【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で続いてます。
 誤字報告もありがとうございます。お陰で続いています。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
 レギュにある通り、いつ出るとか出る出ないとかは作者の独断と偏見で決めます。

 今回は主人公クソボケ回。
 41話で「深く考えるべきじゃない」と保留してたやつですね。
 なお、深く考えた結果……。


何故、ロリコンが異世界に来たのか誰も知らない。

 ルクスリリアたちの解放。

 いつかはと思い、後の事は話したものの、その旨を伝える覚悟ができずズルズルと先延ばしにしてきた。

 そして、今日この日、当の奴隷の激励により、俺はようやっと覚悟を決める事ができた。

 

 彼女たちを、俺が愛してしまった人を、この関係を。

 退くにしろ、進めるにしろ。このままにしてはいけない。

 奴隷と主人のままなど、あっていい訳がない。

 

 

 

 その夜、三人と机を挟んで向かい合い、俺は彼女等に多くの事を話した。

 解放についてや、その時期や理由について。

 解放後の援助についても話した。

 

 衣食住の提供に、金銭面の支援。解放したからと、ハイサヨナラという事はしないとはっきり伝えた。

 望むならば、正式に冒険者として一党に加わるとか、お手伝いさんなり何なりで就労の援助をするつもりだ。

 しっかりと自立できるまで、責任を持って支えるつもりである。

 

 途中、話題が脱線する事もあった。

 そう思うまでの経緯を話す中、俺は俺の過去……前の生活についても話した。

 

 これまで彼女等には、日本は異世界にある俺の故郷だとしか言っていなかった。

 なので、日本における基本的な価値観や、俺の境遇なども、彼女たちに伝わるよう噛み砕いて説明した。

 

 日本の話をする上で、俺は若干捨て鉢な気持ちで自身の性癖についての話もした。

 俺は昔から幼い女の子が好きで、子供っぽい体型が好きで、背丈が小さい女にしか興味関心が持てない。いつの間にかロリかロリ以外かで線引きするようになり、今となってはもうどうしようもなく性根が歪んでしまっている事。

 そして、それが異端で異常な世界であった事も話した。その価値観が、未だに無意識にこびりついている自覚がある事も。

 

 俺はルクスリリア達が好きだ。

 本音を言うと、ずっと一緒に居たいと思う。

 だからといって、好きな子を奴隷のままにしたくなかった。

 そのくせハーレム願望は残ってるあたり、何とも言えないが……。

 

「だから、準備が整い次第……俺は君たちを解放しようと思ってる」

 

 考えつく範囲の事を話し終え、俺はこのように締めくくった。

 途中から彼女たちの目を見れなくなり、俯いてしまっていた。

 

 どんな目を向けられているか、知る事が恐ろしい。

 だが、甘んじて受け入れるべきだとも思う。

 

 俺は努めて意思を強く持ち、顔を上げた。

 すると、目の前の三人は何とも言えない凄く微妙そうな表情をしていた。

 

「そッスか」

「ふぅん」

「はあ」

 

 ルクスリリアは「何言ってんだコイツ?」みたいな表情。

 エリーゼは、しらーっとジト目の呆れ顔。

 グーラは、きょとんとしていた。

 

 喜怒哀楽のどれかが来ると思っていただけに、これは予想外であった。

 

「えーっと……」

 

 ルクスリリアは二人の表情を見た後、角をポリポリしながら言葉に迷っていた。

 ごく短いアイコンタクトの後、不承不承先陣を切る様にしてこう言った。

 

「あの~、ご主人、アタシ等の自由とか意思とかそのへん尊重してくれてるってのは、まぁ分かるんスけど……。とりま一言いいスか……?」

 

 角から手を離し、真っすぐ俺の目を見て、云った。

 

「ご主人、ちょ~っと独りよがりだと思うッス……」

「え……?」

 

 我知らず漏れた俺の間抜けな声を流して、ルクスリリアは続けた。

 

「というか、こっちの気持ちを考慮してくれてないというか……。これも、感覚の違いなんスかねぇ?」

「かもしれないわね。加えて言うなら純粋に考え足らずよ」

「あの、すみません……。ボク、その……ご主人様の言ってる事、よく分からないです……」

 

