【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。感想のお陰で頑張る事ができています。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
 基本、作者がボコボコに壊してから使うので、プレス機に投げる感じで気軽にご応募ください。

 今回、前に出たキャラが登場します。
 イスラです。リンジュの侍で、止まり木協会に入った牛鬼です。

 あと、それとは別に前に出たキャラと似たのが出てきますが、別人です。血縁関係ですね。
 ナターリア・ファーリです。王子様との会議にいたハイエナ女戦士です。その血縁者ですね。


シンクロリシティ

 一万時間の法則、というものがある。

 ざっくり言うと、人は何らかの分野で一流になるには一万時間の練習が必要であるという説だ。

 

 大体、1日1時間で28年。1日3時間なら9年。1日8時間なら3年半。

 休日やその他諸々を考慮すると更に時間がかかるだろう。何にせよ、膨大な時間がいる訳だ。

 

 ところで、この世界において俺は銀細工持ち冒険者という、所謂“一流”と呼ばれる立場にある。

 しかしながら、俺という銀細工はチートありきで成り上がった元貧弱一般人だ。

 転移直前、運動なんて殆どやってなかったし、習っていた空手も中学校入学時にやめた。おまけに中高は帰宅部だった。

 そんな俺である。今でこそ鬼殺隊士じみた運動能力を持っているが、チートをオフにした瞬間に俺はフィジカルお化けなだけのゴリラになってしまう。

 チートありきのクソザコナメクジ。ヴェーダに依存しっぱなしで、システムの助けがなきゃその程度のイノベイターもどき。

 今のままでは、例え一万時間を費やしたとしても、俺は“一流”にはなれまい。

 

 私には夢がある。ルクスリリア達と結婚するという異世界ドリームだ。

 皆を守れるよう、結婚する為に最強になる。最強になる前に、一流にならなくてはいけないな。

 地に足着いて強くなるには、各種チートに依存すべきではないだろう。

 卒業するとかじゃない。ただ、ありきの強さじゃ満足できねぇという話だ。

 

 その為に何をするか?

 練習だ。練習あるのみ。地道な反復練習である。

 ぶっちゃけ、それしか思いつかない。

 

「すぅー、ふぅー……。すぅー、ふぅー……」

 

 素振り用の剣を振るう。意識してゆっくりと、足先から手指まで、一つ一つの微細な動きを確かめるように。言うなればスローモーション素振りだ。

 名残こそあれ、普段の素振りと比べるとお世辞にも洗練されているとは言えない剣だ。いつものがプロボクサーの試合前練習だとしたら、今のはボクシング部の朝練である。

 それもそのはず、俺は今、各種チートアシストをオフにして練習しているのだ。

 

 一流になる為だ。チート無しでも動けるように、最低でも溢れ出るゴリラパワーを制御できるようにならなくてはならない。

 だからこそ、基礎を固める。基礎といえば素振りだろうという安直な思考である。

 

 そも、この素振りに意味があるのかは分からない。部活と違い、ここには教導してくれる先生はいないのだ。剣術つよつよロリ師匠とか欲しいと切に思う。

 しかし、幸いな事に、俺には明確な指標があった。モーションアシストくんだ。

 オフ素振りで違和感あれば、オン素振りで確認できる。お陰で誤差を修正できるし、不思議な事に基礎の動きは身体に馴染んでいるので一歩目で躓く事はない。文字通り、身体で教えてくれてるのだ。

 俺はこれを利用し、身体制御を学ぼうというのである。感謝の素振りだ。

 

「うひゃー!? 鎌ってコレ、すんげぇ使いにくい武器なんスね! これなら細剣のがよっぽど使いやすいッス!」

「ダメね……恩恵がないと魔法が当たらないわ。装填のだと、“対象指定”も付与できないし……」

 

 アシストオフトレーニングには、皆にも参加してもらっている。理由は……まぁいいか。

 ルクスリリアは鎌の制御に苦戦していて、エリーゼはエイムアシスト抜きの射撃で的を外しまくっていた。駄目だドク当たらん状態である。

 ずっとモーションアシストありきで武器を振っていたのだ。違和感が凄いのだろう。

 

「ふっ! はっ! セイヤーッ!」

 

 なお、グーラはアシスト関係なしに動けてる模様。

 大剣を振り抜き、流れるようにバックステップ。その圧倒的運動神経は、まさに野生的才能の小宇宙。矮躯のグーラは身の丈以上ある剣をチート無しで手足のように扱っていた。もうチートや、チーターやろそんなん!

