【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告も感謝です。驚くほど誤字多い作者で申し訳ナス。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
例によって出る時はヌルッと別人化して出てきます。基本、原型は木っ端微塵です。
レギュにもありますが、その辺ご留意ください。作者が喜ぶのでじゃんじゃん送ってやってください。
「だから! わたくしのアナルは弱くないって言ってるでしょう!? 仮にそうだとしても、何で貴女が知っていますの!?」
「公園で堂々とおっ始めてたくせによく言うッス! 取り巻き連中もちょっと引いてたの気づいてなかったんスかぁ!?」
「引かれてませんしー! 記憶にございませんしー!」
「気ぃ遣ってただけッスよ! 昼間っからギャンギャンギャンギャン喘ぎやがって! ちょっとは近所迷惑考えろッス!」
「だったら混ざればよかったでしょう!」
転移神殿の片隅で、二人の淫魔が罵り合っていた。
罵倒の応酬は徐々にヒートアップしていき、やがて話は故郷での出来事にまで遡っていった。
幸い、罵り合いが殺し合いに発展する雰囲気はない。しかしまぁ中々に目立っていた。喧騒こそ維持されているが、皆チラチラと二人の口喧嘩を眺めている。他のお客様のご迷惑になりますのでお静かにとは思うものの、何か間に挟まると余計拗れそうで入れない雰囲気である。
「エリーゼ、“あなる”とは何の事でしょうか?」
「知らなくていいわ。私もまだ知らないもの……」
残されたエリーゼとグーラは見物モードだ。
「すみません。うちの同胞がご迷惑を……」
「いえ……」
件の淫魔に同行してきたニーナさんは、とても申し訳なさそうな顔をしていた。巨乳メガネ清楚に加えて苦労人属性とは、結構な属性過多ぶりである。
それよりも気がかりなのは、今現在ルクスリリアと言い合っているグレモリアさんの感情の向け先だ。俺にヘイトが行く事自体は別にいいのだが、それによって発生するかもしれない諸問題が恐ろしい。
後々、淫魔救済組合的な組織がロリコンの魔の手から同胞を救うぞと殴り込んでくるとか、そういう展開ないよね? 解放するにしても、まだちょっと覚悟が決まりきっていないというか……。
「えーっと、実は……」
などと考えていると、眉根を下げたニーナさんがこれまでの経緯を話してくれた。
先日、入浴中の世間話で俺の話題が出て、その時ポロッと出た奴隷の名前にグレモリアさんが食いついたらしい事。
ルクスリリアはグレモリアさんの幼馴染であり、彼女はそんな幼馴染の境遇に羨望の念を感じているらしい事。
羨ましいので、せめて戦いで憂さ晴らししたいらしい事……。
「……という事なんです」
「はあ」
なんというか、どこからツッコめばいいのか分からなくなる経緯だった。
淫魔視点、個人所有の奴隷身分が羨ましいのだというのは、まぁ置いておこう。
それで何で決闘という話になるのかが分からない。勝っても得られるものなんて何も無いというのに。
「黙りなさいこのちんちくりん淫魔!」
「んだと自分の事をビッチだと思い込んでる精神異常淫魔!」
見ると、二人の言い合いは最高潮。今にも掴みかかりそうな雰囲気だ。
経緯は分かった。どうするかはともかく、流石にそろそろ場を収めようと二人の間に割って入ろうとした。
「はぁー! もうキレちまいましたわ! 鍛錬場に行きましょう、ここじゃモノが壊れますわ!」
「上等ッス! 王都じゃあ過去の栄光なんて通じねぇ事教えてやるッス!」
と思ったら、二人はずかずかと鍛錬場の方まで歩いて行った。
並んで先を往く姿、パッと見姉妹っぽく映るよ。
「あの、グレモリアさんはアレでも善良な淫魔として有名でして……」