 ルクスリリアの発言に、残る二人も乗っかってきた。

 表情は変わらず、三人とも微妙そうな顔で俺を見ている。

 責められてるというか……馬鹿を見る目に近い気がする。

 

 反応に困っていると、ルクスリリアが前髪をクルクルしながら口を開いた。

 

「え~っとぉ……。まず、ご主人の奴隷って身分……アタシ等は、ご主人が思ってるほど悪い暮らししてないッス」

 

 考えながら、言い聞かせるように言葉を落としていく。

 歯切れが悪く手探りで、それでも俺に伝わるように、彼女は真剣に考えてくれていた。

 

「淫魔のアタシからしたら、毎日愛されながら吸精ができる生活なんて、マジ勝ち組なんス。それはもう知ってるッスよね?」

「まぁ」

「それに、奴隷身分っつっても、割と得してる事多いんスよ。淫魔の場合、普通なら故郷で試験受けて合格した奴だけがラリスに行けるんス。もし今のまま解放されたら、アタシ母国に強制送還されちゃうッスよ。したらまた元のひもじい生活に逆戻りッス」

「それは、そうなのか……」

「そうッス。日本じゃどうだか知らないッスけどね、こっちじゃ下手に自立して自由に生きるより、強者の庇護下で生きる方が楽だし得なんスよ」

 

 そう言われてみると、そうなのかもしれない。

 頭では分かっていたつもりだったが、無意識に自由を最優先した思考があったのか。

 自由に生きるという以前に、生きる自由が担保されていないとどうしようもないのか。最近、この物騒な世界で生きる事の不安定さを忘れがちな気がする。

 けれども、それは力があれば何とかなるはずだ。試験にしたって、今のルクスリリアなら大丈夫なのではないだろうか。その為にダンジョンに潜ってレベリングをしているのだから。

 

「私からもいいかしら?」

 

 そう思っていると、続いてエリーゼが口を開いた。 

 

「奴隷のが得……というのとは別に、解放すべきではない理由があるわ」

「それは?」

 

 訊くと、エリーゼは詰まる事なく、ごく当然の道理を説くように答えた。

 

「身柄を狙われるもの。特に私とグーラは」

「ぼ、ボクもですか……?」

「ええ」

 

 怯えるグーラに首肯し、エリーゼは言葉を継いだ。

 

「よほどの馬鹿でもない限り、私が銀竜剣豪の血族である事は一目で分かるわ。そうしたら、必ず誰かが捕らえにくる。グーラもそう、混合魔族(キメラ)なんて有用な希少種、欲しがる下衆は多いのだから……」

 

 それにと続けて、小さな唇を動かした。

 

「これまで、私は銀色の装飾品としての価値しかなかったけれど、今では魔力貯蔵庫としての価値が生まれているの。軍からすれば、私は喉から手が出る程欲しい存在でしょうね」

「確かに、前線砦にエリーゼが一人いれば不死身の軍の出来上がりッスね」

「言っておくけれど、私はそんなの御免よ。竜の力は私の意思でのみ使われるべきなのだから……」

 

 これまた言われてみれば、である。

 魔力無限のチートドラゴン。その力はダンジョンよりも、むしろ衛生兵とか拠点防衛でこそ真価が発揮される。

 そうなると、欲しがるのは人攫いだけじゃない。武闘派の貴族や、あるいは王家が欲しがる可能性もあるのか。そうでなくても客将かその辺で雇われるとか。

 

「一応、解放した後もそういう人たちに手を出させない為にダンジョンに潜ってもらっているんだけど……」

「そうね。けれど、私は嫌よ。いつ襲われるか分からない生活も、気に入らない誰かの下に就くのも、義務として権能を振るうのも……」

 

 エリーゼは、どこまでも自分と世間を切り離しているようだった。

 貴族の義務とは言うが、それ自体を嫌っている。ある意味、彼女の心は既に自由なのか。

 

「その点、アナタの奴隷なら、簡単には手出しできないでしょう? 何処かの愚王や低脳竜族ならともかく、ただの拐かしからすれば銀細工を敵に回す事ほど怖いものはないのだから……」