 

「すぅー……っ!」

 

 ともかく、アシストを抜いてもステータスは据え置きだ。異世界ナイズドされた俺には“技量”がある。精密操作性が高いのだ。振り下ろし一つとっても、少なくとも転移前より素で上手い気がする。

 それでも、俺はステータスの高さだけで地に足着いているとは思わない。

 

 強くなるだけなら、ステータスを上げればいい。それはそれで最適解だろう。圧倒的なパワーは魔法と区別がつかない。排気量をデカくして、あとはそれを動かすドラテクを身に付ければいい。

 しかし、それで自分以外が守れるかというと、違うだろう。体も技も心も必要だ。ハクスラを続けるだけじゃ、もっと言うと素振りを続けるだけじゃ、すぐに頭打ちがくる。

 

 今の俺は、実戦経験だけがやたらと富んだ歪な冒険者だ。努力と成長のバックボーンとなるものが不足している。

 前世やってた空手の動きなんてアテにならない。授業で習った剣道も全く役に立たない。

 意外なことに、柔道も無意味だ。投げ技や関節技も、ステータス次第で無効化されてしまう。タックル一つとっても、仮にも成人男性である俺よりロリのグーラのが強いの超不思議。

 力も、技も、心も足りない。故、もっとこの世界に適合した武術を習う必要がある。そんな気がする。

 

「はぁー……ッ!」

 

 どっかに、道場的なものとかあればいいのだが。

 それこそ、無職転生世界の奴とか。

 もしあったら、北神流習いたいよな。

 やっぱ立ち回り重視よ。火力は魔術師にお任せって感じで。

 あ、それだと魔術師守れる水神流のがいいのか? うぅ~ん。

 

「スゥーッ! ハァーッ!」

 

 いずれにせよ、彼女等の為だと思えば、地道な練習も苦じゃなかったり。

 ゆっくり、地道に、堅実にやってこう。

 

 

 

 

 

 

 秋と冬の境目、一通りの訓練を終えて転移神殿に戻ると、季節相応の寒さが頬を撫ぜた。

 異世界における正確な日付は分からないが、何となく11月の末って感じがする。だとしたら、もう少しで俺の誕生日だ。

 頑張ってる自分へのご褒美……という訳でもないが、それまでにはお楽しみ要素を解放したいところ。

 

 昨日は火曜の迷宮デーで、今日は水曜の準備・練習デーだ。

 が、色々あって俺は明日で仕事納めのつもりである。そう、待ちに待ったリンジュ旅行だ。明後日以降、準備ができ次第出発の予定。

 楽しみである。俺は足取り軽く歩き出した。

 

「お疲れ、冒険者らしからぬ勤勉さだな」

「おう次はどんな迷宮潜るんだい?」

「てかまた武器変えたんか」

「どうも、皆さんお疲れ様です」

 

 何となく刀の柄頭を弄りつつ、時折声をかけてくる冒険者達に挨拶。

 対人訓練を始めてからちょいちょい知り合いは増えたのだが、酒盛り以後は前にもまして声かけられるようになったんだよな。

 まあ、友達同士でも平気で殺し合えるのが冒険者メンタルだ。いざとなったら、という覚悟だけはしておこう。

 

「すみません。今お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ん? あぁイシグロか。なんだ?」

 

 受付机まで行って、馴染みのおじさんにちょっと質問。図書館でググッても分からないトコを聞きたいのだ。

 迷宮には一家言あるが、俺は異世界の常識には未だに疎い。もしかしたら、冒険者は他国に行けないとかも考えられる。

 なので、俺は受付おじさんにリンジュに行きたい旨を話してみた。注意事項とかあるかなっていう。

 

「あー、まぁ冒険者が他国に行くのは自由だぜ。ギルドがそれを制限する事もできねぇ」

「そうでしたか」

「だが、その国がお前さんを入れてくれるかどうかは別の話だな」

 