「ええ、はい。それはまぁ……」
何となくは分かる。彼女が本当にヤバい奴なら、ルクスリリアがあんな態度を取るとは思えない。
かつてルクスリリアが言っていた、故郷のいじめっ子淫魔とは違うのだろう。ルクスリリアからのディスには、少なからず親しさの様なものが感じられた。
「んじゃま、行こっか」
「ええ。楽しそうね、ルクスリリア」
「そ、そうなんでしょうか? かなり怒ってそうでしたが……」
「私もついていきます。いざとなったら制圧しますので」
そんな感じで、俺たちはいつもの鍛錬場へと転移するのであった。
「先ほどはとんだ失礼をしましたわ。謝罪します。契約通り、まずは貴方と手合わせをすれば良いのでしたわね」
鍛錬場に着き、各々準備を終えたところで、冷静さを取り戻したグレモリアさんが話しかけてきた。
その目には先ほどルクスリリアと煽りあっていた不安定さはなく、一流アスリートを思わせる凄みがあった。
「いえ、お気になさらず。訓練については依頼書にある通りでお願いします」
ニーナさんから始まった対人訓練。色々あってギルドと協議した結果、対戦相手とは俺が最初に戦う事になっている。
一度強く当たってみて、その後は両者にとってベストな組み合わせを試そうというのだ。
ステータスは低いけど対人戦が上手い人というのは存外いたりするもので、俺が先に出て相手の腕を見極める必要があるんだな。
「ご主人、まずアタシからやらせて欲しいッス」
なので、いつも通り進行させようとしたら、珍しくルクスリリアが先鋒を申し出てきた。
その目はグレモリアさん同様、真剣だった。
「あら、奴隷が主人に向かって意見とは」
「うちはそういうのじゃないんス」
続けて、ルクスリリアは獰猛な笑みを浮かべてみせた。
「それに、消耗してたから負けたなんて言い訳されたくないッスもんね」
「……言ってくれますわね」
ピキリとグレモリアさんのこめかみに青筋が立った。
普段から他人を煽る事の多いルクスリリアだが、今のはタイプが違う。楽しむ為の煽りじゃなく、相手の戦意を掻き立てる為の煽りだ。
「わかった。じゃあ、最初はルクスリリアで」
「うッス」
「わたくしは構いませんが」
どうあれ、何気に無欲な性質のルクスリリアが自分から意思を示すのは悪い事じゃないと思う。
俺はルクスリリアの意思を尊重する事にした。
「だ、大丈夫でしょうか……。あの方、かなり強い人な気がするんですけど……」
「っぽいよね。実際どうなんですか?」
「ええ、状況次第では私も負ける可能性がある相手です。ルクスリリアさんとは五分五分といったところでしょうか」
「武装の質も同じくらいかしら。あっちも深域武装を持っているわ」
古代ローマの闘技場を思わせるフィールド、その真ん中。
皆の見守る前で、二人は武器を持って向かい合った。
二人の間に、戦う前の緊張感が充実していく。殺し合いというほど剣呑ではないが、試合というほどスポーティじゃない。
俺が思っていたより、これはマジな決闘だった。
「グレモリア、昔やってた遊びの事、覚えてるッスか?」
「ええ、まぁ」
ルクスリリアは大鎌を撫でながら、対戦相手に問いかけた。その声音は平坦で、いつものお気楽な印象は感じ取れない。
対するグレモリアさんも、右手の
「あの時期、グレモリアはいつも勝ってたッスよね。かくれんぼでも淫魔相撲でも、投網でも縄遊びでも、何でもグレモリアが一位だったッス」
「そうでしたわね」
「処女もすぐに卒業して、軍からスカウトが来て、騎士にもなって……はっきり言って羨ましかったッス」
「でしょうね」
「けど、今は違うッス」
瞬間、二人の視線が交錯した。腰を落とし、各々武器を構えた。
始めの合図を出すのも憚られる緊張感。身体を流れる魔力が、各々の武装に通っていくのが知覚できた。