 

 言いたい事は言い終えたとばかりに、エリーゼはお茶を一口。

 知らない訳でもなかったろうに、俺は彼女に言われるまでちゃんと考慮できていなかったらしい。軽く見ていたというか、一年未満の浅い経験を基に異世界の暴力性を測っていた。

 何より、普段見せないエリーゼのスタンスにも配慮できていなかった。彼女の言う通り、考え足らずだ。

 

「じゃ、じゃあ、ボクからもよろしいでしょうか……?」

 

 おずおずと、グーラが手を挙げた。

 律儀なグーラに視線で促すと、彼女はなおも言葉を選びながら口を開いた。

 

「その、ご主人様がロリコン? だから、ボクたちとの関係が不純というのが、よく分かりません……」

「いや、え? どういう……」

 

 彼女が分からないと言っている事が、それこそ俺には分からなかった。

 だが、ルクスリリア達の話を聞いた現在、それは前の俺が当然として持っていた価値観によるものだと気が付いた。

 

 ロリコンは犯罪者予備軍。

 ロリとの接触は事案。

 ロリコンのロリへの感情は異常。

 

 そういう風な環境で、ルールに従って生きてきた。俺も俺で自身をそれに近しい存在だと認知していた。

 だからごく自然に、今の環境を作った俺は加害者なのだと思っていた。著しく抵抗が困難な状況では、あると思うし。

 

「ご主人様がロリコンだと、何か拙い事があるのでしょうか?」

「そりゃあ……」

 

 転移してしばらく後、俺はその辺についても調べていた。それでいうと、ラリス王国に性交同意年齢なるものはない。そも、俺がロリと判断してるだけで、彼女等は既に成人年齢である。

 異世界じゃ奴隷も性交も合法だ。にも関わらず、僅かに心に引っかかる。法だけでなく情緒の根底までも、俺は前のままであった。

 

「転移神殿では、様々な男性のお話が聞けます。胸が大きい女性が好きだとか、背が高い女性が好きだとか。しかし、そういう情動があって初めて、人は愛を育めるのではないでしょうか。父も、母を選んだ一番の理由は美しさだと言ってましたし……」

 

 グーラはぽつぽつと、けれどしっかりと言葉を紡いだ。惑いながら、自分なりに考えて自分の意見を言うようになっていた。

 以前は何をどうする時も此方の顔色を窺っていたグーラだ。そんな彼女は今、本心で話してくれていた。

 

「なら、胸が小さくて、背が低い女性を好きな事の何が問題なのでしょうか。仮にその情動が不純であっても、それによって築かれる関係は不純なままなのでしょうか?」

 

 それにと、褐色の文学少女は続けて云った。

 

「ご主人様が仰る通り、ご主人様が重度のロリコンだったから、ボクは今もこうして生きていられます……」

 

 言って、まつ毛を伏せたグーラは、あの夜の事を思い出している様だった。

 犯罪者集団に襲われ、偽の依頼で貴族に討伐されかけた夜。

 あの時は俺も大分ハイになっていた。それも、完全に我欲で……。

 

「助けて頂いた後も、美味しいご飯を恵んで頂き、生きられるようにと鍛えて下さっています。父以外の誰にも愛されない、こんなボクを愛して下さいます……」

 

 上目遣いの黄金の瞳と視線が合った。丸く、幼い目だ。小動物的な可愛らしい瞳には、地に足着いた意思が感じられた。

 

「そんなご主人様を、ボクがお慕いするのは、いけない事なんでしょうか? この気持ちは不純なのでしょうか?」

 

 ある意味、俺が知る範囲で最も奴隷らしい振る舞いをしていた彼女が、こんな事を言ってくるとは思っていなかった。

 好き好きオーラ全開のルクスリリアやエリーゼと違い、グーラはそういうのを表に出さないのだ。

 てっきり、グーラこそ現状から抜け出たいものだとばかり思っていたが……。

 

「そ、それとも……」

 

 かと思えば、今度はもぞもぞしながら顔を赤くした。

 

「ぼ、ボクの発情期がまだだから、ダメなのでしょうか?」

「発情期? な、なんで……?」

 