 なるほどと思いつつ、おじさんの話を聞く。

 曰く、銀細工持ち冒険者は個人で圧倒的な武力を持っている分、そこらの商人や観光客と同じ扱いはされないらしい。

 国やギルドとしては厳重に管理したいところだが、我の強い銀細工がいちいちそんな言う事聞く訳ねぇと。自由人が多い銀細工を止められる者などいないのだ。

 

「けどま、こっちで書類作れば余裕よ」

 

 なので、強制はしないが自由意志で通行手形的なものをギルドが発行してくれるらしいのだ。低額で書いてくれるが、行き先で問題起こしたらペナルティ大きいよって感じ。

 要は、向こうさん視点アンタ何処から何しに此処に来たんだいってのが分かれば良いという話で、強者自体は何処の国も歓迎するとの事。

 ギルドのお墨付きと、その他細々とした証拠さえあれば基本どこでも入れる便利アイテムだ。

 

「つまり、こっちがイシグロの安全性を保障して、できれば使ったルートとかの証明ができて、且つお前が問題起こさなけりゃいい訳だ。簡単だろ?」

「なるほど。では、今から書いて頂く事はできますか?」

「おう。まぁ細かいトコ書くからな、今回は俺が代筆させてもらうぜ」

 

 言うと、おじさんは机の下から一枚の紙を出して、書き物用の羽ペンを手繰り寄せた。そのままスラスラと筆を走らせていく。俺の名前、冒険者としての位階、奴隷の人数などなど。惑いのない熟練の筆捌き、実に一流って感じ。凄いなー、憧れちゃうなー。

 

「えーっと、お前は何使って移動するんだ? 徒歩とか、馬車とか。まぁ時々で変わるもんだが、一応な」

「以前登録させて頂いた召喚獣に乗る予定です」

「あー、あのデカ鹿か」

 

 それから、いくつかの質問に答えた。移動手段は空飛ぶ守護獣ラザニアで、ルートは事前に調べて決めてある。

 俺は質問に答えていき、最後に下手くそな字で署名をした。

 

「よし、じゃあ今から追加の書類作るから。ちょっと待ってな」

「ありがとうございます。料金はこちらに」

「しっかしまぁ、お前さんも律儀だな。普通、銀細工はこんなモン作らずその辺適当にフラフラするもんだぜ。ベテランの俺でも、この書類作るの年に一回あるかどうかだよ。ちなみに今年一回目」

「関所でゴタゴタしたくないですから。ほら、俺って怪しいでしょう?」

「まぁ銀細工っぽくはねぇな」

 

 はははと笑いつつ、おじさんは書類を持って引っ込んでいった。

 

「自由に旅ができないなんて、不便なものね」

「禁止されてる訳じゃないから。俺的には自由より快適さかなー」

「またラザニアさんに乗れるんですね。楽しみです」

「言うてビャッと飛んで一瞬ッスよ」

 

 さて、書類が出来るまで適当に過ごすかと思っていると、見知った顔が目に入った。

 俺は皆に自由にするよう言って、彼に近づいていった。

 

「あ、イシグロさん」

 

 目が合う。彼は小さくお辞儀した後、話しかけてきた。

 鉄札を下げたトリクシィさんだ。

 

 鼬人の彼は秋頃に登録した冒険者で、最初から今までずっとソロを貫いている才気あふれる男の子だ。

 当初はハンドメイド感漂う服を着ていたが、今では華美な装飾の付いた防具を身に着けていて、腰にはこれまたキラキラのサーベルが下げてあった。

 どんどん装備が充実してくる時期だな。そんな前という訳でもないのに、なんだか懐かしい。

 

「明日はよろしくお願いします。イシグロさんに、自分が成長した様を見て頂きたく思います」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 そんな彼には、明日俺との対人訓練の予約が入っている。

 一時期は一日に何人も相手していたものだが、一人当たりの密度を上げて練習した方がいいというニーナさんの教えを受け、最近は一日につき一人という事にしているのだ。で、仕事納めの訓練相手はトリクシィさんという訳だ。

 

「ところで……イシグロさん、その武器は?」

「あぁ、これですか?」

 