「むしろ、故郷で卒業しなくてよかったと思ってるッスよ」
臨戦態勢のまま、ルクスリリアは犬歯を出して嗤った。
ニチャア……というSEが聞こえてくるほどのドヤメスガキスマイルで。彼女はエリートを下から見下ろした。
「愛は精を兼ねるッス……。お前は処女ではないのかもしれないッスが、心は未だオボコのまま。いわば素人処女……本当の快楽を知らない小娘に過ぎぬッス」
「なにを……?」
「分からないッスか? なら、ちんちくりんのアタシが教えてあげるッスよ」
ブワッとルクスリリアの背に蝙蝠の様な翼が生成された。応じてグレモリアさんも翼を出した。
それから、煽り全一の表情で、ルクスリリアは挑発した。
「愛される快楽♡」
「ルクスリリア!」
瞬きの後、両者は激突した。耳を劈くような鉄の衝突音が決闘の合図となった。
遠慮のない攻撃と共に、接近と擦過が繰り返される。止まる事なく翼を広げて斬り合う様は、さながら空飛ぶ馬上槍試合の様だった。
「はぁああああッ!」
「やぁあああああああッ!」
裂帛の気合と共に、二人の決闘は激しさを増していった。
やがて隙を見てルクスリリアは大鎌の権能を使い、守護獣のラザニアを召喚した。
対するグレモリアさんもエストックを振って蝶々の群れを召喚。吹雪の如き蝶の大群は、敵対者目掛け殺到した。
「あの蝶、殆ど幻ね」
「え? そうなんですか? 匂いもあるのに……?」
「私は視えてるもの」
鍛錬場の空では、群れを指揮するグレモリアさんと、追いすがる蝶を回避しながら魔法で迎撃しているルクスリリアの姿があった。
地球ではアニメの話、異世界では見慣れた光景。異世界のバトルは、いつ見ても絵になる。
そんな状況で、俺は決闘前のルクスリリアの言葉が気になって集中できていなかった。
異世界の価値観と、こびりついている倫理観が脳と心の間で軋轢を生じさせていた。欲望と憶測がご都合主義な答えを提示してきて、根っこにあるネガティブさが安易な逃げを妨げていた。
前に比べ、贅沢な悩みだ。単に覚悟が足りないだけだというのに。
「ご主人様、どうしました?」
「あ、いや。何でもないよ」
戦いはドンドンと規模を大きくして、今やお互いの大魔法が飛び交う様相を呈していた。
空中戦はルクスリリアの十八番だが、生まれながらの翼持ちである相手も負けていない。ルクスリリアはアクセル全開でブンブン飛び回るのに対し、グレモリアさんは最低限の動きで追随していた。
「おかしいですね、あんなに動いていたらルクスリリアさんの魔力が持たないはず……」
「あら、確かにおかしいわ。さっきから減った魔力が凄い勢いで……」
「はい。普段とは全然動きが違います。本気、というか……アレは?」
三人の言う通り、ルクスリリアの動きは派手だった。必要以上に大きく避け、過剰なほど高い威力の魔法を放っている。雑さはないが、豪快だった。
何というか、普段とは排気量が違う。いつもの250㏄的な小回りがなく、今の動きはスーパーチャージャー付きのリッタースポーツバイクの様。
あるいは、初めて触った武器を手に馴染ませているようにも見えた。
「なっ? あの馬鹿……!」
何かに気づいたらしいエリーゼが渋い顔をした。次の瞬間である。
ルクスリリアの痩身から、俺でも感知できるくらいの魔力が溢れでた。
「なるほど、こういう感じなんスね……」
ぶわっと、まるで余剰エネルギーを放出するように、ルクスリリアの全身に淡い紫の魔力が立ち上る。
透明なはずの魔力が、文字通り目に見えて圧縮されている。そして、それこそリミッターを外したようにルクスリリアの速度が上昇した。
「そぉ~れ! いやっほぉぉぉう!」
「くっ!? めちゃくちゃな飛び方を!」
バンと空気が弾ける音。速度に追いつけなかった蝶をラザニアに押し付けたルクスリリアは、一気に指揮官を狙いにいった。