 発情期とは、多くの獣人や獣系魔族がなるという繁殖可能状態の事で、まぁその通りである。

 確かに、混合魔族ではあれど獣系であるグーラは発情期じゃないと妊娠できないらしいが……。

 いきなりそんなワードが出てきて、俺の脳に追加の衝撃が走った。

 

「ご、ご主人様は、夜伽の際によく、妊娠を希望される言葉を仰るので……」

「……あぁ~、いや、それは」

 

 ここにきて、俺はやっと彼女の言わんとしている事の意味が分かった。

 夜の俺が口走る文言だ。それは盛り上がった時に出ちゃう発言であって、本心ではあれど本気じゃないというか。

 

「違うのですか?」

「うん、まぁ……希望してない訳じゃないけど。でなきゃダメとか、そういう気持ちは全くない、というか……」

「そう、でしたか……安心しました」

 

 そう言って、ふんわり笑うグーラ。

 妊娠を希望……というか、前々からグーラは母になる事に執着している様だった。

 いや、それはルクスリリアとエリーゼもそうと言っていて……。

 

「あぁ~……そっかぁ……」

 

 重い息を吐いて、俺は背もたれに体重を預けた。

 三人の話を聞き、俺はようやっと自分が独りよがりで悩んでいた事を心底感得した。

 

 解放も何も、俺は俺の感覚で勝手にそれが幸せだと決めつけていただけだ。

 相手の意思を尊重し、感情にも配慮しているつもりだった。

 が、ルクスリリアの言う通り、それはただの独りよがりで、いざ話してみたら前提が崩れてしまった。

 

 結局のところ、俺は彼女等を型にはめようとしていたのだ。

 俺の罪悪感を拭う為の型だ。それこそ、相手を個人として見ていない、極めて傲慢な思考だ。

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐き、思い知る。

 俺は、やり直したかったのだ。

 

 奴隷と主人じゃない。彼女達と改めて関係を作り、本当の意味で彼女等の主人になりたかった。

 叶わなかった恋。後ろめたい青春。普通じゃない自分。前世で出来なかった事を、せめて今より社会的にまともとされる愛を築きたかった。

 俺の幼稚な潔癖さが、尤もらしい理由で相手を慮ってる気になって、挙げ句当の彼女等の言葉によって浅ましく安堵を感じてしまっている。

 

 ロリコンとか何とか関係なく、マジで情けない。

 チートがあって、ステータスがあって、夢を叶えられる様になって。

 ここまで恵まれた環境で、クソボケな勘違いをやらかして……。

 

「ごめん、配慮が足りてなかった……。どうかしてた……」

「はぁ~、前々から思ってたッスけど、ご主人って面倒臭い性格してるッスよね。日本人って皆そうなんスか?」

「どうだろう、繊細さんは多いかな。ていうか、俺はナイーブじゃない……と思ってた」

「話に聞くと、とても豊かな国の様に思えるのですが……」

「分かったでしょう? 私達の気持ちが。努々、忘れないように」

「はい」

 

 俺は聖帝じゃない。退くし媚びるし顧みる。エリーゼの忠告に、深々と頷き反省した。

 

「まぁそれでも、アナタの言う事が全く分からない訳ではないわ。だから、この私が迷えるアナタを導いてあげる……」

 

 言うと、立ち上がったエリーゼは、俺の所まで近づいてきた。

 それから、左右の手で俺の頬を包み込むと、至近距離で目を合わせた。

 

「エリーゼ?」

「黙って聞きなさい」

 

 座ったままの俺と、立って見下ろすエリーゼ。

 そして、柔らかな笑みと共に、厳かな声が授けられた。

 

「私達の為に、強くなりなさい」

 

 まるで、神託を授ける女神の様。

 空を切り取ってきたような紺碧の瞳に、哀れな男が映っていた。

 根っからの上位者が、俺という矮小な人間を見下ろしている。しかし、そこに竜の怜悧さはなく、どこまでも甘い信頼が感じられた。

 

「私達をまとめて守れるくらい、圧倒的に強くなりなさい」

 