 軽く世間話をしていると、トリクシィさんの視線は俺の腰にある大小の刀に向けられた。

 気になったらしいので、鞘ごと渡す。治安の悪い異世界で普通こんな事はしないが、トリクシィさんはそういう人じゃないだろう。

 抜いてみてもいいと言うと、彼は目を輝かせた。

 

「う、美しい……!」

「分かりますか」

 

 半分ほど抜いた刀を眺め、トリクシィさんは陶然と呟いた。刀身に映る彼の顔はだらしなく緩んでいる。

 殺してでも奪い取るって風じゃあないが、彼は刀の魅力に心を奪われていた。

 

「こ、こちらの武器は何処で買えますか?」

「武器工匠のアダムスというお店で作ってもらいました。最近、リンジュから良い刀鍛冶がやって来たとの事で」

「おぉ……!」

 

 目がキラキラしている。分かるよ、刀とか欲しいよね。男の子だもんね。

 しかしね、トリクシィくん……ドワルフの店で買う武器は軒並み高いのだから。マジで買うなら中々に遠い道のりだと思う。

 その事を言うと、彼は決然とした眼差しで、

 

「頑張ります!」

 

 と言った。買う気らしい。

 何だろう、俺にはないキラキラした情熱を感じる。

 

「失礼。お主がイシグロか?」

「はい。そうですが」

 

 その後もトリクシィさんと刀談義などしていると、突然後ろから張りのある女性の声がかけられた。

 振り向くと、そこには褐色肌の女性がいた。お山のような胸には初めて見るタイプの銀細工。それから頭に立派な角をお持ちだった。牛人? 鬼人? ちょっと分からない。

 装備は全体的に和っぽいというか、女武者って感じの印象。そして何より目立つのが、彼女の腰にある一振りの刀である。パッと見で分かるくらい、彼女の刀は橘より長くて太くて反っていた。

 

「むっ、その刀は……」

 

 で、そんな女武者さんが何用でと見ていると、彼女も彼女でトリクシィさんが持っている俺の刀に目を向けていた。

 

「あの?」

「あ、いや失礼。見覚えのある拵えでな。恐らくだが、それを打った奴はコレと同じだろう。なるほど、あの子がはしゃいでいた理由が分かった」

 

 言うと、自身の腰にある刀の柄頭をトントンする牛鬼さん。

 刀身見て誰の作とか分かるモンなのか。それこそ俺にはさっぱりだが、これもまた“一流”の証左なのだろうか。

 

「名乗りが遅れたな。お初にお目にかかる。私はリンジュの冒険者で、“黒鉄”のイスラという。この度は噂に聞く“黒剣”のリキタカ殿と手合わせしたく参った次第」

 

 褐色の女性は柔らかな物腰で、且つドッシリ武人然と名乗った。

 その目には銀細工持ち特有の狂気が見受けられず、前世の野球部員めいたスポーティな熱に燃えていた。

 

「対人訓練のご依頼でしょうか」

「うむ、どうすればいいか分からんかったのでな。お主に直接申し出てみたのだ」

 

 いや、掲示板にある紙を持って受付に行けばいいだけなのだが……。

 あぁリンジュの人か。同じ異世界でも、地方が違えばルールが違う。分からないものは仕方ない。

 が、それはそれ。郷に入りては郷に従うのは、異世界人でもそうだと思っている。お役所仕事っぽい気もするが、ルールには従ってもらおう。

 

「お受け頂きありがとうございます。しかし、明日の予約は既に埋まっていまして……」

「む」

 

 実際、締め切り後に予約しようとした人は一律断らせてもらっているのだ。ここでイスラさんだけ特別というと、各方面に失礼である。

 俺の返事に、イスラさんは僅かに不服そうな表情になった。

 

「そうか。次回はいつになりそうだ?」

「それが未定で。自分達、しばらくリンジュに行く予定なんです」

「リンジュか。むむっ、それは誠か……」

 

 イスラさんは腕組みして唸った。

 まぁ別に新幹線の予約とかしてる訳じゃないから一日二日程度ズラしてもいいのだが、そうするとズルズル先延ばしにしちゃいそうなんだよな。

 

「ククク……異邦の武者よ。黒剣の魂は深淵に沈む事はない……我が審判を務めても良いのなら、この度の決闘は譲っても良いぞ」

「むっ、どういう事だ?」

 