飛行だけじゃなく身体全ての速度が増して。鎌の攻め手が増えている。例えるならば二回行動。迎撃するグレモリアさんは、徐々に防戦一方になっていた。
「雑な飛行! そんなんじゃすぐ魔力切れに……はっ!?」
「気づいたッスか。グレモリア」
武器をぶつけ合う。大鎌にも目に見える魔力が通っている。剣を弾き、盾を弾き、大きな鎌が大胆な一手を連発する。
「お察しの通り、今のアタシは魔力消費を気にしてないッス! その理由が分かるッスか?」
大振り、大魔法、大推力の加速に旋回。ルクスリリアの猛攻を、グレモリアさんは巧みな防御術で凌いでいた。
しかし狙いは消耗戦。上手い立ち回りじゃないのに、リソース押し付けで圧されているのだ。
「おいおい……」
ここにきて、俺はルクスリリアの急激なパワーアップに見当をつけた。
出来るのかという疑問があったが、出来ているのだから仕方ない。
「まさか貴女、女王陛下の呪いを!?」
「きひひ! 正解!」
笑みを深くしたルクスリリア。
女王の呪い。それは王国の淫魔が罪を犯した際に施されるという、魔力枯渇を強制的に回復させる呪いだ。
曰く、寿命を魔力に変換し、枯渇しても無理やり生かして働かせる。また、淫魔は吸精によって寿命を延ばす事ができる種族であるという。呪いで縮んだ寿命もまた、精を吸えば回復可能。
「貴女、死にますわよ!?」
つまり、ルクスリリアは今現在、女王の呪いを逆手にとって魔力をガンガン使って戦っているのだ。
効率が悪くとも、あらゆる行動に過剰な魔力をぶっ込み動く。どこまでも贅沢に大雑把に、本来節制すべきリソースを湯水の如く消費する。
まさに米帝プレイの極致。ゴリ押し・オブ・ゴリ押し。覚悟ガンギマリの補助輪付きカミカゼアタック。
「死なないッスよ。何故なら……!」
ガギィン! ひときわ大きな金属音。切り上げられた大鎌、宙を舞うエストック。
そして、ルクスリリアは、薪を割るようにして深域武装を振り上げた。
「
「ぎぃっ……!?」
大上段の全力振り下ろし。即座に魔力盾を張ったグレモリアさんだったが、バリアごと攻撃されて地面に叩きつけられた。
砂煙が舞い上がる。ルクスリリアは着弾地点へ突貫し、やがて重なった影が動きを止めた。
「ざっと5回分……これくらい、うちのご主人なら一晩で終わらせてくれるッス」
「そんな、馬鹿な……!?」
砂煙が晴れる。そこにあったのは、仰向けに倒れるグレモリアさんと、その首のすぐ横に鎌を突き刺したルクスリリアという光景。
勝敗は明白だった。首を斬られても死なない魔族だが、再生中に滅ぼされて終わりである。決着がついたのだ。
ルクスリリアは地面に突き刺さっていた鎌を引き抜き、コマンドーのシュワちゃんのように見得を切った。
その顔には満面のドヤ顔。敗者を見下ろす視線には、嘲弄や侮蔑といった負の感情は見受けられなかった。
「……負けましたのね、わたくし」
「ッス。生まれて初めて、グレモリアに勝ったッス!」
それから、ルクスリリアは敗者に背を向け、しっかりとした足取りで戻って来た。
途中ラザニアを鎌に戻し、荒ぶっていた魔力もゆっくりと沈静化させながら。
恐らく、ニーナさんの言う通り、普通にやったら五分五分の戦いになっていたのだろう。
意図的な魔力暴走。ストックしていた精と、女王の呪いに任せた強引に過ぎる能力の引き上げ。
例えるならそれは、元気玉を吸収した上で界王拳を発動するようなもの。
効果は絶大で、言うほど危険な技術ではないのだろう。だが、俺視点ぶっちゃけ肝の冷える技である。
いくら削れた寿命は回復できるとはいえ、途中で切れたらどうするんだという気持ちになってしまう。
いや、戦いで負けたらそこで終わりなのだから、ある意味合理的ではあるのか?