 異世界らしいパワー系の発言。

 力が物を言う世界で、女を守る為に強くなれと言ってきた。

 それは、現代地球の社会正義的には各方面で物議を醸しそうな、原始的でシンプルな物言いだった。

 

「銀細工程度、鎧袖一触できるくらい。貴族も王家も、誰も手を出せなくなるくらい……」

 

 例え、この世界に溢れる危険が相手でも。

 例え、異世界にある法が相手でも。

 例え、彼女等の身を狙う超級の強者が相手であっても……。

 

「強くなってから、解放なさい」

 

 女を守る。ただそれだけの為に。

 強くなり、我を通せと言ってきた。

 原始的な理由だからこそ、こんな俺でも理解も納得も容易な指針だった。

 

「そして、私と結婚しましょう?」

 

 言って、幼い美貌に妖艶な笑みを浮かべるエリーゼ。

 脳が、震える。超ド級ロリ美少女からの求婚に、俺は完全に固まってしまった。

 

 結婚……。

 

 希望してなかったかというと嘘になる。それは彼女たちを解放した後、改めて関係を構築し、何かこう上手くいったら申し込むつもりだったのだ。

 彫像となった俺を無視して、エリーゼは俺の耳元に唇を近づけ、ベッドの上しか聞けない媚び全開の声音で囁いた。

 

「ねぇ、私達の“王”になってくださる?」

 

 脳は動いている、意味も理解できる。けれど言葉による返答ができない。

 俺は壊れた人形のように、首をカクカクして頷く事しかできなかった。否はない。むしろ、それが良いという気持ちが湧いてきた。

 これ、マジでどっちが主人か分からないな。

 

「あーッ! 独り勝ちしようとしてる竜族発見伝! 第一婦人はアタシのモンじゃい!」

「あら、淫魔の癖に順番に拘るのね。私はどちらでも良いのだけれど……?」

「ぐぬぬ……なんか譲られたみたいで釈然としねぇッス……!」

 

 テーブルに身を乗り出し、ルクスリリアが騒ぎ出した。感情に呼応して翼が展開している。

 俺の顔を離したエリーゼは身も心も舞うようにしてヒラリヒラリとルクスリリアの口撃をいなしていた。

 静かだった部屋が、一気にぎゃーぎゃーと賑やかになった。

 

「ん?」

 

 見ていると、くいくいと服を引っ張られる感覚。

 いつの間に移動したのか、グーラが袖をつまんでいた。

 

「あの、ご主人様……?」

「なに?」

「えーっと、その……恥ずかしいので、お耳を貸してくださいませんか……?」

 

 言われるがまま頭を寄せると、グーラは二人に聞こえないよう、ぽそぽそと囁いてきた。

 

「母になる前に、ボクもお嫁さんにしてくれませんか?」

 

 ぞわりと、耳から全身に電流が走った。

 それはエリーゼとはまた別のアプローチで、全く以て免疫のない言葉だった。

 ド真ん中ストレート。俺はバットを振る事さえできずにいた。

 

「愛しています、ボクとも結婚してください」

「こ、こちらこそ……喜んで」

「えへへ……♡」

 

 これまたロボットの様にぎこちない返事をすると、パッと離れたグーラは恥ずかしそうに口元を隠し、顔を真っ赤にして笑った。

 感情に連動し、耳と尻尾がピコピコと揺れている。可愛すぎて草、くらいのスタンスじゃないと尊死しそうなくらい可愛すぎて草である。

 

 えっ、ていうか何これ?

 ハーレムじゃん。

 ハーレムだったわ……。

 

 肉体でなく、心が満たされるのが分かった。

 今、本当の意味で夢が叶った気分である。

 

「じゃ、流れでアタシとも婚約成立って事でいいッスね!」

「ブッ!?」

 

 しみじみ思いつつお茶を飲もうとしたら、ルクスリリアの発した婚約という言葉に過剰反応して軽く吹いてしまった。

 

「えー!? ここにきてアタシだけ拒否ッスか!? そりゃねぇぜご主人~!」

「えっ、あぁ今のはビックリしたからであって……結婚は、はい……。俺も望むところというか、結婚を前提に付き合ってくださいというか……」

「じゃ婚約成立ッスね!」

「そ、そうなるか……」

「なによ、結婚の約束をしたのだから、アナタと私達は婚約者でしょう?」

「あっ、ていうか重婚になる……!?」

「あー、もうそういうのいいんで」

 

