!?」

 

 こんなの、あっていいはずがない。

 現実に負け、他種族に負け、誘惑に負けた。

 ここにきて、過去に見下していた小淫魔にまで負けるなど、グレモリアに残った一欠片のサキュバス・プライドが許さない。

 

「えっ? 何を、そんなどうする気ですか……?」

「決まっていますわ……!」

 

 淫魔とて魔族の端くれ。古の魔族の流儀に則り、誇りのぶつけ合いは戦で決める。

 何か一つでも勝てないと、グレモリアの脳と誇りが破壊されてしまう。

 

「決闘ですわッ……!」

「うわマジですかこの人……!?」

 

 ちなみに、奴隷に向かって決闘を申し込むのは、最高にダサい行為である事を、ここに明記しておく。

 既に淫魔の誇りはボドボドだ。

 

 そうと決まれば即行動。

 グレモリアは戦意とか羨望とかその他諸々を飲みこんで、いざいざ件の一党の拠点へと殴り込んだ。

 

「なんで貴女までついてくるんですの?」

「いやだって、イシグロさんにご迷惑をかける訳にはいきませんし……」

 

 一応、双方の知り合いであるニーナも同行しつつ、確実に会う為に西区の転移神殿へ。

 目的はひとつ、イシグロ道場である。

 

「この依頼、わたくしが予約させて頂きますわ!」

 

 そういう事になった。

 

 

 

 連休明け、イシグロとその一行はいつものように転移神殿へとやってきた。

 ニーナと共に朝一番にやってきて、入り口近くのバーで張り込んでいたグレモリアは、見た。

 

 一人の男の傍を歩くちんちくりん三人娘。そのうちの金髪女。

 ひと目で一級品と見て取れる防具を身に付け、首に奴隷証――グレモリアには輝いて見えた――を下げた同族の姿。

 

 背丈も、目つきも、顔立ちも何一つとして変わっていない。

 唯一つ、その身に充実する溢れんばかりの男の精気だけが、以前の彼女と異なっていた。

 

「どうも、自分がイシグロ・リキタカです」

 

 その主人。地味な防具に地味な剣を佩いた地味な男。

 あのちんちくりんに精を注ぎ込める変人の中の変人。

 それでいて、自身の色気に一切反応しない理解不能な雄。

 

「ええ、ニーナから話を伺っています。同じく淫魔のグレモリアですわ」

 

 一通りの挨拶の後、見知った顔を睨みつける。

 殺意がある訳ではない。敵意がある訳でもない。

 ただ、戦意だけがあった。

 

「久しぶりですわね、ルクスリリア。話には聞いていたけれど、本当に奴隷になっているとは……」

 

 目が合う。真っ赤な瞳がグレモリアの双眸を映した。

 だが、その眼差しは訝しげだ。まさか、忘れているのだろうか。

 だとしたら、尚の事戦意が増してしまう。

 

「覚えていませんか? 同じ年に生まれた、中淫魔のグレモリアですわ」

「グレモ……あっ、もしかして……!?」

 

 マジで忘れていたらしい。グレモリアはイラッときた。ついでにイシグロが自分の胸に目を向けないのには股間がイラッときた。イライラマックスで闘志マシマシの逆恨みフルコースである。

 それからルクスリリアは、ポンと手を叩いて言った。

 

「クソザコアナルのグレモリア!」

「弱くありませんけど!?」

 

 こうして、淫魔の幼馴染は再会したのである。




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 ちなみに、吸精目的で淫魔が奴隷を購入する際は、奴隷本人の同意が必要です。魔術的契約で以て、厳格に縛られています。
 それ以外にも色々と順守すべき事項があります。破ると本国へ強制送還されます。
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