「凄いわね、あんな奥の手を隠していたなんて。恐ろしいとは思うけれど……」
「で、でも一気にあれだけ消費してて、ちょっと怖かったです……」
「そうですね、普段から使う事はできないでしょう。訓練も必要かと」
「うッス! ここぞという時だけ使うッス!」
凱旋したルクスリリアに、皆から賛辞が贈られる。彼女はこれでもかというほど得意げな顔になっていた。
俺は俺で、コメントに困っていた。魔力暴走について言いたい事があったし、その源泉について部外者の前で言うのも抵抗があった。
「ご主人、アタシ勝ったッスよ!」
が、まぁそれはそれ。
故郷で最下層にいたルクスリリアがエリートを倒した。本人にとって、それはとても大きな事なんだろう。
なら、言って欲しいであろう事を言ってあげるべきだ。
「ああ、よくやった」
俺はルクスリリアの頭を撫でた。
手のひらにふわふわした感触。戦士のソレとは思えない、最高に触り心地の良い頭だ。
「きひひ♡」
頭を撫でられて、ルクスリリアは嬉しそうに笑った。
メスガキ性のない、ピュアな笑みだ。
しばらくすると、立ち直ったグレモリアさんがやってきた。
その身の傷は完治していたが、汚れはどうしようもない。けれどその表情は晴れやかだった。
「完膚なきまでに敗北しましたわ。まさか、あのルクスリリアがここまで強くなってるとは」
「うッス! アタシ等、愛されてるんで」
「言ってくれますわね」
ドヤりつつ、腕を絡ませてきた。子供が甘えるというより、完全にノロけのムーブである。
そんな様を、淫魔二人が見ていた。淫魔相手じゃバレているのは分かっているが、恥ずかしいのと無意識マッポ警戒で身体に震えが走った。
「そうね……」
グレモリアさんは重いため息を吐き、どこか遠くを見つめてしみじみと云った。
「淫魔にとって本当に足りないものは、愛なのかもしれませんわ……」
「かもしれませんね~。母を見ていると、そう思う事があります」
愛。そのワードに、俺は引っかかりを感じていた。
ルクスリリアの言う通り、俺はルクスリリアを愛している。
が、彼女と俺は奴隷と主人。そこに健全な愛があるとは、俺の感覚では納得し難い。
けれど、屈託なく笑うルクスリリアには、一辺の曇りもないように思われた。
最も自分を疑っているのは、誰でもない自分だった。
「わたくしも、貴女達やシルヴィアナ様のように、愛すべき雄……いえ、愛する殿方がいれば、負ける事はなかったかもしれませんわね」
過去を振り切るように零した言葉で、一件落着といった雰囲気。
今回の一件は、コレでおしまい。
そういう流れだ。
「ほぉ~ん? なんなら試してみるッスか?」
「ん?」
が、そこを混ぜっ返すのがルクスリリアだ。
リリィはグレモリアさんに近づくと、何事かひそひそ話をした。
「いいッスか? まず……」
「えっ? そんな事は、流石に……」
なんだろうと見ていると、ルクスリリアと目が合った。
いつものメスガキスマイル。分かるぞ、あれは悪い事考えてる顔だ。
「えーっとぉ、じゃあ今からご主人に魔法かけるんで。抵抗しないで欲しいッス」
「ん、まぁ」
特に考えず首肯すると、ルクスリリアは集中して魔力を練りはじめた。
「行くッスよ。対象指定、魔力過剰充填……オラッ“堕落”!」
魔法触媒でもある大鎌から、吸うとヤバそうな謎スモークがポワッと解き放たれる。言われた通り、俺はそれを無抵抗に受け入れた。
かけられたのは精神異常耐性を弱体化させる魔法だった。これをして何になるのだ。
「で、では行きますわよ。皆さん、これを使った事は内緒にしておいて下さいましね……?」
続いて、グレモリアさんが魔法を編み上げた。
「対象指定、魔力過剰充填……ゆ、“誘淫”ッ!」
まるでダンボール空気砲でも飛んできたかの様。当たるとヤバそうな紫色の煙にも、俺は無抵抗に当たってみせた。
「おっ!?」
効果は劇的だった。
着弾と同時、俺の理性はガタガタになり、とにもかくにも即情交という気持ちで一杯になった。
股間もギンギンで感情がパーフェクト中二男子。イカした下半身装備に見事なテントを建てていた。
これが話に聞く淫奔魔法か。なるほど、これはキツい。