 心底面倒臭そうに、ルクスリリアはパタパタと手団扇を振った。

 

「アタシ等はご主人が好きッス!」

「はい」

「ご主人はアタシ等が好き!」

「はい」

「じゃ、皆で結婚するッスよ!」

「はい……。あの、いいの?」

「今更っ!? あー、だからもうそういうのはいいんス! ご主人の望みでもあるでしょーに!」

「そもそも、いつも私達を抱いているのは何処の誰かしら……?」

「大丈夫です。村長は三人のお嫁さんがいましたし」

「そうか……」

 

 わいわいがやがや。

 

 諸々の覚悟を決めてはじまったコレも、いつの間にか普段と同じような雰囲気になっていた。

 抱え込んでいたもやもやを吐き出し切って、俺は強張っていた身体の力を抜いた。

 

 あのままにしてはいけなかった。それは確かで、間違いはないと思う。

 けど、俺だけが悩む問題などでは断じてなかった。それもまた、確かだった。

 ホウ・レン・ソウ。俺が教えた事なのに、当の俺が怠ってどうするという話である。

 

「あ、そうだご主人! 今日、決闘で5回分の精使っちゃったんで! 6回分補充してほしいッス♡」

「それは構わないのだけど、私を蔑ろにしてはいけないわよ……」

「まだ発情期は来てないですけど、今宵も可愛がってくれますか?」

 

 こうして、俺の一世一代の告白は、カウンターのロリプロポーズで撃沈し、熱い夜として過ぎていくのであった。

 

 

 

 ちなみに、その夜俺はルクスリリアにフルラウンドの試合を申し込み、KO勝利した。

 

「やっぱり、不純かもしれませんね……」

「強くならないとね、私達も……」

 

 

 

 

 

 

 翌日、転移神殿に行くと、バーの周りに何やら人だかりができていた。

 何事かと見てみると、その真ん中では見知った顔が騒いでいた。

 鬼人剣士のラフィさんだ。先のスーパー銭湯ぶりである。彼はテーブルの上に立って、手に酒瓶らしき物を掲げていた。

 

「いいかよく聞けぇ! これは俺の故郷で作られた最上級の鬼酔酒だ! 鬼人にとっちゃ命の霊薬! お前らにとっちゃ至高の美酒! どうだ! 飲みてぇか!」

 

 うぉおおお! と応じる歓声。男も女も関係なく、荒くれ冒険者たちが騒いでいる。

 鬼酔酒……ああもテンション上がるくらい有名な酒なのか。

 

「エリーゼ、鬼酔酒って?」

「鬼人族が作るとても強い酒の事よ。飲んだ事はないけれど、とても美味しいらしいわね。鬼人にとっては強力な回復ポーションでもあるわ」

「へえ」

 

 酒飲み竜族の話を聞くに、どうやらウォッカかスピリタス的なやつらしい。

 騒ぎの中心では、ラフィさんがDJめいて場を盛り上げていた。ていうか顔が赤い、彼は酒に強い鬼人なはずだが、既に酔っているようだ。

 

「誤発注でな! 俺はこれを二本持っている! だが独り占めはよくねぇよなぁ!?」

「「「然り!」」」

「皆にも! 俺の故郷の味ってもんを知ってもらいてぇ! だからよぉ! 皆にも飲んでほしい訳よ!」

「「「然り!」」」

「しかし! 酒の味も分からねぇ奴にゃもったいねぇ! だもんで、こん中で一番の酒飲みに譲る事にしたァ!」

「「「然り! 然り! 然り!」」」

 

 会場は大盛り上がりだ。酔っても無いのに顔を真っ赤にした酔っ払い候補たちが酒を求めてグルグルしている。

 フロアの熱狂は最高潮。いつも人は多いが纏まりのないギルドでは珍しい光景だ。

 

「西区で一番強ぇ奴! 出て来いやぁ!」

 

 ラフィさんの煽りに、我こそはという冒険者たちが一際大きな歓声を上げた。

 どうやらサバイバル方式であるらしく、クソデカ樽に入ったノーマル鬼酔酒を一杯ずつ飲んで、生き残った奴が勝者になるようだ。

 が、挑戦者たちは一口飲むや否やバタバタと倒れていった。どいつもこいつも酒飲んだだけで死屍累々の様相である。毒では?