 会話に混ざったトリクシィさんは外連味マシマシなポーズで云い放った。相変わらず、俺とそれ以外との態度が違う。

 トリクシィ語、イスラさんは分からなかったようだが、俺は何となく分かった。要するに、「見学させてくれるなら順番を譲ってもいいですよ」と言っているのだ。

 

「えーっと、ですね」

 

 その旨を伝えると、イスラさんはパーッと笑顔になった。

 

「そうか、そうか。あいやすまぬ。無理を言ったようで。であればお言葉に甘えるとしよう。この恩、我が名にかけて忘れぬと誓う」

「クックックッ、礼には及ばぬ」

「自分も構いませんよ。見て分かる事も多いですからね」

「あ、先に了承も得ずにすみません」

 

 という訳で、明日の対人訓練はトリクシィさんからイスラさんに交代だ。まぁ本人がOKなら良いだろう。何気に俺も乗り気だ。

 これまで何人もの銀細工持ち冒険者と戦ってきたが、推定サムライガールと戦うのは初めてである。本場リンジュの刀捌きは、きっと良い勉強になるだろう。

 そんな感じで、ほなまた明日となった……その時である。

 

「待ちな!」

 

 怒られた訳でもないのに、そう錯覚してしまうような声量。

 声の方を見ると、見知らぬ獣人女性が如何にも苛立たしげな足取りで近づいてきた。

 

「何処の誰かは知らないけどね! イシグロの予約は埋まってたんだ! そこに割り込むたぁどういう了見だ? えぇ!?」

 

 声の大きい彼女は女戦士味を感じる露出度の多い恰好をしていて、全身に入れ墨があった。その首には銀細工。

 また、頭部に犬耳が生えていた。いや、何か犬っぽくねぇな?

 

「むむっ、しかしな、私はこの御仁……トリクシィ殿から譲って頂いたのだ。それに、依頼主も了承してくれている。ならば何も問題はないのではないか?」

「問題はないな! だがこっちの気が収まらない! 締め切りだってんでアタシは仕方なく下がったんだ! それに、順番ってンならアタシに譲るべきだろう!」

「いやそれはおかしくないか? 先約があったとしても、彼の意思が優先されるべきだ。この場合、私に権利がいくのは道理ではないか?」

「序列の話をしている! 鉄と銀! リンジュの銀とラリスの銀、優先されるべきは明白だろう!」

「聞き捨てならんぞ、今のは……!」

 

 最初からキレてた女戦士に引きずられるように、イスラさんまでキレかかっている。

 残された俺とトリクシィさんはポカーンである。ちなみに、ルクスリリア達はこっちを見ながらバーでお菓子を食べていた。

 

「あのー、すみません。貴女は?」

 

 順番で言うなら、とりま挨拶だろう。古事記にも書かれているのだ。俺は一触即発の間に割って入ると、女戦士は今度は俺に鋭い眼を向けた。

 

「貴様が黒剣か……」

 

 まるでファッションチェックでもするように、彼女は俺を上から下まで流し見た。

 それから、彼女はフンと鼻息を吹いた。

 

「アタシは“破砕”のエフィーエナ・ファーリ。銀細工だ。個人的興味で、あくまでも個人的興味で貴様を見定めに来た。が……」

 

 キッと睨みつけられる。まるで理不尽暴力体育教師のような眼差しだ。いきなり殴ってきそうな凄みがある。

 

「貴様、弱そうだな」

「はあ」

 

 まあ、筋肉ムキムキの異世界人に比べりゃ、俺はヒョロい部類だとは思う。こっち来てかなり筋肉は付いたが、それでも型月ヘラクレスやイスカンダル大王レベルがゴロゴロいる世界じゃあそんなでもないか。

 しかし、相手の強さというのはパッと見で分かるものなのだろうか。地球だとタッパやウェイトである程度分かるだろうが、異世界だと肉体が強さの指標にはならないと思うのだが。

 実際、グーラは俺より力強いし。

 

「むしろ、貴様よりも後ろの奴隷の方が強そうだ」

 