「ご主人、こっち見るッス♡」
見ると、ルクスリリアは口元でOKサインを作り、舌を出して流し目を送ってきた。
瞬間、俺の仙椎から脳にかけて、鋭くも甘い電流が迸ったのが分かった。なんだあのロリ、可愛いしエロいしめっちゃエロいし可愛い。
光に寄ってく虫の様に、俺はどちゃシコ淫魔に引き寄せられていった。その横では金髪女がくねくねしていたが、どうでもいい。
「リリィ……!」
欠片ほどの理性が人前だぞと叫んでいる。だが、股間のフォースで感じるオナ禁・誓イウォーカーは秒でダークサイドに堕ちたのだった。
俺はルクスリリアに接近して、半ば強引にキスをした。
「んぶっ♡ ぢゅずずっ、ちゅ、ちゅっ♡ ぢゅるる、ぢゅぅぅ、れろ♡ レロレロぉ、ぢゅるる♡」
「なっ? なななっ……!?」
角を掴んで、半ば無理矢理ディープキスを敢行した。
風情もクソもない。洋画の様な激しいベロチュー。相手の事なんて一切考えてない、自分が気持ちよくなる為だけの舌の動き。
装備を外すのももどかしい。俺は情けなくヘコヘコと股間を擦りつけていた。
「はいはい、そこまで。
全身に回復魔法を受けた感覚。これは状態異常を治す奴だ。さっきまで靄のかかっていた思考がクリアになった。
慌てて唇を離すと、ルクスリリアとの間に唾液の橋が架かっていた。トロンとした瞳と、ベトベトになった口元が最高にエロい。再起動しそう。
「あ~ん♡ もうちょっとだけいいじゃないッスか~♡」
「時と場を弁えなさい」
肩を引っ張られて、ルクスリリアと距離を離される。
エリーゼは呆れたお顔だ。グーラも口元を押さえて顔を赤らめていた。ニーナさんは謎のアルカイックスマイルを浮かべていた。
あと、グレモリアさんは金魚みたいに口をパクパクしていた。
「あっ……」
ていうか、ヤバい。見られた。
いや、相手は淫魔だ。俺と彼女らの関係はバレているだろう。が、それでもロリとの濃厚接触を見られたのは肝が冷える。
ルクスリリアが地球基準でロリかどうかで言うと議論の余地があるだろうが、俺内会議ではロリ判定である。そうなるともしポリ案件だ。
ツーッと、俺の背筋に冷たい汗が流れた。右手がグーで左手もグーで現行犯か。
「ウッ……!」
断末魔めいた声。すぐ隣で、グレモリアさんの顔面がグシャっと作画崩壊していた。
ルクスリリアは、勝ち誇るように口元の涎を拭った。
「よく見たッスか? これがアタシとご主人の愛ッス!」
「うっ、うぅ……!」
かと思えば、グレモリアさんはポロポロと涙を流し始めた。
ドヤ顔のリリィだったが、相手が泣き始めた事でちょっと狼狽してしまっていた。俺たちもいきなりの涙にびっくりである。
「あんまりですわ……」
「え?」
「あんまりですわぁ……」
脱力したグレモリアさん。膝が折れ、ばたんとそのまま大の字になって倒れていった。
そして、空を仰いだグレモリアさんの目から、噴水の様な涙が噴出した。
「あァァァんまりだァァアァ! AHYYY AHYYYY! AHY! WHOOOOOOOOHHHHHHHH!」
天まで届けとばかりに、ジタバタしながら赤子めいて大泣きする豊満女性。
これには何事かと全員の目が点になった。困惑。困惑である。ビックリの次は、引くより先に困惑が勝った。
「えと、あの……グレモリア? なにもそこまで……」
「あぁぁぁぁぁぁ! もうやだぁぁぁぁぁぁぁぁ! おうち帰るぅぁあああああ!」
幼児退行したように、グレモリアさんは身体を丸めて泣き続けた。せっかくの美貌が涙と鼻汁と唾液でぐちゃぐちゃである。
流石にこれは見てられない。俺はニーナさんに視線を向けた。
「あの、グレモリアさん? 大丈夫、大丈夫ですからね。話は聞くから、酒場かどこか行きましょう?」
「ほっどいでぐれぇえええええええ! ひぃぃぃぃぃぁああああああ!」
「いえそういう訳にも……」
慰めようとするニーナさんに、それを突っぱねて大量の涙を放射するグレモリアさん。ニーナさんはどうしたもんかと困り顔。
すると、グレモリアさんは右手を胸に左手を股間にやり、激しい手つきで大事なトコを弄り始めた。
ていうか、オナ……セルフプレジャーを開始した。いや何で!?