 

「クククッ……鬼酔酒か、祝い酒にはちょうどよ……ゴブァ!?」

「トリクシィが倒れた!」

「この人でなし!」

「ゲゲゲ! オデ! オサケ! ダイスキ!」

「へぇ、凄い匂いですねぇ……。さてさて、お味の方は……」

「じゃ、おっさんもちょっくら試してみよっかなっと。ほら、一杯おくんな」

「おいウィード! お前も飲むんだよ!」

「えっ、俺も付き合うのか? しゃあねぇなぁ」

 

 挑戦者は次々と挑み、呆気なく散っていった。その顔は一様に幸せそうである。美味しかったらしい。

 アホな冒険者たちを見て、ギルド職員は呆れていた。止めたいけど酔っぱらってるラフィさんの相手はしたくないって顔だ。

 

「おっ! イシグロじゃねぇか、お前も試してみろよ!」

 

 挑戦者がはけてきたところで、ラフィさんに呼ばれた。

 まぁ試しにと行ってみると、渡された新品のグラスに柄杓で樽の中身を注がれた。

 

「おぉ、アルコールの匂い……」

「クイッといきな!」

「クイッと……よし」

 

 言われた通り、ええいままよと飲んでみた。 

 すると、喉に流れる熱の波。瞬間的に身体が火照るのがわかった。

 おぉ凄い、“酩酊”のデバフはついてないのに、俺の感覚では酩酊している。これもまた異世界七不思議のひとつだ。良質な酒と毒は違うんだな。

 

「おう、次いけるかイシグロ?」

「あぁ~、無理だこれ。美味いけど降参……」

「ご主人ご主人、アタシも飲みたいッス!」

 

 まったり後味を楽しんでいると、ルクスリリアも酒を要求してきた。

 了解を得てから俺が持ってたグラスを渡すと、そこに鬼酔酒が注がれた。

 

「きひひ! これが貴族も愛飲するっていう酒ッスか! じゃ、ちょっと一口……んぎゃ!?」

 

 俺に倣って一気飲みしたルクスリリアは、白目を剥いて倒れた。涎もダラダラでせっかくの美少女フェイスが台無しである。

 ていうか、魔族にも効くのね……。

 

「えっと、ボクもいいですか……?」

 

 グーラも挑戦。すると、ボウと口から火を噴いてからグルグル目になって倒れた。

 淫魔に続き、混合魔族もKOだ。俺は二人を空いてる椅子に座らせた。

 

「あら、美味しいじゃない」

 

 と思ったら、エリーゼは全部飲んでも余裕そうだった。

 

「ほう? もう一杯いってみるか?」

「ええ」

 

 注がれ、呑んで。注がれ、呑んで。

 エリーゼが酒に強い事は知っていたが、こうも蟒蛇だとは思ってなかった。エリーゼは多くの冒険者をワンパンした酒をわんこそばの様に呑んでいた。

 

「オイオイオイ……」

「死ぬわ、あいつ……」

 

 エリーゼが杯を干す度、見ていた冒険者から歓声が上がる。

 気が付けば、皆さんエリーゼの呑みっぷりを肴にして酒を飲んでいた。アレに比べりゃビールなんて水である。

 

「イシグロんとこの! お前鬼人でもねぇのに凄ぇな! おう、持ってけ!」

 

 やがて樽が底を尽きると、満場一致でエリーゼが勝者になった。

 その手には優勝賞品の鬼酔酒。エリーゼの顔はほんのり赤くなっていた。

 

「ごめんなさいね。今日はもう迷宮に行く気になれないわ……」

「そうだな。じゃあ今日は休みにしよう」

 

 俺は少し休めば行けそうだが、それでも皆がベストコンディションじゃないならば行くべきではないだろう。

 見ると、鬼酔酒の影響か転移神殿のあっちこっちで宴会が始まっていた。

 