 かと思えば、エフィーエナさんは当のグーラを見て犬歯を剥いて笑った。

 視線を向けられたグーラは、ビクリと怯えて持ってたコップを落としかけた。前言撤回、ひと目で強さ分かるらしいわ。

 それはそれとして、何だこの女。グーラを驚かすとか喧嘩売ってンのか。とりあえずカウント1だ、残り2。

 

「ククク……鬣犬の女傑よ。貴公の言い分は分かるが、その激情を他者にぶつけるのは感心しないな。それに……」

「うるさい黙れ」

「はい……」

 

 鋭い一喝に、トリクシィさんの丸い耳がしおれてしまった。

 

「おい待てエフィー某よ。何もトリクシィ殿に当たる事はないだろう。イシグロ殿にも失礼だ」

「何を言う、鉄が銀に盾突く事自体が罪だろうに。拳が出ぬだけ有難く思え」

「ほう、それがラリスのやり方か? それとも、君はそうやって躾られたのかな? だから、他人にやってもいいと?」

「貴様、侮辱のつもりか……!」

 

 事態を見守っていると、二人は再度バチバチやりはじめた。

 もう俺もトリクシィさんも完全に蚊帳の外だ。ていうか、依頼主的には受ける人を選ぶ権利とかあると思うんですよ。

 

「何でああも順番に厳しいんですかね?」

 

 ふと気になって、書類を持って戻って来たおじさんに訊いてみた。

 

「あー、獣人の一部はそういうトコあるな。あと、頻繁に迷宮潜ってる奴ぁ次会える保証なんて無ぇからさ」

「あぁ~、なるほど」

 

 そういえば、迷宮って死亡率の高い場所だったわ。

 そうなると、おじさんの言う通り俺はいつ死んでもおかしくないレアキャラに見えるのか。

 いや、死ぬ気は全然ないし、安全マージン取ってるけどね。

 

「そんなにも私が気に入らないのなら、貴様のやり方で排除してみてはどうだ?」

「上等だ! 勝った方がイシグロと戦うって事でいいな?」

「望むところ。では、鍛錬場に参るぞ」

 

 しばらく放置していると、二人は鍛錬場の方へ消えた。いや、俺別に了承してないけどね。

 ルクスリリアとグレモリアさんもそうだったが、異世界人は事あるごとに決闘で物事決めたがるよな。デュエリストかよ。

 

「似た者同士ね」

「ちょっと怖かったです……」

「どーぞくけんおって奴ッスよ」

 

 嵐の様な二人だった。

 一見冷静そうなイスラさんだったが、スイッチが入るといつでも刀に手をかけそうな感じがした。相手はもう、見た目も中身もそういう人じゃんね。

 やっぱ王都はこえーよ。

 

「すみません、トリクシィさん、変な事に巻き込んでしまって」

「いえ、自分の浅慮が招いた事なので……」

 

 声をかけると、トリクシィさんは鍛錬場に繋がる転移石碑の方を見ていた。

 当の二人はメンチビームを撃ち合いながら転移の準備をしていた。

 

「イスラさんは存じ上げませんが、“破砕”のエフィーエナと言えば獣人界隈では有名ですよ……」

 

 警告するように、トリクシィさんが呟く。

 

「彼女は“荒野の牙”という同盟の幹部で、そこは才能ある冒険者をスカウトするんです。割と強引に……」

 

 お気をつけください。そう言って、トリクシィさんは去って行った。

 

「スカウトねぇ」

 

 まあ、例えスカウトされたとして、俺は行かないけどね。ルクスリリア達も移籍させないよ。

 それは“荒野の牙”でも“止まり木同盟”でも同じだ。

 俺はフリーがいいのだ。面倒臭い組織のイザコザは御免である。

 

 それに、もうすぐリンジュ旅行だ。長期休暇の無い組織など入りとうない。

 俺ってば、その気になればいつでも休日にできるからな。冒険者最高である。

 

「さて、アダムスさんのトコ行こうか」

「あの大きな弓、本当に使えるのでしょうか?」

「ご主人、ほんと武器好きッスよねー」

「男だものね……」

 

 ま、俺としては相手は誰でもいい。願わくば侍のが嬉しいが、選り好みはなしだ。全てを糧にする気概でいく。

 侍も喰らう 鬣犬も喰らう。両方を共に美味いと感じ血肉に変える度量こそが“一流”には肝要だ。

 知らんけど。




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