「えぇ……?」
これにはニーナさんも引いた。
俺は反射的にルクスリリアを抱えてエリーゼたちを庇う位置についた。
得体の知れない怪物を見た気分である。抱っこしていたルクスリリアを後ろに下ろし、身に染みこんだ警戒態勢を取った。
「ご主人様、グレモリアさんは何故泣いている時に股間を触っているのでしょう?」
「見ちゃいけません!」
「わっ?」
それからグーラの目を塞いだ。ナチュラルスケベであるルクスリリアや100歳超えのエリーゼならともかく、あの光景はグーラの今後に良くない影響を与える。
いや良くない影響でいうならロリコンの俺のがよっぽどなんだが、今はいい。
それから無意識に件の淫魔の方を見ると……。
ロックンロール女と目が合った。
慟哭中の金髪淫魔は、パッキパキにキマッた眼で俺を見ていた。
深淵を覗く時、深淵もまた己を覗いているのだ。
「うわ……」
恐らく過去一のドン引きに、我知らず無感情な低声が漏れた。
そして、深淵のモンスターであるところの当人は……。
「うっ、くぅぅぅッ……! あっ……♡」
ラルク♡ アン♡ シエル♡
世界一ピュアな水。
鍛錬場の空に、色鮮やかな虹が架かりました。
この虹を思い出して、いつかきっと泣いてしまう。そんな気がした。
「ひっ? なによこの女……!?」
「あぁそういうのは一人で……」
「えっ? えっ? 今の音は何ですか……?」
びくんびくん。
お通夜みたいな雰囲気の中。グレモリアさんだけが恍惚とした表情を浮かべていた。
「……ごめん、やり過ぎたッス」
ルクスリリアの謝罪が、広い鍛錬場に虚しく響いた。
〇
「これで勝ったと思わないことですわぁあああああ!」
そう言って、グレモリアさんは転移神殿を出て行った。
泣き止んだ後も、羞恥に悶えてどうしようもなくなり色々と限界を迎えてしまったらしい。
「この度は大変なご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありませんでした……!」
彼女を追って、ニーナさんも神殿を出た。
この後、二人で呑みにでも行くのかな。もう百合の花咲かせちゃえばいいと思う。
「戦ってもいないのに、なんだか疲れたわ……」
「だな。ちょっと早いけど、お昼にしよう。グーラは何食べたい?」
「え? えっと、じゃあ……」
あの後、なんかもうそういう雰囲気じゃなくなってしまったので、午後からの訓練予約は全てキャンセルさせてもらった。
一応こっちの都合でキャンセルしたので、ヘイトを買わない為に待ってた人には酒一杯ほど奢っておいた。
「いやー、グレモリアの奴、まさかあそこまで拗らせてたとは思ってなかったッス」
グダグダになってしまった午前。グーラの希望で、俺たちは屋台巡りをする事にした。
その気になれば王都は一日中食べ歩きができる。噴水広場だけじゃなく、普段行かない通りにも足を伸ばした。
「
「あぁ、竜族権能で作ったっていう奴ね……。名前だけよ、問題ないわ。というか、牛人だって牛肉食べるでしょう?」
「あ、確かに……!」
お祭りでもないのにお祭りみたいな通りで、銀と黒の二人はアレコレ物色していた。
その後ろを、俺とルクスリリアはついて歩いていた
最初からある程度仲の良かった三人だが、最近は姉妹の様な関係を築いている。
あそこに混ざるのは、何となく無粋な気がした。
「ねえ、ご主人」
「ん? おっと……」
声に反応すると、突然背中に重み。細い腕が俺の首に回されている。ルクスリリアをおんぶしている格好だ。
唇の動きを耳朶で感じられる程の距離。耳元に息がかかる。童貞でもあるまいに、俺の胸は思春期男子の様に高鳴った。
「ご主人、最近悩んでるッスよね」
俺だけにしか聞こえない囁き声。
表情には出なかったと思うが、少しドキリとしてしまった。
絶対に隠し通したかった訳でもないが、指摘されて喜ばしい気持ちにはならなかった。