「飲み足りないわ。頼んでもいいかしら?」

「ん? あぁいいよ」

 

 という訳で、俺らもノリで酒盛り開始。

 恐ろしく健康に悪いが、まぁ今日くらい構わないだろう。

 

「るくすりぃやぁー! 飲み比べで勝負でふわぁ!」

「うわ出た! つか、もう負けてんじゃねぇッスか! アナルに酒瓶突っ込んだりでもしたのかこの変態女!」

 

 開始早々、しれっとチャレンジして敗北していたグレモリアさんが絡んできたり。

 

「えーっと、コレとコレとコレとコレとコレと……」

 

 グーラの食いっぷりに他所の冒険者が驚愕したり。

 

「この鬼酔酒に合うものを適当に持ってきて頂戴……」

 

 エリーゼは最上位鬼酔酒を飲んでいた。銀色の竜に、まだ飲むのかよという熱い視線が突き刺さる。

 せっかくなのでちょっと分けてもらったら、これまた強かった。が、上位モデルは前世込みで一番美味かった。

 

「へえ、鬼酔酒って痛くて熱いんですねぇ……。あ、イシグロさん、どうも。この淫魔は回収しますので……」

「ん、あぁ、おはようございます。ニーナさん」

「やや、イシグロ殿! 今日は道場はやってないのでござるか?」

「どうもシュロメさん。今日は迷宮の日だったけど、お休みかなぁ。ほら……」

「おうイシグロ、今日は迷宮潜らねぇのかい?」

「あ、おじ……受付さん。今日はいいかなって」

「そうか、まぁこういう日も必要だわな」

 

 何時にもまして、今日の転移神殿はお祭り騒ぎだ。

 俺も俺で、異世界ではキツめにセーブしてた酒を朝からしこたま飲みまくった。

 

「牛人女、牛鬼女……。淫魔、魔牛族、鳩人女……。結局のところただの巨乳フェチでは?」

「なんだァ? てめェ……」

 

 例によって神殿内で喧嘩が始まり、それを笑いながらはやし立てて、賭けに参加し盛大に負けた。

 なんか俺のファンを自称する女性にサインを求められたので、日本語でサインしたら気絶された。

 名前も知らない新人冒険者と乾杯し、彼に追加で一杯奢ってやった。

 

「すいませ~ん! 麦酒ひとつ! あぁ瓶ごとオナシャ~ス!」

 

 絵に描いたような荒くれ冒険者ムーブ。

 馬鹿丸出しだが、気分は最高だ。

 

 とにかく、今が楽しい。未来も明るい。

 なんたって、俺は激マブのロリ美少女と婚約しちゃったのだ。

 結婚を諦めてたロリコンが、である。

 

 その為に、俺は強くなる。

 ほどほどに強くなるとかじゃない。マジで誰もちょっかいかけれないような、そういうの。

 

 男として生まれたのだ。これまでは無かったが、一生に一度くらい目指してもいいだろう。

 最強の男……いや、“最強のロリコン”に。

 

「わぁ~、ご主人が酔っぱらってるトコ初めて見たッス~」

「アナタ、酔うとこうなるのね……」

「楽しそうで何よりだと思います。あ、これ食べちゃいますね」

 

 いつか鎖を外すまで、そして証を失くしても、俺たちはこの世界で生きていく。

 けど、エリーゼの言うラインまでは先が長い。

 俺と奴隷の物語は、まだまだ続きそうだ。

 

 改めて、やりたい事は沢山ある。

 とりあえずは、刀と醤油と味噌と……。

 あ、何だかんだ弓も使い勝手良いから、ドワルフさんトコで新しいの買おう。防御用に盾も買おうかな。

 あとあと、何よりリンジュ旅行! 楽しみだ、今からルートとか諸々確認しよう。混浴温泉が俺を待ってるぜ……!

 

「勝った! 第二部、完!」

 

 そんな感じで、今日も酒が美味い。

 ルクスリリアもエリーゼもグーラも可愛い。

 

 うん、明日の彼女達も楽しみだ。




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 主人公、最強目指すってよ。
 次回からリンジュ編です。
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