「ご主人、前はそんな事なかったのに、今は一緒にいても寂しそうな顔してる時あるッスよ」
「……ああ」
思い当たる節はあった。
幸せ過ぎる今を、それを手放す時を、俺は恐れているのだ。
解放、離別、そして孤独。
前までなら余裕だった独りが、今は想像するだけで苦しい。
俺の死後について、彼女達には話してある。
財産の分配や、死後の処遇について。俺は俺が消えた後の事を、思ったよりドライに受け止める事ができた。
けれど、解放については今になっても彼女達に話せていなかった。
怒るか、喜ぶか、悩むか、憂うか、驚くか。どうなるかなんて俺でもある程度わかっているというのに、それでも言いだす事を怖がっていた。
この懊悩は努めて表には出さないようにしていたが、ルクスリリアにはバレていたらしい。
あるいはエリーゼやグーラも気づいているのかもしれないが。
「まっ、アタシに言わせりゃ、ご主人もエリーゼもグーラも考え過ぎの悩み過ぎなんスけどね~」
首に巻かれた腕が動き、頭を撫でられる。
ロリだというのに、落ち込んでる子供を慰めるような優しい手つきだった。
「……安心していいッス。何があっても、アタシはご主人から離れたりしないッスよ」
するりと、常の彼女らしくない声音が俺の耳に染み込んできた。
都合の良すぎる言葉だ。無意識な防衛本能が発揮されても、俺は彼女の甘い囁きに抵抗できなかった。
安心する。勇気が出る。俺というロリコンは、まんまと彼女に操縦されていた。それでいいと思うのは、心の弱さ故なんだろうか。
「皆、ご主人が好きだから傍にいるんス。例え、ご主人がご主人じゃなくなっても、今と何も変わらないッスよ」
「そうか……」
言いたい事は言い終えたとばかりに、背中の重みが消失した。
チート特典持ちの俺だが、嘘を見抜けるスキルやチートの持ち合わせはない。
騙されてもいいのは、その通りなのだ。ここにきて、俺はようやっと覚悟を決める事ができた。
更に一歩進む勇気だ。
屋台の方では、エリーゼとグーラが見慣れない果実について話していた。続いてルクスリリアもそれに混ざっていった。
その首には、奴隷の証が掛けられていた。人を物として扱うという証。
いつか俺は、これを自分の手で外すのだ。
「あっ、ご主人様、見て下さいコレ! そのまま食べられるそうですよ!」
「詳しくはないけれど、身体に良いらしいわ。アナタは貧弱な人間なのだから、たまにはこういうのを食べるべきではないかしら?」
とてとて寄ってきて、買ったフルーツを見せてくる。前世で見た事のない形だ。形はリンゴに似ているが、色は金色である。
異世界の不思議フルーツだ。地球じゃあり得ないソレを手に取り、促されるままかじってみた。
「んくっ!?」
色はゴールド形はリンゴ、食感イチゴで味レモン。
口いっぱいに広がった想定と違う味わいに、思わず目をキュッと瞑ってしまった。
「ふふふっ……なによ、その顔は」
どうやら、酸っぱさに耐える俺の顔芸が面白かったらしい。
皆が笑っていた。ルクスリリアはにまにまと、エリーゼはおしとやかに、グーラは顔の下半分を隠して肩を震わせていた。ていうか、果実店の店主まで笑っている。
「あぁ……そうだな」
なんてことの無い日常。
何よりも守りたいのは、コレなのだ。
よし、くよくよタイムは終わりだ。
これ以上、引き延ばしても仕方ない。言うだけ言って、後は流れだ。
覚悟は決まった。決めたなら、行動だ。
考えている事、全部。
今日、俺は彼女等に伝える事にした。
現在と未来と、それから俺の過去について。
これからも、異世界で楽しく生きる為に。
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ラルカンシェルって読む方が正しい発音に近いらしいですね。
あと、タイトル見てみてください。そういう事です、ごあんしんください。